天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
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ヴェルさんに煎れてもらったお茶を飲みながら、私はハッと気づいてしまった。
「……私、ここで何してればいいの?」
15.置いてけぼりの憂鬱
ルドガーにGHSを切られてから、三十分ほど経過した。その間この部屋ほんとすげー、街見渡せる!見ろ、人がゴミのようだ!とか大佐ごっこしてたりしたが、座り直してお茶を飲んで私はソファの上でがくりと肩を落とした。
エルですら分史世界についていって、危険なことに参加しているというのに、私は分史世界に行くことも出来ず、ここでのうのうとお茶を飲んでいるとか…。
ジュードくんは動くなと言ったけれど、私だけ何もしないのはイヤだ。こっちに残ってしまったものは仕方ない。何か、役に立つことは……。
「あっそうだ!ルドガーの借金返済!!よーしこうなったらクエストやってくるか!!」
いえーい!と扉を開けようとするも、自動ドアのはずの扉は開かない。
あれ?故障かな?と首を傾げながら何度も扉の前に立つも、開かない。
その時、私のGHSにヴェルさんから連絡が入った。
「あ、ヴェルさん」
《申し訳ありませんが、扉が故障してしまったようです。修理が終わるまでそちらで待機してていただけないでしょうか》
「え、マジでか」
それでは、とヴェルさんからの着信は終わる。つまり、いつここを出られるかわからないということだ。おいこれ私も詰んでるんですけど。
「暇だよー…何もしてないと暇で仕方ないよー…」
と、その時またGHSが鳴った。
見れば相手は非通知設定だ。うーん、とりあえず出てみるか。
「はーいもしもしー」
《非通知には出ない方がいいぜ、お嬢ちゃん》
ぴ、とつい切ってしまった。
だって、今の聞き覚えのある声はあの憎たらしい医療詐欺師じゃなかっただろうか。
切ったにもかかわらず、またかかってきた相手に仕方なく出ることにした。ため息と共に。
「はあ…なんなんですかねーリドウさんよー」
《俺からの着信を切るなんて、良い度胸だな…》
「非通知に出るなって自分で言ったんじゃん…で、なんで私の番号知ってんのさ」
ヴェルさんにはルドガーがエージェントになった時にGHSの連絡先を教えてくれと言われたのでアドレスは教えてある。が、この医療エージェント様には教えていないはずだ。
GHSの向こうから、くっくと意地の悪い笑いが聞こえる。
《秘密だよ。それに、今回は君に提案があってね?返答次第じゃ借金を減らしてやってもいい》
「な、なんだってえええ?!その提案ってのは?!」
《君、俺の方につかないか?》
つく、というのはどういうことだろう?ほわっつ?
私が疑問符を浮かべているのがわかったのか、リドウは話を続けた。
《そのままの意味さ。俺も分史対策のエージェントでね。社長の様子とユリウスの行動…君はきっと分史対策の大きな助けになるんだろう。だから、取引だ。君が俺の側につくなら、借金を三百万減らしてやってもいい》
「そこは全額減らせよ!っていうか、正直私何もできないし、そもそもルドガーについてくって決めてるからお断りします」
《…へえ、そうかい》
ぶちっと、GHSを切られた。なんなんだ全く。
ていうか、みんな私に何ができると思ってるんだ?リドウの言う社長の様子、ユリウスさんの行動…それが一体、私の何によるものなのか。
「って、わかんないことは考えない!もう暇だから寝ようかな!あ、でもまだ昼間だしなあ…この部屋何かないかな」
再度物色を始めると、テレビのリモコンを見つけた。なぜ引き出しの中に…。
何かやってないかなーとテレビをつけたら。
《現在逃亡中のユリウス・ウィル・クルスニク、そしてユウキという少女は一体どんな関係だったのでしょうか》
「ぶふーッ!!ちょ、私だけフルネームじゃな……それもそうか……」
しゅん、と俯いてしまう。再三思って来たことだというのに、どうやら私には自覚が足らないらしい。警察が総力上げて調べても、私の出身地も経歴も、フルネームだって見つかりはしない。それは、私がここの人間じゃないからだ。
旅先で会った人達なんて、私のことを覚えてなんかいない。私がジュードくん達を助けようと躍起になっていたことも知らない。私が、未だにこの世界の未来が、これで良かったのかと疑問に思ってることなんて、誰も。
《ああ?あのバカ、指名手配されてんのかぁ?!何も聞いてねーぞ!!》
《だって貴女に言うとうるさいじゃない。ユウキを出せって騒ぐでしょう、ね、ウィンガル》
《ああ、ところで、これはリーゼ・マクシアとエレンピオス両方に流れるのか?ん?生放送だと?》
「ぶふーッ!!フォーブの皆さん何テレビ出てんの!!」
聞き慣れた声がして思わず顔を上げたら、なんとアグリア、プレザ、ウィンガルの三人が出ていたではないか。どうやらちょうどエレンピオスに外交として訪れていたようだ。そこを生放送中のテレビ取材に目をつけられたのだろう。
ウィンガルは、こちらをじっと見つめた。カメラを見ているのだろうと思ったが、なんだか自分が見つめられたような感覚になってドキドキ。
そして、そのままウィンガルは口を開いた。
《俺の知っているユウキは、テロなどというふざけた行いはしない。あいつは言いたいことがあるときは正面切って抗議してくるやつだからな》
《私の知ってるユウキも同じね。むしろ、目の前でテロが起きたらみんなを助けようって飛び込むくらいのお馬鹿さんよ》
《あのバカにそんなでけーこと出来るわけねーだろばーか!おら!これ見てたらあたしんとこに来やがれ!つーかアドレス交換まだしてもらってねえぞ!》
おらおらと暴れ出したアグリアを止めるため、生放送は一時中断となり、映像が遮断される。すぐに違う番組を始めてしまったので、私はテレビを切った。
(…そっか。これで、いいんだよね)
私がこの世界に介入していなかったら、アグリアもプレザも崖から落ちて死んでいた。私が止めなかったら、ウィンガルは増霊極を限界まで使って死んでいた。
あの三人が、ああして元気な姿を見せてくれてるのは、私が介入したからだって、自惚れてもいいんだよね?
「そうだ、アグリアにアドレス教えてなかったっけ」
ていうか、フォーブ三人ともに教えてなかった。だって、ガイアス城にいたらみんなとしょっちゅう会ってたからアド交換なんてすっかり忘れていたのだ。
ガイアスに連絡して、アドレスを回してもらって……思ったらガイアスアド交換の仕方わかんないんだった…。全部ローエンがやってたもんな…。
結局暇で、またルドガーのGHSに連絡しようかと思ったけど忙しい時だと迷惑になるし…でもジュードくん達のGHSは繋がらないので仕方なく私はガイアスに連絡してみた。
「あ、ガイアスー?え?ああ、はいはいアーストアースト。何の用かって?やー実は聞きたいことがあって!ガイアス今履いてるパンツ何色?………ワォ」
返ってきた返答に、思わず外国人風に驚いてしまった。王様のお召し物…ぱねえっす。