chapter 01
DREAM
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふと思い出した。
未来を変えるのは容易いことではないなんてゲームやアニメで聞いたなぁ、なんて。
09.重たい荷物と共に
「うぉぉぉローエンすごい!ローエンいつ投げてるかわかんない!」
「ほっほっほ、お褒めにあずかり光栄です」
峡谷までの道のり、やはり魔物を倒しながら進んでいたのだが、ローエンが強すぎてたまらん。
あのナイフ?いつ投げてんだ?!そいやさっきも街中で兵士を動けなくしたのもゲームでは投げてた瞬間見えたけど、実際いつ投げたか見えなかったな。
ローエンやべぇ…イケメン…!
「たしかに良い動きをするな、ローエン」
「いえいえ。ミラさんに比べたらまだまだですよ」
あのミラが感嘆するぐらいだ。やっぱりローエンすげぇ。コンダクターってよくわからんがすげぇのだ。
「エリーゼの精霊術もすごいよ。きっと人より霊力野が発達してるんだね」
「そんなこと…」
「あるー!うらやましいだろー!」
主にアルヴィンに向けて言うティポ。それにアルヴィンは適当にあしらうかと思えば銃を片付けながら本当に羨ましそうに返事をした。
「ああ、羨ましいね。マナを生み出す霊力野の強さは精霊術士に一番必要な才能だもんな」
「そういえば、ユウキは精霊術を使わないよね」
ええ、使えませんからね!
と言おうか悩んだ末に、ジュードくんとエリーの純粋な瞳に負けて言ってしまった…。
「私精霊術使えないんだ~。ゲートもないし。剣一つでやっていく所存であります!」
「霊力野がない?!」
「えっと…多分。いやまぁ私特効型だから困ってないけどね」
「皆さん、到着しましたよ」
おっと、いつの間にかバーミア峡谷に着いたようだ。
ローエンが遅れていた私達を呼んでくれ、すぐに追いかける。
バーミア峡谷。
登るのも大変そうだが降りるのも大変そうだ。
こんな風景、テレビでしか見たことない…!かっけー!早く登りたい!
「すごい地層だね」
「ここは、ラ・シュガルでも有数の境界帯ですからね」
頭脳派組の会話とは別にティポが上を見上げて嫌そうな声をあげる。
「もしかしてここ登るのー?疲れちゃうよー!」
「えー面白そうだよ!さてちゃっちゃっと」
「危ないッ!」
え、と思った瞬間、身体が持ち上げられ岩影に岩放り込まれた。
反対側にはエリーを抱えるジュードくんと、警戒するローエンが見える。
私はといえば。
「おいアルヴィン。助かったありがとうなぜ放り投げた」
「しかしこんなとこに軍とはな」
「よほど見られたくないことをしているのだろう」
「私の話スルーですねわかります」
どうやら上からラ・シュガル兵にボウガンみたいなので狙われたらしい。
それにいち早く気付いたジュードくんはエリーを庇い、私はアルヴィンに放り投げられたようだ。なぜ私の扱いはこんななんだちくしょー。
「アルヴィン」
「…ダメだ、場所が悪い」
その間にもバシバシッと打ち込まれる音がして肩が震えた。
向かい側でもエリーが耳を塞いで縮こまっている。
すると、ジュードくんが敵に聞こえるか聞こえないかくらいの声でこちらに提案をしてきた。
「ミラ、アルヴィン。僕が注意をひきつけるよ。その間に狙撃兵を」
「囮を引き受けるというのか?危険だぞ」
「大丈夫だよ。きっと」
「…そうか。では任せる」
「うん」
ハイスペック医学生のターンキターッ!
ジュードくんはスッと岩影から姿を現し、狙撃兵が狙いやすい位置に立った。
狙撃兵が構える。
バシュッ!
「…ふっ!」
首を動かすっいう必要最低限の動きだけで、ジュードくんは避ける。
さすがの狙撃兵も驚いたらしく一瞬うろたえた。
もちろん、そこにミラが剣を構えて突進する。振り返り様に撃とうとしたが下からアルヴィンが武器を撃ち落とせば、ミラの勝利が確定した。
「助かったよ」
「そう言われるポイントで活躍するのが傭兵のコツなんだ」
フ、とミラは笑うが、背後から感じた気配に振り返った。
洞窟らしき奥から、私でもなんとなくわかるくらい異様な気配がする。
その中に飛び込むと、イル・ファンで見たのとは形状は違うものの、マナを吸い上げる装置があった。
そしてカプセルのような場所に、街の住人とクレインの姿が。
「クレイン様!…やはり人体実験を行っていましたか」
「ミラ待て!手が吹き飛ぶぞ」
ミラが入口に張られた陣に触れかけた時、アルヴィンが止めた。
あんな薄いものに触れただけで吹き飛ぶなんて、ゾッとする。
「これ、研究所でハウス教授を殺した装置と似てる…!」
「ここでも黒匣の兵器をつくろうというのか?それほど容易くつくれはしないはず…」
ミラは陣の前に立つと、そうかと呟いた。
「私達を追うのをやめた理由がこれか。くだらぬ知恵ばかり働く連中だな」
私もそう思う。
でも、そうまでしてジランドはエレンピオスに帰りたかったのだろうかと思うと、ほんの少し切なくなった。
「…展開した魔法陣は閉鎖型ではないようです。余剰の精霊力を上方にドレインしていると考えるのが妥当です。谷の頂上から侵入して、術を発動しているコアを破壊できれば…」
「みんなを、助けられる?」
ジュードくんの言葉にローエンが頷く。
そうだ、助けなきゃいけない。
ここも、この後も。クレインを絶対に助けてみせる。
ラ・シュガルにとってクレインは邪魔者?最後の砦?そんなの関係あるか。
あんな良い人、死なせてたまるか!
「そうだ、ジュードくん!」
頂上を目指して崖を登っている途中に言わなきゃと思っていたことを思い出し、上から手を差し出してくれてるジュードくんに言うことにした。
このタイミングで思い出す私って…とは思ったがまぁよしとする。
「なに?ユウキ?」
「さっきの、狙撃兵の攻撃避けたのすごかった!めちゃくちゃかっこよかったよ!ハイスペック医学生!」
「かっこよ…ッ?!」
「ぎゃあジュードくん手離さないでください落ちる死んじゃうぎゃぁぁぁぁ」
照れてしまったらしくジュードくんが手を離しかけるから慌てて握り締める。
ジュードくん可愛いけど今は離さないで頼みますぎゃぁぁぁぁ下怖くて見れないぃぃぃぃ!!
「優等生、とうとうユウキがウザくなったか。よく堪えたな」
「アルヴィン覚えてろ!いいから早く引き上げんかいぃぃぃぃッ!」
「ご、ごめんユウキ!」
なんとか引き上げてもらえました。
危うくここで私の人生ジ・エンドするとこだった…。
「なんだココー、変なトコー!」
「ここは複数の霊勢がぶつかる境界帯。ラ・シュガル有数の『変なトコー』ですよ」
「おいティポ&ローエンきれいに私をスルーすな」
ティポはともかくローエンにまでからかわれている!
いつの間にか私の地位低くなってるなんでだ!
「どうやらこの上が頂上のようだな。ユウキ」
「どしたミラ?ほぎゃぁぁぁぁっ」
「こうすれば落ちる心配はない」
フフンと何故か得意げにミラは私を胸に抱えてスルスル蔦を登っていく。
すみませんミラ様豊満なボディが密着してますとくにメロンな部分が私の顔を埋めてます。
「優姫…幸せなう」
「ダメだあの痴女早くなんとかしないと」
アルヴィンうるさい。
頂上に全員が登りきると、大きな穴から異様なオーラが湧き出ていて地面が地震のように揺れていた。
おそるおそる覗き込むが、ここはあまりにも高い。下を見るのが怖いくらい。
「コアが作動してる。けどこの高さ…」
「時間がありません。噴き上がる精霊力に対して魔法陣を展開します。それに乗ってバランスをとれば、無事に降下できるかもしれません」
「つまり、飛び降りるのか?」
「ってことは、コアを狙うチャンスは一度だな」
「…行こう。みんなを助けなきゃ」
「もちのろんよ!怖いけどね!」
みんな一緒なら怖さも半減ってね!
ローエンはふふ、と優雅に笑うと、最年少であるエリーに優しく尋ねた。
「ここで待っていますか?」
「……」
ふるふると首を横に振り、ローエンの手を握るエリー。
おじいちゃんと孫だ…可愛い…!
「手を離さないでくださいね。…では、参りますよ!」
目にも留まらぬ早さでローエンが魔法陣を展開し、私達は迷わずそれに飛び乗った。
まるで大きな紙飛行機のようで、不安定なのかグラグラ揺れる。
「見えた!アルヴィン!」
下降する中、ジュードくんがコアを見つけた。
しかしアルヴィンが銃を構えるもグラグラ揺れて標準が定まらない。
「だが、こう揺れちゃ…」
「これなら…!」
「!…気がきくな」
ジュードくんが台座の役目をし、アルヴィンがコアを正確に撃ち抜いた。
コアが破壊されると、装置は止まり、捕らえられていた人達がぞろぞろと出てくる。
その中に飛び降りると、ローエンはクレインを見つけて駆け寄った。
私はやれやれと肩を鳴らすアルヴィンに声をかける。
「ちょいとアルヴィン」
「なんだよ?」
「ジュードくん良い匂いした?柔らかかった?思わず抱きしめたいなジュードくん!みたいな感情に犯されもがが」
「おたくは俺をどうしたいんだ」
顔面ごと手で覆われ「もがが」という声しか出せなくなる。
ちくしょーアルヴィン手でかい!片手で抑えられた!
「ご無事でなによりです、クレイン様」
「すまない、ローエン。忠告を聞かず突っ走り、こんな結果に…ユウキさんにも言われていたのに」
「もががっ、ぷは、いいんですクレインさん!ほら無事でしたし!」
アルヴィンの手から逃れ、ローエンに抱えられるクレインの傍まで行き首を横に振る。
私が言った護衛を、というのは正直な話ここでのことではない。
ここから戻った後のことだ。
クレインが無事だとわかり、話せることを確認するとミラはナハティガルがいるかどうかを尋ねた。
「ナハティガルはここに来ているのか?」
「僕も、あの男を問い詰める気で来たのですが、親衛隊に捕らえられてしまって…」
「そうか…」
「もーこんなとこやだ、早く外に出よーよー!」
ティポが涙目で訴えてきて、クレインを起こして脱出をしようとしたその時。
コアを覆っていた繭のようなものが輝き出した。
「危ない!下がれ!」
クレインを端へ移動させ、全員が構える。
繭のようなものから、何かが出てくる。まるで羽化したような、そんな姿。
羽を七色に輝かせるそれは、私達に敵意を見せ、殲滅せんと向かってきた。
「これは…強力な精霊術を纏っています」
「あいつを生むのがやつらの目的か?!」
「でもなんか…この感じどこかで…」
「分析すんのは倒してからにしてくれ!ユウキそっちだ!」
「おぅよッ!」
ローエンとミラ、ジュードくんが間合いを取りながら分析するが、結局何かはわからない。
とにかく今は倒さないといけない。
アルヴィンに言われて敵の背後に回ると、剣を振り上げる。
「!思いのほかかたい!うわぁっ?!」
「ユウキ…!ティポ!」
「ユウキにヒドイことするなー!」
足を切ろうとしたが思いのほか固く弾かれてしまった。
バランスが崩れたそこに敵…綺麗な蛾?は精霊術を唱えてきた。
しかし間一髪のところでエリーがティポで攻撃をしてくれ詠唱を止めることに成功。
てかどうやって唱えてんのあれ?!
「ローエン!エリーゼ!あいつの足止めできるか?そこを四人で一気に叩く!」
「わかりました。やりましょう」
「はい…ミラ…!」
「ってわけだ、真面目にやれよユウキ!」
「私だけ名指しはやめてください!」
「二人とも喋ってないでいくよ!」
ローエンとエリーゼが詠唱に集中できるように、私達は四人で敵を囲い近寄らせないようにする。
やはりというか、みんなすごい。ミラの剣さばきは上達してるし、ジュードくんは護身術の域を越えた動きだし、アルヴィンは言うだけはあって一撃が強い。
(私も負けてられない!何か技みたいなの考えよ!)
「行きますよ!エアプレッシャー!」
「ネガティブゲイト!」
ローエンとエリーゼの術が発動すると、敵が怯んだ。
そこへジュードくんとミラが飛び込み、私の世界で言う共鳴術技を叩き込む。
「いくよミラ!」
「ああ!」
「「絶風刃ッ!!」」
そしてアルヴィン。ぼっちで行くかと思いきや、私に目で合図してきた。
樹界でやったアレか!
「ユウキ!」
「任せろぉっ!!」
私が剣に飛び乗ると、アルヴィンが大きく剣を振り上げる。その勢いに乗って大きくジャンプをし、一撃に全力を込めて叫んだ。
「飛天翔星駆ーッ!!」
一撃を放ち、私が着地すると同時に敵も倒れ私達の勝利だ。
「言いたかったんだよあの技名ーッ!!しかも実演しながら叫べるってマジ感動1000%!!うぉぉぉ優姫幸せですありがとうそしてありがとう!!」
「ユウキ…カッコイイ…です!」
「イケメンだねー!」
「手伝った俺は無視か」
「はぁぁぁぁぁっ!」
「ダメだよ!」
倒れる敵に、ミラが止めをさそうと剣を振り上げるが、ジュードくんが何かに気付きそれを止める。
「なんのつもりだジュード!」
「よく、感じてみてよ」
「……なに?!」
ミラも気付く。
敵はまばゆい光を放ち、ゆっくりと景色に溶けていく。とても、幻想的な風景。
「微精霊だよ」
「おお、これは…」
「すごい、きれーい!」
微精霊はキラキラと輝き、やがて消えた。
ミラが微精霊に気付かなかったのはどうしてなのか、それはミラが…本物のマクスウェルではないから、だからだろうか。
わからないけど、ミラにはジュードくんが必要だ。
「…ありがとう、ジュード。我を忘れ、危うく微精霊を滅するところだった」
「…うん、本当によかった」
そしてジュードくんにはミラが必要なんだ。
マナを吸い取られ、弱ってしまった街の人達を連れてカラハ・シャールに戻ると、ドロッセルが出迎えてくれた。
きっと心配してくれたんだ。クレインや街の住人だけでなく、私達のことも。
クレインの指示で街の人達は病院へ行き、クレインはジュードくんとエリーゼが手当をした。
しばらく領主邸で待たせてもらっていると、街の住人が気になり出て行っていたクレインが戻ってきた。
「徴集された民も、みな、命に別状はないようです」
「みなさん、本当にありがとうございました」
「私からも、お礼を申し上げます。ありがとうございました」
クレイン、ローエン、ドロッセル。
三人一緒の姿を見て私は心臓がバクバクしていた。
みんなが話してる内容が頭に入ってこない。
(ここまでは大丈夫。次は、次はどうしたっけ?まずは何するんだっけ?)
(クレインを屋敷から出ないように説得しないと。アルヴィンに向かいの建物を警戒してもらおう)
(それだけ?それだけでクレインの死を回避できる?二人が私の話を聞いてくれなかったらどうする?)
どうしよう。クレインとアルヴィンには言おうか。
私は異世界から来て、みんなの未来を知っていると言ってしまおうか。
拒否されないだろうか。
今まで築き上げた関係が壊れてしまわないだろうか。
「…、…ユウキ?」
「えっ?!あ…ジュードくん」
「話、聞いてた?クレインさんがガンダラ要塞を通り抜けるために手伝ってくれるって」
「あ、うん」
ほんとは聞いてなかったけど、私は知っているから頷いた。
ジュードくんに、本当のことを言ってしまおうか。
嘘はつきたくない。いつかは言わなきゃいけないときがくる。
でも、言ってどうする?
未来を知ってるだけならまだしも、何を思い何を言い、何をするか、素性さえも知っていると知られたら、気持ち悪がられないだろうか。
ジュードくんは優しいから、受け入れてくれるだろうか。
「今日はもう休ませてもらおう?ユウキも、顔色が悪いし」
「そうだね!そうしよう!ジュードくん一緒に寝ようぜ!」
「寝ないよ?!」
けちーと口を尖らせれば、みんなが笑う。ジュードくんも恥ずかしそうに、けれど笑ってくれる。
臆病な私には、この関係は壊せないや。
「あ、ジュードくんとローエンだ」
夜、みんなが寝た頃に寝付けなくて窓から外を眺めていたら、屋敷の入口付近にジュードくんとローエンが何か話しているのが見えた。
たしか、エリーを屋敷で引き取ってほしいという話だ。
まだ子供でいていいのに、ジュードくんは自分の責任を忘れてはいない。
エリーのことをきちんと考え、悩んでいる。
「それに引きかえ、私はダメダメだー…」
エリーはドロッセルの部屋で一緒に寝ていて、ミラはいつの間にかいなかった。ジュードくんみたいに外の風に当たっているのかもしれない。
「しかも一人きりとか寂しい~」
胸が押し潰されそうな夜は初めてだ。
明日、私はクレインを救えるかどうか。
それだけが気がかりでならない。
「…ストレス発散にアルヴィン殴りに行こうかな」
「それは勘弁してもらいたいね」
ビクゥッ!!と肩を震える。
い、いいいい今の幽霊じゃないよねただのアルヴィンだよね?!
「思ったことが口からだだ漏れだぞ。つーかただのアルヴィンってなんだ」
「あ、アルヴィン…脅かすなよ~…てかここミラと共有部屋なんですけどつまりは女性部屋なんですけど」
「ちょっとおたくに聞きたいことがあってね」
なんだろ?と思っていたら、アルヴィンが私に銃を向けた。
目が冗談なんかではなく本気で。
「霊力野がないのは、リーゼ・マクシアの人間じゃないからじゃないのか、ユウキ」
昼間のあの些細な会話。
あの時の言葉でアルヴィンは、私がエレンピオス人ではないかと疑ったのだ。
「…そうだって言ったら、どうすんの」
窓からチラリと外を見たら、まだジュードくんとローエンが話をしていた。よく見たら、屋敷の外にミラも見えた。
今なら聞かれない。アルヴィンにしか、聞かれない。
アルヴィンもわかっててここに来たんだ。
「…さて、どうすっかな」
カチャ、とアルヴィンの指が銃を構え直す。
もう、言ってしまおう。私は知っていると。
だから明日、手伝ってほしいと。
(とか思いながら、ほんとは一人で抱えるのが嫌だったんだろ、私)
「私は」
「何をしているのです?」
「!」
気配に気がつかなかった。アルヴィンの後ろに、いつの間にかクレインが立っていた。
アルヴィンの構えた銃を見て、クレインがジッと持ち主を睨む。
「こんな夜更けに、仲間割れですか」
「違う違う。じゃれてただけだよ」
「そうっす!アルヴィンって真顔で銃向けてくるから私は毎日脅えてますシクシク」
「わざとらしい。減点五百」
「何点満点なの?!」
軽くやり取りをして、アルヴィンがもう寝る、と部屋から出ていく。
それをクレインと扉から見送った。
やれやれ…アルヴィン明日手伝ってくれなさそうだなぁ。
(やっぱり私がやるしか…!)
「ユウキさん」
「ほぁ?!は、はい?!」
「今日は助けに来てくれてありがとう。あなたに言われた通りこれからは護衛を増やそうと思ってます」
「…はい!」
嬉しくて私が勢いよく返事をすれば、クレインは笑う。
ほんとイケメンだなぁ。それに優しいし、心も強い。
「クレインさん、もう一つお願いがあるんですけど…」
「うん?」
「明日、屋敷から一歩も出ないでください。ラ・シュガル軍が来たら、真っ先にクレインさんが狙われると思います。だから」
「わかりました。ユウキさんがそこまで言うんですから、ちゃんと守ります」
よかった…!
私は嬉しくなってあれやこれやと付け足したりしてクレインさんに警戒するように伝えると、また彼は笑った。
「そうだ、旅立つ前に何かお礼をさせてください」
「ええ?!いやいいですクレインさんが生きてるだけで優姫は満足の極みですよ!」
「いいえ、絶対にお礼をします。楽しみにしててください」
やはり、ドロッセルの兄だ。
頑固なところがそっくりだよこの兄妹!
仕方なく頷いたら、クレインは嬉しそうに微笑み部屋へ戻って行った。
「おはようミラ!今日も良い天気だー!」
「おはようユウキ。お腹空いたな」
「挨拶にさりげなく欲求が混ざってるよミラ!」
翌朝、みんなでローエンの用意した朝食を取り軽い雑談をする。
クレインはガンダラ要塞の件の連絡が来ないことに少し焦っているように思えた。
「ローエン、手配状況の確認に行ってもらえるか?」
「かしこまりました」
ローエンを見送るため、みんなが外に出ていく。
クレインも外に出ようとしたので私は慌てて腕を掴み止めた。
「クレインさん!」
「ユウキさん…大丈夫、ローエンを見送ったらすぐに中に篭ります」
私の手が、クレインの腕を離してしまう。
ダメだ、このままじゃ。
どうすればいい、私はどうしたら。
「ローエン、どれぐらいで戻ってくるの?」
「そうですね。馬を使えば一日もあれば戻れるかと思います」
屋敷の玄関にて、ローエンの言葉にドロッセルが残念そうに肩を落とす。
「それなら、もしかしたら明日にはみなさんとお別れかもしれないのよね…」
「首尾よく進んでいれば、そうなるかもしれないな」
「!ならエリー、ミラ、ユウキ!お買い物に行きましょう♪」
「お買い物?行こう行こう!」
ティポが返事をし、エリーが嬉しそうに頷くとドロッセルも「決まりね!」と手を叩いて笑った。
それからミラをエリーと二人で挟み、ズルズルと引きずっていく。
「まて、話が見えない」
「エリーとお買い物の約束したもの。明日お別れかもしれないのなら、チャンスは今日だけよ?さ、ユウキも行きましょう!」
「私はいいや。三人で楽しんできてー!ミラー!買い物は女の子らしい経験だよー!」
「なるほど。だが厳密には私に人の性別の概念は当てはまらないぞ。現出する際に人の女性の像を成したがー…」
ミラの声が遠ざかる。
アルヴィンとジュードくんがクスクス笑い、ローエンも微笑ましく見ていた。
クレインは空を見上げ、頷く。
「この今の幸せのために、僕も決心しなければいけない」
ジュードくんに向き直り、クレインは思いを語る。
「やはり、民の命をもてあそび、独裁に走る王にこれ以上従うことはできない」
「…反乱を起こすのか?」
「…じゃあ、戦争になるの?」
クレインはアルヴィンとジュードくんに頷き、真摯な眼差しで二人に、そして私に訴える。
「ナハティガルの独裁は、ア・ジュール侵攻も視野に入れたものと考えられます。そして彼は、民の命を犠牲にしてでもその野心を満たそうとするでしょう」
私は周囲に視線を巡らす。
たしか、あの建物の屋上。あそこに狙撃兵がいたはずだ。
「このままでは、ラ・シュガル、ア・ジュールとも無為に命が奪われる」
いた…!他にはいない、一人だけだ。
今動いたら怪しまれる。
ゆっくり、ゆっくりクレインに近付く。
「僕は領主です。僕のなすべきこと、それは、この地に生きる民を守ること」
「…なすべきこと…」
「そう。僕の使命だ。力を、貸してくれませんか?」
「ぼ、僕は…」
「僕達は、ナハティガルを討つという同じ目的をもった同志です」
クレインがジュードくんに手を差し出す。
その手をジュードくんが握ろうと、手を…。
(今だッ!!!)
バッとクレインを地面に押し倒すと、私の頭上を矢が掠めた。
ハッとアルヴィンが素早く撃ってきた方向へ銃を構え、狙撃兵を仕留める。
「今のは狙撃兵…!もしや軍が…?」
ローエンがあたりを警戒しながらクレインを庇うように近寄ってくる。
私の下では、クレインが驚いた顔で私を見ていた。
(助かった…?クレインを、助けられた…!)
「ユウキさん、あなたまさか、これを知って…?」
「よかった、クレインさん…早く屋敷に」
ドンッ、と。
私の身体が押し飛ばされた。
何が起きたかわからなかった。
私を突き飛ばしたのは、クレイン。
クレインの胸には、回避したはずの矢。
「クレイン様ッ!!」
「ちぃッ!!」
「クレインさんを早く屋敷の中へ!!」
クレインは、別方向から私を狙っていた狙撃兵に気付き、庇ったのだ。
「お願いします!どうか、旦那様を…っ」
「…ローエン、無理を言ってはいけない」
ソファにクレインを横たわらせ、矢を抜きジュードくんは治癒術をかけ続ける。
しかしかなりの負担がかかっているらしく、ジュードくんの身体がふらつき、力無くへたりこんだ。
ローエンがお願いするものの、死期を悟ったクレインは薄く目を開き、それを制す。
「僕はここまでのようだ…この国のことを…頼みます」
「それこそ無理です!私に、そんな力は…」
「無理じゃないはずだ…『あなた』なら…」
クレインの言葉は、私の知る限りここで終わるはずだった。
けれど、クレインは側で立ちすくむ私を見つめて、力なく笑った。
いやだ。いやだよ、クレインさん。
「お礼、できなかった…代わりに、これを」
「クレイン…さ…」
「あなたの旅に、連れていって、くだ…さ」
クレインは自分の首元を見つめ、私に微笑み、そして息をしなくなった。
「ありがとう、言ってない…ごめんなさいも、言ってない…」
「ユウキさん…」
「なんで、なんで…!!私はなんで…!!」
涙が滲む。唇は噛み締めすぎて真っ白だ。
悔しかった。
もっと強く言えばよかった。
もっと引き止めればよかった。
助けた後、気を抜かなければよかった。
悔しい、悔しい、悔しい。
「クレイン様!っ、そんな…」
カラハ・シャールに配備されている兵が駆け込んできて、横たわる領主に息を詰めるが、ローエンは一瞬だけ顔を歪め、平静を装った。
「報告を続けてください」
「は、はっ!ラ・シュガル軍が領内に侵攻。街中でも戦闘が発生している模様です」
「街にはミラ達がまだ…!」
「…私達はお嬢様たちを保護しに参ります」
ローエンはクレインの首からアクセサリを外すと、眠るように目を閉じる主人に頭を下げた。
「旦那様をこのままにして行くことを、お許しください…」
先程報告をしてくれた兵にクレインを任せると、ローエンは私の前にアクセサリを差し出した。
シンプルなデザインだが、赤と黄色の宝石が綺麗に輝いている。
「これは、あなたが持っていてください。クレイン様の、最期の願いです」
「…うん。私、背負うよ」
受け取ったそれは軽くて、けれど、とても重く感じた。
next