影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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『黛さんですか?』
屋上とは、様々な出会いが訪れるものだ。主にラノベの話だが。
優姫と友達とやらになってから、数日後だっただろうか。屋上でいつものごとくラノベを読んでいたら、今年から男子バスケ部に入部したキセキの世代、赤司征十郎がやってきた。
退部届けを提出することを辞めたオレは未だバスケ部の部員であり、こいつはバスケ部の主将。なんだ、才能がないから辞めろとでも言いに来たか。そんなことを思いながら、『そうだけど』と頷いたら、赤司は初めましてではなく『どうも』と言った。
『珍しいな、オレのことすぐに覚える奴とかあんまりいないんだけど』
『ああ…知り合いにあなたとよく似た人がいるからかもしれませんね』
ところで何を読んでいるんですか?と聞かれたので素直にラノベだと教えたら、どうやら知らなかったらしく首を傾げるから、これまた簡単に教えてやったら何故か『フッ』と笑われた。
『お前表紙でもう馬鹿に…おい?何パラパラめくって…』
『読みました』
『マジかよ?!はええな!!……で、どうだった?』
『内容は些か陳腐ではありましたが、林檎たんが可愛いのは認めましょう』
『なんだとおまっ……え…?赤司…?たん…?』
『ところで本題なのですが、あなたに幻のシックスマンになってほしい』
『ちょっと待て。この流れでそんなシリアスな本題に入るな頼むから』
「黛サン、どしたの?」
「今思い返してもあの勧誘に乗ったオレはどうかしてたな、と」
「何の話だい?」
「お前の話だよ」
溜息を吐きながらポジションにつくと、早速誠凛が動揺を隠せないままボールを回し出す。もちろんそれを見逃すほどうちは甘くない。ホイっと葉山が素早くスティールした。
「しまった…!!」
「ダメだよん!ウチ相手にパス一つでも気イ抜いちゃあ!」
そのままドリブルで駆け抜け、赤司にパスを回すと、すぐにオレのところへボールが回ってきた。ここなら、実渕が空いてるな、とボールを流そうとすれば、どう先回りしたのか、誠凛の8番、水戸部がパスコースを遮った。これも想定内。
「ならパスはやめた。シュートにしよう」
問題なくボールを放れば、リングに気持ちの良い音を立てて入った。やはり、点を入れると気分が良い。
新型だの旧型だのなんてことに別に興味はないが、黒子テツヤ、これがオレのスタイルだ。
ベンチに座る黒子の前を通ると、その目はオレをジッと見つめていた。アレは、オレを観察している目だ。
『もし自身の影の機能が失われていて、近くに自分と同タイプの選手がいて、しかも基本性能が上だったとしたら。それって、自分よりもそっちの方が目立つんじゃないか、って考えると思わない?』
試合前に優姫が言った考察を思い返す。どうやら、見事に当たっていたらしい。
あいつは、オレを利用して影としての力を取り戻そうとしている。
けど、不思議なもので気持ちは落ち着いていた。起きてもいないのに最悪の想定なんてしても、つまらないだけだ。だから、今は全力でこの試合に挑む。
だって、オレは、今、すごく。
「選手交代?!しかもまゆゆに伊月さんがマークついて、えっ?あ、赤司のマークに…12番の…チワワ…?」
コートの中では五冠と呼ばれる三人が「何考えてんのおおお?!」とハモっていた。まゆゆの顔も「えーっと…ナニコレ?」といつも以上に目が死んでいた。かくいう私の目にも、赤司というライオンの前にチワワが放逐されたようにしか見えない。ナニコレ。
何を思ったのか、この場面で誠凛が選手交代をして出してきたのが、見るからに試合慣れしていない選手だった。案の定赤司の前に立っている彼はふるふると震えている。
「えっと、誠凛12番、降旗光樹君。準決で一回出てきたっけ…」
偵察班が撮ってくれていたビデオとまとめてくれたデータを見ながら、ふむふむと分析をする。今この場で出してきたのは、もしかして。
「あっかっしーっ!!」
控えめに声をかけて、シュッシュッとジェスチャーをする。届いたかどうかわからないが、赤司は私のジェスチャーを見て、何故か深い溜息を吐いていた。あれ、これ伝わってないな?!口パクで「座ってろ」と言われた。
仕方なく座り直すと、白金監督が不思議そうな顔をしている。
「水瓶、今のジェスチャーは何だ?」
「アンクルブレイク封じに気をつけろ、です!」
「え」
「ちょーっ?!佐藤先生その反応何ですか?!えっ、もしかしてこれ伝わってない?伝わってないですか?!」
「相手のMPを減らそうとしているのかと」
「ふしぎなおどりじゃないですから!!って樋口先輩今噴き出しました?!」
今無理、腹筋しぬ、と樋口先輩がお腹を抱えてしまった。佐藤先生と白金監督は頭を抱えている。解せぬ。
「だが、赤司には何故か伝わったようだな」
「何故かっていうのやめてください……」
コートの中では相変わらず赤司が溜息を吐いていた。
これは、弱すぎてどうしよう。
と、今まで強者と戦ってきたために初めて出てきた感情だった。
この場でなぜ彼を僕につけたのか。その意味を考えるも、ディフェンスも甘いし容易に抜くことができるため、全く想像もつかない。だが、それは逆に、違和感がありはしないか。なぜ、この場面で、そんな大穴を開ける必要がある?僕が彼を抜いて、その後の展開は。
そこまで考えていたところで、ベンチに入ってから応援する声のボリュームが控えめになった優姫が、僕の名前を呼んでいた。チラリと伺うと、謎の踊りを見せてくる。何かを伝えるジェスチャーをしているのだろうけど、なんだその変な踊りは。心なしか精神力的な何かが奪われそうな気さえしてくるんだが。
いやまて、つまり優姫には、誠凛12番が僕のマークについた理由がわかったのだ。僕がまだ理解できていないことを、あの優姫が先に察した、ということ。
「……フウ」
ひっ、と目の前の彼が怯えるのがわかった。だが、溜息が出るのは許して欲しい。
「降旗くん、だったね」
「っ!お、おお!」
「僕は、わりと負けず嫌いなんだ」
「えっ?!」
持ったボールを、交互にドリブルし、容易に彼を抜く。
予想通り、その先で火神がヘルプに入ってきた。コートの中、人の密集する空間。
これは、僕をここに誘い込むための布石。
「赤司ぃ!!」
「フン」
アンクルブレイクができない場所への誘導だと分かっていて、まんまとその誘いに乗ったのは何故か。
一つはその程度で無力化する技術ではないということを分からせるため。
そして、これは本当に私情だが。
「優姫への貸しは、これで帳消しだ」
前後の緩急で火神の動きを止め、その横を通り抜けてシュートを打つ。邪魔もなくそのままボールはゴールへ入り、点差は9点差で洛山リードだ。
永吉と小太郎がこちらに駆け寄ってくる。
「ナイシュっ!赤司!」
「ところでさっきの優姫のジェスチャー、何だったの?!」
「アンクルブレイク封じに気をつけろ、だそうだ」
「アレわかったのすげーな!オレMP減らされてんのかと思った!」
「MP…?」
何のポイントなんだ、と小太郎に聞いていたら、後ろで千尋がブフォッと噴き出していた。よくわからないが、このQ終わったら全員締め上げよう。
その後も誠凛12番のディフェンスからの火神ヘルプを何度か受け流して、スリーを放てば点差は10点差となる。
そこで、洛山のタイムアウトのコールが鳴った。
ベンチに戻ってきた赤司に、監督が声をかける。
「ここでタイムアウト使うのは、贅沢だったか?」
「いえ、ちょうど攻守の切り替えが速くなっていて細かい指示が出しづらくなっていたところです。ありがたいタイミングでした。優姫、さっさとスポドリをよこせ」
「怒ってるじゃないですかやだー!え、私何かした?あ、ジェスチャーわかってくれたんだね!」
「わかるわけないだろう。推測しただけだよ」
「え、ってことは私のジェスチャー誰もわかってくれなかったという…凹むわ…」
まゆゆどうぞ…とタオルを渡したら、私の顔を見てからブハッと噴き出してそのタオルに顔を埋めてしまった。おいこらまゆゆ。
「向こうはあえて赤司を止めるという選択肢を捨てて守っている。このまま攻めても大勢に影響はないが…こちらもあえて選択肢を絞ろうか。攻めの中心を決めるぞ」
そう言って監督は、実渕先輩を見る。
スリーで差を広げていくという指示だ。
「実渕先輩、頑張ってください!!実渕先輩のスリーすごく綺麗で、ここで見れるのほんと嬉しいです!!」
「うふふ。優姫ちゃんに良いとこ見せなきゃね。惚れちゃってもいいのよー?」
「おい実渕」
「いやあもう惚れてますって!実渕先輩の美しさは世界一ですから!うへへー!」
「……」
「…なんか、ごめんなさいね、黛さん」
「謝んな」
実渕先輩が申し訳なさそうに頬に手を当てていて、まゆゆは大きな溜息を吐いていた。あれ、私何か変なこと言った?
「あっもしかしてまゆゆも美しさ勝負を…」
「してねーよ。…優姫」
「なに?」
まゆゆは私をジッと見つめる。すごく真剣な顔だったから、思えば今は決勝戦の真っ只中でまゆゆにとって最後の試合だと自身の浮かれ具合に後悔をする。ごめんなさい、と謝ろうとした瞬間、まゆゆは真剣な目をしたまま口を開いた。
「時計仕掛けの新刊、読んだか?」
「あっ、うん。読んだ。林檎たん可愛かった」
「だよな」
ピーッとタイムアウト終了の笛が鳴って、まゆゆは「それじゃ行ってくるわ」とそのままコートの中へ入っていく。
……え?
「いやいやー?!今のそういう流れだった?!林檎たん可愛いよ、だよな、みたいなオタ会話する場面じゃなかったよね?!まゆゆー?!」
普段と変わらない会話をして、予想通りの反応を見て背中を向けてから笑った。
「機嫌が良いな、千尋」
「ん?ああ…まあな」
赤司に指摘されるくらいオレは顔に出ているらしい。
この後、黒子が選手交代で出てきたらきっと、オレは上書きされる。止めようがないだろう。なぜならオレは、影に徹するほど自身を捨てていない。オレは、自分が好きで、点を入れるのが好きだから。
だから、その時に慌てないように、クールダウンが必要だった。
優姫と会話をしてそれが成功したから、後は実渕にパスを送るだけ。
どうやら誠凛もSGを攻めの中心に置いたらしく、図らずともSG対決となった。
誠凛の4番、主将の日向。あいつのスリーのフォームは、ビデオで見ていた時から思っていたがやはり実渕のフォームによく似ていた。それについて根武谷も改めて思ったらしく、実渕に同じ事を言っていた。
「あいつのフォームって、お前に似てんな?」
「やっぱりそう思うわよね。でも、似てるだけよ。もし私の形をマネしたとしても、もう自分に合う形にカスタムしてるもの。征ちゃん、黛さん、ボール回してね」
フフ、と実渕が悪い顔で微笑んだ。この大会では見せなかった、アレをするつもりらしい。
実渕のシュートは三種ある。相手をかわしつつ決めるシュート『天』、相手に当たりながら決めるシュート『地』、そして相手に何もさせず決めるシュート『虚空』。三種のシュートを持つ将、通り名は『夜叉』という。
『虚空』を見事決めてみせたことで、日向は動揺したようだ。スリーのタイミングももうすでに実渕は掴んでいて、日向はパスを出すしかなかった。
その様子を見て、実渕は赤司に告げる。
「征ちゃん」
「ああ」
「どんどん私に回してちょうだい」
点を入れられるチャンスが来ているなら、いくら相手が弱体化しようと攻め続ける。それは、相手に一切の手抜きをしないからこそだ。精神的に、技術的に勝ったからといって、手は緩めない。この試合に勝つためには、一瞬たりとも気を抜いてはいけない。
勝負は時の運。最後まで、何が起こるのかわからない。
そして、それは他の奴らだって同じだった。
「おっしゃあ!!オレも筋肉があったまってきたところだ!あん時のリベンジさせてもらうぜ、木吉ィ!!」
「…?」
おい根武谷。熱くなってるところ悪いが、多分木吉のやつ覚えてないみたいだぞ。
ボールを持った木吉を抑えながら、根武谷は熱くそう叫ぶが、どうにも木吉には心当たりがないようだ。根武谷を乗り越え、シュートに向かった木吉だが、あいつの無駄にある筋力でたたき落とすと、誠凛のベンチからは「一体どんな技を…!」と息をのむ声が聞こえる。いや、誠凛の奴らよ、あいつにそういう技とかはない。そろそろ自分で抗議し出すから、とりあえずそれを聞いてやってくれ。
案の定、根武谷は木吉にガーッと唸っていた。
「さっきのリアクション、まさか昔オレと戦ったこと忘れたんじゃねえだろうな?!」
「え?対戦したことは覚えてるよ?」
「問題はその後お前が言ったことだよ!!『お前筋力はすごいけど、バスケは力だけじゃだめだぜ。技を磨けばもっと強くなると思うよ』ってな!!」
「今の永ちゃんの物まねちょっとキモかったね」
「ええ」
「ああ」
「癖をよく掴んでいて、似ていたと思ったが」
「征ちゃんは良い子ね…」
オレらのツッコミなど耳に入っていない根武谷は、熱く語っている。
だったらもっと筋肉をつけてやると決めたんだと。筋肉はウソをつかないなんて極論まで言い出した。筋肉さえあればすべてうまくいく、という脳筋の通り名は『剛力』。
そして五冠の一人である木吉は『鉄心』。完全に力対決の二人だ。
「マッスルゥーッ!スクリーンアウト!!」
「マッスルゥーッ!リバウンドォ!!」
うるせえ。ただただうるせえ。
力比べに勝っていなかったら怒るところだ。
「ていうか毎回あれ言うのホントやめてくんないかしら」
「ああ…暑苦しくてうんざりだ」
隣を走る実渕も顔に「永吉うるさい」と書いてある。根武谷と木吉の力比べは、根武谷が勝っていて、誠凛は防戦に徹するしかなくなっている。おまけに実渕にボールが渡ればすかさずスリーを打つ。そして葉山も。
「葉山!!」
「コラ一年ー!センパイ呼び捨てにすんなよなッ!!」
あいつの得意のドリブル、4本に火神はもうついていけるらしい。抜こうとした葉山も驚いた顔をしている。仕方ない、とボールを根武谷に回す。そしてそのボールを勢いよくゴールへたたき込んだ。
「マッスルダンク!!」
「全力でダンクするだけでしょ…」
実渕が呆れ顔していると、火神が「…あれ?」と首を傾げる。
なんだなんだ。
「赤司も一年じゃねーの?」
「…………本当だ!!」
「こら小太郎!!コントやってんじゃないわよ!!」
「お前らオレのダンク見ろや!!」
ナニコレ。再び。
赤司なんて一生懸命笑いをこらえようとしてるから、逆に怖い顔になっている。それにまた赤司につく誠凛の一年が怯えてしまっているし、コート内がカオス化している。焦りを感じているのは、日向と木吉だろう。流れは、完全にこちらに来ている。点差も徐々に広がってきていて、誠凛と15点差になっていた。
オレも仕事をしないとな、と伊月のイーグルアイの死角に入り、葉山にパスを投げる。
「姿を消すのがオレの仕事だが、忘れられては困るな」
これで、17点差。と思っていたら、またバシンッと背中を叩かれた。
「ナイスマッスルパス!!」
「んな暑苦しいパスしてねーよ」
「かっこいいじゃない今の台詞!優姫ちゃんに聞かせたかったわ」
「おいやめろ。ちょっと言いたかっただけだ。オレは赤司とは違ってただのラノベオタクだ」
「赤司に飛び火してんのわざとなの?」
「お前達、今は、試合中、だよね?」
「「はいすみません!!」」
ギッと赤司に睨まれて、各々ポジションへと散っていく。そんなオレ達を見て、赤司はクスッと笑っていた。嫌な笑みではなかった。
それから試合再開して早々に、葉山が火神をかわしてシュートを決め、爆音のドライブの凄さを披露した。通り名は『雷獣』。根武谷や実渕と違って、目立ったプレイではないためか、いささか物足りなく感じる。
「アレ?!なんかオレだけ見つかった珍獣とかみてーじゃね?!あいてっ!」
「ああんもうっ!変なこと言ってボケッとしてるから!!」
誠凛の選手とぶつかった葉山は、そのまま火神をフリーにしてしまい、シュートを決められる。あの野郎、説教部屋だな。
ゴメンってーっ!と葉山が実渕に謝っている。ついでにその後ろで「試合中に遊んでんじゃねえぞ」という般若の顔をした赤司にも謝っておくといい。
そして、誠凛に攻めを許さないまま、試合は続き、赤司がオレに視線をよこす。
珍しいな、テンション上がってんのか。オレに機嫌が良いとか言っておきながら、お前の方が機嫌良さそうじゃねえか、赤司。
ボールを望みの通りの位置に放ってやれば、赤司は飛んだ。滅多に見られない、赤司のアリウープ。全員の頭上からボールをリングへたたき込んだ赤司に、案の定、観客も誠凛も驚愕の声を上げた。火神も唖然としている。
「お前ら大型選手の専売特許だとでも思ったか?こんなもの、やろうと思えばいつでもできる」
点差は25点。第2Qは終わり、10分のインターバルに入った。
「はー…赤司のアリウープとか…いやそんなの…」
「なんだい」
「ベンチから見たら超かっこいいわ!!惚れるんですけど!!赤司様万歳なんですけど!!」
「全員水分補給をしっかりしておけ。僕も軽く身体を動かしておく」
「あいたたた休憩してお願い!私への関節技とかいらないから休憩して赤司くん!!」
控え室にみんなで戻り、いつものごとく赤司からの制裁を受けた。褒めたのに、褒めたのに!
やっと解放され、赤司も上着を羽織りドリンクを飲むと、全員に向き直る。
「もはや勝負は9割方決まった。だが、まだ9割だ。誠凛はまだ完全には死んでいない。特に4番日向と10番火神、二人を今波に乗らせると、万一の可能性がある」
可能性がある限り、逆転だってあり得るのだ。ここで気を抜くわけにはいかない。
キュッと私も口を閉じて、赤司の次の指示を聞く。
「火神にはもう一度僕がつく。玲央、日向は任せる。一つで十分だが、可能なら二つとれ」
「ええ、わかったわ」
「それから優姫」
「あっはい!!」
「応援の仕方だが」
「控えめだよね?!わかってるわかってる!まゆゆの応援も声に出さないようにしてるし、それに」
「いつものように声を出していい」
「声のボリュームも抑えて………えっ?」
赤司は、微笑んでいた。いやだな、なんか、これで最後みたいな笑みだ。そんなことあるはずないのに。なんでそんなこと、思ったんだろう。あるはず、ないのに。
「千尋の応援は控えてもらうが、それ以外の応援はいつも通りにしてくれ。逆に気が散る」
「気が散る?!言い方もっとなかった?!」
「あー、でもわかるー。優姫の応援って客席からでも聞こえたのに、今回あんま聞こえねーんだよな」
「たしかにちょっと物足りねーよな」
「ええ、優姫ちゃんの声援ってすごくやる気でるのよね」
「えっ、えっ?えっと、いつもみたいに応援しても、いいんですか…?」
おそるおそる聞いたら、全員が頷いてくれた。嬉しくて、まゆゆをばっと振り返る。
まゆゆはふーんと、どうでもよさそうな顔をしていた。
「オレは関係ないからどっちでもいい」
「まっまゆゆのことは心の中でめちゃくちゃ応援してるから!!赤司の彼ピッピ頑張れって言って良いなら私それで応援するし!!まゆゆのことだってちゃんと応援してるんだよ?!でもまゆゆは今影だから、私が応援して目立たせちゃいけないし、うう」
「馬鹿。冗談だ。お前がオレの応援もしてくれてることなんて、目を見ればわかる」
そう言って、まゆゆは私の目をジッと見つめた。目は口ほどにものを言うと言うけれど、もしかして全部バレてるのかな。
私がまゆゆのことめちゃくちゃ応援してて、バスケしてる姿がかっこいいって思ってて、あのコートの中に、私も一緒に入りたいなんて、思ってること。
そう思ったら途端に恥ずかしくなって、まゆゆから目をそらす。するとまゆゆは私の反応が楽しいのか、笑いながら覗き込んでくる。
「目を見せてくれないと、応援してるのかわかんねーんだけど」
「わーもう!してるってばーっ!!」
まゆゆの視線から一生懸命逃げていたら、あっという間にインターバルは終わってしまったのだった。
「オレ達は何を見せられているんだ」
「永ちゃん、アレがリア充っていうやつだよ」
「彼ピッピとはどういう意味なんだ?」
「征ちゃんは知らなくていいのよ」
屋上とは、様々な出会いが訪れるものだ。主にラノベの話だが。
優姫と友達とやらになってから、数日後だっただろうか。屋上でいつものごとくラノベを読んでいたら、今年から男子バスケ部に入部したキセキの世代、赤司征十郎がやってきた。
退部届けを提出することを辞めたオレは未だバスケ部の部員であり、こいつはバスケ部の主将。なんだ、才能がないから辞めろとでも言いに来たか。そんなことを思いながら、『そうだけど』と頷いたら、赤司は初めましてではなく『どうも』と言った。
『珍しいな、オレのことすぐに覚える奴とかあんまりいないんだけど』
『ああ…知り合いにあなたとよく似た人がいるからかもしれませんね』
ところで何を読んでいるんですか?と聞かれたので素直にラノベだと教えたら、どうやら知らなかったらしく首を傾げるから、これまた簡単に教えてやったら何故か『フッ』と笑われた。
『お前表紙でもう馬鹿に…おい?何パラパラめくって…』
『読みました』
『マジかよ?!はええな!!……で、どうだった?』
『内容は些か陳腐ではありましたが、林檎たんが可愛いのは認めましょう』
『なんだとおまっ……え…?赤司…?たん…?』
『ところで本題なのですが、あなたに幻のシックスマンになってほしい』
『ちょっと待て。この流れでそんなシリアスな本題に入るな頼むから』
「黛サン、どしたの?」
「今思い返してもあの勧誘に乗ったオレはどうかしてたな、と」
「何の話だい?」
「お前の話だよ」
溜息を吐きながらポジションにつくと、早速誠凛が動揺を隠せないままボールを回し出す。もちろんそれを見逃すほどうちは甘くない。ホイっと葉山が素早くスティールした。
「しまった…!!」
「ダメだよん!ウチ相手にパス一つでも気イ抜いちゃあ!」
そのままドリブルで駆け抜け、赤司にパスを回すと、すぐにオレのところへボールが回ってきた。ここなら、実渕が空いてるな、とボールを流そうとすれば、どう先回りしたのか、誠凛の8番、水戸部がパスコースを遮った。これも想定内。
「ならパスはやめた。シュートにしよう」
問題なくボールを放れば、リングに気持ちの良い音を立てて入った。やはり、点を入れると気分が良い。
新型だの旧型だのなんてことに別に興味はないが、黒子テツヤ、これがオレのスタイルだ。
ベンチに座る黒子の前を通ると、その目はオレをジッと見つめていた。アレは、オレを観察している目だ。
『もし自身の影の機能が失われていて、近くに自分と同タイプの選手がいて、しかも基本性能が上だったとしたら。それって、自分よりもそっちの方が目立つんじゃないか、って考えると思わない?』
試合前に優姫が言った考察を思い返す。どうやら、見事に当たっていたらしい。
あいつは、オレを利用して影としての力を取り戻そうとしている。
けど、不思議なもので気持ちは落ち着いていた。起きてもいないのに最悪の想定なんてしても、つまらないだけだ。だから、今は全力でこの試合に挑む。
だって、オレは、今、すごく。
「選手交代?!しかもまゆゆに伊月さんがマークついて、えっ?あ、赤司のマークに…12番の…チワワ…?」
コートの中では五冠と呼ばれる三人が「何考えてんのおおお?!」とハモっていた。まゆゆの顔も「えーっと…ナニコレ?」といつも以上に目が死んでいた。かくいう私の目にも、赤司というライオンの前にチワワが放逐されたようにしか見えない。ナニコレ。
何を思ったのか、この場面で誠凛が選手交代をして出してきたのが、見るからに試合慣れしていない選手だった。案の定赤司の前に立っている彼はふるふると震えている。
「えっと、誠凛12番、降旗光樹君。準決で一回出てきたっけ…」
偵察班が撮ってくれていたビデオとまとめてくれたデータを見ながら、ふむふむと分析をする。今この場で出してきたのは、もしかして。
「あっかっしーっ!!」
控えめに声をかけて、シュッシュッとジェスチャーをする。届いたかどうかわからないが、赤司は私のジェスチャーを見て、何故か深い溜息を吐いていた。あれ、これ伝わってないな?!口パクで「座ってろ」と言われた。
仕方なく座り直すと、白金監督が不思議そうな顔をしている。
「水瓶、今のジェスチャーは何だ?」
「アンクルブレイク封じに気をつけろ、です!」
「え」
「ちょーっ?!佐藤先生その反応何ですか?!えっ、もしかしてこれ伝わってない?伝わってないですか?!」
「相手のMPを減らそうとしているのかと」
「ふしぎなおどりじゃないですから!!って樋口先輩今噴き出しました?!」
今無理、腹筋しぬ、と樋口先輩がお腹を抱えてしまった。佐藤先生と白金監督は頭を抱えている。解せぬ。
「だが、赤司には何故か伝わったようだな」
「何故かっていうのやめてください……」
コートの中では相変わらず赤司が溜息を吐いていた。
これは、弱すぎてどうしよう。
と、今まで強者と戦ってきたために初めて出てきた感情だった。
この場でなぜ彼を僕につけたのか。その意味を考えるも、ディフェンスも甘いし容易に抜くことができるため、全く想像もつかない。だが、それは逆に、違和感がありはしないか。なぜ、この場面で、そんな大穴を開ける必要がある?僕が彼を抜いて、その後の展開は。
そこまで考えていたところで、ベンチに入ってから応援する声のボリュームが控えめになった優姫が、僕の名前を呼んでいた。チラリと伺うと、謎の踊りを見せてくる。何かを伝えるジェスチャーをしているのだろうけど、なんだその変な踊りは。心なしか精神力的な何かが奪われそうな気さえしてくるんだが。
いやまて、つまり優姫には、誠凛12番が僕のマークについた理由がわかったのだ。僕がまだ理解できていないことを、あの優姫が先に察した、ということ。
「……フウ」
ひっ、と目の前の彼が怯えるのがわかった。だが、溜息が出るのは許して欲しい。
「降旗くん、だったね」
「っ!お、おお!」
「僕は、わりと負けず嫌いなんだ」
「えっ?!」
持ったボールを、交互にドリブルし、容易に彼を抜く。
予想通り、その先で火神がヘルプに入ってきた。コートの中、人の密集する空間。
これは、僕をここに誘い込むための布石。
「赤司ぃ!!」
「フン」
アンクルブレイクができない場所への誘導だと分かっていて、まんまとその誘いに乗ったのは何故か。
一つはその程度で無力化する技術ではないということを分からせるため。
そして、これは本当に私情だが。
「優姫への貸しは、これで帳消しだ」
前後の緩急で火神の動きを止め、その横を通り抜けてシュートを打つ。邪魔もなくそのままボールはゴールへ入り、点差は9点差で洛山リードだ。
永吉と小太郎がこちらに駆け寄ってくる。
「ナイシュっ!赤司!」
「ところでさっきの優姫のジェスチャー、何だったの?!」
「アンクルブレイク封じに気をつけろ、だそうだ」
「アレわかったのすげーな!オレMP減らされてんのかと思った!」
「MP…?」
何のポイントなんだ、と小太郎に聞いていたら、後ろで千尋がブフォッと噴き出していた。よくわからないが、このQ終わったら全員締め上げよう。
その後も誠凛12番のディフェンスからの火神ヘルプを何度か受け流して、スリーを放てば点差は10点差となる。
そこで、洛山のタイムアウトのコールが鳴った。
ベンチに戻ってきた赤司に、監督が声をかける。
「ここでタイムアウト使うのは、贅沢だったか?」
「いえ、ちょうど攻守の切り替えが速くなっていて細かい指示が出しづらくなっていたところです。ありがたいタイミングでした。優姫、さっさとスポドリをよこせ」
「怒ってるじゃないですかやだー!え、私何かした?あ、ジェスチャーわかってくれたんだね!」
「わかるわけないだろう。推測しただけだよ」
「え、ってことは私のジェスチャー誰もわかってくれなかったという…凹むわ…」
まゆゆどうぞ…とタオルを渡したら、私の顔を見てからブハッと噴き出してそのタオルに顔を埋めてしまった。おいこらまゆゆ。
「向こうはあえて赤司を止めるという選択肢を捨てて守っている。このまま攻めても大勢に影響はないが…こちらもあえて選択肢を絞ろうか。攻めの中心を決めるぞ」
そう言って監督は、実渕先輩を見る。
スリーで差を広げていくという指示だ。
「実渕先輩、頑張ってください!!実渕先輩のスリーすごく綺麗で、ここで見れるのほんと嬉しいです!!」
「うふふ。優姫ちゃんに良いとこ見せなきゃね。惚れちゃってもいいのよー?」
「おい実渕」
「いやあもう惚れてますって!実渕先輩の美しさは世界一ですから!うへへー!」
「……」
「…なんか、ごめんなさいね、黛さん」
「謝んな」
実渕先輩が申し訳なさそうに頬に手を当てていて、まゆゆは大きな溜息を吐いていた。あれ、私何か変なこと言った?
「あっもしかしてまゆゆも美しさ勝負を…」
「してねーよ。…優姫」
「なに?」
まゆゆは私をジッと見つめる。すごく真剣な顔だったから、思えば今は決勝戦の真っ只中でまゆゆにとって最後の試合だと自身の浮かれ具合に後悔をする。ごめんなさい、と謝ろうとした瞬間、まゆゆは真剣な目をしたまま口を開いた。
「時計仕掛けの新刊、読んだか?」
「あっ、うん。読んだ。林檎たん可愛かった」
「だよな」
ピーッとタイムアウト終了の笛が鳴って、まゆゆは「それじゃ行ってくるわ」とそのままコートの中へ入っていく。
……え?
「いやいやー?!今のそういう流れだった?!林檎たん可愛いよ、だよな、みたいなオタ会話する場面じゃなかったよね?!まゆゆー?!」
普段と変わらない会話をして、予想通りの反応を見て背中を向けてから笑った。
「機嫌が良いな、千尋」
「ん?ああ…まあな」
赤司に指摘されるくらいオレは顔に出ているらしい。
この後、黒子が選手交代で出てきたらきっと、オレは上書きされる。止めようがないだろう。なぜならオレは、影に徹するほど自身を捨てていない。オレは、自分が好きで、点を入れるのが好きだから。
だから、その時に慌てないように、クールダウンが必要だった。
優姫と会話をしてそれが成功したから、後は実渕にパスを送るだけ。
どうやら誠凛もSGを攻めの中心に置いたらしく、図らずともSG対決となった。
誠凛の4番、主将の日向。あいつのスリーのフォームは、ビデオで見ていた時から思っていたがやはり実渕のフォームによく似ていた。それについて根武谷も改めて思ったらしく、実渕に同じ事を言っていた。
「あいつのフォームって、お前に似てんな?」
「やっぱりそう思うわよね。でも、似てるだけよ。もし私の形をマネしたとしても、もう自分に合う形にカスタムしてるもの。征ちゃん、黛さん、ボール回してね」
フフ、と実渕が悪い顔で微笑んだ。この大会では見せなかった、アレをするつもりらしい。
実渕のシュートは三種ある。相手をかわしつつ決めるシュート『天』、相手に当たりながら決めるシュート『地』、そして相手に何もさせず決めるシュート『虚空』。三種のシュートを持つ将、通り名は『夜叉』という。
『虚空』を見事決めてみせたことで、日向は動揺したようだ。スリーのタイミングももうすでに実渕は掴んでいて、日向はパスを出すしかなかった。
その様子を見て、実渕は赤司に告げる。
「征ちゃん」
「ああ」
「どんどん私に回してちょうだい」
点を入れられるチャンスが来ているなら、いくら相手が弱体化しようと攻め続ける。それは、相手に一切の手抜きをしないからこそだ。精神的に、技術的に勝ったからといって、手は緩めない。この試合に勝つためには、一瞬たりとも気を抜いてはいけない。
勝負は時の運。最後まで、何が起こるのかわからない。
そして、それは他の奴らだって同じだった。
「おっしゃあ!!オレも筋肉があったまってきたところだ!あん時のリベンジさせてもらうぜ、木吉ィ!!」
「…?」
おい根武谷。熱くなってるところ悪いが、多分木吉のやつ覚えてないみたいだぞ。
ボールを持った木吉を抑えながら、根武谷は熱くそう叫ぶが、どうにも木吉には心当たりがないようだ。根武谷を乗り越え、シュートに向かった木吉だが、あいつの無駄にある筋力でたたき落とすと、誠凛のベンチからは「一体どんな技を…!」と息をのむ声が聞こえる。いや、誠凛の奴らよ、あいつにそういう技とかはない。そろそろ自分で抗議し出すから、とりあえずそれを聞いてやってくれ。
案の定、根武谷は木吉にガーッと唸っていた。
「さっきのリアクション、まさか昔オレと戦ったこと忘れたんじゃねえだろうな?!」
「え?対戦したことは覚えてるよ?」
「問題はその後お前が言ったことだよ!!『お前筋力はすごいけど、バスケは力だけじゃだめだぜ。技を磨けばもっと強くなると思うよ』ってな!!」
「今の永ちゃんの物まねちょっとキモかったね」
「ええ」
「ああ」
「癖をよく掴んでいて、似ていたと思ったが」
「征ちゃんは良い子ね…」
オレらのツッコミなど耳に入っていない根武谷は、熱く語っている。
だったらもっと筋肉をつけてやると決めたんだと。筋肉はウソをつかないなんて極論まで言い出した。筋肉さえあればすべてうまくいく、という脳筋の通り名は『剛力』。
そして五冠の一人である木吉は『鉄心』。完全に力対決の二人だ。
「マッスルゥーッ!スクリーンアウト!!」
「マッスルゥーッ!リバウンドォ!!」
うるせえ。ただただうるせえ。
力比べに勝っていなかったら怒るところだ。
「ていうか毎回あれ言うのホントやめてくんないかしら」
「ああ…暑苦しくてうんざりだ」
隣を走る実渕も顔に「永吉うるさい」と書いてある。根武谷と木吉の力比べは、根武谷が勝っていて、誠凛は防戦に徹するしかなくなっている。おまけに実渕にボールが渡ればすかさずスリーを打つ。そして葉山も。
「葉山!!」
「コラ一年ー!センパイ呼び捨てにすんなよなッ!!」
あいつの得意のドリブル、4本に火神はもうついていけるらしい。抜こうとした葉山も驚いた顔をしている。仕方ない、とボールを根武谷に回す。そしてそのボールを勢いよくゴールへたたき込んだ。
「マッスルダンク!!」
「全力でダンクするだけでしょ…」
実渕が呆れ顔していると、火神が「…あれ?」と首を傾げる。
なんだなんだ。
「赤司も一年じゃねーの?」
「…………本当だ!!」
「こら小太郎!!コントやってんじゃないわよ!!」
「お前らオレのダンク見ろや!!」
ナニコレ。再び。
赤司なんて一生懸命笑いをこらえようとしてるから、逆に怖い顔になっている。それにまた赤司につく誠凛の一年が怯えてしまっているし、コート内がカオス化している。焦りを感じているのは、日向と木吉だろう。流れは、完全にこちらに来ている。点差も徐々に広がってきていて、誠凛と15点差になっていた。
オレも仕事をしないとな、と伊月のイーグルアイの死角に入り、葉山にパスを投げる。
「姿を消すのがオレの仕事だが、忘れられては困るな」
これで、17点差。と思っていたら、またバシンッと背中を叩かれた。
「ナイスマッスルパス!!」
「んな暑苦しいパスしてねーよ」
「かっこいいじゃない今の台詞!優姫ちゃんに聞かせたかったわ」
「おいやめろ。ちょっと言いたかっただけだ。オレは赤司とは違ってただのラノベオタクだ」
「赤司に飛び火してんのわざとなの?」
「お前達、今は、試合中、だよね?」
「「はいすみません!!」」
ギッと赤司に睨まれて、各々ポジションへと散っていく。そんなオレ達を見て、赤司はクスッと笑っていた。嫌な笑みではなかった。
それから試合再開して早々に、葉山が火神をかわしてシュートを決め、爆音のドライブの凄さを披露した。通り名は『雷獣』。根武谷や実渕と違って、目立ったプレイではないためか、いささか物足りなく感じる。
「アレ?!なんかオレだけ見つかった珍獣とかみてーじゃね?!あいてっ!」
「ああんもうっ!変なこと言ってボケッとしてるから!!」
誠凛の選手とぶつかった葉山は、そのまま火神をフリーにしてしまい、シュートを決められる。あの野郎、説教部屋だな。
ゴメンってーっ!と葉山が実渕に謝っている。ついでにその後ろで「試合中に遊んでんじゃねえぞ」という般若の顔をした赤司にも謝っておくといい。
そして、誠凛に攻めを許さないまま、試合は続き、赤司がオレに視線をよこす。
珍しいな、テンション上がってんのか。オレに機嫌が良いとか言っておきながら、お前の方が機嫌良さそうじゃねえか、赤司。
ボールを望みの通りの位置に放ってやれば、赤司は飛んだ。滅多に見られない、赤司のアリウープ。全員の頭上からボールをリングへたたき込んだ赤司に、案の定、観客も誠凛も驚愕の声を上げた。火神も唖然としている。
「お前ら大型選手の専売特許だとでも思ったか?こんなもの、やろうと思えばいつでもできる」
点差は25点。第2Qは終わり、10分のインターバルに入った。
「はー…赤司のアリウープとか…いやそんなの…」
「なんだい」
「ベンチから見たら超かっこいいわ!!惚れるんですけど!!赤司様万歳なんですけど!!」
「全員水分補給をしっかりしておけ。僕も軽く身体を動かしておく」
「あいたたた休憩してお願い!私への関節技とかいらないから休憩して赤司くん!!」
控え室にみんなで戻り、いつものごとく赤司からの制裁を受けた。褒めたのに、褒めたのに!
やっと解放され、赤司も上着を羽織りドリンクを飲むと、全員に向き直る。
「もはや勝負は9割方決まった。だが、まだ9割だ。誠凛はまだ完全には死んでいない。特に4番日向と10番火神、二人を今波に乗らせると、万一の可能性がある」
可能性がある限り、逆転だってあり得るのだ。ここで気を抜くわけにはいかない。
キュッと私も口を閉じて、赤司の次の指示を聞く。
「火神にはもう一度僕がつく。玲央、日向は任せる。一つで十分だが、可能なら二つとれ」
「ええ、わかったわ」
「それから優姫」
「あっはい!!」
「応援の仕方だが」
「控えめだよね?!わかってるわかってる!まゆゆの応援も声に出さないようにしてるし、それに」
「いつものように声を出していい」
「声のボリュームも抑えて………えっ?」
赤司は、微笑んでいた。いやだな、なんか、これで最後みたいな笑みだ。そんなことあるはずないのに。なんでそんなこと、思ったんだろう。あるはず、ないのに。
「千尋の応援は控えてもらうが、それ以外の応援はいつも通りにしてくれ。逆に気が散る」
「気が散る?!言い方もっとなかった?!」
「あー、でもわかるー。優姫の応援って客席からでも聞こえたのに、今回あんま聞こえねーんだよな」
「たしかにちょっと物足りねーよな」
「ええ、優姫ちゃんの声援ってすごくやる気でるのよね」
「えっ、えっ?えっと、いつもみたいに応援しても、いいんですか…?」
おそるおそる聞いたら、全員が頷いてくれた。嬉しくて、まゆゆをばっと振り返る。
まゆゆはふーんと、どうでもよさそうな顔をしていた。
「オレは関係ないからどっちでもいい」
「まっまゆゆのことは心の中でめちゃくちゃ応援してるから!!赤司の彼ピッピ頑張れって言って良いなら私それで応援するし!!まゆゆのことだってちゃんと応援してるんだよ?!でもまゆゆは今影だから、私が応援して目立たせちゃいけないし、うう」
「馬鹿。冗談だ。お前がオレの応援もしてくれてることなんて、目を見ればわかる」
そう言って、まゆゆは私の目をジッと見つめた。目は口ほどにものを言うと言うけれど、もしかして全部バレてるのかな。
私がまゆゆのことめちゃくちゃ応援してて、バスケしてる姿がかっこいいって思ってて、あのコートの中に、私も一緒に入りたいなんて、思ってること。
そう思ったら途端に恥ずかしくなって、まゆゆから目をそらす。するとまゆゆは私の反応が楽しいのか、笑いながら覗き込んでくる。
「目を見せてくれないと、応援してるのかわかんねーんだけど」
「わーもう!してるってばーっ!!」
まゆゆの視線から一生懸命逃げていたら、あっという間にインターバルは終わってしまったのだった。
「オレ達は何を見せられているんだ」
「永ちゃん、アレがリア充っていうやつだよ」
「彼ピッピとはどういう意味なんだ?」
「征ちゃんは知らなくていいのよ」