天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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兄さんが進入したという分史世界へ、俺達は向かうことにした。
ユウキは何故か来れないので、ハ・ミルで待ってるように言っておいたが、少し不安だ。
あの時、兄の話をしていたユウキは、何だか泣いてしまいそうだったから。
24.守りたい存在
分史世界のキジル海瀑に飛んだ俺達は、周囲にいた人達に兄さんを見なかったか訪ねて回ることにした。
と言っても商人しかいなかったわけだが、どうやら兄さんを見たらしい。
海瀑の奥に入ったという兄さん。
ここには妖しい術を使う吸血魔物がいると注意したらしいが、兄さんはそれを捜していると言ったという。
「あっ!変なキレーな貝!」
「危ないですよ、エル!」
海岸に向かって無邪気に駆けるエルとルル。
その後ろ姿を見つめていたら、ミラに呆れたように言われる。
あんな小さな子を連れ歩く気がしれない。
たしかにそうだ。エルはまだ幼い。
危険な旅に連れ歩いているのも、エルがいないと俺の骸殻が発動しないからというのもあって、後ろめたさを感じる。
すると、ミュゼは言った。
人間は、守るものがある方が強いんじゃないか、と。
「…あなたも、そうだった?」
「さあ、私は人間じゃないから」
「そう、よね」
「でも、ひとりぼっちはもう嫌」
ミュゼは、昔ジュード達と敵対していた。でも今はこうして、この世界を守りたいのだと言っていた。
きっと、変われるきっかけがあったのだろう。
ミラも、ミュゼの言葉に共感したのか、小さく頷いていた。
その時、俺の耳に歌声が聞こえた。
歌、というよりもハミングだったそれを、俺は知っている。
呼ばれている。きっと、俺を待っている。
そう思ったら、俺はみんなに一言声をかけるのも忘れ声のする方へと歩き出していた。
後ろからミラの少し怒ったような声が聞こえたが、足を止めることが出来なかった。
海岸のある場所よりも、もっと奥。
そこに、兄さんはいた。
「余裕ね、追われてるのに鼻歌なんか歌って」
いつの間にか追いかけてきていたミラが、兄さんにそう言ったら兄さんは歌をやめた。
「クセなんだよ。我が家に伝わる古い歌でね。会いたくて仕方ない相手への想いが込められた、証の歌、というらしいが…本当に会いたい相手が来た」
兄さんは、そう言って俺を見た。
やはり、俺を待っていたらしい。
兄さんはその歌が好きだな、と言ったら、それはお前の方だろうと返された。
俺は赤ん坊の頃からこの歌を聞けば泣き止んでいたらしい。なんだかすごく恥ずかしい。
「覚えてるか?子供の頃、キャンプに行った山で二人揃って迷子になったこと」
雷は鳴るわ、熊はでるわ、大変だったよな、と兄さんは苦笑する。
覚えている、と頷いたら、兄さんは続けた。
「けど、俺がこれを歌うと、お前は泣きたいのを我慢して歩き続けた。俺がおぶってやるって言っても、自分で歩くって意地張ってな」
そうだ、一晩中歩いて麓の村に戻れた時には、足はボロボロだった。きっと兄さんは喉も痛めていたに違いない。
でも、どうして急に、思い出話しを…?
「そんな話がしたいわけじゃないでしょう?」
少し混乱気味の俺の代わりに、ミラがそう兄さんに尋ねた。
兄さんは先程までの柔らかな雰囲気を変え、ピリピリとした空気が張り詰める。
もう時計の問題じゃない。エルを、俺に渡してくれ。
拒否すれば、力づくで奪う。
何を言われたのか理解するのに、少し時間がかかった。
でも兄さんが本気なのがわかってしまって、俺は武器を構える。
兄さんはなぜエルにこだわるのかと問いかけてきた。
だから俺は答える。
「約束したんだ。一緒に、カナンの地に行くって」
「やめろ!誰にとっても不幸な結果になるぞ」
誰に、とっても?
「あなた、何を知ってるの?」
「…オリジンの審判の非常さをだ」
オリジンの審判の、非常さ?
「わかってくれルドガー!俺は、お前を――…!」
兄さんが何かを言いかけた時、エルの悲鳴が響いた。
俺達はエルの元へと来た道を引き返す。兄さんの言葉の続きは聞けなかった。
海岸へ戻ると、エルが苦しんでいて、エリーゼがそれを治癒術で癒していた。でも術が効いていない。
水の中には大きな魔物が立っていて、それが原因であることがわかる。
魔物はすぐに姿を消し、あれは一体何だと辺りを警戒しながら何か知っている様子のミュゼに尋ねる。
ミュゼは呪霊術と言った。
生き物の命を腐らせる精霊術で、解除するには術者を倒すしかないらしい。
それは先程の魔物のことで、名前を海瀑幻魔と言う。カナンの道標だった。
正史世界では絶滅した変異種で、姿を隠して呪霊術で魔物を襲い、動かなくなった後その血をすするという。
このままではエルも、必死で術をかけてくれているエリーゼも危ない。
俺は、これしかないと思った。
そう思って、自らの腕に傷を入れ、血を地面に垂らした。
血の臭いで幻魔をおびき出そうと思ったのだ。
「お前、そこまで…」
兄さんが息を飲んで俺のすることを見ていた。
俺の予想通り、幻魔は現れこちらに向かってきた。
俺に向かって振り落とされる幻魔の一撃を兄さんが弾き、何かを俺に託す。
「大切なら守り抜け。何に変えても!」
「にいさ…」
「だからルドガー。あの少女と共にいろ。全てが終わる、その時まで」
あの少女とは、誰のことなんだ。
そう聞こうと思ったが、すぐに気がつく。
ユウキのことだ。
なあ兄さん。
兄さんもビズリーも、何を知ってるんだ?
ユウキは、何者なんだ?
海瀑幻魔を倒し終え、正史世界に戻ってきた俺達は、正史世界のキジル海瀑にいた。
エルも術が解けて元気そうだ。ミラもホッと息をついていた。
俺の手には二つの道標があった。
一つは海瀑幻魔、もう一つは、あの時託された道標。
兄さんは、俺達に道標を返してくれたのだ。
やはりというかなんというか、兄さんの姿は消えていた。
兄さんは、一体何を知っていて何をしようとしてるのだろう。
俺は、兄さんを信じたいのに。
『理由はあるよ。絶対ある』
そうだ、きっと理由はあるんだ。
たった一人の兄弟の俺が信じないで、どうするんだ。
それに俺だけじゃない。
ユウキも信じてくれている。
一人じゃないんだ。
その時、ぞっとするような視線を感じて顔を上げた。
岩陰からこちらを覗く、分史世界でいつも見た男がいたのだ。
正史世界でその男を見るのは初めてだった。
男はこちらを、また殺気立った目で見つめていた。
そして、初めて、目が合った。
「……お前達は、俺から」
奪うのか、と、男の口が動いた。
奪う、とは、どういうことだ?
「ルドガー!エルー!ミラー!エリー!おまけにティポー!」
「ボクおまけなのー?!」
「あっユウキ!見てみて!ミチシルベ二個!」
「おおすっげー!!」
ハ・ミルで待っていたはずのユウキがこちらに向かって走ってきた。
どうやら頃合を見て迎えにきたようだ。
そこで視線をそらしてしまったことに気づき、ハッと男のいた岩陰を見るもやはりもう姿はなかった。
俺達が、あの男から奪っているもの…?
それは一体、何なんだ?
わからないまま、俺達はジュード達と合流すべく、その場をあとにするのだった。