影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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「あのですね、合宿自体は嘘ついてないんです本当なんです。ただ男子バスケ部のトレーナーをしてるって伝え忘れてただけで」
「それで?」
「えとあのその、あ、このシュシュ新しく買ったんだー!」
「優姫」
「すみませんでしたああああ!!!」
ズサァッとスライディング土下座を、私は桐皇学園が宿泊するホテルのロビーで披露してみせた。桐皇学園バスケ部の皆様集まってるからめっちゃ注目されてる。泣きたい。
あの後、まゆゆと赤司に「生きて帰る」と遺言を残して兄貴に引きずられていった私は、昨日正直に話しておけばよかったと後悔していた。
洛山に通う条件その一、泊りのある行事や遊びの場合はなるべく詳細を言う。主に男がいるかどうか。
昨日の電話の時に、私はつい言わなくてもいっかー、バレないしー、なんて甘い考えで『夏合宿で海に行ってくるー!』とだけ伝えたのだった。それがこのザマだよ!!
兄貴はふう、とわざとらしいため息を吐いて肩を竦めた。
「まさか早々に嘘をつかれるとは思ってなかったな。しかも男子バスケ部のトレーナーだと?なんだトレーナーって。そんなに紐なしバンジーがしたかったのか?」
「本当にすみませんんんんん!!」
「で、キセキの世代の赤司の前で、どんなプレイをして勧誘された?」
ひええ赤司がバスケ部主将でキセキの世代だってことも知ってるよこの人ーー。よく思えば洛山調べてたから入学してくるビッグネームは調査済みだったか。しかも状況もバレてるし。しぶしぶ、黒歴史になりかねない女バス騒動を話したら、心の底から呆れましたと言わんばかりのため息を吐かれた。泣きたい。
「お前の馬鹿さ加減にはほとほと呆れるな」
「うう…ううう…」
「まあいい。お前の執念がスキルとして少しは身についていたととってやる。そのまま俺に勝てるよう祈りながらバスケ部に鍛え直してもらえ」
「うわーん!兄貴が冷たいー!!」
ブフォッ、と、いきなり桐皇学園バスケ部の集団が噴き出した。兄貴と二人でそっちを見ると、噴き出したのか噴き出してなかったのかいまいちわからない、メガネをかけた糸目の人が「すんません」と笑った。
「いや、どういう関係なんやろと見てましたら、まさかの兄妹だったもんで」
「ああ、紹介しておこうか。こいつは京都にある洛山高校に通う俺の妹だ。優姫、彼は桐皇学園バスケ部主将、今吉だ。挨拶をしろ」
「あっはい。妹の水瓶優姫です。兄貴が鬼畜眼鏡っぷりを惜しみなく発揮してると思いますが、頑張ってください、青峰くん」
「名指しすんな!お前がそいつ止めろよ!」
「止められるわけないじゃん?!!兄貴だよ?!鬼畜眼鏡だよ?!止められるなら私はここで土下座してないよ?!」
それもそうだ、と桐皇学園バスケ部から生暖かい視線が私と青峰に送られる。青峰、まさか君が電話で兄貴が言ってた『狩りというのは楽しいな』の、狩られてる奴だったとは。どんまい、青峰。私は助けられない。
兄貴はまたやれやれと肩を竦めて、それから青峰を呼んだ。
「青峰、こいつを宿泊先まで送ってきてくれ」
「えっ何で俺が」
「俺の妹の胸を、感想も付け加えて凝視していたそうだな?」
「送らせていただきます」
ニコリと微笑む(ただし目は笑ってない)兄貴は、素直に頷いた青峰を見て満足そうだった。そういえば、もう夕方だ。夕食を作り始めてるだろうから、私も急いで帰らないと。
足早にロビーを出ようとしたら、ふと兄貴に呼び止められて何かを肩にかけられた。
「優姫、これを羽織っていけ。そのまま帰るよりはは良いだろう」
「えっこれ桐皇のジャージ…待って兄貴、これまさか」
「青峰のだが」
「俺のかよ!!」
「胸ばかり見るお前のような輩が他にもいないとは限らん。そもそも優姫、なんだそのヒラヒラしたシュシュは。そんな女の子らしい髪留め今まで買ったことがないだろう。いつ買った?まさかそれを勧めてきた男がいるんじゃないだろうなどうなんだ優姫」
「もおおおこの過保護!!シュシュくらい好きに選ぶわ兄貴のバカあああああ!!!」
「俺、あのセンコーがあんなにショックを受けた顔したの初めて見たわ」
「私もだわ。バカは言いすぎたかな…」
「水瓶先生、本当に優姫ちゃんのこと大好きなんだね」
「「そうだろうか」」
「青峰くんはともかく優姫ちゃんは自信持って」
私と青峰を二人きりにするのは心配だ、って言われたらしいさつきちゃんが走ってきて、二人に送られることになった私。兄貴ってたまに超絶過保護なんだよなあ…。さっきの背景に雷走った感のあるショック顔はレアだったなあ…。
「そういえば、バスケ部のトレーナーしてるんだよね?在学生がトレーナーをするって聞いたことないけど、優姫ちゃんはどこでバスケやってたの?」
「部活は剣道やってたんだけど、休日に兄貴と色んなスポーツやっててその中の一つがバスケだったって感じかな。トレーナーに関しては、なんでも私がキセキの世代の緑間くんと同じ素質があるとかなんとかって赤司が言ってて」
「は?同じ素質?」
「同じって言ってたけどほんとかなーって私も思ってるんだけどねー。コートの端から反対側のコートのリングにシュートしただけだし」
「「は?」」
「そいや二人とも赤司と同じ中学なんだよね?!なんか赤司の弱点とかない?!赤司がプロレス技を極める前にどうにか一矢報いたい…!!」
「「赤司(君)がプロレス技??」」
少し歩いて、洛山が泊まっているホテルが見えてきた。その近くの大きな体育館で男子バスケ部は練習をしている。今日は全然練習できなかったけど!
「へー、結構良いとこじゃねーか」
「洛山バスケ部がここで練習してるんだね」
青峰はホテルを見て、さつきちゃんは体育館を見て感想を述べる。たしかに結構良いとこだと思うし、他校のバスケ部の練習が気になるのもわかる。部室にあったキセキの世代特集の月バスに、元帝光中バスケ部マネのさつきちゃんは情報収集が得意だって書いてあったから、なおさら気になるだろう。
「やっと帰ってきたか」
「赤司!いやーお待たせしましたー。鉄拳制裁はなんとか免れたよー」
話し声が聞こえたのか、赤司が体育館から出てきた。近寄れば体育館の中からボールの弾む音が聞こえてくる。
疲れた疲れた、と駆け寄るが、赤司は私の言葉に訝しげな顔をしていた。
「…鉄拳制裁?」
「あ、桐皇の水瓶先生なんだけど、優姫ちゃんのお兄さんだったみたいなの」
「身内だったのか。…どこでどう間違って…」
「赤司?今私の顔面偏差値のこと考えたよな?喧嘩か?喧嘩するかちくしょー」
こいやー!とファイティングポーズ決めていたら、赤司の後ろからボールが飛んできた。もろに顔面に当たる私。青峰を巻き込んで倒れる私。
ズサァー!
「ふぎゃっ!!」
「グエッ!!」
「キャーッ?!優姫ちゃん大丈夫?!」
「さつきてめぇ!俺の心配もしろよ!!」
ヒリヒリする顔を抑えて悶える。鼻打ったけど、曲がってない?血とか出てない?大丈夫これ?私の下にいる青峰は「揺れるな揺れるな当たってる当たってる」と騒いでいた。当たってるってなにがだ。
「ラブコメしてんじゃねーよ」
「ぐえふっ!」
羽織っているジャージの首根っこを掴んで私を持ち上げたのはまゆゆだった。無表情だけど、なんか怒ってるっぽい。
「ま、まゆゆ?」
「炊事係、夕飯の支度に取り掛かってたぞ」
マジか!!私も行かねば!!まゆゆのために美味しいご飯を作るからね!!
フンス!と意気込んだら、まゆゆはため息を吐いて私を地面に下ろしてくれた。
「赤司、練習に参加するの明日からでもよい?」
「いいよ。ただし、今からそのボールをシュートする前に一度でも大輝に取られたら明日の外周は倍にする」
「突然ぶっ込んできたね?!!」
「俺を巻き込むんじゃねぇよ…」
赤司の横暴魔人め!やっぱり兄貴と兄弟なんじゃないの?!
しかし赤司はわりと譲らない性格なので、仕方なく私は転がっていたボールを拾い、その場で弾ませた。青峰がこちらを見る。
「お前、ここからやる気かよ?」
「今からって言われたからねー。よっし、青峰!取れるもんなら取ってみろ!」
「くだらねー」
とかなんとか言いつつ、青峰が身体を傾けた。ゾワリと背筋が震え、私は反射的に後ろへ下がる。やはり、青峰の手がすでに伸びていた。マジか、動き早すぎかキセキの世代。しかし、私には兄貴と培った技術がある!はず!
「私…この勝負に勝ったら…赤司にラリアットかましてやるんだ…!!」
「死亡フラグ立ったな」
まゆゆの呆れ声を背に、私は駆け出す。後ろから青峰が追いかけてくる。ほんの一瞬のやり取り。奇跡的に青峰が手を伸ばすより早く体育館に足を踏み入れた私は、そのままボールを投げた。赤司の言う、緑間真太郎のような長距離3Pシュートだ。
「あ」
間抜けな声を出したのは私だ。私が体育館の端から投げたボールは、たしかにリングに入る軌道だった。しかし、ボールは入らなかった。なぜなら、中で練習をしていた実渕先輩のシュートとタイミングが重なり、二つのボールはぶつかりリングに入ることなくコートを転がったからだ。
無言。無言である。中も外も。おそるおそる、私は赤司に振り返る。赤司はそれはもう綺麗に、兄貴と同じような笑顔を向けてくれた。
「外周、倍で」
「んもおおおお!!今のノーカンにしてよおおおお!!夕飯作り行ってきます!!!」
半泣きで調理場に来た私は、炊事係の部員達に慰めてもらったのだった…。
ちなみに海辺で私を連れてった男の人は誰かと聞かれたから兄貴だと答えたら、えって顔をされたので顔面偏差値の高い兄貴を心底恨んだ。ちくしょう。
「大ちゃんが、止められなかった…」
さつきがポツリとそう呟く。それにハッと我に返った大輝は首を振った。
「偶々に決まってんだろ」
「そうだ、偶々優姫は大輝より体育館の近くにいて、大輝より早く体育館に入った。いや、入らなければ勝機はないとわかっていた」
「優姫ちゃんは最初から、体育館に入ったらすぐにシュート打つ気だったんだね」
「実力なら大輝の方が確実に勝っている。なのに大輝は止められなかった。何故だかわかるか?」
大輝は無言だった。わかっているはずだ。何故、バスケ部でもないただのトレーナーもどきにシュートさせてしまったのか。
「お前は勝つ気がない。だが優姫は勝つ気があった。それだけの差だ」
「……そうかよ」
表情、言葉こそどうでもいいといった態度だが、内心は悔しいのだろう。大輝はキセキの世代の中で、誰よりもバスケが好きだ。今のは遊びだったとはいえ、止められなかった事実は変わらない。これで少しはやる気を出すだろう。そうでなければ、大輝との試合は面白くないからな。
「ところで、さつきが大ちゃんと呼ぶのを久しぶりに聞いたよ」
「?!あ、その、驚いてつい…!」
「あと、優姫が羽織っていたのは桐皇のジャージだったね。もしかして、大輝のかな?」
「………」
「あれはあのセンコーが勝手に貸したんだよ!おい赤司!お前の隣のどこかテツを思い出させる男どうにかしろ!無表情なのになんかこえーから!!」
「千尋、優姫を連れて行った桐皇の教師はお兄さんだったそうだよ」
「!……ふーん」
千尋は相変わらず無表情だが、少しだけ気分が良くなったのか、そのまま体育館へ戻って行った。おそらく先ほど優姫に当たったボールは、千尋が大輝を狙って投げたものだろう。
さて、夕飯はどうなっているだろうか。ふと、さつきを見たら、中学の時に卒倒したテツヤと涼太と敦を思い出してしまい、ほんの少しだけ青ざめたことは秘密だ。
「それで?」
「えとあのその、あ、このシュシュ新しく買ったんだー!」
「優姫」
「すみませんでしたああああ!!!」
ズサァッとスライディング土下座を、私は桐皇学園が宿泊するホテルのロビーで披露してみせた。桐皇学園バスケ部の皆様集まってるからめっちゃ注目されてる。泣きたい。
あの後、まゆゆと赤司に「生きて帰る」と遺言を残して兄貴に引きずられていった私は、昨日正直に話しておけばよかったと後悔していた。
洛山に通う条件その一、泊りのある行事や遊びの場合はなるべく詳細を言う。主に男がいるかどうか。
昨日の電話の時に、私はつい言わなくてもいっかー、バレないしー、なんて甘い考えで『夏合宿で海に行ってくるー!』とだけ伝えたのだった。それがこのザマだよ!!
兄貴はふう、とわざとらしいため息を吐いて肩を竦めた。
「まさか早々に嘘をつかれるとは思ってなかったな。しかも男子バスケ部のトレーナーだと?なんだトレーナーって。そんなに紐なしバンジーがしたかったのか?」
「本当にすみませんんんんん!!」
「で、キセキの世代の赤司の前で、どんなプレイをして勧誘された?」
ひええ赤司がバスケ部主将でキセキの世代だってことも知ってるよこの人ーー。よく思えば洛山調べてたから入学してくるビッグネームは調査済みだったか。しかも状況もバレてるし。しぶしぶ、黒歴史になりかねない女バス騒動を話したら、心の底から呆れましたと言わんばかりのため息を吐かれた。泣きたい。
「お前の馬鹿さ加減にはほとほと呆れるな」
「うう…ううう…」
「まあいい。お前の執念がスキルとして少しは身についていたととってやる。そのまま俺に勝てるよう祈りながらバスケ部に鍛え直してもらえ」
「うわーん!兄貴が冷たいー!!」
ブフォッ、と、いきなり桐皇学園バスケ部の集団が噴き出した。兄貴と二人でそっちを見ると、噴き出したのか噴き出してなかったのかいまいちわからない、メガネをかけた糸目の人が「すんません」と笑った。
「いや、どういう関係なんやろと見てましたら、まさかの兄妹だったもんで」
「ああ、紹介しておこうか。こいつは京都にある洛山高校に通う俺の妹だ。優姫、彼は桐皇学園バスケ部主将、今吉だ。挨拶をしろ」
「あっはい。妹の水瓶優姫です。兄貴が鬼畜眼鏡っぷりを惜しみなく発揮してると思いますが、頑張ってください、青峰くん」
「名指しすんな!お前がそいつ止めろよ!」
「止められるわけないじゃん?!!兄貴だよ?!鬼畜眼鏡だよ?!止められるなら私はここで土下座してないよ?!」
それもそうだ、と桐皇学園バスケ部から生暖かい視線が私と青峰に送られる。青峰、まさか君が電話で兄貴が言ってた『狩りというのは楽しいな』の、狩られてる奴だったとは。どんまい、青峰。私は助けられない。
兄貴はまたやれやれと肩を竦めて、それから青峰を呼んだ。
「青峰、こいつを宿泊先まで送ってきてくれ」
「えっ何で俺が」
「俺の妹の胸を、感想も付け加えて凝視していたそうだな?」
「送らせていただきます」
ニコリと微笑む(ただし目は笑ってない)兄貴は、素直に頷いた青峰を見て満足そうだった。そういえば、もう夕方だ。夕食を作り始めてるだろうから、私も急いで帰らないと。
足早にロビーを出ようとしたら、ふと兄貴に呼び止められて何かを肩にかけられた。
「優姫、これを羽織っていけ。そのまま帰るよりはは良いだろう」
「えっこれ桐皇のジャージ…待って兄貴、これまさか」
「青峰のだが」
「俺のかよ!!」
「胸ばかり見るお前のような輩が他にもいないとは限らん。そもそも優姫、なんだそのヒラヒラしたシュシュは。そんな女の子らしい髪留め今まで買ったことがないだろう。いつ買った?まさかそれを勧めてきた男がいるんじゃないだろうなどうなんだ優姫」
「もおおおこの過保護!!シュシュくらい好きに選ぶわ兄貴のバカあああああ!!!」
「俺、あのセンコーがあんなにショックを受けた顔したの初めて見たわ」
「私もだわ。バカは言いすぎたかな…」
「水瓶先生、本当に優姫ちゃんのこと大好きなんだね」
「「そうだろうか」」
「青峰くんはともかく優姫ちゃんは自信持って」
私と青峰を二人きりにするのは心配だ、って言われたらしいさつきちゃんが走ってきて、二人に送られることになった私。兄貴ってたまに超絶過保護なんだよなあ…。さっきの背景に雷走った感のあるショック顔はレアだったなあ…。
「そういえば、バスケ部のトレーナーしてるんだよね?在学生がトレーナーをするって聞いたことないけど、優姫ちゃんはどこでバスケやってたの?」
「部活は剣道やってたんだけど、休日に兄貴と色んなスポーツやっててその中の一つがバスケだったって感じかな。トレーナーに関しては、なんでも私がキセキの世代の緑間くんと同じ素質があるとかなんとかって赤司が言ってて」
「は?同じ素質?」
「同じって言ってたけどほんとかなーって私も思ってるんだけどねー。コートの端から反対側のコートのリングにシュートしただけだし」
「「は?」」
「そいや二人とも赤司と同じ中学なんだよね?!なんか赤司の弱点とかない?!赤司がプロレス技を極める前にどうにか一矢報いたい…!!」
「「赤司(君)がプロレス技??」」
少し歩いて、洛山が泊まっているホテルが見えてきた。その近くの大きな体育館で男子バスケ部は練習をしている。今日は全然練習できなかったけど!
「へー、結構良いとこじゃねーか」
「洛山バスケ部がここで練習してるんだね」
青峰はホテルを見て、さつきちゃんは体育館を見て感想を述べる。たしかに結構良いとこだと思うし、他校のバスケ部の練習が気になるのもわかる。部室にあったキセキの世代特集の月バスに、元帝光中バスケ部マネのさつきちゃんは情報収集が得意だって書いてあったから、なおさら気になるだろう。
「やっと帰ってきたか」
「赤司!いやーお待たせしましたー。鉄拳制裁はなんとか免れたよー」
話し声が聞こえたのか、赤司が体育館から出てきた。近寄れば体育館の中からボールの弾む音が聞こえてくる。
疲れた疲れた、と駆け寄るが、赤司は私の言葉に訝しげな顔をしていた。
「…鉄拳制裁?」
「あ、桐皇の水瓶先生なんだけど、優姫ちゃんのお兄さんだったみたいなの」
「身内だったのか。…どこでどう間違って…」
「赤司?今私の顔面偏差値のこと考えたよな?喧嘩か?喧嘩するかちくしょー」
こいやー!とファイティングポーズ決めていたら、赤司の後ろからボールが飛んできた。もろに顔面に当たる私。青峰を巻き込んで倒れる私。
ズサァー!
「ふぎゃっ!!」
「グエッ!!」
「キャーッ?!優姫ちゃん大丈夫?!」
「さつきてめぇ!俺の心配もしろよ!!」
ヒリヒリする顔を抑えて悶える。鼻打ったけど、曲がってない?血とか出てない?大丈夫これ?私の下にいる青峰は「揺れるな揺れるな当たってる当たってる」と騒いでいた。当たってるってなにがだ。
「ラブコメしてんじゃねーよ」
「ぐえふっ!」
羽織っているジャージの首根っこを掴んで私を持ち上げたのはまゆゆだった。無表情だけど、なんか怒ってるっぽい。
「ま、まゆゆ?」
「炊事係、夕飯の支度に取り掛かってたぞ」
マジか!!私も行かねば!!まゆゆのために美味しいご飯を作るからね!!
フンス!と意気込んだら、まゆゆはため息を吐いて私を地面に下ろしてくれた。
「赤司、練習に参加するの明日からでもよい?」
「いいよ。ただし、今からそのボールをシュートする前に一度でも大輝に取られたら明日の外周は倍にする」
「突然ぶっ込んできたね?!!」
「俺を巻き込むんじゃねぇよ…」
赤司の横暴魔人め!やっぱり兄貴と兄弟なんじゃないの?!
しかし赤司はわりと譲らない性格なので、仕方なく私は転がっていたボールを拾い、その場で弾ませた。青峰がこちらを見る。
「お前、ここからやる気かよ?」
「今からって言われたからねー。よっし、青峰!取れるもんなら取ってみろ!」
「くだらねー」
とかなんとか言いつつ、青峰が身体を傾けた。ゾワリと背筋が震え、私は反射的に後ろへ下がる。やはり、青峰の手がすでに伸びていた。マジか、動き早すぎかキセキの世代。しかし、私には兄貴と培った技術がある!はず!
「私…この勝負に勝ったら…赤司にラリアットかましてやるんだ…!!」
「死亡フラグ立ったな」
まゆゆの呆れ声を背に、私は駆け出す。後ろから青峰が追いかけてくる。ほんの一瞬のやり取り。奇跡的に青峰が手を伸ばすより早く体育館に足を踏み入れた私は、そのままボールを投げた。赤司の言う、緑間真太郎のような長距離3Pシュートだ。
「あ」
間抜けな声を出したのは私だ。私が体育館の端から投げたボールは、たしかにリングに入る軌道だった。しかし、ボールは入らなかった。なぜなら、中で練習をしていた実渕先輩のシュートとタイミングが重なり、二つのボールはぶつかりリングに入ることなくコートを転がったからだ。
無言。無言である。中も外も。おそるおそる、私は赤司に振り返る。赤司はそれはもう綺麗に、兄貴と同じような笑顔を向けてくれた。
「外周、倍で」
「んもおおおお!!今のノーカンにしてよおおおお!!夕飯作り行ってきます!!!」
半泣きで調理場に来た私は、炊事係の部員達に慰めてもらったのだった…。
ちなみに海辺で私を連れてった男の人は誰かと聞かれたから兄貴だと答えたら、えって顔をされたので顔面偏差値の高い兄貴を心底恨んだ。ちくしょう。
「大ちゃんが、止められなかった…」
さつきがポツリとそう呟く。それにハッと我に返った大輝は首を振った。
「偶々に決まってんだろ」
「そうだ、偶々優姫は大輝より体育館の近くにいて、大輝より早く体育館に入った。いや、入らなければ勝機はないとわかっていた」
「優姫ちゃんは最初から、体育館に入ったらすぐにシュート打つ気だったんだね」
「実力なら大輝の方が確実に勝っている。なのに大輝は止められなかった。何故だかわかるか?」
大輝は無言だった。わかっているはずだ。何故、バスケ部でもないただのトレーナーもどきにシュートさせてしまったのか。
「お前は勝つ気がない。だが優姫は勝つ気があった。それだけの差だ」
「……そうかよ」
表情、言葉こそどうでもいいといった態度だが、内心は悔しいのだろう。大輝はキセキの世代の中で、誰よりもバスケが好きだ。今のは遊びだったとはいえ、止められなかった事実は変わらない。これで少しはやる気を出すだろう。そうでなければ、大輝との試合は面白くないからな。
「ところで、さつきが大ちゃんと呼ぶのを久しぶりに聞いたよ」
「?!あ、その、驚いてつい…!」
「あと、優姫が羽織っていたのは桐皇のジャージだったね。もしかして、大輝のかな?」
「………」
「あれはあのセンコーが勝手に貸したんだよ!おい赤司!お前の隣のどこかテツを思い出させる男どうにかしろ!無表情なのになんかこえーから!!」
「千尋、優姫を連れて行った桐皇の教師はお兄さんだったそうだよ」
「!……ふーん」
千尋は相変わらず無表情だが、少しだけ気分が良くなったのか、そのまま体育館へ戻って行った。おそらく先ほど優姫に当たったボールは、千尋が大輝を狙って投げたものだろう。
さて、夕飯はどうなっているだろうか。ふと、さつきを見たら、中学の時に卒倒したテツヤと涼太と敦を思い出してしまい、ほんの少しだけ青ざめたことは秘密だ。