天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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「ミラ、は、私のせいで…私が、決断できなかったから…ッ!!」
違うよ、と声をかけようとした時には、もうユウキはホールを飛び出していた。
30.君が流した涙に
マルシア首相を連れてマクスバードへ戻ってきた僕達を出迎えてくれたのは、ガイアス達だった。
みんながミラの帰還にホッとするも、エルが涙を浮かべて「違う」と叫んだ。
「エルが心配なのは、違うミラだしッ!!」
エルが体を震わせて、全身で訴えてくる。
それをルドガーは優しく抱きしめて、泣きじゃくるエルの背中を摩ってあげた。
「スープ、つくってくれるっていったのに…」
うん、とルドガーが頷く。
ミラさんは、僕達とは少し距離をとっていたようだった。
きっと、僕達はこの世界のミラを知っていて、どうしてもミラさんと区別してしまうからだ。
でも、ルドガーとエルは違った。
二人はこの世界のミラを知らない。だから、二人にとってのミラはミラさんだった。
マルシア首相の決断で、この場で二国の調印が行われた。
マルシア首相が去った後、ミラにこれまでの事情を聞こうとガイアスが「ミラ」と口にした瞬間。
「ミラっていわないでよ!!エル、聞きたくないっ!!」
「エルっ!!」
走り出したエルを追って、ルドガーもこの場を離脱する。
残された僕達には、何もできなかった。
「ね、ねえ…ところで、ユウキは…?」
「…ユウキは」
船内をくまなく探したけど姿はなく、船を港につけた時逃げ去る人影を見た。
多分あれはユウキだったのだろう。
追いかけようとした時には、もう姿はなかった。
そういえば、リドウはなぜユウキのことを知っていたんだろう。
「…事情はわかった。あの男が知っているということは、ビズリーも何か知っていてもおかしくないな」
ガイアスの意見はもっともだ。あの人は、ルドガーの傍にユウキがいるならルドガーは大丈夫だと言ったのだ。
異世界の人間だということを知っていて、ユウキの中の常識はずれの力も知っていた。
(それでも、それでもさ…ユウキが犠牲になっていいわけないんだよ)
あの時、ユウキは犠牲になろうとした。
ミラさんが決断しなかったら、きっと手を離していた。
ミラさんが犠牲になるのも、異世界の人間だからってユウキが犠牲になることも間違ってる。
なのに、また僕は何もできなかった。
またユウキに、背負わせてしまった。
「ミラは、お前達を助けたかったのだ」
港の端で、ルドガーとエルの後ろ姿を見つけた。
エルがルドガーに「なんでミラは」と問いかけ、それにミラが答えた。
「なんでそんなことっ!!」
「わかる。私は違うミラだが、同じミラ=マクスウェルだ」
ミラはそう言って、ミラさんの持っていた剣を自分に向けて宣言をする。
もうひとりのミラの生を無駄にはしない。エルを必ず、カナンの地へと連れていく、と。
エルは先ほどと違って、戸惑いながらも怒りを収めて「こどもにむずかしいこと言わないで」と返した。
「カナンの地で何が起きている、ミラ」
「魂の浄化に限界がきている。私は時空の狭間で見た…分史世界が増えすぎたのだ」
「カナンの地は全時空で唯一、魂を循環させている場所。増殖した分史世界の魂…浄化すべき負が全部カナンの地に流れ込んでいるのね」
そうだ、とミュゼの言葉にミラが肯定する。
つまり、すべての分史世界を消さないと、遠くない未来に浄化は限界を迎え、瘴気が溢れ出す。
「大精霊オリジンは何とかしてくれないんですか?」
「その価値が人間にあるかどうか試すのが、オリジンの審判、なのでしょうね」
「つまり、カナンの地にたどり着き、審判に合格してみせるしかないわけだな」
「そうだ。そして、大精霊オリジンに願うのだ。すべての分史世界の消滅を」
自分達の世界を救うために、他の世界を壊す。
それを手伝う僕達よりも、きっとルドガーは重いものを背負わされているんだ。
それでも、やらないといけない。
そう決意をしていた矢先、ルドガーのGHSに連絡が入った。
《障害となっていたマクスウェルの壁の消滅を確認しました》
「っ、クランスピア社はリドウに何を命じたんですかっ!!」
《え…?リドウ室長がなにか?》
ぐっ、と悔しくて唇を噛んだら、アルヴィンがぽんと僕の肩を叩いた。
落ち着けと言ってくれたようだ。
「とにかく、最後の道標がある分史世界に行けるようになったんだよな?」
《はい。ですが現在時空の狭間がかなり不安定になっています。進入可能なレベルに落ち着くまで、少し時間がかかるかと》
準備が整いましたら、またご連絡します、と淡々とした声は通信を切る。
ふつふつと湧き上がる怒りを、なんとか抑えてこれからのことを考える。
ローエンはこの間に最後の探索の準備をと提案した。それには賛成だ。
その前に。
「ルドガー、ユウキは見なかった?」
「…いや、見てない。そっちとは合流してないのか?」
「うん…多分、今僕達といるのがつらいんじゃないかな」
「…なあ、ジュード。リドウが言っていたことは、本当なのか?」
リドウが言っていたこと、それはユウキが異世界の人間だということだ。
でも、それを僕の口から肯定していいのだろうか?
ユウキは、きっと自分の口から言おうと思っていた。
怖くて、不安で、怯えていたけど、それでも自分から言いたいと思っていたはずなのに。
「エルはっ!」
「!」
「エルは、ユウキから聞くから、いいっ!ルドガー、ユウキさがそう!」
「…ああ、そうだな。悪い、ジュード。俺から聞いておいてなんだけど」
「うん、わかってる。きっとユウキも、自分の口から言いたいと思ってるよ」
だから、探そう。
僕達は、どこかで泣いているかもしれないユウキを探すため、ヴェルさんからの連絡がくるまで行動を別にすることにした。