影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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ウィンターカップ、準決勝。とうとうここまでやってきた。
「あああ緊張するあああああ」
「えーそう?ワクワクしねえ?」
「しますけど!しますけどおおお!!」
午前中の内に諸々用事を済ませておけと赤司に指示され、いよっしゃあとまゆゆのところへ行ったら葉山先輩に捕まった。バッシュや練習着が見たいからスポーツショップに行こうというお誘いだ。私が返事をする前にまゆゆに「ついでに新しいテープとコールドスプレーも見てこい」とぽいっと放り出されてしまった。まゆゆ、冷たい。
こそりと実渕先輩が教えてくれた話によると、少し冷静になりたいから私が側にいるとダメらしい。うるさいからか、うるさいからなのかまゆゆ。
そして、葉山先輩とスポーツショップに来て色々品物を見ていたら、ふと昼過ぎには準決勝が始まってしまうのだとじわじわと実感してきて、思わずじたばたしてしまった。
「それに相手は秀徳…みどっちのいるとこですよ!しかもあの高尾君っていう鷹の目をもった選手も侮れないし…うう…緊張する…まゆゆ今日冷たい…」
「それが本音じゃん!あのねー、黛サンは昨日のことすーっごく怒ってるんだよね」
「うう!!」
「優姫っていうか、灰崎ってやつに!それだけ優姫のこと心配してるんだって」
「うへへ…」
「笑い方ほんとひでーな!」
ふひゃひゃっと葉山先輩に笑われてしまった。私の笑い方、そんなにひどいのか。解せぬ。
それからたまたま立ち寄った靴屋を出て、二人で今何時かなーっと時計を見て、そして無言で飛び跳ねた。
「葉山先輩」
「優姫」
「「遅刻だこれええええ!!」」
ドタドタと葉山先輩と二人して階段を駆け下りる。二人の脳裏に浮かぶのは、にこりと微笑んでキレている赤司の顔。やばい、殺される。あの冷たい目で外周100周を言い渡されてしまう。急がねば。
「わーっどいてどいてっ!!」
「うおっ?!」
ちょうど階段を登ってきた人とぶつかりそうになったらしい。葉山先輩がいつもの身軽さでぴょんっとその人の頭上を飛び越えて綺麗に着地した。そして避けきれず前の人にぶつかったのは私だ。
「ふおう!!」
「おおっ?!って、水瓶?」
「あっかがみん!うっひょー今日も天使だね!」
「はあ?ていうか、腕は大丈夫なのかよ」
そういえば、昨日はあの後慌ただしく別れたんだった。腫れは少し引いたよ、とテープでぐるぐる巻きの腕を見せたら、それならよかったと胸をなで下ろすかがみん。はい天使。
「優姫っ!時間マジやばい!」
「はっ!そうだった!じゃあねかがみん!」
「そっちもごめんねーっ!」
「お、おお…」
また慌ただしくかがみんと別れて、私と葉山先輩は腕時計を確認しながら会場へと急いだ。
「遅い」
「「すみませんでした!!」」
五分ほどの遅刻ですんだものの、結局赤司の前で土下座をする羽目になった。
側でまゆゆが頭を押さえている。
「とりあえず誰かと一緒にいさせたらいいと思ったが、葉山は失敗だった」
「ひっでー!」
「えっもしかして私葉山先輩にお守りされてたの?!」
「げーっぷ」
「やだ!汚いからげっぷしないでちょうだい!」
控え室は今日もいつも通りだ。それでいい。そうでなくちゃ、これから始まる戦いに挑めない。
準決勝が始まる。さあ行こうか、と赤司が声をかければ全員が立ち上がって扉へ向かっていく。その前に、私は一度やりたかったことがあった。今まで恥ずかしくてできなかったけど、今日こそはすると決めた。
「行く前に少しいいかな?!」
思い切って呼び止めたら、全員が振り返って足を止めてくれた。監督は私がやろうとしていることがわかっているようで、「手早くな」と言ってくれた。
私は拳をぐっと握って、まゆゆ達の前に突き出す。
「が、頑張れ洛山!!頑張れみんな!!」
その拳を見て、何故か葉山先輩が噴き出した。
「今頃それすんのっ?」
「い、今頃これしたっていいじゃないですか!ほら!拳!コツン!やりましょーよ!」
「おう!いっちょやってくるわ!」
コツン、と根武谷先輩。
「ほい!応援頼むぜ優姫!」
コツン、と葉山先輩。
「優姫ちゃんとの練習の成果、存分に発揮してくるわね!」
コツン、と実渕先輩。
「しっかり分析しておけよ」
コツン、と赤司。
そして。
「…おとなしくしてろよ、優姫。行ってくる」
最後にまゆゆとコツン、と拳を合わせて、みんなと一緒に控え室を出た。
「出たー!不撓不屈の魂で十一年連続出場の古豪、歴戦の王者、秀徳高校!」
「おい、こっちも来たぞ…高校最強…最古にして最強の王、開闢の帝王、洛山高校!」
え、すごい。秀徳の評判もそうだけど、洛山めっちゃ褒められてる。王、王だって!あとでまゆゆに教えてあげよう。
それにしても、いつも思っているけど客席からだとベンチでみんなが何話してるか全然聞き取れないな。ちくしょう。私もいつかベンチでみんなの応援がしたいって赤司に抗議してみよう。私もまゆゆにスポドリとかタオルとか渡してみたい!!試合で汗をかいてるエロいまゆゆを間近で見たいー!!
「なんか今不埒な視線を感じた」
「十中八九優姫だろうな」
赤司がバッシュの紐を結びながら呆れたようにそう言った。まあ、たしかにあいつしか考えられないが。ふと洛山の集まっている客席を見ると、案の定優姫がにやけているように見えた。あとで赤司に説教してもらうとするか。
「げーっぷ。うーむ、食いすぎたか」
「また牛丼ドカ食いしたわけ?」
「肉食った方が力でんだよ」
「それより見てみて!あいつらつよそーじゃね?ヤッベー!」
「もー静かにしなさい!なんでアンタらはいつも試合前なのに騒ぐのよ!ねー黛サン」
「オレに振るなよ」
お前らが騒がしいのはいつもだろ。と思ったが心の中にとどめておく。うるさそうなので。騒いでいる葉山に赤司は「彼らは強いよ」と律儀に答えてやっていた。
「じゃあ、行こうか」
「…何だか征ちゃん、少し上機嫌?」
「おや、そういう玲央こそ、いつもより楽しそうだが?」
「永ちゃんもだよねー!」
「お前もだろ。それと、黛サンもな」
「…ふん」
全員がいつもよりも少しテンションが高い理由はわかっている。控え室を出る前、優姫が向けた拳。初めてだった。あいつが自分から、バスケ部の仲間として何かを主張したのは。何を気にしているのか、一歩線を引こうとしていることをオレ達はとっくに気がついていた。昨日だって勝手にどこかに行って勝手に大怪我して帰ってきて、しかも誰にも言わずにいようとしていた。それが悔しくてたまらなくて、今日は昨日の怒りやら悔しさやらを発散するべく一人でシュート練をした。
それでも収まらなかったもやもやは、あいつが拳を向けてくれたことで晴れたのだ。きっと、全員が。
「勝たせてもらうぞ、赤司」
コートに整列する最中、向かい合った秀徳の緑間は赤司にそう告げる。赤司はそれに対してフッと笑った。緑間の目が見開かれる。
「勝つのは僕達だ、真太郎」
緑間の表情は、信じられないものを見た時のそれだった。赤司の笑顔になのか、言葉になのか。どちらに驚いたのかは知らないが、緑間にとって予想外の反応だったようだ。
準決勝が始まる。試合開始と同時に、秀徳の高尾が緑間にパスを送り、目の前にいた葉山が猫目をぎょっとさせた。
スパンッ、と緑間のスリーポイントが決まった。開始直後の先制攻撃に、赤司は不適に笑う。
「へえ」
「中学の時の約束通り、敗北を教えてやる、赤司」
お前ら中学の時どんな話してたんだよ。とことんラノベみたいなことしやがって。
結局第1Qは特別な攻めをするわけでもなく、お互い探り探りのまま終わった。
「順調だな。ゲームプランに変更はない。細かいゲームメイクは任せる。修正が必要なら赤司の指示に従え」
「おす!」
コートに戻る時、また赤司と緑間が何か話をしているのが聞こえた。
「ナメるなよ赤司。まさかお前の『眼』を使わずに勝とうなどと思っていないだろうな?」
「ナメてなどいないよ真太郎。切り札をそう簡単に切るわけにはいかないだけさ。…ただし、切らずに終わってしまうかもしれないな、このままでは」
「…なんだと?」
相変わらず会話がラノベですありがとうございました。しまった、今のは優姫と反応が似てた気がする。ちっと思わず舌打ちしたら、横にいた葉山が「黛サンこっわ!」と大げさに騒ぐので頭を叩いておいた。
試合再開後、指示通りに実渕と二人で緑間にダブルチームでディフェンスをする。高尾は持っていたボールを緑間ではなく、八番の宮地へ投げた。向かうのは葉山だ。
「来い!!」
「何目輝かせてんだおい?轢くぞ」
「あり?!」
「うおおおい!何シャラッと抜かれとんじゃい!!」
珍しい根武谷のツッコミだな。
葉山をドリブルで抜いた宮地は四番の大坪へパスを飛ばし、ダンクで点を取られた。秀徳がぱんっと手を合わせているのを見て、実渕がジト目で葉山を見る。
「あんた寝てんじゃないでしょーね?」
「ゴメンって!」
「…小太郎…」
「わぁっ!ちゃんと返すから!怒んないで赤司!目こわ!」
「ならばいいが…やる気がないなら、対優姫用に習得した技を小太郎で試すよ」
「ひいいっ!だっだいじょーぶだって!ドリブルなら誰にも負けねーから!」
試合再開後、さっきと同じように宮地と一対一になった葉山は不適に笑ってドリブルをする。その力強さに、宮地が驚愕していた。
ドリブルというのは、強くつくほどボールが速くなりとられにくくなる。葉山のドリブルは、全身のバネを使い、その力を指先に集約することで、力強いものになっている。対峙する相手には、まるでボールが消えたように見えるだろう。そして、今の葉山のドリブルは三本の指での力。あと二段階上がある。それにしても相変わらずこのドリブル音はうるせえな。
そして、今度は赤司の方から緑間に話しかけているのが見えた。
「真太郎。さっきの言葉、もしわかりにくければ言い直そう」
「っ、赤司…!」
「僕が直接手を下すまでもない。それだけのことだよ」
葉山は宮地を抜いて、それからブロックにきた木村をもかわして点を入れた。その後も同じように点を入れていくと、葉山がにっかーっと笑ってオレのところに来た。
「なんだよ」
「見た見た?!オレめっちゃ頑張ったよね?!」
「ああ…赤司、葉山がお前に許してもらえてるか知りたいそうだ」
「なんで本人にそれ言っちゃうのー?!」
「小太郎」
「ひえっ」
「その調子で続けてくれ」
赤司からお許しが出た葉山は飛び跳ねて喜んでいた。よかったな。とりあえずオレの腕掴んでブンブン振るのはやめてくれ。
「やったー!!優姫ーっ!赤司の新技は優姫のものだぞー!!」
「つーか、お前いつの間にバリエーション増やしてんだよ」
「勉強の合間に、少し気分転換をね」
「征ちゃんの気分転換で覚えた技をくらわされる優姫ちゃん…」
「ていうか気分転換に技覚えんなよ…」
点差は少しずつ開いてきた。緑間のスリーポイントはやはり厄介だが、同等の相手と常に練習をしてきたからか、緑間へのダブルチームも予想よりも余裕があった。だが、やはり相手はキセキの世代、帝光中元副主将の緑間真太郎。チームとの連携も、DVDで見たときより上手くなっていて、開きかけた点差を即座に縮めてきた。
第2Qが終わり、実渕がふう、と息を吐いた。かくいうオレも、実渕と一緒にダブルチームをしていたからかなり疲れた。
「さすがに一筋縄じゃいかねえな」
「ええ、でもアタシも黛サンもまだイケるわ」
「ああ…結構疲れるけどな」
「いや、後半は僕が真太郎につこう」
そう言った赤司の目は、いつになく楽しそうだった。どうやら、本当に今日は機嫌が良いらしい。
「とりあえず今はインターバルだ。一度控え室に戻るぞ」
赤司の号令で全員ベンチから立ち上がりコートを出る。オレ達の試合のインターバル中、次に試合をする海常と誠凛がアップをすることになっているので、素早く立ち去ろうとしたのだが。
すれ違った誠凛の選手、黒子テツヤと赤司が目を合わせ足を止めた。
「開会式以来だね、テツヤ」
「はい、赤司君」
開会式の時、といえばアレか。赤司がいきなり前髪切ってきた事件。
驚いた実渕が写メを撮りながら「誰にやられたの?!そいつ<ピーーーー>してやるわよ?!」と騒いで大変だった。そのすぐ後に走ってきた優姫の撮ってきた動画を見て事の経緯を知り、葉山が爆笑して赤司に転ばされていたのは今思い出しても笑う。
そんなことを思い出していたら、黒子の前に立つように背の高い男、火神大我が出てきて赤司を見下ろした。
「よお、まさか忘れてねーだろーな?あん時はずいぶん……あ!そうだ!水瓶!水瓶は大丈夫か?今朝会った時に大丈夫だって言ってたけど、何か無理してそうだったから心配してたんだよ」
一触即発の雰囲気だったのだが、火神は洛山のジャージを見たからか、急に優姫の心配をしてきた。そういえば、昨日の灰崎事件の時側にいたんだったか。
今朝会った時に、無理してそうだった、だと?
そんなことは、みんなとっくにわかっているんだよ。けど、あいつが笑うから。笑って、オレ達に拳を向けてくれたから。
赤司は見下ろされたことに怒るのではなく、そんな馬鹿な奴のことを思って火神を睨むように見上げた。
「…火神大我。僕のチームメイトの心配をしてくれることには感謝してもいい。だが、なぜすぐに病院につれて行かなかった。涼太も、お前達も一体何をしていたんだ」
「っ、わりぃ…」
「…すまない、これは八つ当たりだったな。だが、あの場にいたのが僕だったならと思わずにはいられないよ。それと、頭が高いぞ、火神大我」
火神の肩を掴み、そのまま音もなく床に座らせた。力業などではない赤司の技に、火神が驚いたまま赤司を仰ぐ。黒子が駆け寄り、怪我がないか確認している。そんな二人を見下ろして、赤司は言葉を吐き捨てる。
「テツヤも、僕とやるつもりなら覚悟しておくことだ。この件に関しては、多少なりとも私情がある。もとより手を抜くことはないが、容赦はしない」
そのままコートを出て行く赤司を追う。控え室では、きっと優姫が待っているだろう。いつも通り騒がしくして赤司に怒られ、葉山に笑われ、根武谷に呆れられ、実渕に慰められるのだろう。
(…こんな気持ちになるのは、もう何度目だろうか)
あいつは、いつだって誰かの世界に入り込んでいく。去年までの他者に興味の薄かった実渕達も、入部して早々絶対王者として君臨した赤司も、優姫と出会うまで腐っていたオレも、あいつ一人にいとも容易く変えられてしまった。
仲間と共に、試合に勝ちたいと思わせてくれた。
けど、オレはこれが引退試合だ。他の三年はバスケ馬鹿だからきっと受験勉強の息抜きやらでこれからも練習に参加するだろう。なら、オレは?オレは、そこまでバスケが好きなわけじゃない。引退後にまで練習に参加しようなど思わない。つまるところ、これが終われば、こいつらとバスケをすることはなくなるのだ。
それはつまり、優姫とも。
オレは、どうしたいのだろうか。バスケを通じて優姫と友達とやらになったわけじゃない。癪だが、オタク仲間としてできた関係。オレは卒業したら、都内の大学に進学するつもりでいる。優姫との時間も、もう終わりが近づいている。
オレは、どうしたいのだろうか?
「黛サン?どしたの?」
「なんでもねーよ」
「痛い!なんで叩いたの?!」
この大会が終わる頃には、この気持ちを整理できるのだろうか。答えはまだ出ないまま。
「あああ緊張するあああああ」
「えーそう?ワクワクしねえ?」
「しますけど!しますけどおおお!!」
午前中の内に諸々用事を済ませておけと赤司に指示され、いよっしゃあとまゆゆのところへ行ったら葉山先輩に捕まった。バッシュや練習着が見たいからスポーツショップに行こうというお誘いだ。私が返事をする前にまゆゆに「ついでに新しいテープとコールドスプレーも見てこい」とぽいっと放り出されてしまった。まゆゆ、冷たい。
こそりと実渕先輩が教えてくれた話によると、少し冷静になりたいから私が側にいるとダメらしい。うるさいからか、うるさいからなのかまゆゆ。
そして、葉山先輩とスポーツショップに来て色々品物を見ていたら、ふと昼過ぎには準決勝が始まってしまうのだとじわじわと実感してきて、思わずじたばたしてしまった。
「それに相手は秀徳…みどっちのいるとこですよ!しかもあの高尾君っていう鷹の目をもった選手も侮れないし…うう…緊張する…まゆゆ今日冷たい…」
「それが本音じゃん!あのねー、黛サンは昨日のことすーっごく怒ってるんだよね」
「うう!!」
「優姫っていうか、灰崎ってやつに!それだけ優姫のこと心配してるんだって」
「うへへ…」
「笑い方ほんとひでーな!」
ふひゃひゃっと葉山先輩に笑われてしまった。私の笑い方、そんなにひどいのか。解せぬ。
それからたまたま立ち寄った靴屋を出て、二人で今何時かなーっと時計を見て、そして無言で飛び跳ねた。
「葉山先輩」
「優姫」
「「遅刻だこれええええ!!」」
ドタドタと葉山先輩と二人して階段を駆け下りる。二人の脳裏に浮かぶのは、にこりと微笑んでキレている赤司の顔。やばい、殺される。あの冷たい目で外周100周を言い渡されてしまう。急がねば。
「わーっどいてどいてっ!!」
「うおっ?!」
ちょうど階段を登ってきた人とぶつかりそうになったらしい。葉山先輩がいつもの身軽さでぴょんっとその人の頭上を飛び越えて綺麗に着地した。そして避けきれず前の人にぶつかったのは私だ。
「ふおう!!」
「おおっ?!って、水瓶?」
「あっかがみん!うっひょー今日も天使だね!」
「はあ?ていうか、腕は大丈夫なのかよ」
そういえば、昨日はあの後慌ただしく別れたんだった。腫れは少し引いたよ、とテープでぐるぐる巻きの腕を見せたら、それならよかったと胸をなで下ろすかがみん。はい天使。
「優姫っ!時間マジやばい!」
「はっ!そうだった!じゃあねかがみん!」
「そっちもごめんねーっ!」
「お、おお…」
また慌ただしくかがみんと別れて、私と葉山先輩は腕時計を確認しながら会場へと急いだ。
「遅い」
「「すみませんでした!!」」
五分ほどの遅刻ですんだものの、結局赤司の前で土下座をする羽目になった。
側でまゆゆが頭を押さえている。
「とりあえず誰かと一緒にいさせたらいいと思ったが、葉山は失敗だった」
「ひっでー!」
「えっもしかして私葉山先輩にお守りされてたの?!」
「げーっぷ」
「やだ!汚いからげっぷしないでちょうだい!」
控え室は今日もいつも通りだ。それでいい。そうでなくちゃ、これから始まる戦いに挑めない。
準決勝が始まる。さあ行こうか、と赤司が声をかければ全員が立ち上がって扉へ向かっていく。その前に、私は一度やりたかったことがあった。今まで恥ずかしくてできなかったけど、今日こそはすると決めた。
「行く前に少しいいかな?!」
思い切って呼び止めたら、全員が振り返って足を止めてくれた。監督は私がやろうとしていることがわかっているようで、「手早くな」と言ってくれた。
私は拳をぐっと握って、まゆゆ達の前に突き出す。
「が、頑張れ洛山!!頑張れみんな!!」
その拳を見て、何故か葉山先輩が噴き出した。
「今頃それすんのっ?」
「い、今頃これしたっていいじゃないですか!ほら!拳!コツン!やりましょーよ!」
「おう!いっちょやってくるわ!」
コツン、と根武谷先輩。
「ほい!応援頼むぜ優姫!」
コツン、と葉山先輩。
「優姫ちゃんとの練習の成果、存分に発揮してくるわね!」
コツン、と実渕先輩。
「しっかり分析しておけよ」
コツン、と赤司。
そして。
「…おとなしくしてろよ、優姫。行ってくる」
最後にまゆゆとコツン、と拳を合わせて、みんなと一緒に控え室を出た。
「出たー!不撓不屈の魂で十一年連続出場の古豪、歴戦の王者、秀徳高校!」
「おい、こっちも来たぞ…高校最強…最古にして最強の王、開闢の帝王、洛山高校!」
え、すごい。秀徳の評判もそうだけど、洛山めっちゃ褒められてる。王、王だって!あとでまゆゆに教えてあげよう。
それにしても、いつも思っているけど客席からだとベンチでみんなが何話してるか全然聞き取れないな。ちくしょう。私もいつかベンチでみんなの応援がしたいって赤司に抗議してみよう。私もまゆゆにスポドリとかタオルとか渡してみたい!!試合で汗をかいてるエロいまゆゆを間近で見たいー!!
「なんか今不埒な視線を感じた」
「十中八九優姫だろうな」
赤司がバッシュの紐を結びながら呆れたようにそう言った。まあ、たしかにあいつしか考えられないが。ふと洛山の集まっている客席を見ると、案の定優姫がにやけているように見えた。あとで赤司に説教してもらうとするか。
「げーっぷ。うーむ、食いすぎたか」
「また牛丼ドカ食いしたわけ?」
「肉食った方が力でんだよ」
「それより見てみて!あいつらつよそーじゃね?ヤッベー!」
「もー静かにしなさい!なんでアンタらはいつも試合前なのに騒ぐのよ!ねー黛サン」
「オレに振るなよ」
お前らが騒がしいのはいつもだろ。と思ったが心の中にとどめておく。うるさそうなので。騒いでいる葉山に赤司は「彼らは強いよ」と律儀に答えてやっていた。
「じゃあ、行こうか」
「…何だか征ちゃん、少し上機嫌?」
「おや、そういう玲央こそ、いつもより楽しそうだが?」
「永ちゃんもだよねー!」
「お前もだろ。それと、黛サンもな」
「…ふん」
全員がいつもよりも少しテンションが高い理由はわかっている。控え室を出る前、優姫が向けた拳。初めてだった。あいつが自分から、バスケ部の仲間として何かを主張したのは。何を気にしているのか、一歩線を引こうとしていることをオレ達はとっくに気がついていた。昨日だって勝手にどこかに行って勝手に大怪我して帰ってきて、しかも誰にも言わずにいようとしていた。それが悔しくてたまらなくて、今日は昨日の怒りやら悔しさやらを発散するべく一人でシュート練をした。
それでも収まらなかったもやもやは、あいつが拳を向けてくれたことで晴れたのだ。きっと、全員が。
「勝たせてもらうぞ、赤司」
コートに整列する最中、向かい合った秀徳の緑間は赤司にそう告げる。赤司はそれに対してフッと笑った。緑間の目が見開かれる。
「勝つのは僕達だ、真太郎」
緑間の表情は、信じられないものを見た時のそれだった。赤司の笑顔になのか、言葉になのか。どちらに驚いたのかは知らないが、緑間にとって予想外の反応だったようだ。
準決勝が始まる。試合開始と同時に、秀徳の高尾が緑間にパスを送り、目の前にいた葉山が猫目をぎょっとさせた。
スパンッ、と緑間のスリーポイントが決まった。開始直後の先制攻撃に、赤司は不適に笑う。
「へえ」
「中学の時の約束通り、敗北を教えてやる、赤司」
お前ら中学の時どんな話してたんだよ。とことんラノベみたいなことしやがって。
結局第1Qは特別な攻めをするわけでもなく、お互い探り探りのまま終わった。
「順調だな。ゲームプランに変更はない。細かいゲームメイクは任せる。修正が必要なら赤司の指示に従え」
「おす!」
コートに戻る時、また赤司と緑間が何か話をしているのが聞こえた。
「ナメるなよ赤司。まさかお前の『眼』を使わずに勝とうなどと思っていないだろうな?」
「ナメてなどいないよ真太郎。切り札をそう簡単に切るわけにはいかないだけさ。…ただし、切らずに終わってしまうかもしれないな、このままでは」
「…なんだと?」
相変わらず会話がラノベですありがとうございました。しまった、今のは優姫と反応が似てた気がする。ちっと思わず舌打ちしたら、横にいた葉山が「黛サンこっわ!」と大げさに騒ぐので頭を叩いておいた。
試合再開後、指示通りに実渕と二人で緑間にダブルチームでディフェンスをする。高尾は持っていたボールを緑間ではなく、八番の宮地へ投げた。向かうのは葉山だ。
「来い!!」
「何目輝かせてんだおい?轢くぞ」
「あり?!」
「うおおおい!何シャラッと抜かれとんじゃい!!」
珍しい根武谷のツッコミだな。
葉山をドリブルで抜いた宮地は四番の大坪へパスを飛ばし、ダンクで点を取られた。秀徳がぱんっと手を合わせているのを見て、実渕がジト目で葉山を見る。
「あんた寝てんじゃないでしょーね?」
「ゴメンって!」
「…小太郎…」
「わぁっ!ちゃんと返すから!怒んないで赤司!目こわ!」
「ならばいいが…やる気がないなら、対優姫用に習得した技を小太郎で試すよ」
「ひいいっ!だっだいじょーぶだって!ドリブルなら誰にも負けねーから!」
試合再開後、さっきと同じように宮地と一対一になった葉山は不適に笑ってドリブルをする。その力強さに、宮地が驚愕していた。
ドリブルというのは、強くつくほどボールが速くなりとられにくくなる。葉山のドリブルは、全身のバネを使い、その力を指先に集約することで、力強いものになっている。対峙する相手には、まるでボールが消えたように見えるだろう。そして、今の葉山のドリブルは三本の指での力。あと二段階上がある。それにしても相変わらずこのドリブル音はうるせえな。
そして、今度は赤司の方から緑間に話しかけているのが見えた。
「真太郎。さっきの言葉、もしわかりにくければ言い直そう」
「っ、赤司…!」
「僕が直接手を下すまでもない。それだけのことだよ」
葉山は宮地を抜いて、それからブロックにきた木村をもかわして点を入れた。その後も同じように点を入れていくと、葉山がにっかーっと笑ってオレのところに来た。
「なんだよ」
「見た見た?!オレめっちゃ頑張ったよね?!」
「ああ…赤司、葉山がお前に許してもらえてるか知りたいそうだ」
「なんで本人にそれ言っちゃうのー?!」
「小太郎」
「ひえっ」
「その調子で続けてくれ」
赤司からお許しが出た葉山は飛び跳ねて喜んでいた。よかったな。とりあえずオレの腕掴んでブンブン振るのはやめてくれ。
「やったー!!優姫ーっ!赤司の新技は優姫のものだぞー!!」
「つーか、お前いつの間にバリエーション増やしてんだよ」
「勉強の合間に、少し気分転換をね」
「征ちゃんの気分転換で覚えた技をくらわされる優姫ちゃん…」
「ていうか気分転換に技覚えんなよ…」
点差は少しずつ開いてきた。緑間のスリーポイントはやはり厄介だが、同等の相手と常に練習をしてきたからか、緑間へのダブルチームも予想よりも余裕があった。だが、やはり相手はキセキの世代、帝光中元副主将の緑間真太郎。チームとの連携も、DVDで見たときより上手くなっていて、開きかけた点差を即座に縮めてきた。
第2Qが終わり、実渕がふう、と息を吐いた。かくいうオレも、実渕と一緒にダブルチームをしていたからかなり疲れた。
「さすがに一筋縄じゃいかねえな」
「ええ、でもアタシも黛サンもまだイケるわ」
「ああ…結構疲れるけどな」
「いや、後半は僕が真太郎につこう」
そう言った赤司の目は、いつになく楽しそうだった。どうやら、本当に今日は機嫌が良いらしい。
「とりあえず今はインターバルだ。一度控え室に戻るぞ」
赤司の号令で全員ベンチから立ち上がりコートを出る。オレ達の試合のインターバル中、次に試合をする海常と誠凛がアップをすることになっているので、素早く立ち去ろうとしたのだが。
すれ違った誠凛の選手、黒子テツヤと赤司が目を合わせ足を止めた。
「開会式以来だね、テツヤ」
「はい、赤司君」
開会式の時、といえばアレか。赤司がいきなり前髪切ってきた事件。
驚いた実渕が写メを撮りながら「誰にやられたの?!そいつ<ピーーーー>してやるわよ?!」と騒いで大変だった。そのすぐ後に走ってきた優姫の撮ってきた動画を見て事の経緯を知り、葉山が爆笑して赤司に転ばされていたのは今思い出しても笑う。
そんなことを思い出していたら、黒子の前に立つように背の高い男、火神大我が出てきて赤司を見下ろした。
「よお、まさか忘れてねーだろーな?あん時はずいぶん……あ!そうだ!水瓶!水瓶は大丈夫か?今朝会った時に大丈夫だって言ってたけど、何か無理してそうだったから心配してたんだよ」
一触即発の雰囲気だったのだが、火神は洛山のジャージを見たからか、急に優姫の心配をしてきた。そういえば、昨日の灰崎事件の時側にいたんだったか。
今朝会った時に、無理してそうだった、だと?
そんなことは、みんなとっくにわかっているんだよ。けど、あいつが笑うから。笑って、オレ達に拳を向けてくれたから。
赤司は見下ろされたことに怒るのではなく、そんな馬鹿な奴のことを思って火神を睨むように見上げた。
「…火神大我。僕のチームメイトの心配をしてくれることには感謝してもいい。だが、なぜすぐに病院につれて行かなかった。涼太も、お前達も一体何をしていたんだ」
「っ、わりぃ…」
「…すまない、これは八つ当たりだったな。だが、あの場にいたのが僕だったならと思わずにはいられないよ。それと、頭が高いぞ、火神大我」
火神の肩を掴み、そのまま音もなく床に座らせた。力業などではない赤司の技に、火神が驚いたまま赤司を仰ぐ。黒子が駆け寄り、怪我がないか確認している。そんな二人を見下ろして、赤司は言葉を吐き捨てる。
「テツヤも、僕とやるつもりなら覚悟しておくことだ。この件に関しては、多少なりとも私情がある。もとより手を抜くことはないが、容赦はしない」
そのままコートを出て行く赤司を追う。控え室では、きっと優姫が待っているだろう。いつも通り騒がしくして赤司に怒られ、葉山に笑われ、根武谷に呆れられ、実渕に慰められるのだろう。
(…こんな気持ちになるのは、もう何度目だろうか)
あいつは、いつだって誰かの世界に入り込んでいく。去年までの他者に興味の薄かった実渕達も、入部して早々絶対王者として君臨した赤司も、優姫と出会うまで腐っていたオレも、あいつ一人にいとも容易く変えられてしまった。
仲間と共に、試合に勝ちたいと思わせてくれた。
けど、オレはこれが引退試合だ。他の三年はバスケ馬鹿だからきっと受験勉強の息抜きやらでこれからも練習に参加するだろう。なら、オレは?オレは、そこまでバスケが好きなわけじゃない。引退後にまで練習に参加しようなど思わない。つまるところ、これが終われば、こいつらとバスケをすることはなくなるのだ。
それはつまり、優姫とも。
オレは、どうしたいのだろうか。バスケを通じて優姫と友達とやらになったわけじゃない。癪だが、オタク仲間としてできた関係。オレは卒業したら、都内の大学に進学するつもりでいる。優姫との時間も、もう終わりが近づいている。
オレは、どうしたいのだろうか?
「黛サン?どしたの?」
「なんでもねーよ」
「痛い!なんで叩いたの?!」
この大会が終わる頃には、この気持ちを整理できるのだろうか。答えはまだ出ないまま。