chapter 03
DREAM
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私のなすべきこと、使命。
これは誰かに与えられるものなんかじゃなくて。
自分で決めることなんだ。
29.『がんばれ』
「今のは何だったんだ?クルスニクの槍のようだったが…光は何処からだった?」
「光の発信源はジルニトラで間違いなさそうだ」
私とミラがみんなと合流する頃には空へと伸びる光は消えていて、ミラがみんなに尋ねたらウィンガルが答えてくれた。
「再び断界殻に穴が…」
「けど、前とは違って船が入ってこなかったわね」
「集めたマナをエレンピオスに送った感じじゃなかったか?」
「アルヴィンの考えは正しかったんだね」
ジュードくんがそう言えば、アルヴィンは捻くれた顔で笑う。
「最悪な現実だけは、ウソにならねえってのが皮肉だよな」
それには全力で同意します。
と心で賛同していたら、アグリアが空の先を指差しケラケラと笑い出した。
「アハハハッ!上等じゃねぇか!」
「こちらに接近する敵の船がいるぞ!全員衝撃にそなえろ!」
艦橋から兵の焦る声が響く。
敵がきたのだ。
砲撃を受け、思うように動けない私達に敵艦はぶつかってきて、みんなの体勢が崩れる。
「さっそくお出ましか」
黒匣を備えた兵達がこちらの戦艦に降りてきたと同時に、戦闘が始まった。
こんなとこでプチ戦争とかやめてもらいたいですね!
「うぉりゃぁぁっ!!」
「蹴散らせッ!」
「!ガイアス?!」
正面の敵を斬り上げたと同時にガイアスが私の背後の敵を斬り捨てる。
もしかして、助けられたんだろうか?
「ガイアスありが」
「はぁぁぁぁッ!!」
「…うんわかってたよ。助けてくれたわけじゃないよね目の前に敵がいたからだよね」
私をスルーして敵に突っ込んでいくガイアスに泣きたいところだが、こんな戦場のど真ん中で立ち止まるわけにはいかない。
間髪入れずにやってくる敵を倒していたら、ジュードくんと綺麗に背中合わせになった。
「ジュードくん、無事?」
「うん。でもキリがないよこれじゃ!」
「(ザマねえな。その程度かよ!)」
「おいこらウィンガル!ジュードくん馬鹿にすんな!」
「い、今の馬鹿にされてたんだ…」
いつの間にかブースターを使用しロンダウ語で私達の会話に参加してきたウィンガルに抗議すれば、ジュードくんは苦笑していた。
ミラ達が苦戦している様子も見える。
この辺りでジルニトラに行かないと、みんなの体力が持たない。
「ガイアス!この船ジルニトラに突っ込ませてしまえ!」
「!…艦橋!」
「え、ほ、ほぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
艦橋は砲撃を受け、傾いていく船。
海に落ちた衝撃でフラフラする。
「酔う…っての!」
「ぐぁっ!!」
背後から来たやつにジュードくんの真似をして回し蹴りをし、横付けに成功したジルニトラ目掛けて飛び出す。
ジルニトラにはすでにジュードくんとミラが飛び込んでいて、敵に囲まれていた。
「よいしょ!」
「!ユウキ!」
「数は多いがやるしかない…行くぞ二人とも!」
着地すると、私に気付いた二人が間合いを取りながらこちらに合流し、いざ向かおうとした瞬間。
ジュードくんの後ろにいたミュゼが高く飛び上がった。
「もう…ごちゃごちゃとうるさい!」
ミュゼはそう吐き捨てると、詠唱もなく術を発動させ生み出した球体で戦艦を包み込み、破壊した。撃沈していく船達。
想像もしなかった圧倒的な戦力にみんなが息を呑む。
「ミュゼ…すごい」
「ジュードの使役のおかげ。力が戻ってきたようです」
ふわりと降りてきて、笑うミュゼ。
ミラも驚いているようだ。
「それほどの力の持ち主だったのか」
「さっすがミラのお姉さん!」
「心強いです、ミュゼ」
「うふふ。私はここで皆様に力をお貸しします」
集まってきていたみんなの言葉に、そう返してミュゼはミラではなく私の方を向いた。
私にだけ見せる、妖しい笑み。
「ユウキ。ミラをお願いね」
「おうよ。…ミュゼ」
「なぁに?」
「私さ、ミュゼのこと嫌いじゃなかったよ」
「……そう」
ミュゼは一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに上へ飛び上がり姿を消した。
ミュゼの笑顔は怖いけれど、それでも嫌いじゃなかった。
このあとの出来事で、ジュードくんを追い詰めるようなことを言ってたのはムカついたけど、でも救ってあげたかった…多分。
私とミュゼのやり取りに疑問があったらしく、ミラが私の肩を掴み振り向かせる。
「ユウキ、何の話だ?」
「えと、ミュゼが妹が心配だ~って話。よし、ここからが正念場だよミラ!」
「あ、ああ…」
にへらと笑ったら、困った顔をされた。
うむ…ミラを困らせるつもりはなかったんだけどな。
「時間はあまりありません。敵の増援を防いでいる間が好機です」
「なら、ここは二手にわかれた方がよさそうだな」
ローエンとミラがそう言うと、いつの間にか来ていたガイアスが来て、チラリとジュードくんを見る。
「わかってるよガイアス。僕のなすべきことを忘れるな、でしょ」
「……ユウキ」
「ん?なに?」
「俺と来い」
こちらを向きもせず言われた言葉に、ポカンとしてしまった。
先程のシリアスからの急展開にジュードくんも「え、え?」と困惑してしまっている。
ハッと意識を取り戻し、私はガイアスの背中に叫んだ。
「が、ガイアスのバホーッ!それはジュードくんに向けて言う言葉だろーッ!ガイジュフラグ潰す気か!?」
「何の話?!」
「…フ」
ガイアスはそのままスタスタと歩き出してしまった。
な、何だってんだガイアス…はっ!もしや励ましてくれてた?!わかりづらっ!
「ヤツらの企み、ここで必ず阻止する!目標はジランド、並びにクルスニクの槍だ」
ヒュルルル……ドスッ!
「俺も手を貸しましょう、ミラ様!」
「お前まだいたのかよ?」
「邪魔だからこっちくんなー!」
「つーか帰れ今すぐ帰れアホ巫子」
ガイアスの宣言で場が引き締まろうとした瞬間、イバルが落ちてきてドヤ顔をするがアルヴィンとティポ、私で一斉射撃ならぬ一斉ツッコミをした。
「ふん、俺はガイアスにつく!」
「ジャオの抜けた穴でも埋めてもらおうか」
「いやウィンガル、このアホ巫子には無理だから。ジャオと一緒にしたらジャオに怒られるから」
「何だと!余裕だ余裕!」
「……」
「よ、余裕だっ!」
ガイアスに睨まれるも冷や汗かきながらイバルが言えば、諦めたのかどうでもいいのかガイアスは「行くぞ」とだけ言い、四象刃を連れて客船の中へ入っていった。
イバルはまたドヤ顔でこちらを向き、私とジュードくんを指差して騒いでいたが無視しておいた。
「行くわよおバカさん。……アル」
イバルを連れて中に入る前に、プレザはアルヴィンを呼んだ。
なんだよ、と偉そうなアルヴィンに、一言。
「死なないで」
すごく悲しそうな顔だった。
プレザは本当にアルヴィンが好きなんだ。
裏切られても信じてしまって、好きなままで…。
アルヴィンは何も返すことはなく、私達も別ルートからジルニトラ内部へ潜入することとなった。
「アルヴィン、道案内頼める?」
内部に入り、どう進むかといったところでジュードくんがアルヴィンに頼むも、苦笑されてしまった。
「悪い。道わかんないんだ。俺、ジランドと折り合いが悪くてさ。ここに来るのも二十年ぶりなんだよ」
「もー、肝心な時に役に立たないなー!」
「ティポ。そんなこと言っちゃダメだよ。アルヴィンだって色々あったんだからさ」
「え」
「え?」
フワフワ浮かびながら悪態つくティポを宥めたら、アルヴィンを筆頭にみんなが私を見てキョトンとしていた。
「なに?!私何か変なこと言ったかな?!」
「えっと…ユウキがアルヴィン君に優しいと何かー…」
「変、です!」
「ガァンッ!!私今までアルヴィンに親切親身になってたと自負してたのに!」
「どこがだよ。よーく胸に手を当ててこれまでの記憶を思い出せ」
「よくわかんないです!」
誤魔化すようにバンッと扉を開き中央甲板に出たら、敵が待ち構えていました。
「うぉわっ!敵襲?!」
「行くよみんな!」
不意打ちだったが意外とあっさり倒せてしまった。経験を積んでるからね!
と、レイアが首を傾げながら何かを拾い上げた。
「何これ?」
「通信機だな。連絡を取り合うのに使うんだ」
「レイア貸して貸して!へぇー…私触るの初めてだよ。通信機って意外と大きいなー」
「おたく、通信機を知ってるのか?」
「うん知ってる」
開き直って肯定したら、アルヴィンは眉を潜めた。
もういいです…疑いたきゃ疑えばいいさ!
どうせ私はウソつくのとか苦手だし!思ったことが口から出ちゃうし!
と、ノイズ混じりに通信機から音声が漏れ出てきた。
《…船内の侵入者を一名確保……戦闘要員は急行せよ……》
「すげー、声でてるー!」
「ははは…ティポが言うとなんか…」
ぬいぐるみが喋るのと通信機となら断然ぬいぐるみの方が謎である。
《……貴様……なんだ……俺を…何に向かって話し……くそ…また…負ける……かーっ!》
「イバル…だよね?捕まったんだ。助ける?」
「…すべてを終わらせてからでいい」
「というか、しばらく反省してもらおうあのアホ巫子め」
やれやれとミラ同様肩を竦めていたら、船が揺れた。
「な、なんですかっ?」
「…精霊がまた大量に消滅した…」
「クルスニクの槍を使ったってことか」
「急がないと!」
みんなが内部を探索するため進む中、私は手に持ってた通信機をジッと見つめる。
(なんか…携帯が恋しくなるなぁ…)
「ハッ!今こそ通信機に向かって『レインボーブリッジ封鎖できません!』って叫ぶべきじゃ!」
「レインボーブリッジ?」
「ぎゃあ!何でもないよジュードくんさぁ行こう!」
豪華客船ジルニトラ内部、中央ホール。
「わ、お城みたい!」
レイアとエリーが中の構造に驚いていた。
もちろんジュードくん達も華やかでしっかりとした構造に、戦艦らしさを見つけられず呆然としている。
「このジルニトラは二十年前、エレンピオスの海を旅した旅客船だ」
アルヴィンが懐かしむように、けれど悲しそうに話してくれた。
先を歩くアルヴィンの後ろをみんながついていき、彼の話しを聞く。
「二十年前に断界殻の一部が破れた時に、こっちに来ちまったんだ」
「二十年前か…エレンピオスの軍勢に断界殻の一部が破られた時だな」
「エレンピオスはクルスニクの槍もなく、どのようにして断界殻を破ったのですか?」
「詳しいことは私も知らないが…」
「クルスニクの槍のオリジナルを、エレンピオス軍が開発したんだ。聞いた話だがな」
アルヴィンは、六歳の時にこの世界に来た。
その時に父を失い、母は心を病み、叔父であるジランドは、アルヴィンを騙した。
私は想像することしか出来ないけれど、それだけでもすごく胸が苦しくなる。
なら、アルヴィンはこれ以上の苦しみを抱えて生きてきたんだろうか。
「今あるクルスニクの槍は、それをマネしてつくったもんらしい」
「それって…精霊が欲しかったから?」
「エレンピオスは黒匣に支えられて発達した世界だ。黒匣と精霊は文明の要なんだよ」
「どうしてやめられないんですか?精霊を殺すなら、やめるべきです」
「きっと、みんなアルヴィンと一緒でウソつきで野蛮なんだろー!」
「俺、野蛮か~?…でもさ、黒匣がなけりゃ何もできないんだよ、俺達は」
アルヴィンが足を止めた。
「俺達に霊力野とやらはねーのよ」
「え?…それって、ユウキと同じ…?」
「だから精霊術は使えない。マナを操るなんてマネできねぇんだ」
「それで黒匣を使っていたのか。なら、ユウキは」
「俺もそいつに聞いたけどよ、エレンピオス人じゃないんだと」
今度はアルヴィンから視線が私に集中する。
私は俯いていた顔を上げてヘラリと笑ってみせた。
「えへへ…でも前にも言ったけど、私はゲートがなくても剣があるからね!それに私が精霊術使えたら最強じゃね?」
「くそ、封鎖線を張りやがったな」
「おいこら無視すんな!あっティポ、それ触ったら真っ二つになるよ~!」
「こわーっ!」
アルヴィンは説明をしていないのに、道を拒むように張られた封鎖線の危険性を知っていた私を振り返り見る。にへらと笑ったら渋い顔をされた。なんでだ。
《警告!中央部に封鎖線を展開完了。しかし他区間の封鎖線が起動しません!》
《なんだと?!発動機の不調かっ?》
《いえ、発動機は二基とも正常に稼動中。他の装置の故障と思われます》
《中央の封鎖線を消すわけにはいかない。全力で左右の発動機を死守しろ!》
「…ナイスタイミング」
通信機から漏れた情報にアルヴィンがにやりと笑った。
「どうやら左右にある発動機をとめれば、封鎖線は消えるようですね」
「よっし、行こう行こう!」
「待って、ユウキ」
ジュードくんに呼び止められた。
振り返ることができない。
ジュードくんの顔を見るのが、怖かった。
「もう、教えてよ。ユウキは何者なの?ユウキのなすべきことって、一体」
「ジュード」
「ミラ…?」
「その話はジランドを討ち、クルスニクの槍を破壊してからにしよう。ユウキ、それでいいな?」
「………うん」
アルヴィンがウソつき?裏切り者?
私には、そんなこと言う資格がないじゃないか。
ジュードくんを最初から騙していたのは、どこの誰だよ。
「アルヴィン、頼むぞ」
「あいよ」
左右に設置される発動機を探して、端から端まで内部を移動し、見つけた発動機をアルヴィンが銃で強引に破壊する。
構造が気になってたらしいジュードくんは少しじと目だ。
「とにかく、これで封鎖線は消えたはずだよね」
「うむ、ホールに戻ろう」
うう…さっきのやり取りのせいか、ジュードくんに話しかけづらい…。
先を歩くジュードくんとミラの後ろ姿をへこみながら見つめていたら、レイアが隣に来てくれた。
「ユウキ、ジュードはユウキを疑ってるから聞いたんじゃないと思うよ」
「レイア…」
「その、ジュードは…ユウキが好きだから、隠し事しないでほしいんだと思う」
「レイア、私は」
「だから、全部終わったら私にもユウキのこと教えてね!」
笑顔を向けてくれるレイアに、私は何も返せない。
思えば、私みたいな得体の知れない人間を旅に参加させてくれたことが奇跡だったんだ。
無条件で私を仲間にしてくれたみんなに、私の精一杯を返さなきゃ。
「ユウキ?」
「お腹すいたのー?」
ボーッとしていたらエリーとティポが心配してきてくれた。
私はふるふるとネガティブ気味な思考を振り払い、ティポを引っ張ってやる。
「こらティポ。私の黄昏れ顔見てなぜそう思う!食べたろかー!」
「キャーッ!ユウキに食べられちゃうー!」
「ユウキっティポ食べちゃダメですっ」
「ウソだって、食べない食べない!ああでも全部終わったら…ジュードくんの手料理食べたいなぁ」
「でしたら、早く終わらせてディナーにしましょう。カラハ・シャールに戻って、ドロッセルお嬢様もご一緒に」
「いいねそれ!アルヴィンに踊ってもらって、それ見てみんなで騒ぐとか」
「俺もかよ…ま、いいけどな」
「ほんとに踊ってくれるの?!」
「それはナシ」
あ、でもアルヴィンは優雅に踊りそうだなぁ。
貴族様だし、ミラと並んだらすごい美男美女になりそう。ジュードくんと並んだら私が嬉しい。アルジュ万歳!
「にやけんなっての」
「あだっ!敵の本拠地でも叩かれた!」
「二人とも、もうすぐクルスニクの槍だ。遊ぶのは終わってからにしろ」
「ミラに怒られた…アルヴィンのせいだ…」
「いーやおたくのせいだね」
アルヴィンに舌を出して威嚇して、よし、と私は気合いを入れる。
大丈夫だ、ジランドを倒してクルスニクの槍を止めるんだ。
「ご苦労なこった」
封鎖線が消え、クルスニクの槍のある部屋に入れば、槍の前に佇む男がニヤリと笑った。
「わざわざマクスウェルを連れて来てくれるなんてな」
「……」
「アルフレド・ヴィント・スヴェント。裏切った理由を聞かせてもらおうか」
「簡単だよ。あんたが昔から大嫌いだっただけだ」
ジランドの問いにアルヴィンはそう答えた。
立ち上がるジランド。
「一生、リーゼ・マクシアで過ごす覚悟ができたようだな」
「…関係ねぇだろ」
「くくく」
ブォンッとジランドの背後に魔法陣が展開された。
瞬く間に放たれる氷の刃をみんなはかろうじて避けるが、微精霊の消滅を感じないことにミラが眉を潜める。
「ジランドぉッ!!」
アルヴィンが銃でジランドを狙い撃つが、ジランドの前に氷の壁が出来防がれた。
セルシウスだ。
「またあの精霊さんっ」
セルシウスは私達に向けて自ら破壊した氷の壁のカケラを放ってきたが、ミラが精霊術で壁を作りこちらも防いだ。
「セルシウス!」
「っ!」
名前を呼べば、セルシウスは肩を震わせる。
ずっと不思議だった。
なぜセルシウスは私に罪悪感を感じながら攻撃をしてくるのか。
答えは簡単だ。
私をマクスウェルだと初めから認識しており、絶対的な忠誠を私に誓っている『設定』をこの世に再び存在した際に、本物のマクスウェルに備えられたのだ。
「マクスウェル、様」
「俺の許可なく口を動かすな」
パシンッとジランドがセルシウスの頬を打つ。
その非道な姿に、みんなが絶句し、嫌悪をあらわにした。
「ひどい…どうしてそんな人に従ってるのっ?」
「……」
「道具は主人に仕えるのが当然だろう?」
「精霊は人と一緒に生きていくものでしょ!それを道具だなんて!」
「こいつは精霊だが、ただの精霊とは少々違う。こいつは」
「オリジン」
ジランドに被せて代わりに答えてやれば、ギリッと私を睨みつけてくる。
「ブースターを使って、精霊の化石になっていたセルシウスを復活させた。あなたの言葉を借りれば、精霊術自体が形をなした存在、だっけ」
「てめぇ…」
「オリジンのマナを術として使ってるから道具なんだよね?」
「ユウキ…?」
ジュードくんが怪訝な声で名前を呼ぶけれど、私のジランドへの怒りはまだまだ序の口だ。
なので、ここぞとばかりに言ってやるんだ!
「ナハティガルは騙すしティポからデータを抜き取るし、ミラを殺そうとするし色んな人巻き込むし…アルヴィンも傷つけたし!!」
「ユウキ、お前…」
「もー堪忍袋の緒が切れました!!」
某プリティでキュアキュアな台詞で剣を抜き、ジランドに向けてやった。
「そのもみあげ、ひきちぎってやんよ!覚悟しろ!!」
「ふん。お前だけは生かしてやるが、他は皆殺しだ!!」
「カタをつけてやるぜガキ共!!」
「それはこっちの台詞だジランド!!」
銃を手に向かってくるジランドにアルヴィンが応戦する。
私も見計らいながら飛び掛かるが、なかなかに隙がない。
「マスターはやらせません!!」
「どけ!セルシウスッ!!」
「気をつけて、ミラ!」
セルシウスにはジュードくんとミラ、ローエンが応戦し、ジランドには私とアルヴィン、レイアとエリーが向かっていた。
「ちょこまかしやがって!てめぇは寝てろ!!」
「寝てたまるか!!そっちこそ大人しくしてろっての!あとみんなに土下座して謝れ!!」
ジランドに斬りかかれば、やけに固い銃で受け止められる。
どうすりゃこいつの動きが止まるんだ!
「離れてユウキ!くらえっ!!」
「ガキはすっこんでろ!!」
「きゃあ!!」
「レイアっ!!」
私の剣を振り払った銃をそのまま、向かってきたレイアに食らわせる。
吹き飛ぶレイアにエリーが駆け寄り治癒術をかけるが、それを追撃しようとジランドが銃を向けたからそれを足で蹴り飛ばしてやった。
「ちぃっ!!マクスウェルッ!!」
「人を勝手に精霊の主にすんなって言ってんだろ!!大体、ガイアス達はともかくなんでアルクノアが私をそう勘違いしてんのさ!」
「勘違いだぁ?そうやって自分の正体偽って仲間ごっこして、楽しんでたんだろ?」
「!!偽ってなんかない!!」
(本当に?みんなに自分のこと何も話さなかったのに?)
「てめぇがナハティガルにエレンピオスの話をしようとしたときは焦ったぜ。思わずセルシウスを使ったが、そのおかげでお前がマクスウェルだと知れたがな」
「違う!セルシウスは勘違いしてるだけだ!私はただの」
「ただの人間だと?なら言ってみろよ!自分はマクスウェルではなく普通の人間だってな!誰もお前の正体を知らねぇのに信じるわけねぇだろ!」
「ジランド!!」
「!アルフレド!!」
怯んでしまった私を庇うように、アルヴィンが私の前に立ちジランドに銃を撃ち込む。
何発か当たったようで、ジランドはギリッとこちらを睨んできた。
アルヴィンはジランドの方を向いたまま、優しい声をかけてくれる。
「詳しい話は、これが終わったらしてくれんだろ」
「そうだよ…マクスウェルとかなんか今ちょっと混乱してるけど…あとで全部話してくれる約束だもの!」
「約束、しましたから!」
私がマクスウェルだなんてジランドが大きな声で言うものだから、みんなに聞こえたらしい。
けれど初めて聞いて困惑しながらもレイアとエリーは私を守ろうとしてくれる。
「あーあー、お仲間ごっこご苦労様。だが俺はそいつを手に入れ……ゴホッ!!」
唐突に目を見開き、ジランドが崩れ落ちた。
離れたところではセルシウスも倒れている。
「…ジランド。大精霊の使役はゲートがないとかなりの負荷がかかるんだ」
「…くそ。ようやく源霊匣を生み出せたってのに…」
仰向けで倒れ、もう動くこともままならないジランドにそう告げれば、悔しそうに息を吐いた。
「あんたの目的はせいぜい向こうのやつらに恩売って、のし上がるためだろ。源霊匣とやらに何の意味があるっていうんだ」
「…源霊匣は、黒匣とは違い精霊を消費せずに、強大な力を使役できる。だから、人と技術に溢れたエレンピオスには必要なんだよ」
「どういうこと…?」
いつの間にか私達のところにきていたジュードくんが尋ねたら、ジランドは源霊匣の装置らしきものを取り出した。
「エレンピオスは精霊が減少したせいで…マナが枯渇し、消え行く運命の世界だ」
そう言うジランドの手から消えかかるそれに、思わず手を差し延べる。
「!お前…」
「ジランドは嫌いだけど、セルシウスは嫌いじゃないからね」
ジランドの手には何も残らなかったが、具現化していたセルシウスは消えず、ゆっくりと顔を上げていた。
「でも…世界がそうなったのは、黒匣を使い続けたあなたたちの自業自得じゃない…」
「源霊匣が広まれば、エレンピオス人もマナを得られる」
「今さら何を。二千年前、黒匣に頼る道を選んだのはお前達だ」
「俺じゃねぇ!!」
ミラに言われ、ジランドが叫ぶ。
ああちくしょう、この言葉のせいでジランドを心の底から憎めないんだ。
「わかってるよ。ジランドがそうしたわけじゃない」
「!」
「だからって許さないからな。ジランドのしたことは許されないことだ!バカ、アホ、略してバホ!」
「は…マクスウェルとは思えねぇ語彙のなさだな……ぐぁぁっ」
苦しみ悶え始めたジランドに、アルヴィンが駆け寄るが、もう手遅れだ。
「俺が死んでも、リーゼ・マクシアの運命は変わりはしねえ!お、俺達の計画は、断界殻がある限り、続けられるぞ……ザマぁみやがれ」
そう言い捨て、ジランドは動かなくなる。
(権力に目が眩みさえしなければよかったのに…ジランドのバホー…)
「…これは返してもらうぜ。ジランドール・ユル・スヴェント……叔父さん」
アルヴィンはジランドの懐から銃を抜き取り、ジランドの見開いたままの目をソッと閉じさせた。
「ユウキ、さっきジランドが言ってたのは…」
「……ミラ!操作盤はそれだと思う!四大を解放してあげて!」
ジュードくんが声をかけてくれるが、今はまだ何も言えないので聞こえないフリをした。
ジュードくんを避けて、膝をついたままのセルシウスを起こしてあげると、フワリと浮かび上がる。
「あ…」
「や、セルシウス。どう?普通に動けそう?」
「はい…私を、救ってくださったのですね…」
「いやはや、なんか照れるなぁそういうの」
えへへと頭をかいていたら、ミラが四大を解放しているのが見えた。
イフリート、ウンディーネ、シルフ、ノーム。
久々に見る大精霊たち。
「お前達、無事で嬉しいぞ。…さて」
「お前は四大を召喚できるのか」
クルスニクの槍を破壊しようとミラが向かいかけた時、ガイアス一行が到着した。
四大を召喚したミラにガイアスは表情を変えないまま尋ねれば、ミラも表情を変えず振り返る。
「こればかりは邪魔はさせない。クルスニクの槍は破壊する」
「……」
「や、こっち見ないでガイアス。私ジュードくんみたいにアイコンタクトできないから。あれはガイジュだけが出来るラブコンタクトだから」
「ユウキ」
「ひっ!じゅ、ジュードくん」
「やっと僕の顔、見てくれたね」
集中回避したのかと思うくらい気配なく私の後ろにきていたジュードくんに、冷や汗かきながら振り返るとそう言われた。
へ?とジュードくんに疑問符をぶつければ、ジュードくんがため息を吐きながら笑った。
「ここを出たら、全部話してくれるんでしょ?」
「ジュードくん…うん、私ちゃんと、全部はな」
グワンッと船が大きく揺れ、私の言葉は途切れてしまった。
気づけばみんなが身体を床に沈ませて苦しそうに悶えている。
「体が…押し潰される…!」
「この程度の術…破ってみせる…!」
「破る…?そうだ、クルスニクの槍を使うんだよ。あれは術を打ち消す装置なんだ!」
押し潰されているというのになお起き上がろうとするガイアスに、ジュードくんが閃いた。
「けど、もうマナが残ってないんじゃ…」
「…いえ、ここにいる全員がマナを振り絞って槍に注ぎ込めば、あるいは…」
レイアもローエンも苦しみながらも策を考える。
「アハ、ハ。あれに自分から力をやるって?」
「命懸け、か」
「だがやらねば、ここで終わりだっ」
アグリアもウィンガルも、ガイアスも諦めた様子はない。プレザもだ。
エリーもアルヴィンも、ミラも……ジュードくんも。
―――与えられた使命だけは忘れないでね?
もちろん、わかってる。
「ミラ!」
「!ユウキ…術が…効かないのか?」
クルスニクの槍とは関係ない術だというのに影響のなかった私は、ミラの側まで行き屈む。
「今から酷いこと言う。ごめん。ミラはマクスウェルじゃないんだ」
「!!やはり、そうだったか…」
「でも、ミラは私にとってはマクスウェルだよ。人も精霊も守ろうとする意志、それこそがマクスウェルとして大切なものだと思うから。なのにあの大精霊、人を守るとか言ってんのに人の気持ちを理解しようとしないからなぁ…」
「ユウキ、何を、言っている…?」
「あとミュゼには気をつけて。ミュゼの本当の使命はシェルを知る存在を抹消することだから」
よっ、と立ち上がり今度はアルヴィンに向けて言う。
「アルヴィン!てわけだからミラを殺してもシェルは壊れないし、私今からめちゃくちゃ頑張るけど多分壊せない!ごめん!」
「おい…ユウキ…っ」
「だからって自棄になるんじゃないぞ!約束も守らないと潰すからね!」
剣を鞘にしまい、走ってクルスニクの槍の前に立つと四大精霊が私の周りに集まってきた。
セルシウスも一緒だ。
「ユウキ」
「ウンディーネ。えーと皆さん初めまして…二度目まして?優姫です」
「知っています。あなたはミラの…」
「そ。いきなり連れて来られてそんな使命渡されちゃったミラの代わり」
「ユウキッ!!」
ジュードくんの声だ。
私は振り返れないまま、セルシウスにジュードくん達が来れないようにガラス張りの床にヒビを入れさせた。
私の知る物語で、ミラも同じことをしていた。
「何してるの、ユウキっ!!」
「はやく、戻ってこいっ!!」
ジュードくんとミラが叫んでる。
アルヴィンもエリーもローエンもレイアも。
ああちくしょう、胸が苦しい。
本当は、私に向けられる好意じゃないのに。
向けられて喜んでるなんて。
後ろの声を聞かないようにして、私は側に浮かんでいる四大精霊に声をかける。
「私、力の使い方わかんないからさ、誰か教えてくれないかな?」
「俺達が支える。お前はただ念じればいい」
「そっか…あ、私が力ぶっ放したらミラのところに帰ってよ?みんなはミラの友達なんだからさ」
「ユウキは違うでしか?ミラの友達じゃないんでしか?」
ノームに言われて、えへへと笑った。
「私、友達でいていいのかなぁ?ジュードくんがミラに向けるはずの好意を、取っちゃったのに」
「お前はあのジュードってのが好きなのかよ?」
「もちのろんよ!…私は、マクスウェルにミラの代わりって使命を与えられてこの世界に連れて来られた。けど」
無性に姿を見たくなって、最後だと言い聞かせて振り返ってみた。
ジュードくんと目が合う。
「ユウキっ!!約束、したじゃないか…っ!!これが終わったら、ユウキの話を…それにっ」
「……」
「一緒に、いてくれるって…っ!!」
ジュードくんを、悲しませたくない。
私を信じて、心配してくれたジュードくんを。
一人ぼっちになっていた私を見つけてくれたジュードくんを、守るためなら!
「私がここでミラの代わりに力を使うのは、与えられた使命だからじゃない」
前を向き、クルスニクの槍を起動させる。
これからの物語に私はもう必要ない。
みんなが創っていく未来に、私はもういらない。
ここは大事な分岐点なんだ。
私は、ミラを失って絶望するジュードくんを見たくない。
「これは、私の意志だぁぁぁぁぁッ!!」
ジュードくんを守ると決めた。
これが私の選んだ、なすべきこと。
吸われることなく溜めつづけていたマナを全部クルスニクの槍に込めたと同時に、私の意識は途切れた。
next