天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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「やらかした」
トリグラフの中央区で、私はがくりと項垂れた。
優姫、迷子です。
01.走り出す運命
「ここ広いんだよーっ!俺のせいじゃねえ!」
別に方向音痴なわけではない。断じて。
ただちょっと、露店の装飾品を綺麗だなーと見てしまってジュードくんを見失ってしまっただけで。
(うう…ただでさえ私みたいな明らかな部外者が特別列車に乗れるようにジュードくんに口添えしてもらったのに)
今日は自然工場アスコルドのセレモニーに参加するために私とジュードくんはトリグラフに来ていたのだ。
しょうがないので先にレイアに連絡を…ってメールが来てる。
見てみると、なんと急な都合で行けなくなったとのこと。
なので二人で取材をしてきてと。
(ごめんレイア…迷子になって無理、と)
そういえばジュードくんもトリグラフはいつ来ても迷うって言ってたっけ。
大丈夫だろうか。私の天使が何者かに襲われてはいないだろうか。
「よし、迷ってても仕方ない!歩くべし!」
「ナァ~?」
「ん?」
足元に擦り寄られて、何かと下を見ればそこにはなんと愛らしい猫がいたではないか!
「可愛い!でぶい!可愛い!!」
「ナァ」
「どこから来たのかにゃー?にゃー」
「その子返してっ!」
「ほい?」
でぶ猫を抱き上げて頬ずりしていたら、今度は女の子の声がしてそちらを向く。
私の隣まできて猫を返してと訴えるのはツインテールの可愛い少女だった。
「ごめんごめん、この子可愛くて!はい、あ、この子名前なんていうの?」
「…さっき会ったばかりだから名前知らない」
「?君の猫じゃないの?」
「うん。この子はエルをトリグラフちゅうおう駅に案内してくれてたの!」
「なんですと!猫もなかなかやりおる…!ってトリグラフ中央駅?!私もそこに行こうとしてたんだよ!猫さん私も案内して!」
「ナァ」
下ろしてそう懇願すると猫は仕方ないな、と言わんばかりに鳴いて、こちらを振り返ってからたったと走り出した。
本当に案内してくれるらしい。あの猫カッコよすぎる!
「よっしこれで遅刻しないですむ!」
「あ、待って!エルも行く!」
「じゃあ一緒に行こっか!私は優姫、よろしくね!」
「エルはエル!エル・メル・マータ!」
エル、じゃあエルたんと呼ぶか!と言ったら何か嫌と言われたので仕方なくエルと呼ぶことにした。
ぐうう…久しぶりの幼女…げふんげふん。可愛い子供だから撫で撫でとかぷにぷにとかしたかったのに…。
「あ!列車!」
「あれが特別列車?!たしかに凄そうだ…!」
よくジュードくんは列車はどれも同じに見えると言っているが、これはどう考えても別物だ。
かなり大きくて、外装も他とは全然違う。
猫が走り去るのを追いかけながら、私とエルは改札前までやってきた。
「エルはチケット持ってる?」
「え?…ううん、持ってない…急いでたから…」
「え、そうなの?じゃあこれあげる」
「いいの?!」
レイアの分のチケットをエルに渡して、私はうんと頷く。
レイアはドタキャンだし、もしこれてももう間に合わないだろうから一枚無駄になってしまう。
それならこれはエルにあげてもいいよね?答えは聞いてない!
エルはチケットを受け取って、嬉しそうに笑った。
「ありがと、ユウキ!エル、ユウキのことちょっとだけ好き!」
「ちょっと?!おかしい…ちっちゃい子にはそんな嫌われたことないのに…!」
がくりとまた項垂れる。
これからは、もっと幼女の気持ちがわかる大人になろう。いやまだ子供なんだけども。
すると、エルは私の服を引っ張って、何やら恥ずかしそうにもじもじとしている。
「ど、どうしてもってユウキが言うなら、エルと一緒に来てもいいよ?」
「!!天使!エルたん天使!!行こう行こう!早くジュードくんに合流しなくちゃー!」
「じゅーどくん、って誰?あ、もしかしてカレシ?」
「私の天使です」
首をかしげるエルに天使について説明しながら、私達…と猫は改札を通って特別列車へと乗り込んだ。
この特別列車は揺れのないという近代的な列車らしい。
早く発車しないかなとわくわくしながら席につこうとしたら。
ダダダっと人の走る音。
そして、銃の音が列車内に響き渡った。
「な、なにっ?!」
「!エル屈んで!!」
「きゃっ?!」
エルを座席の間に突き飛ばして、私は腰から剣を抜く。
剣を握り締めたまま、エルをかばうように上になってジッとする。
(落ち着け…何が起きてるか確認しないと、私とエルも危ない)
と、いうのに。
きゃあああと、悲鳴が聞こえて私は我慢できずに飛び出してしまった。
「やめろおおっ!!」
「っ!まだ生きてる奴がいやがったか!」
「はぁっ!!」
銃を蹴り飛ばして、振り返りざまに剣で相手を斬り伏せる。
それから気配を感じて更に振返り様に剣を構えるが。
キィンッ!!
「あっ!!」
「手間かけさせんな!」
「ぐうっ?!」
ダンっと銃で撃たれ、腕を負傷してしまった。
最近、クエストで魔物退治ばかりしていたからか人間への対処法が鈍くなっていた。
座席の間に倒れ込んで、ハッと顔を上げてももう遅い。
(…っ、やられる…!)
「はぁッ!!」
その時、誰かの蹴りが見事に炸裂して相手を吹っ飛ばしたではないか。
何が起きてるかわからなくて、私を助けてくれた相手を見ればそこにいたのはジュードくんだった。
「ユウキ!!大丈夫?!」
「うう…情けない姿を見せてしまった…修行し直すので今度デートしてください」
「もう!茶化してる場合じゃないでしょ!怪我見せて、癒すから」
座席の間から起こされて、撃たれた腕をジュードくんに癒してもらう。
ここ最近は怪我もなくジュードくんに「落ち着いてきたね」と言われていたばかりだというのに、無念。
「よし、これで一応は応急処置できたから、無理はしないでね」
「ありがとジュードくん!ていうか、そうだエル!」
「エルなら大丈夫、今彼が見てくれてる」
「彼?」
少し離れた場所で、エルと向き合ってる青年がいた。
きっちりとした服装の彼は、どことなく真面目そうな印象を覚える。
手には二本の剣が握られていて、彼も敵を撃退していたようだった。
「お見事、Dr.マティス」
拍手とともに、そんな声が聞こえた。
ジュードくんの後ろを見ると、奥から歩いてくる男とクールそうな女性の姿があった。
あの男の人…なんか見たことあるような…。
「今のが、リーゼ・マクシアの武術ですか。我社の護衛にも習わせたいものだ。と言っても、リーゼ・マクシア人のあなたのように精霊術は使えませんがね」
「同じ車両の乗り合わせてよかったです」
「そちらもなかなかの腕をお持ちのようだ」
そう言って男の人は隣の青年を見た。たしかにこの人は強そうだ。
それにしても…この人は誰なんだろう…ジュードくんをドクターなんて呼び方するくらいだし、何か偉い人っぽい。
「ジュードくんジュードくん。この人誰?」
「ええっ?!知らないの?!あの人は」
「いいんだよDr.マティス。お嬢さん、私はクランスピア社代表、ビズリー・カルシ・バクー」
そう言って、クランスピア社の代表のビズリーさんは握手を求めてきた。
二刀流の青年は少し躊躇したものの、手を握り返す。
「ルドガー・ウィル・クルスニクです」
「クルスニク…ユリウスの身内か?」
はい、と彼が言うと、ジュードくんもクルスニクという名に反応した。
正直私も驚いている。
まさか、クルスニクの名をもつ人がいたとは…しかもイケメン…!
「そちらのお嬢さんは名乗ってはくれないのかな?」
「あ、えーと。優姫っていいます。よろしくお願いします」
「君は…リーゼ・マクシア人か?」
「え、ええっとおおお…!」
「本社のデータにありました。ルドガー様はユリウス室長の弟です。…母親は違うようですが」
ひえええ私が返答に困ってる間になんちゅーシリアスな内容を言うんじゃこのクールビューティさんは!
クールビューティさんがGHSで検索をかけたらしく、何事もなかったかのようにスっと胸ポケットにしまった。
ともあれ、私の出身地をごまかすことは出来てホッとする。見ればジュードくんもホッとしていた。
ビズリーさんは私を見てから、ルドガーさんを見てふ、と笑う。
「では、私とも家族のようなものだな」
「……」
なにやら意味深な気もするが、それよりもこの状況を説明願いたいというか。
その時、揺れないはずの列車が揺れた。
ていうか、いつの間にか動いてる?!
「始めたな、アルクノアの奴らめ」
「アルクノア?!」
「リーゼ・マクシアとの和平に反対するテロ組織です」
「連中、和平政策を支持する我社を目の仇にしていてね。おそらくこの列車をアスコルドに突っ込ませるつもりなんだろう」
「な、なああああ?!そんなの!」
「困る!」
エルと一緒にそう主張したら、ルドガーさんは何かを考える仕草をしながら口を開く。
「列車を止める」
「できるの?絶対?どうやって?!」
「先頭車両を抑えられれば、できるかもしれないよ」
「そうと決まれば行きますか!!」
「ほう、やる気か……面白い」
ビズリーさんに言われて、ルドガーさんはこくりと頷く。
私もジュードくんと顔を見合わせて、同じように頷いてみせた。
「僕も行きます。責任があるんです」
「さすがだな。…お嬢さんも行くのかい?」
「もちのろんです!」
ニッと笑うと、全てを見透かされるような瞳で見つめられてしまった。
少し怖かったが、初対面の人を怖がるのはよくないよね、うん。
「僕はジュード・マティス。よろしく、ルドガー」
「あ、私は優姫!よろしくルドガーさん!」
「さん付けはいらない。ルドガーと呼んでくれ」
「んじゃあルドガー!ようしガンガンいくよーっ!」
列車の揺れを感じて、私達は先頭車両を目指して駆け出した。
そういえば、いつか見た夢はどんな内容だったっけ。
こんな時だというのになぜか思い出してしまって、私は少し胸が痛んだような気がした。