chapter 04
DREAM
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見覚えのある後ろ姿がクルリと振り返る。
後ろ姿だけじゃない、正面から見ても…。
やっぱり、会いたくて焦がれた優姫の姿だった。
33.ただ、君だけに焦がれてる
「優姫っ!!」
思わず名前を叫ぶ。
優姫は僕達を見て「あれ」と声を漏らした。
「おかしいな。まだミラ=マクスウェルと接触するタイミングではないのだけど」
「……え?」
「まぁいいか。けど、ミラ=マクスウェル以外の人間は排除対象となるな」
「!!みんな避けて!!」
駆け寄りかけた仲間にそう叫んで自分もバックステップで後ろに下がれば、僕達がいた場所に降り注ぐ光の槍。
当たればかすり傷ではすまないことは一目瞭然だ。
「避けられたか」
調整が必要か、と首を傾げる優姫。
いや、本当に優姫なの?
姿は同じだけど、雰囲気が違う。
優姫は精霊術を使えないはずだ。
なにより、僕達を『排除』だなんて優姫が言うはずがない。
「君は、誰…?」
「私は優姫。ああ、正確には優姫のデータを引き継いだミラ=マクスウェルの二つ目の代用品だよ」
「どういうことだ。お前は…優姫ではないのか?」
別人のような優姫にミラが問えば、彼女は首を傾けて笑う。
「オリジナルのことかい?良い性能だったみたいだけど、壊れたからマクスウェルが複製したんだよ。その複製品、コピーが私」
「壊れた…ですと…?」
「そうだな、人間の言葉で言えば死んだってことだね。ローエン・J・イルベルト」
「っ!!」
「何を驚いているのかな、エリーゼ・ルタス。君もオリジナルが死ぬのを見ただろう?まあ、あの場所でミラ=マクスウェルの代わりに死ぬのがオリジナルの使命だったんだけどね」
「あの場所ってどういうことだよ」
淡々と話しつづける彼女に、アルヴィンも警戒しながら問う。
アルヴィンを見て、彼女は口元だけで笑みをつくった。
「アルフレド・ヴィント・スヴェント。オリジナルが死ぬ前に一番心配をしていたな」
「俺を?」
「君は、エレンピオスに帰らせてもらうためにミュゼと取引をし、ジュード・マティスとレイア・ロランドを殺そうとした。その未来を知っていたから、オリジナルは君が裏切らないか最期まで心配していたよ」
「アルヴィン君がミュゼと取引して、私とジュードを?何言ってるの…?」
「そうだね、何故かその未来が変わっているようだ。オリジナルが介入したからかな」
うむ、と顎に手を当てて頷く彼女は、僕達の知る優姫ではなかった。
彼女は、自分をコピーと言い、優姫をオリジナルと称した。
そして彼女は、きっと全てを知っている。
優姫すら知らなかったことも、全部。
「何か聞きたそうだね、ジュード・マティス」
「っ!」
「いいよ。オリジナルの意志を少し汲んで、話をしてあげよう。マクスウェルは今忙しくて手が離せないからね」
やっぱり、本物のマクスウェルがいたんだ。
よく見ると彼女は優姫とは違う衣装を身に纏い、目に生気を感じられなかった。
そして優姫とは、違う笑み。
「まずはここの説明だ。ここはマクスウェルがつくり出した人間界と精霊界を繋ぐ唯一の途、世精ノ途」
ウルスカーラ。
つまり、ここは精霊界ではない。そして人間界でもない。
「そして、ミラ=マクスウェルについて。二千年前、黒匣が生み出された。精霊が死に、自然が絶え、人間も消え行く運命の道を歩みはじめた。マクスウェルは再三人間に警告を送ったが聞き入れられることはなかった」
「エレンピオスのことか…」
「そう。アルフレド・ヴィント・スヴェント、君の故郷だ。まぁマクスウェルの言うことを全く聞かないものだから、黒匣から逃げるために精霊と動物、そしてマナを生み出せる人間を連れて、リーゼ・マクシアをつくり、篭ることにしたのだけど」
ここまではいいかな?と彼女はまた口元だけで笑う。
みんなが何も言わず黙っていたら、彼女は話を続けた。
「エレンピオス人は貪欲でね。精霊が絶滅しかかってるのを知ると、マクスウェルがつくったエレンピオスとリーゼ・マクシアを隔てる断界殻を壊してマナを欲しがったんだ」
「それで断界殻を守るためにミュゼをつくったのか?なら私は何故つくられた」
「簡単に言えばマクスウェルが死ねば断界殻は壊れてしまうから、エレンピオス人を騙すために身代わりをつくったんだよ。そして、マクスウェルから逃れ潜伏したアルクノアを釣り上げるためにマクスウェルの命をエサにした。それがミラ=マクスウェルというモノだ」
「…夢で、使命を忘れるなと言う誰かの声を聞いたのは」
「マクスウェルは君を本物のマクスウェルだと信じ込むように意識に植え付けたのさ。マクスウェルとしての使命を忘れないように、ってね」
「ふざけるなっ!!ミラはエサでもない、ましてやマクスウェルの代わりに生きてるわけでもない!!」
僕が怒鳴るようにそう言えば、彼女からは嘲る笑みがかえってくる。
けど、全てを知ったミラは迷わなかった。
迷わず、目の前の彼女を見据える。
「私は自分の心に従い、生きてきた。本物のマクスウェルなど関係ない。私は私だ。それは今までも、これからも変わらない!」
「あはは。別にそれで構わないよ。私の使命に影響はない」
「お前はマクスウェルが私とミュゼ、そしてお前をつくったと言ったな。なら本物の優姫はどうした」
ミラがそう問うと、彼女は一層おかしそうに口元を歪ませて笑った。
「別の世界から器を選んで、盗ってきたんだよ」
「オリジナル、名前は##NAME4##水瓶。両親は海外で暮らしているため、兄と二人で暮らしている。普通の学生、普通の女の子だった」
「ユウキ…優姫…?」
「名前は優姫の方だよ。君達とは名前の構成すら違う国が存在する世界から、マクスウェルが盗ってきたんだ」
ああ、エレンピオスとは違うよ、と彼女は付け加える。
何を言われてるか、わからなかった。
けど、彼女は話を続ける。
「この世界にくるまでオリジナルにとって、君達はゲームのキャラクターだったんだ」
「ゲームの、キャラクターだって?俺達がかよ」
「そう。オリジナルの世界でゲームとして存在するのがこの世界、リーゼ・マクシア。主人公はジュード・マティスとミラ=マクスウェル」
「僕とミラが…?」
「オリジナルはジュード・マティスの視点で一度、この世界の行く末を見たんだ。いや、プレイしたの間違いかな」
意味が、わからない。
理解が追いつかない。
僕の視点?プレイした?
どういうことなの?
僕達の困惑した表情を見て彼女はくっく、と嘲笑う。
「だから、君達の出会いから全て、何が起こるかオリジナルは知っていたんだよ」
「そんな…」
「レイア・ロランド、思い出すといい。医療ジンテクスの装着を成功させた時、オリジナルが言っていたことを。君とミラ=マクスウェルは聞いたはずだ」
「!…ジュードが変わったのは、私の存在じゃない…優姫はそう言っていた」
「その通りだったんだよ。オリジナルがいなくてもこの世界は進んでいた。ジュード・マティスは変わっていったんだ」
優姫がいなくても進んだ?
優姫がいなくても、僕は変われた?
「マクスウェルの代用とは別に、自身の守りを強固にするため更なる器を探していたマクスウェルは偶然にも異世界へと繋がった。そこで優姫の見た未来を知り、代用であるミラが使えなくなることを知った。ミラが『足を負傷し動けなくなる』、『使命を忘れ、人間のために死ぬ』ことを知ってしまった」
「待ってください…足って…?」
「ミラは足なんか怪我してないぞーっ!」
「だろうね。なぜならオリジナルがその役目を担ったんだから」
エリーゼとティポがハッと止まる。
いや、僕達も気付いてしまった。
ガンダラ要塞で、優姫のとった行動を思い出す。
あの時、優姫は。
「ミラ=マクスウェルを跳ね退け、オリジナルは一人扉の向こうへ行き、足を負傷しただろ?知っていたからさ、あそこでミラ=マクスウェルが『足を負傷する』ことを」
「優姫が足を怪我したのは、私の…代わりだったのか?」
「本当ならあの行動でどちらも足を負傷することはなかったが、物語を進めるには『足を負傷する』という事象が必要不可欠だった」
彼女は自分の足を指差し、コピーされた際に一緒に作られた医療ジンテクスを僕達に見せ、笑った。
「だからマクスウェルはジランドール・ユル・スヴェントの持つセルシウスに指示したんだ。『優姫の足を潰せ』ってね!あはは!」
「笑い事じゃねぇんだよ…っ!」
腹を立てたアルヴィンが銃を彼女に向けた。
けれど彼女は怖がりもしないで笑い続ける。
「笑い事だよ!マクスウェルが仕向けたように、君たちはオリジナルをミラ=マクスウェルの代用として接していったのだからね!」
「違うっ、私達は優姫をミラの代わりになんてしてないっ!!」
「あはは、残念ながらしてたんだよ。君がオリジナルに『ジュードが変わったのは優姫のおかげ』と言ったのも、ジュード・マティスが『一緒にいたい』と言ったのもみんなみんな!本当はミラ=マクスウェルに向けられた言葉だったんだからさ!」
『優姫、クルスニクの槍を壊しても、ぼ、僕と一緒に…いてくれないかな…?』
『ジュードくん』
『あ、ほら!優姫の故郷とか行ってみたいし、僕達また指名手配されてるから、色んな街を旅する、みたいなさっ』
『………そう、だね』
あの時優姫は、どんな想いで頷いてくれたんだろう。
僕が何も考えず口にしていた言葉を、どんな想いで聞いていたんだろう。
また僕は、知らず知らずに優姫を傷つけたんだ。
「さて、話を纏めようか。君達と旅をし、そして死んだオリジナル、優姫はこの世界に存在しない人間。ミラ=マクスウェルの代わりに足を負傷し、ジルニトラで死ぬ使命を持ち、そのためだけにマナを詰められたただの器。ただの捨て駒の代用品だったんだよ」
違う、違う。
優姫は、誰かの代わりなんかじゃなかった。
ミラがミラであったように、優姫は優姫だった。
みんなのことを心配して、怒って、笑って、泣いて、いつも走り回ってた。
誰かを救えない度に唇を噛み締めて、泣くのを我慢してた。
弱いところを隠そうとして、平気な顔をして笑っていた。
そんな優姫だったから、僕は心配をしたかった。傍にいたかった。
守りたかった。
「優姫は、代用品なんかじゃない…ッ!!」
「ああ、そうだ。優姫は優姫だ」
僕が構え、ミラが四大を召喚する。
「わりーけど、同じ顔でも馬鹿なことばっかしてた優姫の方がしっかりしてたね」
「優姫は、いつも前を向いてました…!」
「お前みたいに人を物呼ばわりしなかったー!」
「そうだよ。優姫は使命だから動いてたんじゃない!」
「仲間を想い、相手を想い、優姫さんなりの正義を貫いていました」
アルヴィン、エリーゼ、ティポ、レイア、ローエン。
全員が武器を手に、優姫の顔をした別人の彼女に構えた。
彼女はただ口元だけで笑う。
「もう話はいらないようだね。じゃあ、ミラ=マクスウェル以外は死んでもらおうかな」
「オリジナルとは違って今の私は大精霊として生み出された。簡単に倒せるとは思わないでね?」
僕とミラが飛び掛かり、一撃を入れる。
だが彼女はそれを片手で展開した魔法陣で防ぎニヤリと笑った。
「狂乱せし、地霊の宴よ」
「!下がれジュードッ!!」
「ロックブレイク!」
僕達の立っていた場所を地の精霊術が繰り出された。
まさか、優姫が詠唱を?!
「霊力野がなかったんじゃねーのかよ!」
「だから言っただろう?今の私は大精霊。精霊術も唱えられる。まあ、私もまだ未完成だから詠唱が必要なとこが難点だけど……ね!」
「ちぃっ!!」
「氷の刃よ、降り注げ!アイシクルレイン!」
ダダダダッとアルヴィン達のいた辺りを詠唱通りの氷の刃が降り注ぐ。
ローエンが咄嗟に障壁をつくるも、半分以上が当たってしまっていた。
「アルヴィン君!ローエン!」
「聖なる意志よ、我に仇成す敵を討て!」
「!!」
「ディバインセイバーッ!」
「きゃぁぁっ!!」
膝をつき苦しむアルヴィンとローエンにレイアが駆け寄ったと同時に、また強力な精霊術を放たれレイアと傍にいたエリーゼも吹き飛ばされる。
「みんなッ!!」
「あとは、ジュード・マティスだけっと」
「させんぞ!!」
「おっと、君は攻撃しづらいから嫌だなあ」
ミラの唱える精霊術を軽々避けて、向かってきたミラの振りかぶる剣を剣で受け止めた。
「なっ!」
「丸腰だと思ったかい?甘いなぁ。実は私、剣は自分のマナで作ってるから普段は隠せておけるんだよね」
「くっ…イフリート!!」
「だから甘いってば」
パンッ
イフリートが放つ炎は、片手で消されてしまった。
なんだ、これ。たしか前にも似たようなことがあった。
(そうだ!初めてミラと会ったとき…ウンディーネの術に飲まれた僕を、優姫が触って消したんだ…!)
「なぜだ、イフリート!」
「イフリートのせいじゃないよ?マクスウェルがオリジナルにマナを詰め込んだ時に、簡単に壊れないよう大精霊クラスの術は消せるよう仕込んだんだ」
「なに…?!」
「じゃないと、ミュゼの術が効いてる中を普通に歩けるわけないだろ?まあ、セルシウスの時は例外だけどね」
それで、優姫はあの重力に押し潰される中を普通に歩いていたのか。
「ミラ=マクスウェルの代わりに死んでもらうためには動けないと困るからね。それが使命なのだから」
「ふざけるな!優姫の使命は私の代わりに死ぬことではない!」
「じゃあなに?そこの『ジュードくん』を悲しませない?守るため?そんなのオリジナルが勝手に決めた偽物の使命だ。馬鹿馬鹿しいったらないね、代用品の分際で」
「………違う」
『私がここでミラの代わりに力を使うのは、与えられた使命だからじゃない』
違う。
優姫は偽物の使命に生きたわけじゃなかった。
『これは、私の』
「優姫の意志だったッ!!」
僕が飛び出し、優姫に拳を振り上げた。
けれどニヤリと笑った彼女はそれを容易く障壁をつくり受け止める。
「優姫は自分の意志で選んだ!君の言う使命に生きたなら、あの時ミラだけを生かせばよかった!けど優姫は僕達を生かした、守ってくれたんだ!!」
「そこがオリジナルの欠陥だ。感情なんてあるからそんなミスが起こる」
「違う!!欠陥してたんじゃない、優姫はみんなを……僕を守るという信念を貫いたんだよ!!」
何度も何度も、拳を振るう。
けど、届かない。
届かなくても、届かせてみせるんだ。
諦めない、ミラのように。
優姫のように!!
パリンッ
「ぐぁっ!!」
頭上から何かがひび割れる音が聞こえ、呻く声と共に彼女の後ろに誰かが吹き飛ばされてきた。
何が起きたかわからないけど、僕の前にいた彼女は笑みを消し、目を見開き振り返った。
「マクスウェル!どういうことだ…?!」
マクスウェル?
あの老体の姿をして倒れているのが、本物のマクスウェル?
パリンッ
「ジュードくん、避けて!!」
ハッと後ろへ下がる。
またひび割れる音と共に人が降りてきて、障壁をつくっていた彼女を蹴り飛ばした。
見慣れた姿。
会いたくて、焦がれた姿。
今度は、間違いない。
「…優姫…?」
「や、ジュードくん!相変わらず天使だね!」
そう花のように笑う彼女こそが、僕達が待ち望んだ優姫だ。
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