chapter 01
DREAM
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初めて、自分の無力さが嫌になった。
けど、帰る場所のない私は、ただがむしゃらに進むしかないのだ。
10.しゃにむに前進
「優姫、大丈夫か」
アルヴィンに肩を叩かれ、ハッと意識を現実に戻す。
ジュードくんとローエンは先に屋敷を出たようだ。
「ごめん。ボーッとしてた」
「…無理もねぇよ。きついならここで待ってても」
「大丈夫、行くよ。ミラ達助けなきゃ!ほら行くぞアルヴィン!」
「あっおい!……ったく」
クレインの遺品であるアクセサリを手荷物の中に入れて屋敷を飛び出す。アルヴィンも。
外ではローエンが警備兵と何か話していて、ジュードくんは私を見て心配そうな顔をした。
「優姫、あの…」
「大丈夫!ミラ達が危ないかもだし早く行こう!」
「うん…」
ジュードくんの方が、ずっとつらい。
手を取ろうとしていたのに、治癒術が使えるのに、助けられなかったんだ。
私なんかより何倍も心が傷ついている。
ジュードくんが傷つかないようにって、ずっとそう思ってきたのに。
「ミラ達が!」
「お嬢様!」
広場へ来ると同時にジュードくんがミラ達を見つけた。
ラ・シュガル兵に担がれるミラとエリー、その後ろを拘束されながら歩いているドロッセル。
そしてその後を、ティポを指先でつまむように持つジランド。
「…!ジランド…ッ!!」
剣を構えてジランドへ向かおうとするが、目の前をラ・シュガル兵が塞ぎ進めなくされた。
ジランドを止めないと、まだまだ犠牲が出る。
たくさんの命が消える。クレインのように。
「道を開けろ…ッ!!」
「お待ちなさい優姫!もう間に合いません。無駄に消耗するだけです」
「ローエン…!」
「あなたたちも退きなさい。目的を達したあとの戦闘はただの蛮行…同じ国民がこれ以上傷つけあってはなりません!」
飛び掛かろうとした私を片手で止めると、ローエンはラ・シュガル兵に一喝する。
顔を見合わせたラ・シュガル兵は武器を収め何処かヘと消した。
私は、何をしてるのだろう。
ローエンだってつらいのに、周りをちゃんと見て感情を殺して動いているというのに。
(悔しい…悔しいよ、兄貴)
自分の無力さが、悔しくてたまらないよ。
ローエンの提案で一旦屋敷まで戻ることにした私達は、ローエンが戻ってくるまで屋敷内の階段の辺りに立ち尽くしていた。
「あ、ローエン」
「お待たせしました」
ようやく帰ってきたローエンは、やはり落ち着いた様子を保っている。
私も、落ち着かないと。冷静にならなきゃ何もできなくなる。
「もういいのか」
「はい。略式ですが葬儀の手配も済ませました」
「…どうしてこんなことに」
「…旦那様を襲った矢は、近術師団用の特殊なものでした。そして、タイミングを合わせた軍本隊の侵攻…考えられることはひとつ」
「ラ・シュガルの独裁体制を完全にするための作戦。ナハティガルの野望」
そう、ゲーム中にローエンとアルヴィンが言ったのを思い出し口にする。
三人の視線が集中してしまい少し慌てるが、ここで雑談をしている場合ではないのだ。
「ミラ達は、ガンダラ要塞に連れて行かれたはずだよ」
「…ええ、おそらくは。一個師団以下の手勢で、複数の街を短期間で攻めるのは戦術的に無理があります」
ローエンは私を一瞬だけ驚いたように見たが、話しを続けた。
「つまり、サマンガン海停は襲撃を受けておらず、未だシャール家勢力下と考えるのが妥当です。そうなるとイル・ファンへとって返すはず…その帰路で駐屯できるのはガンダラ要塞しかありません」
「へ、へぇ…そんなもんか」
「助けに行かなきゃ!」
「落ち着け優等生。焦ってもしょうがないぜ?要塞なんだ、簡単にはいかないだろ」
「いえ、チャンスは今晩だけでしょう。兵の士気も高いとはいえなかった。その上、戦闘後その地で休めず行軍、隙だらけのはずです。そしてこちらは図らずも先手を打てています」
クレインが、私達のために潜入させた味方がいる。
この時のためではなかったのに、結局クレインに助けられた。
「すぐに発ちましょう」
「うん」
ローエンについていくジュードくんの後ろ姿をジッと見つめる。
ガンダラ要塞。
ミラが足を使えなくしてしまう場所だ。
どうしてミラがあんな怪我をしたのかはわからないけど、きっと絶対ジランドだ。
あいつだけは…なんとしても止めてみせる。
「何者だ…?あのじいさん…なぁ優姫」
「…あ、そだね。アルヴィンより頭良いね!」
「…はぁ、ガキの子守はしたくねぇんだがな」
「舐めてんのか!16だからって舐めてんのか!舐めんなよ26!」
「そっちこそ26舐めんなよ!」
んべーと舌出してやったらなんでかアルヴィンに頭をガシガシされた。
なんだろ、微妙に慰められてる気がする。
(そんなにわかりやすいかな私…いかんいかんジュードくんにだけは心配されないようにしなきゃな!)
「でも、ミラが捕まるなんて…」
「不思議はないだろ?敵は四大精霊を捕らえるような奴らなんだ」
「じゃあもしかしたら、四大精霊の時のようにミラを…」
街を出て、街道にて私達に襲い掛かる魔物を倒してジュードくんがふと呟く。
たしかに、あのミラが捕まるなんて不思議だ。もしかしたらミラ編をプレイしてたらわかったんだろうか。
「急ぎましょう、これ以上犠牲者を増やしてはなりません」
「話聞いてる?敵は手強いって言ってんだけど」
やれやれといった様子のアルヴィンにローエンは相変わらずの優雅さで答えた。
「大丈夫。このメンバーならひけはとりません、特にアルヴィンさんの戦闘力はね」
「やけに戦闘力の高い男アルヴィン!よろしくぅ!」
「じいさん、おたくって人を誉めて使うタイプ?」
「相手によりけりです。やる気が出たでしょう?」
「性別によりけりだよ。これが女性の賞賛ならねぇ」
「いよっ!アルヴィンイケメン強くて素敵!」
しん……
ローエンは変わらない笑み、アルヴィンは完全に無視である。
「ジュードくん最近アルヴィン冷たくない?私の賞賛無視だよ私も女なんだけどこの扱い酷くない?!」
「あ、はは…」
ジュードくんが苦笑する。
うんよかった、何か普通に出来てるよね私。
大丈夫大丈夫。この調子でミラ達を助けに行こう!
タラス街道を進み、大きな城のような建物が見えた辺りで私達は身を潜め身を岩陰へ向かい駆け抜ける。兵士には見つからないように建物を見上げた。
本当に大きくて、壁のような要塞だ。
「鉄のお城…これがガンダラ要塞?」
「交易路の安全を守る、という名目で建設されました…けど、そんな面影はありませんね」
「んで?どうやって内通者と連絡するんだ?」
「こちらへ」
ローエンに案内され裏道を通り、建物の陰へ移動すると、高いところに通風口があった。
たしかジュードくんが登るんだっけ。
そいやなんでジュードくんだったんだろ…。
「ジュードさん、あの通風口の内壁を一回、二回、二回と叩いてください。その後、三回、一回と返ってきたら手筈が整っている合図です」
ジュードくんは頷き、近くにあったコンテナを使って飛び乗った。
愛らしい背中を見つめながら先程の疑問をローエンに聞いてみることにする。
「ねぇローエン。なんでジュードくんに行かせたの?私やアルヴィンも行けたよ?なんだったらローエンが行ってもよかったのに」
「私達のいるここはかなり危険な位置なのです。敵に見つかった際、今のメンバーで最年少の彼だけでも逃がせる段取りがいるでしょう?」
「つまり万が一にはジュードと一つ違いのこいつも切り捨てるってことかな?」
「いいえ、優姫さんは私達で守るのですよ」
「ローエン…イケメン…!結婚したい!」
「おや、私も罪なジジイですな」
ほっほっほ。えっへっへ。
ローエンと私が笑うとアルヴィンは「ジュード君早く戻ってきて…」と頭を抱えていたのだった。
返事が返ってきたとジュードくんが戻ってくると、私達も急いで通風口へ登り内側へ侵入した。
内通者である兵士に礼を言い、私達はミラ達を救出するため兵士情報を頼りに2階の牢を目指そうとしたが、まずは制御室に向かうことに。
兵士は言っていた。
囚われた人は逃走防止用の拘束具を足につけられていると。
拘束具をつけたまま呪帯に踏み込むと爆発すると。
そのため全体制御している制御装置を押さえようということで。
「おい優姫、おたく何処へ向かってんだ?!」
「制御装置のある場所だよ!たしかこっちのはず…!」
「ま、待って。どうして優姫は場所を知ってるの?」
焦るばかりか、思わず先に動いてしまっていた。
そのためなんで知ってるのかと訝しげに見られてしまっているけど、今は急がないといけないわけで!
「…に、二回ほど…攻略を…」
「二度も、ですか?優姫さん、あなたはもしや軍に所属を?」
「あ、違う違う!ちょっと寄り道的な…とにかく早く行こう!あっ着いた、ここだよ」
制御装置のある部屋まで到着するが、私は気付いた。
「しまったーっ!制御室の鍵がない!」
「ご安心を。先程倒した兵士から拝借しておきました」
そう笑ってローエンが鍵を取り出して鍵を差し込む。
ローエン…!ほんとなんてイケメンなんだ!
「開きました、行きましょう!」
「ナハティガル!!」
部屋に飛び込むと同時に、ミラの声が耳に入った。続いて剣がぶつかる音。
「貴様のくだらん野望、ここで終わりにさせてもらうぞッ!」
「貴様のような小娘が精霊の主だと…?」
ナハティガルだ。側にはジランド。
ナハティガルはミラの剣先を握ると勢いよくミラごと振り上げると、無防備なお腹に拳を入れて壁まで投げた。
「この程度で、笑わせる!」
「ミラ!」
ジュードくんの声に一度だけナハティガルは顔を上げたが、すぐに倒れるミラへ視線を向けた。
ジュードくんが階段を駆け降りる後ろを私も走る。ミラを行かせるわけにはいかない。
(ここでミラを足止めする…!)
「儂は、クルスニクの槍の力をもってア・ジュールをもたいらげる」
「それでカラハ・シャールを…!どうしてこんなヒドイことばかり…っ」
「下がれ!貴様のような小僧が出る幕ではないわ!」
「ナハティガル王ッ!」
必死に訴えようとも、ナハティガルはジュードくんに見向きもしない。
ミラの側まで行くと、私はミラを庇うように剣を構える。
「貴様などに我が野望阻めるものか」
ナハティガルは私ではなくミラに当たるように先程折ったミラの剣を振り投げた。
しまった、と思ったが、剣は何かにぶつかり地面へと落ちる。
顔を上げれば、空中で魔法陣の上に立つローエンがいた。
「イルベルト、貴様か…?!」
「ローエン・J・イルベルト…」
ナハティガルは驚愕し、ジランドは思い出したように名を口にした。
もちろん驚愕したのはナハティガルだけでなくジュードくんもだ。
「イルベルト…?歴史で習った、あの『指揮者イルベルト』?!」
「ただのじいさんじゃないと思ったが…」
ローエンが地に足をつけると、ジランドが皮肉を込めてこちらを見てくる。
「国も軍も捨てたあなたが、今更なんのご用ですかな?」
だがローエンは近くにいたドロッセルの元へと行く。よかった、エリーも無事だ。
「お嬢様、無事で何よりです。心配いたしました」
その姿を見てナハティガルは目を細めた。
執事となったローエンを、ナハティガルは憎んでいるのだろうか。それとも、寂しく思っているのかな。
わからないけど、ローエンとナハティガルの和解のためには。
「落ちぶれたな、イルベルト。今の貴様にはそれが相応だ」
「陛下、こちらへ!このような者どもにこれ以上構う必要はありません」
ジランドを、止める!
ナハティガルとジランドが兵士二人を置いて扉から出ていく。
それを見たミラが剣を掴み、追い掛けようと身体を傾けた。
「逃がさん!」
「ダメだミラッ!!」
「なっ…?!」
ドン、と。
私はミラの身体を押して、ナハティガル達が向かった通路へ飛び出した。
扉が閉まる瞬間、中に残されたミラと、それからジュードくんが私の名前を呼んでいた気がした。
「…っ、ジランド!!」
これでミラは大丈夫。拘束具は中でみんなが解除する。
私は、ジランドを止める。ここで止められれば、たくさんの人が助かる。
無謀かもしれない。でも行かないといけない。
私はまた走った。
通路を抜け、開けた場所へ出ると出口へ向かうナハティガルとジランドを見つけた。
「ジランドッ!!」
「!な、何ですかあなたは!」
白々しい演技だ。弱い人間を演じて、ナハティガルの側近にまで上り詰めて。
私は剣を構えながら、ナハティガルとジランドと対面する。
「私はお前を許さない…!お前のせいで、クレインさんは…っ!」
「小娘、カラハ・シャールへの襲撃を指示したのは儂だ」
ナハティガルはジランドへ敵意を向ける私を怪訝な表情で見ている。
たしかに最終決定はナハティガルかもしれない。
けど…。
「ナハティガル、あなたはそいつに騙されてる!!」
「な、何を言うんだこの小娘!陛下、早く行きましょう!ここは兵に任せて…」
「ジランドは!!あなたを利用してエレンピ」
ザシュッ
嫌な音がした。
足からだ。何かが足を貫いたのだ。
足を見ると、真っ赤だった。
そして赤とは合わない氷。
(セルシウス…!)
「!あれは…?」
「部下の精霊術でございます、さ、行きましょう陛下!」
「ま、待てジランドッ!!ぐあっ?!」
ザシュッザシュッ
また嫌な音がした。
気付けば足は氷が突き刺さり、見るに堪えない状態になっていた。
「うっぐ…ぅ…ッ!」
足が焼けるように痛い。
血が止まらない。
俯せに倒れ込むと、足を貫く氷が弾けて消えていく。
意識が遠退く。
(ちくしょう…ちくしょうっ!)
瞼が閉じる前に隅にセルシウスを見つけた。
セルシウスは、涙を流していた。
(なんで、泣いてるんだ?ジランドに利用されているから?それとも、私を見て?)
ああもう、頭がゴチャゴチャだ。
でも、お願いだよ、ジュードくん。
ミラが一人で行ってしまわないよう引き止めて。
私はもしかしたら無理かもしれないから、お願いだ。
一人じゃ、何も出来ない。仲間と一緒じゃなきゃダメなんだって、言わ、なきゃ…。
…!…だ、目を…て…!
(あれ、ジュードくんの声だ)
優姫…!起き…!
(ジュードくんが起こしてくれてる。起きねば!)
パチ、と目を開けると、一度だけ見たことのある天井。
あ、ここ領主邸か。たしか泊まらせてもらった部屋だ。
上半身を起こしてキョロキョロしていたら、ちょうど部屋に入ってきたドロッセルと目が合った。
「!優姫!目を覚ましたのね!」
「ドロッセル?あり、私…」
「ここは私の屋敷よ。何があったか覚えてる?」
えーと、たしかジランドてめぇ!ってなって突撃したらジランドがセルシウスを使って私の足を……足?!
「!ドロッセル、私の…足が動かない…」
「え…?」
「ミラ…ミラはどこに?!ダメだ、ミラを行かせたら!!車椅子でいい、私は行かないと…!!」
「ミラならそこよ!優姫落ち着いてっ」
ベッドからはい出ようとしたらドロッセルに押さえられる。
…え?ミラならそこ?
そこ、と言われた場所は私の寝ていたベッドの左側。
見たら、椅子に座りベッドに顔を埋めて寝ている精霊の主の姿があった。
「ミラ…どうして…」
「優姫は本当に危ないところだったの。血まみれで倒れているあなたをすぐに屋敷に連れ帰って、先生とジュードとエリーがみんなで治療したんだけど」
「……」
「先生に昨夜が峠だって言われて、ジュードとエリー、ミラが三人でずっと見てくれてたのよ」
よく見たら、隣のベッドにはエリーが寝ている。
そっか、私死ななかったんだ…。
足はミラの代わりに動かなくなってしまったけど、後悔はない。
それに、ミラが側にいてくれた。
今までのミラなら一人で向かってしまっていたのに、多分きっと私の心配をしてくれた。
「よかった…みんな無事で…」
「優姫…」
ぐぅぅぅぅ…
「……ドロッセル、穴掘って…飛び込むから」
「ふふふっ、ご飯持ってくるわ。足は…先生を連れて来るわね」
「うぇぇんありがとドロッセルぅぅぅっ」
ドロッセルは多少笑顔を取り戻すと、部屋を出ていく。
動かなくなった足。
もしかして足無くなってないかと思い、おそるおそる布団をめくってみたら、ちゃんと二本とも存在していた。
(危なかった…足が無かったらル・ロンド行っても治す可能性がなくなるとこだった…)
はふぅ、と安堵の息をもらすと、ミラが身じろぎした。
あ、起こしちゃったか。
「…ん…優姫…?」
「ミラおはよう!あの、看病してくれてありがとね!」
「!優姫、目が覚めたのか!」
「えっ…優姫っ!」
どうやらエリーも目を覚ましたようでベッドから飛び降りると走ってきて私に抱き着いてきた。
ティポもぐるぐる回りながら「よかったぁぁぁ」と叫んでいる。
ミラは私の足を見て、気が付いたようだ。
「優姫、まさか足を…」
「あはは…うん、動きません。痛みも何にもないや」
「そんな…っ」
「あ、いやいや気にしないで!ミラ達が無事でよかったよ~。ところで私の天使もといジュードくんは?」
「ちょうど先程アルヴィンを探しに街へ行ったところだ」
アルヴィン…ジュードくんを虐めるつもりだな許せぬぇ…!
くそぅ足が動かせたらまた背中に飛び蹴りしてやったのに!
(ん?でも今回はミラじゃなくて私の怪我だからちょっと話が変わるのかな?)
「優姫、何故無茶をした」
「ほへ?」
「そうです…!一人で向かうなんて、無茶です、無謀です…っ」
「そうだそうだーっ!」
「えーと、ちょっとジランドには恨みがあって…」
「…クレインのことは聞いた」
ピク、と私の肩が震えた。
そうか、ミラもエリーも知ってしまったんだ。
ドロッセルは、クレインが私を庇って死んだことを知ったのに、私を心配してくれたのか…?
「…ごめん、私がもっとしっかりしてたらクレインさんは…」
「違う、謝罪等必要ない。私は、お前がクレインのことに負い目を感じ、死ににいったのではないかと思ったんだ」
「…うぅん、そんなことしない。できないよ。だって…」
枕元にあった手荷物から、クレインのアクセサリを取り出し、大切に握り締める。
『あなたの旅に、連れて行ってほしい』
「クレインさんが助けてくれた命だもん。私は、自分の使命を果たすまで生きなきゃいけないんだ」
使命なんて、未だにわからない。
ジュードくんを守ることを、私が勝手に使命にしただけだ。
もしかしたら、私がこの世界に来させられた本当の使命があるのかもしれない。
ミラはそうか、と頷くと、再び私の足へ視線を動かす。
「…優姫、お前の足から大精霊の力を感じたが、誰にやられた?」
「ああ、うん。セルシウスの仕業。ジランドのやつが使役してるんだ」
「ティポを取った悪い人、ですね…!」
「ふむ、ナハティガルもジランドも、まだ何か手を持っていそうだな…」
ぐぅぅぅぅ…
「…ミラ、仲間ですね!お腹すいたよね!」
「うむ、腹が減っては戦はできぬ、だな」
「私もお腹すきました…ドロッセルに聞いてきますねっ」
「聞いてこよーっ!」
エリーとティポが部屋を出ていき、室内に私とミラだけになる。
「優姫」
ん、と顔を向けたら、弾力のあるナニかにぶつかった。
うん、これミラ様のメロンですね。
どうやら私は抱きしめられているらしい。
「あの、ミラ…?」
「本当は、すぐにでもイル・ファンに向かおうと思ったんだ。いや、今までの私なら、向かっていただろう」
「うん…」
「だが、意識を失い血を流し続ける優姫を見て、この辺りが締め付けられた」
ミラが私を少し離し、胸を指差す。
いや、締め付けられたのは胸じゃなくて、きっと心なんだろう。
私を思って、心を痛めてくれたんだ。
「死んでほしくないと、そう思ったら優姫の傍を離れられなかった。だから」
「うん」
「…生きていてくれて、よかった」
「うん…!ミラ、ありがとう!ぐほぅっ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、胸に溺れる。
苦しかったけど、ミラが無事でよかった。
それだけで、私は怪我をした甲斐があったってもんだ。
しばらく抱きしめられたままでいたら、扉が勢いよく開いた。
ドロッセルとエリー、ティポ、そしてローエンだ。あ、後ろにいるのはお医者さんならぬ先生さん?
「優姫、ご飯持ってきたわ!ローエンがたくさん作ってくれたの!」
「優姫さん、目を覚まされてよかったです」
「早くジュード君とアルヴィン君も来るといいねー!」
「ですです…!」
あっという間に賑やかになって、私とミラは顔を合わせて笑ったのだった。
――――――…
「お腹いっぱいだー…うーむ、眠くなってきた」
もう外が夕焼け空になっている。
いいねぇ風流だねぇ。
ちなみに足はやはり動かないとの結論が出た。
わかっていたことだが、やはりこうなると不便だ。
(というか、私この世界の人間じゃないけどちゃんと治るのかな…)
正直それだけが心配だ。
てかジランドのやつ足だけ狙うってなんなんだあんにゃろ!
「あ、そうだ。クレインさんのアクセサリしまわなきゃ…ほぎゃ!!」
「優姫!!」
枕元に置いていたアクセサリを手荷物に入れようと、ベッドサイドに置かれた小さな棚に手を伸ばしたら見事にバランスを崩し倒れてしまった。
そしてナイスタイミングにジュードくんが部屋に。
「優姫…本当に、足が…」
「え、えへへー…わ、悪いけどちょっとベッドに持ち上げてもらえないかな?あ、もちろんお触りはしないよ安心して!」
「……」
無言です。無言でジュードくんは私をベッドに腰掛けさせてくれました。
ひぃぃジュードくんがちょっと怖いよぉぉぉ可愛いけどなぁぁぁ!!
「そ、そいやアルヴィンは?」
「…次の依頼主を見つけたから、そっちの仕事するって」
「よしアルヴィンはボコろう。ジュードくん気にしなくていいよあんな男。ジュードくんにはもっと素敵なイケメンが」
「なんで、なんで笑ってられるの?!足、動かないんだよ?!」
じゅ、ジュードくんが怒った!
どどどどうしようどうするどうしたらいいんだ私?!
「とととりあえず落ち着いて!だってほら、まだまだ旅は長いんだから、こんなことで落ち込んでいられないというか」
「旅って、優姫はもう何もできないじゃないか!」
「ぐはっ、否定できない…とでも言うと思ったか!できますとも!」
「えっ?」
「誰かが言いました。本当の力とは、襲い来る者を打ち破るものでも四大精霊の力を操れることでも、自分の足で歩けることでもないと」
ミラの台詞だ。
足が動かなくなっても立ち上がろうとするミラに、ジュードくんが「終わったんだ」と言うと、ミラは「君が決めることじゃない」と言い放った。
そして本当の力とは何かを、ジュードくんに教えた。
残念ながら私では説得力皆無だろうけども、ミラの代わりに伝えておこうと思った。
ジュードくんが前に進むために。
「…諦めないんだね」
「うん。私はしなきゃいけないことがあるって思ってる」
「…そんな身体になっても?」
「おぅよ!あ、まずはアルヴィンフルボッコが先だな…あの野郎ジュードくん悲しませるとかマジゆるさ…あり?」
すでにジュードくんはいなかった。
なにこれ泣いていい?
翌朝、なんかまたジュードくんに呼ばれた気がして目を開けた。
するとやはり、ジュードくんがベッドサイドにある椅子に座って私を覗いていた。
わぉ朝から天使みちゃった幸せなう。
「おはようジュードくん…今日も天使だね」
「…あのね、僕の父さんが昔、足の動かなくなった患者さんを治療したことがあるんだ」
「ふむふむ!」
「だから優姫、一緒に僕の故郷、ル・ロンドに行こう」
「わかったご両親に挨拶だね。ちょっと正装買わなきゃ」
「買わなくていいよ?!」
……………。
ダバー!
「わ、わぁ!何で泣くの優姫?!」
「だ、だって…やっとジュードくんがいつものジュードくんに…!」
ツッコミを入れられ嬉しくて思わず泣いたら、ジュードくんが慌てながらハンカチをくれた。
うわぁぁんジュードくんのハンカチ嬉しいけど涙止まらないから拭いちゃうぅぅぅ勿体ないぃぃぃ!
ジュードくんはクスと笑うと、私の手荷物を持って立ち上がった。
「前に言ったでしょ?優姫の心配するって」
「おぅ…ぐす…」
「僕が怒ってたのは、優姫が平気な顔をして心配もさせてくれなかったからだよ」
「お、ぅ?」
「でも、優姫は目を離したら無茶をするから、なら意地でもずっと側にいようって思ったんだ。だから今回だけ、優姫の無茶を許してあげる」
ね?と笑うジュードくんはやはり天使でした。
「ってわぁぁだからもう泣かないでってばぁ?!」
「うわぁぁんジュードくんが天使なのが悪いぃぃぃジュードくんマジ天使ぃぃぃ!」
「うむ、たしかにジュードは天使だな」
「「わぁっミラ?!」」
いつ部屋に入ってきたのか、ミラがジュードくんの後ろに立っていた。
そして私をベッドから抱き上げ背負うミラ。
ジュードくんと二人で困惑していたら、ミラは「なんだ?」と首を傾げた。
「優姫の足を治しに行くのだろう?」
「!ミラも、来てくれるの?」
「当たり前だ。優姫は私の仲間で友達だからな。もちろんジュードも」
「ミラぁぁぁ!!ありがとぉぉぉ!!ジュードくんもありがとぉぉぉ!!」
「ふふ、今日の優姫は泣き虫だな」
「はは、ほんとだね」
そしてカラハ・シャール中央広場にて。
エリーとローエンとドロッセルが見送りに来てくれた。
「ドロッセル、馬ありがとう!」
「うぅん、気にしないで。上手くいくことを祈ってるわ」
「あと、その…」
「お兄様のことも気にしないで?私ね、お兄様はきっと、優姫のこと大切に思い始めてたんだと思うの」
馬の上でどういうことかと首を傾げる。
ドロッセルは「それ」とクレインのアクセサリを握る私の手を指差した。
「それね、お兄様が肌身離さず身につけていたものなの。それを優姫に託したってことは、たとえどんな状況であっても命をかけて優姫を助けるわ。それくらい大切に、好きになってたのよ」
「…そっか」
「ふふ、きっとそうよ」
アクセサリを見つめる。
クレインは、どんな状況でも私を助けてくれた、か。
多分、そうなのかもしれない。
クレインは私を庇う前に、私が未来を知っていることに気付いた。
それでも私を庇ってくれた。
私達、もっとたくさん話をしてたら、もしかしたら。
「親友に、なれたかもしれないんだね」
「……え」
「……優姫」
「え?ちょ、ドロッセルもジュードくんも何その呆れ顔?どゆこと??」
はぁ、とローエンも苦笑気味にため息を吐いている。ミラとエリーとティポは首を傾げているけれど。
「それでは道中お気をつけて」
「ローエンも頑張ってね!ドロッセルも!」
「優姫…」
「エリー!大丈夫、足治してすぐに会いに来るからさ!」
「…うん」
ああごめんねエリー!大丈夫だよ、また一緒に旅することになるから!
悲しげな顔をするエリーとティポにブンブン手を振っていたら、ジュードくんがキョロキョロと周囲を見渡した。
アルヴィンを探しているんだろう。
「では行こう、ジュード、優姫」
「あ、うん。それじゃ行くね。みんなありがとう」
「ほんとありがとね!あと…」
すぅぅぅ…
「アルヴィンのバホーッ!!次会ったら飛び蹴りの刑だからな覚えてろーッ!!」
あ、宿屋の方でガタッて音がした。
よしよしちゃんと聞こえたんだな。満足満足。
私のいきなりの大声に驚いているみんな(街の人含む)をスルーし、私は出口を指差し高らかに宣言した。
「さぁ行こう!ジュードくんのご両親にご挨拶するために!」
「目的違うからね?!」
next