影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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WC予選リーグまであと一週間。私は悩んでいた。
というのも、そもそも私が男バスのトレーナーという立場で入部したのは、私の3Pがキセキの世代の緑間真太郎と同等だろうと判断され、キセキ対策の練習をするためだ。たしかに私の3Pをどう止めるか作戦を考えたり、予備動作の癖とかそういうものを見極める練習を沢山して、一応の対策はできたと思う。けど、それだけだ。どうにかこちらが一矢報いる一打がほしい。
そして日々悶々としていた私は、深夜アニメを見て閃いた。
「実渕先輩!!シュッてしてバシュッと3Pを試してみませんか?!!」
「ええっと…つまりどんな3Pなのかしら…」
「こいつの話は基本八割スルーでいいからな」
放課後の部活動。準備運動を終えた実渕先輩を捕まえて、私は閃いたシュート練を試してみたくて鼻息荒く先輩に詰め寄った。その後ろをタオルで汗を拭きながらまゆゆが通り過ぎようとするが、ストーっプ!と通せんぼをして足を止めさせる。
「まゆゆも一緒にやるんだよ!!」
「は?」
訝しげな表情をするまゆゆと首を傾げている実渕先輩に、まずは昨夜見た深夜アニメについて簡単に説明をした。
「仲間が全員やられた上に武器も遠くに転がっちゃって、そんな手持ち無沙汰な状態で主人公は魔王相手に真っ向から挑んで、手を振りかぶるんです!そのとき!息も絶え絶えのヒロインが主人公に最後の力を振り絞って武器を投げたんです!最初からそこに投げられるのがわかっていたかのように、主人公はそれをキャッチしてそのまま魔王にたたき落として倒したんですけど、これだ!って思ったんです!」
「どれだよ」
「実渕先輩が3Pを放つ時と全く同じフォームで構える、そこにまゆゆがボールをパスして、見事手に収まったそれを、そのままシュート!っていうの思いついたのです!!」
ドヤァ!と胸を張って言い切った。二人の反応はない。
ふと我に返る。あれ、昨日はめちゃくちゃ良い案だと思ったんだけど、これもしかしなくても微妙だったかな。ていうか、非現実的な策だったかもしれない。パスを正確に出すこと自体難しいのに、3Pが打てるように構えた手の中にボールを収めるようにパスすることなんて、もっと難しいことではないだろうか。今更ながらに、とても恥ずかしくなってきた。
「……優姫ちゃん、それ、結構いいかも」
「はい?!」
「いやなんでそこで驚くんだよ。まあ実渕の言う通り、オレも面白いと思うぞ」
「ええ、相手は必ず油断するし、構えてボールをキャッチする高さによっては相手に取られることもない。今日のメニューが終わったら居残り練で早速練習してみましょ!」
「オレのハードルかなりたけーな…とりあえずやってみるか」
なんと、まさかの採用。二人とも試してみるか、と意気込んでくれてるし、案を出した身としてはとても嬉しい。もし成功したら、少しは私も部の役に立てたことになるだろうか。ふへへ、と笑ったら、まゆゆに「笑い方が怖い」と言われたけど、今は嬉しくて仕方ないので気にしない!
「その案はなかなか面白い。だが欠点がある」
「ふぎゃおう!!」
「最近音もなく現れるようになったな…」
日常茶飯事のようになってきた、赤司の背後からヌッと現れる攻撃には何度食らっても耐性がつかない。いつものように悲鳴を上げたらまたうるさいと一喝されてしまった。解せぬ。
どうやら私達の話を聞いていたらしい。しかも、欠点があるとな?
「征ちゃん、欠点って?」
「最初の数発は点を取れても、すぐに対処されるだろう。なぜなら玲央のシュートモーションに変化がない以上、パスコースもタイミングも容易に分かるからだ。僕の天帝の眼を使うまでもなく、ね」
「あ、ああ~…そっかあ、そう言われれば、そうかああ…」
型が決まっていれば、それに合わせて対処すればいいからすぐに攻略されてしまう。これは盲点だった。一矢報いる一打になると思ったのだけど、ダメだったか。
「それじゃ、他の考える…」
「いや、これも一つの武器にしよう」
「はい?!」
「いやだから、なんでそんなに驚くんだよ。お前少しは自信もてよ」
「だ、だって赤司が欠点あるって言ったのにやるって言うから!」
まゆゆに呆れられるが、欠点を指摘されたのに武器にするとかよくわかんないことを言う赤司が悪くない?!
赤司はというと、やれやれと肩を竦めている。
「ダメだとは言っていないだろう。むしろ面白い。この欠点に関しても、フォローできないこともない」
「欠点をフォローって、どうやるんだ?」
「3Pを打つのは、玲央と僕でやる。玲央は右で構え、僕は左で構える。左右どちらもタイミングがとても難しいが、千尋がミスディレクションを併用してパスを出せば多少のラグなら通るはずだ」
「えーと…つまり、右利きの実渕先輩だけだとパスコースを読まれて対処されちゃうけど、左で構える赤司が出てきたことで、まゆゆがどっちに出すかさえ読まれなければ、3Pは止められないってこと?」
「そういうことだ。僕は左利きではないが、最初の一発を決めさえすれば相手は左も警戒するようになるだろう。僕の3Pは七割はフェイクだよ」
赤司はフッと笑った。おや、少し上機嫌?
「真太郎と同等タイプの優姫が考えた策だ。もしかしたら向こうも同じシュートを思いついているかもしれないな」
「げ、どうすんだよ」
「どうもしないさ。対処法はすでにわかっているし、こちらは欠点を見抜いた上で策を講じている。故に僕達の勝利は揺らがない」
「それじゃ、早速今日から練習してみましょうか!ね、黛サン、優姫ちゃん!」
「ああ」
「はい!!」
今日のメニュー後の居残り練には、いつものスタメンメンバーと樋口先輩がつきあってくれた。みんななんだかんだでバスケ馬鹿の集まりなのだ。かくいう私もそうなのだけど。
「千尋、タイミングが遅い。小太郎をかわした後の動作に無駄がある」
「…なんとなくつかめてきた。もう一回頼む」
「オッケー!でも全力でとめっからね!」
「オレも忘れてもらっちゃ困るぜ!」
まずは実渕先輩とまゆゆの連携を試してみて、一打成功したので次は赤司との連携練習に入った。それを実渕先輩と並んで休憩しながら観戦していると、実渕先輩がふふっと笑った。
「優姫ちゃん、このシュートが成功する確率ってどれくらいだと思う?」
「え?えっとー…限りなく低い、かなー…と」
「ええ、そうよ。正確なパスを出さないといけない黛サンが一番難しい役だけど、そもそもこのシュートってね、お互いを信じていないとできない技だと思うの」
お互いを、信じていないとできない技?
「だってね、相手がパスをくれることを信じてないと、空の手で構えて飛ぶなんてとてもじゃないけどできないわ」
それもそうだ。だって、ボールを持っていない状態で構えて飛ぶなんて、正気の沙汰じゃない。もしパスが来なかったら、大観衆のど真ん中で空振りをすることになる。私なら羞恥でしぬ。
けど、パスが来ると信じて飛んで、そこにボールが届いたら。
きっと、最高に気持ち良いシュートが打てる。
「アタシ、覚えてるわよ。四月の女バスの体験入部で向こうの主将に優姫ちゃんが言った言葉」
「うえ?!私なんて言ってましたっけ?!」
「本当にバスケがしたい人達に嫌な思いをさせるようなことはやめてください、って言ったの」
そういえば、そんなことを言ったような気もする。バスケに興味を持って、やってみたいと思ったと言ってた島津さんが泣いていたから、こんなの間違ってるって思って、それで思わず言ったのだ。
「アタシ達が無冠の五将って呼ばれてたのは、征ちゃん達キセキの世代っていう天才の陰に埋もれたことが由来なの。そしてキセキの世代は、その天才さ故に孤独で、中学の後半はほとんどの試合で遊んでたって聞いたわ」
試合で遊んでた、って。それは、そんなのはおかしい。試合は楽しんで、けど自身の力を全力でぶつけ合うものだ。天才だからとか、誰も敵がいなくて孤独だったからとか、そんなのは関係がない。そんなの、間違ってる。
けどね、と実渕先輩は続ける。その表情に嫌悪はなく、微笑みながら練習に勤しむ赤司達を見た。
「洛山バスケ部に、そんなプレイをする人は誰もいない。見て、優姫ちゃん。征ちゃんも黛サンも、みんな真剣で楽しそうでしょう?」
コートを見ると、葉山先輩が何かしたのかまゆゆが頭をスパンッと叩いていて、それを根武谷先輩が笑って見てて、赤司が呆れたように肩を竦めていた。けど、少し微笑んで。
「本当にバスケがしたい人達に嫌な思いをさせてきた征ちゃんは、ここに来て変われたのよ。それって、誰かさんのおかげよね」
ふふっと実渕先輩が柔らかく微笑んだ。我が子の成長を見守る母のような笑みだ。
キセキの世代とか、無冠の五将とか、私は何も知らなかったし、今もよくわかってないけど。でも、今楽しんでバスケが出来ているなら、良かった。昔嫌な思いをさせた人には土下座して謝れとは思うけども。
いろいろ考えていたら、黙った私に実渕先輩が慌ててしまう。
「ごめんなさい、征ちゃんの印象変わっちゃった?」
「あ、いえ!そもそも赤司は魔王だって知ってたんで!」
「なら良かった…良かったのかしら?」
赤司が昔やんちゃしてたとしても、今も魔王だとしても、たとえば別人のようになっていたとしても、私の知ってる赤司は今目の前でまゆゆ達と楽しそうにバスケをしている。だから、私の中の赤司は変わらない。
「ただ、みんな悩みを抱えて生きてるんだなーって実感してました」
「そういえば、優姫ちゃんはどうして洛山に来たの?」
無冠の五将の三人はキセキの世代に思う所があったり、キセキの世代の赤司は孤独に苛まれていて、そして私は。
「兄貴の名前から、ちょっとだけ逃げたかったんです」
夏合宿の時、まゆゆに少しだけ漏らした愚痴。
いつだって兄貴の名前は大きくて、私はいつも兄貴の妹という肩書きで見られて。
でも兄貴が嫌いなわけじゃなくて、ただ少し疲れたんだ。だから、新しい場所に行けば何か変わるのか期待して、生まれた街を出た。
京都、洛山高校。ここを選んだ理由は、制服がすごく好みだったから。建物がかっこよかったから。そんな何でもない理由だった。けど今は、ここに来て良かったと心から言える。あの日ここを選んだ自分に、よくやったと褒めてやりたい。
「私、洛山に来てよかったです。みんなと一緒に日本一になりたいです」
きっかけはどれも些細なことばかりだけど、今私は洛山男子バスケ部のトレーナーとしてここにいる。そして、このメンバーで日本一になりたい。IH、WCと二冠をとって、最強の日本一のチームになりたい。
「あーもう!優姫ちゃん良い子ねっ!!」
「ほぎゃおう?!」
今めっちゃ良いこと言ったと思うんだけど?!
シリアスな空気はどこへやら。実渕先輩は私の頭をぎゅーっと抱きしめて「黛さんには勿体ない」とぼやいている。はて、どういう意味なのか。それにしても実渕先輩めっちゃ良い香りするんだけど!ハスハス。
「おい実渕、優姫、遊んでんじゃねーよ」
「ふごう!!」
無防備な背中にまゆゆの放り投げたパスがクリーンヒットし、俯せに倒れ込む。まゆゆ、容赦なし。がくり。
そしてノーダメージの実渕先輩はあらあらとあまり困っていない顔で言った。
「どうしてこんなにわかりやすいのに、進展しないのかしらね」
「そりゃ優姫は鈍いし、黛サンはツンデレ?とかいうやつだからだろ」
「誰がツンデレだ。あと妙なこと言ってんなよ」
「はいはい!閃いた!黛サンが焦ればいいんでしょ?ならオレが優姫に迫る間男役やるからギリギリのところで黛サンが乱にゅ…あいたぁっ!!」
「小太郎は懲りないね」
起き上がった私の目の前で、また葉山先輩がまゆゆに叩かれていた。いやほんと、私の聞き逃しっぷりやばすぎでしょ。またまゆゆに何言ったんだよ葉山先輩ー!!はやまゆなんですねわかります!!詳しく!詳しく!!
二人に詰め寄ろうとしたら、きゅっと襟を捕まれて動きを止められた。引っ張ったのはもちろん赤司だ。
「さっきの話だけど」
あ、聞かれてましたか。バスケしながらこっちの話も聞くとか器用だね赤司くん!言ったら叩かれるから言わないけど!
うん、と頷いたら、赤司は一切の躊躇いもなく堂々としていた。
「僕は自分のしてきたことに後悔はないが、まあ反省していなくもない。だから、以前言った言葉に嘘偽りはないよ」
「以前?」
「お前の力を頼るのは、部の勝利のためだ。僕個人の勝利ではなく、このチームで勝つために」
なるほど、たしかに赤司は変わったのかもしれない。
IHの予選リーグ、初戦を突破したあの日を思い出す。祝勝会をしようと騒ぐ私に、あの時赤司は『勝ちの決まっていた試合を祝う必要はない』と言った。けど今は違う。勉強合宿の日も、今も、赤司は部のために頑張っていて、みんなで勝利すると言っている。
この練習だって、そのためで。
「もちのろんよ!!みんなで日本一になって、華々しいまゆゆの引退試合にするんだっ!!」
「そこまでしなくていい」
「ええっ?!まゆゆのためなら体育館を貸し切ってパーティー開いたっていいんだよ?!」
「いやマジでそこまでしなくていいっていうかするんじゃねーぞ頼むから」
「貸し切りか…部の予算が足りなければ僕の貯金から…」
「やめろ赤司お前が言うと洒落にならねえから」
ぶははっと葉山先輩が最初に噴き出した。結局みんなつられて笑っていたら、見回りの先生にいつまで残ってんだと怒られたのも、きっと後から思い出して笑い話になるんだろうな。
そして一週間後、WC予選リーグを通過した私達の戦いは、次のステージに進む。
十二月、まゆゆにとって最後の試合となる、ウィンターカップの開幕だ。
というのも、そもそも私が男バスのトレーナーという立場で入部したのは、私の3Pがキセキの世代の緑間真太郎と同等だろうと判断され、キセキ対策の練習をするためだ。たしかに私の3Pをどう止めるか作戦を考えたり、予備動作の癖とかそういうものを見極める練習を沢山して、一応の対策はできたと思う。けど、それだけだ。どうにかこちらが一矢報いる一打がほしい。
そして日々悶々としていた私は、深夜アニメを見て閃いた。
「実渕先輩!!シュッてしてバシュッと3Pを試してみませんか?!!」
「ええっと…つまりどんな3Pなのかしら…」
「こいつの話は基本八割スルーでいいからな」
放課後の部活動。準備運動を終えた実渕先輩を捕まえて、私は閃いたシュート練を試してみたくて鼻息荒く先輩に詰め寄った。その後ろをタオルで汗を拭きながらまゆゆが通り過ぎようとするが、ストーっプ!と通せんぼをして足を止めさせる。
「まゆゆも一緒にやるんだよ!!」
「は?」
訝しげな表情をするまゆゆと首を傾げている実渕先輩に、まずは昨夜見た深夜アニメについて簡単に説明をした。
「仲間が全員やられた上に武器も遠くに転がっちゃって、そんな手持ち無沙汰な状態で主人公は魔王相手に真っ向から挑んで、手を振りかぶるんです!そのとき!息も絶え絶えのヒロインが主人公に最後の力を振り絞って武器を投げたんです!最初からそこに投げられるのがわかっていたかのように、主人公はそれをキャッチしてそのまま魔王にたたき落として倒したんですけど、これだ!って思ったんです!」
「どれだよ」
「実渕先輩が3Pを放つ時と全く同じフォームで構える、そこにまゆゆがボールをパスして、見事手に収まったそれを、そのままシュート!っていうの思いついたのです!!」
ドヤァ!と胸を張って言い切った。二人の反応はない。
ふと我に返る。あれ、昨日はめちゃくちゃ良い案だと思ったんだけど、これもしかしなくても微妙だったかな。ていうか、非現実的な策だったかもしれない。パスを正確に出すこと自体難しいのに、3Pが打てるように構えた手の中にボールを収めるようにパスすることなんて、もっと難しいことではないだろうか。今更ながらに、とても恥ずかしくなってきた。
「……優姫ちゃん、それ、結構いいかも」
「はい?!」
「いやなんでそこで驚くんだよ。まあ実渕の言う通り、オレも面白いと思うぞ」
「ええ、相手は必ず油断するし、構えてボールをキャッチする高さによっては相手に取られることもない。今日のメニューが終わったら居残り練で早速練習してみましょ!」
「オレのハードルかなりたけーな…とりあえずやってみるか」
なんと、まさかの採用。二人とも試してみるか、と意気込んでくれてるし、案を出した身としてはとても嬉しい。もし成功したら、少しは私も部の役に立てたことになるだろうか。ふへへ、と笑ったら、まゆゆに「笑い方が怖い」と言われたけど、今は嬉しくて仕方ないので気にしない!
「その案はなかなか面白い。だが欠点がある」
「ふぎゃおう!!」
「最近音もなく現れるようになったな…」
日常茶飯事のようになってきた、赤司の背後からヌッと現れる攻撃には何度食らっても耐性がつかない。いつものように悲鳴を上げたらまたうるさいと一喝されてしまった。解せぬ。
どうやら私達の話を聞いていたらしい。しかも、欠点があるとな?
「征ちゃん、欠点って?」
「最初の数発は点を取れても、すぐに対処されるだろう。なぜなら玲央のシュートモーションに変化がない以上、パスコースもタイミングも容易に分かるからだ。僕の天帝の眼を使うまでもなく、ね」
「あ、ああ~…そっかあ、そう言われれば、そうかああ…」
型が決まっていれば、それに合わせて対処すればいいからすぐに攻略されてしまう。これは盲点だった。一矢報いる一打になると思ったのだけど、ダメだったか。
「それじゃ、他の考える…」
「いや、これも一つの武器にしよう」
「はい?!」
「いやだから、なんでそんなに驚くんだよ。お前少しは自信もてよ」
「だ、だって赤司が欠点あるって言ったのにやるって言うから!」
まゆゆに呆れられるが、欠点を指摘されたのに武器にするとかよくわかんないことを言う赤司が悪くない?!
赤司はというと、やれやれと肩を竦めている。
「ダメだとは言っていないだろう。むしろ面白い。この欠点に関しても、フォローできないこともない」
「欠点をフォローって、どうやるんだ?」
「3Pを打つのは、玲央と僕でやる。玲央は右で構え、僕は左で構える。左右どちらもタイミングがとても難しいが、千尋がミスディレクションを併用してパスを出せば多少のラグなら通るはずだ」
「えーと…つまり、右利きの実渕先輩だけだとパスコースを読まれて対処されちゃうけど、左で構える赤司が出てきたことで、まゆゆがどっちに出すかさえ読まれなければ、3Pは止められないってこと?」
「そういうことだ。僕は左利きではないが、最初の一発を決めさえすれば相手は左も警戒するようになるだろう。僕の3Pは七割はフェイクだよ」
赤司はフッと笑った。おや、少し上機嫌?
「真太郎と同等タイプの優姫が考えた策だ。もしかしたら向こうも同じシュートを思いついているかもしれないな」
「げ、どうすんだよ」
「どうもしないさ。対処法はすでにわかっているし、こちらは欠点を見抜いた上で策を講じている。故に僕達の勝利は揺らがない」
「それじゃ、早速今日から練習してみましょうか!ね、黛サン、優姫ちゃん!」
「ああ」
「はい!!」
今日のメニュー後の居残り練には、いつものスタメンメンバーと樋口先輩がつきあってくれた。みんななんだかんだでバスケ馬鹿の集まりなのだ。かくいう私もそうなのだけど。
「千尋、タイミングが遅い。小太郎をかわした後の動作に無駄がある」
「…なんとなくつかめてきた。もう一回頼む」
「オッケー!でも全力でとめっからね!」
「オレも忘れてもらっちゃ困るぜ!」
まずは実渕先輩とまゆゆの連携を試してみて、一打成功したので次は赤司との連携練習に入った。それを実渕先輩と並んで休憩しながら観戦していると、実渕先輩がふふっと笑った。
「優姫ちゃん、このシュートが成功する確率ってどれくらいだと思う?」
「え?えっとー…限りなく低い、かなー…と」
「ええ、そうよ。正確なパスを出さないといけない黛サンが一番難しい役だけど、そもそもこのシュートってね、お互いを信じていないとできない技だと思うの」
お互いを、信じていないとできない技?
「だってね、相手がパスをくれることを信じてないと、空の手で構えて飛ぶなんてとてもじゃないけどできないわ」
それもそうだ。だって、ボールを持っていない状態で構えて飛ぶなんて、正気の沙汰じゃない。もしパスが来なかったら、大観衆のど真ん中で空振りをすることになる。私なら羞恥でしぬ。
けど、パスが来ると信じて飛んで、そこにボールが届いたら。
きっと、最高に気持ち良いシュートが打てる。
「アタシ、覚えてるわよ。四月の女バスの体験入部で向こうの主将に優姫ちゃんが言った言葉」
「うえ?!私なんて言ってましたっけ?!」
「本当にバスケがしたい人達に嫌な思いをさせるようなことはやめてください、って言ったの」
そういえば、そんなことを言ったような気もする。バスケに興味を持って、やってみたいと思ったと言ってた島津さんが泣いていたから、こんなの間違ってるって思って、それで思わず言ったのだ。
「アタシ達が無冠の五将って呼ばれてたのは、征ちゃん達キセキの世代っていう天才の陰に埋もれたことが由来なの。そしてキセキの世代は、その天才さ故に孤独で、中学の後半はほとんどの試合で遊んでたって聞いたわ」
試合で遊んでた、って。それは、そんなのはおかしい。試合は楽しんで、けど自身の力を全力でぶつけ合うものだ。天才だからとか、誰も敵がいなくて孤独だったからとか、そんなのは関係がない。そんなの、間違ってる。
けどね、と実渕先輩は続ける。その表情に嫌悪はなく、微笑みながら練習に勤しむ赤司達を見た。
「洛山バスケ部に、そんなプレイをする人は誰もいない。見て、優姫ちゃん。征ちゃんも黛サンも、みんな真剣で楽しそうでしょう?」
コートを見ると、葉山先輩が何かしたのかまゆゆが頭をスパンッと叩いていて、それを根武谷先輩が笑って見てて、赤司が呆れたように肩を竦めていた。けど、少し微笑んで。
「本当にバスケがしたい人達に嫌な思いをさせてきた征ちゃんは、ここに来て変われたのよ。それって、誰かさんのおかげよね」
ふふっと実渕先輩が柔らかく微笑んだ。我が子の成長を見守る母のような笑みだ。
キセキの世代とか、無冠の五将とか、私は何も知らなかったし、今もよくわかってないけど。でも、今楽しんでバスケが出来ているなら、良かった。昔嫌な思いをさせた人には土下座して謝れとは思うけども。
いろいろ考えていたら、黙った私に実渕先輩が慌ててしまう。
「ごめんなさい、征ちゃんの印象変わっちゃった?」
「あ、いえ!そもそも赤司は魔王だって知ってたんで!」
「なら良かった…良かったのかしら?」
赤司が昔やんちゃしてたとしても、今も魔王だとしても、たとえば別人のようになっていたとしても、私の知ってる赤司は今目の前でまゆゆ達と楽しそうにバスケをしている。だから、私の中の赤司は変わらない。
「ただ、みんな悩みを抱えて生きてるんだなーって実感してました」
「そういえば、優姫ちゃんはどうして洛山に来たの?」
無冠の五将の三人はキセキの世代に思う所があったり、キセキの世代の赤司は孤独に苛まれていて、そして私は。
「兄貴の名前から、ちょっとだけ逃げたかったんです」
夏合宿の時、まゆゆに少しだけ漏らした愚痴。
いつだって兄貴の名前は大きくて、私はいつも兄貴の妹という肩書きで見られて。
でも兄貴が嫌いなわけじゃなくて、ただ少し疲れたんだ。だから、新しい場所に行けば何か変わるのか期待して、生まれた街を出た。
京都、洛山高校。ここを選んだ理由は、制服がすごく好みだったから。建物がかっこよかったから。そんな何でもない理由だった。けど今は、ここに来て良かったと心から言える。あの日ここを選んだ自分に、よくやったと褒めてやりたい。
「私、洛山に来てよかったです。みんなと一緒に日本一になりたいです」
きっかけはどれも些細なことばかりだけど、今私は洛山男子バスケ部のトレーナーとしてここにいる。そして、このメンバーで日本一になりたい。IH、WCと二冠をとって、最強の日本一のチームになりたい。
「あーもう!優姫ちゃん良い子ねっ!!」
「ほぎゃおう?!」
今めっちゃ良いこと言ったと思うんだけど?!
シリアスな空気はどこへやら。実渕先輩は私の頭をぎゅーっと抱きしめて「黛さんには勿体ない」とぼやいている。はて、どういう意味なのか。それにしても実渕先輩めっちゃ良い香りするんだけど!ハスハス。
「おい実渕、優姫、遊んでんじゃねーよ」
「ふごう!!」
無防備な背中にまゆゆの放り投げたパスがクリーンヒットし、俯せに倒れ込む。まゆゆ、容赦なし。がくり。
そしてノーダメージの実渕先輩はあらあらとあまり困っていない顔で言った。
「どうしてこんなにわかりやすいのに、進展しないのかしらね」
「そりゃ優姫は鈍いし、黛サンはツンデレ?とかいうやつだからだろ」
「誰がツンデレだ。あと妙なこと言ってんなよ」
「はいはい!閃いた!黛サンが焦ればいいんでしょ?ならオレが優姫に迫る間男役やるからギリギリのところで黛サンが乱にゅ…あいたぁっ!!」
「小太郎は懲りないね」
起き上がった私の目の前で、また葉山先輩がまゆゆに叩かれていた。いやほんと、私の聞き逃しっぷりやばすぎでしょ。またまゆゆに何言ったんだよ葉山先輩ー!!はやまゆなんですねわかります!!詳しく!詳しく!!
二人に詰め寄ろうとしたら、きゅっと襟を捕まれて動きを止められた。引っ張ったのはもちろん赤司だ。
「さっきの話だけど」
あ、聞かれてましたか。バスケしながらこっちの話も聞くとか器用だね赤司くん!言ったら叩かれるから言わないけど!
うん、と頷いたら、赤司は一切の躊躇いもなく堂々としていた。
「僕は自分のしてきたことに後悔はないが、まあ反省していなくもない。だから、以前言った言葉に嘘偽りはないよ」
「以前?」
「お前の力を頼るのは、部の勝利のためだ。僕個人の勝利ではなく、このチームで勝つために」
なるほど、たしかに赤司は変わったのかもしれない。
IHの予選リーグ、初戦を突破したあの日を思い出す。祝勝会をしようと騒ぐ私に、あの時赤司は『勝ちの決まっていた試合を祝う必要はない』と言った。けど今は違う。勉強合宿の日も、今も、赤司は部のために頑張っていて、みんなで勝利すると言っている。
この練習だって、そのためで。
「もちのろんよ!!みんなで日本一になって、華々しいまゆゆの引退試合にするんだっ!!」
「そこまでしなくていい」
「ええっ?!まゆゆのためなら体育館を貸し切ってパーティー開いたっていいんだよ?!」
「いやマジでそこまでしなくていいっていうかするんじゃねーぞ頼むから」
「貸し切りか…部の予算が足りなければ僕の貯金から…」
「やめろ赤司お前が言うと洒落にならねえから」
ぶははっと葉山先輩が最初に噴き出した。結局みんなつられて笑っていたら、見回りの先生にいつまで残ってんだと怒られたのも、きっと後から思い出して笑い話になるんだろうな。
そして一週間後、WC予選リーグを通過した私達の戦いは、次のステージに進む。
十二月、まゆゆにとって最後の試合となる、ウィンターカップの開幕だ。