天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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「また来たのか、クルスニクの一族よ…」
遺跡の中に入ると、声が響いた。
自らをオーディンと名乗り、時の方舟…カナンの道標だと告げたのだ。
26.壊れていくもの
遺跡に入る前、少しミラとレイアが険悪なムードになったがエルが遺跡を発見したことで先に進むことにした俺達は、入るや否時の方舟トールの管理システムであるオーディンに帰れと言われてしまった。
警告である、と声は言うが、時歪の因子を破壊しないことには正史世界に戻れない。それに、道標も手に入れなければいけないのだ。
危険とわかっていて、俺達は奥へと進むことにした。
途中、ルルを拾った。どこではぐれたか忘れたが、そもそも一緒に分史世界にきただろうか。
なぜか抱き上げるエルを嫌がるルルを連れて、最奥部を目指して足を進める。
「頼む、クルスニクの末裔よ。残された希望を破壊しないでくれ」
最奥部。そこにオーディンはいた。
まるで魔物のような、けれど知能は人と同様のそれは、ここに眠るデータを守ってきたのだという。
95212年前、滅びゆく一つの文明が最後に自分達を生体データとして残すことを決めたのだ。
いつか、はるか未来にデータを見つけた誰かの手で、復元されることを祈って。
それでも、その祈りを踏みにじることになろうとも、俺達は時歪の因子を破壊して正史世界に帰らなければいけなかった。
だがオーディンもそれを許すわけがなかった。
エルをデータ化しようとし、俺達はオーディンを止めるべく武器を構え、飛びかかる。
オーディンは、以前と同じだと言った。
分史世界の俺達がこの分史世界に来て、同じように壊そうとしたらしい。
自分達のいる世界が、正史世界だと信じて。
「なぜだ…なぜ以前と違う結末に…原因は、その少女か…!!」
オーディンは倒れる寸前、エルに飛びかかってきた。
それを骸殻に変身した俺は、槍でその胸を貫く。
方舟は、砕けていく。この世界と共に。
あの冷たい目をした男の姿は、珍しくなかった。
「ちょ、なにそれ?!」
正史世界に戻り、雷を怖がるエルの耳を塞いであげて、少し落ち着いてきた頃、ミラが悲鳴のような声をあげた。
見れば、ルルが二匹いたのだ。
二匹のルルはお互いを見合ったまま、なあ、と鳴いて、そして。
「消えた…?まさか、消えたのは、分史世界のルル…?!」
ミラが言うそれは、きっと正解だったのだろう。
分史世界が破壊される直前エルがルルの手を握っていたから、連れて帰ってしまったのだ。
「ルルー!」
エルがルルをぎゅっと抱きしめる。今度は抵抗もなく素直に抱かれていた。
その横でミラが思いつめたような顔をしていたからどうしたんだと声をかけようと思ったのだが、再度鳴り響いた雷によってエルが叫び、俺達は足早に雨の降る街道を抜けてジュード達が待っているはずの宿屋を目指した。
「やっと戻って来れたね。あー、服びしょ濡れだよー」
「お風呂入りたいです…」
「だねー…」
宿に到着し、レイアとエリーゼとエルが濡れた服に嫌そうな顔をしてそうぼやく。
ミラは無言のままさっさとジュード達がとってくれていた大部屋へと向かっていく。
やはり、何かあったのだろうかとその後を追って大部屋に入ると、エルも俺についてきていたらしく一緒に入ってきた。
「あ、お帰りミラさん、ルドガー、エル」
「あれ、レイアとお姫様は?」
「お風呂ですって」
ミラがつっけんどんにそう言えば、アルヴィンは苦笑気味に「そうか」と頷いた。
よく見れば、ユウキは寝ているようだった。
「ルドガー帰ってきたら起こすって約束してたんだ。僕ルドガー達の食事の用意をお願いしてくるから、ユウキを起こしてあげてくれないかな」
「わかった。ありがとうジュード」
どういたしまして、とジュードは部屋を出ていく。
俺よりも先にエルが走っていき、ユウキの頬をぺちりと、子供の力で叩いた。
それだけだったはずだ。
「っ!!い…ッ!!ぐぅ…ッ!!」
「ユウキ?!え、エル、そんなに強くたたいてないよっ?!」
「なあ~!」
「おい、大丈夫かユウキ…っ」
「ユウキ、どうしたの、ユウキ…?」
「うああああッ!!ぐあ…あ…あああ…ッ!!」
エルが再度触れたことで、先ほどよりも悲鳴に近い声で苦しみ悶え出したユウキに、ジュードも部屋へと飛び込んでくる。
ベッドに座っていたミラも動揺したようにユウキを見つめていて、アルヴィンもローエンもあとから入ってきたレイアとエリーゼに治癒術を頼んでいた。
エルは泣きそうな顔で俺にしがみついて、俺はそれをなだめることしかできなくて。
(エルが触れた途端に、ユウキは苦しみ出した…どういうことだ?)
わからないけど、嫌な予感だけがぎゅっと俺の胸を締め付けていた。