天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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41.審判を超えし者
「まさか、お前に超えられるとはな、ルドガー…」
ビズリーは骸殻を解くと、力なく膝をつき、そう悔しいでもない声音で呟いた。
最後の戦いは、終わったのだ。
ルドガーの、私達の思いの力はビズリーの野望を阻止したのだ。
息をついたのも束の間、ビズリーは苦しそうに呻き出す。ビズリーの身体を黒い靄が覆っていく。
どうやら時歪の因子化が進んでいるようだった。
このままだと、奥の数値が動いてしまう。それを、ビズリーもわかっていたのか、拳を握り締めた。
「だが…ッ、思い通りにならないからこそ、人間は…ッ!」
「そぉい!!」
「うおッ?!」
どしゃああ、っと拳を自分の胸に叩き込もうとしたビズリーに体当たりして二人して床を滑った。
後ろでジュードくんとアルヴィンが頭を抱えているが、そんなの知ったこっちゃないね!!
「そんな馬鹿なことしなくたって、私が取り除くっての!」
「!…俺を生かしてどうする。何のために戦った?」
「人を死なせるためじゃないよ。それも、一族のために戦ってきた人間を死なせるなんてもってのほか」
「……」
「んで、オリジンに会ってお願い聞いてもらって、そんで…」
ふる、と首を横に振る。
もう少しだけ、耐えてくれ私の涙腺!
ビズリーの中の瘴気を取り除いて、よしっと気合を入れて立ち上がる。
振り返れば、ルドガーとエルがこくりと頷く。
二人が、扉に触れる。
重々しい音とともに扉は、開かれた。二千年も閉ざされていた、その扉から、光が現れる。
少年のように見えた。
淡い光で包まれていて、顔ははっきりとは見えない。
この少年が、大精霊オリジン。
「初めまして、だね、新しいマクスウェル」
「ああ、お前がオリジンなのだな」
そうだ、とオリジンは頷く。
ミラが挨拶もそこそこに、願いを述べようとするが、オリジンはわかってるよと笑った。
「分史世界の消滅と、魂の浄化のことだろう?」
「そうだ。お前が限界ならば、私も力を」
「ふざけるな…!!貴様らは、また自分の不始末をオリジンに押し付けるつもりか…!!」
ようやく回復し、しゃべれるようになったらしいクロノス。
フラフラとこちらへやってきて、威嚇するようにミラを睨みつける。
でも、オリジンはその様子を見てくすりと笑った。
同時に、手をかざしてクロノスの怪我を癒した。
「ありがとうクロノス。ずっと僕を心配してくれてたんだね」
「わ、我のことはいい!!それより人間達に己が罪業を思い知らさねば…!」
「!!クロノスはオリジンに対してツンデレだったのか…!しまった私としたことがこんな萌えを見逃していただなんて!!ところでクロノスはオリジンのことどのくらい好き痛い痛いクロノスさん頭鷲掴むのやめて割れちゃううううううううう」
「ふふっ」
「何故笑うんだオリジン!」
「何でここで笑ったのオリジン?!」
クロノスと二人してオリジンを見れば、楽しそうに笑っている。
だって、とオリジンは言った。
「クロノス、とても人間みたいだ。僕の大好きな、人間にね」
「な…っ!」
「そして、願いを叶える権利はそんな人間達の代表…ルドガーとエル。試練を超えて扉を開いた君達にあるんだよ。二人で、一つの願いを決めて」
オリジンの言葉に顔を真っ赤にしてバツが悪そうにしているクロノスがなんだか可愛く見えてきたぞ…。
とか思ってる間に、ルドガーとエルに願いを問うオリジン。
エルはニッと笑って、ルドガーの服を引っ張る。
「…そんなの、決まってるよね、ルドガー!」
「ああ。分史世界を、消してくれ」
わかった、とオリジンは笑う。
これが見たかったんだと。
人が、負という欲望、エゴを抱えたまま魂を昇華する様を。
ヒトの選択を。
(そうだよね、欲望は夢とも言えるし、エゴは意志とも言える。私だって、そうやってここまできたんだから)
「でも、示し続けなきゃ意味がない」
「はい、わかってます。僕らはきっと、示し続けてみせます。ルドガーやエル、ユリウスさん…それに」
ジュードくんと目が合う。
ああ、なんだか泣きそうな目をしてる。
ジュードくん、ジュードくん。
「ユウキのように」
私は、この世界に来て、本当に良かった。
「…瘴気は、今しばらく我とオリジンで封じておこう」
「世話をかけるね、クロノス」
「時間はある。小言はあとでたっぷりさせてもらうぞ」
クロノスがオリジンの横に立って、肩の力が抜けたように話をしている。
それになんだか安堵して、良かったなって思えた。
「…ルドガー、君の願いを叶えよう。分史世界の消去を――…!」
オリジンがそう言って手を広げた。
その瞬間、辺りをまばゆい光が包み込み、キラキラと空を舞う。
これで、本当に終わったんだ。
私達の旅は、ここが終着点。
なら、私は――…
「っ、じゅ」
バッと振り返ったら、ジュードくんが私の手を握った。
少しだけ、震えている。
私の手も、透けてきた。
「ユウキ…っ?」
「…何で、手が」
エルとルドガーが、私を見ていた。
そうだ、二人は知らない。
物語の終わりに、私が消えることの意味を。
緩みそうになる涙腺をこらえて、私は笑った。
「エル、もう一人で無茶しちゃダメだからね!ルドガー困らせちゃダメだぞ!」
「ユウキ!」
「ルドガー、ユリウスさんの瘴気も取り除いてあるから心配しないで!えっへっへ、私のチート機能がこんなに役に立つとはね!」
「まさか、ユウキ…!」
ルドガーの焦る声に、ジュードくんの握ってる手が強くなる。
よし、とミラ達を見たら、ああ、もう、またそんな消えるのが嫌になるような笑顔で…!
「…次はどれくらいかかるんだよ、馬鹿ユウキ。…またな」
アルヴィン。
「私、もう泣きません…!待ってますから、ユウキ…!」
エリー。
「ええ、私もお待ちしていますよ、ユウキさん」
ローエン。
「次は、すっごいスクープとってるとこ見せるから!またね、ユウキ…!」
レイア。
いつもみんなは、またねって言ってくれる。
それがどれだけ嬉しかったか。
どれだけ救われたか。
ふと視線を動かせば、ガイアスとミュゼと目が合った。
思えば、この二人とは一年前死闘を繰り広げたのだ。
もう随分と昔のように思えてしまう。
「アナタは、本当に変な子だったわ。ねえ、覚えてる?一年前、アナタがジルニトラで私に言った言葉」
「?私、何て言ってたっけ?」
「嫌いじゃなかった、って言ったのよ。私はアナタを殺そうとしていたのに」
「あっはっは、そう言えばそうだった。でもさ、今は大好きだよ、ミュゼ」
「…私も、よ、ユウキ…またね」
一度だけギュッと私を抱きしめて、ミュゼはミラの隣へと浮かぶ。
その顔は何だか、泣いていたような気がした。
そして続けるように今度はガイアスがやってきて、私の頭を撫でた。
「お前の部屋は、ずっと置いておく」
「え、え?いや物置にしても良いよ…って返事聞かないよこの王様!」
ムキーっと唸ったら、ガイアスが笑ったように見えた。
それから、ミラ。
「ユウキ」
「ミラ」
「私は、この世界を見守り続ける。マクスウェルとしての使命としてだけでなく、ユウキ、君のためにも」
ミラは微笑む。
それはもう、とびきり綺麗な笑顔だった。
最後に見た、分史世界のミラと重なるような、とても綺麗な。
「だから、いつでも帰ってきてくれ。私は友として、ユウキが帰ってくるのをこの世界を守りながら待っているから」
ああ、もう。ミラはずるい。
そんなことを言われたら、涙が出てしまう。
でも、まだ泣くわけにはいかない。
私はずっと黙っているジュードくんを見る。
俯いているので表情はわからないが、もう足は消えてしまってるから急いで言わないと。
ねえ、ジュードくん。
私ね、沢山話したいことがある。言いたいことが、聞きたいことが沢山あるんだ。
でも、それを全部伝えるには時間がないから、せめて一番強く思ってることを言うね。
「ジュードくん、ありがとう」
ハッと、ジュードくんが顔を上げた。
あ、良かった。泣いてない。
ジュードくんの泣き顔はとてつもなく可愛いけど、でもやっぱり笑顔の方が好きだ。
だから、笑ってほしいな、ジュードくん。
「ユウキ…今度こそずっと、傍にいるって言ったのに」
「うん、ごめん」
「だめ、許さない。だから、僕はまた見つけるから」
一年前の終わりと、同じ言葉。
「何度だって、見つける。それで、心配する。ずっと傍にいる。だからユウキ、泣かないで」
「…っ、うん…何年かかるか、もしかしたら、もっとかかるかもしれないけど、でも、またこの世界に来る。絶対また、来るから、だからジュードくん、私を、見つけてね…っ」
「絶対に見つける。ずっと、待ってるから」
私の大好きな笑顔。守りたかった笑顔。
ジュードくん、私、この世界に来て良かった。
辛いことも沢山あった。目を逸らしてしまったこともあった。
それでも、叱咤してくれる仲間がいて、泣いてくれる仲間がいて、一緒に歩いてくれる仲間がいる。
私の長い旅路は、とても素敵な色で溢れていたよ。
「ユウキっ!エル、忘れないから!ユウキがエルのこと、たくさん心配してくれたの、絶対に忘れない!」
「俺も、忘れない。ユウキが俺達のためにしてくれた全部、忘れないからな…っ」
エル、ルドガー。
私を受け入れてくれたこと、本当に嬉しかった。
私だって、私のために怒ってくれたことも、一緒に頑張ろうって言ってくれたことも、絶対に忘れない。
最期に、ジュードくんの手をギュッと握る。
次はいつ会えるだろうか。
そもそも次はあるのだろうか。
わからないけど、ジュードくん達は待ってると言ってくれた。
だから、私もまた、みんなに会えると信じて。
「みんな、また会おうね…っ、またね、ジュードくん…!」
上手く、笑えていたならいいな。
長かった私の旅は、これでまた幕を閉じたのだ。