影法師にアンコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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「インターハイ無事優勝しましたー!!いえーい!!」
『声がでけえよ』
電話越しでもまゆゆが呆れたように肩を竦めただろうことがわかる。でも嬉しかったからつい声が大きくなったんだ。許して欲しい。
まゆゆが卒業して、東京の大学に行ってしまって半年が過ぎた。私も二年生になり、クラス替えもあったけどまた赤司と同じクラスになり、席は以前隣同士だったのが今度は縦同士になったのは驚いた。ちなみに私が赤司の背中を眺めるポジションだ。美少年の背中は良いものですな。そう言ったら優しいはずの赤司にチョークスリーパーをかけられ、ああやっぱり赤司は赤司だあ…と感動したりもした。葉山先輩の爆笑に関してはまだ許してないけど。
実渕先輩が髪を切ったり、赤司も前髪が伸ばしていたりと、少しずつだけど変化してきた。私も髪は伸ばしっぱなしだから、髪型開拓してもいいかなあと考えていたりする。
それはともかく、インターハイも無事優勝して、盛大に祝勝会もしたのだとまゆゆに報告すれば、「まああのメンバーで負けることはないだろ」とさらりと言われてしまった。裏を返せば、私達のことを信じてくれているともとれるよね!とは言わないでおく。電話を切られそうなので。少し学習した私なのであった。
『ていうか、電話したい内容ってそのことか?ネットニュースで見たから正直驚きとかねえんだけど』
「そこは驚いて!ってそうだ、もちのろんでインハイ優勝も報告したかったんだけど、私の兄貴がチケットくれてね」
『チケット?』
「ほら、樋口先輩が出る親善試合の!ジャバウォックとのやつ!」
樋口先輩も東京の大学に進学し、かつて戦った面々を含めた大学生のバスケチーム『Strky』を組んでたまにバスケをしているそうだ。ちなみにメンバーは秀徳の宮地さん、桐皇の今吉さん、海常の笠松さん、陽泉の岡村さんだ。このチームの名前も学校の頭文字を使っていたりして、まさにドリームチームだ。親善試合に出るためには予選を兼ねたストバスの大会で優勝しないといけなかったのだけど、見事優勝し、来週来日予定のアメリカストバスチーム、ジャバウォックとの試合が決まった。
『あー、樋口が言ってたな。つーか、チケットの倍率やばくなかったか?』
「兄貴の…謎のコミュニティで…特等席のチケットをいただきました…私の誕生日プレゼントだって」
『お前の兄貴何者』
「私も知りたい…とはいえ、二枚もらったからまゆゆ!一緒に行こ!」
『…別にいいけど』
「やったー!樋口先輩とはワンオンワンしかしたことないから、時間余ったらみんなでバスケしたいね!」
『絶対に嫌だ』
ムキーッと唸ったら、まゆゆが笑う声が聞こえた。
それにしても、外国人のバスケを生で見るのは初めてだ。兄貴も良く知らないらしく、とりあえずチケットだけ用意してくれて、後で感想を聞かせてほしいと言っていた。どうやらその日学校関係者の集まりがあるらしく、生中継も見られないらしい。お土産も買えたら買って帰ってあげよう。
「赤司達はテレビ中継見るってさ。赤司家のコネクションを使えばチケットとか取り放題なのに、赤司ってそういう成金的なこと全然しないよね」
『たしかにな。まあしたらしたで引くんだけど』
「それなー。そいや赤司ファンクラブにこの間規則守ってって言われたんだけど、私ファンクラブ会員じゃないんだけど。むしろ黛赤ファンクラブ会員なんだけど」
『テンプレ展開とか起きてねーだろうな』
「へ?」
『嫌がらせとかそういうやつ』
「あっはは、ないない!あったらさすがに赤司も激おこでしょ!」
『……こいつのないは信用できないな。後で赤司に聞いてみるか……』
「まゆゆー?」
なんでもねえよ、と言われて首を傾げるが、どうにもこれ以上は答えてくれなさそうなので諦めた。今までなら何度も聞き返したけど、これも学習した成果である。私もこうして大人になっていくのだ。
「あー、早く来週にならないかなー。まゆゆに会いたい―」
『…っ!…お前、本当に、そういうこと突然言うのやめろ…』
「あれ?今まゆゆ飲み物噴き出さなかった?大丈夫?あと私変なこと言った?」
アメイジングストリートバスケットボールチーム、ジャバウォック。
リーダーを含め、全員が18歳前後と若いチームでありながら超絶名パフォーマンスで観客を魅了するチーム。チームメンバーはいかつい体つきと態度で、見た目的にすごくガラが悪いのだけど、リーダーはわりと優しげな雰囲気がある。と、来日のニュースを見て思った。
「まゆゆ!屋台!屋台ある!お好み焼き買お!」
「走るな。とりあえず落ち着け」
ジャバウォックとスターキーのエキシビジョンマッチは野外で行われる。会場は大賑わいで、お祭りのように屋台がたくさん出ていて目移りしてしまう。どれも美味しそうだ。悩んだ末に私はお好み焼きを買って、あきれ顔のまゆゆの隣を歩いた。
「なんで屋台の食べ物ってこんなに美味しいんだろー…林檎飴も買おうかなー…お好み焼き美味いー」
「目当てが何か忘れてるだろ…」
「わわわ忘れてないし?!ふひゃっ」
「っ!」
慌てた拍子に通行人にぶつかってしまって、両手が塞がっている私はまゆゆに肩を掴まれて引き寄せられた。あぶねえな、と通行人になのか私になのかわからないけど、ぼそりと耳元で呟かれるが、こっちは心臓が痛い。顔も熱い。あ、夏だから?!夏だからかな?!
「ん?お前、顔赤くないか?」
「夏だから!!」
「まあ夏だけど」
そんなやり取りをしていたら、「優姫」と名前を呼ばれた。振り向くと、スターキーのユニフォームを着た樋口先輩がいるではないか。
「樋口先輩お久しぶりです!わーわー!ユニフォームめっちゃかっこいいっす!!」
樋口先輩はありがとう、と少し照れくさそうに笑った。マネージャーをしていた先輩が大学に入って自分も選手としてバスケを始めたと聞いた時は、みんなで驚いたものだ。でも、たまにやってたワンオンワンでも樋口先輩が上手いのはわかっていたから、むしろ大学での活躍が楽しみで、私もめちゃくちゃ応援している。
どうやら今はコートの準備中らしく、少し歩いていたところで私達の姿を見かけて声をかけてくれたとのことだ。写メ撮って赤司達に送りますね!と一緒に写真を撮っていたら、また声をかけられた。
「優姫ちゃんは相変わらず賑やかやなあ」
「あっ今吉さん!それに宮地さんも!その後葉山先輩と何か進展は?!」
「ねえよ!女子だろうと轢くぞ!」
「いや女子はいかんじゃろ…」
「うっ、女子…!」
見れば今吉さんと宮地さんの他に、メンバーの岡村さん、笠松さんも一緒だ。宮地さん、岡村さんとは試合で対戦したことがあるが、思えば笠松さんとはこれが本当に初対面だ。なぜか若干引き気味の笠松さんに、ちゃんと挨拶をしないとと思い握手のつもりで手を出したら、避けられた。
「……」
「……いやその、悪い……」
「ごめんなあ。女子が苦手なんやと」
「なん…だと…」
そんな、笠松さん、そんな…。
「そんな美味しい設定持ってたんですか?!てことはモテモテの黄瀬くんと何かあったりしちゃったり?!」
「ねえよ!!宮地こいつ轢いていいぞ!!」
「よっしゃ任せろ!!」
「だから女子にそういうことしたらいかんじゃろ?!」
「あーあー、すぐに仲良うなるわ、優姫ちゃん。黛も苦労しとるんやなあ…」
「やめろ。その何もかも知ってますって目でオレを見るな。樋口も頑張れじゃねーよ」
その後、準備が終わったとアナウンスが鳴り、頑張ってくださいとエールを送って五人を見送った。私達も試合を見るために、会場の客席へと向かうことにした。
試合が始まる前、私はあんなにワクワクしていたのに。
最初は、すごいプレイだと思った。動きも速くて、人間業に見えないテクニックでスターキーを翻弄したジャバウォック。けど、徐々に異様さを感じていく。というか、見ていてふつふつと怒りが湧いてきた。
ストバスのプレイで相手をおちょくったり、挑発する行為は珍しくはない。むしろ、それができるのはテクニックがあるからだ。そして、決まれば最高にかっこいい。
けど、ジャバウォックのプレイは、それしかやっていないのだ。こちらを完全に見下していて、これは到底バスケなんて言えやしない。スターキーのみんなを、おちょくって、むやみやたらにボールをぶつけて、こんなのが見たかったんじゃない。こんなの、バスケなんかじゃない。
客席は、静まりかえっていた。私も何も言えず、ただ拳を握りしめていた。隣にいたまゆゆも、きっと同じだった。
試合はジャバウォックの圧勝。けど、拍手なんて起きなかった。
コートでは、弄ばれたにもかかわらず、礼儀を重んじてジャバウォックのリーダーに握手をしようと手を差し出す笠松さんがいた。インタビュアの人がマイクを持って感想を尋ねに行く。
リーダーは、英語で答えた。
「お前らを見てると、心底反吐が出る。ここにいる奴ら全員、いや、この国でバスケごっこをしている奴ら全員。今すぐやめるか死んでくれ」
英語を訳す通訳さんの声が震えていた。何を言っているのかを知って、その場にいる全員が凍り付く。
このリーダー曰く、日本でバスケをしている人達は、サルなんだそうだ。ただマネをしているだけの、人間と同じ土俵に立っていないのにいきがっているサルなのだと。
「親善とか笑えねーんだよ。まずお前らはサルってことを自覚しろ。サルにバスケをやる権利はねえよ!」
そう言って、笠松さんの手に唾を吐きかけて、高笑いをしたのだ。
「ふざけてる…」
「…ああ、胸くそわりい」
あいつらは、私達のバスケを、馬鹿にしたのだ。許せなくて、我慢できなくて、私は立ち上がった。隣に座るまゆゆが止めるのも聞かず、大声で叫ぶ。
「ふざけんなあああああッ!!何様だゴルアあああああ!!」
「優姫ちゃん?!」
「優姫のやつ行きやがった!!」
洛山の寮にある全員共有のテレビを使い、テレビ中継を見ていたオレ達は、ジャバウォックのプレイと言動に、怒りを抱いていたが、それも聞き慣れた声の怒声によって一瞬霧散する。テレビカメラも声の主に向きを変えたため、その姿が映し出される。特等席でまゆゆと見てくるね、と朝嬉しそうに出て行った彼女、水瓶が、今怒りを露わにした表情で客席を飛び出してジャバウォックに近づいていく。
「あの馬鹿…」
笠松さんにハンカチを渡して、キッとジャバウォックのリーダーをにらみ付ける水瓶。
《謝れ!!バスケやってるみんなにも、ここに来てるみんなにも、何よりスターキーに謝れ!!》
《何だこのガキ。キーキー喚くな。何言ってるかわかんねえからますますうるせえんだよ》
通訳がそう訳すと、水瓶はもう一度リーダーをにらみ付けて口を開く。
《謝れって言ってんだよ、この馬鹿軍団!!》
そう、英語で返した。これには、オレ達も思わず驚いてしまった。
「優姫が英語喋ってんだけど?!」
「いや、待てよ。よく考えたら、あいつんちの親たしか海外にいるんだよな。もしかして、日常会話とかは普通にできたりすんのか?」
「あ、ああー、たしかによく聞くわよね。テストの点はいまいちでも、会話するのに問題ないって人」
「…水瓶」
画面の向こうでは、水瓶が英語を話せることが分かり、リーダーのナッシュが面白いものを見つけたように笑っていた。
《意思疎通はできるサルだったみてーだな?》
《サルサルうっさいわ!!さっきから聞いてれば偉そうに!!私達がバスケをするのも楽しむのも、お前の許可なんかいらないんだよ!!バスケしないんなら帰れ!!》
《お前らは自分たちがやってるのがバスケだとでも言いてえのか?サルごときが人間様に楯突くって?》
《言っとくけどサルって頭良いんだからな!!お前らなんてサルにも勝てないし、本当にバスケを好きな人達に勝てるわけない!!》
《…へえ?》
《そうだぜガキ共。せっかく来たんだ。もう少し遊んでけよ》
水瓶の後ろから英語を話しながらやってきたのは、おそらく今回のジャバウォックを案内したイベント側の人だろう。どこかで見覚えが…雑誌だっただろうか。
訝しむジャバウォックの面々に、水瓶同様怒りを隠すこともせず話を続けた。
《一週間後、リベンジマッチだ…!!こっちが負けたらオレが腹でも切ってやる!テメェらが負けたらワビ入れた後イカダでも使って自力で家帰れ!!》
《ああ?何言ってんだオッサン。なんでオレ達がもう一回試合してやんなきゃなんねーんだ》
《待て、シルバー》
ナッシュはふう、とわざとらしく溜息を吐く。
《このまま黙るサルならいいが、ナメた口きくサルはカンベンならねえ》
それから、水瓶の腕を加減なく掴んだ。
《オッサンのハラキリショーなんざどうでもいい。オレ達が勝ったらコイツを好きにさせてもらうぜ》
《はあ?!その子は関係ねーだろ!!》
《望むところだコルアあああ!!給仕係でも清掃員でも何でもやってやらあああ!!》
《馬鹿か?!この子馬鹿なのか?!いや馬鹿だわ!!》
《ていうか、いつまで腕掴んでんのさ!!放せっ!!》
バッと、腕を振りほどいた次の瞬間。
水瓶が画面から消えた。カメラには映らなかったのだ。いや、映らないようにやったのだろう。
後を追うように動いたカメラが映したのは、倒れる水瓶と、転がるボールだった。
「あんのやろ…ッ!!優姫にボールぶつけやがったッ!!」
「どいつ、やったのどいつよ…!!」
「ぜってえあいつだ…後ろでにやけてるガングロ…ッ!!」
カメラはもうジャバウォックだけを映していたが、その前に一瞬だったが黛さんの姿が見えたから、おそらく駆け寄っていたのだろう。あの様子だと、脳しんとうを起こしているだろうか。血は、どうだったか。出ていたような気もする。場所はどこだった。頬に、近かったように見えた。赤く、腫れていたように見えた。傷口はどうだ。痕は残らないか。そもそも水瓶の意識は。
「征ちゃん、落ち着いて!」
「!」
気がつけばテレビはもう消されていて、目の前でオレの肩を実渕が揺すっていた。
「落ち着けないのはわかってるわ。でも、今は落ち着きましょう。小太郎が樋口さんに、永吉が黛さんに連絡を取ってみてる。征ちゃんも、携帯鳴ってたわよ」
「そうか、ありがとう」
携帯を見ると受信を知らせるランプが点灯していた。メールのようだ。おそらく一斉送信だろう。送信者は黒子。内容はわかっている。
「ひぐっさんと連絡取れた!優姫、会場近くの病院に運ばれたって!」
「オレも黛さんと連絡取れたぜ。軽い脳しんとうだそうだ。気絶してるらしくて、目が覚めれば家に帰ってもいいってよ」
「酷くなくてよかったわ…。征ちゃん」
実渕が、そして葉山と根武谷がオレを見る。三人もオレに来たメールの内容をなんとなく察していて、そして先ほど言っていたリベンジマッチにオレが選出されると確信していた。だからこそ、力強い眼差しでオレを見つめている。
「私達のバスケ、あの馬鹿軍団にたたきつけてきてちょうだい」
「託したぜ、赤司」
「優姫の言ったこと、合ってるって教えてやって!」
お前らなんてバスケを好きな人達にだって、勝てない。そう言った彼女の言葉を本当にするため、そしてオレ達のバスケを馬鹿にしたあいつらを懲らしめるためにも。
「必ず勝ってくる」
あいつらのバスケを許すわけにはいかない。
「本当にごめんなさい……」
目を覚ますと、そこは病院のベッドで。目の前にはまゆゆの般若のような顔で。
自分がしでかした一連の行動を思い返して、ベッドの上で深々と頭を下げるしかなかった。まゆゆからは深い、深い溜息が返ってくる。
「何でお前は後先考えないで行動すんだよ。灰崎とかいう奴の時に痛い目見ただろうが」
「う…だ、だって…樋口先輩が…笠松さんが…。私、我慢できなくて…」
「気持ちはすげーわかるけど、お前はもう少し女子だって自覚をしろ。あんな筋肉だるまみたいな集団に敵うわけねえだろ」
「うう…ごめんなさい…でも、すごく、腹が立って…だって、あいつら、私達がしてきたバスケとか、全部馬鹿にしたんだ」
去年のウィンターカップで、逆転されそうな場面をまゆゆの火事場の馬鹿力で乗り越え、洛山の優勝をみんなで泣いて喜んだ。たくさん大変なこともあって、たくさん練習もして、そうやって頑張ってきた私達のバスケを、価値がないと言ったのだ。許せなかった。黙っていることが、できなかった。
少しは大人になったと思ったのに、全然なれていなかった。こうやってまたいろんな人に迷惑をかけてしまった。なんか泣きそうだ。
まゆゆははあ、とまた深い溜息を吐いてから、いつものようにポフ、と頭を撫でてくれる。
「まあ、よく言ってやったとは思ってる。お前、言うことがいちいち主人公だよな」
「えっマジで?!私どっちかっていうと主人公の友人ポジだと思ってた!落とす女の子と主人公の好感度教えてくれる感じの」
「いやそれもわりと良いポジションじゃねえかよ」
ふへへ、と笑ったら、まゆゆは仕方ないなと笑って、実渕先輩達から届いた、私を心配してくれているメールを読み上げてくれた。
落ち着いたら返事をしよう、と話していたら勢いよく病室の扉が開けられる。そして珍しく息を切らした兄貴が入ってきて、さらには帝王オーラを背負ってきていて思わず「私死んだ」と口に出したら、まゆゆに合掌された。
『声がでけえよ』
電話越しでもまゆゆが呆れたように肩を竦めただろうことがわかる。でも嬉しかったからつい声が大きくなったんだ。許して欲しい。
まゆゆが卒業して、東京の大学に行ってしまって半年が過ぎた。私も二年生になり、クラス替えもあったけどまた赤司と同じクラスになり、席は以前隣同士だったのが今度は縦同士になったのは驚いた。ちなみに私が赤司の背中を眺めるポジションだ。美少年の背中は良いものですな。そう言ったら優しいはずの赤司にチョークスリーパーをかけられ、ああやっぱり赤司は赤司だあ…と感動したりもした。葉山先輩の爆笑に関してはまだ許してないけど。
実渕先輩が髪を切ったり、赤司も前髪が伸ばしていたりと、少しずつだけど変化してきた。私も髪は伸ばしっぱなしだから、髪型開拓してもいいかなあと考えていたりする。
それはともかく、インターハイも無事優勝して、盛大に祝勝会もしたのだとまゆゆに報告すれば、「まああのメンバーで負けることはないだろ」とさらりと言われてしまった。裏を返せば、私達のことを信じてくれているともとれるよね!とは言わないでおく。電話を切られそうなので。少し学習した私なのであった。
『ていうか、電話したい内容ってそのことか?ネットニュースで見たから正直驚きとかねえんだけど』
「そこは驚いて!ってそうだ、もちのろんでインハイ優勝も報告したかったんだけど、私の兄貴がチケットくれてね」
『チケット?』
「ほら、樋口先輩が出る親善試合の!ジャバウォックとのやつ!」
樋口先輩も東京の大学に進学し、かつて戦った面々を含めた大学生のバスケチーム『Strky』を組んでたまにバスケをしているそうだ。ちなみにメンバーは秀徳の宮地さん、桐皇の今吉さん、海常の笠松さん、陽泉の岡村さんだ。このチームの名前も学校の頭文字を使っていたりして、まさにドリームチームだ。親善試合に出るためには予選を兼ねたストバスの大会で優勝しないといけなかったのだけど、見事優勝し、来週来日予定のアメリカストバスチーム、ジャバウォックとの試合が決まった。
『あー、樋口が言ってたな。つーか、チケットの倍率やばくなかったか?』
「兄貴の…謎のコミュニティで…特等席のチケットをいただきました…私の誕生日プレゼントだって」
『お前の兄貴何者』
「私も知りたい…とはいえ、二枚もらったからまゆゆ!一緒に行こ!」
『…別にいいけど』
「やったー!樋口先輩とはワンオンワンしかしたことないから、時間余ったらみんなでバスケしたいね!」
『絶対に嫌だ』
ムキーッと唸ったら、まゆゆが笑う声が聞こえた。
それにしても、外国人のバスケを生で見るのは初めてだ。兄貴も良く知らないらしく、とりあえずチケットだけ用意してくれて、後で感想を聞かせてほしいと言っていた。どうやらその日学校関係者の集まりがあるらしく、生中継も見られないらしい。お土産も買えたら買って帰ってあげよう。
「赤司達はテレビ中継見るってさ。赤司家のコネクションを使えばチケットとか取り放題なのに、赤司ってそういう成金的なこと全然しないよね」
『たしかにな。まあしたらしたで引くんだけど』
「それなー。そいや赤司ファンクラブにこの間規則守ってって言われたんだけど、私ファンクラブ会員じゃないんだけど。むしろ黛赤ファンクラブ会員なんだけど」
『テンプレ展開とか起きてねーだろうな』
「へ?」
『嫌がらせとかそういうやつ』
「あっはは、ないない!あったらさすがに赤司も激おこでしょ!」
『……こいつのないは信用できないな。後で赤司に聞いてみるか……』
「まゆゆー?」
なんでもねえよ、と言われて首を傾げるが、どうにもこれ以上は答えてくれなさそうなので諦めた。今までなら何度も聞き返したけど、これも学習した成果である。私もこうして大人になっていくのだ。
「あー、早く来週にならないかなー。まゆゆに会いたい―」
『…っ!…お前、本当に、そういうこと突然言うのやめろ…』
「あれ?今まゆゆ飲み物噴き出さなかった?大丈夫?あと私変なこと言った?」
アメイジングストリートバスケットボールチーム、ジャバウォック。
リーダーを含め、全員が18歳前後と若いチームでありながら超絶名パフォーマンスで観客を魅了するチーム。チームメンバーはいかつい体つきと態度で、見た目的にすごくガラが悪いのだけど、リーダーはわりと優しげな雰囲気がある。と、来日のニュースを見て思った。
「まゆゆ!屋台!屋台ある!お好み焼き買お!」
「走るな。とりあえず落ち着け」
ジャバウォックとスターキーのエキシビジョンマッチは野外で行われる。会場は大賑わいで、お祭りのように屋台がたくさん出ていて目移りしてしまう。どれも美味しそうだ。悩んだ末に私はお好み焼きを買って、あきれ顔のまゆゆの隣を歩いた。
「なんで屋台の食べ物ってこんなに美味しいんだろー…林檎飴も買おうかなー…お好み焼き美味いー」
「目当てが何か忘れてるだろ…」
「わわわ忘れてないし?!ふひゃっ」
「っ!」
慌てた拍子に通行人にぶつかってしまって、両手が塞がっている私はまゆゆに肩を掴まれて引き寄せられた。あぶねえな、と通行人になのか私になのかわからないけど、ぼそりと耳元で呟かれるが、こっちは心臓が痛い。顔も熱い。あ、夏だから?!夏だからかな?!
「ん?お前、顔赤くないか?」
「夏だから!!」
「まあ夏だけど」
そんなやり取りをしていたら、「優姫」と名前を呼ばれた。振り向くと、スターキーのユニフォームを着た樋口先輩がいるではないか。
「樋口先輩お久しぶりです!わーわー!ユニフォームめっちゃかっこいいっす!!」
樋口先輩はありがとう、と少し照れくさそうに笑った。マネージャーをしていた先輩が大学に入って自分も選手としてバスケを始めたと聞いた時は、みんなで驚いたものだ。でも、たまにやってたワンオンワンでも樋口先輩が上手いのはわかっていたから、むしろ大学での活躍が楽しみで、私もめちゃくちゃ応援している。
どうやら今はコートの準備中らしく、少し歩いていたところで私達の姿を見かけて声をかけてくれたとのことだ。写メ撮って赤司達に送りますね!と一緒に写真を撮っていたら、また声をかけられた。
「優姫ちゃんは相変わらず賑やかやなあ」
「あっ今吉さん!それに宮地さんも!その後葉山先輩と何か進展は?!」
「ねえよ!女子だろうと轢くぞ!」
「いや女子はいかんじゃろ…」
「うっ、女子…!」
見れば今吉さんと宮地さんの他に、メンバーの岡村さん、笠松さんも一緒だ。宮地さん、岡村さんとは試合で対戦したことがあるが、思えば笠松さんとはこれが本当に初対面だ。なぜか若干引き気味の笠松さんに、ちゃんと挨拶をしないとと思い握手のつもりで手を出したら、避けられた。
「……」
「……いやその、悪い……」
「ごめんなあ。女子が苦手なんやと」
「なん…だと…」
そんな、笠松さん、そんな…。
「そんな美味しい設定持ってたんですか?!てことはモテモテの黄瀬くんと何かあったりしちゃったり?!」
「ねえよ!!宮地こいつ轢いていいぞ!!」
「よっしゃ任せろ!!」
「だから女子にそういうことしたらいかんじゃろ?!」
「あーあー、すぐに仲良うなるわ、優姫ちゃん。黛も苦労しとるんやなあ…」
「やめろ。その何もかも知ってますって目でオレを見るな。樋口も頑張れじゃねーよ」
その後、準備が終わったとアナウンスが鳴り、頑張ってくださいとエールを送って五人を見送った。私達も試合を見るために、会場の客席へと向かうことにした。
試合が始まる前、私はあんなにワクワクしていたのに。
最初は、すごいプレイだと思った。動きも速くて、人間業に見えないテクニックでスターキーを翻弄したジャバウォック。けど、徐々に異様さを感じていく。というか、見ていてふつふつと怒りが湧いてきた。
ストバスのプレイで相手をおちょくったり、挑発する行為は珍しくはない。むしろ、それができるのはテクニックがあるからだ。そして、決まれば最高にかっこいい。
けど、ジャバウォックのプレイは、それしかやっていないのだ。こちらを完全に見下していて、これは到底バスケなんて言えやしない。スターキーのみんなを、おちょくって、むやみやたらにボールをぶつけて、こんなのが見たかったんじゃない。こんなの、バスケなんかじゃない。
客席は、静まりかえっていた。私も何も言えず、ただ拳を握りしめていた。隣にいたまゆゆも、きっと同じだった。
試合はジャバウォックの圧勝。けど、拍手なんて起きなかった。
コートでは、弄ばれたにもかかわらず、礼儀を重んじてジャバウォックのリーダーに握手をしようと手を差し出す笠松さんがいた。インタビュアの人がマイクを持って感想を尋ねに行く。
リーダーは、英語で答えた。
「お前らを見てると、心底反吐が出る。ここにいる奴ら全員、いや、この国でバスケごっこをしている奴ら全員。今すぐやめるか死んでくれ」
英語を訳す通訳さんの声が震えていた。何を言っているのかを知って、その場にいる全員が凍り付く。
このリーダー曰く、日本でバスケをしている人達は、サルなんだそうだ。ただマネをしているだけの、人間と同じ土俵に立っていないのにいきがっているサルなのだと。
「親善とか笑えねーんだよ。まずお前らはサルってことを自覚しろ。サルにバスケをやる権利はねえよ!」
そう言って、笠松さんの手に唾を吐きかけて、高笑いをしたのだ。
「ふざけてる…」
「…ああ、胸くそわりい」
あいつらは、私達のバスケを、馬鹿にしたのだ。許せなくて、我慢できなくて、私は立ち上がった。隣に座るまゆゆが止めるのも聞かず、大声で叫ぶ。
「ふざけんなあああああッ!!何様だゴルアあああああ!!」
「優姫ちゃん?!」
「優姫のやつ行きやがった!!」
洛山の寮にある全員共有のテレビを使い、テレビ中継を見ていたオレ達は、ジャバウォックのプレイと言動に、怒りを抱いていたが、それも聞き慣れた声の怒声によって一瞬霧散する。テレビカメラも声の主に向きを変えたため、その姿が映し出される。特等席でまゆゆと見てくるね、と朝嬉しそうに出て行った彼女、水瓶が、今怒りを露わにした表情で客席を飛び出してジャバウォックに近づいていく。
「あの馬鹿…」
笠松さんにハンカチを渡して、キッとジャバウォックのリーダーをにらみ付ける水瓶。
《謝れ!!バスケやってるみんなにも、ここに来てるみんなにも、何よりスターキーに謝れ!!》
《何だこのガキ。キーキー喚くな。何言ってるかわかんねえからますますうるせえんだよ》
通訳がそう訳すと、水瓶はもう一度リーダーをにらみ付けて口を開く。
《謝れって言ってんだよ、この馬鹿軍団!!》
そう、英語で返した。これには、オレ達も思わず驚いてしまった。
「優姫が英語喋ってんだけど?!」
「いや、待てよ。よく考えたら、あいつんちの親たしか海外にいるんだよな。もしかして、日常会話とかは普通にできたりすんのか?」
「あ、ああー、たしかによく聞くわよね。テストの点はいまいちでも、会話するのに問題ないって人」
「…水瓶」
画面の向こうでは、水瓶が英語を話せることが分かり、リーダーのナッシュが面白いものを見つけたように笑っていた。
《意思疎通はできるサルだったみてーだな?》
《サルサルうっさいわ!!さっきから聞いてれば偉そうに!!私達がバスケをするのも楽しむのも、お前の許可なんかいらないんだよ!!バスケしないんなら帰れ!!》
《お前らは自分たちがやってるのがバスケだとでも言いてえのか?サルごときが人間様に楯突くって?》
《言っとくけどサルって頭良いんだからな!!お前らなんてサルにも勝てないし、本当にバスケを好きな人達に勝てるわけない!!》
《…へえ?》
《そうだぜガキ共。せっかく来たんだ。もう少し遊んでけよ》
水瓶の後ろから英語を話しながらやってきたのは、おそらく今回のジャバウォックを案内したイベント側の人だろう。どこかで見覚えが…雑誌だっただろうか。
訝しむジャバウォックの面々に、水瓶同様怒りを隠すこともせず話を続けた。
《一週間後、リベンジマッチだ…!!こっちが負けたらオレが腹でも切ってやる!テメェらが負けたらワビ入れた後イカダでも使って自力で家帰れ!!》
《ああ?何言ってんだオッサン。なんでオレ達がもう一回試合してやんなきゃなんねーんだ》
《待て、シルバー》
ナッシュはふう、とわざとらしく溜息を吐く。
《このまま黙るサルならいいが、ナメた口きくサルはカンベンならねえ》
それから、水瓶の腕を加減なく掴んだ。
《オッサンのハラキリショーなんざどうでもいい。オレ達が勝ったらコイツを好きにさせてもらうぜ》
《はあ?!その子は関係ねーだろ!!》
《望むところだコルアあああ!!給仕係でも清掃員でも何でもやってやらあああ!!》
《馬鹿か?!この子馬鹿なのか?!いや馬鹿だわ!!》
《ていうか、いつまで腕掴んでんのさ!!放せっ!!》
バッと、腕を振りほどいた次の瞬間。
水瓶が画面から消えた。カメラには映らなかったのだ。いや、映らないようにやったのだろう。
後を追うように動いたカメラが映したのは、倒れる水瓶と、転がるボールだった。
「あんのやろ…ッ!!優姫にボールぶつけやがったッ!!」
「どいつ、やったのどいつよ…!!」
「ぜってえあいつだ…後ろでにやけてるガングロ…ッ!!」
カメラはもうジャバウォックだけを映していたが、その前に一瞬だったが黛さんの姿が見えたから、おそらく駆け寄っていたのだろう。あの様子だと、脳しんとうを起こしているだろうか。血は、どうだったか。出ていたような気もする。場所はどこだった。頬に、近かったように見えた。赤く、腫れていたように見えた。傷口はどうだ。痕は残らないか。そもそも水瓶の意識は。
「征ちゃん、落ち着いて!」
「!」
気がつけばテレビはもう消されていて、目の前でオレの肩を実渕が揺すっていた。
「落ち着けないのはわかってるわ。でも、今は落ち着きましょう。小太郎が樋口さんに、永吉が黛さんに連絡を取ってみてる。征ちゃんも、携帯鳴ってたわよ」
「そうか、ありがとう」
携帯を見ると受信を知らせるランプが点灯していた。メールのようだ。おそらく一斉送信だろう。送信者は黒子。内容はわかっている。
「ひぐっさんと連絡取れた!優姫、会場近くの病院に運ばれたって!」
「オレも黛さんと連絡取れたぜ。軽い脳しんとうだそうだ。気絶してるらしくて、目が覚めれば家に帰ってもいいってよ」
「酷くなくてよかったわ…。征ちゃん」
実渕が、そして葉山と根武谷がオレを見る。三人もオレに来たメールの内容をなんとなく察していて、そして先ほど言っていたリベンジマッチにオレが選出されると確信していた。だからこそ、力強い眼差しでオレを見つめている。
「私達のバスケ、あの馬鹿軍団にたたきつけてきてちょうだい」
「託したぜ、赤司」
「優姫の言ったこと、合ってるって教えてやって!」
お前らなんてバスケを好きな人達にだって、勝てない。そう言った彼女の言葉を本当にするため、そしてオレ達のバスケを馬鹿にしたあいつらを懲らしめるためにも。
「必ず勝ってくる」
あいつらのバスケを許すわけにはいかない。
「本当にごめんなさい……」
目を覚ますと、そこは病院のベッドで。目の前にはまゆゆの般若のような顔で。
自分がしでかした一連の行動を思い返して、ベッドの上で深々と頭を下げるしかなかった。まゆゆからは深い、深い溜息が返ってくる。
「何でお前は後先考えないで行動すんだよ。灰崎とかいう奴の時に痛い目見ただろうが」
「う…だ、だって…樋口先輩が…笠松さんが…。私、我慢できなくて…」
「気持ちはすげーわかるけど、お前はもう少し女子だって自覚をしろ。あんな筋肉だるまみたいな集団に敵うわけねえだろ」
「うう…ごめんなさい…でも、すごく、腹が立って…だって、あいつら、私達がしてきたバスケとか、全部馬鹿にしたんだ」
去年のウィンターカップで、逆転されそうな場面をまゆゆの火事場の馬鹿力で乗り越え、洛山の優勝をみんなで泣いて喜んだ。たくさん大変なこともあって、たくさん練習もして、そうやって頑張ってきた私達のバスケを、価値がないと言ったのだ。許せなかった。黙っていることが、できなかった。
少しは大人になったと思ったのに、全然なれていなかった。こうやってまたいろんな人に迷惑をかけてしまった。なんか泣きそうだ。
まゆゆははあ、とまた深い溜息を吐いてから、いつものようにポフ、と頭を撫でてくれる。
「まあ、よく言ってやったとは思ってる。お前、言うことがいちいち主人公だよな」
「えっマジで?!私どっちかっていうと主人公の友人ポジだと思ってた!落とす女の子と主人公の好感度教えてくれる感じの」
「いやそれもわりと良いポジションじゃねえかよ」
ふへへ、と笑ったら、まゆゆは仕方ないなと笑って、実渕先輩達から届いた、私を心配してくれているメールを読み上げてくれた。
落ち着いたら返事をしよう、と話していたら勢いよく病室の扉が開けられる。そして珍しく息を切らした兄貴が入ってきて、さらには帝王オーラを背負ってきていて思わず「私死んだ」と口に出したら、まゆゆに合掌された。