影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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「おはよー!…って、あれ?」
翌朝、自分の教室に入ると、私の席の周りに人がいた。しかも女子だ。彼女らは私が登校してきたことに気付くと、よしきたと言わんばかりに手を振ってくる。
「おはよー水瓶さん!」
「水瓶さんって、コンタクト?」
はて、なぜそんなことを聞いてくるのか。ちなみに私は視力は両目とも2.0だ。漫画やゲームばかりの生活でも視力は衰えることなく、裸眼で過ごしている。それを彼女らに伝えると、見るからにガッカリされてしまった。なぜだ。
「どしたの突然?」
「あ、えっとね…な、なんでもない!」
「変なこと聞いてごめんねっ!」
そそくさと自分達の席へ帰ってしまった。何だったのか。首を傾げながら席に座り鞄を下ろす。今日から授業スタートだ。忘れ物などしては………。
「なぜ…筆箱を忘れてしまったのか…!!教科書は完璧でも書くものなかったら意味がない…!!」
思わず口に出して机にへばり付いた。昨日まゆゆと友達?になれて、浮かれてしまっていた。あっ、今度連絡先聞かなきゃ。と、その前に文具だ。仕方ない、先生に借りるか、近くの席の人に借りよう。
「水瓶さん、これで良かったら使うかい?」
スッと、シャープペンと消しゴムが私に差し出された。顔を上げると、隣の席の赤司くんだった。おお、イケメンは心もイケメンなのか。
「めっちゃ声に出してアピってごめんね…!!でもありがたいです!!お借りしやす!!」
「いや、君のおかげで助かったからね。これくらいは構わないよ」
「ほわい?私なんかしたっけ?」
「さっきの女子達が何故君の視力を聞いたか、わかってないんだね」
ということは、赤司くんはわかったのか。続きはよ、と視線で訴える。
「そこの席に座りたかったんだよ」
この席に…。この席は何か特別な席だったのか…?ただの一番後ろ、窓際から二列目のなんてことはない席のはずだけども。いやまてよ、さっきの女子達、まるで恋する乙女だった。昨日の私のような…いやいや昨日の私は違うから。あれは、なんて言えばいいのかわからないけど、多分違うから。
つまりだ、赤司くんの隣の席になりたかったんだ。
「謎は全て解けた…」
「謎というほどのことでもないと思うけど」
フッと、美少年は微笑む。たしかにこんな美少年が同じクラスにいたら、お近づきになりたいと思う女子がいてもおかしくはない。そして、赤司くんは中学から席争奪戦に巻き込まれていたのだろう。そりゃ高校でまでそんな目に遭いたくないよね。モテる男も大変だ。
「赤司くん、中学からモテてそうだよねー。はっ、まさか、バレンタインはダンボールで貰ってたり…男からも告白とかされたり…そして始まる赤司くん争奪戦…赤司は俺の嫁だぜ!!」
「あるわけないし誰が嫁だって?」
「あれ?!なんかオーラが!魔王っぽいオーラが見え隠れしてるアレェ?!」
「そろそろ担任が来るから静かにしろ、水瓶」
「呼び捨てになりましたね?!!」
赤司くんは魔王←new!
一日の授業も全て終わり、各々部活へと向かう。今日はテニス部に体験入部なので、その準備をしながら、そういえば、と同じように準備をしている赤司くん、もとい赤司に尋ねた。(赤司も水瓶と呼んだことだし、私もくん付けをやめることにした)
「赤司って京都住みじゃないよね?」
「ああ、中学までは東京に住んでいたからね。水瓶も同じだろう?」
「いえーす。私も東京でーす!あれ、もしかして同中だったりしたかも…?」
「僕は帝光中だが」
「あっ違った。まあ同中だったら私絶対赤司のこと知ってるわ。こんな美少年私が見逃すはずがない。赤司って女装似合いそうだよね!」
「……」
「その不審人物を見る目やめて!もしかして赤司の中で私の評価どんどん下がってない?!」
下がらないと思っているのか?とオッドアイが訴えてきた。ごめんなさい。常にハイテンション野郎でほんとすみません。
準備を終えて、部室までの道のりが途中まで同じなので自然と二人で話しながら廊下へ出る。周囲の視線が微妙に怖い気がするが、見なかったことにする。
「そういえば、剣道部はどうだったんだ?」
「ああ、廃部してたよ…。とりあえず運動部片っ端から体験入部するつもり。今日はテニス部!明日はバレー部、明後日は卓球部!」
「スポーツが好きなのか?」
「おうよ!ポイント入った時の爽快感最高!何部に入ろうかなー!」
「ちなみに僕はバスケ部主将になったよ」
「へー赤司バスケ部なんだー!…ん?主将?」
あれ、バスケ部って人数めちゃ多くなかったっけ?なのに一年の赤司が主将って…え、まさか赤司。
「赤司ってバスケめっちゃ強いの?!!」
「ここには推薦で来たからね」
「マジか!!うわー、そりゃモテるよ。赤司モテ王伝説の開幕だよ」
「勝手に伝説を作るな。そういう水瓶はどうして東京から京都の洛山に?」
「完全に私的な事情デス。無事洛山に進学できてほんと良かったマジで良かった」
ーーーーーー…
「うーーーーーん」
昼休憩、何の気なしにやってきた屋上でまゆゆと遭遇して以来、私はお弁当持参で屋上へ駆け込むようになった。まゆゆは相変わらず儚い系イケメンで、柵にに背を預けて本を読む姿は二次元だ。読んでる本はラノベだが。
そして今日の私は屋上に駆け込んで唸り声を上げていた。理由は部活動のことだ。
「テニス部、バレー部、卓球部、バドミントン部、柔道部…色々やったな」
「全部楽しかったんだけど、こうしっくりくるのがないっていうか…うーーーーーん」
「んで、今日はバスケ部か」
「うん。女バス強いって聞いたし、めっちゃ楽しみ!あ、そいやまゆゆは何部なの?」
「バスケ部」
なんと、まゆゆはバスケ部だったのか!運動部だろうとは予想していたけど、まゆゆがバスケ部…。シュート決めるまゆゆ…パスを出すまゆゆ…汗を拭うまゆゆ…ドリンクを飲むまゆゆ…。
「声に出てんだよ変態」
「今のもっかい言って!!」
「喜んでんじゃねーよ」
「あだっ!ラノベの角はやめて角は!」
やれやれ、とまゆゆは私を殴ったラノベを読み直し始める。頭をさすりながら、食べ終えたお弁当を片付けてもう一度部活動について考える。まさか剣道部がないとは思わなかったから、他の部活のことを全く考えていなかった。そろそろ部活動に本腰入れたいし、決めどきかな。
「今日バスケ部行って、楽しかったら私もバスケ部入ろっかな。まゆゆとお揃い!」
「…ふーん」
「あっちょ、聞いてないね?!んもー!私のミラクルシュートなめんなよー!」
「はいはい」
そして来たる放課後、私は意気揚々とバスケ部に体験入部したのだが、まさかこんな事になるとは。
「今年の一年はキセキの世代目当ての子が多くて困るわ!女バスと男バスは別物なの!いい加減にして!」
と、女バスの主将が早々にキレた。たしかに私も体験入部の女子めっちゃ多いなあとは思ってたけど、なるほど何か目当ての人達がいたのか。キセキの世代?というらしい。男バスにいるアイドルグループか何かだろうか。
主将の怒鳴り声に怯えたミーハー女子達は一気に散っていき、残されたのは十人程度だ。え、さっき三十人くらいいなかった?
「ふう…みんな怒鳴ってごめんなさいね。去年もそこそこ多かったんだけど、今年はキセキの世代の赤司君が入学したものだから、本当に酷くて」
キセキの世代の赤司君?!え、赤司ってアイドルグループか何かだったの?!え、何それ詳しく…。
「…あら、貴女は帰らなかったのね」
「へ?」
ライブをしてる赤司を想像していたら、主将は厳しい目で何故か私を睨んでいた。棘のある言葉に首を傾げていたら、主将はフンっと鼻を鳴らした。
「貴女のこと聞いてるのよ、水瓶さん。貴女早々に赤司君に取り入ったらしいじゃない。隣の席で優越感にでも浸っているのかしら」
「ゆ、優越感?…いやあの、赤司は友達で…」
「もう呼び捨てにしてるの?それで今度はバスケ部に入って共通点を作ってさらに媚びるのかしら?これだから男に色目使う女は…」
赤司このやろおおおおおお!!
いや赤司のせいじゃないけど!ないけどね!!なんか私赤司狙いのミーハー女認識されてる解せぬ!!ていうか赤司どんだけ人気なの?!やっぱりバレンタインはダンボールで貰って赤司争奪戦開戦してたんじゃないの?!
と、脳内グルグル状態だったが、そもそも私はバスケがしたくてバスケ部に来たのだ。入部させてくれなくても、少しくらいバスケさせてくれてもいいじゃないか。バスケがしたいです、安西先生。
「あ、あの、主将…そ、そろそろ部活を…」
憤怒している主将に怯えながら声をかけたのは、同じクラスの竹中さんだ。たしか、私にコンタクトかどうか聞いてきたゆるふわ系女子。バスケ部に本入部していたのか。
竹中さんに話しかけられた主将は、ああ…と今が部活の時間だというのを思い出したらしく、腕を組んだままこちらに向き直る。口元には嫌な予感のする笑みを浮かべて。
「それじゃあ、体験入部の子達でチームを組んでちょうだい。これからレギュラーと試合をしてもらうわ」
体験入部の女子達が一斉に青ざめる。中にはバスケ経験者もいるが、これから始めるつもりの子もいる。そんな凸凹チームで、全国にもいくレギュラーと試合をしろ、だと。なんだそれ。
めっちゃ面白そおおおおお!!まゆゆ見てるうう?!私これから試合やるよおおおお!!
遠くでまゆゆの「もっと焦れ」というため息交じりの呆れ声が聞こえた気がした。
「水瓶さん、バスケしたことある…?」
「おうよ!島津さんは未経験?」
「うん…テレビで試合を見て、やってみたいなって思って体験入部に来たんだけど…運動、自信なくて…足引っ張ったらごめんね…」
体験入部組が集まって、とりあえず経験者を中心にチームを組もうと話し合った。けど、経験者の何人かが主将を怖がって辞退をしてしまい、未経験者がチームに組まれることになった。経験者四人、未経験者一人。未経験者の、隣のクラスの島津さんは、おっとり系女子で申し訳なさげに俯いている。
「失敗したっていいんだよ!みんな最初から何でもできるわけじゃないしさ。私バスケしたことあるけど、中学は剣道部だったからね?」
「えっそうだったの?」
「あー…剣道部廃部って聞いたわ」
「そうなんだよ!んで今色んな部活に体験入部しててね、バスケ部も楽しみにして来たんだけど、何故か主将に嫌われておる。解せぬ」
「わ、私のせいなの…!ごめんなさい!」
体験入部組にやってきた竹中さんは、先程の島津さんの様に申し訳なさげに私に頭を下げて来た。急に謝られて私もアワアワしてしまう。竹中さんは少しだけ声を抑えて、こそりと話してくれた。
「軽い雑談のつもりで、その…水瓶さんの話をしたの。赤司君の隣の席で、親しげに話しかけてる、って…主将、赤司君の大ファンだったみたいで…」
「oh…ていうか、赤司ってそんなに有名だったんだね…キセキの世代とか初めて聞いたよ…」
「えっ?!水瓶さん、東京の中学に通ってたんだよね?!」
「うん…まあ剣道部だったし…バスケ部の事情全然知らなかったから…」
それに、兄貴の名前の方が私的に有名だったから…。とは伏せておく。京都では平穏に生きていくのだ。早速平穏じゃないけど。
体験入部組と竹中さんは、遠い目をする私を見てふふっと笑った。
「赤司君に媚びるとか、水瓶さんのキャラじゃないよね。私、軽率に悪口紛いのこと言ってた。本当にごめんなさい!」
「私も厄介な事に巻き込まれたって思ってたけど、これはこれで面白そう。水瓶さん、レギュラーから点取ろうね!」
「わ、私も頑張るっ!」
私も、私も、とみんなが口々にやる気を出していく。なんだかよくわかんないけど、みんながやる気を出したならやるべきことは一つだ。
「レギュラー倒して祝杯あげるぞみんな!!」
「目標高くない?!」
そして始まるレギュラーとの試合。結果はまあ、惨敗だ。それは仕方がない。相手は練習を積んで実践経験もあるレギュラーで、こちらは即席チームだ。各々の力が強くても、どうしても連携や経験の差が出てくる。それに、向こうも未経験者を狙うのが良いとすぐに判断して、島津さんがボールを持った瞬間に一切の遠慮もなくスティールしてくる。
「わ、私、ほんとに、役に立たなくて、ごめんなさい…っ」
島津さんは息を切らしながら私に涙声で謝ってくる。
試合だから、隙をついていくのは全然悪くない。悪くないんだけど、バスケを始めてみたいってワクワクしながら体験入部に来た子に、この仕打ちはないだろう。いくらなんでも、こんなの八つ当たりだ。その原因が私なら、私がこの場からいなくなるのが、一番良いんだろうけど、ここで試合を投げ出して立ち去ったらみんなに迷惑がかかるし、なにより悔しい。
「…島津さん、スポーツはね、やっぱ楽しんでやるのが一番だと思うんだ」
「えっ?」
「次ボール来たら、私にパスして。絶対にシュート決めてみせるから。ゴールから離れてても全然構わないから、ね!」
疑問符を浮かべつつも、島津さんが頷いたのを見て私は少し距離を取る。いつも何かしらスポーツ対決をする兄貴相手に、バスケで一番点が取れる方法をこの場でするために。
「水瓶さんっ」
島津さんがボールを持つと、主将がそのボールを奪おうと手を伸ばす。けど、私にパスをする、という約束を果たそうと島津さんが精一杯の力で私の元へボールを届けてくれた。なら今度は、私が約束を守る番だ!
ほぼ自軍ゴールの近くにいた私にパスが来たのを見て、主将が「やっぱり素人ね」と勝ちを確信したように笑っていた。目が合ったので、私はにんまり笑ってみせた。そして、その場でシュートの構えで飛ぶ。
スパン、と、リングに当たることなくゴールに入ったボールの転がる音が、静まり返った体育館に響き渡る。そしてハッと時間に気付いた審判が試合終了の笛を鳴らした。
「反対側のコートから、3Pなんて」
主将の唖然とする声。私はそんな主将に近づいて、ペコリと頭を下げた。
「試合負けたのは悔しいですけど、すごく楽しかったです!ありがとうございました!」
「え、あ…」
「でも、お願いですから、本当にバスケがしたい人達に嫌な思いをさせるようなことは、やめてください。いや私も本当にバスケしたかった勢ですけどね!」
私のマシンガントークに主将は言葉をなくしていた。けれど、入部はもう見込めないから、せめて言いたいことは言っておこう。
「あと、赤司のファンだって人のことも過激派以外は寛容にみてあげて欲しいです。好きな人がいるって素敵じゃないですか。あと赤司争奪戦待ってます。男女含めた争奪戦求む。赤司は俺の嫁だぜ!!」
「…ん?」
「ゲフゲフ…つい本音が…。とりあえず、なんかご迷惑おかけしたのでこれで失礼します!お邪魔しましたー!」
「あっ、ちょっと!」
主将の止める声も聞かず、私は驚いた顔の竹中さんや島津さん達にビッ!と謎の敬礼をして体育館を出た。更衣室に向かっていたら、その途中で「おい」と声をかけられて足を止める。柱に寄りかかっていたのは、運動着姿のまゆゆだった。
「まゆゆ!」
「さっきの見てた」
「ぐほう!…いやあの…お見苦しいところを…」
まゆゆに楽しかったらバスケ部入るぞー!なんて言ってたのに、バスケ部の雰囲気を悪くして退散する姿をバッチリ見られてしまった事実に項垂れる。まゆゆに軽蔑されるのは、嫌だな。
次にくる言葉を待っていたら、友達になってくださいと言った時と同じように頭をポフ、とされた。
「あの主将、俺のクラスの奴なんだけど、最近赤司絡みでイライラしてたみたいで周囲も困っててな。最後の3P、スカッとした」
「…ほんと?」
「ああ。お前、バスケ上手いな」
「…ふへへー」
「にやけんな」
バシッと叩かれたけど、口元のニヤケが止まらない。まゆゆに褒められた。嬉しい。主将は私のことを赤司狙いと思ってたけど、私はいつだってまゆゆ狙いなのだ。
「でも、これでもう運動部全部回りきっちゃったよ…どうしよ…」
「…マネージャーは」
「へ?マネージャー?」
「男バス、人数結構多いからマネージャー不足。試合は出れねえけど、あんなシュート決めるくらいだし自主練に付き合ったりとか出来るだろ」
「まゆゆの自主練に付き合ったりとか出来るってこと?!」
「…まあ、そうなる」
ほわああ…と感極まった声を出したら、まゆゆに気持ち悪いと言われてしまった。マネージャー、マネージャーかあ!料理とか裁縫とか好きだし、みんなのサポートをするマネージャーも楽しそうだ。それに、まゆゆの自主練に付き合っても良いと許可が出た。これはなるしかない。いや、なる!
「私マネージャー志願する!!」
「いや、君にはトレーナーになってもらう」
「ふぎゃお?!」
「赤司」
猫のような声をあげて驚く私と、無表情のままで私の背後の人物の名を呼ぶまゆゆ。私も慌てて振り向くと、運動着姿の赤司が真後ろに立っていてまた驚いた。気配なかったけどいつ来たの?!ていうか、トレーナーってなんぞ?!
「おい赤司、トレーナーってどういうことだ?」
「有り体に言えば、レギュラーの練習相手になってもらうんだよ。さっきのシュート、あれはかなり洗練されたものだった。同じことができるとすれば、僕が知る限り真太郎くらいだろう」
「へ、へえ?ちなみにそれって自主練に付き合うのとどうちがうの?」
「君も練習に参加してもらうから、自主練よりはバスケをする時間が長くなる、といえば良いかい?」
「ほう?!」
つまり、試合には出れないけど、バスケ部の練習を同じようにすることができる、ということか!なにそれめっちゃ楽しそう!
「やる!トレーナーになる!」
「監督にはもう伝えてあるから、明日改めて入部届けを持ってくるんだ。ところで」
「ほい?」
「誰が嫁だって?」
「ひい赤司の目が笑ってない!!まゆゆ助けて!!」
「無理」
拝啓、兄貴様。
私、水瓶優姫は、洛山男子バスケ部のトレーナーになりました。
翌朝、自分の教室に入ると、私の席の周りに人がいた。しかも女子だ。彼女らは私が登校してきたことに気付くと、よしきたと言わんばかりに手を振ってくる。
「おはよー水瓶さん!」
「水瓶さんって、コンタクト?」
はて、なぜそんなことを聞いてくるのか。ちなみに私は視力は両目とも2.0だ。漫画やゲームばかりの生活でも視力は衰えることなく、裸眼で過ごしている。それを彼女らに伝えると、見るからにガッカリされてしまった。なぜだ。
「どしたの突然?」
「あ、えっとね…な、なんでもない!」
「変なこと聞いてごめんねっ!」
そそくさと自分達の席へ帰ってしまった。何だったのか。首を傾げながら席に座り鞄を下ろす。今日から授業スタートだ。忘れ物などしては………。
「なぜ…筆箱を忘れてしまったのか…!!教科書は完璧でも書くものなかったら意味がない…!!」
思わず口に出して机にへばり付いた。昨日まゆゆと友達?になれて、浮かれてしまっていた。あっ、今度連絡先聞かなきゃ。と、その前に文具だ。仕方ない、先生に借りるか、近くの席の人に借りよう。
「水瓶さん、これで良かったら使うかい?」
スッと、シャープペンと消しゴムが私に差し出された。顔を上げると、隣の席の赤司くんだった。おお、イケメンは心もイケメンなのか。
「めっちゃ声に出してアピってごめんね…!!でもありがたいです!!お借りしやす!!」
「いや、君のおかげで助かったからね。これくらいは構わないよ」
「ほわい?私なんかしたっけ?」
「さっきの女子達が何故君の視力を聞いたか、わかってないんだね」
ということは、赤司くんはわかったのか。続きはよ、と視線で訴える。
「そこの席に座りたかったんだよ」
この席に…。この席は何か特別な席だったのか…?ただの一番後ろ、窓際から二列目のなんてことはない席のはずだけども。いやまてよ、さっきの女子達、まるで恋する乙女だった。昨日の私のような…いやいや昨日の私は違うから。あれは、なんて言えばいいのかわからないけど、多分違うから。
つまりだ、赤司くんの隣の席になりたかったんだ。
「謎は全て解けた…」
「謎というほどのことでもないと思うけど」
フッと、美少年は微笑む。たしかにこんな美少年が同じクラスにいたら、お近づきになりたいと思う女子がいてもおかしくはない。そして、赤司くんは中学から席争奪戦に巻き込まれていたのだろう。そりゃ高校でまでそんな目に遭いたくないよね。モテる男も大変だ。
「赤司くん、中学からモテてそうだよねー。はっ、まさか、バレンタインはダンボールで貰ってたり…男からも告白とかされたり…そして始まる赤司くん争奪戦…赤司は俺の嫁だぜ!!」
「あるわけないし誰が嫁だって?」
「あれ?!なんかオーラが!魔王っぽいオーラが見え隠れしてるアレェ?!」
「そろそろ担任が来るから静かにしろ、水瓶」
「呼び捨てになりましたね?!!」
赤司くんは魔王←new!
一日の授業も全て終わり、各々部活へと向かう。今日はテニス部に体験入部なので、その準備をしながら、そういえば、と同じように準備をしている赤司くん、もとい赤司に尋ねた。(赤司も水瓶と呼んだことだし、私もくん付けをやめることにした)
「赤司って京都住みじゃないよね?」
「ああ、中学までは東京に住んでいたからね。水瓶も同じだろう?」
「いえーす。私も東京でーす!あれ、もしかして同中だったりしたかも…?」
「僕は帝光中だが」
「あっ違った。まあ同中だったら私絶対赤司のこと知ってるわ。こんな美少年私が見逃すはずがない。赤司って女装似合いそうだよね!」
「……」
「その不審人物を見る目やめて!もしかして赤司の中で私の評価どんどん下がってない?!」
下がらないと思っているのか?とオッドアイが訴えてきた。ごめんなさい。常にハイテンション野郎でほんとすみません。
準備を終えて、部室までの道のりが途中まで同じなので自然と二人で話しながら廊下へ出る。周囲の視線が微妙に怖い気がするが、見なかったことにする。
「そういえば、剣道部はどうだったんだ?」
「ああ、廃部してたよ…。とりあえず運動部片っ端から体験入部するつもり。今日はテニス部!明日はバレー部、明後日は卓球部!」
「スポーツが好きなのか?」
「おうよ!ポイント入った時の爽快感最高!何部に入ろうかなー!」
「ちなみに僕はバスケ部主将になったよ」
「へー赤司バスケ部なんだー!…ん?主将?」
あれ、バスケ部って人数めちゃ多くなかったっけ?なのに一年の赤司が主将って…え、まさか赤司。
「赤司ってバスケめっちゃ強いの?!!」
「ここには推薦で来たからね」
「マジか!!うわー、そりゃモテるよ。赤司モテ王伝説の開幕だよ」
「勝手に伝説を作るな。そういう水瓶はどうして東京から京都の洛山に?」
「完全に私的な事情デス。無事洛山に進学できてほんと良かったマジで良かった」
ーーーーーー…
「うーーーーーん」
昼休憩、何の気なしにやってきた屋上でまゆゆと遭遇して以来、私はお弁当持参で屋上へ駆け込むようになった。まゆゆは相変わらず儚い系イケメンで、柵にに背を預けて本を読む姿は二次元だ。読んでる本はラノベだが。
そして今日の私は屋上に駆け込んで唸り声を上げていた。理由は部活動のことだ。
「テニス部、バレー部、卓球部、バドミントン部、柔道部…色々やったな」
「全部楽しかったんだけど、こうしっくりくるのがないっていうか…うーーーーーん」
「んで、今日はバスケ部か」
「うん。女バス強いって聞いたし、めっちゃ楽しみ!あ、そいやまゆゆは何部なの?」
「バスケ部」
なんと、まゆゆはバスケ部だったのか!運動部だろうとは予想していたけど、まゆゆがバスケ部…。シュート決めるまゆゆ…パスを出すまゆゆ…汗を拭うまゆゆ…ドリンクを飲むまゆゆ…。
「声に出てんだよ変態」
「今のもっかい言って!!」
「喜んでんじゃねーよ」
「あだっ!ラノベの角はやめて角は!」
やれやれ、とまゆゆは私を殴ったラノベを読み直し始める。頭をさすりながら、食べ終えたお弁当を片付けてもう一度部活動について考える。まさか剣道部がないとは思わなかったから、他の部活のことを全く考えていなかった。そろそろ部活動に本腰入れたいし、決めどきかな。
「今日バスケ部行って、楽しかったら私もバスケ部入ろっかな。まゆゆとお揃い!」
「…ふーん」
「あっちょ、聞いてないね?!んもー!私のミラクルシュートなめんなよー!」
「はいはい」
そして来たる放課後、私は意気揚々とバスケ部に体験入部したのだが、まさかこんな事になるとは。
「今年の一年はキセキの世代目当ての子が多くて困るわ!女バスと男バスは別物なの!いい加減にして!」
と、女バスの主将が早々にキレた。たしかに私も体験入部の女子めっちゃ多いなあとは思ってたけど、なるほど何か目当ての人達がいたのか。キセキの世代?というらしい。男バスにいるアイドルグループか何かだろうか。
主将の怒鳴り声に怯えたミーハー女子達は一気に散っていき、残されたのは十人程度だ。え、さっき三十人くらいいなかった?
「ふう…みんな怒鳴ってごめんなさいね。去年もそこそこ多かったんだけど、今年はキセキの世代の赤司君が入学したものだから、本当に酷くて」
キセキの世代の赤司君?!え、赤司ってアイドルグループか何かだったの?!え、何それ詳しく…。
「…あら、貴女は帰らなかったのね」
「へ?」
ライブをしてる赤司を想像していたら、主将は厳しい目で何故か私を睨んでいた。棘のある言葉に首を傾げていたら、主将はフンっと鼻を鳴らした。
「貴女のこと聞いてるのよ、水瓶さん。貴女早々に赤司君に取り入ったらしいじゃない。隣の席で優越感にでも浸っているのかしら」
「ゆ、優越感?…いやあの、赤司は友達で…」
「もう呼び捨てにしてるの?それで今度はバスケ部に入って共通点を作ってさらに媚びるのかしら?これだから男に色目使う女は…」
赤司このやろおおおおおお!!
いや赤司のせいじゃないけど!ないけどね!!なんか私赤司狙いのミーハー女認識されてる解せぬ!!ていうか赤司どんだけ人気なの?!やっぱりバレンタインはダンボールで貰って赤司争奪戦開戦してたんじゃないの?!
と、脳内グルグル状態だったが、そもそも私はバスケがしたくてバスケ部に来たのだ。入部させてくれなくても、少しくらいバスケさせてくれてもいいじゃないか。バスケがしたいです、安西先生。
「あ、あの、主将…そ、そろそろ部活を…」
憤怒している主将に怯えながら声をかけたのは、同じクラスの竹中さんだ。たしか、私にコンタクトかどうか聞いてきたゆるふわ系女子。バスケ部に本入部していたのか。
竹中さんに話しかけられた主将は、ああ…と今が部活の時間だというのを思い出したらしく、腕を組んだままこちらに向き直る。口元には嫌な予感のする笑みを浮かべて。
「それじゃあ、体験入部の子達でチームを組んでちょうだい。これからレギュラーと試合をしてもらうわ」
体験入部の女子達が一斉に青ざめる。中にはバスケ経験者もいるが、これから始めるつもりの子もいる。そんな凸凹チームで、全国にもいくレギュラーと試合をしろ、だと。なんだそれ。
めっちゃ面白そおおおおお!!まゆゆ見てるうう?!私これから試合やるよおおおお!!
遠くでまゆゆの「もっと焦れ」というため息交じりの呆れ声が聞こえた気がした。
「水瓶さん、バスケしたことある…?」
「おうよ!島津さんは未経験?」
「うん…テレビで試合を見て、やってみたいなって思って体験入部に来たんだけど…運動、自信なくて…足引っ張ったらごめんね…」
体験入部組が集まって、とりあえず経験者を中心にチームを組もうと話し合った。けど、経験者の何人かが主将を怖がって辞退をしてしまい、未経験者がチームに組まれることになった。経験者四人、未経験者一人。未経験者の、隣のクラスの島津さんは、おっとり系女子で申し訳なさげに俯いている。
「失敗したっていいんだよ!みんな最初から何でもできるわけじゃないしさ。私バスケしたことあるけど、中学は剣道部だったからね?」
「えっそうだったの?」
「あー…剣道部廃部って聞いたわ」
「そうなんだよ!んで今色んな部活に体験入部しててね、バスケ部も楽しみにして来たんだけど、何故か主将に嫌われておる。解せぬ」
「わ、私のせいなの…!ごめんなさい!」
体験入部組にやってきた竹中さんは、先程の島津さんの様に申し訳なさげに私に頭を下げて来た。急に謝られて私もアワアワしてしまう。竹中さんは少しだけ声を抑えて、こそりと話してくれた。
「軽い雑談のつもりで、その…水瓶さんの話をしたの。赤司君の隣の席で、親しげに話しかけてる、って…主将、赤司君の大ファンだったみたいで…」
「oh…ていうか、赤司ってそんなに有名だったんだね…キセキの世代とか初めて聞いたよ…」
「えっ?!水瓶さん、東京の中学に通ってたんだよね?!」
「うん…まあ剣道部だったし…バスケ部の事情全然知らなかったから…」
それに、兄貴の名前の方が私的に有名だったから…。とは伏せておく。京都では平穏に生きていくのだ。早速平穏じゃないけど。
体験入部組と竹中さんは、遠い目をする私を見てふふっと笑った。
「赤司君に媚びるとか、水瓶さんのキャラじゃないよね。私、軽率に悪口紛いのこと言ってた。本当にごめんなさい!」
「私も厄介な事に巻き込まれたって思ってたけど、これはこれで面白そう。水瓶さん、レギュラーから点取ろうね!」
「わ、私も頑張るっ!」
私も、私も、とみんなが口々にやる気を出していく。なんだかよくわかんないけど、みんながやる気を出したならやるべきことは一つだ。
「レギュラー倒して祝杯あげるぞみんな!!」
「目標高くない?!」
そして始まるレギュラーとの試合。結果はまあ、惨敗だ。それは仕方がない。相手は練習を積んで実践経験もあるレギュラーで、こちらは即席チームだ。各々の力が強くても、どうしても連携や経験の差が出てくる。それに、向こうも未経験者を狙うのが良いとすぐに判断して、島津さんがボールを持った瞬間に一切の遠慮もなくスティールしてくる。
「わ、私、ほんとに、役に立たなくて、ごめんなさい…っ」
島津さんは息を切らしながら私に涙声で謝ってくる。
試合だから、隙をついていくのは全然悪くない。悪くないんだけど、バスケを始めてみたいってワクワクしながら体験入部に来た子に、この仕打ちはないだろう。いくらなんでも、こんなの八つ当たりだ。その原因が私なら、私がこの場からいなくなるのが、一番良いんだろうけど、ここで試合を投げ出して立ち去ったらみんなに迷惑がかかるし、なにより悔しい。
「…島津さん、スポーツはね、やっぱ楽しんでやるのが一番だと思うんだ」
「えっ?」
「次ボール来たら、私にパスして。絶対にシュート決めてみせるから。ゴールから離れてても全然構わないから、ね!」
疑問符を浮かべつつも、島津さんが頷いたのを見て私は少し距離を取る。いつも何かしらスポーツ対決をする兄貴相手に、バスケで一番点が取れる方法をこの場でするために。
「水瓶さんっ」
島津さんがボールを持つと、主将がそのボールを奪おうと手を伸ばす。けど、私にパスをする、という約束を果たそうと島津さんが精一杯の力で私の元へボールを届けてくれた。なら今度は、私が約束を守る番だ!
ほぼ自軍ゴールの近くにいた私にパスが来たのを見て、主将が「やっぱり素人ね」と勝ちを確信したように笑っていた。目が合ったので、私はにんまり笑ってみせた。そして、その場でシュートの構えで飛ぶ。
スパン、と、リングに当たることなくゴールに入ったボールの転がる音が、静まり返った体育館に響き渡る。そしてハッと時間に気付いた審判が試合終了の笛を鳴らした。
「反対側のコートから、3Pなんて」
主将の唖然とする声。私はそんな主将に近づいて、ペコリと頭を下げた。
「試合負けたのは悔しいですけど、すごく楽しかったです!ありがとうございました!」
「え、あ…」
「でも、お願いですから、本当にバスケがしたい人達に嫌な思いをさせるようなことは、やめてください。いや私も本当にバスケしたかった勢ですけどね!」
私のマシンガントークに主将は言葉をなくしていた。けれど、入部はもう見込めないから、せめて言いたいことは言っておこう。
「あと、赤司のファンだって人のことも過激派以外は寛容にみてあげて欲しいです。好きな人がいるって素敵じゃないですか。あと赤司争奪戦待ってます。男女含めた争奪戦求む。赤司は俺の嫁だぜ!!」
「…ん?」
「ゲフゲフ…つい本音が…。とりあえず、なんかご迷惑おかけしたのでこれで失礼します!お邪魔しましたー!」
「あっ、ちょっと!」
主将の止める声も聞かず、私は驚いた顔の竹中さんや島津さん達にビッ!と謎の敬礼をして体育館を出た。更衣室に向かっていたら、その途中で「おい」と声をかけられて足を止める。柱に寄りかかっていたのは、運動着姿のまゆゆだった。
「まゆゆ!」
「さっきの見てた」
「ぐほう!…いやあの…お見苦しいところを…」
まゆゆに楽しかったらバスケ部入るぞー!なんて言ってたのに、バスケ部の雰囲気を悪くして退散する姿をバッチリ見られてしまった事実に項垂れる。まゆゆに軽蔑されるのは、嫌だな。
次にくる言葉を待っていたら、友達になってくださいと言った時と同じように頭をポフ、とされた。
「あの主将、俺のクラスの奴なんだけど、最近赤司絡みでイライラしてたみたいで周囲も困っててな。最後の3P、スカッとした」
「…ほんと?」
「ああ。お前、バスケ上手いな」
「…ふへへー」
「にやけんな」
バシッと叩かれたけど、口元のニヤケが止まらない。まゆゆに褒められた。嬉しい。主将は私のことを赤司狙いと思ってたけど、私はいつだってまゆゆ狙いなのだ。
「でも、これでもう運動部全部回りきっちゃったよ…どうしよ…」
「…マネージャーは」
「へ?マネージャー?」
「男バス、人数結構多いからマネージャー不足。試合は出れねえけど、あんなシュート決めるくらいだし自主練に付き合ったりとか出来るだろ」
「まゆゆの自主練に付き合ったりとか出来るってこと?!」
「…まあ、そうなる」
ほわああ…と感極まった声を出したら、まゆゆに気持ち悪いと言われてしまった。マネージャー、マネージャーかあ!料理とか裁縫とか好きだし、みんなのサポートをするマネージャーも楽しそうだ。それに、まゆゆの自主練に付き合っても良いと許可が出た。これはなるしかない。いや、なる!
「私マネージャー志願する!!」
「いや、君にはトレーナーになってもらう」
「ふぎゃお?!」
「赤司」
猫のような声をあげて驚く私と、無表情のままで私の背後の人物の名を呼ぶまゆゆ。私も慌てて振り向くと、運動着姿の赤司が真後ろに立っていてまた驚いた。気配なかったけどいつ来たの?!ていうか、トレーナーってなんぞ?!
「おい赤司、トレーナーってどういうことだ?」
「有り体に言えば、レギュラーの練習相手になってもらうんだよ。さっきのシュート、あれはかなり洗練されたものだった。同じことができるとすれば、僕が知る限り真太郎くらいだろう」
「へ、へえ?ちなみにそれって自主練に付き合うのとどうちがうの?」
「君も練習に参加してもらうから、自主練よりはバスケをする時間が長くなる、といえば良いかい?」
「ほう?!」
つまり、試合には出れないけど、バスケ部の練習を同じようにすることができる、ということか!なにそれめっちゃ楽しそう!
「やる!トレーナーになる!」
「監督にはもう伝えてあるから、明日改めて入部届けを持ってくるんだ。ところで」
「ほい?」
「誰が嫁だって?」
「ひい赤司の目が笑ってない!!まゆゆ助けて!!」
「無理」
拝啓、兄貴様。
私、水瓶優姫は、洛山男子バスケ部のトレーナーになりました。