天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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「…そちらが、本物のマクスウェルだな」
クランスピア社に到着した私達を待っていたのは、社長のビズリーさんと秘書のヴェルさんだった。
33.“俺”とエル
「時空の狭間は安定したようだな」
本物、という言葉にエルがカッとなって反論しようとするが、ミラはそれを止めた。
何を言っても無駄、だからかもしれない。
この社長、本当に何を考えてるかわからない。
「ああ。座標を」
「はい。ルドガー様、今から最後の道標が存在する可能性の高い分史世界の座標を転送します」
「……」
すぐに届いたそれを、ルドガーはGHSを取り出して確認する。
座標から推測されるに、どうやらこの正史世界とほとんど変わらない世界のようらしい。
私は行けれないんですけどね!!
「残る道標の正体は判明しているのでしょうか?」
ローエンがそう聞くと、ビズリーさんは少し間をあけてから、いいや、と首を横に振った。
「だがこれまでと同じく時歪の因子を探せば、カナンの道標が見つかるはずだ。Dr.マティス一行が協力してくれれば、より確実に」
「…ルドガーには協力します。僕自身の責任と、理想のためにも」
「はい。動かされるのではなく、自らの意志、でね」
ジュードくんとローエンははっきりと言った。
そうだ、私達はクランスピア社のためにやってるんじゃない、世界のためにやってるんだ。
そして、そのために頑張っているルドガーのために、一緒に頑張るんだ。
断じて、リドウとかビズリーさんのためなんかじゃないんだからな!!
「…己が意志に従う。それこそが人間だ。誰かの書いた物語になぞって生きることに、意味など皆無だ」
「!やっぱり、ビズリーさんは私のこと、最初から知ってて…!」
ふ、とビズリーさんが笑う。
こうなったら、ルドガー達が分史世界に行ってる間に色々吐いてもらうしかないな!
「ユウキ」
「ルドガー。私はついていけないけど、無事に帰ってくるのを待ってるから。ちゃちゃっと最後の道標をとってきて、ささっとカナンの地に行こ!」
「…ああ。ユウキも気をつけるんだぞ」
「ユウキ、待っててね。ルドガーががんばるから!」
「おうよ!エルも気をつけてね!」
約束、とエルとゆびきりをする。
それからジュードくんとミラ、ローエンに向き直ったらものすごく不安そうな顔をしていた。
「って、みんなそんな顔しなくても大丈夫だって!優姫、トリグラフで大人しくしてます!」
「…ユウキ、ビズリーさんから何を言われても聞いちゃダメだからね」
「あの男は嘘は言わないかもしれないが、本当のことも口にはしない。食えない男だ」
「ええ、できればユウキさんにはアルヴィンさん達といてほしかったのですが…」
「しょうがないよ。アルヴィンもレイアもお仕事あるし、エリーもドロッセルのところに帰ってるし。私は大丈夫だから、ね!私の代わりにルドガーの手伝い、よろしくお願いしまっす!!」
ね、とお願いをしたら、三人とも折れてくれたようだ。
ちなみにガイアスもお仕事で、ミュゼは精霊界に少し戻っている。何やら気になることがあるのだとか。
ルドガーとエル。それからジュードくんとミラとローエン。
きっと大丈夫だ。私はそれを信じてこちらで待っているのみ。
クエストとかしちゃって借金返済のお手伝いはするけどね!!
「これが最後の道標探しだ。敬意を表して見送らせてもらおう」
ビズリーさんが手をかざすと、クラン社の入口に並んでいた社員が一斉に敬礼をした。
これまた盛大な見送りだ。ていうかルドガーすげえ!
「随分とルドガーに期待しているのだな」
「当然だ。クルスニクの鍵は最後の希望。オリジンの審判を超えるためのな」
クルスニクの鍵、オリジンの審判。
それは一体どういうものなんだろう。
思えば私達は、ちゃんと理解した上で分史世界を破壊しているのだろうか。
オリジンの審判が、どんなものかも知らないままで、いいのだろうか。
ルドガー達が分史世界に飛ぶと、やはりというかいつものごとく私だけがその場に残される。
ビズリーさんもヴェルさんもそれはわかっているため、とくに驚きもしない。あれ?そういえば最初の時はヴェルさん驚いてたような…。
とにかく、聞くべきことがたくさんある。
私はビズリーさんに向き直ると、相手もわかっていたようでふっと笑った。
「私に聞きたいことがあるのだろう?異世界の少女よ」
「…どうしてそれを知ってるのか、ってこととか色々聞くけど、ちゃんと答えてくれますよね」
「ここで立ち話もなんだ。中に入りたまえ」
「どうぞ、ユウキ様」
ヴェルさんに促され、私は意を決して足を踏み出した。
社長室へ案内されると、ソファに座るように言われた。
おそるおそる座ってみる。なんとこのソファ、ものすごく身体が沈む!高級感半端ない!
「で、質問は?」
ソファに感動していたら、正面に座ったビズリーさんに話を切り出された。
思考がそれかけていた自分を叱咤し、こほん、と咳払いをして私も本題に入ることにする。
「どうして、私が異世界の人間だって知ってたんですか?リドウも私のこと知ってた…このことは、私とジュードくん達しか知らないはずです」
「君達は我が社を少し甘く見ているようだ。ルドガーを雇った段階で君達の素性は調べ終えていた。だが、一人だけ何一つ情報がない者がいてね。得体のしれない者を放置するわけにはいかない。故に一年前の目撃情報、エレンピオスでの動き、調べに調べた。そこで出てきたのが、アルクノアの証言だった」
ピ、とヴェルさんが何かを再生させた。
見れば、ラジカセのようにも見える機械だけども、何が再生されるんだろう?
そう思って耳を澄ませると、意外な声が聞こえてきた。
《マクスウェルを殺すためには、援軍が必要だ。そして、このリーゼ・マクシアを供給源にするためにも――…》
「じ、ジランド?!」
「そう、彼がエレンピオスに送ったメッセージだ」
《断界殻に穴を開けたら、援軍を頼む》
そういえば、ジランドはエレンピオスに援軍を求めていた。だからこそ、イバルがやらかした際にエレンピオス軍がこちらに入ってきたのだ。
でもこの時は、まだマクスウェルはミラだと思われていたはず…私の話なんて出てこないんじゃ…。
と、思っていたら、別のテープに切り替えられた。
そこから流れる音に集中すると。
《最初に言ったマクスウェルは間違いだった。騙されていた。本物のマクスウェルは小柄の女だ。髪を一つに束ね、見るからにアホ面だ。だから気づかなかった。あいつこそが、マクスウェルだった。あいつは全て知っている。過去も今も、未来ですら知り尽くしている。術も効かない。名はユウキ。こいつを殺しさえすれば、断界殻は―――…》
「……ジランド…アホ面って…!」
もうそこにしか突っ込めない。誰がアホ面だ…マクスウェルだって勘違いしてるとこにつっこみたいのに、アホ面がひっかかってシリアスにならない!ジランドのバホー!
ピ、とテープの再生が終わると、ビズリーさんは再度口を開く。
「…我々は、マクスウェルであるという君を更に調べた。だが一向に情報はない。…異常だったのだよ、君の存在は」
「……」
「君がマクスウェルだったとしても、リーゼ・マクシアのマクスウェルを祀る村ではマクスウェルは君ではなくミラ様だと返答がくる。ならば、君は何者なのか。そこで、少し試すことにした」
「試す…?何かしたっけ?」
「ルドガー達が分史世界に進入した時、残された君はクラン社の一室で待機していただろう?」
ああ、そういえばそんなこともあった。
あの時残された私はクエストいくぜー!と意気込んでいたらまさかの扉の故障で出られなくて暇してたんだった。
でも、あの時何かあったっけ?
「あの時、私はリドウに試させた。ユウキは全て知っている、マクスウェル以上の存在だ、とカマをかけて」
「!リドウが知ってたのは、そのカマかけのせい…!」
「ああ、彼も半信半疑だったようだが、確信したようだな。君に骸殻の力が効かなかったこと、そしてユリウスが頑なに君をルドガーの傍にいさせようとしていること…全てがつながった時に、我々は君をこう呼ぶことにした。異世界の来訪者、とね」
異世界の、来訪者。
そう、それは何一つ間違ってはいなかった。
ジュードくん達は受け入れてくれたけど、よくよく思えば異常なことなのだ。
個人の過去を、今を、そして未来を知っている。
大精霊クラスという限定的なものだけど、精霊術も効かない。
なにより、この世界に情報が何一つない人間は、他から見れば十分に異常だった。
リーゼ・マクシア人でもなく、エレンピオス人でもない。
ならば残るは、二つの世界とは全く違う世界からの来訪者。
ありえないことでも、それしかないのなら真実になり得るのだ。
「…たしかに、私はこの世界の人間じゃないし、一年前は未来のことがわかってた。でも、今は違う。私の記憶にルドガー達はいなかったし、この会社のことも知らなかった。骸殻能力だって、列車でユリウスさんから聞いて知ったんだ。だから、私はもう何も知らないし、力もない」
「それは違うな。君には、君自身気がついていない力がある。それはあのマクスウェルすら、精霊界と人間界を自由に行き来させることを可能とした力だ。だからこそ、ユリウスは君をルドガーの傍に置きたがった。…ふ、良いお兄さんだ」
「それ!それなんだけど、何で私が傍にいれば大丈夫なの?私はたしかに、ミラを精霊界と人間界を行き来できるようにしたけど、ルドガーには何もしてないよ。リドウも、何か許容量が、とか言ってたし…私は、何をしてるの?」
「以前君は、骸殻能力に回数制限はないのか、と聞いてきたな?」
こくり、と頷く。
だって、あのユリウスさんが使わせないようにしていた力だ。
きっと何か、理由があるはずと思っていた。
あの時、ビズリーさんは言っていた。
ルドガーの傍に私がいれば大丈夫だ、と。
「骸殻能力は使い続ければ、いずれ死に至る」
「!!」
「正確には、時歪の因子となり分史世界を作り上げる。…分史世界は元々、正史世界で骸殻能力を使いすぎた者が生み出したものだったのだよ」
嘘をつかれていると思った。
だって、これまで増えてきた分史世界全て、カナンの地に行くために骸殻能力を使い続けた人達の末路だったなんて、そんな悪い冗談があってたまるか。
それじゃあ、今までルドガーが破壊してきたのは、同じ志を持った仲間の作り出した、世界だったと…。
「っ、やめさせないと!このままじゃ、ルドガーも…っ」
「だから言っただろう。君が傍にいれば大丈夫だ、と」
「え?」
「君は、君の中の未知の力でルドガーが負うべき代償を相殺しているのだ。ユリウスは、それを知っていた」
「…そういう、ことだったのか。ユリウスさんは、ルドガーが骸殻を使った時の代償を、私に相殺させるために…」
利用されていた、とか、そんなことは思わなかった。
ただ、やっぱりユリウスさんは、良いお兄さんだと思った。
弟を守ろうとしたんだ。傍に私を置いておけば、ユリウスさんの代償も全て私が相殺することができたのに、そうはしなかった。
自分よりも、弟の命を選んだんだ。
「良かった…」
「ほう?」
「だって、私分史世界に行けないからルドガーの役にたてなかったけど、私は私の役割があった。自覚なんて全然ないけど、ずっとルドガーを助けてたってわかって、ちょっと嬉しいや」
リドウが言っていた許容量。たしかに限界はあるかもしれない。
それでも、私はルドガーの傍にいるつもりだし、ユリウスさんの代償も相殺してあげたい。
ルドガーにとってたった一人の家族を、亡くさせるわけにはいかない!
固く決意していたら、ビズリーさんはやれやれ、と少し呆れたように肩を竦めた。
「君は自己犠牲型だな。仲間にもそう言われないか?」
「う…似たようなことは言われたけど…でも、私はできるならみんなの為に何かしたい。私を受け入れてくれたみんなを、守るって決めたから」
「そうか。なら、これからも役に立ってもらおうか」
「?」
「カナンの地に行くために、君の力を借りたい。君がいれば、誰も犠牲にしなくても良くなるんだ」
私がいれば、誰も犠牲にしなくても良い。
それは、すごく心を動かされる言葉だった。
私が、誰かの役に立てる。まるで存在を許されたようで、胸が熱くなるのがわかった。
何をすればいいかわからないけど、誰も犠牲にならなくてすむなら、私はやってみせる。
「わかった。私にできることがあるなら、やるよ」
「感謝する。…後は、ルドガー達が無事に最後の道標を入手してくれば、ようやく全てを終わらせられる」
ビズリーさんはどこか遠くをじっと…睨んだように感じた。
「今日はこちらにお泊りください」
そう言われて案内された、クラン社の客室。
前回よりも豪華なその部屋は、おそらくお偉いさんの宿泊用の部屋だった。
何アレ、ベッドでかい!
冷蔵庫もでかい!窓もフルオープン!
「食事はお呼び頂ければご用意いたしますので、その内線で私までお繋ぎください」
では、とヴェルさんは去っていく。
何か物凄い緊張感から解放された私は、ベッドに飛び乗った。
大の字になって寝転ぶと、疲れが少し取れていく気がした。
(でも…私がルドガーの代償を相殺してたなんてなー…)
もしかしたら、リドウは私に代償を相殺させようと思ってたのだろうか。
リドウがミラにやったことは許せないけど、どこか焦っていたように感じて憎みきれなかった。
ああ、それにしても本当に疲れたなあ。
何か体も重いし、少し寝ようか。
(起きたら、ルドガー達帰ってきてるかな…道標持って帰ってきてたら、やっとカナンの地に…行ける…)
気がつけば、私はあっさりと意識を手放していたのだった。