影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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「とりあえず上から見てただけでも十個くらいカプが組めたんだけど」
「準決のインターバル入って第一声がそれってダメだろ」
そんな感じで控え室で手を組んで出迎えたら、なぜだか知らないけど全員に溜息を吐かれた。あれ、結構本気で呆れられてる?いやでも会話全然聞こえなかったけど、葉山先輩が秀徳の宮地さんとまゆゆと三角関係に見えてたりしたんだけど?!あと赤司にかがみんが転ばされてたんだけど何してたのアレ?!
みんなに何があったか聞こうとしていたら、赤司にベシっと頭を叩かれた。
「あと七分しかないんだ。早く全員にスポドリを配れ」
「そうだったそうだった。はい、新しいスポドリ!んで、今どんな感じ?!秀徳やっぱ強いですよね?!」
「おお、めちゃくちゃつえー!」
「一応連携には要注意って前征ちゃんが言ってたから気をつけてるんだけど、緑間君が厄介なのよね」
「黛サンと二人がかりで止めてる状態だしなぁ」
「疲れる」
こんなに疲れが出てるみんなを見るのは初めてかもしれない。やっぱり、秀徳高校は強いんだ。キセキの世代、緑間真太郎を獲得した高校。もちろん強さはそれだけじゃない、チームの連携の的確さ、力強さも桁違いだ。
「でも!うちだって強いですから!!赤司だってまだまだ必殺技使ってないし、実渕先輩のスリーも切れ味抜群だし、根武谷先輩のリバウンドだって最強だし、葉山先輩のドリブルに敵無しだし、まゆゆのパス回しだって誰にも止められないし!!」
フンス!と拳を握って力説したら、赤司主将だけ褒め言葉が微妙だと樋口先輩にこそりと言われた。あれ、そう言われればたしかに微妙だな?!
「あ、アレだよアレ、私はあと1回俺は弟より多く変身できるのだ…みたいな!!」
「それネタわかるやついるのか?」
「まゆゆがわかってくれるからいいんだよ!!」
フフッ!と、赤司が噴き出した。そのまま立ち上がると、驚いている私の腕を掴んで、痛む患部をそっと撫でる。
「痛むか?」
「え?あ、少しだけ…でも応援するのに支障なし!」
「そうか。なら、いいんだ。引き続き、出禁にならない程度に応援を頼むよ」
「出禁になるレベルの応援したことないよ?!」
赤司はまた笑って、それからベンチに座り直した。一体、今のは何だったのか。というか、仕草とかがすごく兄貴に似ててびっくりした。私が怪我をした時とか、ふと患部を優しく撫でて「痛むか?」と聞いてくれ、大丈夫だと言うとほっとしたように笑うのだ。今のはもしかして、私の腕を心配してくれたのかな。やっぱり、赤司は良い奴だなあ。
「腕、ほんとに大丈夫?」
そう言って今度は葉山先輩が撫でてくれた。
「大丈夫っす!!みんなが一世一代の大試合してるのに、私がへこたれてるわけにはいきません!!」
そうだ、私はみんなの応援を全力でするのだ。みんなに心配をかけている場合じゃない。
ガサゴソ、と私は鞄の中を漁る。こちらを覗き込んでいるみんなに、私はどや顔で振り返って、持ってきたものをみんなの前に披露してみせた。
「じゃーん!!応援団扇を作りました!!『実渕先輩今日もお美しい!』『葉山先輩飛び跳ねて!』『根武谷先輩マッスルマッスル!』『赤司様ウィンクして!』『まゆゆ投げキッスして!』!これ別バージョンも作ってまして、『赤司様ズガタカして!』とか『まゆゆキス待ち顔して!』とか…ああああああ自信作が膝で折られていくうううううう!!!」
徹夜で作った応援団扇は目が笑っていない赤司の笑い声と共にボキリボキリと悲しい音を立てて壊されていったのだった。
後半戦が開始して早々、赤司は絶好調だった。緑間のノーフェイクのスリーを天帝の眼<エンペラーアイ>で容易く止め、第4Qに入る頃には14点の差がついていた。
相変わらず、あの眼は恐ろしく感じる。敵だったらと思うとぞっとする。力の差を見せつけるように、ディフェンスに来た秀徳の二人もアンクルブレイクで転ばせ、優雅に歩く姿はまさに王の歩みだ。
「征ちゃん、誠凛の火神君と対峙したときはヒヤヒヤしたけど、控え室で優姫ちゃんと話して持ち直したみたいね」
「客席で優姫が『赤司マジ魔王』って言ってる気がするー」
「いや多分言ってるだろ」
「お前達、試合中だぞ」
「「「すみません!!」」」
その赤司に怒られて、五冠の三人はビシッと背筋を伸ばして謝っていた。けど、赤司は楽しそうに笑っている。本気で怒ってはいない。というか、おそらくこれから何かをしかけてこようとしている秀徳のプレイを、楽しみにしているのだろう。
そして、秀徳が息の合った動きをしてみせた。全員が何かを仕掛けることがわかっているようで、視線は緑間へ向かう。見ると、赤司と一対一をしている緑間が腰を落とし、手はまるでボールを持っているかのように掲げていた。赤司がハッと目を見開き、一瞬反応が遅れた。緑間がシュートモーションで飛び、その空の手には。
高尾から放たれたボールが収まった。
そのまま、緑間はスリ-を決め、驚愕のプレイに会場には大歓声が響く。
そのスリーは、おそらく秀徳の編み出した秘策。こんなシュート、誰にも思いつきやしないと、止めることはできないだろうと、そう確信している。
けど、オレ達の気持ちは今、一つになっていた。
「優姫のやつ、本当に同じ技思いつきやがった!!」
オレ達を代表して、葉山が言ってくれた。実渕が葉山の口を抑えて「向こうに聞こえちゃうでしょ!!」と怒鳴っている。
緑間のあのスリーを目の前で見た赤司は、やはり楽しそうに笑っていた。
「ここで同じ技で対抗してもいいが、こちらとしてもアレは切り札だ。できれば決勝に残しておきたい」
「なら、あのスリーは誰が止める?」
「千尋もそろそろ活躍したいだろうけど、プレイスタイル的にはこちらも決勝まで温存しておきたいからね。だから、同じSGの玲央にやってもらおう」
「あら?征ちゃんじゃなくていいの?」
「もちろん。優姫に練習の成果を見せてやってくれ」
実渕は力強く頷いた。
「は…?」
呆気にとられたような声を出したのは、秀徳の高尾だ。試合再開後、高尾についたマークは二人。それも、オレともう一人は、緑間についていた赤司だったのだから。緑間には実渕がついている。緑間も高尾と同じようにその顔は驚愕に染まっていた。
「まさか赤司がオレにつくなんてなあ」
「……」
赤司は無言だ。返事を期待したわけではなかったらしい高尾は、ヘッと笑ってフェイントを重ねオレ達を抜く。ここで止めるつもりだったが、高尾や秀徳の選手が緑間を信じているように、オレ達も信じている。
高尾のパスを、実渕が止めることを。
パシッ、と秀徳にとって無情な音が響き渡る。
「残念」
そのボールをそのまま、スリーとしてリングへ投げる。緑間ほどの高さはなくとも、正確さは劣りはしない。綺麗な楕円を描いて、実渕のスリーは決まった。
高尾のパスを一切の無駄なく止めたことに秀徳が驚愕している中、赤司が丁寧に説明をし始めた。
「そのシュートには欠点がある。左利きである真太郎のシュートに合わせるためには、左側からしかパスが入れられないこと。そして、ボールを持っていなくても真太郎のシュートモーションはいつも同じであること。つまり、天帝の眼など使わなくても、パスコースもタイミングも容易にわかるんだよ」
「だからって、オレがパスを出すよりも一歩早く、しかもキャンセルできない瞬間に動くなんて、天帝の眼を持ってない奴にできるわけ…っ」
「そりゃできるっしょ!だって、オレらこの対策めっちゃ練習したし!」
「は?」
「あ」
しまった、と葉山が口を塞ぐももう遅い。高尾は依然信じられないといった顔でこちらを見ている。緑間も同様。赤司と実渕が溜息を吐く。もちろん葉山に対しての呆れだ。仕方ない、と赤司が話を続けた。
「僕達はずっと、それこそ四月から今日に至るまで、緑間真太郎対策をしていたんだよ。信じられないと思うが、うちには真太郎と同様の素質を持ったトレーナーがいてね。そのトレーナーを相手に、今までずっと練習してきた。真太郎、お前のシュートモーションもちょっとした癖さえも、洛山バスケ部スタメンは全て把握し、対処ができる」
「その面白いシュートもね、うちのトレーナーが全く同じこと思いついてずっと練習してたのよ」
高尾が悔しさに唇を噛む。緑間は何かに気がついたように、ばっと顔を上げた。その目線は、洛山の一軍が集まる客席。そのど真ん中で折られたはずの応援団扇(赤司様ウインクして!)を持っている優姫を、緑間は見ていた。
「そうか…だが、まだ負けたわけではないのだよ、赤司」
「その意気だ。受けて立とう、真太郎」
それは、なんと意外な光景だった。絶体絶命だろう秀徳。そして緑間。なのに、緑間は笑ったのだ。この勝負が楽しくて仕方ないとでもいうように、不適に笑う。それを見て、高尾も頬を叩いて気合いを入れ直していた。
「うっし!これから挽回だぜ、真ちゃん!」
「当然だ。最後までオレは諦めない」
(きっと、緑間と対峙する赤司の雰囲気が違うからだ)
極端な話になるかもしれないが、四月に見た赤司のままなら、この場面で秀徳は笑ったりなんてきっとしなかった。きっと悔しさに唇を噛み締めたまま、絶望感を味わいながら試合は終わっていた。
もしかしたら途中で点数をとられ続けたりしたら、赤司はオレ達の動きが悪いと自軍ゴールにボールを放って自殺点を入れ、気合いを入れろと叱咤された後、この試合負けたら自分の行為が原因だから謝罪として両目をえぐり出して差し出すとか言っていたかもしれない。想像するだけで怖い。他にも色々ひどい状況が考えられるが、結局は想像に過ぎない。今、赤司は、楽しそうにバスケをしている。そして、実渕達も。
(…オレは、いや、オレも)
きっと、今すごく楽しんでいる。
「負けなのだよ、赤司」
結果は98対70で、洛山高校の勝ちだった。整列をして、挨拶を交わした後は少しの間選手同士が軽い挨拶をしていく。オレは影が薄いのでとくに誰からも話しかけられはしなかったから一人ベンチに戻って腰を落ち着ける。樋口から渡されたスポドリを飲みながら、コートの中の赤司達を見た。
緑間が赤司に握手を求めていた。その手を赤司はじっと見下ろす。
「礼を言うよ、真太郎。久しぶりにスリルのある試合だった」
「ああ。だが、次は必ず、秀徳が勝つ!」
「楽しみにしているよ」
緑間の手を、握り返した赤司。手を出したのは緑間なのに、なぜか驚いた顔をしている。今日は緑間の驚いた顔ばかり見ている気がするな。
どうしたんだい?と赤司が問えば、緑間はどこか安心したように微笑んだ。
「あの時から、随分と変わったんだな、赤司」
「…そうかな?」
「ああ、昔のお前ならこの手を握り返すなんてことはきっとしなかっただろう。だが、お前は握り返してくれた。お前を変えてくれた奴に、感謝しなければならないのだよ」
離れていく緑間に、真太郎、と赤司が呼び止める。
「あの頃僕がしてきた事に、後悔はしていない。これまでも、これからもしない」
「……」
「だが、あの頃と同じ事をするつもりもない」
「…赤司」
「僕達は、最後まで全力でチームプレイをする」
頷いた緑間の顔は、かつての旧友の変化に心から安堵し喜んでいたように見えた。
「お疲れ様です!!手に汗握る激戦でほんと勝ててよかったってあああああ応援団扇あああああ!!」
控え室に入って早々に嬉しそうに『赤司様ウインクして!』の応援団扇を振っていた優姫からそれを奪い取り、一切の躊躇なく膝でへし折って見せた赤司。その残骸を拾いながら優姫は半泣きだ。
「うっうっ…明日の決勝はもうこの団扇しか残ってないよう…」
「なになに?『黛赤結婚して!』?」
「ふんッ!!」
「あああああ最後の団扇あああああ!!」
今度はオレが躊躇なくへし折ってやった。グッジョブ、と赤司が親指を立てている。良い仕事をしたな、オレ。
それから床に四つん這いになって嘆く優姫の首根っこを掴んで、立ち上がらせる。
「これからミーティングだ。お前も行くぞ」
「うっうっ…行きます…あっそういえば、みどっちあのシュートしたね?!ほらシュッとしてバシュッと3P!うへへー!それを止める実渕先輩マジかっこよかったです!!」
「ほんと?うふふ、優姫ちゃんとの練習の成果はばっちりだったわね」
「葉山先輩も宮地さんとどんなやり取りしたか是非詳しく教えてくださいね!それから根武谷先輩、大坪さんとー……」
「千尋」
控え室を出る時、赤司に呼び止められた。
「なんだ」
「決勝は、千尋を主体に攻めようと思っている。その心構えをしておいてくれ」
「…赤司、お前さ」
猫のような瞳のオッドアイが、オレを見つめる。
この目が、優しく微笑んだ時を知っている。
十月の学祭の後。優姫のクラスの打ち上げが終わった頃を見計らって教室を覗いた時、あいつが赤司と二人きりだったことにドキリとした。赤司は紫原に電話をかけていたが、その電話の最中に優姫に鞄を放り投げて、先に行けと追い払うように手を振った。むきーっと唸る優姫に腕を引かれて廊下に出た時、ふと振り返ってみた。
赤司は、微笑んでいた。とても綺麗なものを見るような目で、優姫を見ていた。オレはそれに、わけもわからず焦りを感じたのだ。
赤司、お前さ、もしかして優姫のこと。
「…なんでもねえよ」
そんなこと、聞けるわけもなく。首を傾げる赤司にもう一度「何でもない」と言って、赤司と一緒に控え室を出た。
扉を開けたら、聞き耳を立てるようにそこにいたのは実渕、根武谷、葉山、そして優姫だ。四人はあたふたと慌てふためいている。さっきまでのシリアスムードはどこへやら、ジトッと四人を睨めば、さらにあたふたし始める。赤司も同じくジト目になっていた。
「…お前ら」
「違うのよ黛サン!永吉が二人がいないっていうから戻ってきただけで…!ねっ永吉!」
「お、おお!そんで話し声が聞こえて、入ろうかどうしようか悩んで…なっ小太郎!」
「そうそう!そんで優姫が『これは絶対逢い引き!!まゆあかの逢い引きだから邪魔しちゃダメです!!なので静かに聞き耳を立てましょう』って言ったんだよな!」
「ぎゃああああなんで全部バラすんですか葉山先輩いいいッ!!あっちょっと待って赤司君目が怖い絶対殺すマンの目になってるからうぎゃあああっ!!」
「絶対に殺す」
試合後だというのにとても綺麗なフォームで赤司が脱兎のごとく逃げ出した優姫を追いかけていった。さすがオレらの主将は今日も元気だぜ。あと優姫殺す。
「準決のインターバル入って第一声がそれってダメだろ」
そんな感じで控え室で手を組んで出迎えたら、なぜだか知らないけど全員に溜息を吐かれた。あれ、結構本気で呆れられてる?いやでも会話全然聞こえなかったけど、葉山先輩が秀徳の宮地さんとまゆゆと三角関係に見えてたりしたんだけど?!あと赤司にかがみんが転ばされてたんだけど何してたのアレ?!
みんなに何があったか聞こうとしていたら、赤司にベシっと頭を叩かれた。
「あと七分しかないんだ。早く全員にスポドリを配れ」
「そうだったそうだった。はい、新しいスポドリ!んで、今どんな感じ?!秀徳やっぱ強いですよね?!」
「おお、めちゃくちゃつえー!」
「一応連携には要注意って前征ちゃんが言ってたから気をつけてるんだけど、緑間君が厄介なのよね」
「黛サンと二人がかりで止めてる状態だしなぁ」
「疲れる」
こんなに疲れが出てるみんなを見るのは初めてかもしれない。やっぱり、秀徳高校は強いんだ。キセキの世代、緑間真太郎を獲得した高校。もちろん強さはそれだけじゃない、チームの連携の的確さ、力強さも桁違いだ。
「でも!うちだって強いですから!!赤司だってまだまだ必殺技使ってないし、実渕先輩のスリーも切れ味抜群だし、根武谷先輩のリバウンドだって最強だし、葉山先輩のドリブルに敵無しだし、まゆゆのパス回しだって誰にも止められないし!!」
フンス!と拳を握って力説したら、赤司主将だけ褒め言葉が微妙だと樋口先輩にこそりと言われた。あれ、そう言われればたしかに微妙だな?!
「あ、アレだよアレ、私はあと1回俺は弟より多く変身できるのだ…みたいな!!」
「それネタわかるやついるのか?」
「まゆゆがわかってくれるからいいんだよ!!」
フフッ!と、赤司が噴き出した。そのまま立ち上がると、驚いている私の腕を掴んで、痛む患部をそっと撫でる。
「痛むか?」
「え?あ、少しだけ…でも応援するのに支障なし!」
「そうか。なら、いいんだ。引き続き、出禁にならない程度に応援を頼むよ」
「出禁になるレベルの応援したことないよ?!」
赤司はまた笑って、それからベンチに座り直した。一体、今のは何だったのか。というか、仕草とかがすごく兄貴に似ててびっくりした。私が怪我をした時とか、ふと患部を優しく撫でて「痛むか?」と聞いてくれ、大丈夫だと言うとほっとしたように笑うのだ。今のはもしかして、私の腕を心配してくれたのかな。やっぱり、赤司は良い奴だなあ。
「腕、ほんとに大丈夫?」
そう言って今度は葉山先輩が撫でてくれた。
「大丈夫っす!!みんなが一世一代の大試合してるのに、私がへこたれてるわけにはいきません!!」
そうだ、私はみんなの応援を全力でするのだ。みんなに心配をかけている場合じゃない。
ガサゴソ、と私は鞄の中を漁る。こちらを覗き込んでいるみんなに、私はどや顔で振り返って、持ってきたものをみんなの前に披露してみせた。
「じゃーん!!応援団扇を作りました!!『実渕先輩今日もお美しい!』『葉山先輩飛び跳ねて!』『根武谷先輩マッスルマッスル!』『赤司様ウィンクして!』『まゆゆ投げキッスして!』!これ別バージョンも作ってまして、『赤司様ズガタカして!』とか『まゆゆキス待ち顔して!』とか…ああああああ自信作が膝で折られていくうううううう!!!」
徹夜で作った応援団扇は目が笑っていない赤司の笑い声と共にボキリボキリと悲しい音を立てて壊されていったのだった。
後半戦が開始して早々、赤司は絶好調だった。緑間のノーフェイクのスリーを天帝の眼<エンペラーアイ>で容易く止め、第4Qに入る頃には14点の差がついていた。
相変わらず、あの眼は恐ろしく感じる。敵だったらと思うとぞっとする。力の差を見せつけるように、ディフェンスに来た秀徳の二人もアンクルブレイクで転ばせ、優雅に歩く姿はまさに王の歩みだ。
「征ちゃん、誠凛の火神君と対峙したときはヒヤヒヤしたけど、控え室で優姫ちゃんと話して持ち直したみたいね」
「客席で優姫が『赤司マジ魔王』って言ってる気がするー」
「いや多分言ってるだろ」
「お前達、試合中だぞ」
「「「すみません!!」」」
その赤司に怒られて、五冠の三人はビシッと背筋を伸ばして謝っていた。けど、赤司は楽しそうに笑っている。本気で怒ってはいない。というか、おそらくこれから何かをしかけてこようとしている秀徳のプレイを、楽しみにしているのだろう。
そして、秀徳が息の合った動きをしてみせた。全員が何かを仕掛けることがわかっているようで、視線は緑間へ向かう。見ると、赤司と一対一をしている緑間が腰を落とし、手はまるでボールを持っているかのように掲げていた。赤司がハッと目を見開き、一瞬反応が遅れた。緑間がシュートモーションで飛び、その空の手には。
高尾から放たれたボールが収まった。
そのまま、緑間はスリ-を決め、驚愕のプレイに会場には大歓声が響く。
そのスリーは、おそらく秀徳の編み出した秘策。こんなシュート、誰にも思いつきやしないと、止めることはできないだろうと、そう確信している。
けど、オレ達の気持ちは今、一つになっていた。
「優姫のやつ、本当に同じ技思いつきやがった!!」
オレ達を代表して、葉山が言ってくれた。実渕が葉山の口を抑えて「向こうに聞こえちゃうでしょ!!」と怒鳴っている。
緑間のあのスリーを目の前で見た赤司は、やはり楽しそうに笑っていた。
「ここで同じ技で対抗してもいいが、こちらとしてもアレは切り札だ。できれば決勝に残しておきたい」
「なら、あのスリーは誰が止める?」
「千尋もそろそろ活躍したいだろうけど、プレイスタイル的にはこちらも決勝まで温存しておきたいからね。だから、同じSGの玲央にやってもらおう」
「あら?征ちゃんじゃなくていいの?」
「もちろん。優姫に練習の成果を見せてやってくれ」
実渕は力強く頷いた。
「は…?」
呆気にとられたような声を出したのは、秀徳の高尾だ。試合再開後、高尾についたマークは二人。それも、オレともう一人は、緑間についていた赤司だったのだから。緑間には実渕がついている。緑間も高尾と同じようにその顔は驚愕に染まっていた。
「まさか赤司がオレにつくなんてなあ」
「……」
赤司は無言だ。返事を期待したわけではなかったらしい高尾は、ヘッと笑ってフェイントを重ねオレ達を抜く。ここで止めるつもりだったが、高尾や秀徳の選手が緑間を信じているように、オレ達も信じている。
高尾のパスを、実渕が止めることを。
パシッ、と秀徳にとって無情な音が響き渡る。
「残念」
そのボールをそのまま、スリーとしてリングへ投げる。緑間ほどの高さはなくとも、正確さは劣りはしない。綺麗な楕円を描いて、実渕のスリーは決まった。
高尾のパスを一切の無駄なく止めたことに秀徳が驚愕している中、赤司が丁寧に説明をし始めた。
「そのシュートには欠点がある。左利きである真太郎のシュートに合わせるためには、左側からしかパスが入れられないこと。そして、ボールを持っていなくても真太郎のシュートモーションはいつも同じであること。つまり、天帝の眼など使わなくても、パスコースもタイミングも容易にわかるんだよ」
「だからって、オレがパスを出すよりも一歩早く、しかもキャンセルできない瞬間に動くなんて、天帝の眼を持ってない奴にできるわけ…っ」
「そりゃできるっしょ!だって、オレらこの対策めっちゃ練習したし!」
「は?」
「あ」
しまった、と葉山が口を塞ぐももう遅い。高尾は依然信じられないといった顔でこちらを見ている。緑間も同様。赤司と実渕が溜息を吐く。もちろん葉山に対しての呆れだ。仕方ない、と赤司が話を続けた。
「僕達はずっと、それこそ四月から今日に至るまで、緑間真太郎対策をしていたんだよ。信じられないと思うが、うちには真太郎と同様の素質を持ったトレーナーがいてね。そのトレーナーを相手に、今までずっと練習してきた。真太郎、お前のシュートモーションもちょっとした癖さえも、洛山バスケ部スタメンは全て把握し、対処ができる」
「その面白いシュートもね、うちのトレーナーが全く同じこと思いついてずっと練習してたのよ」
高尾が悔しさに唇を噛む。緑間は何かに気がついたように、ばっと顔を上げた。その目線は、洛山の一軍が集まる客席。そのど真ん中で折られたはずの応援団扇(赤司様ウインクして!)を持っている優姫を、緑間は見ていた。
「そうか…だが、まだ負けたわけではないのだよ、赤司」
「その意気だ。受けて立とう、真太郎」
それは、なんと意外な光景だった。絶体絶命だろう秀徳。そして緑間。なのに、緑間は笑ったのだ。この勝負が楽しくて仕方ないとでもいうように、不適に笑う。それを見て、高尾も頬を叩いて気合いを入れ直していた。
「うっし!これから挽回だぜ、真ちゃん!」
「当然だ。最後までオレは諦めない」
(きっと、緑間と対峙する赤司の雰囲気が違うからだ)
極端な話になるかもしれないが、四月に見た赤司のままなら、この場面で秀徳は笑ったりなんてきっとしなかった。きっと悔しさに唇を噛み締めたまま、絶望感を味わいながら試合は終わっていた。
もしかしたら途中で点数をとられ続けたりしたら、赤司はオレ達の動きが悪いと自軍ゴールにボールを放って自殺点を入れ、気合いを入れろと叱咤された後、この試合負けたら自分の行為が原因だから謝罪として両目をえぐり出して差し出すとか言っていたかもしれない。想像するだけで怖い。他にも色々ひどい状況が考えられるが、結局は想像に過ぎない。今、赤司は、楽しそうにバスケをしている。そして、実渕達も。
(…オレは、いや、オレも)
きっと、今すごく楽しんでいる。
「負けなのだよ、赤司」
結果は98対70で、洛山高校の勝ちだった。整列をして、挨拶を交わした後は少しの間選手同士が軽い挨拶をしていく。オレは影が薄いのでとくに誰からも話しかけられはしなかったから一人ベンチに戻って腰を落ち着ける。樋口から渡されたスポドリを飲みながら、コートの中の赤司達を見た。
緑間が赤司に握手を求めていた。その手を赤司はじっと見下ろす。
「礼を言うよ、真太郎。久しぶりにスリルのある試合だった」
「ああ。だが、次は必ず、秀徳が勝つ!」
「楽しみにしているよ」
緑間の手を、握り返した赤司。手を出したのは緑間なのに、なぜか驚いた顔をしている。今日は緑間の驚いた顔ばかり見ている気がするな。
どうしたんだい?と赤司が問えば、緑間はどこか安心したように微笑んだ。
「あの時から、随分と変わったんだな、赤司」
「…そうかな?」
「ああ、昔のお前ならこの手を握り返すなんてことはきっとしなかっただろう。だが、お前は握り返してくれた。お前を変えてくれた奴に、感謝しなければならないのだよ」
離れていく緑間に、真太郎、と赤司が呼び止める。
「あの頃僕がしてきた事に、後悔はしていない。これまでも、これからもしない」
「……」
「だが、あの頃と同じ事をするつもりもない」
「…赤司」
「僕達は、最後まで全力でチームプレイをする」
頷いた緑間の顔は、かつての旧友の変化に心から安堵し喜んでいたように見えた。
「お疲れ様です!!手に汗握る激戦でほんと勝ててよかったってあああああ応援団扇あああああ!!」
控え室に入って早々に嬉しそうに『赤司様ウインクして!』の応援団扇を振っていた優姫からそれを奪い取り、一切の躊躇なく膝でへし折って見せた赤司。その残骸を拾いながら優姫は半泣きだ。
「うっうっ…明日の決勝はもうこの団扇しか残ってないよう…」
「なになに?『黛赤結婚して!』?」
「ふんッ!!」
「あああああ最後の団扇あああああ!!」
今度はオレが躊躇なくへし折ってやった。グッジョブ、と赤司が親指を立てている。良い仕事をしたな、オレ。
それから床に四つん這いになって嘆く優姫の首根っこを掴んで、立ち上がらせる。
「これからミーティングだ。お前も行くぞ」
「うっうっ…行きます…あっそういえば、みどっちあのシュートしたね?!ほらシュッとしてバシュッと3P!うへへー!それを止める実渕先輩マジかっこよかったです!!」
「ほんと?うふふ、優姫ちゃんとの練習の成果はばっちりだったわね」
「葉山先輩も宮地さんとどんなやり取りしたか是非詳しく教えてくださいね!それから根武谷先輩、大坪さんとー……」
「千尋」
控え室を出る時、赤司に呼び止められた。
「なんだ」
「決勝は、千尋を主体に攻めようと思っている。その心構えをしておいてくれ」
「…赤司、お前さ」
猫のような瞳のオッドアイが、オレを見つめる。
この目が、優しく微笑んだ時を知っている。
十月の学祭の後。優姫のクラスの打ち上げが終わった頃を見計らって教室を覗いた時、あいつが赤司と二人きりだったことにドキリとした。赤司は紫原に電話をかけていたが、その電話の最中に優姫に鞄を放り投げて、先に行けと追い払うように手を振った。むきーっと唸る優姫に腕を引かれて廊下に出た時、ふと振り返ってみた。
赤司は、微笑んでいた。とても綺麗なものを見るような目で、優姫を見ていた。オレはそれに、わけもわからず焦りを感じたのだ。
赤司、お前さ、もしかして優姫のこと。
「…なんでもねえよ」
そんなこと、聞けるわけもなく。首を傾げる赤司にもう一度「何でもない」と言って、赤司と一緒に控え室を出た。
扉を開けたら、聞き耳を立てるようにそこにいたのは実渕、根武谷、葉山、そして優姫だ。四人はあたふたと慌てふためいている。さっきまでのシリアスムードはどこへやら、ジトッと四人を睨めば、さらにあたふたし始める。赤司も同じくジト目になっていた。
「…お前ら」
「違うのよ黛サン!永吉が二人がいないっていうから戻ってきただけで…!ねっ永吉!」
「お、おお!そんで話し声が聞こえて、入ろうかどうしようか悩んで…なっ小太郎!」
「そうそう!そんで優姫が『これは絶対逢い引き!!まゆあかの逢い引きだから邪魔しちゃダメです!!なので静かに聞き耳を立てましょう』って言ったんだよな!」
「ぎゃああああなんで全部バラすんですか葉山先輩いいいッ!!あっちょっと待って赤司君目が怖い絶対殺すマンの目になってるからうぎゃあああっ!!」
「絶対に殺す」
試合後だというのにとても綺麗なフォームで赤司が脱兎のごとく逃げ出した優姫を追いかけていった。さすがオレらの主将は今日も元気だぜ。あと優姫殺す。