天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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「ガイアス!状況は?!アルクノアぶっとばーっす!!」
「騒ぐな」
「ぎゃいんっ!!」
仮にも女の子に回し蹴りはよくないと思います王様!
28.過去が追いかけてくる
ガイアスの待っているマクスバードにやってきた私達。
私がガイアスに蹴られるのは日常茶飯事と化してしまっているのか誰もそこには触れず、苦笑で終わらせて本題に入った。
私は泣いていいと思います!
「入手した計画書を元に、街に潜入したアルクノアを検挙中だ。水面下で、だがな」
「表沙汰にはできないもんな」
「…調印式まで時間がない。街中のアルクノアはほぼ押さえた。後は外部からの進入を防げば」
ぎにゃーっ!と私ではなく、私ではなく!ルルの悲鳴がガイアスの言葉を遮った。
見れば男の人がルルの尻尾を踏んづけてしまったようだ。ごめんよ、と謝るその人を見て、アルヴィンが「あ」と声をあげる。
「お前、マルコじゃねえか」
「げっ!…アルヴィン?!」
「おい待て!逃げんな!」
アルヴィンを見るや否、ぎゃああっとマルコと呼ばれた男の人は脱兎のごとく走り去ってしまった。
「アルヴィンの友達?」
「ああ、アルクノアん時のな」
「!」
「アルヴィンはアルクノアだったんだよルドガー!今はジュードくんの愛で更生したんだけどねアルジュラーブ!!」
「ガイアスは街の出入りを見張ってて。あの人は僕達が追いかけるから」
「ああ」
「ジュードくんシカトよくないよ?!ガイジュの方がよかったの?!ジュードくん、ジュードくん待ってえええええ」
ガイアスに街から逃げないように見張りを頼み、私達は手がかりになりそうなアルヴィンの友達を追いかけることにした。
ジュードくん最近スルー多いよ!だがそんなジュードくんもたまらなく萌えます!
「お、いた。おいマルコ!」
貨物の積み重なるその奥に、縮こまってる人影を見つけた。
やれやれとアルヴィンがその人影に近づいていき、私達もその後を追おうとした時。
私の視界の端に、見慣れた、姿が―――…
「っ!!」
「ユウキ?!」
ジュードくんの止める声は聞けなかった。
ほとんど条件反射で身体はその姿を見つけた先へと駆け出す。
人ごみをぬって、ぬって、そして。
「…は…は」
そこには、誰もいやしなかった。
口から乾いた笑いが勝手に出てくる。
いるわけがないのに、私は何をしてるのか。
ここに、兄貴が、いるなんて、ありはしないのに。
(でも、あれは、兄貴…だったと思う、のに)
兄妹なのに私とは似てない整った顔に、これまた似合う眼鏡をかけていて。
それから、まるでこの世界の住人のような旅人の服装。マントもよく似合っていた。
たしかに、兄貴だと思ったのだ。
あの瞬間、私の心臓が、大きく高鳴ったのに。
「ユウキっ!あんた一人でどこ行く気なのよ!」
「っ!ミラ…」
がしっと、後ろから腕を掴まれ、ようやく自分がみんなと離れた露店の並ぶ場所で立ち尽くしていることに気づいた。
がやがやと騒がしいそこで、私はようやく呼吸を整える。
「ごめん、知り合いがいた気がして、つい…えへへー」
「もしかして、この間言ってたアンタのお兄さん?」
「バレバレ!!うん、いた気がしたんだ…いるはずないのにね」
「!」
いるはずもないのに、私は何をしてるのか。
そもそも今は私のことなんてどうでもいいのだ。
ミラのこと、アルクノアのこと。
大事なことは山積みだ。
でも、なんでかな。
近くにいる気がして仕方ないんだよ、兄貴。
「ユウキは、自分のためには」
「え?」
「…何でもないわ。いいから戻るわよ。全く、エルよりもお子様がいるなんて困ったパーティね」
「があん!エルよりもお子様…だと…!」
ミラと一緒にルドガー達と合流し、ごめんごめんとさっき離れた理由を適当に誤魔化して次なる行動を聞くと。
なんとアルクノアの本命はマルシア首相が乗った旅客船ペリューンだったということがわかった。
エレンピオスの首相を襲うことが目的だったと。
すでに船員としてアルクノアが潜入しているため、船は襲われているらしい。
「早く助けないと!アルクノアぶっとばーっす!!」
「ああ、首相がやられちまったらリーゼ・マクシアとエレンピオスの和平なんてひっくり返っちまう」
「…させないよ。みんなで頑張って作った時間を、無駄にするわけにはいかないんだ」
「そうそう!よっしゃーペリューン潜入作戦開始だ!」
「何かいつも以上に張り切ってんなおたく。ま、いいか。んじゃマルコ、頼むぜ?」
え、と青い顔をするマルコと違って、アルヴィンはこれでもかってくらい悪人面で笑った。
マルコの協力を得て、ペリューンに乗り込んだ私達は、徹底してる警備を抜けて中へと潜入した。
ちなみにガイアスにはジュードくんがメールで事情を説明したらしいけど、ガイアスってGHS使えな…おっと誰か来たようだ。
冗談はさておき、首相がいるはずの中央ホールを目指して進むことにした。
中は、酷い惨状だった。子供には見せられないほど、おびただしい血の海。
「女子供、容赦なしか…」
「…助けられる人は、助けるよ。だからルドガー達は先に進んで」
「俺達が敵を倒す。その間にジュードは怪我人の治療を頼む」
「ルドガー…うん、ありがとう」
お人よしね、とミラが言うけど、その表情は嫌そうではなくむしろ好感を持った表情だったように思えた。
エルにはあまり見せないように道を選びながら、治療できる人は治療しつつ私達は奥へと進む。
テロの鎮圧が優先事項だ、とアルヴィンが言う。その顔は悔しそうだった。
「…一つ、気になってたことがあったの」
途中の廊下で、ミラがそうぽつりと呟いた。
どうしたんだろう、とミラを見たら、ミラはジュードくんに尋ねる。
「どうしてジュードは、私のことをミラさん、って呼ぶの?」
「え?ああ…この世界にいるミラをミラ、って呼んでるから、一緒にならないようにミラさんって呼ぶことにしてるんだけど…嫌だったかな?」
「いいえ…ただ、気になっただけ。そう…区別してるのね」
ミラはどこか、落ち込んだような声でそう吐き出す。
ミラと、ミラさん。ジュードくんには悪気はなくとも、ミラにとっては少し苦しい呼び名になっていたのかもしれない。
「あのさ、エルのミラは、ミラだよ」
ジュードくんとアルヴィン、ルドガーが先に敵がいないか確認に向かった後、エルはミラにそう言った。
「だってエル、精霊のミラなんて会ったことないし」
「…慰めてくれてるの?」
「べ、べつに!エルはミラのスープとか好きだから、いってみただけ!」
「スープ…これが終わったらまた、作ってあげるわよ」
「…つくってくれるなら、たべてあげる!」
「私も私も!私もミラのスープ!これが終わったら食べさせてくださいオナシャス!!」
「わかったから静かにしなさい…もう、手間のかかる子供が二人もいて大変ね」
ニーっと私とエルは笑って、ミラを見た。
ミラはふふっと、やっと笑ってくれた。
ミラはミラだよ。この世界にいるミラも、目の前にいるミラも、どっちも―――…
「そういえば、あなた髪ぐしゃぐしゃよ?束ねたらどう?」
「あ、これは指名手配になってるの隠すために変装をですね…あれ、ここならもう結んでもいいかな?」
「なら私が結んであげるわ。髪型の希望は?」
「わーい!じゃあポニーテールでお願い!」
「ユウキずるいー!ミラ、エルもこんどむすんで!」
「しょうがないわね…」
ジュードくん達はまだ戻ってこない。
その間に髪を結んで、久々のユウキちゃんポニテ登場~!とか言って驚かせてやろう。
さらさらとミラの手ぐしを受けながらそんなことを考えていたら、結び終えて「よし」とミラが言ったところで足音が聞こえた。
「マクスウェル?!」
唐突に耳に飛び込んだ声に、え、と私達は振り返る。
アルクノアの一人であろう男は、手に持った銃をこちらに向け、忌々しくこちらを見ながらマクスウェル、と呼んだ。
その銃口は、ミラではなく私に向いていた。
「ユウキ!!」
ダンッとジュードくんの拳がアルクノアの腹部に決まり、アルクノアは階段の下へと落ちていく。
ミラはエルを庇って、ルドガーは私の前に立っていて、あれ?
「大丈夫だった?!ごめん、こっちに残ってたことに気づかなくて!」
「…何で」
「え」
「何でアルクノア、まだ私のことマクスウェルって…?!」
この時は混乱してしまっていて、理解に遅れたけど。
今思えばまだ私のことをマクスウェルと勘違いしてる奴がいてもおかしくなかった。
あの旅で、誰がマクスウェルなのか公言したわけでもなく、途中からアルクノアはずっと私をマクスウェルと思い込んでいたんだ。
その残党が、ジランドの報告をそのまま鵜呑みにしていてもおかしくなんてないのに。
「ミラ、一体何があったんだ…?」
「…さっきの奴が、私じゃなくてこの子をマクスウェルって言ったのよ」
「!」
「違うんだルドガー!それにミラさん!ユウキはマクスウェルじゃなくて、アルクノアの勘違いで」
「いいんだよジュードくん…」
「ユウキっ」
「ふふふ…こうなったら首謀者の前で宣言してやる…私はジュードくん親衛隊隊長、ルドガーお嫁さん計画隊長だと言うことを!!」
「何くだらねー宣言しようとしてんだ!つーかお前いくつ隊長してんだ!!」
「アルヴィンまさかジュードくん親衛隊隊長の座を狙って?!譲らぬ、譲らぬぞおおおおお!!」
「敵陣の真っ只中で騒ぐな!!」
「ぎゃいんっ!!」
アルヴィンもツッコミの声大きい、ばたり。
アホなことしてないでさっさと進むぞ馬鹿とアルヴィンは私を引きずって歩いていく。
わああん私は至極真面目に言ってるのにひどすぎる!
こうなったのも全部、アルクノアのせいだ!
マクスウェルは私じゃなくてミラだって言ってやらないと気がすまんぞちくしょう!!