影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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「行くぞぉ誠凛ッ!!ファイ!!おお!!」
第3Q開始、コートの中へ入る前に誠凛の気合いの入ったかけ声が聞こえた。観客もその迫力にざわついている。
「いいわね、最後まで諦めないチームって」
「こっちも気を抜けねーな」
「もとより抜く気はない」
実渕先輩や根武谷先輩が感心したように笑っていた。あんな気合いを見たら、私達も気を抜くことなどできないし、赤司の言う通りそんなつもりはない。
私はコートの中に入るまゆゆの背中に、コツン、と拳をあてた。
「まゆゆ……」
「…何してんだよ」
「まゆゆに!私の気合いを送ってます!!うおおお…伝われ私の熱意~っ!!」
むむむっと念を込めるようにまゆゆの背中をぐりぐりすると、その背中が揺れているのが分かった。顔を上げたら、やはりまゆゆは笑っている。
「きーっ!また笑う!!赤司といいまゆゆといい、なんか笑い上戸になってない?!」
「もしそうだとしても、それはどっかの誰かのせいだな」
「はい?」
くっく、とまゆゆは笑って私の頭を撫でてから、コートの中へ入っていった。なんかまゆゆ、今日すごく頭撫でてくる。機嫌良いのかな。
「ところで誰のせいで笑い上戸になったんだと思います?まさか私じゃないですよね?ちょっと樋口先輩、笑いすぎですけど?!」
誠凛は、焦っていたのだろう。勝ちたいその一心で。
実渕先輩の技でファウルを取られた誠凛の主将、日向さんは審判に詰め寄り四つ目のファウルを取られ、ベンチへ交代を余儀なくされた。
勝ちたい気持ちが分かるからこそ、少し胸が痛い。でも、同情はできない。ここで相手を気遣っていられるほど、うちには余裕はない。誠凛は、本当に強いチームだから。
その後、実渕先輩がフリースローを一本だけ外してしまったけど、まだこちらが優勢だ。
なのに、なんでこんなに不安なんだろう。何が不安なんだろう。
その不安の正体は、誠凛が選手交代をしてきた時にやっとわかった。
「まさか、出てくるなんて」
実渕がそう言って、誠凛が選手交代をする様子を見ている。オレは、ああ、とうとうか、なんて思いながらそいつを見ていた。
「全員、分かっているな。テツヤが出てきたということは、千尋が狙われている可能性が高い。千尋のフォローは小太郎、任せたよ」
「おっけー!黛サンのヒーロー役ってことな!」
「あら、それあとで優姫ちゃんに報告しておくわね」
「やめろオレが死ぬ」
観客はざわめくも、オレ達はミーティングですでに想定していたため落ち着いていた。赤司はオレ達に指示を飛ばし、黒子の前に立つ。
「よく出てきたね、テツヤ」
「はい。結果がどうだろうと最後の最後まで、僕は逃げません…!」
「…なるほど」
それだけ返答して、黒子から離れる赤司を、ただジッと見ていた。あいつは、必要以上に誰かを貶めることを言わなくなった、気がする。それは、誠意なのか、それとも無関心なのか。
そして黒子はオレを見る。わかっていたことだが、いざその場面がくると心臓が痛い。
わかっている、わかっていた。
空いているから。隙がオレにだけぽっかり空いていて、シュートを決めやすいから。
わかっていても、オレはシュートを辞められない。点を入れられるなら、オレはそれを選ばざるを得ない。だってオレは、選手だ。このチームで勝つために、オレが気持ちよくなるために。
オレなんかと友達になってくれた、あの光のために。
「以前高尾君に言われたことを思い出します」
「…秀徳の高尾?」
「はい。幻のシックスマンという呼び名、悪いんですが……まだ譲る気はありません」
そう言った黒子は、オレの前から姿を消し、葉山が根武谷に出したパスを止めた。
誠凛のカウンターに全員が走る。全員が、黒子を見失っていたのだ。
火神に点を入れられ、いざオレにボールが渡れば観客の声が耳に入った。オレの名前を口にしている観客達。一気に集まる視線。やはり、黒子。
「上書きしたな、オレに…ッ!!」
『もし自身の影の機能が失われていて、近くに自分と同タイプの選手がいて、しかも基本性能が上だったとしたら。それって、自分よりもそっちの方が目立つんじゃないか、って考えると思わない?』
ハッ、と笑いが出る。葉山がオレのカバーに走ってくるのも見えている。
赤司が誠凛に渡ってしまったボールをスティールしているのも見えている。
ゾーンに入った火神が、オレ達を崩そうとしているのも、わかってんだよ。
「っ!」
火神のゾーン状態での守備範囲の広さに、赤司が攻めあぐねているのが見えてオレは走る。まだ上書きは完成していない。まだオレはこのスタイルで戦える。
まだ死んでいない影の状態で、根武谷にボールを流し点を決めて貰う。だが、もう誠凛の狙いは黒子の完全な上書き。
またオレのところにボールが来て、周りを見ればパスコースをなくされていた。目の前には、オレが抜いても抜かなくても構わないと言わんばかりに黒子がディフェンスしている。
抜かなければいいとわかっていたのに、オレは、一瞬の隙で思わず抜いてしまった。
そのままシュートモーションに入れば、火神がオレの投げたボールをたたき落とす。
上書きが、完成された。オレはもう、影ではなくなったのだ。
「洛山、タイムアウトです」
「やはり、こうなったな」
赤司の言葉は重い。わかっていてみすみす罠にはまったオレの失態だ。
わかっていたのに、オレは影に徹することは出来なかった。
優姫はなんて言うだろうか。だから言ったじゃないか、と怒るだろうか。お前はオレに、なんて言う?
汗を拭いて顔を上げたら、優姫は笑っていた。
「つまりこれで!まゆゆ頑張れって堂々と応援できるってわけだね!!」
「……は」
優姫の嬉しげな声に、赤司が深い溜息を吐いた。
「こちらの劣勢を喜んでどうするんだ」
「あっそうか!!いや違うんだよまゆゆ!そりゃ上書きされたの悔しいけど、でもまゆゆが目立ってるんなら私もうまゆゆの応援我慢しなくていいんだって思ったらつい…!うわああん変な意味じゃないんだよおお!!」
「…ぷっ」
あっはっは!!と大笑いしたのは葉山だ。隣で実渕も口に手を当ててクスクスと笑っている。根武谷もおかしそうに肩を揺らしていた。
「黛サン、オレヒーローやるって言ったのに、フォロー遅れてゴメンなさい!」
「あの子スクリーン上手いのよ…私達もしてやられたわ」
「んで、次はどうするって言ってたっけか、優姫?」
「ああ、はい!次はアレやりましょうよ!シュッとしてバシュッと3P!どう赤司?」
「最初からそのつもりだ。向こうは千尋にボールが来ても無力化できたと考えているだろう。だからこそ、ここでスカイダイレクトスリーを決める」
「え、なにその名前かっこいい…いつの間にそんなかっこいい名前つけたの?!」
「シュート名はあるのかと聞いたら真太郎が高尾につけられたと恥ずかしそうに言っていたよ」
「いろんな萌えが一気にきてしんどい。ところでまゆゆのヒーロー役の話詳しく聞かせてくれます葉山先輩」
いつもと変わらずわーわー騒ぐ五人を見ていたら、オレもなんだかおかしくなって笑えてきた。あれだけクールダウンをと意気込んでいたのにこのざまだ。実際にされてしまったらオレのメンタルは一気にすり減ってどん底だったのに。
こいつらは、まだ笑ってくれるのか。まだオレを、このチームに入れてくれるのか。
オレは立ち上がって、全員に頭を下げる。
「悪かった。もう一度オレにチャンスをくれ。ダメならオレはもう下げてくれていい」
「下げたりするものか。お前の力は必要だ、洛山の、僕達の勝利のために」
赤司は当然だとふんぞり返っていて、葉山は気合いを入れ直すように拳を握って強く頷いていて、実渕と根武谷は笑っていた。優姫はすでにオレの名前を大声で連呼しているし、控えるとかそういうことはやめたようだ。
「そうだよまゆゆ!こういうピンチこそ、みんなで頑張って乗り越えるもんだよ!私、めちゃくちゃ応援するからね!言っておくけど他の観客より私の方が応援してるからね!もちろんまゆゆの良さに気付いた客席には褒めてやらなくもないけどね!!」
「火神がゾーンに入っている間、僕の動きは制限されそうだ。だが、最初の連携は僕が決めたい。千尋、できるな?」
「ああ」
「あれ?私スルーな感じ?ねえ黛赤だけで会話とかやめよ?いや本音はやめてほしくないしもっとやれって思ってるけどね!!黛赤さいこ…ふぎゃおうっ?!タオル顔面に投げつけるのやめて!!」
「懲りないねー優姫は」
試合が再開して、黒子は影の特性を生かして木吉にパスを繰り出す。それを赤司が止めて、根武谷がボールを持てばまた「マッスルドリブル」だとか暑苦しい名前で押し返している。
黒子が復活したことで、オフェンス力が格段に上がっている。火神の二度目のゾーンも、守備範囲の広さで赤司を多少怯ませた。ゾーンに限ってはタイムリミットがある。だが、それを待っていても仕方がない。それに、オレもやらなくてはいけない。
「黒子」
オレの前に立つ、幻のシックスマンに言いたかったことがあった。ボールを持ったオレに、黒子は「何ですか」と律儀に返事をした。
「お前はオレに言ったな。幻のシックスマンの呼び名、譲る気はないと」
「はい、言いました」
「ならオレも言っておく。元からそんな呼び名、奪ったつもりもねえし、いらねえよ」
黒子が目を見開く。オレは、幻のシックスマンにはなれない。オレは、ずっと影に徹することはできない。オレは、自分が気持ちの良いプレイがしたい。パスが通れば気持ちが良いし、シュートが入れば気持ちが良い。そんなプレイスタイルのオレが、どうして幻のシックスマンになれようか。
『千尋のまま、プレイしてくれたらいいよ』
『まゆゆと、出会えてよかった。あの日、私と出会ってくれて、ありがとう』
オレは、ただの黛千尋でいい。
「オレはただ、あの光に憧れただけのちっぽけな影だ」
火神の守備範囲から逃れた赤司が、シュートモーションに入る。手にはボールなどなく、空のまま。
それを見た誠凛が、準決の秀徳の試合の緑間を思い浮かべていただろう。だがオレ達にとっては違う。あのシュートは、優姫が深夜アニメに感化されて思いついた技で、オレ達の特訓の成果だ。黒子を避けると、そのカバーに実渕が入りオレへの追撃をくい止める。オレは、練習の通り赤司の空の手へボールを投げ込んだ。受け取った赤司がフッと笑う。
「上出来だ、千尋」
スパンッと、赤司のスリーが綺麗に決まった。
湧く客席とは裏腹に、唖然とする誠凛の選手達。オレを見る黒子の目も、驚愕に見開いたままだった。
「アレは、緑間君の…。どうして貴方達がそれを…」
「オレとしてはそっちの方が心外だ。この技も、スカイダイレクトスリーなんて洒落た名前なんかじゃなかったからな」
「シュッとしてバシュッと3Pだよねー黛サン!」
「やっぱこの名前だせえな」
葉山が名前を口にすると、近くにいた根武谷が深く賛同した。優姫が聞いたら泣くぞ。
オレは未だ呆然と立ち尽くす黒子に、もう一度向き直る。
「お前達も良いチームだが、このチームだって捨てたもんじゃないぜ」
まゆゆの影が通用しなくなったとき、嫌な予感が当たったと胸が痛かった。
予想していたことだったし、その後の策もちゃんと考えてあった。それでも、痛かった。まゆゆが傷ついていないか、それだけが心配で、苦しくて、監督がタイムアウトを取った時、戻ってくるまゆゆにどんな顔をすればいいかわからなかった。
けど、赤司達の顔を見て、その不安が吹き飛んだ。誰一人、諦めてはいなかったのだ。
まゆゆのことを、責めるような顔をしていなかった。ああ、そうだ、仲間なんだ。私達は、全員で洛山バスケ部なんだ。
だから、まゆゆが傷ついたなら、私達が助けるんだ。
「まゆゆーっ!!頑張れまゆゆーっ!!」
まゆゆと赤司のシュッとしてバシュッと3Pが決まり、やったーっと樋口先輩とハイタッチしてはしゃいだ。練習の時に何度も見たその光景を、試合中に見ると感動も倍になる。
ふと、なぜか視線を感じて客席を見たら、秀徳高校が身支度を終えて観戦に来たようで集まっているのが見えた。そして、何故か私を見ている。主にみどっちが。もしかして、あの技をパクられたとか思ってるのかな?!いやいや違うんだよ?!たまたま同じ技を思いついただけで、ほんとパクったとかではなくて、えーと、とりあえず手を振っておこう!みどっちに手を振ってみたら、何故かびくっとされた。その反応は酷い。でも高尾が代わりに手を振り返してくれたから許そう。赤司に制裁くらってたときに大笑いしたことは許してないけどね!!
その後、実渕先輩の『虚空』が、誠凛の小金井さんに止められそうになったりしたけど、なんとか20点の差をつけたまま第3Qを終えることができた。
第3Q後半、誠凛に押され気味だった。黒子っち復活から、かがみんのゾーンによる赤司封じ、途中葉山先輩と接戦をした伊月さん、実渕先輩の技に飛びつくことが出来た小金井さん。
「あと10分だ。慌てることはない」
乱れかけた気持ちを、白金監督が鼓舞する。そうだ、点差もある。洛山も死んでいない。このまま、攻めていけばいい。
けど、何でだろう。まゆゆのことの心配はなくなったのに、今度は違うことが気になっている。
どうして、私にいつも通り応援していいと言って笑った赤司の顔を思い出しているんだろう。
「玲央、むこうは日向が出てくるようだが、決して油断はするな。永吉、木吉の眼はまだ死んでいない。玲央同様気を引き締めろ。小太郎、いつまでおとなしくしているtもりだ。まだ点を取って貰うぞ。千尋、次は玲央と連携で行く。タイミングは状況を見て判断してくれ」
赤司の様子が、いつもとどこか違う気がするのは何でだろう。
「やってくれたわね、順平ちゃん。マジで潰すわ」
「こっちの台詞だ!そんでちゃん付けで下の名前呼ぶな!」
日向にスリーを止められ、根武谷はリミッターを外した木吉に押されつつあり、赤司も火神相手に攻撃できていない。これは、マジで誠凛の底力が牙をむき始めたか。
赤司も必要以上に何も言わなくなってきたのは、わりとやばい状況だからなのか。
誠凛に4連続点を入れられてから、赤司の違和感はどんどん増していく。赤司、お前今何を考えているんだ。今、お前はどんな表情をしている?
「赤司、お前」
また一人で、戦おうとしていないか?
第3Q開始、コートの中へ入る前に誠凛の気合いの入ったかけ声が聞こえた。観客もその迫力にざわついている。
「いいわね、最後まで諦めないチームって」
「こっちも気を抜けねーな」
「もとより抜く気はない」
実渕先輩や根武谷先輩が感心したように笑っていた。あんな気合いを見たら、私達も気を抜くことなどできないし、赤司の言う通りそんなつもりはない。
私はコートの中に入るまゆゆの背中に、コツン、と拳をあてた。
「まゆゆ……」
「…何してんだよ」
「まゆゆに!私の気合いを送ってます!!うおおお…伝われ私の熱意~っ!!」
むむむっと念を込めるようにまゆゆの背中をぐりぐりすると、その背中が揺れているのが分かった。顔を上げたら、やはりまゆゆは笑っている。
「きーっ!また笑う!!赤司といいまゆゆといい、なんか笑い上戸になってない?!」
「もしそうだとしても、それはどっかの誰かのせいだな」
「はい?」
くっく、とまゆゆは笑って私の頭を撫でてから、コートの中へ入っていった。なんかまゆゆ、今日すごく頭撫でてくる。機嫌良いのかな。
「ところで誰のせいで笑い上戸になったんだと思います?まさか私じゃないですよね?ちょっと樋口先輩、笑いすぎですけど?!」
誠凛は、焦っていたのだろう。勝ちたいその一心で。
実渕先輩の技でファウルを取られた誠凛の主将、日向さんは審判に詰め寄り四つ目のファウルを取られ、ベンチへ交代を余儀なくされた。
勝ちたい気持ちが分かるからこそ、少し胸が痛い。でも、同情はできない。ここで相手を気遣っていられるほど、うちには余裕はない。誠凛は、本当に強いチームだから。
その後、実渕先輩がフリースローを一本だけ外してしまったけど、まだこちらが優勢だ。
なのに、なんでこんなに不安なんだろう。何が不安なんだろう。
その不安の正体は、誠凛が選手交代をしてきた時にやっとわかった。
「まさか、出てくるなんて」
実渕がそう言って、誠凛が選手交代をする様子を見ている。オレは、ああ、とうとうか、なんて思いながらそいつを見ていた。
「全員、分かっているな。テツヤが出てきたということは、千尋が狙われている可能性が高い。千尋のフォローは小太郎、任せたよ」
「おっけー!黛サンのヒーロー役ってことな!」
「あら、それあとで優姫ちゃんに報告しておくわね」
「やめろオレが死ぬ」
観客はざわめくも、オレ達はミーティングですでに想定していたため落ち着いていた。赤司はオレ達に指示を飛ばし、黒子の前に立つ。
「よく出てきたね、テツヤ」
「はい。結果がどうだろうと最後の最後まで、僕は逃げません…!」
「…なるほど」
それだけ返答して、黒子から離れる赤司を、ただジッと見ていた。あいつは、必要以上に誰かを貶めることを言わなくなった、気がする。それは、誠意なのか、それとも無関心なのか。
そして黒子はオレを見る。わかっていたことだが、いざその場面がくると心臓が痛い。
わかっている、わかっていた。
空いているから。隙がオレにだけぽっかり空いていて、シュートを決めやすいから。
わかっていても、オレはシュートを辞められない。点を入れられるなら、オレはそれを選ばざるを得ない。だってオレは、選手だ。このチームで勝つために、オレが気持ちよくなるために。
オレなんかと友達になってくれた、あの光のために。
「以前高尾君に言われたことを思い出します」
「…秀徳の高尾?」
「はい。幻のシックスマンという呼び名、悪いんですが……まだ譲る気はありません」
そう言った黒子は、オレの前から姿を消し、葉山が根武谷に出したパスを止めた。
誠凛のカウンターに全員が走る。全員が、黒子を見失っていたのだ。
火神に点を入れられ、いざオレにボールが渡れば観客の声が耳に入った。オレの名前を口にしている観客達。一気に集まる視線。やはり、黒子。
「上書きしたな、オレに…ッ!!」
『もし自身の影の機能が失われていて、近くに自分と同タイプの選手がいて、しかも基本性能が上だったとしたら。それって、自分よりもそっちの方が目立つんじゃないか、って考えると思わない?』
ハッ、と笑いが出る。葉山がオレのカバーに走ってくるのも見えている。
赤司が誠凛に渡ってしまったボールをスティールしているのも見えている。
ゾーンに入った火神が、オレ達を崩そうとしているのも、わかってんだよ。
「っ!」
火神のゾーン状態での守備範囲の広さに、赤司が攻めあぐねているのが見えてオレは走る。まだ上書きは完成していない。まだオレはこのスタイルで戦える。
まだ死んでいない影の状態で、根武谷にボールを流し点を決めて貰う。だが、もう誠凛の狙いは黒子の完全な上書き。
またオレのところにボールが来て、周りを見ればパスコースをなくされていた。目の前には、オレが抜いても抜かなくても構わないと言わんばかりに黒子がディフェンスしている。
抜かなければいいとわかっていたのに、オレは、一瞬の隙で思わず抜いてしまった。
そのままシュートモーションに入れば、火神がオレの投げたボールをたたき落とす。
上書きが、完成された。オレはもう、影ではなくなったのだ。
「洛山、タイムアウトです」
「やはり、こうなったな」
赤司の言葉は重い。わかっていてみすみす罠にはまったオレの失態だ。
わかっていたのに、オレは影に徹することは出来なかった。
優姫はなんて言うだろうか。だから言ったじゃないか、と怒るだろうか。お前はオレに、なんて言う?
汗を拭いて顔を上げたら、優姫は笑っていた。
「つまりこれで!まゆゆ頑張れって堂々と応援できるってわけだね!!」
「……は」
優姫の嬉しげな声に、赤司が深い溜息を吐いた。
「こちらの劣勢を喜んでどうするんだ」
「あっそうか!!いや違うんだよまゆゆ!そりゃ上書きされたの悔しいけど、でもまゆゆが目立ってるんなら私もうまゆゆの応援我慢しなくていいんだって思ったらつい…!うわああん変な意味じゃないんだよおお!!」
「…ぷっ」
あっはっは!!と大笑いしたのは葉山だ。隣で実渕も口に手を当ててクスクスと笑っている。根武谷もおかしそうに肩を揺らしていた。
「黛サン、オレヒーローやるって言ったのに、フォロー遅れてゴメンなさい!」
「あの子スクリーン上手いのよ…私達もしてやられたわ」
「んで、次はどうするって言ってたっけか、優姫?」
「ああ、はい!次はアレやりましょうよ!シュッとしてバシュッと3P!どう赤司?」
「最初からそのつもりだ。向こうは千尋にボールが来ても無力化できたと考えているだろう。だからこそ、ここでスカイダイレクトスリーを決める」
「え、なにその名前かっこいい…いつの間にそんなかっこいい名前つけたの?!」
「シュート名はあるのかと聞いたら真太郎が高尾につけられたと恥ずかしそうに言っていたよ」
「いろんな萌えが一気にきてしんどい。ところでまゆゆのヒーロー役の話詳しく聞かせてくれます葉山先輩」
いつもと変わらずわーわー騒ぐ五人を見ていたら、オレもなんだかおかしくなって笑えてきた。あれだけクールダウンをと意気込んでいたのにこのざまだ。実際にされてしまったらオレのメンタルは一気にすり減ってどん底だったのに。
こいつらは、まだ笑ってくれるのか。まだオレを、このチームに入れてくれるのか。
オレは立ち上がって、全員に頭を下げる。
「悪かった。もう一度オレにチャンスをくれ。ダメならオレはもう下げてくれていい」
「下げたりするものか。お前の力は必要だ、洛山の、僕達の勝利のために」
赤司は当然だとふんぞり返っていて、葉山は気合いを入れ直すように拳を握って強く頷いていて、実渕と根武谷は笑っていた。優姫はすでにオレの名前を大声で連呼しているし、控えるとかそういうことはやめたようだ。
「そうだよまゆゆ!こういうピンチこそ、みんなで頑張って乗り越えるもんだよ!私、めちゃくちゃ応援するからね!言っておくけど他の観客より私の方が応援してるからね!もちろんまゆゆの良さに気付いた客席には褒めてやらなくもないけどね!!」
「火神がゾーンに入っている間、僕の動きは制限されそうだ。だが、最初の連携は僕が決めたい。千尋、できるな?」
「ああ」
「あれ?私スルーな感じ?ねえ黛赤だけで会話とかやめよ?いや本音はやめてほしくないしもっとやれって思ってるけどね!!黛赤さいこ…ふぎゃおうっ?!タオル顔面に投げつけるのやめて!!」
「懲りないねー優姫は」
試合が再開して、黒子は影の特性を生かして木吉にパスを繰り出す。それを赤司が止めて、根武谷がボールを持てばまた「マッスルドリブル」だとか暑苦しい名前で押し返している。
黒子が復活したことで、オフェンス力が格段に上がっている。火神の二度目のゾーンも、守備範囲の広さで赤司を多少怯ませた。ゾーンに限ってはタイムリミットがある。だが、それを待っていても仕方がない。それに、オレもやらなくてはいけない。
「黒子」
オレの前に立つ、幻のシックスマンに言いたかったことがあった。ボールを持ったオレに、黒子は「何ですか」と律儀に返事をした。
「お前はオレに言ったな。幻のシックスマンの呼び名、譲る気はないと」
「はい、言いました」
「ならオレも言っておく。元からそんな呼び名、奪ったつもりもねえし、いらねえよ」
黒子が目を見開く。オレは、幻のシックスマンにはなれない。オレは、ずっと影に徹することはできない。オレは、自分が気持ちの良いプレイがしたい。パスが通れば気持ちが良いし、シュートが入れば気持ちが良い。そんなプレイスタイルのオレが、どうして幻のシックスマンになれようか。
『千尋のまま、プレイしてくれたらいいよ』
『まゆゆと、出会えてよかった。あの日、私と出会ってくれて、ありがとう』
オレは、ただの黛千尋でいい。
「オレはただ、あの光に憧れただけのちっぽけな影だ」
火神の守備範囲から逃れた赤司が、シュートモーションに入る。手にはボールなどなく、空のまま。
それを見た誠凛が、準決の秀徳の試合の緑間を思い浮かべていただろう。だがオレ達にとっては違う。あのシュートは、優姫が深夜アニメに感化されて思いついた技で、オレ達の特訓の成果だ。黒子を避けると、そのカバーに実渕が入りオレへの追撃をくい止める。オレは、練習の通り赤司の空の手へボールを投げ込んだ。受け取った赤司がフッと笑う。
「上出来だ、千尋」
スパンッと、赤司のスリーが綺麗に決まった。
湧く客席とは裏腹に、唖然とする誠凛の選手達。オレを見る黒子の目も、驚愕に見開いたままだった。
「アレは、緑間君の…。どうして貴方達がそれを…」
「オレとしてはそっちの方が心外だ。この技も、スカイダイレクトスリーなんて洒落た名前なんかじゃなかったからな」
「シュッとしてバシュッと3Pだよねー黛サン!」
「やっぱこの名前だせえな」
葉山が名前を口にすると、近くにいた根武谷が深く賛同した。優姫が聞いたら泣くぞ。
オレは未だ呆然と立ち尽くす黒子に、もう一度向き直る。
「お前達も良いチームだが、このチームだって捨てたもんじゃないぜ」
まゆゆの影が通用しなくなったとき、嫌な予感が当たったと胸が痛かった。
予想していたことだったし、その後の策もちゃんと考えてあった。それでも、痛かった。まゆゆが傷ついていないか、それだけが心配で、苦しくて、監督がタイムアウトを取った時、戻ってくるまゆゆにどんな顔をすればいいかわからなかった。
けど、赤司達の顔を見て、その不安が吹き飛んだ。誰一人、諦めてはいなかったのだ。
まゆゆのことを、責めるような顔をしていなかった。ああ、そうだ、仲間なんだ。私達は、全員で洛山バスケ部なんだ。
だから、まゆゆが傷ついたなら、私達が助けるんだ。
「まゆゆーっ!!頑張れまゆゆーっ!!」
まゆゆと赤司のシュッとしてバシュッと3Pが決まり、やったーっと樋口先輩とハイタッチしてはしゃいだ。練習の時に何度も見たその光景を、試合中に見ると感動も倍になる。
ふと、なぜか視線を感じて客席を見たら、秀徳高校が身支度を終えて観戦に来たようで集まっているのが見えた。そして、何故か私を見ている。主にみどっちが。もしかして、あの技をパクられたとか思ってるのかな?!いやいや違うんだよ?!たまたま同じ技を思いついただけで、ほんとパクったとかではなくて、えーと、とりあえず手を振っておこう!みどっちに手を振ってみたら、何故かびくっとされた。その反応は酷い。でも高尾が代わりに手を振り返してくれたから許そう。赤司に制裁くらってたときに大笑いしたことは許してないけどね!!
その後、実渕先輩の『虚空』が、誠凛の小金井さんに止められそうになったりしたけど、なんとか20点の差をつけたまま第3Qを終えることができた。
第3Q後半、誠凛に押され気味だった。黒子っち復活から、かがみんのゾーンによる赤司封じ、途中葉山先輩と接戦をした伊月さん、実渕先輩の技に飛びつくことが出来た小金井さん。
「あと10分だ。慌てることはない」
乱れかけた気持ちを、白金監督が鼓舞する。そうだ、点差もある。洛山も死んでいない。このまま、攻めていけばいい。
けど、何でだろう。まゆゆのことの心配はなくなったのに、今度は違うことが気になっている。
どうして、私にいつも通り応援していいと言って笑った赤司の顔を思い出しているんだろう。
「玲央、むこうは日向が出てくるようだが、決して油断はするな。永吉、木吉の眼はまだ死んでいない。玲央同様気を引き締めろ。小太郎、いつまでおとなしくしているtもりだ。まだ点を取って貰うぞ。千尋、次は玲央と連携で行く。タイミングは状況を見て判断してくれ」
赤司の様子が、いつもとどこか違う気がするのは何でだろう。
「やってくれたわね、順平ちゃん。マジで潰すわ」
「こっちの台詞だ!そんでちゃん付けで下の名前呼ぶな!」
日向にスリーを止められ、根武谷はリミッターを外した木吉に押されつつあり、赤司も火神相手に攻撃できていない。これは、マジで誠凛の底力が牙をむき始めたか。
赤司も必要以上に何も言わなくなってきたのは、わりとやばい状況だからなのか。
誠凛に4連続点を入れられてから、赤司の違和感はどんどん増していく。赤司、お前今何を考えているんだ。今、お前はどんな表情をしている?
「赤司、お前」
また一人で、戦おうとしていないか?