天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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あの冷たい目をした男は、一体誰だったのだろう。
一瞬だけど、誰かに似ているような気がした。
18.兄弟と姉妹-sideJ
ルドガーのお兄さん、ユリウスさん達とはぐれてしまった僕達はとりあえずニ・アケリアに向かうことにした。
気がついた時には、僕とレイア、そしてルドガーの三人しかいなかったから、おそらくアルヴィン達は別の場所に飛ばされたのだろう。思えば、あれは以前世精の途でガイアスとミュゼにマクスウェルが捕まった後、マクスウェルが僕達を逃がすためにと作った空間に似ていた。
ミラの社の前から僕達は歩き出す。麓を目指しながら、先ほど見た男の人を思い出した。
「ねえルドガー。さっき僕達を見てた人がいたんだけど、ルドガーも見た?」
「!ああ…すごく、冷たい目だった」
「…やっぱりそう思うよね。僕も少しだけ寒気がした。なんだか、僕達のこと本気で殺したいくらい、憎いって感じがして…」
「ええ?そんな人いたの?!」
どうやらレイアは気がついていなかったようだ。まあルルを運ぶのに必死だったから仕方ない。
でも、一体誰だったんだろう。なんで、僕達をあんなに冷たい目で見ていたのだろう。
今の僕達にはわかるわけもなく、僕達はただ先を急いだ。
途中、ミラに出会った。分史世界のミラだ。
口調はどこか厳しくも、女性らしいもので正史世界のミラとは違うと一目でわかるほどだった。
骸殻の使えなかったルドガーに、みんなが唖然としてしまっていると、颯爽と現れて魔物をなぎ払ってくれたのが分史世界のミラだったのだ。
彼女はさっさと先に行ってしまい、それを僕達も追いかける。
結局見失ってしまったけど、焦ったせいかニ・アケリアまで早く着くことが出来た。
そこにはアルヴィン、ローエン、エリーゼにエルとルル、それからユリウスさんがいた。
ルドガーはエルが無事なのを確認して、ホッと胸をなで下ろしていた。エルもエルですごく心配していたらしく、涙目でルドガーに駆け寄ったが、すぐに涙を拭いて怒っていた。
分史対策室のヴェルさんから、ルドガーのGHSに連絡が入ると、告げられた内容は僕達のいる分史世界にカナンの道標の存在する確率が高い、という情報だった。
おそらく時歪の因子と同化している、と。
でも、ユリウスさんは「後は俺に任せろ」とルドガーの時計を出すように言ったのだ。
「会って最初に言うことがそれかよ…ッ!」
滅多に声を荒げることのないルドガーの、悲痛な声だった。
それにユリウスさんは少し申し訳なさそうな顔をするも、時計を再度求める。ルドガーは持っていた時計を、思い切り地面に叩きつけた。それでも壊れなかったのは奇跡中の幸いだろうか、それともまだここで壊れる運命ではなかったのだろうか。
エルが地面に落ちた時計を覆い被さるようにして守る。
パパの時計とルドガーの時計が一緒になったからこれは自分たちのだと主張するエルに、一瞬だけユリウスさんの雰囲気が変わった気がした。だが、それもつかの間、背後からミラがやってきたのだ。分史世界のミラが。
「馴れ馴れしく名前で呼ばないで」
名前を呼んだら怒られてしまった。ミラは僕達の知っているミラとは少々、というか大分違っていた。ミラは足下でぐるぐると唸っているルルにお腹がすいたの?と声をかけると、ルルを連れてどこかへと行ってしまった。
それを追いかけるエル。僕達も行こう、と声をかけると、ルドガーはユリウスさんを横目で見てから、ふいっと顔を背けて歩き出す。
僕の隣を歩くルドガーは、どこか疲れ切っていて、ふとGHSを見つめた。
「……」
「ルドガー?」
「…いや、ユウキは大丈夫かなって…」
「あー…多分大丈夫だと思うけど…もし怪我してたらアルヴィンに関節技してもらうから安心して!」
「多分ユウキ的には安心できないんだろうな…でも、何でかな、今あのテンションを聞けないのはちょっとつらい」
心がもやもやしていたり、落ち込んでしまっている時。ユウキのわいわいする声を聞いていたら自然と心は落ち着いて、笑っているのだ。
ムードメーカー、というやつなのだろう。ユウキがいるだけで、僕達はいつだって前を向いていられたのだから。
(…なんでユウキだけが分史世界に来れないのか、考えよう)
そうしないと、いけない気がした。
結論から言うと、時歪の因子は分史世界のミラの姉、ミュゼだった。ルドガーが近くにいると反応があるということだったが、誰が見ても驚愕するほどのまがまがしい気を放つミュゼは、ミラに冷たく当たっていた。
ミュゼは目が見えなかった。だから、人間の食べ物の臭いがすると周囲の情報が掴めなくなり、歩くことができないようだった。
ミラのスープを食べてご機嫌だったエルも、少し怯えていた。
それでも、僕達が元の世界に帰るため、分史世界を壊すという仕事のためにはミュゼを殺さなければいけない。わかってはいたけど、すごくつらい。でもそれはきっと、これからとどめを刺さないといけないルドガーの方がもっとつらいのだ。
「私を裏切ったなぁッ!!」
化物、とミラが言った。
社の前にたたずむミラを騙して、ミュゼの元へ案内をさせた。この世界のミュゼはどうやらアルクノアを全滅させたことで使命を終え、ただただマクスウェルから帰還しろと迎えられるのを待っていたのだ。
使命を終え、冷たくなった姉の姿にミラは火を放つ。だがそれも大精霊には弱いものだったようで、いとも容易くはねのけられると、ミュゼの姿がさらにまがまがしく変身をした。
その姿に、ミラが化物と言ったのだ。
憤怒したミュゼに襲われるが、骸殻に変身できるようになったルドガーが圧倒する。僕達に出来たのは援護だけだ。
どのくらい続いたのか、きっと短い時間だったように思う。
倒れそうになるミュゼにミラが「姉さん!」と駆け寄ったら、ミュゼはミラを睨み付け、まるで呪詛のように言葉を紡ぎながらミラの首を絞めた。
死ね、死ね、死ね、死ね。
耐えきれなくなったのは、言われたミラだった。
「姉さんが、悪いのよ…」
剣を、ミュゼの胸に突き刺したのだ。そして、ルドガーがとどめを刺す。
ミュゼを貫いた槍の先に着いた時歪の因子、それが砕けると、後は世界も壊れるだけ。
エルがミラに駆け寄る。
そして、世界が壊れる前に、僕はまた彼を見た。
(冷たい、目だ。でも、どこかで見たことがある気がする)
壊れていく風景の中で、僕は何故か、彼とはまた会えるような気がしていたのだ。