天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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目を覚ますと、クロノスと対峙した場所にいた。
傍にはエルが泣きそうな顔で私の顔を覗き込んでいたから、大丈夫、と力なく笑った。
38.兄の願い、弟の意志
ズキズキと痛む頭を抑えながら起き上がる。
あれからそんなに時間は経っていないようだけど、何をしてるのか。
「手はずは整ったな。さて、あとは」
私が目を覚ましたことに気がついていたらしいビズリーは、GHSを切ってこちらに向かってくる。
エルが私の前に立ってビズリーに向かうが、私はそれを制して立ち上がった。
「まだ抵抗する意志があるようだな。強情なことだ」
「橋は、かけない。精霊を道具にしようとしてる奴なんかには、絶対に!」
「なら、彼を犠牲にするがいいのかな?」
彼?とビズリーの視線の先を見れば、そこにはエージェントに両手を掴まれて横たわるリドウの姿があった。
ボロボロの服は、相当きつい戦闘の後のように思わせる。
身体をピクリとも動かさないリドウを見て、どういうことだと再度ビズリーを見れば返ってきた言葉は。
「言っただろう。橋をかけるには強い力を持ったクルスニク一族の命を必要とする。君が橋をかけないと言うなら、彼を殺して橋をかける」
「!!リドウはクラン社のエージェントで、仲間じゃないのかッ?!」
「そう、クラン社のエージェントで橋の材料だ。橋の役目をする立派な仲間だ」
「…違う。そんなの仲間じゃない…!」
「あれもダメ、これもダメ、では世の中は渡れない。大人になればどれだけ世界が窮屈かわかる」
「そんな大人になら私はならないッ!!リドウのことは大嫌いだし今でも一発ぶん殴ってやるって思ってるけど殺させない!!」
そう言い切った私のことを、目を覚ましていたリドウが驚いたように見ていたのに気付かず、私はエルの手を引いてリドウの前に立つ。
誰かが犠牲になるなんて、嫌だ。
わがままだって言われても構わない。子供だって言われても構いやしない。
私は絶対に、誰かを見殺しになんて―――…
「なら、やはりお前が橋になれ」
は、と息が漏れる。
何が起きたか、わからなかった。
いつの間にか槍を手にしていたビズリーが、私に向かって、その槍を。
「ユウキーーーーッ!!!」
エルの悲鳴が聞こえる。
私の身体は、槍に、貫かれて。
そのまま、持ち上げられて。
「…素晴らしい。生贄もなく橋がかかるとは」
カナンの地へと、私から抜けた力が伸びて橋をかけた。
ビズリーはそれを見届けると、私を槍で貫いたまま橋を渡ろうとする。
痛いとかじゃなくて、苦しかった。
呼吸もままならないほど、胸が苦しくて、自分が本当に生きているのかすらわからない。
私は、このまま…。
「やめてーーーッ!!エルが行くからッ!!エルが代わりに行くからユウキをはなしてよッ!!」
エルの声が聞こえる。
ダメだよエル。ダメだ。
こんな苦しい思い、エルがしちゃいけないんだ。
なのに、私の思いは届かずビズリーは私を槍から振り払うようにして放り投げた。
リドウの傍に滑るように転がった私は、身体を動かそうにもしびれていてそのままでいるしかなかった。
「良かろう。異質の力がどこまで使えるかわからないからな。私としてもクルスニクの鍵の方が安心だ」
「っ、ユウキ、もうだいじょうぶだよ。エル、がんばるから、だから、行ってくるね」
ダメだって言葉も言えなくて、橋を渡っていくビズリーとエルを泣きながら見送ることしか出来なかった。
二人が渡りきったのか、橋が消えるとやっと私の身体が動くようになった。
やはり私の力を使って橋はかかっていたのだ。
起き上がるとリドウを抑えていたエージェントが私を取り押さえようと向かってくる。
さすがに今の状態で相手にするのは、そう思っていたらリドウが叫んだ。
「そいつらの手に持ってるスイッチを押せ!!」
「!…おりゃあっ!!」
まだしっかりしない身体でエージェントの一人に飛びかかり、手に持っていたスイッチを乱暴に押す。
私を振り払ったエージェントが追い打ちをかけようとするが、気がつけば武器を構えていたリドウがエージェントをあっという間に倒してしまった。
何あれリドウスイッチだったの?リドウ実は人間じゃなくてロボットだったの?!
「失礼なこと考えてんだろ…俺の内蔵はほとんど黒匣になってんだよ」
「え…」
「こう見えて病弱でね」
そうか。そうだったのか。
何か生き急いでる感あったけど、何か納得した。
リドウに頭を見られて、こりゃひでえと呟かれた。
「借金上乗せだな。治療してやるから五百万頼むぜ」
「また借金が!!って、こんなことしてる場合じゃない、エル助けに行かないと…」
「橋はもう消えた。どうやって行く気だよ」
「…でも、行かないと…!!」
「ユウキッ!!」
私を呼ぶ声がして、リドウに起こされながら振り向いたらこちらに向かって走ってくるジュードくん達が見えた。
ああ、ますます心配させる格好で再会してしまった。
案の定私の側まで駆け寄ってきたジュードくんはレイアとエリーと一緒に私を治療してくれた。これでリドウの借金からは逃れられた。
ルドガーも私を心配そうに見ていて、ハッと何かに気がついたように周りを見回す。
「エルがいない…?」
「ごめん、ルドガー…エル、私の代わりに連れてかれて…カナンの地に…」
「橋がかかったのか?!」
アルヴィンが驚いているが、それに肯定したのはリドウだった。
「こいつの力を使って、社長が橋をかけてさっさと行っちまったよ」
「…リドウ、お前は彼女を犠牲にして…!」
「勘違いするなよユリウス。…こいつが俺も犠牲にしたくないって駄々こねたんだ」
駄々こねたけども。
だって、誰かを犠牲にしないといけない方法なんておかしいじゃないか。
そんなの間違ってる。
リドウの話を聞いたローエンは、いつもより険しい顔で私を見る。
「まさかユウキさん。自ら自分を差し出したのではないでしょうね…?」
「そうなんですか、ユウキっ!!」
「なんでそんなことするんだよーっ!!」
エリーとティポにも怒られるけど、これは誤解だと私は首を横に振る。
「や、違う…抵抗する間もなく槍で刺されて、気がついたら橋が…」
「槍が刺さった…?骸殻の力は大精霊の力だから、ユウキの体質で無効化するはずなのに…どうして」
ジュードくんが何か悶々と考えているけど、そういえばそんなチート機能があったっけ。
でも、そう言われたら何でなんだろう。
刺されたって言ってもとくに傷もないし、血も出てない。
よくわからないまま橋ができた。
「…あ、でもやっとルドガー、ユリウスさんとちゃんと会えたね…」
「……」
「…?みんな、どうしたの?何かあったの…?」
実は、とミラが話してくれようとした時。
「そいつらは、ユリウスを橋にするかルドガーを橋にするかでぐだぐだやってるだけだ」
みんなが誰だと声を荒げる。
声の主は露店の方からやってきたらしく、私の背後で声が聞こえた。
その声の主を、私は知っている。
「優姫」
その低い声に、どれだけ思い焦がれたか。
会いたいと、望んでいたか。
「あ、にき…」
振り返った先にいたのは、ずっと会いたくて仕方なかった私の兄だった。