天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《だからさ、ルドガー。頑張れって、言ってくれないかな。そしたら私、なんだって出来る気がするんだ》
その時、きっとユウキは一人で何かをする気なんだと思った。
僕に言わせたあの時と同じ。
思わずルドガーからGHSを奪い取って、行くなと言おうとしたのだけど、それより早くルドガーは口を開いた。
「…違うだろ、ユウキ。一緒に、頑張ろう」
あの時、僕が言えなかった言葉だった。
37.諦めたくないもの
クラン社に着き、本当はユウキを待つ予定だった僕達は既に待っていたヴェルさんとリドウに半ば強制的に社長室へと案内された。
着いて早々、ルドガーに社長昇任の辞令が出ていたことを聞いたときは驚いてしまったが、それよりもクラン社が僕達の足止めをしようとしているような気がしてならない。
社長室でビズリーさんからだという映像を見させられた。
クルスニク一族の呪われた宿命の話、ルドガーの借金も報酬として帳消しになったこと。
ビズリーさんは結局僕達にカナンの地に行く方法を教えてはくれなかったのだ。
リドウはユウキを使ってクロノスを殺すつもりなんじゃないか、と言った。
「ミラ、僕は悔しい」
「ジュード」
社長室を追い出され、下の階に下ろされた僕とミラ。
このまま黙って引き下がるわけにはいかない、と向かおうとするミラに、僕は拳をぎゅっと握り締めたままそう口にする。
「もっと早く、考えないといけなかったんだ。どうしてユウキが分史世界に行けれないか」
「…ジュード達が最初に分史世界に飛んだ時から、今に至るまでずっとユウキだけは正史世界に残されたまま、だったな。だが、何が理由かなんて想定もできないだろう?」
「ううん、わかるはずだったんだ。特に、目の前で何度も見てきた僕は、ユウキの特性に気づいているべきだった」
「まさか、理由がわかったのか?」
「ユウキに、大精霊クラスの術は効かない。骸殻の力は大精霊からの力だから、一緒にいたら無効化しちゃうんだよ」
ミラもハッとする。どうやらすぐに気がついたらしい。
一年前、僕とミラは見てきたのだ。
最初の出会いの時、ウンディーネの術を触れただけで解いてしまった姿を。
ミュゼの術の中平然と立っていた姿を。
そして、さっきも見たのだ。
クロノスの術を、片手で消してしまった姿を。
ユウキは無意識に、分史世界に飛ぶ時に自分にかかる力を無効化していた、のだと思う。
「…そうか、ビズリーがエルではなくユウキをと言っているのは、その為か。クロノスの術を無効化する気だな」
「多分。…ミラ、また僕はユウキに苦しい思いをさせてしまってるんだ。ユウキは僕達には、ううん、僕には弱いところを見せてくれない。頼って欲しいのに」
「それは…私も同じだ」
え、とミラを見たら、ミラも少し辛そうな顔をしていた。
「私がこうしてここに立っていられるのは、ユウキのおかげだ。自分の中の迷いを捨て去り、誇りを持ってマクスウェルになれた。だからこそ、ユウキが困っているのなら力になりたい。だが、ユウキは何も言ってはくれない。ジュード、君と同じだ。私も悔しくて仕方ないよ」
ミラも同じ気持ちだったのだ。
ユウキはいつだって、一人で何とかしようとする。
あの旅で少しは変われたと思ったのに、やっぱりユウキは僕達に何も相談はしてくれず一人で何かしようとしているのだ。
それが悔しくて、たまらない。
「役に立てなかったとか、立てたとか、俺はそんなこと頼んでないだろッ!!」
《で、でも…》
「でもじゃない!!どうしてユウキはいつも自分のことを考えないんだ、どうして自分を大事にしてくれないんだッ!!」
あれから少しして、ルドガーが神妙な面持ちで僕達のいるところへ戻ってきた。
リドウから聞かされたのはビズリーさんがユウキを犠牲にしようとしていることだったらしい。
大人しくしていないと、次に利用されるのはルドガーだと。
その時、ユウキから連絡が入った。
いつもの軽い調子の声。平気だ、ときっと笑いながら言っているのだろうその言葉の中に、ルドガーの役に立てて嬉しいと混ざった瞬間、ルドガーが今まで聞いたことのない大きな声で怒鳴った。
自分を大事に。
それは僕達が今までユウキに言わなければいけない言葉だった。
少し息を呑む音がして、ユウキが声を出した。
《ルドガー、私ね。この世界に来て良かったって思ってるんだ》
「っ、え?」
《最初は不安で、怖くて、誰か助けてって思ってた。けど、そんな私をジュードくんが見つけてくれて、ミラと出会って、アルヴィン、エリー、ローエン、レイア。それにガイアスやミュゼ。他にも色んな人と出会った。旅をしてて思ったんだ。苦しいこともいっぱいあるけど、私、この世界が好きだって》
沢山傷ついて、沢山苦しい思いをしたのにそれでもユウキは、この世界を好きでいてくれた。
この世界に来て、良かったと今も思ってくれていた。
《みんなと、この世界を守りたいんだ。それに私にはジュードくんが笑っていられる世界を作るって使命がありますしね!!》
ああ、まだそんなことを言ってる。
もうそんな使命、必要ないのに。
だって、叶ってるんだよ、その世界は。
僕が笑っていられるのは、君が隣にいてくれるからなんだ。
だから、お願い、ユウキ。
《だからさ、ルドガー》
もう一人で、無茶しないでよ。
GHSは無情にも切れ、電源が切られたのかもう繋がることはなかった。
ビズリーさんの目的は、カナンの地へ行き分史世界の消滅を願うことではなく精霊を支配することだった。
ユウキの声は途切れ、エルが自分が頑張ると言って通話は切れた。
「ビズリーを止める。私達もカナンの地へ行くぞ!」
「方法なら、きっとユリウスさんが知ってるかもしれないね…今なら間に合うかもしれない」
「…ああ、行こう」
ルドガーはぎゅっとGHSを握りしめる。
ルドガーも悔しいんだ。
ユウキが自分のために苦しんでいる。エルが自分に心配をかけないようにしている。
だからこそ、僕達は早く二人の元へ急いで、それから怒ってやるんだ。
一人で何とかしようとしないで、って。
「お待ちください!社長から、副社長を社から出さないよう命じられております!」
そう言って僕達の前に立ちふさがったのは、秘書のヴェルさんだ。
それでも僕達は止まるわけにはいかない。
ヴェルさん率いる警備員を押しのけて、僕達はエレベーターに飛び乗り一階に降りる。
そのまま早足でロビーを抜けようとしたら、警報を共に先程の倍の数のエージェントが現れ僕達を囲った。
「ここは通行止めだ、ルドガー副社長」
「定番すぎるセリフで申し訳ないけど、社長命令は守ってもらわないとな」
イバルとリドウだった。
どうやらクラン社に誘導されたのは全てが終わるまでの拘束が目的だったようだ。
目の前に立つイバルに、ミラが子供を叱るように話しかける。
「どいてくれ、イバル。お前の相手をしている暇はないんだ」
「…できません、ミラ様」
あのイバルが、できないと言った。
そこにどんな思いがあるのか。
その時、大きな術を放ちながらミュゼが加勢にきてくれた。
続くようにエージェントを切り伏せたのはガイアスだ。
「迎えに来たが、おせっかいだったか?」
「…いいや、助かった」
ルドガーがフッと笑った。
ガイアスも昔に比べて丸くなったな、と悠長なことも思っていられず、僕達はすぐに武器を構えなおす。
「あーあ、面倒なお方が来ちゃったなー。でもこっちもルドガー君を止めないとヤバイんだよ。…命がかかっててね」
ああ、でも、とリドウは真剣な表情から一変して笑った。
「あのガキがいりゃ、大丈夫かもしれないなあ…。異世界からの来訪者さんは、何でもできるみたいだからな」
「!!リドウ、ユウキをどうするつもりで…ッ!!」
「怒んなよ、Dr.マティス。誰だって、自分の命の方が大事に決まってんだからさ」
スっと、リドウが手を振り上げると、エージェントが武器を構える。見たことのない武器だと思ったが、どこかで似たような形のものを見たことが…。
「!もしかして、それはっ!」
「クルスニクの槍だ。携帯版だが、威力はそこそこあるぜ?」
「そんなもの…!」
はあっ!とミュゼが術を放つと、エージェントがクルスニクの槍を向けてその術を相殺した。
たしかに、リドウの言う通り威力は十分だ。むしろ、効果的すぎて僕達は絶体絶命。
「どうする、ルドガー」
「……地下から外に出られるはずだ。兄さんが、そう言ってた」
「なら、目指すはあのエレベータだな」
ガイアスとルドガーの会話を聞き、エレベータの場所を確認する。
あそこまでの距離、全員で行こうものなら後ろから狙い撃ちだ。
でも誰かが、囮になればいける。
「僕が行く」
「ジュードっ?」
「ルドガーはみんなを誘導して。僕なら大丈夫だから」
「…死ぬなよ」
「こんなところで死ねないよ」
ガイアスの言葉に、苦笑気味に返したらフッとミラが笑った。
「ああ、こんなところで死んでみろ。ユウキが泣くぞ」
「…うん、それは困るね。すっごく困る」
「なら、絶対に生き延びろ」
うん、とガイアスに頷いてみれば、ルドガーも決心したらしい。
僕に「頼む」と言ってくれた。
深呼吸して、僕は一目散に出口側に向かって走った。
「まさか陽動を買って出るとは、意外だったよ」
ルドガー達が無事にエレベータに乗り込み地下へ降りていくのを確認して、向かいに立つエージェント達に身構えていたら、リドウが少し面白くなさそうにそう言ってきた。
「俺はあんたこそ真っ先にここから出ようとするって踏んでたんだがなあ。ユウキってガキのためによ」
「…ユウキに、何をさせようとしてるんですか」
「橋になってもらうんだよ。カナンの地に向かうためのな」
「橋に…?!」
「カナンの地に行くためには橋をかける必要があってね。あいつを使えば、それが出来るんだ。…俺も、助かるんだよ…ッ」
一瞬だけ表情を歪めたリドウ。
それが何を意味するのかはわからなかったけど、ユウキを使って橋をかける、という言葉が頭の中を反芻していた。
それはつまり、ジルニトラでマナを全て放出させた時と変わらないのではないだろうか?
また、ユウキは―――…
「さて。このお方は生け捕りだ。やれ!!」
「っ…」
リドウの合図でエージェント達が武器を向ける。
どうやって逃げるか算段していたら、カラン、と足元に何かが転がってきた。
ハッと気がつき、僕は耳を塞いだ。
ボンッ!!!
「何だこれは?!」
「こっちだ」
「!」
「その声、てめえユリウスかッ!!あーくそっ、耳がいてえッ!!」
転がってきた缶は爆発し、辺りは煙幕で包み込まれる。
咄嗟に耳を塞いだ僕はユリウスさんの声を拾うことができ、声の聞こえた方へと全力で駆けた。
クラン社を出ると追っ手は向かっては来ず、トリグラフのルドガーの家の前で足を止めた。
逃げ切れたようだ。
それにしても。
「助かりました、ユリウスさん」
「いや、こちらこそ。ルドガーが世話になっているようだな」
まさか、ユリウスさんが来てくれるとは思わなかった。
マクスバードでクロノスとどこかに飛ばされた時はどうなったかと心配したが、どうやら無事だったようだ。
ユリウスさんに礼を言うと、フッと優しい笑みを向けられた。
見るからに、見本のような大人だ。
でも、ルドガーはずっとユリウスさんのことを心配していたのに、どうして出てきてくれなかったのか。
…それは、ルドガーとユリウスさんが話し合うべき問題、か。
なら僕が聞かなければいけないことは。
「ユリウスさん、貴方ならカナンの地へ行くための方法、知ってますよね」
「…ああ。きっと君達は聞いてくるだろうと思ったから、君だけとこうして話が出来るのは都合が良かった」
「都合が良い…?」
「ルドガーはきっと、決断できない」
ルドガーが決断できないこと?
なんだろう、ものすごく嫌な予感がする。
でもユリウスさんは、その方法を口にした。
「カナンの地に行くためには、魂の橋をかけなければならない」
「魂の…?それはどうすれば…っ、まさか…!」
「強い力をもったクルスニク一族の命を、生贄にするんだ。…俺か、ルドガーの命を犠牲にすれば、橋はかかる」
それを聞いた時、なんて馬鹿げているのだろうと思った。
ルドガーかユリウスさんの命を犠牲にして、カナンの地に行く、だって?
そんなふざけた話があってたまるか。
今までルドガーがどれだけ頑張ってきたか、ユリウスさんも、きっとルドガーのために今まで頑張ってきたはずなんだ。
それを、こんな形で終わらせる?
これは、間違っている。
「橋は、俺の命でかける。ルドガーが決断できなかった時は…俺が自分で」
「いい加減にしてくださいッ!!」
「!」
「ルドガーがどんな思いでいたか、どれだけユリウスさんを思っていたか、何でわかってあげられないんですか?!それにその方法も間違ってる!!精霊と人間が分かり合うために、どうして命を犠牲にする必要があるんですかッ!!」
絶対にその方法は間違っている。
だって、誰かの命を奪ってまで願いを叶えにきた人間なんかと精霊がわかり合おうだなんて思うはずがない。
ミラだって、こんな方法許さない。
ユリウスさんは困ったように笑った。
「ルドガーの友達なだけあって、優しいな」
「ユリウスさん、もう少し話し合いましょう。絶対に違う方法があるはずです。こんなことで世界を救ったって、何も誇れることじゃないって僕は思います」
「…だが、この間にもユウキが犠牲になっている」
「……」
「彼女は、橋をかけられる。ビズリーは彼女で橋をかけ、彼女が使い物にならなくなったらエルでクロノスに対抗しようとしている。君は、彼女が大切なんじゃないのか?俺とユウキ、どちらを取るかと問われれば君は」
「僕は、どっちも諦めたくありません」
え、とユリウスさんは驚いたように僕を見た。
そうだ、諦めない。
ユウキは、諦めなかった。
僕も、ミラ達も、全部諦めなかったんだ。
「ユウキだって大切だし、ルドガーの家族だって守りたい。だからお願いです、少しだけでいいんです。時間をください。他の方法を探すために、誰も犠牲にしない未来のために」
『誰も犠牲にしない未来推奨派だからね!』
ユウキはいつだってそう言っていた。
誰も犠牲にしない。なってはいけない。その通りだ。
僕の言葉は届いたのか、ユリウスさんは目を伏せた。
少しの沈黙の後、ため息と共にユリウスさんは頷く。
「…負けたよ。だが時間は限られている。もう待てないと判断したらその時は…」
「大丈夫です、そんなこと絶対にさせませんから」
「断言するか。フッ、ルドガーも良い友達を持ったな」
マクスバード港で待っている、と言ってユリウスさんはその場を去る。
僕はこれから来るだろうルドガー達を待って、その場でずっと他の方法はないか考えていた。