天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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その分史世界は、王が違っていた。
22.王になれなかった者-sideL
ユウキに留守番、そしてジュード達へ分史世界に行ったことの伝言を任せ、俺達は新しく観測された分史世界へとやってきた。
カン・バルク。俺達の世界、正史世界ではここにいるガイアスが王として治めている街だ。
だが街につくなりレイアもガイアスも街の雰囲気に驚いていた。どうやらこの街に活気というものが失われているらしい。
この国では、ウィンガルという名の男が王だった。
ウィンガルという名はテレビで聞いたことがあるような気がする。たしか、ガイアス王の右腕だったような。
街の人に話を聞いても恐怖の感情しか聞けず、正史と違う点は時歪の因子である可能性が高い。
俺達は王に会うべく城へと向かった。
そこにいたのは、孤独な王だった。
城門を強引に抜け、中へ入ればもぬけの殻。
警備も誰もおらず、寒気のするくらい静まり返っていた。
そして難なくたどり着いた玉座では、全身真っ黒の生気のない瞳をした男が静かに座っていた。
知り合いらしく、レイアが驚愕した様子で名前を呼んだ。
「ウィンガル…?」
「ふっ…懲りもせずに俺の命を狙いにきたか。安心しろ、誰一人駆けつけはしない。暗殺にはうってつけの孤独な王だ」
そう言って、俺達を返り討ちにしようと殺気をあらわにした王は何かのチカラで姿を変えた。
髪は白く染まり、言葉は俺達には理解できない言語。
だが、話を聞きたいのにと歯を食いしばった俺の前にガイアスが立った。
ここは可能性の世界。自分が決断を誤ったために生まれた世界なのかもしれないからと。
ガイアスは、別の世界の自分のしたことの責任すらとろうとしているのだ。
「発端は、お前が国民を捨て、王位を退こうとしたことだ…」
ウィンガルと同じ言語を話したガイアスの顔を見て、ウィンガルは姿を戻し、泣きそうに顔を歪めて話を始めた。
ガイアスは、たった一人の妹であるカーラという女性が死の病に冒されたことで、彼女と余生を過ごすと決めて王位を退こうとしたらしい。
だが、ウィンガルはガイアスに王位を退いてほしくなくて、カーラに引き止めるよう頼んだ。結果、彼女は自ら命を絶った。それが、ガイアスを止める唯一の手段だと思って。
ウィンガルにそんな気はなかった。ただ説得をしてほしかったのだろう。
だが、結果はカーラの自殺、そしてそれにショックを受けたガイアスの失踪へと最悪の事態へと繋がってしまったのだ。
説明を聞き、納得をしたガイアスに違和感を悟ったらしいウィンガルはバッと離れた。
自分の真の友は、アーストだけだと。お前に気持ちがわかるわけがないと。
そして、先程の変貌を遂げた彼からは時歪の因子を纏っていた。
刀を構えるガイアスに、レイアはいいのかと尋ねる。
「これが、世界を壊すということなのだろう?この苦しみを知らなければ、ルドガーの覚悟を量れはしまい」
俺と同じ痛みを知ると、ガイアスは言う。
そして、きっと友であっただろう男に刃を向けたのだ。
助けてくれ、と。
俺には、耐えられないと孤独な王は泣いた。
ガイアスは俺に後を任せると言い、背を向けた。
「ルドガー…」
「…ああ」
エルに不安そうに名前を呼ばれる。
それに頷いて、俺は骸殻へ変身し玉座に脱力して座り込むウィンガルの胸に槍を突き刺した。
世界が割れる。
そう感じてふと振り向いたら、奥に人が立っていた。
いつか見た、俺達を冷たく見つめる男の姿だった。
「っ!誰なんだ…?!」
世界が壊れる寸前にそう何とか問うことができたが、冷たい目をした男は俺には目もくれず小さく何かを口にした。
ここにも、いなかった。
そう聞こえた気がしたが、世界は壊れてしまって男に何も聞けないまま俺達は正史世界へと引き戻された。
「ルドガー!ミチシルベ!」
正史世界へ戻ってきて、エルから光り輝くカナンの道標を手渡された。どうやら世界が壊れる前に拾っていたらしい。
それを受け取るが、俺はウィンガルのこと、ガイアスのこと、そして、先程の男のことが気になって上手く頷けなかった。
「ルドガー。分史世界破壊の過酷さは、どんな強き者の心も蝕んでいくだろう」
「……」
「一人で戦い続ければ、いつか孤独に飲み込まれるぞ」
ガイアスはそう言った。
一人で戦うなと、そう言ってくれたような気がした。
「大丈夫だよ!ルドガーにはエル達がいるし!」
「あら、言うことは一人前ね」
「そう!エルは一人前!」
「ナァー!」
ミラの皮肉じみた発言にも、エルは動じず誇らしげに笑った。
これにはみんな思わずくすりと笑ってしまう。
そうだ、俺には仲間がいてくれる。
エルも、レイアも、それにジュード達。
それから…。
「ルドガーお帰りいいいいいいい!!」
「うわっ?!」
「あっユウキ!それにジュード達も!」
突然背後から抱きつかれ、レイアがそう言った。
後ろを見ればジュード達がこちらに向かって歩いてきていて、俺の背中にはユウキが張り付いている。
「大丈夫だった?!怪我してない?!」
「ああ…大丈夫だ」
よかったー、とユウキは俺から離れてホッと安堵の息を吐いていた。
正面にいたガイアスもやれやれと肩を竦めている。
「エルもお帰りー!ルルもレイアもミラも!あとガイアス…すみませんアーストってちゃんと呼ぶから睨まないでええええ!!」
「ただいま!あのね、道標見つけたんだよ!」
「ナァ!」
「えっマジで?!おおおエルたんすげええええ!!」
そう言ってエルとわいわい騒ぐユウキ。
なぜだかユウキの楽しそうな声を聞くと、少しだけ気が楽になった。
それと同時に、ふとあの瞳を思い出した。
暗く、冷たい瞳をした男。
俺達に敵意を向け、けれど関わろうともせず遠くにいた男。
『ここにもいなかった』と、誰かを探していた。
でも、一体誰を?
俺達と同じように、分史世界を移動しているということは、同じクルスニク一族なのだろうか?
そこまで考えていたら、ミラがため息と共にガイアスに尋ねる。
「…それで、判定はどうなの?」
「ふっ…協力者は多い方がいいだろう。助けが必要な時は俺を呼べ」
「!ありがとう、アースト」
とりあえず、ガイアスに認めてもらえたらしい。
あの男のことはおいおい考えるとして、今は仲間が増えたことを喜んでおくことにした。