天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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どうして私はいつもこうなのだろう。
何度後悔しても、守りたいものは私の手をすり抜けていくのだ。
29.弱虫の代償
「バレたみたいだな。さっさと首相助けに行くぞ」
アルクノアに見つかったことでアルヴィンが舌打ちし、中央ホールを足早に目指す中でミラの表情がまた曇り気味になっているのに気づく。
「ミラ、どうしたの?元気ないよ?」
「エル…何でもないわ。私がここにいる意味ってあるのかしら、なんて思ってただけ」
「あるよっ!なんでミラ、そんなこというの?」
「わっ、冗談よ、ウソ。だから怒らないで、エル!」
「…ゆるしてあげるけど、もうウソの話しちゃいやだからね、ミラ」
ぷいっとエルは拗ねたようにアルヴィンの後ろについてしまった。
ミラははあ、と落ち込んだようなため息を吐く。
「元精霊の主がなんてザマ…」
「エルはミラのことが好きなんだよ」
「!あんた、よくそんな真面目な顔で好き、とか言えるわね…!ユリウスってやつの仕込みね?!」
「なんだと!!ということはルドガーは毎日ユリウスさんに好きだよと言われていてルドガーもユリウスさんに好きだよと返してるわけですな!なんて兄弟愛!たまらん萌える!!」
「い、今は、あんまり言わないけど…」
「昔は言ってたということかあああ!!うわあああユリルド萌ええええええ!!」
「…ルドガー、貴方も大変ね。世話しないとういけない子供が二人もいるなんて」
「はは…」
子供に含まれた?!私エルと同等、それ以下の子供に思われてる?!
ぐぬぬ…こうなったらミラのスープを食べた後で私も料理スキルを披露するしかないな!
唸れ兄貴仕込みの料理スキル!
「おいアホユウキ。そろそろ中央ホールにつく。人質が捕まってるはずだから、気合入れろよ」
「私のみ!エルたんアルヴィンが酷いよおおおおお」
「ユウキ、いま遊んでるバアイじゃないんだよ!」
「エルにまで言われた?!」
こうなったら、ここで汚名返上、名誉挽回だ!使い方あってるよね?!
「近づいてはなりません!!」
中央ホールに入るなり、女性の声に制止され私達は足を止めた。
正面を見れば、マルシア首相の頭を机に押し付けて、こちらを見て笑う男。
リドウの姿が。
「余計な発言はお控えを、首相」
「リドウさん、なんであなたが…?!」
ジュードくんが警戒しつつも声を荒げた。
今回のテロの首謀者って、まさかリドウ…?!
リドウは、アルクノアと繋がってたのか?!
「マクスウェルの召喚を手伝ってやろうっていうのに、そんな顔するなよ…な!!」
バッと、リドウが骸殻へと変身し、私達に襲いかかってきた。
私がエルを安全な場所へ避難させている内に、ジュードくん達がリドウに応戦する。
「く…っ、マクスウェルの召喚、ですって…?!」
「我社にはその術式があるんだよ」
「ハッタリにしちゃ三流だな…っ!」
「クランスピア社がマクスウェルを最初に召喚した人間、クルスニクが興した組織でもそう言えるかな?」
「っ!」
クルスニクが興した組織?
そんな昔からの組織だったの?
でも私、知らない。
ジュードくん達との旅で、そんな重要そうな話は出てなかった。
「条件はやかましいんだがな。まず必要なのは生体回路」
「っ!!しま…っ」
リドウはジュードくんとアルヴィンを壁まで蹴り飛ばすと、何かの術式を発動させた。
そこに縛りつけられるジュードくんとアルヴィン。リドウは二人を生体回路として利用する気なのだ。
「させるかぁッ!!」
「はあッ!!」
私とミラがリドウに斬りかかると、リドウは目にも止まらぬ速さで私達の剣を弾いて端へと飛んだ。
そして、にやりとまた笑う。
「で、隠し味は――生贄だ」
ハッと気がついた時には、遅かった。
私とミラはリドウによって魔法陣の中へと誘導されていたのだ。
魔法陣が光ると床が抜け、吸い込まれるように下へ。
「ミラ!!ユウキ!!」
ルドガーは即座に骸殻に変わり、ミラの手を握る。
私もかろうじて一緒に吹き飛ばされてきた剣を床に差し込み、それに捕まるようにしてぶら下がっていた。
「ルドガー!ミラ!ユウキ!」
エルが物陰から出てきて、叫んでいる。
でもそれに答えようにも、今かなりの絶体絶命だ。
「リドウ――ッ!!」
ジュードくんの怒声も聞こえる。
ああくそ、ジュードくんを守らないといけないのに。
みんなを守らないと、いけないのに――…!!
「どっちが落ちても、俺は構わないんだぜ?マクスウェル?」
「っ?!リドウ、私のことマクスウェルだと思い込んで…!」
「ああ、そうだった。お前はマクスウェルよりも優れているんだったな。異世界の住人さんよお?」
「?!」
息ができないかと思った。
どうして、リドウがそれを知っている。
どうして、今、この場でリドウの口からルドガー達に聞かせることになっている。
それは、私がいつまでも成長しない、弱虫だからだ。
私の前までやってきたリドウは、相変わらずの嫌な笑みを浮かべたまま見下ろしてくる。
「つまり、だ。常識の通用しないお前の力なら、そこの偽物の代わりに落ちればお前の言うミラが二人とも同時に存在できるかもしれないわけだ。考えなかったわけじゃないだろ?今、お前は少しでも思ったはずだ。ここで、自分が生贄になれば、なんてな」
「わたし、が、代わりになれば…助かる…?」
「ダメだよユウキッ!!リドウの話なんか聞くなッ!!」
「てめえはまた馬鹿なことする気か!!」
でも、でも…私が代わりになってミラが助かるなら、それでいいんじゃないか?
だって、ここにいるべきなのはどう考えてもミラで、私じゃない。
異世界から来た、私なんかじゃないはずだ。
「ダメっ!!ミラもユウキもしんじゃダメーっ!!」
「!エルっ!」
「ミラはミラだし、ユウキはユウキだもんっ!!このへんなの、とめてよっ!このっ、このっ!!」
ミラが持っていた剣を拾って、リドウに攻撃したのはエルだった。
使ったことのない、重い剣を一生懸命に振り回す。
それをリドウは気にも止めず片足で軽く蹴り飛ばした。
それだけで小さな身体は、遠くへ吹き飛ばされる。
「リドウやめろッ!!エルに手を出すなッ!!」
「じゃあどうする?選択ってのは、一度きりしかできなんだぜ、ユウキ?」
「……私がッ!!」
「いい加減にしなさいよ、馬鹿ユウキッ!!」
手を離そうとした瞬間、耳に届いたのはミラの叱咤だった。
振り向くと、ミラがルドガーに手を握られたまま私の方を見て怒っていた。
「私を誰だと思ってるの」
「ミラ…っ?」
「私は、精霊の主、マクスウェルよ。人と精霊の命を守る。それが…私の使命」
ミラはそう言って、すごく綺麗に微笑んだ。
その笑顔が、あまりにも綺麗なものだから、私は涙が止まらなくなった。
「やだ、ミラ、やめて…っ!!」
「…スープは、ルドガーに作ってもらって。それから、少しは自分のために泣きなさいよ」
「私まだ、見つけてない、ミラが二人ともこの世界で暮らせる方法、まだ探せてないよ――ッ!!」
「ルドガー、エルとユウキをお願い。…それから」
ありがとう、と口が動いた気がした。
ミラはルドガーの手を振り払う。
支えのなくなった身体は、そのまま深い暗闇へと落ちていった。
「ミラーーーーッ!!!」
エルの泣きそうな声が、響き渡る。
そして入れ替わるように、光を纏った誰かが私達の前へと姿を現した。
「やっとお出ましか、ミラ=マクスウェル!!」
ミラだった。
正史世界の、ミラ=マクスウェル。
私達と共に旅をした、精霊の主。
分史世界のミラがこの世界からいなくなったことで、正史世界のミラが戻って来れたのだろう。
ミラはリドウの声を無視すると、エルの前に立った。
「その剣を貸してもらえるか?」
同じ顔、でも知らない人を見ているエルは、戸惑いながらも手に持っていた剣をミラに渡した。
床にはもう、穴はあいてなかった。術式が役目を終えたのだ。
私は、へたりこんだまま動けなかった。
「相応の礼はさせてもらうぞ!」
「へえ、大精霊って寝起き悪いんだ」
「はぁっ!!」
ミラが四大の力と共にリドウに襲いかかる。
術から解放されたジュードくんとアルヴィン、それからミラの手を握っていたルドガーもリドウに立ち向かう。
私は、まだ動けない。
落ちればよかった。
ミラが落ちる前に、私が手を離せばよかった。
なのに、怖いと思ってしまったんだ。
死ぬのが怖いと、手を離したくないと思ってしまった。
私が弱いから、クレインさんもジャオもナハティガルも、アルヴィンのお母さんも、死なせてしまったのに。
また、私は―――…
「強いな~、ミラ=マクスウェル。ファンになってしまいそうだよ…その勢いで道標集め、よろしく頼むよ?ルドガー君」
「っ!勝手なことを!!」
「おっと、俺よりそこで偽物を犠牲に助かった奴を何とかしたらどうだ?」
「リドウッ!!」
ルドガーとジュードくんの怒る声と共に、リドウは爆煙と共に姿を消した。
リドウに怒りはある。けど、私に怒るほどの資格があるだろうか?
ミラは、私を死なせないために落ちたのだ。自ら、その手を離した。
どれほどの勇気だっただろう。
私には、一生かかっても出ない勇気を持って、私を生かした。
それほどの価値が、私にはあるだろうか。
(また、私は、何もできなかった。私は何のためにここにいるの?何でこの世界の人間でもない私を庇って、この世界で生きていかないといけない人が死んでしまうの?私が、ここにいる意味は…!!)
「ユウキ…ミラ、は…?」
俯いている私の傍に、エルがやってきた。
マルシア首相と対面していたルドガー達も、こちらの会話が聞こえたらしく皆私とエルを見ていた。
「ねえ、ユウキ…あの人、誰?ミラは…?」
「…ミラは、もういないんだ…」
「え…?」
「ミラ、は、私のせいで…私が、決断できなかったから…ッ!!」
悔しくて、悲しくて、自分が不甲斐なくて、涙が出た。
正史世界のミラが戻ってきて、嬉しい。でも、素直に喜べない。
だって、私のせいでまた人が死んだ。
この世界の人間でもない私のせいで。
エルの顔も見れなくて、私はホールを飛び出した。
皆から、逃げたかった。