影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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予想通り、かがみんは試合開始からゾーンに入っていた。その後も流れに乗った誠凛に点を取られ、開始から9点差をつけられる。
「ウチの4番を狼狽えさせるほどのことではない」
誠凛の流れを断ち切った方がいいのでは、と佐藤先生が監督に聞いたものの、返ってきた言葉は赤司への信頼。チラリと監督が私を見る。私は思いきりニッと笑った。
「大丈夫です!だって、赤司はウチのエースですから!」
強豪校の4番を背負ったのは、その地位を実力で勝ち取ったエースのみ。そのエースを、監督も私も信じているのだ。
コートの中を見れば、チーム全員狼狽える様子もない。赤司がみんなに何かを言ってみんなはそれに頷いていた。
かがみんのマークに、葉山先輩と代わって赤司がついていた。エースとエースの対決。
誠凛はひるむ様子もなく、かがみんにボールを回した。そして、一瞬の対峙。
赤司が手を伸ばし、かがみんはそれを振り切って赤司を抜き、ゴール前で飛んだ。流星のダンク、かがみんがゾーンに入った状態で繰り出される必殺技。けど、何度も赤司のプレイを見てきた私には、あの時赤司が何をしたのかわかっていた。
わざと抜かせたのだ。ゾーン状態でないと繰り出せない流星のダンクは、おそらくとても繊細な技なのだろう。飛ぶ位置がキーとなるその技は、たった一歩でもズレれば外れる。あの時、赤司はわざと一歩分のズレを生じさせた状態で、かがみんに抜かせたのだ。もちろんズレたシュートは入ることはない。
かがみんの流星のダンクは、私の予想通り外れた。誠凛の驚愕する姿が見える。
推測してはみたものの、それを実行するのは容易ではない。相変わらず、赤司の天帝の眼は末恐ろしい。赤司マジ魔王。
けど、誠凛は粘り強かった。赤司がアンクルブレイクでかがみんを転ばせたり、実渕先輩がシュートを打つもそれを止められ、冷静さを欠かないまま試合を続けた。
第1Q、誠凛のロケットスタートからの勢いを殺すことが出来ないままだったが、誠凛の選手交代でその流れが切れると確信した。
交代で出てきたのは、序盤で抜けた黒子テツヤ、黒子っちだったからだ。客席の賑わいで、私含め洛山チームは全員が確信した。黒子っちの影は、機能していない。
「おっと…」
「今の屁の音?!嘘でしょ、なんでこんな時に出るのよ?!っと」
根武谷に怒っていた実渕だが、後ろを歩く黒子に気付いてぶつかる前にスッと避ける。ごめんなさいね、と謝ると、黒子は違和感を感じたような顔で「いえ」と応えた。
やはり、黒子の影の薄さが消えている。気配がはっきりとわかる。
そう確信していたら、その後ろで葉山が珍しく真剣な顔で赤司を呼び止めていた。
「ねー、赤司。火神のマーク、もっかいオレにやらせてくんね?」
「ゾーンは解けているが、荷はまだ重いぞ。できるのか?」
「やるっ!だって、オレ試合開始からバコバコ抜かれてそれっきりだよ?…やり返さなきゃ気がすまない」
それに、と視線がベンチに移る。その先には、優姫がいる。今までは客席にいた#nae1#が、ベンチでオレ達の試合を見て、応援している。
「せっかくだから、先輩としてかっこいーとこ見せてえじゃん」
「……いいだろう。小太郎に任せるよ」
「よっしゃ!ありがと赤司!ふっふー、黛サーン!」
「なんだよ」
葉山はニイっと笑った。
「オレのかっこーとこ見せたら、優姫に惚れられちゃうかもねー?」
「「それはない」」
「ないわね」
「ねーな」
「ちょっと!!黛サンも赤司も即答?!ていうかレオ姉と永ちゃんまでひっでー!!優姫ー!オレの事応援してー!!」
葉山がぶんぶん、とベンチの優姫に手を振ると、それに気づいた優姫も嬉しそうにぶんぶん手を振り返した。結構本気でイラっとしたので、葉山の頭を思い切り叩いてやった。
「すごい!葉山先輩がかがみん抜いて点入れたああああ!!葉山せんぱーい!!超かっけーっす!!惚れてまうやろおおおお!!」
黒子っちのミラクルパスにもきっちり対応した実渕先輩が、誠凛の日向さんのシュートを止めた後、葉山先輩が電光石火の如く点を入れ、誠凛との点差を詰めていった。
かがみんのマークについた時はびっくりしたけど、ドリブルに指を4本使う葉山先輩を見て私もテンションが上がった。嬉しくて葉山先輩に応援の声を飛ばしたら、先輩も嬉しそうに笑って手を振ってくれた。葉山先輩マジ最高っす!
上手く影としてコートを走り回っているまゆゆを見れば、何故だか物凄くジト目をされてしまった。え、まゆゆ何で怒ってるん…あれか、目立てないからなのかまゆゆーっ?!
試合が再開し、黒子っちのパスはさらりと実渕先輩にカットされた。見えていたから取っただけのそれに、誠凛チームに動揺が走るのがわかった。黒子っちの影の薄さが失われていたことに、今、やっと気が付いたからだ。
カットされたボールをまゆゆが掴み、ゴールに近い葉山先輩へ的確に回せば、洛山に追加点が入り、とうとう点差は2点。追いついた。
よしっと、私は拳を握りしめた。
「お前が中学時代、今のスタイルにいきついてから後、僕はパスのバリエーションを増やすことはさせてもシュートやドリブルは身につけさせなかった」
呆然とする黒子に、赤司は現実を叩きつける。
派手な技を使えば、目立つ。当然影の薄さも失われる。光ることを覚えたばかりに、お前は影にもなれなくなったのだ、と。
それだけ告げて、赤司は黒子から離れた。てっきり赤司のことだ、見るに堪えない愚行だとか、失望したよ、とか言いそうなものだと思ったが、そこはまあ、あいつも変わったんだろうな。思ってはいるかもしれないが、そこまで突きつける必要性を今は感じていないのかもしれない。ただ単に、説明めんどいとかだったら笑うけど。
「千尋」
黒子から離れた赤司はオレのところへやってきた。どうやら、もうすぐオレの出番らしい。
「第2Qから、だったよな」
「そうだ。…やっとかっこいいところを見せられるな」
「おい、おい赤司。笑ってんじゃねえかよ。おいお前らもこっちみんな。全員ベンチ戻ったら覚えてろよ」
せっかく目立たないように行動してたのに、お前らのせいで台無しになるだろうが、と怒鳴りたい気持ちを抑えて、近くにいた葉山の頭を叩いた。
「優姫聞いて!黛サンがマジひでーの!!二回も頭殴られた!!」
「えっ何それ葉黛?」
「優姫ちゃん悔しいわー!最後順平ちゃんにスリーやられた!!」
「アレめちゃ悔しかったっす!!…ん?順平ちゃん呼び?」
「チッ、同点かよ。流れは予想通りだったんだけどな」
「誠凛はめちゃ強ですよね…でもでも!洛山だってまだまだこれからですし!!」
第1Qが終わり、ベンチに戻ってきた葉山先輩達にタオルを渡しながら相槌を返す。予想通りの流れでも、勝負は時の運。相手チームだってここまで勝ち上がってきた猛者なのだ。インハイの時とは違って本当に接戦で、見ている私も何度熱中して自分のタオルを床に落としたか。
けど、焦った様子もない監督は腕を組んでチームを見回す。
「様子見はここまでだ、赤司」
「はい。…誠凛の力はもう十分わかった。ここから先は蹂躙するのみ」
そう言って、赤司はチームメイトを見る。
「小太郎、栄吉、玲央、三人には点を取ってもらう」
「よっし!」
「おう!」
「任せて!」
「そして、千尋」
「わかってる」
シューズの紐をきつく結びなおして、まゆゆが頷く。
「お前らにしっかりパスを出すから、蹂躙でもなんでもしてこい」
ま、まゆゆが……。
「まゆゆがデレた……」
「いやまて。今のどこにデレがあった」
「へへ、黛サンにそこまで信頼されちゃ、オレらもしっかりやんねーとね!」
「黛サンがオレらのためにパス出してくれっからな」
「ええ、そうね…やだ、感動で涙出てきちゃう」
「…っ、……っ!!」
「お前ら最近優姫に似てきやがったな…あと赤司、笑いすぎ。息をしろ」
タオルに顔を埋めて笑いを堪える赤司に、にやにや笑う葉山先輩達、それに怒りのツッコミを入れるまゆゆ。
「……チーム仲が良いのは構わないが、水瓶の悪影響が過ぎた気がするな……」
「悪影響?!って赤司それほんとに息できてる?!」
白金監督は頭を抱えながらポツリと呟くと、さらに赤司の腹筋が死んだ。
「第2Qだ。全員気を引き締めていけ」
休憩が終わり、監督の声掛けに全員元気よく頷いてコートへ戻っていく中、私はまゆゆのユニフォームを掴んだ。不思議そうに振り返られて、思わずしどろもどろになる。
「どうした」
「あの、その、まゆゆ…がんばって…」
「…心配すんな。最悪の想定なんて、起きてもねーのにしたってつまんねーだけだぞ」
「!…うん。よし、まゆゆ!まゆゆのバスケ、見せつけてこい!」
「言われなくても」
ポンポン、といつものように私の頭を優しく叩いて、まゆゆはコートの中へ入っていく。
そうだ、応援している私が過剰に不安がってたらダメじゃないか。大丈夫だ、まゆゆはすごいし、このチームがすごいことを知っている。まゆゆのバスケをベンチで見れるんだから、私にできることはここで全力で応援することだ!応援団扇がないのが悔しいね!
「ウソ…だろ」
誠凛の奴らが呆然と立ち尽くす姿に、少し気分が良くなる。
自分の実力など、オレが一番よく知っている。すべてにおいて平均程度のスペックで、3年間バスケ部にいて1軍に入ることもできず、ベンチすら遠い夢だった。
だから、辞めようと思っていた。あの日、優姫に会うまでは。
『好きです、結婚してください』
『初めまして!私、一年の水瓶優姫っていいます!名前を教えてください!』
『まゆゆ、私と友達になってください!!』
まるで世界に色がついたようだった。なんて、ラノベで使い古されたであろう常套句が出てくるほど、オレの世界は変わった。
もう少し、続けてみようかと思った。
そのすぐ後、昼休みに屋上に来た赤司に幻のシックスマンの話をされて、オレはレギュラーになった。最初こそ訝しむ目で見られたが、優姫がトレーナーになってからはもうそんな目で見られることはなくなった。チームとして、受け入れられたし、オレも受け入れた。
優姫、見てるか。
お前がオレに希望を与えてくれたから。
オレは今ここにいる。
「黛千尋は、新型の幻のシックスマンだ」
ミスディレクションでパスを回したことで、誠凛の奴らから視線の集まっているオレのことを、赤司はそう称した。
気分よくコートを走っていたら、後ろから根武谷に思い切り背中を叩かれて少し咽た。
「ナイスパアス!」
「ぐっ!このゴリラめ…」
「おう!ゴリラすげーよな!」
「実渕、こいつ譲るわ」
「要らないわよっ!」
「あっ黛サン!ベンチベンチ!優姫がめっちゃ手振ってる!」
葉山に言われてベンチを見たら、目をキラキラ輝かせて優姫が手を振っていた。その姿が主人を見てはしゃぐ犬に見えて、思わずフッと笑いが出た。おや、急に優姫のやつ固まったな。なんか、顔赤くねーか?
「うわー…今の笑顔ずっるー」
「かっこいいところを見せた後で微笑みときたら、これはもう落としにかかってるよな」
「青春ねっ!きゃーっ!」
「千尋、求愛行動はなるべくコート外でやってくれないか」
「お前ら後でぶん殴る」
笑いを堪えきれていない四人をベンチに戻ったらぶん殴ると心に決めて、オレはポジションにつく。ちなみに、ベンチにいる優姫が「まゆゆ楽しそうですね!」と監督達に話して、ため息をつかれていたことは後から知った。
「ウチの4番を狼狽えさせるほどのことではない」
誠凛の流れを断ち切った方がいいのでは、と佐藤先生が監督に聞いたものの、返ってきた言葉は赤司への信頼。チラリと監督が私を見る。私は思いきりニッと笑った。
「大丈夫です!だって、赤司はウチのエースですから!」
強豪校の4番を背負ったのは、その地位を実力で勝ち取ったエースのみ。そのエースを、監督も私も信じているのだ。
コートの中を見れば、チーム全員狼狽える様子もない。赤司がみんなに何かを言ってみんなはそれに頷いていた。
かがみんのマークに、葉山先輩と代わって赤司がついていた。エースとエースの対決。
誠凛はひるむ様子もなく、かがみんにボールを回した。そして、一瞬の対峙。
赤司が手を伸ばし、かがみんはそれを振り切って赤司を抜き、ゴール前で飛んだ。流星のダンク、かがみんがゾーンに入った状態で繰り出される必殺技。けど、何度も赤司のプレイを見てきた私には、あの時赤司が何をしたのかわかっていた。
わざと抜かせたのだ。ゾーン状態でないと繰り出せない流星のダンクは、おそらくとても繊細な技なのだろう。飛ぶ位置がキーとなるその技は、たった一歩でもズレれば外れる。あの時、赤司はわざと一歩分のズレを生じさせた状態で、かがみんに抜かせたのだ。もちろんズレたシュートは入ることはない。
かがみんの流星のダンクは、私の予想通り外れた。誠凛の驚愕する姿が見える。
推測してはみたものの、それを実行するのは容易ではない。相変わらず、赤司の天帝の眼は末恐ろしい。赤司マジ魔王。
けど、誠凛は粘り強かった。赤司がアンクルブレイクでかがみんを転ばせたり、実渕先輩がシュートを打つもそれを止められ、冷静さを欠かないまま試合を続けた。
第1Q、誠凛のロケットスタートからの勢いを殺すことが出来ないままだったが、誠凛の選手交代でその流れが切れると確信した。
交代で出てきたのは、序盤で抜けた黒子テツヤ、黒子っちだったからだ。客席の賑わいで、私含め洛山チームは全員が確信した。黒子っちの影は、機能していない。
「おっと…」
「今の屁の音?!嘘でしょ、なんでこんな時に出るのよ?!っと」
根武谷に怒っていた実渕だが、後ろを歩く黒子に気付いてぶつかる前にスッと避ける。ごめんなさいね、と謝ると、黒子は違和感を感じたような顔で「いえ」と応えた。
やはり、黒子の影の薄さが消えている。気配がはっきりとわかる。
そう確信していたら、その後ろで葉山が珍しく真剣な顔で赤司を呼び止めていた。
「ねー、赤司。火神のマーク、もっかいオレにやらせてくんね?」
「ゾーンは解けているが、荷はまだ重いぞ。できるのか?」
「やるっ!だって、オレ試合開始からバコバコ抜かれてそれっきりだよ?…やり返さなきゃ気がすまない」
それに、と視線がベンチに移る。その先には、優姫がいる。今までは客席にいた#nae1#が、ベンチでオレ達の試合を見て、応援している。
「せっかくだから、先輩としてかっこいーとこ見せてえじゃん」
「……いいだろう。小太郎に任せるよ」
「よっしゃ!ありがと赤司!ふっふー、黛サーン!」
「なんだよ」
葉山はニイっと笑った。
「オレのかっこーとこ見せたら、優姫に惚れられちゃうかもねー?」
「「それはない」」
「ないわね」
「ねーな」
「ちょっと!!黛サンも赤司も即答?!ていうかレオ姉と永ちゃんまでひっでー!!優姫ー!オレの事応援してー!!」
葉山がぶんぶん、とベンチの優姫に手を振ると、それに気づいた優姫も嬉しそうにぶんぶん手を振り返した。結構本気でイラっとしたので、葉山の頭を思い切り叩いてやった。
「すごい!葉山先輩がかがみん抜いて点入れたああああ!!葉山せんぱーい!!超かっけーっす!!惚れてまうやろおおおお!!」
黒子っちのミラクルパスにもきっちり対応した実渕先輩が、誠凛の日向さんのシュートを止めた後、葉山先輩が電光石火の如く点を入れ、誠凛との点差を詰めていった。
かがみんのマークについた時はびっくりしたけど、ドリブルに指を4本使う葉山先輩を見て私もテンションが上がった。嬉しくて葉山先輩に応援の声を飛ばしたら、先輩も嬉しそうに笑って手を振ってくれた。葉山先輩マジ最高っす!
上手く影としてコートを走り回っているまゆゆを見れば、何故だか物凄くジト目をされてしまった。え、まゆゆ何で怒ってるん…あれか、目立てないからなのかまゆゆーっ?!
試合が再開し、黒子っちのパスはさらりと実渕先輩にカットされた。見えていたから取っただけのそれに、誠凛チームに動揺が走るのがわかった。黒子っちの影の薄さが失われていたことに、今、やっと気が付いたからだ。
カットされたボールをまゆゆが掴み、ゴールに近い葉山先輩へ的確に回せば、洛山に追加点が入り、とうとう点差は2点。追いついた。
よしっと、私は拳を握りしめた。
「お前が中学時代、今のスタイルにいきついてから後、僕はパスのバリエーションを増やすことはさせてもシュートやドリブルは身につけさせなかった」
呆然とする黒子に、赤司は現実を叩きつける。
派手な技を使えば、目立つ。当然影の薄さも失われる。光ることを覚えたばかりに、お前は影にもなれなくなったのだ、と。
それだけ告げて、赤司は黒子から離れた。てっきり赤司のことだ、見るに堪えない愚行だとか、失望したよ、とか言いそうなものだと思ったが、そこはまあ、あいつも変わったんだろうな。思ってはいるかもしれないが、そこまで突きつける必要性を今は感じていないのかもしれない。ただ単に、説明めんどいとかだったら笑うけど。
「千尋」
黒子から離れた赤司はオレのところへやってきた。どうやら、もうすぐオレの出番らしい。
「第2Qから、だったよな」
「そうだ。…やっとかっこいいところを見せられるな」
「おい、おい赤司。笑ってんじゃねえかよ。おいお前らもこっちみんな。全員ベンチ戻ったら覚えてろよ」
せっかく目立たないように行動してたのに、お前らのせいで台無しになるだろうが、と怒鳴りたい気持ちを抑えて、近くにいた葉山の頭を叩いた。
「優姫聞いて!黛サンがマジひでーの!!二回も頭殴られた!!」
「えっ何それ葉黛?」
「優姫ちゃん悔しいわー!最後順平ちゃんにスリーやられた!!」
「アレめちゃ悔しかったっす!!…ん?順平ちゃん呼び?」
「チッ、同点かよ。流れは予想通りだったんだけどな」
「誠凛はめちゃ強ですよね…でもでも!洛山だってまだまだこれからですし!!」
第1Qが終わり、ベンチに戻ってきた葉山先輩達にタオルを渡しながら相槌を返す。予想通りの流れでも、勝負は時の運。相手チームだってここまで勝ち上がってきた猛者なのだ。インハイの時とは違って本当に接戦で、見ている私も何度熱中して自分のタオルを床に落としたか。
けど、焦った様子もない監督は腕を組んでチームを見回す。
「様子見はここまでだ、赤司」
「はい。…誠凛の力はもう十分わかった。ここから先は蹂躙するのみ」
そう言って、赤司はチームメイトを見る。
「小太郎、栄吉、玲央、三人には点を取ってもらう」
「よっし!」
「おう!」
「任せて!」
「そして、千尋」
「わかってる」
シューズの紐をきつく結びなおして、まゆゆが頷く。
「お前らにしっかりパスを出すから、蹂躙でもなんでもしてこい」
ま、まゆゆが……。
「まゆゆがデレた……」
「いやまて。今のどこにデレがあった」
「へへ、黛サンにそこまで信頼されちゃ、オレらもしっかりやんねーとね!」
「黛サンがオレらのためにパス出してくれっからな」
「ええ、そうね…やだ、感動で涙出てきちゃう」
「…っ、……っ!!」
「お前ら最近優姫に似てきやがったな…あと赤司、笑いすぎ。息をしろ」
タオルに顔を埋めて笑いを堪える赤司に、にやにや笑う葉山先輩達、それに怒りのツッコミを入れるまゆゆ。
「……チーム仲が良いのは構わないが、水瓶の悪影響が過ぎた気がするな……」
「悪影響?!って赤司それほんとに息できてる?!」
白金監督は頭を抱えながらポツリと呟くと、さらに赤司の腹筋が死んだ。
「第2Qだ。全員気を引き締めていけ」
休憩が終わり、監督の声掛けに全員元気よく頷いてコートへ戻っていく中、私はまゆゆのユニフォームを掴んだ。不思議そうに振り返られて、思わずしどろもどろになる。
「どうした」
「あの、その、まゆゆ…がんばって…」
「…心配すんな。最悪の想定なんて、起きてもねーのにしたってつまんねーだけだぞ」
「!…うん。よし、まゆゆ!まゆゆのバスケ、見せつけてこい!」
「言われなくても」
ポンポン、といつものように私の頭を優しく叩いて、まゆゆはコートの中へ入っていく。
そうだ、応援している私が過剰に不安がってたらダメじゃないか。大丈夫だ、まゆゆはすごいし、このチームがすごいことを知っている。まゆゆのバスケをベンチで見れるんだから、私にできることはここで全力で応援することだ!応援団扇がないのが悔しいね!
「ウソ…だろ」
誠凛の奴らが呆然と立ち尽くす姿に、少し気分が良くなる。
自分の実力など、オレが一番よく知っている。すべてにおいて平均程度のスペックで、3年間バスケ部にいて1軍に入ることもできず、ベンチすら遠い夢だった。
だから、辞めようと思っていた。あの日、優姫に会うまでは。
『好きです、結婚してください』
『初めまして!私、一年の水瓶優姫っていいます!名前を教えてください!』
『まゆゆ、私と友達になってください!!』
まるで世界に色がついたようだった。なんて、ラノベで使い古されたであろう常套句が出てくるほど、オレの世界は変わった。
もう少し、続けてみようかと思った。
そのすぐ後、昼休みに屋上に来た赤司に幻のシックスマンの話をされて、オレはレギュラーになった。最初こそ訝しむ目で見られたが、優姫がトレーナーになってからはもうそんな目で見られることはなくなった。チームとして、受け入れられたし、オレも受け入れた。
優姫、見てるか。
お前がオレに希望を与えてくれたから。
オレは今ここにいる。
「黛千尋は、新型の幻のシックスマンだ」
ミスディレクションでパスを回したことで、誠凛の奴らから視線の集まっているオレのことを、赤司はそう称した。
気分よくコートを走っていたら、後ろから根武谷に思い切り背中を叩かれて少し咽た。
「ナイスパアス!」
「ぐっ!このゴリラめ…」
「おう!ゴリラすげーよな!」
「実渕、こいつ譲るわ」
「要らないわよっ!」
「あっ黛サン!ベンチベンチ!優姫がめっちゃ手振ってる!」
葉山に言われてベンチを見たら、目をキラキラ輝かせて優姫が手を振っていた。その姿が主人を見てはしゃぐ犬に見えて、思わずフッと笑いが出た。おや、急に優姫のやつ固まったな。なんか、顔赤くねーか?
「うわー…今の笑顔ずっるー」
「かっこいいところを見せた後で微笑みときたら、これはもう落としにかかってるよな」
「青春ねっ!きゃーっ!」
「千尋、求愛行動はなるべくコート外でやってくれないか」
「お前ら後でぶん殴る」
笑いを堪えきれていない四人をベンチに戻ったらぶん殴ると心に決めて、オレはポジションにつく。ちなみに、ベンチにいる優姫が「まゆゆ楽しそうですね!」と監督達に話して、ため息をつかれていたことは後から知った。