chapter 01
DREAM
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「やっとカラハ・シャールに着いたね」
「私達の新婚旅行も世界一周並になってきたね」
「まだ新婚旅行ネタ引っ張るの?!」
08.出会いと別れの街
「もうでっかいおじさん来ないかなー?」
「この雰囲気の中までは追って来れまい」
樹界を抜け、街道を歩くこと数刻。
私達は大きな街に着いた。
カラハ・シャールだ。
大きな風車が入口から見えていて思わず田舎者丸出しで口を開けたまま見てしまう。
「ほぁ~…やっぱ体験すると違うな~…」
「え?」
口から出てしまった呟きにジュードくんが反応してきた。
やべっ私の不用心!せっかく築いてきてる信頼を『私異世界から来ましたテヘペロ』なんかで壊すわけにはいかん!
「何でもないデス!いやぁ~綺麗な装飾品がたくさんあるなぁ~!エリー見に行こう!」
「ああ、見に行くか」
「ぎゃ!なんでアルヴィンが引っ張るのさ!」
骨董屋がちょうど目の前にあったので見に行こうエリーを誘ったのに、アルヴィンが不自然クライマックスで私の腕を引いて店の前まで引っ張っていくではないか。
なんだなんだとチラリと横を見てみる。
ラ・シュガル兵だ。
(もしかして、立ち止まってると怪しまれるから店の品を見てる客を演じようとしたのかな?)
「骨董か…ふむふむ」
ミラは興味津々だし、エリーも気になるみたいだからまぁ客に見えるか。
不自然なのはアルヴィンくらいだもんなぁ。
そんな不自然アルヴィンはさりげなく店主に話しかける。
「なんだか、街のあちこちが物騒だな?」
「ええ。なんでも首都の軍研究所にスパイが入ったらしくてね。王の親衛隊が直々に出張ってきて、怪しい奴らを検問してるんですよ。まったく迷惑な話で…」
ん?とミラとジュードくんを見るから私は慌ててこちらに顔を向かせるためにアルヴィンを犠牲にする。
「怪しいならアルヴィンだよね!検問してもらったら?」
「おたくあとで風車に吊してやるからな」
「おじさん助けて!この人最近鬼畜プレイばっかりなんです!」
「あんたら仲良いなぁ。恋人同士?」
「ち、違いますっ!!」
店主と私達の会話に入り否定の声を上げたのはジュードくん。
顔が真っ赤で、自分の言ったことに驚いて口をパクパクさせている。
おい…まさか…!
「おじさん違いました!恋人同士になりたいけど性別の壁が邪魔して素直になれないのがこの二人です!」
「それも違うからっ!!」
「…って感じでみんなで青春中。若いって良いねぇ」
「なるほどな~、青春だなぁ」
店主とアルヴィンがははは~と笑い、ジュードくんがむう~と可愛らしく唸っていると、隣でエリーが他のお客の後ろから同じ品を見ていたのが見えた。
綺麗なカップだ。赤色が淡く描かれている。
「…キレイなカップ」
「でもーこーゆーのって高いんだよねー」
「そりゃあそいつは『イフリート紋』が浮かぶ逸品ですからねぇ」
いやいや店主よ、嘘だって知ってますから。
だってここはたしかドロッセルとローエンが出てくるとこだから覚えてて……あり?
「『イフリート紋』!イフリートさんが焼いた品なのね!…あっ」
ひょいっとミラがカップを持っていた彼女からそれを取ると、器用に指先だけでくるくる回してみせた。
「ふむ。それはなかろう。彼は秩序を重んじる生真面目な奴だ。こんな奔放な紋様は好まない」
「ほっほっほ、面白いですね。四大精霊をまるで知人のように」
ローエンんんんんん!!!
おいぃぃぃ真隣りにローエンんんんんん!!ああよく見たらエリーが覗いてたお客はドロッセルぅぅぅぅ!!
「確かに、本物のイフリート紋はもっと幾何学的な法則性をもつものです。…おや、このカップが作られたのは十八年前のようですね」
優雅な動作で皿をひっくり返すローエン。
それに店主が訝しむが、ローエンは優雅な物腰のまま店主に微笑んだ。
「おかしいですね。イフリートの召喚は二十年前から不可能になっていませんか?」
「う…」
店主困ってる困ってる。
てかローエンイケメンすぎる!かっこいいよローエン!ゲーム中じじいとか言っちゃってたけど愛ゆえにだからね!
「残念、イフリートさんがつくったんじゃないのね…」
ドロッセルはほんとに残念そうにミラから渡されたカップを手にしたが、すぐに明るい笑顔を見せた。
「でもいただくわ。このカップが素敵なことに変わりないもの」
その笑顔とローエンの目利きに店主は値段をかなり下げてくれたのだった。
「ふふ、あなたたちのおかげでいい買い物ができちゃった」
先程かなり値下げをしてもらったカップをローエンに渡した彼女はニコリと可愛い笑顔で私達に挨拶をしてくれた。
「私はドロッセル・K・シャールよ。よろしくね」
「執事のローエンと申します。どうぞお見知りおきを」
生お嬢様と生執事キタコレーッ!!
ひぃぃ可愛いよドロッセルかっこいいよローエンんんんんん!!
「お礼に、お茶にご招待させて頂けないかしら」
「お、いいね。じゃあ後でお邪魔するとしますか」
「はいはーい!ナンパマンのアルヴィン君は置いていきたいでーす!」
「はいはいおたくはあとでお仕置きな」
「ひぃぃぃアルヴィンがお仕置きとか言うとなんかエロい!!」
ドロッセルは私達のやり取りを見てクスクス笑うと、街の南西地区に家があると教えてくれ、ローエンと共に帰っていった。
しかし最近アルヴィンが私にツン1000%なんだけどどゆこと!
「そんな隙などないのだがな…」
「ま、そう言うなってミラ。この街にいる間は利用させてもらう方が色々好都合だろ」
「確かに、アルヴィンの言う通りかも。こんなに厳重じゃ宿にも泊まれなさそうだし」
「ふむ…では街の様子をうかがってからお茶にするとするか」
つまり自由行動も同然というわけですね?!
「ジュードくん!エリー!風車見に行こーっ!!」
「行きます…!」
「ジュード君も早くーっ」
「わぁっティポ!なんで噛み付くの?!」
いやっほーっとジュードくんとエリーの手を握り中央広場へ走る。
最近気の休まる時がなかったから、こういう時に羽目を外さなきゃな!
「やれやれ…お子様だねぇ」
「ふふ、可愛いじゃないか」
「…そろそろ聞き出す頃合いかもな」
「ん?」
「何でも。さて追いかけますか」
「こんなおっきな街に来たの、初めてです…!」
「でも人がいっぱいでウザイー!」
「風車やべぇ…風車マジでけぇ…」
「ユウキ…口調が悪いよ…アルヴィンみたいになってるよ」
いやいやジュードくん。ほんと大風車やばいってでかいって!
私の知ってる風車なんて目じゃないよこれ!
(やっぱり世界が違うんだよなぁ…実感わかないなぁ!)
「あ、ねぇユウキ。あそこに装飾品屋があるよ」
「おお!行く行くぐぇっ」
「悪いねジュード君。ちょっとユウキ借りてくわ」
「えっあ、アルヴィンっ」
「うわぁぁん何しやがんだ不審者傭兵ぃぃぃ!!」
ジュードくんと装飾品屋へ行こうとしたところで、いきなりアルヴィンに襟を引っ張られ首が締まる。
こいつマジどうしてくれよう!
とか考えてる間に私とジュードくんは引き離されてしまうではないか。
宿屋の中庭らしきところまで連れて来られると、アルヴィンはパッと手を離すものだからドベシャッと地面に突っ込んでしまった。
「アルヴィン!私に何の恨みが?!はっまさかさっき言ってたお仕置き?!このエロス!!」
「なぁユウキ。おたくあの研究所から何か取って逃げたんだって?見せてくれよ」
おお、そうきたか。
たしかにミラなら疑われるが私なら簡単そうに見えるもんな。不本意だがね!
だがしかぁし!アルヴィンが裏切りキャラだと知ってるので言わないよ私は!ミラに渡しちゃったこともね!
「嫌ですー。アレは私が取ったんだもーん。ジュードくんにも見せてないのに」
「ふーん。何だかんだ言っても俺ら…優等生も信用してないんだな」
「し、失礼な!私はジュードくんもミラ達も信用してるよ!アルヴィンは信用してないかもだけど」
「あらら。まぁ俺もおたくは信用できないところがあるんだけど」
なんだとぉ?!アルヴィンのくせに生意気な!
ムキィッとアルヴィンの無駄に長いスカーフを引っ張ってやれば、奴は食えない笑みを浮かべた。
「なんで俺の名前知ってた?」
「へ?」
「イル・ファン海停から船に飛び乗って逃げた時、おたく俺の名前を呼んだよな。昔の依頼主でもないのに、なんでだ?」
「…私、アルヴィンの名前呼んだ?」
「ばっちりと」
完全に無意識でした。
おいぃぃぃ私の馬鹿やろぉぉぉ!!何しでかしてんだぁぁぁぁ!!
よりによってアルヴィン!一番隠し事に敏感なアルヴィンに何しでかしてんだ私ぃぃぃ!!
「いやあのそのですね。実はかねがね貴公の噂は聞いておりましてですね」
「嘘つくの下手か」
「ひぃぃあのですね、言っても信じてもらえないと思われますので黙秘権を行使したいであります!」
「つまり、言う気はねぇのな」
あああやめてよその寂しい顔はぁぁぁ!
ゲームでアルヴィンの境遇とか知っちゃってるからその顔弱いんだよ!!
私はうーんうーんと頭を悩ませた末に、一つ提案することにした。
「じゃあさ、この旅で一つだけでいいから私の本気のお願い聞いてくれるって約束してよ!今はまだ考え中だけども!」
「どんな内容かわかんねーのに聞けって?」
「おぅよ!いっとくけど本気のお願いだからね!ちょっとそれ取って~とかそんなんじゃお願いにはならないからね?!」
「わかったよ。一つだけなら聞いてやる。で、何取ったんだ?」
ほんとにわかったのかな…。
怪しいけども、まぁ信用してやるか!可哀相だからね!
「『カギ』だよ。クルスニクの槍って兵器を動かすための」
「『カギ』…どんなのなんだ?」
「さすがに見せるのは無理。どこから見張られてるかわからないしね。けど形は装置から外したら円盤みたいなのになったよ」
「そうか。んで俺の名前知ってたのは?」
「純粋にファンです。生アルヴィン最高」
「……おたく、まさかストーカー」
「違いますからぁぁぁぁぁ!!」
「あっこんなところにいたんだ」
タッタッと軽い足音がして、可愛い顔を見せたのはジュードくんだった。
後ろにはミラとエリーとティポ。
「ミラがソワソワし始めちゃってさ。もうドロッセルさんのところに行こうかって話になって二人を探してたんだよ」
「ユウキ、お茶会というのはやはり美味しいものも出るのだろうか」
「ミラよだれ!あはは、もしかしたら出るかもね~」
ふむ、そうか、と頷きながらお腹を鳴らすミラの傍まで行くと、エリーが後ろからギュウッとしがみついてきた。
おうおう、エリーどした?
「…ユウキいなくて、その…」
「寂しかったー!ジュード君もソワソワしてたんだよー!」
「ティポ?!」
カァァと赤くなる天使二人。
ああもう可愛すぎるわぁぁぁぁ!!
「行こう私の天使達!目指すはお嬢様のお屋敷!」
「行こ行こー!」
「ぎゃあティポ!なぜに私の頭をかじる?!」
「まだあいつが持ってんのか…それとももう誰かに渡したのか…さてどっちかね」
「アルヴィン?」
「ん?どうした優等生。さっきユウキと何話してたか気になるかんじ?」
「きっききき気にならない!!」
ドロッセルの屋敷のある南西地区まで行くと、ドロッセルとローエンが外で待ってくれていた。
私達の姿を見つけてドロッセルが手を振ってくれた。
あれあそこにも天使がいる。
「お待ちしておりましたわ、皆さん」
ジュードくんとエリーはドロッセル越しに屋敷を見てポカンと口を開けていた。
あまりにも大きな屋敷に驚いているのだ。
「!あれは、ラ・シュガル兵!」
同じように屋敷に視線を移したミラが出てきた姿に身構える。
けどそれをアルヴィンが止めると、屋敷からはまた別の姿が出てきた。
「今のは…」
ミラが考え込む。
あれはナハティガルとジランドだ。
ナハティガルはともかく、ジランド。
私はあいつを許せない。許せないのに、ジランドの気持ちも全てを否定できない。
(止めなきゃな。ナハティガルはジランドに騙されてる。ジランドを止められたら、ナハティガルを助けられるかもしれない。それに、ジランドだって…)
でも、その前に。
「ドロッセル、お帰り。お友達かい?」
彼を、クレインを助けなきゃ…!
ナハティガル達が馬車で去ると、遅れて屋敷から出てきたのはドロッセルの兄のクレイン。
ドロッセルは嬉しそうに駆け寄り、報告をしている。
「お兄様!紹介します!…あ、まだみんなの名前を聞いてなかった」
困ったように首を傾げるドロッセルを愛おしそうに見つめ、クレインが笑った。
「ははは、妹がお世話になったようですね。僕はドロッセルの兄、クレイン・K・シャールです」
「クレイン様はカラハ・シャールを治める領主様です」
「この街の領主っ?!」
ローエンの説明にジュードくんとエリーがまたもやポカンとしてしまった。天使達可愛い。
その反応にクスと笑うとクレインは私達を屋敷の中へ入れてくれた。
「なるほど、また無駄遣いするところを皆さんが助けてくれたんだね?」
「無駄遣いなんて!協力して買い物をしたのよね」
屋敷の中のおそらくお客様と話すようのテーブルでアルヴィン以外が座らせてもらっていた。あ、別にアルヴィンをぼっちにしたわけではなく「なんか居心地悪い」と奴が壁に勝手にもたれ掛かっただけだからね。
ドロッセルの話を聞いてクレインがやれやれと肩を竦めるがドロッセルは私達を振り返って「ねっ」と笑った。
それにティポが「ねー」と反応している。
「クレイン様」
ス、とローエンがクレインの隣に移動し、何かを耳打ちした。
「…わかった。みなさんのお相手を頼むよ」
「かしこまりました」
「申し訳ありませんが、僕はこれで」
クレインは立ち上がるとドロッセルに目を向けてから屋敷の外へ向かった。
するともちろんのこと、不審者傭兵の出番ですよ。
「俺もちょっと」
「アルヴィン?」
「生理現象。一緒に行くかい?」
パチンとジュードくんにウインクするとジュードくんは赤くなって俯いてしまった。
おいこらアルヴィンこんなとこでいちゃつくなけしからんもっとやれぇぇぇ!!
アルヴィンは楽しそうに笑いながら行ってしまった。
「もう、すぐからかうんだから…」
「ジュードくん、夜はちゃんとアルヴィンの生理現象に付き合ってあげなよ」
「何を言い出すのユウキ?!」
ちなみにミラは「受けの美学か…」と怪しげな呟きをしていたのだった。
「ねぇねぇ、みんな旅の途中なんでしょう?旅のお話を聞かせて」
ドロッセルがワクワクした表情で私達を見渡すと、エリーがオロオロとしてしまう。
「あの…わたし…」
「私、この街から離れたことがなくて…だから遠い場所のお話を知りたいの」
「わたしも…外に出たことなかったです。でも…」
「ジュード君たちがエリーを連れ出してくれたんだー!海と森を通ってねー、波やキノコがすごかったー!」
「エリーは海を渡ったんだ?いいなぁ、私まだ海を見たことないの」
「海には気をつけろ。岩に化けるタコがいるからな」
「岩に化けるタコさん?!」
「えっあれタコだったの?!てことは火で炙ったから食べれたかなジュードくん?!」
「いやあれ魔物だから食べちゃダメだよユウキ…あっミラ想像しちゃだめ!よだれ出てる!」
ドロッセルも色んな想像をしているのか目がキラキラしている。
そんなドロッセルを見てエリーもおずおずとだけど自分が知ってることを口にしてみた。
「あの、貝や魚も……います」
「あ、貝殻でつくったキレイなアクセサリなら、広場のお店で見たわ」
「キレイなアクセサリ…」
「興味あるの?だったら今度プレゼントするわね。お友達の証よ」
ニコッとドロッセルが笑うと、友達と言われたエリーは頬を赤らめコクコクと何度も頷いた。
可愛いぃぃぃあの二人可愛いぃぃぃ!!
「プレゼントをするのが友達の証なのか?」
ミラが尋ねると、ドロッセルは「ええ」と頷いた。
「信頼を形にして贈るの」
「タダでもらえると得した気分だしねー」
「なるほど」
「いやいやミラ!ティポのは納得しちゃダメだよ?!」
「そうなのか?」
難しいな、とミラは首を傾げている。
ミラはほんと天然だ…天然多すぎるこのパーティー。
そんな私達の様子を見守っていたローエンは嬉しそうに笑った。
「ほっほっほ、お嬢様によいお友達ができたようですね」
ローエンとも友達になりたいです。そりゃもう全力で!
ローエンはいつの間にかお菓子を手にして微笑んだ。
「どうぞおくつろぎください。お菓子もたくさんございますよ」
というわけで、しばらくドロッセル宅でのんびりタイムとなりました。
「そういえば、アルヴィン遅いね」
エリーとドロッセルはおしゃべりをしていて、ローエンはその傍で立っていて、ミラは骨董品を見ている中、ウロウロしていたジュードくんが階段の長さに感動して駆け上がるか悩んでいた私のところへ来た。
ちなみに駆け上がっちゃダメだよと一言付け加えられた。なぜバレたし。
「たしかにアルヴィンの生理現象長すぎだよね。ジュードくん、アルヴィンの股間蹴り上げてあげなよ」
「なんで?!ユウキはアルヴィンにどんな苛立ち抱えてるの?!」
「しゃあない、迎えに行きますか」
うん、とジュードくんは私に並び一緒に屋敷の玄関へ向かう。
とは言え、どうなるかわかっててもヒヤッとするよねここは。
「わっ、クレインさん…?」
「まだ、お帰りいただくわけにはいきません」
扉が先に開き、武器を構えた兵を連れてクレインが入ってきた。
クレインの表情は真剣で、ジュードくんは混乱してしまっている。
そんなジュードくんに、クレインは言う。
「…あなた方が、イル・ファンの研究所に潜入したと知った以上はね」
「アルヴィンさんがすべて教えてくれました」
ジュードくんを先程のテーブルへ連れていき、椅子へ座らせるとクレインはそう言った。
もちろんジュードくんは驚愕。
(アルヴィンまじ許すまじ…ジュードくんに悲しい想いをさせやがって…ギリギリ)
思わず歯ぎしりもしたくなるってもんだ!
「…私達を軍に突き出すのか?」
「いいえ。イル・ファンの研究所で見たことを教えて欲しいのです」
え、とジュードくん達が予想外の反応に拍子抜けしている。
クレインも椅子にかけると、話をしてくれた。
「ラ・シュガルは、ナハティガルが王位に就いてからすっかり変わってしまった。何がなされているのか、六家の人間ですら知らされていない…」
「…軍は、人間から強制的にマナを吸い出し新兵器を開発していた」
「人体実験を?まさか、そこまで?!」
ミラの言葉に、クレインは肩を震わせる。
クレインの民を思う気持ちは、本物だ。
きっと、クレインなら良い国を築いていけた。国なんて規模の大きな話でなくとも、この街には必要だったんだ。
なのに、あんなことになるなんて。
「嘘だと思いたいが…事実とすればすべてつじつまが合う」
「実験の主導者はラ・シュガル王…ナハティガルなのか?」
「そうなるでしょう…。僕はドロッセルの友達を捕まえるつもりはありません」
ですが、とクレインは顔を上げた。
「即刻、この街を離れていただきたい」
ミラとジュードくんは顔を合わせ頷いた。
ジュードくんがお礼を言うものの、クレインは目を伏せ席を離れていく。
思わず私はクレインを追いかけて話し掛けてしまった。
「クレインさん、あの」
「…あなた達から話が聞けてよかった。でなければ、僕は過ちにも気づけなかったでしょうから…」
「…これから、護衛を増やして行動してください」
「え?」
「絶対、絶対死なないでください。あなたはこの街にも、ドロッセルにも必要なんです。だから…」
たった数回言葉を交わしただけの相手に、私は何を言ってるんだろうか。相手も不思議がってる。
でも、何か言いたかった。死なせたくなかった。
ローエンとドロッセルに悲しい思いをさせたくなかった。
ジュードくんに人を救えない悲しみを教えたくなかった。
「ユウキ、さん。泣かないでください」
「…泣いてないです」
「泣いてますよ、ほら」
頬を撫でられ、涙を掬われる。
本当だ、私は泣いていた。
「僕は、死ぬわけにはいきません。だから安心してください」
そう笑ったクレインを、私は救いたかった。
屋敷を出て、街の入口に向かっていると、ちょうどそこに裏切り者アルヴィンがいてまた鳩を飛ばしていた。
「そぉい!!」
「うぉっ!!」
思わず背中に飛び蹴りしてしまったが許してもらいたい。
みんなの怒りを代表したのだからね!
「何すんだよ!」
「それはこっちの台詞だ!ティポ言ってやれ!」
「アルヴィン君ヒドイよー!バカー!アホー!もう略してバホー!」
「なぜ私達をクレインに売った」
「売ったなんて人聞きの悪い」
いけしゃあしゃあと…。
「シャール卿が、今の政権に不満をもってるってのは有名だからな。情報を得るにはうってつけだ。交換でこっちの情報だしただけ。いい情報聞けたろ?」
「…ラ・シュガル王ナハティガル、こいつが元凶のようだ。ナハティガルを討たねば第二、第三のクルスニクの槍が作られるかもしれん」
「王様を討つの…?」
「ああ、君達国民は混乱するだろうが、見過ごすことはできない」
ミラは使命のためだから、どれだけ混乱するかまでは考えないんだよな。いやまぁ精霊として生きてきたから仕方ないんだけども。
それに、止めなきゃいけないのは本当だ。
「僕も、人から無理矢理マナを引き出して、犠牲にするようなこと、放っておけない…」
「お前らっ手配書の!!」
ダダダッと誰かが走ってきた。
よくみたら、ラ・シュガル兵だ。
あの手配書でなぜバレる。
仕方ない、とミラが剣を構えた瞬間、優雅な口調の声が入り込んできた。
「南西の風2…いい風ですね」
「執事、さん?」
突如現れたローエンは私達の前に立つと、変わらず優雅に笑う。
「この場は私が…」
「おい!じいさん!こっちを向け!何を企んでる!」
「おおっと。恐い恐い」
兵士に怒鳴られローエンは振り返り、おやと首を傾げた。
「後ろのお二人、陣形が開きすぎていませんか?その位置は、一呼吸で互いをフォローできる間合いではないですよ?」
「貴様っ余計な口を聞くな!」
「そしてあなた。もう少し前ではありませんか?それでは私はともかく、後ろのみなさんを拘束できません」
「ふんっ」
「いい子ですね」
キィンッといつの間にかナイフらしきものが兵士達を三角形に囲い、何かの陣が発動した。
兵士達は金縛りにあったように動かなくなる。
「ぐぅ!貴様、何を…っ」
「では、これで失礼します」
しばらくの時間稼ぎだということらしく、ローエンは私達を領主邸近くへ連れていくとようやく足を止めた。
「実は、みなさんにお願いがあるのです」
「お尋ね者のいる一行に?あんまり楽しい話じゃなさそうだな」
ローエンの言葉にアルヴィンが腕を組みながらそう返す。
ここからだ、なんとかしなくちゃいけないのは。
クレインを助けるためにも、失敗も気を抜くこともできない。
「先程、ラ・シュガル王が屋敷に来られ、王命により街の民を強制徴用いたしました」
「何?ナハティガルが来ていたのか?」
「お茶会の前に屋敷から出て行った人だよ、ミラ」
「はい、ユウキさんの言う通り、彼がナハティガル王です」
ローエンは説明をした私を意外そうに見たが、アルヴィンが疑問の声をあげそちらに注目が集まる。
「なんで強制徴用なんて……まさか」
「人体実験をっ?」
はい、と頷くと、ローエンは難しい顔で現状報告をしてくれた。
「民の危険を感じた旦那様は、徴集された者達を連れ戻しに向かわれました。しかし、ナハティガルは反抗者を許すような男ではない…」
「ドロッセルのお兄さん、危ないの…?」
「はい…。みなさんの力を貸していただけませんか?クレイン様をお助けしたいのです」
「ドロッセル君のお兄さんを助けよ~!ね!ジュード君!」
「うん。クレインさんもだけど、連れて行かれた人達も心配だし」
「あーあ。優等生のお節介に火がついちまったよ?」
「いいだろう。あれを使おうというナハティガルの企みは見過ごせない」
「ありがとうございます。民が連れ去られた先は、バーミア峡谷。急ぎましょう!」
私は助けられるだろうか。
バーミア峡谷をクリアしても、クレインが死ぬ瞬間をどう回避したらいいのかもわからない私が、できるのだろうか。
物語に沿わないと何もわからない私に、何ができるのだろうか。
「ユウキ?」
いつの間にか黙ってしまっていたらしく、動かない私の顔をジュードくんが心配そうに覗いてきてびっくりした。
「どうしたの?顔色が少し悪いよ」
「えっあっ、何でもないよ?!いよっしゃークレインさん救出作戦決行だー!行くぞエリー!ティポ!」
「はい、です…!」
「行くぞーっ!」
ジュードくんに心配かけるなんて優姫のバホー!
というわけで、八つ当たり気味にアルヴィンのスカーフを引っ張っておいた。もちろん頭を叩かれました。
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