天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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何度季節が巡ろうとも、この思いは色褪せることはなく。
君にもう一度出会えたら、伝えたいことがある。
42.エピローグ
「改めて、ハオ賞受賞、おめでとうジュード」
「ありがとう、ルドガー」
時が過ぎて、源霊匣の研究が世に認められるようになると、栄えある賞を受けることになった。
ハオ賞の受賞、まさか自分がもらえるとは思っていなかったから今でも実感がわかない。
レイアの記事を見たかつて共に旅をした仲間達にお祝いの言葉を沢山もらった。
今日は、イル・ファンに買い物に来ていたルドガーとばったり出会い、ルドガーから二度目の祝いの言葉をもらったところだ。
「今やジュードの源霊匣で満ちあふれた世界だもんな。本当に凄いよ、ジュード」
「ううん、僕一人の力じゃ出来なかった。みんなが協力し合えたからだって僕は思う」
「…相変わらずジュードらしいな。もっと自慢げにしたって罰は当たらないのに」
「それこそ僕のキャラじゃないってば」
あはは、と笑い合う。ルドガーとは年齢が少し離れているけど、同年代の友達のように付き合える親友、と呼べる関係になれた。
今日はエルとユリウスさんは?と問えば、二人とも仕事だという。
「エルは最近アルヴィンからの仕事を受けててさ…兄さんは兄さんでまだ現役並に働いてるし…」
「ルドガーは二人に家でご飯作る係り、って言われて定職に就かせてもらえないもんね」
「もう主夫街道まっしぐら。でもたまーに、二人に内緒でクエストを受けにいってるんだ。秘密な」
「ふふっ、うん、秘密。でも一人で大丈夫なの?」
「クエストの王者から、適度に良い仕事の見つけ方を教わってたからな。大丈夫だ」
「そっか」
クエストの王者、なんて自称していた彼女を思い出して、小さく笑う。
きっと、彼女はずっとここにいられないのを知っていた。だから、クエストばかりしていたんだろうと今なら思う。
ルドガーは少しだけ目を伏せて、悲しそうに呟いた。
「…その様子だと、ユウキにはまだ…」
「会えてないんだ。でも会ったらまず怒るって決めてる。だって、長すぎるよ。……もう、十年も経つのに」
長いような、短かった旅が終わり、世界が破滅への脅威から逃れられたあの日から十年が経過した。
その間に世界はどんどん様変わりしていき、景色もあの頃の面影を少しずつ無くしている。
そのことが、苦しくなってきたんだ。
このままでは、彼女がここにいたという跡が、消えてしまうようで。
はじめから、存在しなかったと言われているようで。
「ミラも、この世界に全く揺らぎがないって言うんだ。ユウキが通ってきたっていう道はもう跡形もなく消えてて、どこからこの世界に来るのかも見当つかないって」
「…そう、か」
「でも、僕は待つよ。あと十年でも、二十年でも…待つしか、出来ないから」
「大丈夫だ、ジュード。ジュードは一人で待つんじゃないだろ?俺達だって、ずっと待ってる」
ルドガーもエルも、ユリウスさんも、多分リドウも。
もしかしたらビズリー社長もかもしれない。
ミラもアルヴィンもエリーゼもローエンもレイアも。
ガイアスも、ミュゼも。
イバルも、ドロッセルやウィンガル、プレザ、アグリアだって。
きっと、みんなが待っている。これから先も、ずっと。
大切な仲間だった。
笑って、泣いて、怒って、悲しんで、また笑って。
僕らを助けたい一心で、ずっと戦ってきた一人の少女を、僕達はずっと待っている。
「俺さ、ユウキが帰ってきたら皆集まってパーティーをしたらどうかなって思ってるんだ」
「パーティー…うん、きっと喜ぶよ」
「だろ?俺の料理気に入ってくれてたみたいだから、俺の出せる全力の料理を振舞うつもりだ」
「なら、トマト料理も入れようよ。エルがトマト食べられるようになった姿、見せてあげないと」
「ああ、そうだな」
それから少し他愛のない話をして、ルドガーと別れた。
僕は午後からの演説のために、研究所へと向かう。
もう町並みも変わってしまった、ユウキと出会ったあの道を通って。
《差出人:アルヴィン
件名:久しぶり
元気にしてるか?
こっちは商売繁盛!ってお姫様やエルから聞いてるか。
レイアにも記事で取り上げてもらってますます忙しくなったぜ。
そういえば、今日割と凹むことがあった。
覚えてるか?十一年前、ユウキにもらった友達の証のヘアゴム。
あれ、腕につけてたんだけど、急にちぎれたんだ。
ほんと、何の前触れもないから驚いたけど、なんか、あいつとの縁が切れたみたいで…。
悪い、変なこと書いた。気にしないでくれ。
あいつが帰ってきたら、新しいの買わせるかな。
それじゃ、今度そっち寄るから飯でも食おうぜ、ジュード博士。》
《差出人:レイア
件名:やっほー!
久しぶりー!って、ハオ賞受賞の時インタビューしたから数日ぶり?
それにしても、ジュードがこんなに有名になるなんてね。
でもジュードは沢山頑張ってたから、当然といえば当然の結果かな。
幼馴染としても鼻が高いよ!あ、でもわたしも少しは有名になったんだからね!
送ろうかすっごく悩んだんだけど…書いちゃうね。
このメール送ったのも、さっきショックなことがあったからなの。
ユウキからもらった友達の証が、ちぎれちゃったんだ。
わたし達が持ってる唯一のユウキがいた証だったのに…。
ううん、落ち込んでても仕方ないよね。
それに、もしかしたらユウキが新しいの持って帰ってくるのかもしれないし!》
《差出人:エリーゼ
件名:お久しぶりです
ジュード、ハオ賞受賞改めておめでとうございます。
テレビや雑誌でもジュードのことばかりで、何だか自分のことのように嬉しいです。
アルヴィンからくる仕事は楽しいです。エルもすごく大人になったんですよ。
実はメールを送ったのはジュードに聞いて欲しいことがあったからです。
ユウキから昔もらった友達の証が、切れてしまったんです。
ドロッセルも驚いていました。古くなってしまったんでしょうか。
…古く、なりますよね。だって、もう十一年も使ってたんですから。
ジュード、絶対ユウキは帰ってきます。約束したんですから、絶対です。
ユウキは、ジュードが悲しむのが一番嫌いなんですから。》
《差出人:ローエン
件名:ローエンです
昨日ぶりですね、ジュードさん。
ガイアスさんもジュードさんの成長には驚かされているようです。
やはり長生きはするものですね。ああ、私はまだまだ好調ですよ。
それに、思い残すことが沢山ありますから、まだ楽にはなれません。
今日、ユウキさんから頂いた友達の証が、突然ちぎれてしまいました。
床に落ちていくそれを見て、ユウキさんの最後に見せた笑顔を思い出してしまいました。
彼女は、常に消える覚悟で私達の世界を救う手伝いをしていたんですよね。
私は、それが少し悲しいのです。
彼女には、この世界よりも自身を大切にしてほしかった。
彼女自身の願いを、もっと切望してもよかったのに、と。》
《差出人:ミラ
件名:なし
ジュード、このGHSとやらはなかなかすごいな。スライドというのか?
ボタンいらずの機械を作るとは、人間の技術の発達には驚かされる。
待ち受けはこの間食べたルドガーの手料理だ!
そうだ、慣れないメールを送ろうと思ったのも、実はだな…。
ユウキからもらった友達の証が、切れてしまってな。
本当は通話しようとも思ったんだが、少し、上手く話せる自信がない。
今私は、多分、辛いんだと思う。
このゴムだけがユウキとの絆なわけではない。
ともに旅をしたこの思い出が、心が、つながっていると思っているのに、苦しくなった。
ジュード、ユウキの使命を覚えているか?
君は今、笑えているか?》
演説を終えて、控え室で着替えをしていたらメールがたくさん来ていることに気がついた。
開いて確認してみれば、皆からで。
「…十一年、使ってるんだもんな」
昔ユウキが僕達にくれた、友達の証のヘアゴム。
大切なそれが、皆今日同時に切れてしまったようだった。
長い年月、大切に使っていたとはいえ劣化してしまったのだろう。
ふと腕につけている自分の物を見て、何だか怖くなる。
これがちぎれてしまったら、僕はどうしたらいいんだろう。
ミラの言う通り、これだけがユウキとの繋がりじゃないとわかっている。
それでも、目に見える唯一の物はもうこれしかないんだ。
控え室を出て、暗くなった研究所から大通りに出る道を歩きながら考える。
外そう。それで、何か包に入れて…でも、何だかさみしいな。
その時、それは唐突に起きた。
ピッ
「…ぁ」
触れた瞬間、腕につけていたユウキから貰ったゴムが、ちぎれたのだ。
落ちていくそれが、スローモーションに見えた。
ローエンが思い出した笑顔を、僕も思い出してしまう。
(いやだ…行かないで、ユウキ)
言いたかった。
でも、言えなかった。
だって、ユウキも我慢していたんだ。
あの時、消えたくないって、泣いていたのに。
僕らを悲しませないように、彼女は精一杯の笑顔で僕達に手を振った。
でも、ユウキ。
つらいよ。
もう、会えないんじゃないかって、つらいんだよ。
ちぎれて落ちたそれを拾いながら、僕は暗闇に隠れて涙を流した。