★番外編
DREAM
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※名前有りモブ→夢主
※WCより前の話
俺、因幡卓久の夢は、お淑やかな女の子でもなく、今風のオシャレな女の子でもなく、ただ俺とバカな話で盛り上がって笑いあえる女の子と付き合って楽しい高校生活を送ることだ。
もちろん、その後だって一緒が良い。同じ大学に通うのも良いし、お互い就職しても結婚して一緒に暮らして、なんなら子供も作っちゃって、幸せに過ごしたい。
そんな俺は、洛山に入って理想中の理想の女の子に出会った。
「あ、たっくん!!数IIの教科書持ってない?!」
お淑やかでもなく、今風のオシャレな子でもない、それがこの水瓶優姫というやつだった。
隣のクラスの優姫と交流があるのはなぜかというと、たまたま廊下でぶつかり、優姫がぶちまけた提出ノートを拾ってやったことが始まりである。
「おー、持ってるぞ。なんだ、忘れたのかよ?」
「忘れました!!今日は教科書の問題やるから全員絶対持ってこいって言われたのに忘れましたてへぺろ!!」
「開き直んな!しょーがねーなー?ほら、クレープ一個分な」
「ひどい!!たっくんの意地悪!!バニラチョコで良いですかね?!」
「やだよ抹茶が良い」
「たっくんってほんと抹茶好きだよねwww顔に似合わずwww」
それじゃ借りてくね!!と俺が渡した教科書を持って隣のクラスへと帰っていく優姫。
それを見送ってたら、クラスメイト達がわらわらと俺の周囲へ集まってくるではないか。多分、言うことはいつもと同じだ。
「卓久くんよー、お前水瓶はやめとけよ」
「卓久くん、水瓶さんはやめたほうがいいと思う」
「「だって水瓶(さん)、赤司(くん)と付き合ってるんだよ?」」
そう、優姫は、一年にして生徒会長となり、バスケ部の主将となった名家の息子、赤司征十郎と付き合っているらしいのだ。
たしかに、そんな場面を見たのは一度や二度じゃない。だからこそ、俺が優姫に惚れてるのを見てクラスメイト達は勝ち目がないから諦めろと毎度俺に言ってくるのだ。
「でもそれ、噂だろ?はっきり明言されてたら俺だって諦めるけどよ、違うかもしれないなら諦めねえ」
「でも…ほら、水瓶さん悪い噂だってあるじゃない?」
ん?それは初耳だ。あんな誰とでも打ち解けられて、明るい優姫に悪い噂だって?
クラスメイトの委員長は、少し言いづらそうにしていたが、クラス全員が続きを待っているのに気付き、あのね、と話し出した。
「なんか…赤司君のこと利用して、学校の外で好き放題してる、とか…」
「…?いまいちよくわかんねーな。赤司のことどうやって利用して好き放題するんだよ?」
「自分の彼氏は赤司だって言って、悪いことしてるらしいって、他のクラスの子が言ってたから…有名な話みたいだよ?」
もう少し話が聞きたかったが、休憩時間も終わり先生が来てしまったので、一旦お開きとなった。
それから、授業が終わり、部活動が始まる。俺は誠凛に進学したダチとの約束で、テニス部に入っている。一年だからまだ試合には出させてもらえないが、練習はとても楽しいので不満はない。
今日はまず走り込みから、ということでテニス部主将を先頭に全員で校舎を出て走り込んでいたら、どうやらバスケ部も同じ練習内容だったらしく同じルートを走っていた。先頭はあの赤司だ。
(ほんと、赤司ってイケメンだよな)
斜め後ろからでも、絶対的なオーラがわかる。女子がキャーキャー騒ぐのも頷けるほどのイケメンオーラ。優姫もこれにあてられたりしてるのだろうか。
そう思ったら、ライバル視してしまう。俺だったら、優姫のこともっとわかってやれるはずだ。同じ庶民の視線で分かち合えるはず。
ふと、俺の熱視線に気付いたのか、赤司が横目で俺を見た。どきりとする。何か言われるだろうか。
「おい因幡ぁ!!シャキッと走れぇ!!」
「!!うっす!!」
主将に怒鳴られた俺は、バスケ部を追い越して前のテニス部に追いつくように走り抜ける。ちらりと赤司のほうを見たが、赤司はとくに俺のことを気にした様子もなく、淡々と走っていた。
「お疲れたっくん!」
部活も終わり、制服に着替えて部室を出た俺を待ってくれていたのは、なんと優姫だった。驚いて一回カバンを落とした。
「な、どうしたんだよ優姫」
「ええ?!今日のお礼のクレープ買ってあげようと思って待ってたんだよ?あれ、忘れてた?」
「あ、いや、忘れてねーけど…」
「ちっ、忘れてたら良かったのに…」
「おいこら。舌打ちすんな」
えへへー、と優姫が笑う。やっぱり、好きだ。
こんな風に、なんでもないことで軽口を言い合って、笑いあえる子、そうそういない。俺はやっぱり、優姫が好きだ。
しかも、なんかちょっと脈アリじゃないか、これ?
わざわざ俺を待ってくれてたっぽいし、結構いい感じかもしれない。よし、俺頑張る。誠凛にいった友人よ、近いうちお前に良い報告ができるかもしれない、待ってやがれ。
「たっくん?」
「お、わりぃ。んじゃ駅前のクレープ屋行こうぜ」
「イエー!あそこおいしーよね!!しかもなんと!あの赤司に美味しいと言わせたクレープ屋さんなのだよ!」
「あ、かし、に。へえ…」
あの優等生で寄り道なんて絶対しなさそうな赤司と、クレープ屋に行ったと。優姫は、どうやってあの赤司とそこまで親密になったというのだ。というか、本当に付き合ってる、のか?なんか噂は本当なんじゃないかと不安になってきた。いっそ本人に聞いたほうがスッキリするんだろうけど。
え?うんそうだよ!私赤司と付き合ってるよ!
なんて返事が返ってきたら、俺一週間は引きこもる自信がある!!
「もーたっくん今日どしたの?さっきからぼーっとしてるよ?」
「えっあ、その…あー!この際はっきり聞くわ!お前って赤司と付きあ」
「ここにいたのか優姫」
意を決して放った俺の言葉を遮ったのは、今まさに口にした名前の男だった。生徒会長様主将様、赤司様だ。赤司も部活後で、制服に着替え終わっていた。
赤司は俺の狼狽える様子をまたちらりと横目で見て、優姫に向き直りポケットから可愛らしいシュシュを取り出して、それを優姫に渡した。
「これをこの間寮に忘れていっただろう。僕の部屋に荷物を置いていくな」
「あっ忘れてた!そうそう、このシュシュどこ行ったかなーって思ってたんだけど、そっかこの間赤司のとこ行った時外したんだっけ!ありがと赤司ー!あっそーだ、これからたっくんとクレープ屋行くんだけど、赤司も一緒に行く?あそこ、この間行ったクレープ屋さん!」
「クレープ屋?」
えっちょ、優姫?!!なんで赤司まで誘うんだよ?!!
内心冷や汗だらだらの俺に気付かない優姫は、嬉しそうに「今度は杏仁豆腐クレープにしよー!」なんてすでに赤司を連れて行く気満々だ。待ってくれ、俺赤司と話したことないぞ。だって隣のクラスだし、部活も違うし、接点ないですし。ていうか赤司の部屋行ったことあるのかよ優姫!!
赤司は少し思案するように腕を組み、それから外行用みたいな作った笑顔で俺を見た。
「それじゃあ、優姫の奢りで僕も行くとしよう。いいかな?因幡君」
「あ、お、おう!」
赤司って、もしかして学校の生徒の名前全部覚えてんじゃねーの…?
と、名乗ってもいないのに名前を呼ばれた俺は、そんな恐ろしいことを考えながらコクコクと頷いたのだった。後ろで「えっ赤司にも奢らないとダメなの私?!!」という優姫の声をBGMにして。
「ウマーwww杏仁豆腐とクレープがマッチしててウマーwww」
顔面偏差値中の上と評価された俺と、前代未聞のイケメンにクレープを奢る優姫を見てクレープ屋の店員さんは目が点になっていた。貢がせてるんじゃないんです、店員さん。高校生のちょっとした口約束のアレなんです。
店員さんや俺のそんな狼狽を知らないで、赤司と俺にクレープを渡して、自身も頬張り幸せそうに笑っている優姫。優姫が幸せそうだと、やっぱり嬉しい。
近くのベンチに三人で並んで座って、黙々とクレープを食べる俺達。
しかし、気まずい。優姫よ、なぜ俺を真ん中にした。
普通ここは優姫を真ん中にする場面だろ。俺赤司と話したのさっきのが初だぞちくしょう。
「やばい、私もう一個食べたい。買ってくる」
「え、ちょ、優姫っ?!」
あの野郎、とうとう俺と赤司を二人きりにしやがった!
おいどうする俺、話しかけてみるか?そもそも同い年だし、気を使う必要はないんだけど…。
「因幡君は、物好きなんだな」
なんと、赤司から話しかけられてしまいました。
「えっと…なんの話だ?」
「君は優姫に惚れている、と僕は見ているんだが」
「んなっ?!…俺、わかりやすい?」
「気付いていないのは優姫くらいじゃないか?」
あちゃー、と俺は頭を抱えた。よくよく思えば、公言したわけでもないのにクラスメイト全員知ってるんだもんな。
でもこの際だ、赤司にあのことを聞いてみよう。
「赤司と優姫が付き合ってるってマジ?」
「僕にも選ぶ権利はある」
「…ってことは、付き合って…」
「ないよ」
今度は安堵の息を盛大に吐いてしまった。勇気を出して聞いてみてよかった。優姫と赤司は付き合ってない。ということはあの噂は嘘だったのだ。
「僕もその噂には迷惑していてね。とはいえ、僕に何の気兼ねもなく話しかけてくる女子なんて優姫くらいだから、噂は消えないんだろうね」
「でもま、噂は噂だってわかったし。赤司も気になるんなら、いっそ彼女とか作ってみたら?」
「そういうのは気楽に作るものじゃないだろう。…ところで、因幡君は優姫のどこが好きなんだい?」
「ぐほっ…ぐ、ぐいぐいくるなー…えーと、赤司も今言ってたけど、優姫って誰でも気兼ねなく話しかけるじゃん?俺、実は入学当初は目つき悪いって怖がられてて、ぼっちだったんだよな」
あの日、優姫とぶつかった時、俺はきっと、また怖がられるんだろうなと諦めていた。けどノートを拾った俺に、優姫は何の躊躇もなく笑いかけてくれた。普通に、お礼を言ってくれた。それが、その普通がどれだけ嬉しかったか、救われたか。
「優姫が俺を尋ねて教室に来るようになってから、クラスメイトが俺に話しかけてくれるようになったんだ。俺を怖がってた教師も。…優姫は俺の恩人だ。だから、俺が幸せにしてやりたい」
「もし、優姫に好きな人がいたら君はどうするつもりだい?」
「そりゃもちろん応援するぜ!俺が幸せにしてやりたいけど、優姫が幸せになるなら、俺も幸せだからな」
きっと生涯、優姫のことを忘れることはないだろうと確信している。もし優姫と未来を共に歩めなくても、俺も他の誰かを好きになっても、優姫はきっと、大切な友達だろうから。
「そうか。…僕も、そんな恋愛をしてみたいものだな」
「赤司の彼女か…赤司って何事も即断って感じだから、同じ系統か真逆か、ってイメージ」
「ふむ、即断に関しては間違っていないな」
「だよな。さっきも杏仁豆腐もベリーベリーも捨てがたいって悩んでた優姫に遅いってチョップ入れてたもんな。つーか赤司も物理で止めたりとかするんだな」
「言っても聞かないなら物理しか手は無いだろう」
「赤司の物理攻撃がプロレス技に発展しないことを祈ってるわ。優姫のためにも」
それにしても、あの赤司とこんなに話せるとは思ってなかったな。やっぱり、人間話してみないとどんな奴かはわからない。俺だってそう思われてたんだから、赤司だってそうなんだろう。
噂では赤司は上流階級の人間だから、下流の俺らとは対等になれないとかそんな風に言われていたりしたが、やはり噂は噂。百聞は一見に如かずというわけだ。
「あー、噂ってこえーなー。赤司も知ってるだろうけど、なんか優姫の悪い噂まであるから、ほんとこえーよ」
「…悪い噂?僕は知らないな」
「え?マジ?うちの委員長が有名だって言ってたけど…なんか、優姫が赤司の名前使って悪いことやってんだって」
「委員長…ああ、黒縁メガネの彼女か。彼女が、優姫の悪い噂の話をしていたんだな?」
「おお…って、ほんと赤司は他のクラスメイトの奴も知ってんだな…」
なるほど、と赤司が困ったように笑った。何がなるほどなんだろうか。尋ねてみようか、と思った時、優姫が帰ってきた。
「おっまたせー!レジ混んでたから遅くなったー!」
「優姫、時間ももう遅い。それは持って帰って食べるんだ」
「わっほんとだ!おk、夕飯後のデザートにする!ごめんねたっくん、赤司。よし、帰ろっか!」
「おう」
言うや否、前を歩き出す優姫の後ろを、赤司と二人ついていく。先に別れたのは、優姫だった。それから、学校の寮に帰る赤司は、別れ際に俺の名前を呼んだ。
「因幡君、優姫の悪い噂とやらは有名なんかじゃないから安心するといい」
「お、おう?まあ赤司が知らないんだから、そうだよな」
「それから、委員長に言っておいてくれ。何事も度が過ぎると害悪にしかならない、とね」
「??よくわかんねーけど、伝えとくわ」
それじゃあ、と赤司は帰っていった。伝言の内容はよくわからなかったが、明日学校に行ったら伝えておこう。
(あー、それにしても、告白してないのに振られたなー)
そう、俺はハッキリと理解した。優姫には、好きな人がいるのだ。
だって、あの赤司があんな仮定をあのタイミングで問いかけてくるなんて。アレは、きっと本当のことなんだろう。だから、その時はどうするのか聞いてきたんだ。俺が邪魔をするのかどうか、聞きたかったんだと思う。
多分、なんだかんだ言いつつも、赤司にとって優姫は大切な友達なんだろうから。
(優姫の好きな人、どんな奴なんだろ)
それでも、優姫が幸せになれるなら応援する。この言葉に嘘はない。優姫が幸せそうに笑うなら、相手は俺じゃなくたって構わない。
「優姫、好きだぜ」
夜の闇にそっと呟いて、俺は帰路につく。
星が綺麗だから、明日は良い天気になりそうだ。
翌日、委員長に赤司からの伝言を伝えたら大泣きされてしまい、実は委員長は俺のことが好きで、どうにかして優姫を諦めさせたくて嘘の噂話をしたんだと聞かされるとは、この時俺はまだ知らなかった。
※WCより前の話
俺、因幡卓久の夢は、お淑やかな女の子でもなく、今風のオシャレな女の子でもなく、ただ俺とバカな話で盛り上がって笑いあえる女の子と付き合って楽しい高校生活を送ることだ。
もちろん、その後だって一緒が良い。同じ大学に通うのも良いし、お互い就職しても結婚して一緒に暮らして、なんなら子供も作っちゃって、幸せに過ごしたい。
そんな俺は、洛山に入って理想中の理想の女の子に出会った。
「あ、たっくん!!数IIの教科書持ってない?!」
お淑やかでもなく、今風のオシャレな子でもない、それがこの水瓶優姫というやつだった。
隣のクラスの優姫と交流があるのはなぜかというと、たまたま廊下でぶつかり、優姫がぶちまけた提出ノートを拾ってやったことが始まりである。
「おー、持ってるぞ。なんだ、忘れたのかよ?」
「忘れました!!今日は教科書の問題やるから全員絶対持ってこいって言われたのに忘れましたてへぺろ!!」
「開き直んな!しょーがねーなー?ほら、クレープ一個分な」
「ひどい!!たっくんの意地悪!!バニラチョコで良いですかね?!」
「やだよ抹茶が良い」
「たっくんってほんと抹茶好きだよねwww顔に似合わずwww」
それじゃ借りてくね!!と俺が渡した教科書を持って隣のクラスへと帰っていく優姫。
それを見送ってたら、クラスメイト達がわらわらと俺の周囲へ集まってくるではないか。多分、言うことはいつもと同じだ。
「卓久くんよー、お前水瓶はやめとけよ」
「卓久くん、水瓶さんはやめたほうがいいと思う」
「「だって水瓶(さん)、赤司(くん)と付き合ってるんだよ?」」
そう、優姫は、一年にして生徒会長となり、バスケ部の主将となった名家の息子、赤司征十郎と付き合っているらしいのだ。
たしかに、そんな場面を見たのは一度や二度じゃない。だからこそ、俺が優姫に惚れてるのを見てクラスメイト達は勝ち目がないから諦めろと毎度俺に言ってくるのだ。
「でもそれ、噂だろ?はっきり明言されてたら俺だって諦めるけどよ、違うかもしれないなら諦めねえ」
「でも…ほら、水瓶さん悪い噂だってあるじゃない?」
ん?それは初耳だ。あんな誰とでも打ち解けられて、明るい優姫に悪い噂だって?
クラスメイトの委員長は、少し言いづらそうにしていたが、クラス全員が続きを待っているのに気付き、あのね、と話し出した。
「なんか…赤司君のこと利用して、学校の外で好き放題してる、とか…」
「…?いまいちよくわかんねーな。赤司のことどうやって利用して好き放題するんだよ?」
「自分の彼氏は赤司だって言って、悪いことしてるらしいって、他のクラスの子が言ってたから…有名な話みたいだよ?」
もう少し話が聞きたかったが、休憩時間も終わり先生が来てしまったので、一旦お開きとなった。
それから、授業が終わり、部活動が始まる。俺は誠凛に進学したダチとの約束で、テニス部に入っている。一年だからまだ試合には出させてもらえないが、練習はとても楽しいので不満はない。
今日はまず走り込みから、ということでテニス部主将を先頭に全員で校舎を出て走り込んでいたら、どうやらバスケ部も同じ練習内容だったらしく同じルートを走っていた。先頭はあの赤司だ。
(ほんと、赤司ってイケメンだよな)
斜め後ろからでも、絶対的なオーラがわかる。女子がキャーキャー騒ぐのも頷けるほどのイケメンオーラ。優姫もこれにあてられたりしてるのだろうか。
そう思ったら、ライバル視してしまう。俺だったら、優姫のこともっとわかってやれるはずだ。同じ庶民の視線で分かち合えるはず。
ふと、俺の熱視線に気付いたのか、赤司が横目で俺を見た。どきりとする。何か言われるだろうか。
「おい因幡ぁ!!シャキッと走れぇ!!」
「!!うっす!!」
主将に怒鳴られた俺は、バスケ部を追い越して前のテニス部に追いつくように走り抜ける。ちらりと赤司のほうを見たが、赤司はとくに俺のことを気にした様子もなく、淡々と走っていた。
「お疲れたっくん!」
部活も終わり、制服に着替えて部室を出た俺を待ってくれていたのは、なんと優姫だった。驚いて一回カバンを落とした。
「な、どうしたんだよ優姫」
「ええ?!今日のお礼のクレープ買ってあげようと思って待ってたんだよ?あれ、忘れてた?」
「あ、いや、忘れてねーけど…」
「ちっ、忘れてたら良かったのに…」
「おいこら。舌打ちすんな」
えへへー、と優姫が笑う。やっぱり、好きだ。
こんな風に、なんでもないことで軽口を言い合って、笑いあえる子、そうそういない。俺はやっぱり、優姫が好きだ。
しかも、なんかちょっと脈アリじゃないか、これ?
わざわざ俺を待ってくれてたっぽいし、結構いい感じかもしれない。よし、俺頑張る。誠凛にいった友人よ、近いうちお前に良い報告ができるかもしれない、待ってやがれ。
「たっくん?」
「お、わりぃ。んじゃ駅前のクレープ屋行こうぜ」
「イエー!あそこおいしーよね!!しかもなんと!あの赤司に美味しいと言わせたクレープ屋さんなのだよ!」
「あ、かし、に。へえ…」
あの優等生で寄り道なんて絶対しなさそうな赤司と、クレープ屋に行ったと。優姫は、どうやってあの赤司とそこまで親密になったというのだ。というか、本当に付き合ってる、のか?なんか噂は本当なんじゃないかと不安になってきた。いっそ本人に聞いたほうがスッキリするんだろうけど。
え?うんそうだよ!私赤司と付き合ってるよ!
なんて返事が返ってきたら、俺一週間は引きこもる自信がある!!
「もーたっくん今日どしたの?さっきからぼーっとしてるよ?」
「えっあ、その…あー!この際はっきり聞くわ!お前って赤司と付きあ」
「ここにいたのか優姫」
意を決して放った俺の言葉を遮ったのは、今まさに口にした名前の男だった。生徒会長様主将様、赤司様だ。赤司も部活後で、制服に着替え終わっていた。
赤司は俺の狼狽える様子をまたちらりと横目で見て、優姫に向き直りポケットから可愛らしいシュシュを取り出して、それを優姫に渡した。
「これをこの間寮に忘れていっただろう。僕の部屋に荷物を置いていくな」
「あっ忘れてた!そうそう、このシュシュどこ行ったかなーって思ってたんだけど、そっかこの間赤司のとこ行った時外したんだっけ!ありがと赤司ー!あっそーだ、これからたっくんとクレープ屋行くんだけど、赤司も一緒に行く?あそこ、この間行ったクレープ屋さん!」
「クレープ屋?」
えっちょ、優姫?!!なんで赤司まで誘うんだよ?!!
内心冷や汗だらだらの俺に気付かない優姫は、嬉しそうに「今度は杏仁豆腐クレープにしよー!」なんてすでに赤司を連れて行く気満々だ。待ってくれ、俺赤司と話したことないぞ。だって隣のクラスだし、部活も違うし、接点ないですし。ていうか赤司の部屋行ったことあるのかよ優姫!!
赤司は少し思案するように腕を組み、それから外行用みたいな作った笑顔で俺を見た。
「それじゃあ、優姫の奢りで僕も行くとしよう。いいかな?因幡君」
「あ、お、おう!」
赤司って、もしかして学校の生徒の名前全部覚えてんじゃねーの…?
と、名乗ってもいないのに名前を呼ばれた俺は、そんな恐ろしいことを考えながらコクコクと頷いたのだった。後ろで「えっ赤司にも奢らないとダメなの私?!!」という優姫の声をBGMにして。
「ウマーwww杏仁豆腐とクレープがマッチしててウマーwww」
顔面偏差値中の上と評価された俺と、前代未聞のイケメンにクレープを奢る優姫を見てクレープ屋の店員さんは目が点になっていた。貢がせてるんじゃないんです、店員さん。高校生のちょっとした口約束のアレなんです。
店員さんや俺のそんな狼狽を知らないで、赤司と俺にクレープを渡して、自身も頬張り幸せそうに笑っている優姫。優姫が幸せそうだと、やっぱり嬉しい。
近くのベンチに三人で並んで座って、黙々とクレープを食べる俺達。
しかし、気まずい。優姫よ、なぜ俺を真ん中にした。
普通ここは優姫を真ん中にする場面だろ。俺赤司と話したのさっきのが初だぞちくしょう。
「やばい、私もう一個食べたい。買ってくる」
「え、ちょ、優姫っ?!」
あの野郎、とうとう俺と赤司を二人きりにしやがった!
おいどうする俺、話しかけてみるか?そもそも同い年だし、気を使う必要はないんだけど…。
「因幡君は、物好きなんだな」
なんと、赤司から話しかけられてしまいました。
「えっと…なんの話だ?」
「君は優姫に惚れている、と僕は見ているんだが」
「んなっ?!…俺、わかりやすい?」
「気付いていないのは優姫くらいじゃないか?」
あちゃー、と俺は頭を抱えた。よくよく思えば、公言したわけでもないのにクラスメイト全員知ってるんだもんな。
でもこの際だ、赤司にあのことを聞いてみよう。
「赤司と優姫が付き合ってるってマジ?」
「僕にも選ぶ権利はある」
「…ってことは、付き合って…」
「ないよ」
今度は安堵の息を盛大に吐いてしまった。勇気を出して聞いてみてよかった。優姫と赤司は付き合ってない。ということはあの噂は嘘だったのだ。
「僕もその噂には迷惑していてね。とはいえ、僕に何の気兼ねもなく話しかけてくる女子なんて優姫くらいだから、噂は消えないんだろうね」
「でもま、噂は噂だってわかったし。赤司も気になるんなら、いっそ彼女とか作ってみたら?」
「そういうのは気楽に作るものじゃないだろう。…ところで、因幡君は優姫のどこが好きなんだい?」
「ぐほっ…ぐ、ぐいぐいくるなー…えーと、赤司も今言ってたけど、優姫って誰でも気兼ねなく話しかけるじゃん?俺、実は入学当初は目つき悪いって怖がられてて、ぼっちだったんだよな」
あの日、優姫とぶつかった時、俺はきっと、また怖がられるんだろうなと諦めていた。けどノートを拾った俺に、優姫は何の躊躇もなく笑いかけてくれた。普通に、お礼を言ってくれた。それが、その普通がどれだけ嬉しかったか、救われたか。
「優姫が俺を尋ねて教室に来るようになってから、クラスメイトが俺に話しかけてくれるようになったんだ。俺を怖がってた教師も。…優姫は俺の恩人だ。だから、俺が幸せにしてやりたい」
「もし、優姫に好きな人がいたら君はどうするつもりだい?」
「そりゃもちろん応援するぜ!俺が幸せにしてやりたいけど、優姫が幸せになるなら、俺も幸せだからな」
きっと生涯、優姫のことを忘れることはないだろうと確信している。もし優姫と未来を共に歩めなくても、俺も他の誰かを好きになっても、優姫はきっと、大切な友達だろうから。
「そうか。…僕も、そんな恋愛をしてみたいものだな」
「赤司の彼女か…赤司って何事も即断って感じだから、同じ系統か真逆か、ってイメージ」
「ふむ、即断に関しては間違っていないな」
「だよな。さっきも杏仁豆腐もベリーベリーも捨てがたいって悩んでた優姫に遅いってチョップ入れてたもんな。つーか赤司も物理で止めたりとかするんだな」
「言っても聞かないなら物理しか手は無いだろう」
「赤司の物理攻撃がプロレス技に発展しないことを祈ってるわ。優姫のためにも」
それにしても、あの赤司とこんなに話せるとは思ってなかったな。やっぱり、人間話してみないとどんな奴かはわからない。俺だってそう思われてたんだから、赤司だってそうなんだろう。
噂では赤司は上流階級の人間だから、下流の俺らとは対等になれないとかそんな風に言われていたりしたが、やはり噂は噂。百聞は一見に如かずというわけだ。
「あー、噂ってこえーなー。赤司も知ってるだろうけど、なんか優姫の悪い噂まであるから、ほんとこえーよ」
「…悪い噂?僕は知らないな」
「え?マジ?うちの委員長が有名だって言ってたけど…なんか、優姫が赤司の名前使って悪いことやってんだって」
「委員長…ああ、黒縁メガネの彼女か。彼女が、優姫の悪い噂の話をしていたんだな?」
「おお…って、ほんと赤司は他のクラスメイトの奴も知ってんだな…」
なるほど、と赤司が困ったように笑った。何がなるほどなんだろうか。尋ねてみようか、と思った時、優姫が帰ってきた。
「おっまたせー!レジ混んでたから遅くなったー!」
「優姫、時間ももう遅い。それは持って帰って食べるんだ」
「わっほんとだ!おk、夕飯後のデザートにする!ごめんねたっくん、赤司。よし、帰ろっか!」
「おう」
言うや否、前を歩き出す優姫の後ろを、赤司と二人ついていく。先に別れたのは、優姫だった。それから、学校の寮に帰る赤司は、別れ際に俺の名前を呼んだ。
「因幡君、優姫の悪い噂とやらは有名なんかじゃないから安心するといい」
「お、おう?まあ赤司が知らないんだから、そうだよな」
「それから、委員長に言っておいてくれ。何事も度が過ぎると害悪にしかならない、とね」
「??よくわかんねーけど、伝えとくわ」
それじゃあ、と赤司は帰っていった。伝言の内容はよくわからなかったが、明日学校に行ったら伝えておこう。
(あー、それにしても、告白してないのに振られたなー)
そう、俺はハッキリと理解した。優姫には、好きな人がいるのだ。
だって、あの赤司があんな仮定をあのタイミングで問いかけてくるなんて。アレは、きっと本当のことなんだろう。だから、その時はどうするのか聞いてきたんだ。俺が邪魔をするのかどうか、聞きたかったんだと思う。
多分、なんだかんだ言いつつも、赤司にとって優姫は大切な友達なんだろうから。
(優姫の好きな人、どんな奴なんだろ)
それでも、優姫が幸せになれるなら応援する。この言葉に嘘はない。優姫が幸せそうに笑うなら、相手は俺じゃなくたって構わない。
「優姫、好きだぜ」
夜の闇にそっと呟いて、俺は帰路につく。
星が綺麗だから、明日は良い天気になりそうだ。
翌日、委員長に赤司からの伝言を伝えたら大泣きされてしまい、実は委員長は俺のことが好きで、どうにかして優姫を諦めさせたくて嘘の噂話をしたんだと聞かされるとは、この時俺はまだ知らなかった。