影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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ウィンターカップ、最終日。男子バスケ部3位決定戦の海常対秀徳、そして決勝戦、洛山対誠凛の試合が今日行われる。
3位決定戦は前半が終了した時点で、秀徳優勢だった。それもそのはず、黄瀬君が負傷のため出ることができなかったからだ。黄瀬君抜きで緑間君、もといみどっちを止めることは実質不可能だった。それでも、最後まで諦めない海常、そして一切の手を抜かず応える秀徳。
そして、インターバルが入ると今度は決勝戦に進んだ二校のアップが始まる。
それを上から見ていた私は、午前のミーティングのことをふと思い出していた。
「優姫、応援の仕方に関してだが、今日は千尋の名前は出さないように」
「なんで?!」
ウィンターカップでの誠凛の試合を全て見終えて開口一番、赤司は私に釘を刺してきた。あれか、応援団扇が悪かったのか。派手すぎたか。それとも二人の秘密の関係が世間に露呈しそうだから…すみません嘘です、赤司の目が超怖い。
両手を挙げて降参の意を示す私を見て大きく溜息を吐いた後、赤司は止めた画面に映る黒子君、もとい黒子っちを指した。
「今回のキーとなる選手はテツヤ、そして火神の一年コンビだ。だが僕達はすでにテツヤ対策をしている。無論、千尋のことだ。ここまで千尋のことを目立たせないようにしたのは、全てこの決勝戦のためにある」
「オレがするのは、パス回しと適度なシュート、だよな」
「そうだ。テツヤは光ることを覚えてしまったが故に、影であることを少々疎かにしてしまった。僕達はそこをつく。千尋には、テツヤよりも目立たずほどよい影でいてもらう。できるな、千尋」
「…やるしかねーだろ」
ぶっきらぼうな返事だったけど、まゆゆはやる気満々の表情をしていた。その真剣な眼差しを見て、これが最後なんだとふと自覚してしまう。そうだ、これが最後の試合。私は私にできることをしないといけない。勝っても負けても、一切の後悔がないように、全力で挑まないといけないのだ。
ふーっと、息を吐く。少し冷静になった頭で、先ほどの赤司の話を思い返してなるほどと頷く。
「まゆゆが目立っちゃいけないから、応援なんてもってのほかだよね。よし、あえて赤司に目が行くように、私は赤司をメインに応援するよ」
「…あの団扇は断固拒否だからな」
「全部壊されたからもうないっての!!」
それと、と私は赤司からリモコンを借りて映像を巻き戻す。
止めたのは、かがみんがゾーンに入った桐皇戦。
「かがみんは、きっと開始からゾーンに入る。私も聞いた話だからゾーンってよくわからなけど、試合全て見て、かがみんと少し関わって分かった。かがみんのトリガーは仲間のために戦う意志。だからこそ、この決勝戦絶対にスタートからゾーンに入ってる。だって、かがみんはエースだから」
そう、誠凛のエースはかがみんだ。そして、きっと昔青峰を光として見ていた黒子っちの、今の光でもあるだろう。
試合を見ていて、このチームは最初からずっと、チームで戦ってきていた。桐皇も、陽泉もどこかキセキの世代の独壇場だったけれど、誠凛は全員が支え合って出来ているとても良いチームだと思う。
でも、洛山だって良いチームだ。私は最高のチームだと思ってるし、最強だとも思ってる。試合は最後までわからないけれど、それでも私は洛山の勝利を最後まで信じている。
だって、ここが大好きだから。だから、このミーティングも大事にしないといけない。
次に止めたのは、陽泉で黒子っちがブザービーターを決めた場面。
「赤司が言ってた影であることを疎かに、っていうのは多分ここで決定打になったと思う。こんな目立つプレイをした選手が、次の試合で期待されないわけがない。ということは、黒子っちは試合開始からすでに全員に見えてるはず。だからこそまゆゆが生きてくると思うけど、私はその後の対策が必要だと思ってる」
「ほう?どういうことだい?」
「多分だけど、赤司の話を聞いたから思ったんだけど、黒子っちはとっても負けず嫌いだし、人間観察にも長けている。もし自身の影の機能が失われていて、近くに自分と同タイプの選手がいて、しかも基本性能が上だったとしたら。それって、自分よりもそっちの方が目立つんじゃないか、って考えると思わない?」
赤司が、面白いと言わんばかりに目を見開き笑った。私の言葉にハッとしたのは、まゆゆだ。
「オレを逆に目立たせて、影としての力を取り戻すつもりか」
「たしかにテツヤならするだろうね。なるほど、そこまで考えてはいなかった。となると、ますます千尋には影に徹してもらうことになる」
「もし万が一まゆゆが影としての機能を失ってしまったら、そこで秘策をぶっ込むのはどうかな」
「秘策って、もしかして…」
「実渕先輩とまゆゆと赤司の、シュッとしてバシュッと3P!ここで出すことで、相手は動揺する。まゆゆにボールを持たせると不味いと思わせることができる。つまり、まゆゆがもう一度影に戻れる可能性が出てくると思うんだよ」
どうかな、とみんなを見回したら、なぜか全員がキョトンとしていた。あれ、私また何か変なこと言ったかな。疑問符だらけでおろおろしていたら、最初にブハッと根武谷先輩が噴き出した。
「お前、ちゃんとトレーナーの仕事してんじゃねーか!」
「へっ?!」
「いやいやトレーナーってサポートっしょ?どっちかっつーっと司令塔?監督じゃね?」
「ちょっ」
「何言ってんのよあんた達。優姫ちゃんは今までだってちゃんとアドバイスしてくれてたりしたでしょ!」
「あの」
「…ッ、く…ッ…ッ」
「赤司笑いすぎじゃない?!」
全員がわいわいと騒ぎ始めた。あれ、さっきまでのシリアスムード…どこ…。
私何か変なこと言ったかな?!とまゆゆを見れば、まゆゆもどこか楽しそうに笑っていた。
「つーか、まだそんな変な技名で呼んでんのかよ」
「えっええーっ?!シュッとしてバシュッと3Pダメ?!す、スカイキャッチシュート…とか?!」
「厨二病乙…くっ」
「きーっ!まゆゆ笑いすぎだからーっ!!」
ぽかぽかっと叩いたら、ますますまゆゆはお腹を抱えて笑う。
これが、決勝戦最後のミーティング。まさかこんなに賑やかなものになるとは思ってなかったけど、うん、なんだかうちらしくてこれで良かった気がする。
最後まで、楽しんで、勝負に挑みたい。
ミーティングも終わり、会場内限定で自由時間となった後もまゆゆについて行くと、ふと会場の廊下でまゆゆが足を止めた。
「まゆゆ?」
「言っておくけど、オレは洛山に対して愛着はねえ」
「うん」
「お前と初めて会った日、本当はバスケ部を辞めようとしてたんだ」
なんとなく、分かってた。
初めて会った時、ラノベを持っていたまゆゆの表情。
どこか、全てを傍観しているような目をしていた。諦めたような、諦め切れていないような、一欠片の希望を待ち望んでいたような、何かを期待している目。そんな目で、私を見ていた。
名も知らぬ誰かとここでぶつかったことに何か意味があってほしいと、そう思っているような目に、私は言ってやりたかった。
ここで出会ったのは、運命だ。
とても良い声の儚い系イケメンに、頭の中でファンファーレが鳴ったんだよ。
これは、この出会いは、運命の出会いだ。直感でそう思ったんだよ。
仲良くなりたかった。友達になりたかった。
だから、あの日手を握り返してはくれなかったけど、その手が私の頭を撫でてくれたから。
「私が女子バスケ部に体験入部した時、マネージャーはどうかって言ってくれて嬉しかった。男子と同等の練習も一緒にやりきれて楽しかった。インハイ予選の初戦突破祝勝会の焼き肉!本当に美味しかった!インハイ優勝も感動して泣いちゃったっけ。夏合宿も楽しかったね、最後の肝試しでたまたま一緒だった桐皇の青峰にまゆゆが怯えられてたのも笑ったなあ」
春から夏、インターハイ。それから秋。
「勉強合宿は死ぬかと思ったけど、ほんと手伝ってくれてありがとね。そういえば学祭のまゆゆのクラスのお化け屋敷で、葉山先輩がめちゃくちゃ叫んでたなあ。うちの演劇喫茶にも来てくれて、ていうか私髪下ろしたらそんなに別人に見えるかな?でも、楽しかった。男バスのクラシックコンサートも、みんなが私も部員だって言ってくれて、本当に嬉しくてね」
そして冬。ウィンターカップ。
「ここまで、沢山の試合をしてきて、私に何が出来たのかなってすごく考えた。きっと何も出来てない私だけど私は私にできることを精一杯やってきた。それで、みんなが仲間だって言ってくれるから、私は最後までここでみんなの応援をするって決めたんだ」
たくさんの思い出がある。どれもが色鮮やかに思い出せて、かけがえのない宝物になった。
それってね、まゆゆと出会えたからなんだよ。こんなにたくさんの思い出と宝物ができたのって、まゆゆと出会えたからなんだ。だから。
「まゆゆと、出会えてよかった。あの日、私と出会ってくれて、ありがとう」
そう言ったら、まゆゆが私の腕を引いた。えっと声が出る頃には、まゆゆの腕の中にいて、少し痛いくらい抱きしめられた。
「まっ、まゆゆっ?!」
「…あの日」
「うんっ?!」
「オレを見つけてくれて、ありがとう」
その言葉の意味を聞く前に赤司達が来たからまゆゆは離れていき、ミスディレして姿を消した。一人取り残された私は、赤司達にどうしたと聞かれてもうまく答えられず、曖昧にごまかしてみんなと自由時間を過ごした。
(まゆゆもさ、もしかして私と同じ気持ちだってことなのかな)
私と出会えて、よかったと思ってくれていたらとてもうれしい。
まゆゆ、今日は声に出して応援はできないけど、私は全力でまゆゆの応援をするよ。
だって私は、まゆゆのファン第一号なんだから!
ゲェーーーーーップ
「アンタどんだけ食ってきたのよ?!長すぎでしょ!!過去最長じゃないの?!」
「おお、今日はMAX食ってきたからよ!なんせ、オレのマッチアップは木吉だろ?あいつとは因縁もあるしな!…つい、筋力がふくれあがっちまう」
根武谷の長いゲップと意気込みを聞いた実渕はあきれたように肩をすくめた。隣で聞いていた葉山がレオ姉は?と聞いている。
「日向順平に決まってるでしょ。イモくさいのはタイプじゃないけど、ちゃんとかわいがってあげるわ」
向こうでアップ中の日向とやらが寒気を感じているような気がするな。
「それより心配なのはアンタなんだけど。マークは火神でしょ?」
「うん!ヤバいね!でもすっげー楽しみなんだよね!ねー黛サン!」
「オレに振るなって言ってんだろ」
「赤司は今日もスタートから出るだろ?」
「もちろんだ」
根武谷に聞かれて、赤司がボールを受け取りながら頷く。
「彼らは強い。決して油断はできない。だが絶対は僕だ。…そして、勝つのは洛山だ」
ニッと、全員が笑う。四月当初の赤司にこれを言われていたら、きっと寒気がすることこの上なかっただろう。この言葉の真意は俺たちの力を信用しているが、チームとして信じているわけではないと、あの頃のままならそう思っていた。
だが、今は違う。オレ達を信じ、チームとして勝とうと思ってくれているという意味だと、オレ達はもう知っている。
コロ、と、ボールが転がってきた。それを拾い上げて、赤司が投げ返す。
「ついにこの日が来たね、テツヤ」
「はい、赤司君」
ボールを受け取ったのは、誠凛の黒子だった。その眼は闘志に溢れていて、赤司を見つめていた。
「正直驚いているよ。お前がここまで来る可能性は低いと思っていた。あの時の答えは出たかと聞こうと思っていたんだが、もうその必要はないね」
「…はい。僕が見せるのは、僕達のバスケです。それが、答えです」
「受けてたとう、テツヤ」
赤司がそう言うと、前に見た緑間と同じような顔をした黒子。だがそれも一瞬のことで、すぐにフッと笑った。
「本当に君は変わりましたね。きっと皆からも言われたことでしょう」
「ああ。昨日も真太郎に言われたばかりだよ」
「君を変えたのは、やはりトレーナーの彼女ですか?火神君が、腕は大丈夫かと心配していました」
「…ああ、腫れは引いた。心配ないと伝えておいてくれ。それと」
「怒っているのはわかっています。だから容赦はしないと先日言いましたよね。けど、きっと今の赤司君なら、彼女のことがなくても手を抜くことなんて一切しないでしょう?」
黒子は、赤司の変化にはもう納得していたのだろう。変えてくれた人がいることも、もう知っていた。だからこそ、今の赤司は昔と違い相手を蔑ろにするプレイは絶対にしないと確信している。
そんな黒子に、赤司は当然だと笑って、アップの時間は終わった。
秀徳と海常の試合結果は、当然のごとく秀徳の勝ち。
そして、これから決勝戦が始まる。
「水瓶。身支度は整っているか?」
「監督!はい!水瓶準備万端です!このタオル、昨日夜なべして簡単に刺繍して、アルファベットで洛山って入れたんです!客席からの応援、任せてくださいよ!」
「そうか、ではそれは客席で応援する彼らに渡しておこう」
「なんで?!これダメでした?!」
まあまあ、と樋口先輩が私の背を押す。タオルは監督の手により奪われ、先輩方へと回されてしまった。どこに連れていかれるのか、と後ろで客席に向かう先輩達を見ると、グッと親指を立てられた。それなんのジェスチャーなんです?!
「あ、あの、こっちコートなんですけど、あの、私なんでこっちに連れて行かれてんですかね、あの、樋口先輩なんでちょっと笑ってるんですか?!監督も無言なのなんでです?!」
ついてしまった。決勝戦の、舞台へ。
コートの中に入るのは初めてで、そこから客席を見ると、もうすでに席についている洛山の部員がいて手を振ってくれた。いや、そうじゃなくて!なんで私ここに連れてこられたの?!いや、来たいとは思ったけど、結局赤司に頼めてないし、ていうかこんな大舞台のタイミングでここに来ることになるなんて思ってなかったよ?!どういうことなの?!
「水瓶はここに座りなさい」
「す、すす、座っていいんですか…?」
「当然だ」
監督に言われておろおろしながら、ベンチ用に並べられたパイプ椅子に座ってみる。ずっと、ここから応援したかった。けど、私はマネージャーじゃないし、アシスタントコーチの佐藤先生みたいな凄い役職でもないし、というか括弧仮みたいなトレーナーだから、ここには来られないと思ってた。
すごい、ここから感じる会場の熱狂具合。こんな緊張感の中、みんなは戦っていたんだ。
《試合に先立まして、両チームの紹介を行います》
「えっ?!」
《初めに黒のユニフォーム、誠凛高校。引率教諭、武田健司………》
あ、挨拶始まった?!ま、まゆゆ達どこ、あ、ベンチにハイタッチできるように端に並んでる。どういうことなの、とまゆゆ達を見たら、やっと目が合った。
それから、全員が何か企んでるような笑みでグッと親指を立てた。いやだから、そうじゃなくて?!
《続いて白のユニフォーム、洛山高校》
ふぁーー?!洛山高校の挨拶に入っちゃったよーーー?!
なんかドキドキしてきた。よくわかんないけど、ここでハイタッチすればいいんだね?!よしきた、全力のハイタッチ食らわせるよ!
《監督、白金栄治。アシスタントコーチ、佐藤拓生》
名前を呼ばれて、監督がスッと綺麗な会釈をし、続いて呼ばれた佐藤先生も同じく綺麗な会釈をしてみせた。そして。
《トレーナー、水瓶優姫》
名前が、呼ばれた。
え、と惚けていたら、樋口先輩に挨拶、と言われて慌てて立ち上がって会釈をする。それから次に、マネージャーの樋口先輩の名前が呼ばれて、続くはスターティングメンバーの紹介に入る。
《8番、根武谷栄吉》
「うおっしゃあ!!」
根武谷先輩がベンチにハイタッチに来る。私の前まできて、疑問符だらけで手を出した私の手を勢いよく叩いて、豪快に笑った。
「驚いただろ!そんじゃ、行ってくるわ!」
《7番、葉山小太郎》
「よっし!!」
次に呼ばれた葉山先輩もベンチにハイタッチしていき、私の手をパシッと叩いてニカッと笑った。
「最後はやっぱ、一緒じゃねーとな!」
《6番、実渕玲央》
「ふふ」
実渕先輩も私の手を叩いて、悪戯が成功した時のような小悪魔な笑みを浮かべてウィンクをした。
「これ考えたの、黛サンなのよ?最後はやっぱり、優姫ちゃんもベンチに入れてやってくれって」
《5番、黛千尋》
「……」
まゆゆの名前が呼ばれた。先に呼ばれた三人と同じように、まゆゆもベンチにハイタッチに来る。私の前まで来て、少しスピードを緩めた。
「泣くのはえーだろ」
「…っ、泣いてないけど、でもこんなの嬉しすぎて、ううーっ」
「はいはい、いいからそこで見てろよ。オレ達のバスケを」
顔を上げたら、まゆゆが手を出していた。少し滲んだ涙をぬぐって、私は全力込めてまゆゆの手を叩いて笑った。
「がんばれまゆゆ!!」
「おう」
《4番、主将。赤司征十郎》
まゆゆがコートへ整列に向かうと同時に、赤司の名前が呼ばれた。ベンチにハイタッチして、私の前までやってきた赤司。赤司はどうだ、驚いただろうと言わんばかりに笑っていたから、その手を勢いよく叩いてやった。
「行ってこい赤司!!」
「行ってくるよ、優姫」
《それではこれより、ウィンターカップ決勝戦、誠凛高校対洛山高校の試合を始めます》
3位決定戦は前半が終了した時点で、秀徳優勢だった。それもそのはず、黄瀬君が負傷のため出ることができなかったからだ。黄瀬君抜きで緑間君、もといみどっちを止めることは実質不可能だった。それでも、最後まで諦めない海常、そして一切の手を抜かず応える秀徳。
そして、インターバルが入ると今度は決勝戦に進んだ二校のアップが始まる。
それを上から見ていた私は、午前のミーティングのことをふと思い出していた。
「優姫、応援の仕方に関してだが、今日は千尋の名前は出さないように」
「なんで?!」
ウィンターカップでの誠凛の試合を全て見終えて開口一番、赤司は私に釘を刺してきた。あれか、応援団扇が悪かったのか。派手すぎたか。それとも二人の秘密の関係が世間に露呈しそうだから…すみません嘘です、赤司の目が超怖い。
両手を挙げて降参の意を示す私を見て大きく溜息を吐いた後、赤司は止めた画面に映る黒子君、もとい黒子っちを指した。
「今回のキーとなる選手はテツヤ、そして火神の一年コンビだ。だが僕達はすでにテツヤ対策をしている。無論、千尋のことだ。ここまで千尋のことを目立たせないようにしたのは、全てこの決勝戦のためにある」
「オレがするのは、パス回しと適度なシュート、だよな」
「そうだ。テツヤは光ることを覚えてしまったが故に、影であることを少々疎かにしてしまった。僕達はそこをつく。千尋には、テツヤよりも目立たずほどよい影でいてもらう。できるな、千尋」
「…やるしかねーだろ」
ぶっきらぼうな返事だったけど、まゆゆはやる気満々の表情をしていた。その真剣な眼差しを見て、これが最後なんだとふと自覚してしまう。そうだ、これが最後の試合。私は私にできることをしないといけない。勝っても負けても、一切の後悔がないように、全力で挑まないといけないのだ。
ふーっと、息を吐く。少し冷静になった頭で、先ほどの赤司の話を思い返してなるほどと頷く。
「まゆゆが目立っちゃいけないから、応援なんてもってのほかだよね。よし、あえて赤司に目が行くように、私は赤司をメインに応援するよ」
「…あの団扇は断固拒否だからな」
「全部壊されたからもうないっての!!」
それと、と私は赤司からリモコンを借りて映像を巻き戻す。
止めたのは、かがみんがゾーンに入った桐皇戦。
「かがみんは、きっと開始からゾーンに入る。私も聞いた話だからゾーンってよくわからなけど、試合全て見て、かがみんと少し関わって分かった。かがみんのトリガーは仲間のために戦う意志。だからこそ、この決勝戦絶対にスタートからゾーンに入ってる。だって、かがみんはエースだから」
そう、誠凛のエースはかがみんだ。そして、きっと昔青峰を光として見ていた黒子っちの、今の光でもあるだろう。
試合を見ていて、このチームは最初からずっと、チームで戦ってきていた。桐皇も、陽泉もどこかキセキの世代の独壇場だったけれど、誠凛は全員が支え合って出来ているとても良いチームだと思う。
でも、洛山だって良いチームだ。私は最高のチームだと思ってるし、最強だとも思ってる。試合は最後までわからないけれど、それでも私は洛山の勝利を最後まで信じている。
だって、ここが大好きだから。だから、このミーティングも大事にしないといけない。
次に止めたのは、陽泉で黒子っちがブザービーターを決めた場面。
「赤司が言ってた影であることを疎かに、っていうのは多分ここで決定打になったと思う。こんな目立つプレイをした選手が、次の試合で期待されないわけがない。ということは、黒子っちは試合開始からすでに全員に見えてるはず。だからこそまゆゆが生きてくると思うけど、私はその後の対策が必要だと思ってる」
「ほう?どういうことだい?」
「多分だけど、赤司の話を聞いたから思ったんだけど、黒子っちはとっても負けず嫌いだし、人間観察にも長けている。もし自身の影の機能が失われていて、近くに自分と同タイプの選手がいて、しかも基本性能が上だったとしたら。それって、自分よりもそっちの方が目立つんじゃないか、って考えると思わない?」
赤司が、面白いと言わんばかりに目を見開き笑った。私の言葉にハッとしたのは、まゆゆだ。
「オレを逆に目立たせて、影としての力を取り戻すつもりか」
「たしかにテツヤならするだろうね。なるほど、そこまで考えてはいなかった。となると、ますます千尋には影に徹してもらうことになる」
「もし万が一まゆゆが影としての機能を失ってしまったら、そこで秘策をぶっ込むのはどうかな」
「秘策って、もしかして…」
「実渕先輩とまゆゆと赤司の、シュッとしてバシュッと3P!ここで出すことで、相手は動揺する。まゆゆにボールを持たせると不味いと思わせることができる。つまり、まゆゆがもう一度影に戻れる可能性が出てくると思うんだよ」
どうかな、とみんなを見回したら、なぜか全員がキョトンとしていた。あれ、私また何か変なこと言ったかな。疑問符だらけでおろおろしていたら、最初にブハッと根武谷先輩が噴き出した。
「お前、ちゃんとトレーナーの仕事してんじゃねーか!」
「へっ?!」
「いやいやトレーナーってサポートっしょ?どっちかっつーっと司令塔?監督じゃね?」
「ちょっ」
「何言ってんのよあんた達。優姫ちゃんは今までだってちゃんとアドバイスしてくれてたりしたでしょ!」
「あの」
「…ッ、く…ッ…ッ」
「赤司笑いすぎじゃない?!」
全員がわいわいと騒ぎ始めた。あれ、さっきまでのシリアスムード…どこ…。
私何か変なこと言ったかな?!とまゆゆを見れば、まゆゆもどこか楽しそうに笑っていた。
「つーか、まだそんな変な技名で呼んでんのかよ」
「えっええーっ?!シュッとしてバシュッと3Pダメ?!す、スカイキャッチシュート…とか?!」
「厨二病乙…くっ」
「きーっ!まゆゆ笑いすぎだからーっ!!」
ぽかぽかっと叩いたら、ますますまゆゆはお腹を抱えて笑う。
これが、決勝戦最後のミーティング。まさかこんなに賑やかなものになるとは思ってなかったけど、うん、なんだかうちらしくてこれで良かった気がする。
最後まで、楽しんで、勝負に挑みたい。
ミーティングも終わり、会場内限定で自由時間となった後もまゆゆについて行くと、ふと会場の廊下でまゆゆが足を止めた。
「まゆゆ?」
「言っておくけど、オレは洛山に対して愛着はねえ」
「うん」
「お前と初めて会った日、本当はバスケ部を辞めようとしてたんだ」
なんとなく、分かってた。
初めて会った時、ラノベを持っていたまゆゆの表情。
どこか、全てを傍観しているような目をしていた。諦めたような、諦め切れていないような、一欠片の希望を待ち望んでいたような、何かを期待している目。そんな目で、私を見ていた。
名も知らぬ誰かとここでぶつかったことに何か意味があってほしいと、そう思っているような目に、私は言ってやりたかった。
ここで出会ったのは、運命だ。
とても良い声の儚い系イケメンに、頭の中でファンファーレが鳴ったんだよ。
これは、この出会いは、運命の出会いだ。直感でそう思ったんだよ。
仲良くなりたかった。友達になりたかった。
だから、あの日手を握り返してはくれなかったけど、その手が私の頭を撫でてくれたから。
「私が女子バスケ部に体験入部した時、マネージャーはどうかって言ってくれて嬉しかった。男子と同等の練習も一緒にやりきれて楽しかった。インハイ予選の初戦突破祝勝会の焼き肉!本当に美味しかった!インハイ優勝も感動して泣いちゃったっけ。夏合宿も楽しかったね、最後の肝試しでたまたま一緒だった桐皇の青峰にまゆゆが怯えられてたのも笑ったなあ」
春から夏、インターハイ。それから秋。
「勉強合宿は死ぬかと思ったけど、ほんと手伝ってくれてありがとね。そういえば学祭のまゆゆのクラスのお化け屋敷で、葉山先輩がめちゃくちゃ叫んでたなあ。うちの演劇喫茶にも来てくれて、ていうか私髪下ろしたらそんなに別人に見えるかな?でも、楽しかった。男バスのクラシックコンサートも、みんなが私も部員だって言ってくれて、本当に嬉しくてね」
そして冬。ウィンターカップ。
「ここまで、沢山の試合をしてきて、私に何が出来たのかなってすごく考えた。きっと何も出来てない私だけど私は私にできることを精一杯やってきた。それで、みんなが仲間だって言ってくれるから、私は最後までここでみんなの応援をするって決めたんだ」
たくさんの思い出がある。どれもが色鮮やかに思い出せて、かけがえのない宝物になった。
それってね、まゆゆと出会えたからなんだよ。こんなにたくさんの思い出と宝物ができたのって、まゆゆと出会えたからなんだ。だから。
「まゆゆと、出会えてよかった。あの日、私と出会ってくれて、ありがとう」
そう言ったら、まゆゆが私の腕を引いた。えっと声が出る頃には、まゆゆの腕の中にいて、少し痛いくらい抱きしめられた。
「まっ、まゆゆっ?!」
「…あの日」
「うんっ?!」
「オレを見つけてくれて、ありがとう」
その言葉の意味を聞く前に赤司達が来たからまゆゆは離れていき、ミスディレして姿を消した。一人取り残された私は、赤司達にどうしたと聞かれてもうまく答えられず、曖昧にごまかしてみんなと自由時間を過ごした。
(まゆゆもさ、もしかして私と同じ気持ちだってことなのかな)
私と出会えて、よかったと思ってくれていたらとてもうれしい。
まゆゆ、今日は声に出して応援はできないけど、私は全力でまゆゆの応援をするよ。
だって私は、まゆゆのファン第一号なんだから!
ゲェーーーーーップ
「アンタどんだけ食ってきたのよ?!長すぎでしょ!!過去最長じゃないの?!」
「おお、今日はMAX食ってきたからよ!なんせ、オレのマッチアップは木吉だろ?あいつとは因縁もあるしな!…つい、筋力がふくれあがっちまう」
根武谷の長いゲップと意気込みを聞いた実渕はあきれたように肩をすくめた。隣で聞いていた葉山がレオ姉は?と聞いている。
「日向順平に決まってるでしょ。イモくさいのはタイプじゃないけど、ちゃんとかわいがってあげるわ」
向こうでアップ中の日向とやらが寒気を感じているような気がするな。
「それより心配なのはアンタなんだけど。マークは火神でしょ?」
「うん!ヤバいね!でもすっげー楽しみなんだよね!ねー黛サン!」
「オレに振るなって言ってんだろ」
「赤司は今日もスタートから出るだろ?」
「もちろんだ」
根武谷に聞かれて、赤司がボールを受け取りながら頷く。
「彼らは強い。決して油断はできない。だが絶対は僕だ。…そして、勝つのは洛山だ」
ニッと、全員が笑う。四月当初の赤司にこれを言われていたら、きっと寒気がすることこの上なかっただろう。この言葉の真意は俺たちの力を信用しているが、チームとして信じているわけではないと、あの頃のままならそう思っていた。
だが、今は違う。オレ達を信じ、チームとして勝とうと思ってくれているという意味だと、オレ達はもう知っている。
コロ、と、ボールが転がってきた。それを拾い上げて、赤司が投げ返す。
「ついにこの日が来たね、テツヤ」
「はい、赤司君」
ボールを受け取ったのは、誠凛の黒子だった。その眼は闘志に溢れていて、赤司を見つめていた。
「正直驚いているよ。お前がここまで来る可能性は低いと思っていた。あの時の答えは出たかと聞こうと思っていたんだが、もうその必要はないね」
「…はい。僕が見せるのは、僕達のバスケです。それが、答えです」
「受けてたとう、テツヤ」
赤司がそう言うと、前に見た緑間と同じような顔をした黒子。だがそれも一瞬のことで、すぐにフッと笑った。
「本当に君は変わりましたね。きっと皆からも言われたことでしょう」
「ああ。昨日も真太郎に言われたばかりだよ」
「君を変えたのは、やはりトレーナーの彼女ですか?火神君が、腕は大丈夫かと心配していました」
「…ああ、腫れは引いた。心配ないと伝えておいてくれ。それと」
「怒っているのはわかっています。だから容赦はしないと先日言いましたよね。けど、きっと今の赤司君なら、彼女のことがなくても手を抜くことなんて一切しないでしょう?」
黒子は、赤司の変化にはもう納得していたのだろう。変えてくれた人がいることも、もう知っていた。だからこそ、今の赤司は昔と違い相手を蔑ろにするプレイは絶対にしないと確信している。
そんな黒子に、赤司は当然だと笑って、アップの時間は終わった。
秀徳と海常の試合結果は、当然のごとく秀徳の勝ち。
そして、これから決勝戦が始まる。
「水瓶。身支度は整っているか?」
「監督!はい!水瓶準備万端です!このタオル、昨日夜なべして簡単に刺繍して、アルファベットで洛山って入れたんです!客席からの応援、任せてくださいよ!」
「そうか、ではそれは客席で応援する彼らに渡しておこう」
「なんで?!これダメでした?!」
まあまあ、と樋口先輩が私の背を押す。タオルは監督の手により奪われ、先輩方へと回されてしまった。どこに連れていかれるのか、と後ろで客席に向かう先輩達を見ると、グッと親指を立てられた。それなんのジェスチャーなんです?!
「あ、あの、こっちコートなんですけど、あの、私なんでこっちに連れて行かれてんですかね、あの、樋口先輩なんでちょっと笑ってるんですか?!監督も無言なのなんでです?!」
ついてしまった。決勝戦の、舞台へ。
コートの中に入るのは初めてで、そこから客席を見ると、もうすでに席についている洛山の部員がいて手を振ってくれた。いや、そうじゃなくて!なんで私ここに連れてこられたの?!いや、来たいとは思ったけど、結局赤司に頼めてないし、ていうかこんな大舞台のタイミングでここに来ることになるなんて思ってなかったよ?!どういうことなの?!
「水瓶はここに座りなさい」
「す、すす、座っていいんですか…?」
「当然だ」
監督に言われておろおろしながら、ベンチ用に並べられたパイプ椅子に座ってみる。ずっと、ここから応援したかった。けど、私はマネージャーじゃないし、アシスタントコーチの佐藤先生みたいな凄い役職でもないし、というか括弧仮みたいなトレーナーだから、ここには来られないと思ってた。
すごい、ここから感じる会場の熱狂具合。こんな緊張感の中、みんなは戦っていたんだ。
《試合に先立まして、両チームの紹介を行います》
「えっ?!」
《初めに黒のユニフォーム、誠凛高校。引率教諭、武田健司………》
あ、挨拶始まった?!ま、まゆゆ達どこ、あ、ベンチにハイタッチできるように端に並んでる。どういうことなの、とまゆゆ達を見たら、やっと目が合った。
それから、全員が何か企んでるような笑みでグッと親指を立てた。いやだから、そうじゃなくて?!
《続いて白のユニフォーム、洛山高校》
ふぁーー?!洛山高校の挨拶に入っちゃったよーーー?!
なんかドキドキしてきた。よくわかんないけど、ここでハイタッチすればいいんだね?!よしきた、全力のハイタッチ食らわせるよ!
《監督、白金栄治。アシスタントコーチ、佐藤拓生》
名前を呼ばれて、監督がスッと綺麗な会釈をし、続いて呼ばれた佐藤先生も同じく綺麗な会釈をしてみせた。そして。
《トレーナー、水瓶優姫》
名前が、呼ばれた。
え、と惚けていたら、樋口先輩に挨拶、と言われて慌てて立ち上がって会釈をする。それから次に、マネージャーの樋口先輩の名前が呼ばれて、続くはスターティングメンバーの紹介に入る。
《8番、根武谷栄吉》
「うおっしゃあ!!」
根武谷先輩がベンチにハイタッチに来る。私の前まできて、疑問符だらけで手を出した私の手を勢いよく叩いて、豪快に笑った。
「驚いただろ!そんじゃ、行ってくるわ!」
《7番、葉山小太郎》
「よっし!!」
次に呼ばれた葉山先輩もベンチにハイタッチしていき、私の手をパシッと叩いてニカッと笑った。
「最後はやっぱ、一緒じゃねーとな!」
《6番、実渕玲央》
「ふふ」
実渕先輩も私の手を叩いて、悪戯が成功した時のような小悪魔な笑みを浮かべてウィンクをした。
「これ考えたの、黛サンなのよ?最後はやっぱり、優姫ちゃんもベンチに入れてやってくれって」
《5番、黛千尋》
「……」
まゆゆの名前が呼ばれた。先に呼ばれた三人と同じように、まゆゆもベンチにハイタッチに来る。私の前まで来て、少しスピードを緩めた。
「泣くのはえーだろ」
「…っ、泣いてないけど、でもこんなの嬉しすぎて、ううーっ」
「はいはい、いいからそこで見てろよ。オレ達のバスケを」
顔を上げたら、まゆゆが手を出していた。少し滲んだ涙をぬぐって、私は全力込めてまゆゆの手を叩いて笑った。
「がんばれまゆゆ!!」
「おう」
《4番、主将。赤司征十郎》
まゆゆがコートへ整列に向かうと同時に、赤司の名前が呼ばれた。ベンチにハイタッチして、私の前までやってきた赤司。赤司はどうだ、驚いただろうと言わんばかりに笑っていたから、その手を勢いよく叩いてやった。
「行ってこい赤司!!」
「行ってくるよ、優姫」
《それではこれより、ウィンターカップ決勝戦、誠凛高校対洛山高校の試合を始めます》