天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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もう後悔はないよ。
これは、私が選んだ答えなんだから。
40.審判の門にて
「エルッ!!」
兄貴の残してくれた橋を渡り、私達がたどり着いた先にはビズリーとエル、そしてクロノスがいた。
その奥には、大きな装置。99万9999という数字。
ビズリーの後ろでどこかうなだれていたエルは、ルドガーの声を聞いてゆっくり顔を上げた。
その顔には、黒い痕。時歪の因子化の兆しが出ている。
「…!ルド」
エルがこちらに気がついて、ルドガーの名前を呼ぼうとするもその声は途切れた。
クロノスの術に、エルとビズリーは捕らえられてしまったのだ。
「来たか、クルスニクの鍵。二人がかりなら倒せるとでも思っていたのか」
「エルに何をした!!」
「異空間に閉じ込めた。あの娘には時歪の因子化してもらわねばならんのでな」
「どうしてそんなことを…!!」
「オリジンに己が魂が生んだ瘴気の始末をさせておきながら、どの口がほぞくか…!」
クロノスは、怒っていた。
人間が何一つ変わろうとしないことに。
身勝手なまま、生き続けてきたことに。
たしかに人間は自らを顧みなかったかもしれない。
でも、変われるのだ。
人間は、進化し続ける生き物なんだから!
「クロノスのあほんだら!!そりゃこっちだって悪いけど、そっちだって反省するべし!!」
「…我らに反省しろ、だと…?!」
「おうよ!今こうやっていがみ合ってるのは、お互いがお互いを理解し合うことをしなかったからだ。だから私は、話し合いの場を設けることを提案します!」
「餓鬼の戯言に付き合ってなどいられんな…」
「それが原因だって言ってるんだよ、ユウキは」
ジュードくんは、拳を握ってクロノスの前に立つ。
ジュードくんだけじゃない、ルドガーも、ミラも、みんな同じ気持ちだ。
人と精霊は、共に生きていけるのだ。
それを、私達は生きている限り証明し続ける。
けど、頑固者のクロノスにはまだ届かない。
「黙れ人間風情が!!我は浄化をとめ、オリジンを救い出す!!」
オリジンは、人間の魂の浄化を続けてきた存在だ。
苦しいだろうその役目を受けたのはどうしてか、なんでクロノスはわかってやれないんだ!!
「だが、そんなことをしたらどうなるかわかっているだろう、クロノス」
「オリジンが封じていた瘴気が際限なく溢れ出すだろうな。人間は瘴気で魂を侵蝕され、マナを生むだけの物体となる。だがそれが何だと言うんだ、マクスウェル」
ミラの言葉すら聞く耳持たないクロノスに、もう私は激おこです。
剣を構え直し、クロノスの偉そうな顔にもう一度啖呵をきってやる。
「精霊だけの世界にしたいなんて、それじゃあビズリーと言ってることが全く変わりませんなあ!!」
「ッ!!貴様…」
「はぁッ!!」
キッとこっちを睨みつけたクロノスに、ルドガーは骸殻に変身すると槍を振るった。
それを即座に受け止めたクロノスは、ルドガーの力を探索者の力、と言った。
「己がために、兄を踏み台にしたか!」
「いいや、これは兄さんから受け取った力だ!!」
「っ?!」
「ルドガーはユリウスさんから時計を借りたんだよ!踏み台になんてするわけないっ!!」
「そうです!魂の橋なんて、そんな酷い条件…っ、許せませんっ!!」
レイアが棍棒を振るい、エリーが術を唱える。
それを受け止めながら、クロノスは少し思案した後、ならば何故、と私を見た。
ニッと笑って、私は走る。
「いくぞアルヴィン!!」
「おう!!飛んでけッ!!」
待ち構えていたアルヴィンの剣に飛び乗ると、大きく剣を振り上げられる。
その勢いに乗って大きくジャンプして、全身全霊を込めてクロノスに叩きつけてやった。
「ぐぅ…ッ!!防御壁を無効化、だとッ!!」
「私のチート機能舐めてもらっちゃ困るよ!今だよローエン!!」
「エアプレッシャー!!」
「畳み掛けるぞミュゼ!!」
「ええ、了解よガイアス!!」
ローエンの術が決まり、その背後からガイアスが剣を構えて飛び込み、ミュゼが術を放つ。
クロノスがそれを弾き返そうにも、二人の連携が早く対応しきれず攻撃をモロに受け止めた。
そして、ようやくクロノスが膝をついたが。
ビズリーの声が、静まった場に響き渡る。
「これが、時空を超えるオリジンの無の力だ」
それはあまりにも一瞬のことで。
自らの骸殻能力でクロノスの術から抜け出したビズリーが、クロノスの腹部へ槍を突き刺した。
その槍には、私の力で橋をかけた時のように、エルが槍で貫かれていた。
「エルッ!!」
剣を放り投げて、私は地面に放り投げられたエルの傍へ駆け寄った。
ビズリーとクロノスのことなんて、この際気にしてはいられなかった。
同じように骸殻を解いてルドガーもエルに駆け寄り、その小さな身体を支える。
エルは、うっすらと目をあけて、どうして、とぼやいた。
「ルドガー…ユウキ…なんで、ここに…?」
「…約束したから、な」
「私はエルを怒りにきたんだよ!!馬鹿エル!!心配した…!!」
「ルドガー…ユウキ…」
ゆっくりと伸ばされるエルの小さな手を、ルドガーがぎゅっと握り締める。
エルはもうほとんど時歪の因子化しかかっていた。
それほどまで、こき使われたということだ。
「もー堪忍袋の緒が切れました!!」
立ち上がって、私はクロノスを封じ込めたビズリーを睨みつけた。
私を見て、フッとビズリーは笑う。
「精霊だけの世界にするって言う大馬鹿や、人間だけの世界にするって言う大馬鹿ばっかり!!こんな馬鹿みたいな騒動に巻き込まれたなんて、ほんっと許せない!!絶対に叶えさせるもんか!!」
「何を言う?そもそもこのオリジンの審判自体が、始祖クルスニクと精霊オリジンが契約した一個の精霊術だ。契約が完了すれば、オリジンも叶えざるを得ないのだ」
「ばっかじゃないの?!だからそんなことさせないって言ってるだろ!!叶えてもらう願いは、分史世界の消滅だ!!」
「ならばその娘はどうするつもりだ?オリジンに願わねば、その娘は助からんぞ」
「私を異世界の来訪者って言ったのは、誰だったっけ?」
「!」
エルの額に、そっと手をあてる。
その瞬間、エルから流れてきた瘴気が荒波のように私の中へと流れ込んでくるのがわかって私は少しだけ息を詰めた。
「ユウキッ!」
そんな私の手を握ってくれたのは、ジュードくんだった。
私のすることに怒らないでいてくれて、でも私より苦しそうにしているジュードくん。
そうだ、私が、ここにいる理由。
私の、なすべきこと。
「…そうやって、いつまでも誰かの身代わりとして生きるのか」
「私は、この世界で誰かの代わりでしか生きられない。でも、それでも私は主張し続けるって決めたんだ」
ここで生きている。
ここで、ほかの誰でもない私として、生きているのだ。
それを、もう見失ったりしない。
そうか、とビズリーは笑った。
それが最後の戦闘の合図だった。