午後のローズティー(金少)
DREAM
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「では一つ、推理対決でもしてみますか?」
「興味ありません」
「……」
「……」
雪山のど真ん中にあるコテージの中で遥一くんと嫌味な要素盛り沢山のイケメン刑事が無言で見つめ合っている。いや、見つめているというか視線を外さず無言で喧嘩をしている感じだろうか。
さて、どうしてこうなったのか。
事の発端は、数日前に遡る。
「見ろよ高遠!この謎が解けたら雪山探索ツアー無料招待だって!」
「雪山の探索って具体的に何をするんだい?」
「わかんね!でも面白そーじゃん!謎解こうぜ!」
「あまり訳の分からないものに手を出すのは感心しないよ霧島」
お昼休みに入り、お弁当片手に純平くんのところを尋ねると、遥一くんの席で雑誌を広げているのが見えた。お昼休みどこかへ行った生徒の席を借りて、純平くんが指さすそれを私も覗き込んでみる。
「なになにー。『超難問!この謎が解けたら、あなたを雪山探索ツアーへご招待!リゾート開発が決まっている為、真っさらな雪山を探索できるのは今だけ!』めっちゃ面白そう!謎解こうよ遥一くん!」
「僕任せにしないで君達も解いてみなよ」
「俺だって少しは考えたんだぜ?でもどうにも言葉にできないところが1箇所あってさぁ。漢字が違うのかな」
「そこまで理解してるなら後少しだよ」
「さてはお前もう解けてんな?!くそー、これ他になんて言うんだぁ?」
「この問題、絵しか描いてないのに何で漢字の話してるの……?これが特Aクラスって事なの……?」
私は最後まで解けなかったけれど、お昼休みいっぱい使って解いた純平くんはすぐに回答を編集部へ電話して、見事ツアー参加権を手に入れた。学生さんは三人まで参加できますよと言われて、興味ないですと言った顔の遥一くんを強引に誘い、三人で土日開催のツアーに参加する事にしたのだ。
「交通費も全部無料なんて、めちゃくちゃ良いツアーに参加できたね!!けどあの謎、絵を漢字に直すってわかっても難しくなかった??」
「その辺りは一つの絵に対して候補をいくつか出しておくんだよ。ある程度絞れたら、候補の中からはまりそうなものを選んで不要な言葉を消して、そうすれば言葉が浮かんでくる」
「それをパッとやっちまうからなぁ高遠は」
「君達学生さん?」
ツアー専用バスの中で、一番後ろの座席に三人で並んで座って話していると、前の座席の人が振り返ってきた。声大きかったかな、と少し焦りながら頷いたら、むしろ真逆の反応で「すごいね!」と褒めてくれた。
「このツアー、先着6人だったんだって。だからなんで8人も乗ってるんだろうって思ってたんだけど、学生さんが参加してたんだね。みんなで解いたの?」
「こっちの二人が解きました。ちなみに私は全くわからなかったです!」
「自慢げに言うな!えっと、お兄さんは何してる人なんすか?」
純平くんがそう言うと、少しぽっちゃりとした体型の眼鏡をかけたお兄さんは忘れてたというように頭をかいて笑った。
「自己紹介がまだだったね。俺は監察医をやってる和島尊。君達どこの学校なの?」
「俺は霧島純平です。俺ら三人秀央高校通ってるんすよー」
「あ、じゃあ俺達の後輩だ!おい明智、この子達秀央の子だって!」
和島さんの座る席から通路を挟んだ先に座る明智と呼ばれた男の人は、ふっとこちらに目を流した。眼鏡をかけていて、サラサラの髪。顔立ちも整っており、完璧なイケメンだった。どこか貴族感すらある。高貴なイケメンだ。
「なるほど、秀央ですか」
「へー、先輩だったんすね!和島さんが監察医ってことは、明智さんも同業なんすか?」
「私は刑事です。秀央高校といえば、恩師から聞きましたが少し前にマジック部で騒動があったそうですね。君達は大丈夫でしたか?」
「あ、そのー、わ、私達そのマジック部でして……」
「そうでしたか。では、怪我をした部員というのは君でしょうか。名前は?」
「水瓶優姫っていいます!あ、でもその騒動はこの高遠遥一くんがまるっと暴いて解決してくれたので!」
「へえ、君が……」
「……」
無言である。遥一くんはいつの間にか取り出した本を読み出し、完全に無関心を貫いてしまっている。それをしばらくじっと見つめた明智さんは、フッとカッコいい笑い方をした。
「子供はあまり危ない事に首を突っ込まないようにしてくださいね」
そう言って、明智さんは姿勢を正して目を閉じた。到着まで仮眠するのかもしれない。和島さんは困ったように笑って、小さな声でごめんねと私達に謝ってきたのでブンブンと手を振って大丈夫だと返した。
「お巡りさんなら当然の忠告だと思います!実際危なかったですからね!まあ今ではその犯人とはメル友なんですが」
「え、なんでそうなったの……?」
「すんません、こいつアホなんです。あ、それより監察医ってことは色んな死体がくるんすよね?!話せる範囲でいいんで聞きたいっす!」
「いや純平くんなんでそんな意気揚々としてんの??死体の話ぞ??」
話せる範囲のお仕事の話を和島さんから聞いていたら、あっという間に私達を乗せたバスは雪山探索ツアーの拠点であるコテージに到着した。広い場所で、ちゃんと個室完備されていて中も綺麗だった。
午前は移動で消費され、ひとまず荷物を置いてゆっくりしてくれと言われる。お昼ご飯を食べてから、ツアーとしてロープウェイに乗ってスキーが出来るエリアまで案内してくれるらしい。スキーウェアから何から完備されているということなので、今から楽しみである。
「私スキー初めて!純平くんと遥一くんは?」
「俺も初めてだなー!」
「僕もないな」
「よっしゃみんな初心者だ!誰が最初に上手くなるか競争しようね!」
「それは良いんだけどさ。なんでお前荷物持って俺らの部屋入ってんの」
「え?だって三人一部屋でしょ?」
「君の部屋は隣に用意してくれているようだよ。さすがに男子二人と同部屋はよくないと運営も判断したようだね」
「えー!!夜はみんなで枕投げする予定なのに?!」
「いいからさっさと荷物置いてこい!」
ペイっと純平くんに追い出された私は、肩を落としてしぶしぶ隣の部屋に入る。荷物を置いて、服も少し軽装に着替えておこうとしていたら、コテージの管理人の女性が部屋の鍵を渡し忘れていたと届けてくれた。それを受け取り、軽装に着替え終えた私はまた純平くん達の部屋に突撃しようと部屋から出たところで、偶然部屋の前を通りかかった人を見て「あ」と思わず声を出してしまった。向こうも私に気づいて足を止めてくれる。私を見下ろしながら柔らかい微笑みを浮かべるのは、刑事の明智さんだ。
「水瓶さんでしたね。彼らとはきちんと別室のようで安心しました」
「私は一緒でもよかったんですけどねー。枕投げしたかった……」
「(枕投げ?)昼食に向かうのでしたら、一緒に行きましょうか。ここは広くて入り組んでますからね」
「わー助かります!私絶対迷子になりますもん!純平くーん!遥一くーん!私先にお昼向かってるねー!」
部屋を通り過ぎる時に扉に向かってそう声をかけると、中から「わかったー!変な事すんなよー!」と純平くんから不名誉なことを言われた。するかーと返して、明智さんと並んで歩き出すと、クスッと笑われてしまった。
「君達は仲がよろしいんですね」
「へへ、純平くんは幼馴染で、遥一くんは高校入ってから仲良くなったんですよー!二人とも特Aクラスなんでめちゃくちゃ頭良くって!あ、ちなみに遥一くんは全教科満点で入学してきた天才なんですよ!」
「ほう?彼が、ですか」
「ああ!じゃあこの間秀央の先生が話してくれた明智以来の全教科満点合格者って、あの高遠君のことか!」
そう言いながら後ろから話に入ってきたのは和島さんだ。驚いて飛び上がるも、今なんかとんでもない情報出なかった?明智以来の全教科満点合格者……。
「えっ?!まさか、十数年前の全教科満点の天才って、明智さんだったんです?!」
「そうだよ。俺達も特Aだったんだけど、明智はテストは常に全教科満点でトップ、卒業までその座を下ろすことはなかった伝説さ」
「す、すごーっ!!明智さんすごーっ!!明智さんの学生時代の武勇伝とかないんですか?!めっちゃ聞きたいです和島さん!」
「もちろん、たくさんあるよ!お昼ご飯食べながら話してあげるね」
「やったー!!」
「和島……全く君は……」
ふう、とため息を吐きながらもどこか優しい表情をする明智さん。きっと、この二人は親友なんだろうなと私も笑顔になってしまう。
「そういえば、二人はどうしてこの雪山探索ツアーに参加しようと思ったんですか?」
「最初は単純に超難問を解いて終わるつもりだったんだけど、明智が最近仕事を休めてないみたいだったから息抜きが必要だと思って参加したんだ。ここなら事件も起きないだろうし、ゆっくり休めるだろう?」
「刑事さんは大変なんですね。はっ、もしや今、超難事件を追ってたり?!」
「まあそんなところですかね。来てしまったものは仕方ありません。ツアーを楽しむ事にしますよ」
「そうですよ、楽しみましょう!まずはおっ昼ごはん!何が出るんだろー!」
「……ふふ、元気な子ですね」
ツアー参加者全員で集まってお昼ご飯を食べた後は、いよいよスキー体験だ。夜は夜でコテージで何かあるらしいし、楽しみだなぁ。と、ふわふわ楽しい気分になっていたのだけど、三人で乗ったロープウェイの中で、純平くんに「さっきの!」と突然怒られた。
「え、さっきなんかあったっけ??」
「昼飯の時だよ!お前、なんであんなイヤミーな刑事と仲良くなってんだよ」
「えー?明智さん普通に良い人だよ?学生時代はミステリーマニアで、秀央のホームズって言われるくらい問題を解決してきたんだってさ!和島さんは自分はワトソンだったって言ってたっけ。それに武勇伝めちゃくちゃ面白かったよ?二人も今度聞きに行こうよ」
「少しは気になるけど、なーんかあの刑事さん好きじゃないんだよなぁ。だからパス」
「僕も興味ないからパス」
「ぐぬぬ……!ま、今の秀央のホームズは遥一くんだしね!あ、私ワトソンね!」
「いや俺がワトソンだろ!高遠の相棒は俺!」
「はー?!私だって相棒やりたいんだがー?!」
「ホームズじゃないし、ワトソン二人もいらないんだけど」
ロープウェイを降りると、先行で到着していた人達はすでに滑って行ってしまったらしい。案内の人が、次は私達だと教えてくれた。ここは初心者コースだから安心して滑ってと言われて、安堵しつつ、ロープウェイに乗る前に受けた手解きを思い出しながらストックを握り締めて恐る恐るスキー板を履いた足を前に出す。あ、歩ける。よし、滑るぞ。
その時、近くの茂みががさりと揺れた。ここはリゾート開発予定だが、未だしっかりと整備されているわけではないからまだ木々も自生しているエリアだ。野生動物がいてもおかしくはなかった。
しかし、わかってはいるもののやはり突然飛び出してきたソレに、見事に驚いてしまい、足が斜面を滑ってしまった。
「う、わぁーっ?!」
何の態勢も整えられないままスキー板は雪の斜面を滑っていく。どうにか止まろうともがいていたら、横道に逸れてしまい、いよいよパニックになってしまう。
「わーっ!わーっ!止まらないーっ!!」
「優姫っ!!ストックでスピード落とせ!!」
「とにかく木にぶつからないように前を見るんだ!!」
純平くんと遥一くんの声が聞こえる。どうやら追いかけてきてくれているらしい。スピードを落とす、木にぶつからないようにする!
どうにかそれを実践して、少しずつスピードを落とせている気がする。しかし木にぶつからないようにするのがなかなか難しい。なんとかここまで避けてきたけど、そろそろ木の量が増えてきた。もしかして、かなり深いところまで入ってしまったのかもしれない。
「二人は元の場所まで戻ってーっ!!なんとか止まって帰るからーっ!!」
「バッカ!!前!!」
え、と気づいた時にはもう遅い。見事に木にぶつかった私はようやく止まることができたが、そのまま気を失ってしまうのだった。
「本当にご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません」
その後、気を失った私を純平くんと遥一くんがコテージまで運んでくれたらしい。だいぶ道を逸れてしまっていたが、遥一くんがマジック道具の紐を木に巻いて目印を作っていたおかげで元の道に戻れて、そのままコテージのあるふもとまで滑り降りたとのことだ。
ベッドに寝転んだままベッドサイドに椅子を持ってきて怒り顔の純平くんといつもの無の顔の遥一くんに謝罪をする。
「うう……ぶつかったところめちゃくちゃ痛いから動くの億劫だし、こんなんじゃ枕投げできないよお……」
「どんだけやりたかったんだよお前は。わかる?高遠。こいつずっとこんな感じでいつでもどこでもトラブルメイカーなんだよ」
「本当に苦労してきたんだね、霧島。心中察するよ」
「察するのやめて……」
めそめそとしていたら、部屋の扉がノックされた。コテージの管理人のお姉さんだ。打ったところに貼るといい、といくつか湿布を持ってきてくれた。良い人だ。とりあえず腕と太ももに貼りたい。そう思って起き上がり、湿布を貼ろうと体を曲げたらびきっと音がしたような錯覚があるほど体に痺れと痛みが走った。どうやら全身打ち身状態のようだ。
「純平くん……湿布……」
「貼ってやるから寝転んでろ!」
「はい……」
またベッドに寝転んでめそめそしていたら、遥一くんが私の横にやってきて、目の前で何もない手のひらを見せてからギュッとその手を閉じる。そして、パッと開かれると、手のひらサイズの木彫りのクマが出てきた。
「えええー?!なんで?!どうやったのそれ?!すごーっ?!」
「コテージの売店で売ってたから買ったんだ。水瓶さんにあげるよ」
「ほんと?!ありがとーっ!帰ったら部屋に飾ろー!」
木彫りの熊ミニサイズを受け取ってへへへっと笑ったら、遥一くんも笑ったような気がした。もしかして私がめそめそと凹んでいたから、慰めようとしてくれたのだろうか。ちなみに純平くんは「甘やかすなよー」と言いながら私の足に湿布を貼って、バシンと叩くものだから今日一番の悲鳴を上げる事になるのだった。
「何事ですか!」
そして、私の悲鳴を聞いた明智さんと和島さんが部屋に飛び込んできてしまい、慌てて私と純平くんが説明したら、はーっと大きなため息を吐かれてしまった。それから、部屋を出るなと言われて、三人で顔を見合わせて首を傾げる。
「え、なんでですか?」
「参加者の一人が行方不明になっていましてね。彼は最初にスキー体験をしたらしいのですでにコテージに戻っているはずなのですが。とにかく、しばらく部屋にいて」
キャアァァァァァ……
明智さんの言葉を遮るように、突如悲鳴が響き渡った。女性の悲鳴だ。このコテージに女性は私と、管理人のお姉さんと参加者の人が一人だから、どちらかの悲鳴という事になる。明智さんと和島さんが部屋を飛び出して行くと、純平くんと遥一くんもその後を追いかけていってしまった。
一人残されてしまい、少し心細くなる。一体何があったんだろう。気になるけどすぐには体を動かせないし、どうしたものかと悩んでいたら、管理人のお姉さんが救急箱片手に慌てたように入ってきた。
「あ、お姉さん!」
「よかった、優姫ちゃん無事なのね。今悲鳴を聞いてみんなが走っていったから、何かあったのかって思って」
「私は大丈夫です!って、お姉さん手、血出てますけど怪我したんですか?!」
「料理中だったから悲鳴に驚いて、包丁でちょっとね。それよりも優姫ちゃんが心配だったの。何もなくてよかったわ」
えー、お姉さんめちゃくちゃ良い人じゃんーー!!
元気だと手を振ろうとしたら、またピキッと痛みが走り固まってしまう。お姉さんも察したらしく、寝転んでてと私の身体を支えて横に倒してくれた。
「お姉さん、今のって参加してた人の悲鳴ですかね……?」
「多分ね……彼に何かあったのかしら?あ、優姫ちゃん、全身鞭打ちになってるみたいだから、背中の方にも湿布貼ってあげましょうか?」
「わーん助かりますー!よろしくお願いしますー!」
悲鳴の先で何があったのか気になるけれど、今は湿布を貼ってもらう事にしてうつ伏せになって目を閉じた。準備するからそのままで待っててと言われて、はーいと素直に返事をする。目を閉じていたら、なんだか眠くなってしまうなぁ。
そんなことを思いながら待っていると、またドタドタと足音が聞こえた。純平くん達が戻ってきたのだろうか。
「おい優姫!大変だ!」
「へ?何が?」
「ってお前何背中出して寝転んでんだよ!」
「いや湿布待ちしてるんだけど……あれ、お姉さんまだ戻ってきてない?」
顔だけ横に向けて部屋の中を見るも、お姉さんの姿はない。純平くんは私の背中に布団をかけて、落ち着いて聞けよと怖い言い方をしてくる。
「さっき行方不明になってるって言ってた人、死んでたんだ」
「え………えええええ?!なんで?!」
「明智さんと高遠は殺されたんだろうって言ってた。今和島さんと三人が現場に残ってて、俺達は部屋から動くなって」
「いや、遥一くんなんで殺人現場に残っちゃってんの……?」
「現場を見て高遠が最初にこれは殺人だって言ったもんだから、明智さんが高遠の見解を聞きたいって引き留めちゃってさ。俺も見たかったけど高遠がお前を一人にしておくのは良くないだろうって言うからとりあえず戻ってきた」
「いやもう、情報量多いよ……一体どうしてこんな事に……」
楽しい雪山探索ツアーが、血生臭い殺人事件へと変わってしまった。一体どうしてこんな事に。私のトラブルメイカー気質、いよいよやばい領域に入ったのだろうか。
しばらくするとお姉さんが救急箱を持って帰ってきた。それから、湿布を貼り終えたら一度食堂に集まってほしいと明智さんからの伝言を教えてもらい、純平くんに先に行ってもらった後湿布を背中に貼ってもらった。ちょっと気持ちいい。
ゆっくり歩けばいける!とお姉さんが持ってきた松葉杖を借りずに歩いて食堂に行くと、すでにみんな集まっていたので少しどきりとする。
そして、集まったツアー参加者全員に明智さんが告げる。これは殺人事件だ、と。ここは雪山のど真ん中で、バスはツアー用のバスしか通っておらず、次来るのは明日のお昼過ぎの予定となっている。状況的に、犯人はこの中にいて、尚且つ明日までここから離れる事はできない。
警察を呼ぼうにもあれから外の天気は荒れており、すぐには来る事はできないらしい。早くても朝イチになる、と。
「じゃあ殺人鬼がいるってのに、一晩過ごさなきゃならねえのかよ!」
「どうなってんのよ一体!」
そう叫ぶのは参加者の男女である。彼等の友達が殺されたようだ。いやそりゃ、そう思うよね。私も今ブルブルしてるもん。
「なあ高遠、あの人どうやって殺されたんだろうな?部屋は内側から鍵がかかってたし、そもそも悲鳴を聞く前はたしか部屋に戻ってなくてどこにもいないから行方不明扱いされてたんだろ?犯人はいつどうやって死体を部屋に運んで密室も作り上げたんだ?」
「……それを解くには一度整理したいところだけど、警察もいる事だし僕達がわざわざ謎解きする必要はないんじゃないかな」
「まあそうなんだけどよー。ちょっと気になるじゃん?」
「私も気になるけど、でも今回人殺しが相手なんだよね?黒江先輩の時とは違ってめちゃくちゃ危ないから大人しく部屋に籠城してた方が良くない……?」
「いや黒江先輩最後はお前殺そうとしてたけどな?」
各々話し始めてしばらくすると、明智さんがパンっと両手を叩いてみんなの会話を中断させた。
「ひとまず皆さんは部屋に戻ってください。私と和島が来るまで部屋を出ないように」
つまり、事情聴取ということだろうか。本当に殺人事件が起きてしまったんだ。ブルブルとまた体が震えてしまう。みんながそろそろと部屋に戻っていくのを見送りながら、ちょいちょいと純平くんの服を引っ張る。
「じゅ、純平くん……私一人で部屋戻るの……?三人で神経衰弱とかして夜を過ごそうよ……」
「お前それ高遠圧勝に決まってんじゃん……ま、お前そんな状態だし、正直一人にするのはなぁ……」
「ところで高遠君。君は今回の事件、犯人の目星はついているのですか?」
部屋に戻ろうとする私達、もとい遥一くんを呼び止めたのは明智さんだ。遥一くんはチラリと明智さんの方を見て、さあと興味なさげに返した。素っ気ない反応だが明智さんは「そうですか」と頷くと、目を細めてうっすらと微笑んだ。
「では一つ、推理対決でもしてみますか?」
「興味ありません」
こうして冒頭の会話に戻ってくるのだが、人が死んでるのに何を言い出すのかこの人は。そして完全に塩対応すごいな遥一くん!
しばらく二人は睨みあった後、先に遥一くんが動いた。
「部屋に戻ります。水瓶さんは貴方達が来るまで僕達の部屋で一緒に待機していますので」
「待ちなさい」
そう言って早く行こうと視線で促してくるので、純平くんと二人顔を合わせてから先を歩く遥一くんの後をついて行こうとすると、また明智さんが呼び止めてきた。いよいようんざりした雰囲気を出してくる遥一くんだが、明智さんの次の言葉に私までも固まってしまう事になる。
「彼女は容疑者の一人です。同室での待機は認められません」
「は……はあああ?!えっ、私が容疑者あああ?!」
振り返って明智さんを見ると、どこか少し冷たい目をしているように見えて違う意味で体が震えてしまった。まさか、本当に犯人だと思われている?
足を止めた遥一くんは、今度こそ本当に明智さんを睨んでいた。
「どういうつもりですか」
「言葉通りです。死体の状態から和島が割り出した犯行時刻、彼女は一人で部屋にいました。木にぶつかって気絶したという事ですが、体の鞭打ちは真実でしょうか?それが全て演技だとしたら?医師の診察が出来ない以上、現時点で彼女も容疑者の一人です」
「おいふざけんなよ!こいつがそんな器用な真似出来るわけねえだろ!大体殺す動機もねえ!」
「そうでしょうか?彼女に執拗に話しかける被害者の姿を見たという証言もあります。犯人ではないとは断言できませんよ」
「う、嘘お……私あの人と一言二言くらいなら会話した記憶あるけど、執拗には話しかけられてなかったと思う……え、それとも私がそう思ってないだけであれは執拗だったの……?わからん……」
わからなさすぎて、ちょっと涙出てきた。泥棒の濡れ衣を着せられた時より、人殺しの濡れ衣の方が何倍もつらいし怖い。どうしよう。どうしたら。
「……いいでしょう。その挑戦、受けて立ちます。ただし、彼女は僕達の部屋で待機させます。それが条件です」
「わかりました。君の推理、楽しみにしていますよ、高遠君」
こうして、イケメン刑事と名探偵遥一くんの推理対決が幕を開けたのだった!
「ごめん遥一くんんんん!!私のアリバイがないばっかりにいいい!!」
「気にしなくていいよ。どうせあの人は君が犯人なんて思ってないから」
「あー、じゃああれか。お前と推理対決したくて優姫だしにしたんだな」
「そういうこと。それじゃあ、あの人が来るまでに今回の事件について確認をしようか」
純平くんが使ってるベッドに寝させてもらい、テーブルに紙を広げてあーだこーだと二人が談義しているのを聞きながら、自分も何か出来ることはないかと頭を悩ます。
うーんうーん、何かおかしな事とか気になる事とかあったかなぁ。うーんうーん。
あ、そういえば。
「なんでお姉さん、女の人の悲鳴だったのに『彼』の心配してたんだろうな」
「!水瓶さん、今の話詳しく教えてくれる?」
「へ?あ、えーと、悲鳴聞こえてみんな出て行った後、お姉さんが来て……」
純平くんが大変だ!と駆け込んでくるまでの話を聞かせると、遥一くんは顎に手を当てて少し考え込み、それからニヤリと笑った。
「よ、遥一くん?」
「まさか、お前!」
「ああ、わかったよ。犯人も、どんなトリックを使ったのかも全部、ね」
わーっ!!と思わず起き上がって、痛みに悶えつつ純平くんとハイタッチをして今度は歓喜に震えた。
「名探偵高遠遥一キター!!」
「よっしゃ高遠!あの刑事が来たら暴いた種を突き付けてやろうぜ!」
「いいね!マジック部らしく言うなら、種明かしの時間だー!!」
「一応容疑者扱いされてる自覚はあるかい水瓶さん」
コンコン、と扉がノックされる。どうぞと遥一くんが返事をすると、明智さんと和島さんが部屋の中へ入ってきた。遥一くんを見る明智さんの表情は、どこか期待をしているように見える。
「さて、貴方の推理を聞かせてもらいましょうか、高遠君」
「その前に、僕の話に納得をした時は必ず水瓶さんに謝罪をしてください」
「ええ、もちろんです。では聞きましょう」
結論から言うと、犯人はお姉さんだった。遥一くんの推理によると、私の部屋は元々空き部屋となる予定だったが学生参加者がまさか両親ではなく子供だけで参加、さらには男女で来るという、別室にしないといけない状況ができてしまったのが今回の事件の穴だという。
お姉さんはスキーから戻った男を殺すと、その死体を部屋の外の雪の中に隠していた。もぬけの殻となった部屋を見た男の友人達が探し回っている中、雪山から出した死体を窓から部屋の中に放り込むが、空き部屋となるはずだった私が使っている部屋に密室を作るための準備(ピアノ線を引っ張ったら鍵がかかるようにセッティングされていたらしい)が施されていたため、まさか私が木にぶつかって気絶して運ばれてくるなんて大層慌てた事だろうと遥一くんは語る。
だからギリギリの勝負に出たのだとか。まずは男の友人達に言われるがままマスターキーを渡し、私の部屋の方へ急ぐ。鍵を開け部屋の中の死体を見た友人が悲鳴を上げ、明智さん達が部屋に飛び込むまでに入れ替わるように私の部屋に入り、私がうつ伏せになっている間にピアノ線を引っ張り窓の鍵をかける。犯行時刻のアリバイは雪の中に入れていた事でずらす事ができている。あとは、回収したピアノ線の処分するだけ。救急箱の中にピアノ線を入れて、処分するために部屋を出て行ってしまったせいで、私は背中を晒したまま待つ事になってしまったということらしい。
遥一くんの推理を聞いて純平くんが窓枠を確認に行くと、本当に小さいものだが何かを擦った後があったようだ。ピアノ線も、ゴミ箱ではなく救急箱の中に入ったままだろうと推察を述べると、和島さんが確認してくるよと部屋を出て行った。
「しかし、それではまだ直接証拠がないため推測の域を出ませんね。ピアノ線も言い訳のしようがあります」
「彼女、手を怪我しているそうです。そして死体の爪先にあった不自然な血。おそらく被害者が殺される直前に彼女に傷をつけたのではないでしょうか?まあ、これはDNA鑑定をしないとわからない事ですが、証拠としては十分かと」
「……お見事です、高遠君」
どうやら納得したらしい!
明智さんは遥一くんの推理に頷くと、ベッドサイドまでやってきて、私に頭を下げてきた。
「不用意に不安にさせてしまい、申し訳ありませんでした」
「わーっ!大丈夫ですから頭上げてください!あ、でも殺人事件なんですから推理対決とか不謹慎な事やめた方がいいと思いますよ……?」
「胸に留めておきます。あと、これから警察が到着する予定ですので帰る用意をしておいてくださいね」
「へっ?!明日まで来れないんじゃなかったんです?!」
「……犯人を油断させる為に、嘘を言ったんですね」
「そういうことです」
そう言って明智さんは部屋を出て行った。いや、あの人ほんと食えない人だよ。とにかく、事件は解決したということだ。
「いやあ、今回も名探偵だったね遥一くん!」
「あの人はほとんどわかってたみたいだけどね。君の証言が最後のピースだったんだ。だから、君のお手柄でもあるよ」
「えっほんと?!これはワトソンの座はもらったな」
「なー?!俺との考察だって役だったよな?!」
「いーや私だね!!」
「君達まだワトソン争いしてたのかい?」
そして、お姉さんは犯行を認めて警察へ連行された。訳を聞くと、昔男に口では言えないような酷い事をされ、いつか必ず殺すと思いながら日常を過ごす中で、今回のツアー参加者の中にいるのを見つけてしまったのがきっかけだったそうだ。しかもその男と友人達は編集部に知り合いがいて、謎も解かずに参加権をコネで手に入れて参加したという。
こうして事件は幕を閉じたのだが、私は鞭打ちが治るまで一週間かかり、その間痛みと闘いながら過ごす羽目になったので、今度から初めてに挑戦する時はもっと気をつけようと固く誓うのだった。
ちなみに、この事件以降明智さんから遥一くんへ度々コンタクトがあるのだが、その話はまた次回にするとしよう。