影法師にラブコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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きたるIH。洛山はどこからも注目されていて、会場に着いたと同時に周囲にいた他校生がざわめきだした。今回は私もトレーナーとして控え室までは一緒にいていいと言われたので関係者以外立ち入り禁止区域も堂々と歩けている。
それにしても、すれ違う人達みんな赤司達を見ている。これは、赤司総受けの予感がぷんぷんするぜ…!
スパンッ
「あいたぁっ!!」
「試合前だからこの程度ですませるが、会場を出たら覚えておけ」
「心を読むのはやめてっていつも言ってるよね?!まゆゆも少しは助けてくれてもよくない?!」
「オレをかけ算しなければな」
「それは無理」
「赤司、今日勝ったら焼き肉行こうぜ。こいつ置いて」
「いいね。鶴橋におすすめの焼肉屋があるんだ。今夜はそこで夕食にしようか。こいつ抜きで」
「いやああああ私も連れてって後生だからあああああ!!」
すたすた歩きながら私抜きの祝勝会の話をするまゆゆと赤司に喚いていたら、白金監督が溜息を吐いた。監督やめてくださいその「ダメだこいつ早くなんとかしないと」って顔は。試合開始前から心がつらい。
さて、初戦、二戦と一日に二試合あったわけだけど、当然のごとく洛山は勝利した。シード校だったので、次はもう準決勝。良い調子だ。というか、良い調子すぎて怖いくらいだ。
みんなが着替えてる控え室の外で待ちながら、明日の対戦相手はどこだろうかと悶々としていたら、どうやら試合を終えた選手達が出てきたらしく、沢山の足音が近づいてきた。この先の控え室の選手だろうか。
「ねー、お菓子なくなっちゃったんだけどー」
「少しは我慢しろよ!あーもう、こいつ誰か管理してくれよ!」
「そんな兄貴分どこにいるアル」
「お前ら静かに歩けんのか!」
「お前もだ!」
スパアンッ!と、おそらく監督だろう美人なお姉さんの竹刀が背の高い選手にクリーンヒットした。その人は、その人はきっと悪くないっす…むしろ止めようとしてたんで許してあげて…なんだろう、この親近感は…あの顎の人と共鳴できる気がする…。
去って行く後ろ姿を見ながら、あの賑やかさはおそらく勝ったんだろうな、と推測する。となれば、明日の準決勝の相手かもしれない。えーと、陽泉高校か。
「ああ、敦のいる学校だね」
「うおわあっ?!だから!赤司!もっと普通に出てきてお願いだから!まゆゆの方が控えめってどうなの!」
「控えめ言うな」
「敦…って、紫原敦?ってことは、キセキの世代獲得校、陽泉高校ね」
いつの間にか全員着替えが終わったようだ。赤司が私の真後ろから突然顔を出してきたから思わず叫んだら「うるさい」と言われてしまった。解せぬ。っとそれよりも、今実渕先輩が言ったことは本当なのか。とくれば、やっとキセキの世代と試合するということに!
陽泉高校の姿が見えなくなってから、赤司がふむ、と何か考える動作をした。
「明日の試合、向こうがどう出るかはわからないが、敦が試合に出るようなら僕も出よう」
「なんで出ない選択肢があるのさ」
「全力で来ない相手に、真面目にやる意味があるか?」
「いやいや!そこは逆に怒っていいと思うんだけど!むしろ向こうからその紫原君引きずり出してやろうぞ!ねっまゆゆ!」
「なんでお前はそう好戦的なんだよ…いいから焼き肉行こうぜ」
「ま…まゆゆが祝勝会にやる気を出す…だと…」
「じゃあな優姫。気をつけてホテル戻れよ」
「いやああああ置いてく気満々だったあああああ私も行くううううう!!」
「ふふ…っ、優姫ちゃんが部に入ってから、前よりバスケが楽しくなった気がするわ」
「わかる!祝勝会も楽しいし!」
「焼き肉なら牛丼もあるよな!」
「あんたそれしか考えてないじゃない!」
ちなみに焼き肉はなんとか連れて行ってもらえました。さすが赤司おすすめ。めちゃくちゃ美味しかった。
翌日、準決勝。
やはり相手は陽泉高校だった。どうやら秋田の学校らしい。私はいつも通り控え室から観客席へと移動して、上から試合を観戦する。紫原君紫原君…。あ、あの背の高い選手だな。ていうか、でかくない?まゆゆよりでかくない?あの中にいると赤司めっちゃ小さく見えるな…うわっ赤司こっち見てきた!この距離でも心の声読んでくるの?!こわっ!!
「うっ…う…」
試合が開始してすぐのこと。ボールを紫原君が弾いて、どう攻める!と拳を握って観戦していたら、誰かの泣く声が微かに聞こえた。この大歓声の中、気のせいだろうか、と思いながら後ろを振り返る。って、あれ?
「さつきちゃん…?」
「え…っ?」
ちょうど真後ろにさつきちゃんがいて、おそらく試合のデータを取ろうと思って持ってきたのだろうボードにいくつも涙を落としていた。さつきちゃんが、泣いていた。
「なっ、なんで泣いて…!桐皇まだ試合してないよね?!まだ負けてないよね?!えっもしかしてナンパ?!クソ野郎にナンパされた?!任せて私がそいつ殴ってくるから!!」
「ち、違うの…ごめんね、本当に違うの…大ちゃ…青峰君が…」
「青峰に手籠めに?!」
「それも違う…」
席を移動して、さつきちゃんの隣に座って話を聞いてみる。一瞬言うのを躊躇ったけど、ゆっくり少しずつ話してくれた。
青峰が、肘を痛めているらしい。そのため、試合には出さないことにしたと。
「いやそれ、さつきちゃんの判断が正しいよ!だってここで我慢しなかったら今後に響くんだよ!だから、さつきちゃんが気に病むことないって」
「うん…でも、大ちゃん…すごく怒ってて…」
「いいんだよ、喧嘩くらいしたって!」
え、とさつきちゃんが顔を上げる。その不安そうな顔を元気づけたくて、私は渾身の笑みを返した。
「だって、さつきちゃんが青峰のこと心配でやったことなんだから、青峰だってわかってるって。それに幼なじみって仲はそう簡単に壊れたりしないよ。だから大丈夫!むしろまだ怒ってくるんだったら私加勢するよ!こんな美人泣かせてただですむと思うなよ青峰!」
「…ふふっ、うん、少し気が楽になった、かな。ありがと、優姫ちゃん」
そう言ってさつきちゃんはやっと笑ってくれた。やっぱり美人は笑顔が一番だ。
「あれ、その時兄貴はどうしてたの?めっちゃ怒りそうだけど…」
「水瓶先生は合宿終わったら学校の方に戻ったよ。保健室を長く空けるわけにはいかないって」
そうでした。兄貴は桐皇の保健室の先生でした。アシスタントコーチとかしてるからち忘れてた。けど、この事情知ったら青峰…うん、強く生きて…。
涙を拭いて、さつきちゃんは力強くボードを握り直してコートを見つめた。
「よーし、洛山と陽泉のデータ取るぞ!」
「はっ、しまった!私、敵に塩送ってた!」
「ふふ!えーと…あ、二人とも試合に出てるんだね」
「そうそう。赤司が紫原君出なかったら試合出ないみたいなこと言うから焦ったわー」
「赤司君…ねえ、優姫ちゃん、赤司君のことなんだけど」
「ほい?」
ピーッと、休憩に入る笛が鳴った。あ、しまった。私樋口先輩のお手伝いするんだった。
「ごめんさつきちゃん、私控え室戻んなきゃ!」
「うん、こっちこそ前半潰しちゃってごめんね」
「それはお互い様ってことで!いや、私としてはデータ取られなくてよかったけど!」
「ふふっ」
もう涙の跡は見えないさつきちゃんの笑顔を拝んでから、私は慌ただしく客席から移動した。あれ、今さつきちゃん何を言おうとしたんだろう。赤司の話だったような…まあいっか!とにかく急がないと!
「樋口せんぱーい!!優姫お手伝いにきましたー!!」
控え室に飛び込むと、すでに全員休憩に入っていて、樋口先輩が新しいドリンクを配っていた。それじゃあこっちを、と樋口先輩に言われて、レモンの蜂蜜漬けを渡された。
それを抱えて、試合に出た面々に配り歩く。
「はい実渕先輩!」
「ありがとね」
「どぞ葉山先輩!」
「サンキュー!」
「根武谷先輩!」
「おう、ありがとな」
「食らえ赤司!」
「普通に渡せないのか」
「そーしーてー!はいまゆゆ!あーん!」
「ありがとな、樋口」
「まゆゆスルーよくない!!食べて!あーん!」
箸でつまんで、あーんと向けるも、まゆゆは別のタッパーを持っていた樋口先輩からもらっていて私には目もくれない。ほらほら!とひたすら箸を向け続けていたら、さすがのまゆゆも疲れたのか諦めたのか、ガッと私の手を掴んだ。
「ひえ?!」
「……もぐ。これで満足か」
そのまま、箸の先のレモンを口に含んだまゆゆ。なにこれ、なんていうか、その、すごく恥ずかしい。ボフっと、私の顔が一瞬で真っ赤に染まったのが自分でもわかった。
そんな私の様子が楽しかったのか、まゆゆが意地の悪い笑みを浮かべている。
「ほら、二個目はいいのかよ?」
「ひええええ?!」
「お前達、今IHの真っ只中ということを忘れていないか」
「ほぎゃおう!!」
白金監督が私とまゆゆの間にぬっと顔を出してきた。驚きすぎて心臓飛び出るかと思った。ていうか、まだ心臓ばくばくしてるし!
「あーっしまった!今の黛サン面白かったから写真撮っときゃよかったー!」
「黛サンいきなり押せ押せだったな」
「千尋も大概ツンデレだからね。今のは所謂デレというやつなんだろう」
「征ちゃんその知識、さては優姫ちゃんね?」
「お前ら…今のは別に変な意味はねーよ。あと葉山殺す」
「なんで?!」
私がクールダウンしている間に、葉山先輩がまゆゆに睨まれていた。ちょ、あの二人私が見てない間にいつも何話してるの?!詳しく詳しく!!
後半戦、また観客席へ移動して適当に空いている席に座る。さつきちゃんの姿は見えないので、もしかしたら自分の学校のところへ戻ったのかもしれない。この試合が終われば次は桐皇の試合が始まるから。
さて、陽泉といえば、高身長の選手がいて守備が堅いため、イージスの盾と呼ばれていたりするらしい。その鉄壁の防御だが、赤司の眼には関係がないようだ。
前半の接戦した点数は、気がつけばあっという間に点差が開き、終了の笛が鳴る。
洛山の勝利。けど、見ていてわかった。
紫原君が、ほとんど動けていなかったように思えた。どこか、そうだ、恐怖心が表情に出ていた気がする。その恐怖心は、赤司に向けられていた。
『赤司君のことなんだけど』
さつきちゃんが、言いかけた言葉を思い出す。もしかして、今の試合で紫原君が怯えていたことと関係があるのだろうか。整列して挨拶をする赤司を見つめる。いつも通りだ。私には、そうとしか見えない。
赤司が、なんだというのだろうか。私達の知らない、赤司がいるのだろうか。
そして決勝に進んだ洛山は、青峰のいない桐皇を制し、洛山の優勝でIHは幕を閉じた。
それにしても、すれ違う人達みんな赤司達を見ている。これは、赤司総受けの予感がぷんぷんするぜ…!
スパンッ
「あいたぁっ!!」
「試合前だからこの程度ですませるが、会場を出たら覚えておけ」
「心を読むのはやめてっていつも言ってるよね?!まゆゆも少しは助けてくれてもよくない?!」
「オレをかけ算しなければな」
「それは無理」
「赤司、今日勝ったら焼き肉行こうぜ。こいつ置いて」
「いいね。鶴橋におすすめの焼肉屋があるんだ。今夜はそこで夕食にしようか。こいつ抜きで」
「いやああああ私も連れてって後生だからあああああ!!」
すたすた歩きながら私抜きの祝勝会の話をするまゆゆと赤司に喚いていたら、白金監督が溜息を吐いた。監督やめてくださいその「ダメだこいつ早くなんとかしないと」って顔は。試合開始前から心がつらい。
さて、初戦、二戦と一日に二試合あったわけだけど、当然のごとく洛山は勝利した。シード校だったので、次はもう準決勝。良い調子だ。というか、良い調子すぎて怖いくらいだ。
みんなが着替えてる控え室の外で待ちながら、明日の対戦相手はどこだろうかと悶々としていたら、どうやら試合を終えた選手達が出てきたらしく、沢山の足音が近づいてきた。この先の控え室の選手だろうか。
「ねー、お菓子なくなっちゃったんだけどー」
「少しは我慢しろよ!あーもう、こいつ誰か管理してくれよ!」
「そんな兄貴分どこにいるアル」
「お前ら静かに歩けんのか!」
「お前もだ!」
スパアンッ!と、おそらく監督だろう美人なお姉さんの竹刀が背の高い選手にクリーンヒットした。その人は、その人はきっと悪くないっす…むしろ止めようとしてたんで許してあげて…なんだろう、この親近感は…あの顎の人と共鳴できる気がする…。
去って行く後ろ姿を見ながら、あの賑やかさはおそらく勝ったんだろうな、と推測する。となれば、明日の準決勝の相手かもしれない。えーと、陽泉高校か。
「ああ、敦のいる学校だね」
「うおわあっ?!だから!赤司!もっと普通に出てきてお願いだから!まゆゆの方が控えめってどうなの!」
「控えめ言うな」
「敦…って、紫原敦?ってことは、キセキの世代獲得校、陽泉高校ね」
いつの間にか全員着替えが終わったようだ。赤司が私の真後ろから突然顔を出してきたから思わず叫んだら「うるさい」と言われてしまった。解せぬ。っとそれよりも、今実渕先輩が言ったことは本当なのか。とくれば、やっとキセキの世代と試合するということに!
陽泉高校の姿が見えなくなってから、赤司がふむ、と何か考える動作をした。
「明日の試合、向こうがどう出るかはわからないが、敦が試合に出るようなら僕も出よう」
「なんで出ない選択肢があるのさ」
「全力で来ない相手に、真面目にやる意味があるか?」
「いやいや!そこは逆に怒っていいと思うんだけど!むしろ向こうからその紫原君引きずり出してやろうぞ!ねっまゆゆ!」
「なんでお前はそう好戦的なんだよ…いいから焼き肉行こうぜ」
「ま…まゆゆが祝勝会にやる気を出す…だと…」
「じゃあな優姫。気をつけてホテル戻れよ」
「いやああああ置いてく気満々だったあああああ私も行くううううう!!」
「ふふ…っ、優姫ちゃんが部に入ってから、前よりバスケが楽しくなった気がするわ」
「わかる!祝勝会も楽しいし!」
「焼き肉なら牛丼もあるよな!」
「あんたそれしか考えてないじゃない!」
ちなみに焼き肉はなんとか連れて行ってもらえました。さすが赤司おすすめ。めちゃくちゃ美味しかった。
翌日、準決勝。
やはり相手は陽泉高校だった。どうやら秋田の学校らしい。私はいつも通り控え室から観客席へと移動して、上から試合を観戦する。紫原君紫原君…。あ、あの背の高い選手だな。ていうか、でかくない?まゆゆよりでかくない?あの中にいると赤司めっちゃ小さく見えるな…うわっ赤司こっち見てきた!この距離でも心の声読んでくるの?!こわっ!!
「うっ…う…」
試合が開始してすぐのこと。ボールを紫原君が弾いて、どう攻める!と拳を握って観戦していたら、誰かの泣く声が微かに聞こえた。この大歓声の中、気のせいだろうか、と思いながら後ろを振り返る。って、あれ?
「さつきちゃん…?」
「え…っ?」
ちょうど真後ろにさつきちゃんがいて、おそらく試合のデータを取ろうと思って持ってきたのだろうボードにいくつも涙を落としていた。さつきちゃんが、泣いていた。
「なっ、なんで泣いて…!桐皇まだ試合してないよね?!まだ負けてないよね?!えっもしかしてナンパ?!クソ野郎にナンパされた?!任せて私がそいつ殴ってくるから!!」
「ち、違うの…ごめんね、本当に違うの…大ちゃ…青峰君が…」
「青峰に手籠めに?!」
「それも違う…」
席を移動して、さつきちゃんの隣に座って話を聞いてみる。一瞬言うのを躊躇ったけど、ゆっくり少しずつ話してくれた。
青峰が、肘を痛めているらしい。そのため、試合には出さないことにしたと。
「いやそれ、さつきちゃんの判断が正しいよ!だってここで我慢しなかったら今後に響くんだよ!だから、さつきちゃんが気に病むことないって」
「うん…でも、大ちゃん…すごく怒ってて…」
「いいんだよ、喧嘩くらいしたって!」
え、とさつきちゃんが顔を上げる。その不安そうな顔を元気づけたくて、私は渾身の笑みを返した。
「だって、さつきちゃんが青峰のこと心配でやったことなんだから、青峰だってわかってるって。それに幼なじみって仲はそう簡単に壊れたりしないよ。だから大丈夫!むしろまだ怒ってくるんだったら私加勢するよ!こんな美人泣かせてただですむと思うなよ青峰!」
「…ふふっ、うん、少し気が楽になった、かな。ありがと、優姫ちゃん」
そう言ってさつきちゃんはやっと笑ってくれた。やっぱり美人は笑顔が一番だ。
「あれ、その時兄貴はどうしてたの?めっちゃ怒りそうだけど…」
「水瓶先生は合宿終わったら学校の方に戻ったよ。保健室を長く空けるわけにはいかないって」
そうでした。兄貴は桐皇の保健室の先生でした。アシスタントコーチとかしてるからち忘れてた。けど、この事情知ったら青峰…うん、強く生きて…。
涙を拭いて、さつきちゃんは力強くボードを握り直してコートを見つめた。
「よーし、洛山と陽泉のデータ取るぞ!」
「はっ、しまった!私、敵に塩送ってた!」
「ふふ!えーと…あ、二人とも試合に出てるんだね」
「そうそう。赤司が紫原君出なかったら試合出ないみたいなこと言うから焦ったわー」
「赤司君…ねえ、優姫ちゃん、赤司君のことなんだけど」
「ほい?」
ピーッと、休憩に入る笛が鳴った。あ、しまった。私樋口先輩のお手伝いするんだった。
「ごめんさつきちゃん、私控え室戻んなきゃ!」
「うん、こっちこそ前半潰しちゃってごめんね」
「それはお互い様ってことで!いや、私としてはデータ取られなくてよかったけど!」
「ふふっ」
もう涙の跡は見えないさつきちゃんの笑顔を拝んでから、私は慌ただしく客席から移動した。あれ、今さつきちゃん何を言おうとしたんだろう。赤司の話だったような…まあいっか!とにかく急がないと!
「樋口せんぱーい!!優姫お手伝いにきましたー!!」
控え室に飛び込むと、すでに全員休憩に入っていて、樋口先輩が新しいドリンクを配っていた。それじゃあこっちを、と樋口先輩に言われて、レモンの蜂蜜漬けを渡された。
それを抱えて、試合に出た面々に配り歩く。
「はい実渕先輩!」
「ありがとね」
「どぞ葉山先輩!」
「サンキュー!」
「根武谷先輩!」
「おう、ありがとな」
「食らえ赤司!」
「普通に渡せないのか」
「そーしーてー!はいまゆゆ!あーん!」
「ありがとな、樋口」
「まゆゆスルーよくない!!食べて!あーん!」
箸でつまんで、あーんと向けるも、まゆゆは別のタッパーを持っていた樋口先輩からもらっていて私には目もくれない。ほらほら!とひたすら箸を向け続けていたら、さすがのまゆゆも疲れたのか諦めたのか、ガッと私の手を掴んだ。
「ひえ?!」
「……もぐ。これで満足か」
そのまま、箸の先のレモンを口に含んだまゆゆ。なにこれ、なんていうか、その、すごく恥ずかしい。ボフっと、私の顔が一瞬で真っ赤に染まったのが自分でもわかった。
そんな私の様子が楽しかったのか、まゆゆが意地の悪い笑みを浮かべている。
「ほら、二個目はいいのかよ?」
「ひええええ?!」
「お前達、今IHの真っ只中ということを忘れていないか」
「ほぎゃおう!!」
白金監督が私とまゆゆの間にぬっと顔を出してきた。驚きすぎて心臓飛び出るかと思った。ていうか、まだ心臓ばくばくしてるし!
「あーっしまった!今の黛サン面白かったから写真撮っときゃよかったー!」
「黛サンいきなり押せ押せだったな」
「千尋も大概ツンデレだからね。今のは所謂デレというやつなんだろう」
「征ちゃんその知識、さては優姫ちゃんね?」
「お前ら…今のは別に変な意味はねーよ。あと葉山殺す」
「なんで?!」
私がクールダウンしている間に、葉山先輩がまゆゆに睨まれていた。ちょ、あの二人私が見てない間にいつも何話してるの?!詳しく詳しく!!
後半戦、また観客席へ移動して適当に空いている席に座る。さつきちゃんの姿は見えないので、もしかしたら自分の学校のところへ戻ったのかもしれない。この試合が終われば次は桐皇の試合が始まるから。
さて、陽泉といえば、高身長の選手がいて守備が堅いため、イージスの盾と呼ばれていたりするらしい。その鉄壁の防御だが、赤司の眼には関係がないようだ。
前半の接戦した点数は、気がつけばあっという間に点差が開き、終了の笛が鳴る。
洛山の勝利。けど、見ていてわかった。
紫原君が、ほとんど動けていなかったように思えた。どこか、そうだ、恐怖心が表情に出ていた気がする。その恐怖心は、赤司に向けられていた。
『赤司君のことなんだけど』
さつきちゃんが、言いかけた言葉を思い出す。もしかして、今の試合で紫原君が怯えていたことと関係があるのだろうか。整列して挨拶をする赤司を見つめる。いつも通りだ。私には、そうとしか見えない。
赤司が、なんだというのだろうか。私達の知らない、赤司がいるのだろうか。
そして決勝に進んだ洛山は、青峰のいない桐皇を制し、洛山の優勝でIHは幕を閉じた。