chapter 04
DREAM
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『ジュードくん』
優姫、どうして。
僕はまだ何も、聞いてない。
優姫のこと何も、知らないままなのに。
30.君の残したセカイで
「優姫っ!!なんで、優姫っ!!」
「お前にはなすべきことが、あるのだろう…っ!!」
僕が叫んでも、ミラが叫んでも、優姫はクルスニクの槍に向かっていて振り返ってくれない。
大精霊達と話をしているようだけど、ここからじゃ何も聞こえない。
「優姫…っ、僕は優姫がいなくなったら…っ!」
いつもなら笑顔で振り返ってくれる優姫が、背中を向けている。
嫌だ、このままじゃ、優姫がいなくなってしまう。
死んでしまう。
「お願いだ、戻ってきてよ優姫…っ!」
どうして体は動いてくれないんだ。
どうして優姫みたいに動いてくれないんだ。
不意に、優姫が振り向いた。
まるでこれが最後だとでもいうように、僕を見つめていた。
「優姫っ!!約束、したじゃないか…っ!!これが終わったら、優姫の話を…それにっ」
「……」
「一緒にいてくれるって…っ!!」
ああ、まただ。その顔。
泣きそうな顔。
初めて会った時と同じ顔だ。
あの時からきっと僕は、優姫を…。
「私がここでミラの代わりに力を使うのは、与えられた使命だからじゃない」
そう言って前を向いてしまう優姫。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
行かないでよ。
優姫がいなくなったら僕はどうすればいいの。
「これは、私の意志だぁぁぁぁぁッ!!」
優姫が叫ぶと、その体からとてつもないほどのマナが飛び出しクルスニクの槍に込められる。
槍はそのマナを使い、僕達を覆う術を打ち消し、空へと光を伸ばした。
揺れがおさまると、体が自由に動かせるようになった。
「優姫…?」
クルスニクの槍の前に、立ちすくむ優姫の背中が見え、名前を呼ぶ。
途端にその体は傾き、倒れていく様がスローモーションに見えた。
「優姫、優姫っ!!うわっ!!」
床が崩れていく。
船が沈んでいく。
優姫が、抜けた床の下に落ちていく。
「ジュード!!戻れ!!」
「いやだ、離してアルヴィン!!優姫が、優姫がっ!!」
後を追って向かおうとする体をアルヴィンに押さえられる。
僕は海に落ちるその瞬間まで、優姫の名前を叫びつづけた。
ザパァッ
「はぁ…はぁ…みな、無事か」
「うん…なんとか…けほっ」
ジルニトラが沈み、海に落ちた僕達はどこかの海停に流されてきた。
ミラの言葉にレイアが頷き、側にいたローエンは気を失っているエリーゼを抱き抱えている。
アルヴィンは、空を見上げていた。
「あいつ…バカじゃねぇのか」
「アルヴィンさん…」
アルヴィンの呟いた言葉に、ローエンが悲しげに名前を呼んだ。
空は夕焼けに染まり、エレンピオスは見えない。
断界殻は壊れなかった。
「めちゃくちゃ頑張る、って…なんだよ。誰が、お前に断界殻を壊せなんて頼んだ」
『私今からめちゃくちゃ頑張るけど多分壊せない!ごめん!』
「なんで…お前が謝るんだよ」
優姫はミラとアルヴィンに言葉を残していた。
何を言っていたか、混乱したままの今の僕には理解できない。
ようやく呼吸の整ったミラ達が立ち上がり、未だに俯いて拳を握り締める僕の肩に手を触れた瞬間、空から声が降ってきた。
「あら…余計なものまで生かしたのね。あの子ったら」
ミュゼだ。
今までのおっとりとした声色は消え失せ、妖しい雰囲気で僕達を見下ろし笑っている。
「ミュゼ…先程の術はお前の仕業か…!!」
「うふふ、本当なら優姫にミラの代わりに死んでもらって、ミラだけを生かす予定だったのだけど」
「代わりって…ふざけないでよっ!!」
「ふざけてないわ。だって、元々優姫の使命はミラの代わりに死ぬことなんだもの」
ミラの代わりに死ぬことが、優姫の使命?
優姫がミラについてきたのは、ミラの代わりになって死ぬため?
「私の使命は断界殻を知ってしまった存在を抹消すること。けど、隠れてるジランドみたいな連中をおびき出すためにはまだミラというエサが必要なの」
「エサ、だと?私をマクスウェルに仕立て上げ、アルクノアをおびき出していたのか…?!」
「そうよ?そのために、まだミラは必要だったの。だから代用品を用意したのよ!」
「それが、優姫だっていうのかよ…っ!」
「お喋りはおしまい。ミラ以外は死んでちょうだい!」
ミュゼの背後に、あの強大な魔法陣が展開される。
疲労してしまっていたミラ達は捕まらないようにバラバラになって逃げることを選んだ。
動けずにいる僕は、気付けばアルヴィンの脇に抱えられていた。
たくさん走っていたように思う。どこかの小屋に逃げ込んだアルヴィンは、僕をベッドに放り投げた。
「すまないな、アルヴィン」
「いや…じいさん達は逃げ切れたよな」
「ああ、ローエンはエリーゼを抱えてレイアと共に逃げていた。おそらく無事だろう」
「…おたくはこれからどうすんの」
「ニ・アケリアに戻ろうと思う。ミュゼの使命が断界殻の存在を知る者の抹消なら、村人達が危ない」
「あそこの奴らは、断界殻の存在を知ってたのか…」
「アルヴィンはどうする?」
「俺は……しばらく優等生を見とくわ」
ミラはわかったと言って小屋から出ていく。
投げ出されたままの姿でぼんやりしていたら、アルヴィンに起こされた。
「しっかりしろ、俺がわかるかジュード」
「うん…」
「ミラはニ・アケリアに行って、他の奴らは別に逃げた。俺達はしばらくここで隠れて、それから」
「……」
「ちっ……落ち着くまで寝てろ」
アルヴィンはそう言って僕をベッドに寝かせると、ミラ同様小屋から出ていった。
(寝たくない。寝たらきっと、優姫の夢を見る)
体をベッドに沈ませ、ぼんやりと天井を見つめる。
あまりにも呆気なく消えた存在に、涙も出てきてくれない。
(僕のなすべきことは、ミラを勝たせてあげることと…優姫の心配をすることだった)
ミラを勝たせることもできず、優姫を失ってしまった。
僕は今まで何をしてきたんだろう。
ミラが自分の存在に悩んでいたことに、気付かなかった。
……優姫が自分の使命に悩んでいたことに、気付かなかった。
『私は優姫、えーと…多分旅人?』
初めて会った優姫は、泣きそうな顔をしていた。
『今は上手く話せないんだ。だからもう少し待ってほしい。ちゃんと全部話すから』
そう言って誤魔化す度に、つらそうな顔をしていた。
『内緒!でも、絶対にしなきゃいけないって思ってる。なんとなく、私はそのためにここにいるって思うからさ』
なすべきことがあるかと尋ねたら、答えながら困惑した顔をしていた。
『大丈夫!ミラ達が危ないかもだし早く行こう!』
クレインさんが死んで、それでも僕達に心配をかけないように、いつもと違う失敗した笑顔を見せていた。
ガンダラ要塞で、優姫が血まみれで倒れているのを見たとき悔しかった。
心配をすると言ったのに、何もできなかった。
何度呼んでも目を覚まさない。
目を覚ましたと思えば、足は動かないというのに笑っている。
しなきゃいけないことがあるから、諦めないと優姫は言った。
(それが…ミラの代わりに死ぬことだったの?)
(一人で行かないって、僕に誓ってくれたのはウソだったの?)
『全部終わっても一緒にいようね!』
嘘つき。
まだ全部終わってないのに、優姫はいないじゃないか。
もうどこにも、いないじゃないか。
「ジュード、飯だ」
何日が経過したか、わからない。
アルヴィンはどこからか食べ物を持ってきては僕に食べさせようとするが、食べる気にならず手をつけないでいた。
いつもなら舌打ちしながらも何も言わず、自分で食べてしまうアルヴィンが、今日は僕を怒鳴りつけた。
「っ、いい加減にしろっ!死にてぇのか!!」
「……」
「もう十分落ち込んだろ!悔やんだろっ!いつまでそうして逃げてるつもりだッ!!」
「……」
「アルヴィン」
アルヴィンは後ろから声をかけられ、舌打ちして僕の胸元を引き寄せていた手を離した。
ミラが帰ってきたらしい。
「…その様子じゃ、ニ・アケリアは」
「ああ、すでに壊滅状態だった。ジュードは変わらないようだな」
「廃人のまんまだよ」
「そうか」
僕に近付く足音がする。
アルヴィンみたいに怒鳴ってくるかと思っていたら、ミラは僕の顔を上げさせ………勢いよく殴った。
「った…っ」
思わず頬を押さえて呻いたら、ベッドから転がり落ちた僕の前まで来てアルヴィンと同じように僕の胸元を引っ張った。
「私はマクスウェルではない。私も気付いたのはジルニトラ突入前だった。だが結果的に騙していたことに変わらない。ジュード、すまなかった」
「ミラ様、謝ってる体勢じゃねぇよそれ…」
「アルヴィンは黙っていろ」
ミラが、マクスウェルじゃなかった。
けどそんなことは、些細なことだと思う。
ミラがみんなを、精霊も人も守りたいと思った信念に、僕は憧れたんだ。
ミラのようになりたいと思ったんだ。
「ミラがマクスウェルだとか違うとか…関係ないよ…」
「……」
「ミラはミラなんだから…」
そう思ったまま口に出したら、ミラが僕を掴む手に力を込めた。
「優姫も、そう言った。ミラはミラだ、ジュードも絶対にそう言うと」
「優姫、が…?」
「その言葉で、自分の中の矛盾がどうでもよくなったんだ。私は私のままで、己の使命を果たそうと決めたんだ。それは優姫も同じだ」
ミラが、顔を歪ませていた。
悔しそうに、今にも泣きそうな顔で。
「優姫は自分の使命は、君を…ジュードを悲しませないことだと私に言っていた。本物の使命は私の代わりに死ぬことだったとしても、優姫は選んだ…私達を守ることを、ジュードを守ることを!」
「僕を…悲しませない…?守る…?」
「優姫は誰かが決めた使命に殉じたわけではない。己の信念を貫いたんだ!」
『私、めちゃくちゃ頑張るからさ、『頑張れ』って言ってくれないかな』
「僕、酷いことを…っ、優姫に酷いことを言った…!!」
優姫を目の前で失ってから、一度も出ることのなかった涙が溢れる。
感情を取り戻したように泣き出した僕に、ミラは目を見開きながら手を離した。
「ジュード…」
「ジルニトラに、行く前に、優姫に『頑張れって言ってほしい』って……だから、僕は言っちゃったんだ…っ!『頑張れ、優姫』って!!」
なんて酷いことを言ってしまったんだろう。
あの時、優姫はミラの代わりに死ぬことを決意していたんだ。
僕は優姫に、その後押しするように『頑張れ』なんて言ってしまった。
何も考えないで、残酷な言葉を口にしたのだ。
「最低だ…僕は…っ」
「なら、そのままここで悔やみ続けるのか?優姫が残した命を、悔やみながら消費していくというのか?」
「優姫が、残した…命…?」
「そうだ。優姫が守ってくれた、大切にしなければならない命だ」
『ジュードくんは笑っててくれたら嬉しいな』
そうだ。
僕の命は、優姫が自分の命と引き換えにして助けてくれた命だ。
生きなきゃ……どれだけ苦しくても、悲しくても、僕は生きないといけないんだ!
僕は涙を拭って、立ち上がる。
何日も食べていなくて立ちくらみがしたけど、ミラとアルヴィンをちゃんと見据えることができた。
「ミラ、アルヴィンも……ありがとう。僕、まだ何をしたらいいか、わからないけど…でも、生きるよ」
「ジュード」
「たく…やっとかよ」
ミラもアルヴィンもホッとしたように息を吐いた。
僕をずっと、心配してくれていたんだ。
ぐぅぅ……
「……あ」
「ぷ…そりゃ何日も食ってなかったからそうなるわな」
「ふふ…いつぞやの優姫と同じだな、ジュード」
「いつぞやって?」
「食事をしながら、話すよ。優姫がいかにジュードを好きだったか」
僕のお腹が鳴ると、二人はそう笑って放置されていたご飯を持ってきてくれた。
久しぶりに食べたご飯は、今までで一番美味しく感じられた。
「ジュードはこれからどうするつもりだ?」
食器を片付けていたら、ミラがそう尋ねてきた。
食事を終え、優姫の話をたくさんミラとアルヴィンから聞いた僕は、もうやるべきことを決めていた。
「本物のマクスウェルを捜そうと思ってる」
「!本物の…?」
「うん。ミュゼはミラを断界殻を守るためのエサで、優姫をその代わりにしたって言ってた。つまり、誰か別の存在がミラを自分の身代わりにして、優姫をどこからか連れてきたんだと思うんだ」
「…私も同じ考えだ。私を作り、ミュゼを作り、優姫を連れてきた本物のマクスウェルがいるはずだ」
「なるほどね…けどよ、疑問がある。途中から優姫がマクスウェルなんて言われるようになったのは何でだ?」
「アルクノアはセルシウスが原因だと思う。…セルシウス」
ミラがセルシウスを呼ぶと、ひんやりした空気と共にセルシウスが現れた。
「なんでしょうか」
「優姫はマクスウェルか?」
「はい。私が忠誠を誓ったマクスウェル様です」
「…それで、ジランドの奴優姫をマクスウェルだと…」
もういいぞ、とミラが言えばセルシウスはまた消えた。
「四大から話を聞こうとしたが、どうにも口を割らない。おそらく本物のマクスウェルに口封じをされたのだろう」
「そっか…」
「ジュード、本物のマクスウェルを捜すと言ってもアテはあるのか?」
「ミュゼに聞くのが一番早いんだろうけど、今の僕じゃ太刀打ちできないと思う。だから、イバルを捜してみようかなって」
「ああ、あのアホ巫子ね」
優姫みたいな言い方のアルヴィンに苦笑してしまう。
思えば優姫はよくイバルと言い合いをしていた。…主に僕の話で。
「私がニ・アケリアに行った時には姿は見えなかったな。死んではいないと思うが…」
「まぁあいつなら大丈夫だろ。捜すなら早く行こうぜ」
「「……」」
「な、なんだよ」
「いや…なんかアルヴィンが協力的だと違和感が…」
そう言ったら、アルヴィンはバツが悪そうに頭をかいた。
「…あのバカとさ、約束しちまったからな」
「?約束って、最期に優姫がアルヴィンに向かって言ってた…?」
「ああ。ジュードを二度と裏切るなってよ」
「!」
「けどよ、正直それだけじゃなくて、なんつーかな…おたくらの場所、結構気に入ってんだよ」
優姫の言ってたこと当たっちまった。
とアルヴィンは照れたように笑う。
(優姫は…なんで僕なんかのために…)
いや、これは後で考えよう。
今は本物のマクスウェルに、たくさん聞かなきゃいけないことがあるんだ。
「ふふ…私達は本当に優姫に支えられていたんだな」
「うん…だからこそ、本物のマクスウェルを捜して全ての真相を知りたい。ミラ、アルヴィン、手伝ってくれる?」
「当然だ。私も色々聞かねばならないからな」
「俺も結局あいつから何も聞けれなかったしな。おたくらについていくぜ」
「ありがとう…二人とも」
そう笑ったら、二人が顔を見合わせてクスクスと笑った。
なんだろう、と首を傾げてみたら。
「いや、優姫がいたら今のジュードの笑顔に『天使の微笑み!』とか言ってたんじゃねーかなって」
「ふふ…」
「も、もう…二人とも僕をからかうんだから!」
でも、きっとそうなんだと思う。
優姫がいたらまたそうやって僕をからかって、アルヴィンに怒られて、ミラに泣きつくんだろうな。
(強く、ならなくちゃ)
優姫に守られるんじゃなくて、優姫を守れるように。
いつかまた…出会えた時に恥ずかしくないような男になりたい。いや、なるんだ。
「そういえば、約束を守らなかったら潰す、と言われていたな。潰すってどこをだ?」
「うわー…ミラ様それ聞いちゃう?」
「あ、僕も気になる。どこを潰されるの?」
「生理現象できなくしてやるってよ」
「え……そ、想像しなきゃよかった……」
「??結局どこなんだ?」
疑問符だらけのミラには答えられず、アルヴィンと二人して困った顔で笑うしかなかった。
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