影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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「黛サンッ!!」
葉山の声が聞こえて、ようやくオレはコートに転がってることに気がついた。だが、立ち上がる気力がない。あの瞬間に全身全霊を込めたから、もうガス欠だ。手を上げることすら出来なかった。
勝利を祝う金色のテープと色とりどりの紙吹雪が空を舞っている。
誠凛が悔し涙を流しているのが見える。
洛山が歓声を上げているのが聞こえる。
オレ達は、勝ったらしい。
「ああもおおっ!!黛さんっ!!怪我ない?!ていうか私達やったのよ!!勝ったのよ!!」
「うおおおおっ!!やるじゃねえか!!ナイスマッスルディフェンス!!」
そんな暑苦しいディフェンスをした覚えはないんだが。ていうか実渕、珍しく顔ぐちゃぐちゃに泣いてるな。根武谷も泣いてるし、葉山も泣きながらオレの身体を持ち上げようとしている。
そうか、勝ったのか。
「黛。あそこで追いつくなんて、正直信じられない」
未だ実感の湧かないオレに、赤司がやってきて、ぽつりと言葉を落とした。
「オレもだ」
「けど、そのおかげでオレ達は勝てた。…本当にありがとう」
「…オレだけじゃねーだろ。全員で勝ち取った優勝だろ」
なんだかくさいことを言っている気もするが、赤司は葉山と一緒にオレを支えて立ち上がらせてくれ、「そうだな」と笑った。瞳からは、止まることを知らない涙が流れていた。
ベンチも湧いていて、優姫の声が聞こえないな、と顔を上げたら、声を上げず涙を流しながら、オレ達を見ていた。オレと目が合うと、優姫はくしゃくしゃに笑った。その笑顔を見たら、ああ、本当に勝ったんだな、とやっと実感した。
やっと声を上げて泣き出した優姫はこちらへ走ってきて、加減もしないでオレの腹に飛びつくものだから、赤司と葉山を巻き添えにそのまま床へひっくり返って、全員で笑った。
負けたと思った。
かがみんのアリウープは完全に入ると確信があった。この試合、私達は負けるのだと。
けど、最後の一瞬、私は全身全霊を込めて叫ぶように応援をした。
まゆゆ、と、名前を呼んだ。
その次の瞬間、まゆゆが飛んでいた。かがみんがゴールに押し込もうとしたボールを、どこにそんな力があったのか、勢いよく弾いたのだ。
そのまま床に転んだまゆゆと、試合終了を宣告する笛の音。
かがみんのシュートが入らなかったことで、タイムアップとなり、洛山は逃げ切ることができた。勝ったのだ。
嬉しくて、心臓がうるさいくらい鳴っていて、身体が熱くて、目からはぼろぼろ涙が零れた。
「うあぅ…っまゆゆ…まゆゆぅ…っ」
声がうまく出ない。床に転がったまゆゆにみんなが集まって、泣きながら笑っている。それから赤司と葉山先輩に支えられながら立ち上がったまゆゆが、私を見た。そして、ふわりと微笑んだのだ。
もうダメだ、と私はわんわん泣きながらまゆゆに飛び込んで、みんなを巻き込んでひっくり返った。
「うわああああんっ!!よかった、よかったああああっ!!みんなっ、ほんとにっ、よかったよおおっ!!」
「うわああっ!!やめろよ優姫っそんなに泣かれたら、オレまでもらい泣きすんじゃんーっ!!」
「あんたもう泣いてたでしょっ!!」
「お前らみんな泣いてんだろーがっ!!」
葉山先輩に頬をぐいぐい伸ばされ、実渕先輩がその手を引き剥がしてから頬をさすってくれ、根武谷先輩に頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。
ふと手を見たら、赤司が綺麗な泣き顔で私の両手を包み込むように握っていた。ああ、手が震えてる。
「勝った、勝ったよ、赤司」
「ああ、そうだね」
「もう一人の赤司は、この光景見てる?」
「いや、オレ達の勝利を信じて、眠ったよ。疲れたら休んでいいんだと、言われたから。君が、言ってくれたから」
ぽたりぽたりと、赤司は涙を零す。
そうか、そうだよね。疲れたよね、赤司。起きたら、洛山は優勝したんだよって教えてあげないと。まゆゆが最後、すごかったんだって教えてあげないと。だから、今は。
「おやすみ、赤司。それから、おはよう、赤司」
「…うん、おはよう、水瓶」
泣きながら微笑む赤司は、本当に綺麗だった。
下に押しつぶされたまゆゆが身じろいだので、私は赤司から離れて、ぼやける視界の中震える手で、まゆゆのユニフォームの端を握りしめた。
「まゆゆ、まゆゆ」
「…ああ」
「まゆゆは、バスケ、好き?」
「…好きじゃなきゃ、こんな汗水流して試合になんか出てねえよ」
「うんっ、うん…っ」
ポフポフ、と、いつものように優しく頭を撫でてくれるまゆゆ。ねえ、まゆゆ。
「これからも、私と友達でいてくれる?」
ずっと聞きたくて、聞けなかった。
この試合が終わったら、私とまゆゆの関係はどうなるのだろうと不安で仕方なくて、でも聞いてしまったら本当に終わってしまうような気がして、だから黙っていた。
でもね、まゆゆ。試合が終わって、私を見たあの笑顔に、離れたくないって思ったんだ。
これからも隣で、馬鹿な話をしていたいって思ったんだよ。
一つ瞬きをして、まゆゆはまた笑った。馬鹿だな、って私をたしなめるように、優しく微笑む。
「お前が嫌がっても、終わりになんてしてやらねーよ」
見つけてくれて、ありがとうとまゆゆは私に言ったけど、それはこっちの台詞なんだ。
私の名前を、呼んでくれてありがとう。誰かの妹じゃない、水瓶優姫と友達になってくれて、本当にありがとう。
「うわああああんっ!!まゆゆ好きぃっ、好きだよおおおっ!!」
「…優姫、オレ」
「あっ!整列だって!黛サン立てる?!オレらが支えるから安心して!!」
「…あー…今は怒る気力もねえわ」
わんわん泣く私を樋口先輩が回収にきて、まゆゆはさっきよりもぐったりして葉山先輩に支えられて整列に向かった。
「負けました。赤司君」
挨拶を終えると、未だ涙を流している黒子が赤司に手を差し出した。その手を握り返し、「いや」と赤司も涙ぐみながら返す。
「僕は、負けを感じていたよ。苦しかった。形容しがたい痛みだった。僕は…オレは、これを知らなかったんだ。お前達が教えてくれた。本当にありがとう」
「…黄瀬君が言っていた意味がわかりました。なんだか嫌みを言われている気分です」
「いや、そんなつもりでは」
「わかっています。冗談ですよ。…すごく悔しいけれど、でも、楽しかった。赤司君と、洛山の皆さんと全力を出し切って試合をして、楽しかったです。でも、次は負けません」
「ああ、またやろう。何度だって」
それから、と今度は葉山に支えられてなんとか立っているオレの方を向いた。
「色々言ってすみませんでした、黛さん」
「…別に、気にしてねえよ。お互いさまだろ」
「ふふ、黛さんの言った通りですね」
「えっ、なになに?黛サン、なんて言ったの?」
葉山が食いついて、日向と木吉と話していた実渕と根武谷もこっちを向いている。赤司も隣で首を傾げて、黒子の次の言葉を待っている。まて、やめろ言うな、と止める前に、黒子は微笑んだ。
「洛山は、とても良いチームです」
案の定、そんなこと嬉しいこと言ってくれてたの黛サンっ!!と葉山が耳元で叫んだ。
全ての試合を終えたコートに、上位4校が並んだ。優勝カップを赤司が受け取り、誠凛、秀徳、海常も整列をしている。閉会式を終え、張り詰めていた緊張がほどけたのだろう。途端に、腕が痛み出した。そうだ、私腕、怪我していたんだった。
赤司達が着替えている間に、どうにか痛みを抑えようと外の蛇口までやってきたら、そこでまさかの人物と遭遇した。
「うげっ!灰崎ショーゴくん!」
「くん付けすんな!!」
意外なことに、閉会式まで見ていたようだ。黄瀬君にコテンパンにされて凹んでたと思ったのに、どういう心変わりなのか。ていうか、なんで頬に大きなガーゼを張っているのか。
「顔どしたの?」
「なんでもねーよ。つーかそれ、オレがやったやつだろ」
「そうだよ!!そのおかげでいつも赤司が手加減してくれてたんだなーって実感したわ」
「お前赤司に何されてんの?!」
「鉄拳制裁…?」
「いや、赤司が女に手を上げてるとこなんか見たことねーし…虹村サンじゃねーんだから…」
「虹村さんって、帝光中の時の赤司の前の主将の?」
「ちっ、なんでもねーよ」
「なんでもねえなんでもねえって、なんでもなくないっしょ!!怪我の責任!!とってもらえる?!」
はあ?と首をひねって嫌な顔をする灰崎に、私は包帯と冷却シートを目の前にずいっと差し出した。
「私に謝罪とかもういいから、これ貼るの手伝って」
思ったほど抵抗されず、灰崎は私の隣に座って嫌そうな顔で赤く腫れた腕に冷却シートを貼った。おら、と最後に思い切り叩かれて、驚いた猫のような声が出てしまう。
「いったいわ!!」
「つーかお前やっぱ頭おかしいわ。フツー怪我させたやつに処置手伝わせるか?馬鹿か?」
「なんで数回しか話したことない灰崎にまで馬鹿って言われるのさ…つらい…」
「…お前さ、赤司に何したの」
え?と顔を上げるも、灰崎はくるくる巻いている包帯に視線を落としたままで、いまいち表情が見えなかった。
「試合に勝って、あんなに泣く赤司は初めて見た。お前の手を握って、馬鹿みたいに泣きながら笑ってた。オレの知ってるあいつは、あんな表情一度だってしたことがねえ」
「そりゃ接戦した後だよ。泣くに決まってんじゃん」
「…お前と話してると疲れるわ」
「失礼すぎる」
これでいいだろ、と包帯を巻き終えた灰崎は立ち上がりさっさと去ろうとするから、その曲がった背中に声をかける。
「ちゃんと氷室さんとアレックスさんに謝りなよ!!」
「あーうるせえうるせえ」
「あと!今度一緒にバスケしよ!!」
灰崎の目が見開かれる。私はフンスっと鼻息をならして、ビシッと言ってやった。
「ガス抜き!女の子と遊ぶよりバスケした方が気持ち良いよ!!」
灰崎は一瞬眩しそうに目を細めた。それから、ぐっと拳を握って、私の方へと戻ってくる。あれ、これ殴られる?とうとう間接的ではなく直接やられる?
「携帯出せ」
「え、やだ。壊されそう」
「いいから出せっつってんだろ」
「ぎゃーっ!ポケットに手を突っ込まれた!!」
あっという間に携帯を取られ、勝手に操作をされてしまう。壊されるわけじゃなさそうだけど、なんて手際によさ。これが略奪能力か。
なんて感心していたら、今度はポイッと投げ返された。
「ちょっ」
「暇だったら出てやる」
「えっちょっ待って灰崎!!」
そそくさと離れていく灰崎をもう一度呼び止める。ずっと気になってたから、今聞かないと。
「サボったら虹村サンによく連れ戻されてたって聞いたけど、二人のなれ初めとかぜひ聞かせてほし……えっ全力ダッシュで逃げる、だと?!」
「虹灰について本気出して考えてたんだけど」
「ウィンターカップ優勝後に何考えてんだお前」
着替えを終えて出てきたまゆゆにそう言ったら、今までにないくらいの深い溜息を吐かれた。さっき灰崎とね、と水飲み場での話をしたら目がとんでもなく怖くなってしまったので、即座に謝った。
それから、すでに荷物をまとめて送迎用バスに乗せてあるから、あとは京都へ帰るだけなのだけど。
「今日は本当によくやった。黛をはじめ、三年は今日をもって引退となる。引退式の日程については後日改めて連絡するので、用がない者はなるべく出席するように。それから、今日はこのまま調整用体育館に向かう」
白金監督の言葉に、赤司と私以外の全員が驚いた声を上げる。「水瓶」と監督に呼ばれて、監督、赤司の隣に立てば、まゆゆがまさか、と死んだ魚のような目になったけど、私はニッと笑った。
「今日は体育館を貸し切って、まゆゆのためにパーティーを開きます!!」
「やりやがったー……」
喜ぶ葉山先輩達と、遠い目をしたまゆゆ。けど、どこか楽しそうなまゆゆを見て、私は監督と赤司と笑い合ったのだった。
葉山の声が聞こえて、ようやくオレはコートに転がってることに気がついた。だが、立ち上がる気力がない。あの瞬間に全身全霊を込めたから、もうガス欠だ。手を上げることすら出来なかった。
勝利を祝う金色のテープと色とりどりの紙吹雪が空を舞っている。
誠凛が悔し涙を流しているのが見える。
洛山が歓声を上げているのが聞こえる。
オレ達は、勝ったらしい。
「ああもおおっ!!黛さんっ!!怪我ない?!ていうか私達やったのよ!!勝ったのよ!!」
「うおおおおっ!!やるじゃねえか!!ナイスマッスルディフェンス!!」
そんな暑苦しいディフェンスをした覚えはないんだが。ていうか実渕、珍しく顔ぐちゃぐちゃに泣いてるな。根武谷も泣いてるし、葉山も泣きながらオレの身体を持ち上げようとしている。
そうか、勝ったのか。
「黛。あそこで追いつくなんて、正直信じられない」
未だ実感の湧かないオレに、赤司がやってきて、ぽつりと言葉を落とした。
「オレもだ」
「けど、そのおかげでオレ達は勝てた。…本当にありがとう」
「…オレだけじゃねーだろ。全員で勝ち取った優勝だろ」
なんだかくさいことを言っている気もするが、赤司は葉山と一緒にオレを支えて立ち上がらせてくれ、「そうだな」と笑った。瞳からは、止まることを知らない涙が流れていた。
ベンチも湧いていて、優姫の声が聞こえないな、と顔を上げたら、声を上げず涙を流しながら、オレ達を見ていた。オレと目が合うと、優姫はくしゃくしゃに笑った。その笑顔を見たら、ああ、本当に勝ったんだな、とやっと実感した。
やっと声を上げて泣き出した優姫はこちらへ走ってきて、加減もしないでオレの腹に飛びつくものだから、赤司と葉山を巻き添えにそのまま床へひっくり返って、全員で笑った。
負けたと思った。
かがみんのアリウープは完全に入ると確信があった。この試合、私達は負けるのだと。
けど、最後の一瞬、私は全身全霊を込めて叫ぶように応援をした。
まゆゆ、と、名前を呼んだ。
その次の瞬間、まゆゆが飛んでいた。かがみんがゴールに押し込もうとしたボールを、どこにそんな力があったのか、勢いよく弾いたのだ。
そのまま床に転んだまゆゆと、試合終了を宣告する笛の音。
かがみんのシュートが入らなかったことで、タイムアップとなり、洛山は逃げ切ることができた。勝ったのだ。
嬉しくて、心臓がうるさいくらい鳴っていて、身体が熱くて、目からはぼろぼろ涙が零れた。
「うあぅ…っまゆゆ…まゆゆぅ…っ」
声がうまく出ない。床に転がったまゆゆにみんなが集まって、泣きながら笑っている。それから赤司と葉山先輩に支えられながら立ち上がったまゆゆが、私を見た。そして、ふわりと微笑んだのだ。
もうダメだ、と私はわんわん泣きながらまゆゆに飛び込んで、みんなを巻き込んでひっくり返った。
「うわああああんっ!!よかった、よかったああああっ!!みんなっ、ほんとにっ、よかったよおおっ!!」
「うわああっ!!やめろよ優姫っそんなに泣かれたら、オレまでもらい泣きすんじゃんーっ!!」
「あんたもう泣いてたでしょっ!!」
「お前らみんな泣いてんだろーがっ!!」
葉山先輩に頬をぐいぐい伸ばされ、実渕先輩がその手を引き剥がしてから頬をさすってくれ、根武谷先輩に頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。
ふと手を見たら、赤司が綺麗な泣き顔で私の両手を包み込むように握っていた。ああ、手が震えてる。
「勝った、勝ったよ、赤司」
「ああ、そうだね」
「もう一人の赤司は、この光景見てる?」
「いや、オレ達の勝利を信じて、眠ったよ。疲れたら休んでいいんだと、言われたから。君が、言ってくれたから」
ぽたりぽたりと、赤司は涙を零す。
そうか、そうだよね。疲れたよね、赤司。起きたら、洛山は優勝したんだよって教えてあげないと。まゆゆが最後、すごかったんだって教えてあげないと。だから、今は。
「おやすみ、赤司。それから、おはよう、赤司」
「…うん、おはよう、水瓶」
泣きながら微笑む赤司は、本当に綺麗だった。
下に押しつぶされたまゆゆが身じろいだので、私は赤司から離れて、ぼやける視界の中震える手で、まゆゆのユニフォームの端を握りしめた。
「まゆゆ、まゆゆ」
「…ああ」
「まゆゆは、バスケ、好き?」
「…好きじゃなきゃ、こんな汗水流して試合になんか出てねえよ」
「うんっ、うん…っ」
ポフポフ、と、いつものように優しく頭を撫でてくれるまゆゆ。ねえ、まゆゆ。
「これからも、私と友達でいてくれる?」
ずっと聞きたくて、聞けなかった。
この試合が終わったら、私とまゆゆの関係はどうなるのだろうと不安で仕方なくて、でも聞いてしまったら本当に終わってしまうような気がして、だから黙っていた。
でもね、まゆゆ。試合が終わって、私を見たあの笑顔に、離れたくないって思ったんだ。
これからも隣で、馬鹿な話をしていたいって思ったんだよ。
一つ瞬きをして、まゆゆはまた笑った。馬鹿だな、って私をたしなめるように、優しく微笑む。
「お前が嫌がっても、終わりになんてしてやらねーよ」
見つけてくれて、ありがとうとまゆゆは私に言ったけど、それはこっちの台詞なんだ。
私の名前を、呼んでくれてありがとう。誰かの妹じゃない、水瓶優姫と友達になってくれて、本当にありがとう。
「うわああああんっ!!まゆゆ好きぃっ、好きだよおおおっ!!」
「…優姫、オレ」
「あっ!整列だって!黛サン立てる?!オレらが支えるから安心して!!」
「…あー…今は怒る気力もねえわ」
わんわん泣く私を樋口先輩が回収にきて、まゆゆはさっきよりもぐったりして葉山先輩に支えられて整列に向かった。
「負けました。赤司君」
挨拶を終えると、未だ涙を流している黒子が赤司に手を差し出した。その手を握り返し、「いや」と赤司も涙ぐみながら返す。
「僕は、負けを感じていたよ。苦しかった。形容しがたい痛みだった。僕は…オレは、これを知らなかったんだ。お前達が教えてくれた。本当にありがとう」
「…黄瀬君が言っていた意味がわかりました。なんだか嫌みを言われている気分です」
「いや、そんなつもりでは」
「わかっています。冗談ですよ。…すごく悔しいけれど、でも、楽しかった。赤司君と、洛山の皆さんと全力を出し切って試合をして、楽しかったです。でも、次は負けません」
「ああ、またやろう。何度だって」
それから、と今度は葉山に支えられてなんとか立っているオレの方を向いた。
「色々言ってすみませんでした、黛さん」
「…別に、気にしてねえよ。お互いさまだろ」
「ふふ、黛さんの言った通りですね」
「えっ、なになに?黛サン、なんて言ったの?」
葉山が食いついて、日向と木吉と話していた実渕と根武谷もこっちを向いている。赤司も隣で首を傾げて、黒子の次の言葉を待っている。まて、やめろ言うな、と止める前に、黒子は微笑んだ。
「洛山は、とても良いチームです」
案の定、そんなこと嬉しいこと言ってくれてたの黛サンっ!!と葉山が耳元で叫んだ。
全ての試合を終えたコートに、上位4校が並んだ。優勝カップを赤司が受け取り、誠凛、秀徳、海常も整列をしている。閉会式を終え、張り詰めていた緊張がほどけたのだろう。途端に、腕が痛み出した。そうだ、私腕、怪我していたんだった。
赤司達が着替えている間に、どうにか痛みを抑えようと外の蛇口までやってきたら、そこでまさかの人物と遭遇した。
「うげっ!灰崎ショーゴくん!」
「くん付けすんな!!」
意外なことに、閉会式まで見ていたようだ。黄瀬君にコテンパンにされて凹んでたと思ったのに、どういう心変わりなのか。ていうか、なんで頬に大きなガーゼを張っているのか。
「顔どしたの?」
「なんでもねーよ。つーかそれ、オレがやったやつだろ」
「そうだよ!!そのおかげでいつも赤司が手加減してくれてたんだなーって実感したわ」
「お前赤司に何されてんの?!」
「鉄拳制裁…?」
「いや、赤司が女に手を上げてるとこなんか見たことねーし…虹村サンじゃねーんだから…」
「虹村さんって、帝光中の時の赤司の前の主将の?」
「ちっ、なんでもねーよ」
「なんでもねえなんでもねえって、なんでもなくないっしょ!!怪我の責任!!とってもらえる?!」
はあ?と首をひねって嫌な顔をする灰崎に、私は包帯と冷却シートを目の前にずいっと差し出した。
「私に謝罪とかもういいから、これ貼るの手伝って」
思ったほど抵抗されず、灰崎は私の隣に座って嫌そうな顔で赤く腫れた腕に冷却シートを貼った。おら、と最後に思い切り叩かれて、驚いた猫のような声が出てしまう。
「いったいわ!!」
「つーかお前やっぱ頭おかしいわ。フツー怪我させたやつに処置手伝わせるか?馬鹿か?」
「なんで数回しか話したことない灰崎にまで馬鹿って言われるのさ…つらい…」
「…お前さ、赤司に何したの」
え?と顔を上げるも、灰崎はくるくる巻いている包帯に視線を落としたままで、いまいち表情が見えなかった。
「試合に勝って、あんなに泣く赤司は初めて見た。お前の手を握って、馬鹿みたいに泣きながら笑ってた。オレの知ってるあいつは、あんな表情一度だってしたことがねえ」
「そりゃ接戦した後だよ。泣くに決まってんじゃん」
「…お前と話してると疲れるわ」
「失礼すぎる」
これでいいだろ、と包帯を巻き終えた灰崎は立ち上がりさっさと去ろうとするから、その曲がった背中に声をかける。
「ちゃんと氷室さんとアレックスさんに謝りなよ!!」
「あーうるせえうるせえ」
「あと!今度一緒にバスケしよ!!」
灰崎の目が見開かれる。私はフンスっと鼻息をならして、ビシッと言ってやった。
「ガス抜き!女の子と遊ぶよりバスケした方が気持ち良いよ!!」
灰崎は一瞬眩しそうに目を細めた。それから、ぐっと拳を握って、私の方へと戻ってくる。あれ、これ殴られる?とうとう間接的ではなく直接やられる?
「携帯出せ」
「え、やだ。壊されそう」
「いいから出せっつってんだろ」
「ぎゃーっ!ポケットに手を突っ込まれた!!」
あっという間に携帯を取られ、勝手に操作をされてしまう。壊されるわけじゃなさそうだけど、なんて手際によさ。これが略奪能力か。
なんて感心していたら、今度はポイッと投げ返された。
「ちょっ」
「暇だったら出てやる」
「えっちょっ待って灰崎!!」
そそくさと離れていく灰崎をもう一度呼び止める。ずっと気になってたから、今聞かないと。
「サボったら虹村サンによく連れ戻されてたって聞いたけど、二人のなれ初めとかぜひ聞かせてほし……えっ全力ダッシュで逃げる、だと?!」
「虹灰について本気出して考えてたんだけど」
「ウィンターカップ優勝後に何考えてんだお前」
着替えを終えて出てきたまゆゆにそう言ったら、今までにないくらいの深い溜息を吐かれた。さっき灰崎とね、と水飲み場での話をしたら目がとんでもなく怖くなってしまったので、即座に謝った。
それから、すでに荷物をまとめて送迎用バスに乗せてあるから、あとは京都へ帰るだけなのだけど。
「今日は本当によくやった。黛をはじめ、三年は今日をもって引退となる。引退式の日程については後日改めて連絡するので、用がない者はなるべく出席するように。それから、今日はこのまま調整用体育館に向かう」
白金監督の言葉に、赤司と私以外の全員が驚いた声を上げる。「水瓶」と監督に呼ばれて、監督、赤司の隣に立てば、まゆゆがまさか、と死んだ魚のような目になったけど、私はニッと笑った。
「今日は体育館を貸し切って、まゆゆのためにパーティーを開きます!!」
「やりやがったー……」
喜ぶ葉山先輩達と、遠い目をしたまゆゆ。けど、どこか楽しそうなまゆゆを見て、私は監督と赤司と笑い合ったのだった。