天使と奏でるシンフォニー(TOX2)
DREAM
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「最近、魔人が出る噂があるの」
まるで怪談をするかのように、情報屋のジョウさんはそう私達に教えてくれた。
11.私の天使は有名人
ドヴォール駅でレイアと顔なじみであるという情報屋、ジョウさんと情報交換をした私達は、その魔人、という化け物の噂を知って裏路地へと入った。ここはたしか、ルドガー達が運ばれた酒場がある場所だ。
夜な夜な人を狩るという魔人。
その被害者でブラートの部下が何人もやられたとか。
えーとそのブラートっていうのはこのドヴォールの…えーと、自治組織ってやつで…。
「そして優姫は考えることをやめた」
「レイアでも知ってることなのに…」
「ぐほう!!ジュードくん最近冷たくない?!」
「ていうか私でもって失礼だよジュード?!」
ぎゃーぎゃーっとレイアと一緒にジュードくんに抗議するも、ジュードくんはすたすたと歩いていく。
なんか…マジでジュードくん冷たくない…?
べこっと凹んでいたら、レイアが「あーあ」とため息を吐いた。
「ユウキが浮気するからジュード怒ってるじゃん…」
「浮気?!私が浮気だって?!私はジュードくん一筋だよ?!」
「でもルドガーも好きなんでしょ?」
「うん」
「それが浮気じゃないの?」
「レイアもエルもルルも好きだけど」
「ジュード!わたしでもユウキの鈍感直せそうにないよー!」
「何の話?!」
レイアに声をかけられ、ジュードくんは振り返り先程のレイアのごとくため息を吐いた。
一体なんぞ?と首を傾げるも、ジュードくんは教えてくれない。
ちょっと待って…私ジュードくんに嫌われたら…。
「生きていけない。ジュードくんに嫌われて生きていける自信がない」
「しまったユウキがいつかの症状に!ジュード何とかして!」
「ユウキってほんとにジュードがスキなんだね」
と、エルが言った途端ジュードくんが「うっ」と何故か声を詰まらせる。
そして、ややため息混じりにこちらにやってきて、苦笑に似た笑みを浮かべたジュードくん。
「嫌ってないから安心して。あとその…冷たくしたつもりはなかったんだけど…」
「ジュードくん!!わああんマジ天使わああん!!」
「わわっ、はあ…僕も甘いなあ」
ガバっと抱きついたら、ジュードくんによしよしと頭を撫でられた。
大人っぽくなってきたけど、ジュードくんは一年前と変わらない天使だ。
「痴話喧嘩は終わったのか?」
「る、ルドガー?!べべ別に僕達痴話喧嘩なんてっ」
「いやあまた愛情深めちゃったねジュードくん!」
「えいっ!」
「ぐほうっ?!」
もう先に行くからね!とジュードくんは裏路地へと入っていく。
そのあとをレイアが待ってと追いかけて、エルとルルも走っていって。
「……だ、大丈夫か?」
「だ、だいじょばない…」
ジュードくんの照れ隠しの一発を腹にもらった私は、ルドガーに心配されながらジュードくん達の後を追った。
裏路地はいつ来ても物騒な雰囲気の漂う場所だ。
いつ何が起きてもいいように警戒心だけは高めておく。
と、道行く人の話を聞きながら奥の方へと歩いていくと、不気味な雰囲気がむんむんしていた。
「この辺かな、魔人が出るっていう噂の場所」
「…出なくてもいいけど…」
「あ、怖いんだエル?」
「こ、こわくないですー!!カナンの地へ行くためだし!」
「カナンの地って具体的にはどんな場所なの?」
「そ、それは知らない…けど…」
そういえば、エルはパパとやらに言われたから探してるんだった。
レイアがアルクノアの目的はなんだろうと話している間に、私はまた考えてみる。
カナンの地。そこはなんでも願いの叶う場所で、ジュードくんが言うには古い精霊伝承に出てくる場所で、魂の循環を司る精霊が棲んでいるのだとか。
そして、伝説では意志の槍を持った賢者クルスニクが辿り着く場所とされている。
で、ルドガーはあの分史世界とやらで槍を持っていた。
クルスニク、カナンの地、意志の槍。
「……ってああ!!私ルドガーに重要なこと言い忘れてた!!」
「え?」
「ルドガー!ユリウスさんから言われたんだけど、あの変身するやつはもうするなって」
「!ユウキ!!」
「わっ?!」
ジュードくんにどんっと背中を押されて、地面に転がる。慌てて顔を上げたら、ジュードくんが知らない男に押さえつけられていた。
「動くな、Dr.マティス」
「くっ」
「お前ともう一人女を捕えろって指示されてるんでな」
「この人たち…!」
「ブラート…!」
レイアとジュードくんがそう口にすれば、いつの間にかわらわらと人が集まってきて私達を囲っていた。
魔人が出るという噂だったのではなかったのか。
それよりも、ジュードくんは私を庇ってあいつらに捕まっている。なんとかしないと!
そう思って腰の大剣を引き抜いて飛び込もうとしたら、ルドガーに腕を抑えられる。
えっ、と見上げたら、ルドガーはちら、とルルを見下ろした。そして。
「ナァーーーっ!!!」
「!」
「はぁっ!!」
ルルの尻尾を踏みつけたのだ。
それに驚いた男の隙を見て、ジュードくんは体術で相手を押し飛ばし、こちらへと駆けてくる。
その拍子で男の持っていた銃がエルの側の壁を撃つ。
きゃあああっとエルが叫んだ。
「!!あいつらどこに行きやがった?!」
はっと気がついた時には、私の周りには誰もいなくなっていた。
私達を囲っていた男の一人がそう言って周囲を見渡すも、そこにはもう誰もいない。私以外。
(……おいいいいいい!!これ私超ピンチじゃないっすかああああ!!)
おそらくジュードくん達はまた分史世界なる場所へ飛んでしまったのだ。
そして、また私は残されて絶体絶命のピンチに陥っている。
男達は私を見て、銃を構えつつ聞いてくる。
「おい!あいつらはどこに行きやがった!!」
「さ、さあてね!ていうか、あんたらこそなんでジュードくんを狙ってるのさ?!」
「そんなの、決まってんだろ。俺達はリーゼ・マクシア人が大嫌いなんだよ」
「精霊術なんてもの素手で使う奴ら、化け物だ!」
「あいつと、あと女を一人殺せば!」
リーゼ・マクシア人だとか、エレンピオス人だとか。
「そんなの生きてくのにどう関係があるんだよ!!」
「なんだと?!」
「ジュードくんがどれだけ頑張ってるかも知らないで、勝手なことばっか言うな!!エレンピオスの人達が生きていけるように、精霊と人が共存できる世界を作ろうと寝る間も惜しんで毎日研究してるのに、ふざけんなっ!!」
「この女!!」
かぁっと怒りに染まった顔の男が私に標準を定めて銃を向ける。それが放たれる少し早くに私は腰を屈めて男の懐に飛び込む。
持っていた剣を持ち直し、柄の部分で腹を打撃して、手に持っていた銃を蹴り飛ばした。
でも、すぐに放たれた銃弾はよけられず太ももを掠める。
「ぐっ!!」
「っ!殺せ!!」
「そこまでだ」
殺される、と思ったその時、聞き覚えのある声がした。
思わずぎゅっと瞑った目を開け、見上げたら私の目の前にはローエンがいて、男達は黒髪の男にコテンパンにされている。
地面に尻餅をついたまま惚けていたら、ローエンが私の傷口にハンカチを当てて痛みにひいっと声を上げてしまった。
「無事でなによりです、ユウキさん」
「ろ、ローエン!久しぶりだね!ていうかあれ、もしかして」
「はい、ガイアス王ですよ」
こそこそと小さな声でそう教えてくれた。
なんでガイアスがここに、と首を傾げたら、ローエンがバッと私から離れたではないか。
気がつけば、ルドガーが二本の剣を構えて私を庇うように立っていた。
「ユウキ、大丈夫か?!」
「え?うん…ていうかルドガーちょい落ち着こう。あの人私の仲間だから!敵じゃないから!」
「…うん、ルドガー。このローエンは本物のローエンだから大丈夫だよ」
本物?と首を傾げる私とローエン。
その間にガイアスは集団の一人に問いただしているようだった。
というか、やっとみんな帰ってきたのか!!
「うわあああん!!なんでみんな私置いていくのさああああ!!」
「ユウキまた勝手にいなくなってた!ルドガーのご飯抜き!」
「うわあああん!!それは勘弁してくださいいいいい!!」
駆け寄ってきたエルにそう言われて、ルルを抱えて懇願したらルドガーが私とエルの前に立ったまままだ警戒心を解かないでいる。
もしや分史世界なる場所で何かあったのだろうか。
ジュードくんも私の側までやってきて、治癒術で太ももの傷を癒してくれる。
「…また、ユウキはあの世界に行かなかったんだね」
「行かなかったというか、気づいたらみんないなかったというか…」
「…でも無事でよかった…」
「あ、ローエンとガイアスが助けてくれたんだよ!」
治癒し終えると、ジュードくんは立ち上がってローエンとガイアスお礼を言った。
「ありがとうローエン、ガイアス」
「…アーストだ」
「え?」
「今の俺は一介の市井の男。故にアーストと呼んでもらおう」
「そういえば本名アースト・アウトウェイだもんね」
カーラさんのサブイベや攻略本でうっすら覚えている本名。
たしか一年前の旅で私のコピーも口にしていたっけ。
それにしても、なんでガイアスここにいんの?
「エレンピオスの民衆の声を聞くため、お忍びで行動しているのですよ」
「でもいいのかな…?リーゼ・マクシアの王様なのに…」
「王様?!エル、王様って初めてみた!」
「あの王様前回ラスボスだったんだよエルたん」
「………」
「あっ凄い威圧感のある目で見られてる!あの王様やっぱり怖い!」
「…ユウキを助けてくれてありがとう、アースト」
私がジュードくんの後ろに隠れたら、ルドガーがそうお礼を述べた。
やだ…ルドガーイケメン…ていうかなんか私の保護者化してないか?あれ?
ルドガーのアースト呼びに満足した王様、もといアーストはそれでいいと頷く。
「それでガイ…アースト。彼らはなんて?」
「アルクノアは源霊匣の暴走をテロに利用し、その危険性を知らしめたいらしい。ふ、悪くはない策だ」
「そんな…」
「大丈夫だよジュードくん!そんなの絶対私が阻止してみせるからね!!」
ふんふんっと、腕をぐるぐる回したら、ジュードくんに微笑まれた。
天使の微笑、プライスレス。
ジュードくんマジ天使いいいいい!!
はあはあしている私の横で、レイアは「あ」と何かに気づいたような顔をした。
「ひょっとして、路地裏の『魔人』ってガイ…アーストだったのかな?」
「でも…怖いその人もメガネのおじさんに似てた」
「怖い私、ですか?」
「えっと、それはね……」
ジュードくんの説明によると、気がつけば先程の男達に絡まれる少し前の世界にいたらしい。
そこで、また囲まれてどう切り抜けようかと思っていたら、ローエンが出てきた。
しかしそのローエンはエレンピオス人を憎んでいて、男達を平然と焼き殺してしまったのだとか。
そして、ルドガーとエルも殺そうとするから止めようとしたら、ローエンから嫌なオーラが出た。それがおそらくユリウスさんの言っていたタイムファクターというやつなのだろう。
そして、ローエンの身体にルドガーが槍を突き刺し、何かが割れる音がした。で、気がついたら私の傍にローエンが屈んでいたのでルドガーが慌てて飛び出したというわけだ。
それにしても。
「エリーとドロッセル、ガイ…アーストが死んで狂ったローエンかー…」
「…どうやらお前の周りで不可解な事件が起こっているようだな」
ガイアスに言われ、ルドガーはこくりと頷く。
その横ではローエンがヒゲにを触りながら考え事をしていた。
その様子を横目で見るガイアス。
「気になるか、ローエン」
「ええ、かなり」
「根拠は?」
「勘です」
「わかった。では調査は任せよう」
「かしこまりました」
この二人、いつの間にかすごく親しくなったなあ。
この調子だとウィンガル達が憤怒してそうだ…。そういえば最近会ってないけど元気だろうか。
「そういう訳で、私もお供させていただいてよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわないよ」
「改めて、ローエン・J・イルベルトです。お見知りおきを」
「…ジュード」
「わかってるよ。落ち込んでる暇があったら、源霊匣を完成させる努力をする」
ガイアスに名前を呼ばれ、ジュードくんがそう答えたらなんと。
あの王様、一瞬だったけど微笑んだのだ!
「ガイジュありがとうございますありがとうございます!!あっでも今アーストだからアージュ?!アルジュとかぶってる!!だがそこもいい!!目だけで分かり合える仲萌えるふごふっ!!」
「アーストが無言でユウキのお腹に一撃入れていった!!ヒールヒール!!」
「ほっほっほ、相変わらずですねえユウキさんは」
「ユウキったらもう…」
「ねえねえルドガー。エル、ユウキの言ってることよくわかんなかった」
「安心しろ。俺もだ」