迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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兄を探しています。
いつからいなかったのか、どんな顔をしていたのか、どんな声だったのか、何一つ思い出せないけれど、たった一つ、兄がいたという事実だけは覚えていた。
両親はいない。村に蔓延した流行り病で亡くなってしまったと聞いている。村で生き残ったのは、私だけだったそうだ。
行商人達と混じって旅をして2年ほど経ったある日のこと、病に伏せた時に、昔誰かに頭を撫でられた記憶が頭をよぎった。その時だ。姿かたち、声すら覚えていないけれど、自分には兄がいたのだという事実だけを、私は思い出したのだ。
そうとなったらやるべきことは一つだ。兄を探す。
村で亡くなった人たちの中にそれらしい人はいなかったと聞いている。であれば、この世界のどこかで暮らしているのかもしれない。探さなければいけないと思った。私が流行病から逃れて一人だけ生きていたのは、もしかしたら兄の仕業かもしれないなんて突拍子もないことを思ってしまったから。
きっと生きてる。どこかでおいしいものでも食べて楽しく暮らしていてくれていれば、万々歳なのだけど。そう思ってお世話になった行商人達と別れ、一人旅に出た。一人で旅をしてわかったことがある。一人というのは、そう、とても。
「さみしいいいいいい!お酒でも飲まないとやってらんないよもう!!」
お客さん飲みすぎないでね、きっといいことあるよ、と酒場の店主に慰められる。その優しさにさらに号泣すると、ここ数日入り浸っていたためか顔見知りになった人たちがわらわらと集まってきてまたやってんのかと笑いに来た。
「ユウキちゃん、大丈夫だって。きっとお兄さん見つかるよ。名前なんて言ったっけ?」
「サトルですサトル!そんな名前の人見かけたら教えてくださいよマジで!」
「オッケーオッケー。でも手がかりが名前だけじゃあなあ」
そうなのだ。あれから兄がいた事実以外は思い出すことはなかったが、村からずっと持っていた謎のライセンスカードを街に出た時に調べてもらったら、それはハンターライセンスというもので、登録者はサトルという人物だということがわかった。
名前を聞いてもピンとこなかったのは、おそらく普段は私が兄と呼んでいたからかもしれない。ただやっと情報が一つ出た、とハンターについて調べると、どうやら年に一度ハンター試験というものがあり、それに合格することでライセンスを手に入れることができ、晴れてハンターの仲間入りするということだった。手がかりだーっと私もハンター試験に繰り出し、無事にハンターライセンスを入手することができた。
試験官のサトツさんがライセンスがあれば調べものがより広くできるようになりますよと教えてくれ、サトルという人間の渡航歴などを調べて回り、今回はここ、くじら島が最新の渡航だったのでこうしてやってきているのだ。しかし収穫はゼロ。というのも、ライセンスを使わなかったりサトルの名前を使わなかったらどこで何をしているのかさっぱりわからないからだ。船なんてとくに乗車券を買う時に偽名を使うのなんて当たり前らしく、これはライセンスの情報をたどるだろうとして踊らされたかもしれないなんて陰謀論まで考えてしまった。不貞腐れてお酒をがぶ飲みしていると、顔見知りのおっちゃんが嬉々として酒場に飛び込んできた。
「おい!ゴンがやったぞ!ヌシを釣ってきやがった!」
ゴン、というのは、度々話に出てくるくじら島のさらにはずれに住む12歳の男の子だ。まだ話をしたことはないが、島の住人からはとても慕われている様子で、きっといい子なのだろうと想像している。それにしてもヌシかあ。おっきな魚だよね。それを12歳で釣り上げるなんて、将来有望だなあ。
「これでゴンもハンター試験受けられるんだな」
「でもミトちゃん、頑固だからなあ」
「え?ゴンくんってハンター試験受けるの?」
12歳で、ハンター試験?!もう将来を見据えているってことなの?!
「うああああ私なんて先が見えないのにいいい子供ってすごいよおおお」
「だめだ、今日は泣き上戸の日だな」
酒場の人たちに再度慰められながら、ふと私は兄が見つかったらその後はどうするんだろうななんて物思いに耽ったりして。
翌日、いよいよくじら島を離れることになった。向かう先は大きな都市だ。もう一度ライセンスで調べてみないと。仲良くなった島の人たちに別れを告げて、船に乗ると、すでに乗り込んでいたらしい少年が手をぶんぶんと振り回す姿が見えた。
「ミトさーん!オレ、絶対ハンターになって帰ってくるからねーっ!」
おお、この子がゴンくんか!ミトさんは私も兄探しの時に声をかけたことのある女性だが、よもやこんなかわいい子供がいたなんて。いやもう、生足が光っている。大丈夫?こんなにかわいいショタ、変なお兄さんに狙われない?実るまでじっくり待とうとする変態現れない?私が守るべきか?
「!あ、島で聞き込みしてた人だ」
「知ってたんだ!えへへ~初めましてゴンくん。あっゴンくんで合ってるよね?ヌシ釣り上げてハンター試験受けに行く許可もらったって聞いたよ~」
「うん、オレの名前はゴン!そうなんだ。オレ、ハンターになりたくて、ミトさんに無茶を聞いてもらったんだ」
その年で無茶を言った自覚があるって、いい子では?やっぱり将来有望では?気合十分といった感じで拳を握りしめるゴンくんは、どんなハンターになるんだろうなあと思わず口がにやけてしまう。都市に着くまでお話しよっか、と誘ったら、うん!と満面の笑みで了承された。
いやこれ、ほんと私が守らなければいけないのでは?僕の林檎ちゃん(ハート)なんて言ってくるショタコンが寄って来るでしょこんなの。せめて試験会場までは守ってあげよう。どうせあてのない一人旅だし、目的地も会場のある都市だから一緒だし。
それからお喋りして、ご飯を食べて、を繰り返して数日後、ようやく都市へ向かう船への乗り換えが終わった。これで、あとは船が港につけば目的地の都市だ。毎年試験会場は変わるということなので、この都市のどこなのかはわからないが、できる限りついて行ってあげよう。試験会場に着いたらお別れかあと少し寂しく感じるが、どうか無事にハンターになれますように。
なんてすでにセンチメンタルになっているが、今はそれどころではない。
この船、今荒波を突っ切っている。そのためか船内はめちゃくちゃで、乗組員達以外の乗船者の大半が酔いでぶっ倒れている状態である。山育ちからなのか平気そうなゴンくんはぐったりしている人たちの介護をしており、これでもかってくらい天使に見える。いや天使かもしれない。
しかし、と視線をとある二人に向ける。子供が頑張っているというのに、こいつら全く手伝う気ないじゃないか。一人は金髪の小柄な青年で、我関せずといった体で瞳を閉じているし、もう一人は背は高いが胡散臭そうな眼鏡をかけており、トランクの整理をしている。きっと声をかけても無駄だろうと私もゴンくんの手伝いをしていると、ひと段落した後ゴンくんが船員の人からもらったと飲み物を二人分持ってきてくれた。
「はい!オレが勝手にやってることだったのに、手伝ってくれてありがとう!」
「はーーーーーやっぱり天使だったかーーーーー」
「なんだあの女、変態か?おーい坊主、そいつショタコンかもしれねえから離れとけー」
「だだだ誰が変態でショタコンか?!べべ別にそんなのじゃないんですが?!」
「動揺しすぎだろ!確定だ確定!」
丸眼鏡のトランク野郎の言葉にうむ、と金髪が静かに頷く。なんでそこだけ連携とれてるんですかね?!
「元気なこった。しかし残ったのはお前らだけか」
船長が客室に入ってきて私たちを見てそう言った。
この船長さんとは、以前も船を使わせてもらったときに顔見知りとなっており、かつ、ハンター試験の関係者だということも知っている。
あ、ということはすでに選別が始まっていたのか。思えばさっきさらにひどい嵐を航行するから命の惜しい奴は降りろって言って三人以外は降りていったっけ。降りた人たちはおそらく失格扱いとなったのだろう。
状況に気づき、わたわたと慌てる。つまり、この金髪と丸眼鏡も試験希望者なのだ。この場合、私はどういう立ち位置で見ていればいいのだろう?!すると船長は私の狼狽に気づき「騒がしくするな。船から落とすぞ」と無情なことを言ってくる。相変わらず口が悪いなこの人!
全員に自己紹介をさせるために、これはハンター試験に行くまでのふるい落としだと説明をすると、渋っていた金髪と丸眼鏡も自己紹介をした。面接試験に立ち会っているみたいで少しわくわく。
金髪の名は、クラピカ。クルタ族の生き残りで、4年前同胞を皆殺しにした盗賊グループ、幻影旅団を捕まえるためにハンターを志望しているという。賞金首狩り(ブラックリストハンター)志望、と船長は言った。なるほど、ハンターにはそういう種類もあるのか。
そして丸眼鏡ことレオリオは、とにかく金がほしいと言った。金さえあればなんでも買えると息まき、煽るクラピカと口喧嘩になって甲板へ出て行ってしまった。いや外すごい大嵐なんだけど。
「ゴンくんどうする?止めにいく?」
「ううん。その人を知りたければ、その人が何に対して怒りを感じるかを知れ、そうミトさんが言ってた。オレには二人が戦ってる理由はとても大切なことに思えるんだ。だから止めないよ」
「えーーーもうそんな大人なこと言えちゃうのーーーー?天使かーーーー?」
「そういえばユウキは」
話の途中で、ガタンと船が大きく揺れた。これは大きかったなあと甲板を覗いた矢先、船員が頭を打って海へ吹き飛んでいくのが見えた。あっと気づいたときには、レオリオがいち早くその船員を助けるために手を伸ばしていた。そしていつの間にかゴンくんはおらず、レオリオの伸ばした手を飛び越えて、落ちていく船員の足をつかんだ。ゴンくんの両足はレオリオとクラピカが掴んでおり、どうにか全員無事ですんだようだ。肝が冷えたと大きなため息を吐く。
三人の雰囲気が穏やかになった頃、空が晴れてきた。嵐を抜けたようだ。
「ふ、こっちの嵐も抜けたってわけか」
「何を言っているんだお前は。いいから合格だって伝えてこい」
「私が伝えるんです?!」
座り込んでいる三人のところへ行き、船長からの伝言を伝えるとゴンくんだけは体全体でやったと飛び跳ねていて、他二人は静かに笑って安堵の息を吐いていた。なんか、いいトリオができたって感じだなあ。ほっこりしてそれを見ていると、あ、とゴンが飛び上がった。
「そうだ、さっき聞きそびれたんだった。ユウキはどんな理由でハンターになるの?」
「ああ、私はね、ってあれ?私ゴンくんに兄探しの話してないな?!」
「うん、聞いてないよ。お兄さんを探してるの?」
「そうそう。ゴンくんのお父さん探しと同じだね。名前しか知らない兄を探して、ライセンス情報調べて世界中走り回ってるんだよ。いまだ情報ゼロなんだけどね!!」
「それで君は、ハンターライセンスを得てさらに深くの情報を集めようとしているのだな」
「そっかあ、見つかるといいなあ変態嬢ちゃん」
「変態をくっつけて呼ぶのやめてくれる?!」
(そういえば、ユウキが一応ライセンスもったハンターだってことこいつら知らねえのか)
船長が何か言いたげにこちらを見ていることにも気づかず、穏やかな海の上でわいわい騒ぎながら、私たちはドーレ港へと向かうのだった。
ーーー……
「こんにちはー!」
「あら、ユウキじゃない。何しにきたの?」
船を降りて、ドーレ港に到着すると、試験会場を目指すこととなる。
レオリオはバスで行くといって別れ、ゴンくんとクラピカはゴンくんが船長から聞いたヒントを頼りに一本杉を目指して山を登るとした。私も後から追いかけるといって、別行動をとり、以前自身が試験を受けた時にお世話になった美容室もとい案内人のお姉さんのところへお邪魔することにした。少し後ろ髪を整えてほしいとお願いして、周囲に誰もいないことを確認して聞いてみる。
「今年の試験会場って知ってる?」
「知ってるし今年も訪ねられたら案内してるわ。ってあなたもうハンターじゃない。受けなおしはできないわよ?」
「えっとお、今かわいいハンター志望の男の子と行動してて、手助けしてあげたいなあなんて思ったり……」
「本音は?」
「超絶キャワワのショタをいつか現れるかもしれない変態の魔の手から守りたい!!」
あっやめて?!思いっきりため息吐くのやめて?!いやいやあの子はほんと誰かが見ててあげないと変態がわんさか寄ってくるタイプのショタなのよ!ストーカーとかされるタイプなのよ!
「まあ、試験会場の案内は別にハンターに頼っちゃダメなんて規則はないものね。それに、あんた推薦なら面白そうじゃない。で、その子はどこにいんのよ?」
「こっから見える山の上の一本杉?を目指してみろって船長に言われてそっち向かったよ。あそこなんかあるの?」
「あー……厳しいほうに向かったわね。あっちも案内人のいる場所よ。ただしデッドオアライブ満載の、ね」
「いやああああ私のゴンきゅんがあああああ!!」
「ちょっと動かないで。言っておくけど、今から行っても間に合わないし、そもそも私はあんたの髪を整えるまではこの場を離さないから」
「うわあああん!!ゴンくんんんんん!!」
綺麗に髪を整えてもらった頃には日は落ちていて、試験会場の場所を教えてもらった私は仕方なく先にザバン市に向かい会場の前でゴンくんを待つことにした。
「あっ!ユウキだ!」
「げ、すでに着いてやがったのかあいつ」
「我々より一枚上手だったようだな」
翌朝、とある定食屋の前で待っている私を見て各々が反応を返してくれた。いつの間にかレオリオも加わっているし、一晩で一体何があったのだろう。横にいる知らない男の人は案内人だろうか。いやそれよりも、駆け寄ってくるゴンくんの両肩を掴む。
「無事?!変態に遭遇してたりしない?!レオリオに手籠めにされそうになったり、クラピカに丁寧に抱かれたりしてない?!」
「おいてめえ!!」
「レオリオはともかくなぜ私もその枠なのだ?!」
「いやお前も失礼だな?!」
ペタペタとゴンくんの体を触って確認していたら、くすぐったいと身をよじられて思わず土下座してしまった。イエスショタノータッチ!!ちなみにレオリオとクラピカにはここで蔑みの視線を向けられていることには最後まで気が付かなかった。
気を取り直して、ゴンくんもついでにレオリオとクラピカも無事にここまでたどり着いてよかった。あとは、本番に挑むだけだ。ということは、私の出番はここまで、ということになる。歩き出す三人と案内人を見送ろうと足を止める。店に入ろうとするみんなの後ろ姿を見ていたら、ゴンくんが首を傾げながら振り返った。
「ユウキ?どうしたの、行かないの?」
うううう!私だって愛すべきショタを守るために行きたいよ!
でもハンター試験は一度受けて合格したらもう受けられないから門前払いだろうし、それに、私の本来の旅の目的はどこにるかもわからない兄を探すことだ。だから、やっぱりずっとはいられない。少しの間だったけど、楽しい時間だったから感傷的になっているのだ。ぶんぶんと首を横に振って、あのねと声を絞り出す。
「私、ハンター試験受けられないんだ。ごめんね、ゴンくん」
「えっなんで?!」
「私ね、実は」
「受けられなくても、見学くらいならできるか聞いてみたらどうだい?」
意外にもそんな提案をしてみせたのは、案内人だった。キリコさん、とゴンくんが呼ぶと、彼は不敵に笑い、とにかく入れと促してくる。俯く私の手を、ゴンくんは引っ張ってくれた。
ステーキ定食、弱火でじっくり。今年の暗号はおしゃれだ、なんて感想を抱きながら、奥の部屋に入る。ゴンくんがありがとうとキリコさんに握手をして、それから全員が部屋に入るとエレベーターになっていたようで下降を始めていく。離れていくキリコさんを見ると、パチンとウインクをされてしまった。
一体どうなってしまうのか、なんて思いながら三人を見ると、何か聞きたそうにしていた。なんかさっきから、別に隠そうとしてるわけじゃないのにハンターライセンス持ってる話が途切れてできないでいる。ここは早口で言うしかない。あのね!と少し大きな声を出して、続きを話そうと口を開いた瞬間。エレベーターは止まり、ウィンと扉が開いた。
「降りるのくそ早!!」
「わあ、ここが会場……!」
私が嘆いている間に、すでにゴンくん含め全員の意識は会場に持ってかれていた。受験者はわりと多い中、ちらほらと私と同時期に受けた人たちの姿が見える。みんな、それぞれ思いがあってハンターを志望しているのだ。そう簡単に諦められるわけがない。
会場にたどり着いた受験者に配っているのだろう、ナンバープレートを渡す係の人がこちらへやってきて、どうぞと三人に渡していく。そして私を見て、淡々とした口調で言ってくる。
「あなたは受けなおしできませんよ、ユウキ様」
「し、知ってますけどお……見学とかってオッケーだったりします?」
「ダメです。受験者以外の参加は認められません」
「ですよね……」
めそお、と凹んでいたら、会場内に進んでいたゴンくんが戻ってきた。ああ、かわいい。かわいいけど、ここでお別れなのか。
「ユウキ、本当に受けられないの?」
「うう……ゴンくんのきめ細やかな輝かしい生足を守ってあげたかったけど、規則は規則だから……変態には十分気を付けるんだよ!」
「その変態はお前だろ」
「失礼ながら同感だ」
「二人うっさい!!」
どうして受けられないの、という言葉に今度こそ理由を説明しようとしたのだけど、今度は試験官の到着によってそれも遮られてしまった。おお、試験官はサトツさんなんだーなんて思ってみていたら、私と目が合った。それから、わかりやすくため息を吐いてきた。あの目は、規則を忘れたのかとあきれている目だ!違いますからね!
私の脳内の抗議は届くことはなく、サトツさんはおもむろにどこかへ電話をかけると、少し話して電話を切った。すると、背後から試験官の補助の人たちに早く出るよう促されてしまった。めそおと凹みながら出口へ向かいとぼとぼ歩く。
ゴンくんだけはその様子を見ていて、「ユウキ!」と声をかけてくれたので「大丈夫だよー!!」と精いっぱいの笑顔で返した。後から気づいたらしいレオリオとクラピカも驚いた顔をしていたが、とりあえず親指を立てておいた。数人ちらちら見られたけれど、やはりみんな試験の緊張でほとんどが試験官を見ていたおかげで注目されずにすんだのは少し幸いだったかもしれない。
そのまま地上へ連れ出され、無情にも外に放られてしまった。またもめそぉと凹んでいたら、一台の車が私の前にやってきて、知っている顔がひょこりと顔を出してきた。
「元気そうじゃのお」
「会長?!」
そう、ひょっこり顔を出してきたご老人こそが、ハンター協会のトップ、ネテロ会長である。この人に試験を見てもらったのはもうずっと前のことになるのか、懐かしいな。といっても二年ほど前のことだけど。
「ライセンスはなくしとらんのじゃろ?何しに来たんじゃ」
「応援してる子がいて、その子の付き添いでここまで来たんですけど……」
「ほーん、ハンターだと名乗りそびれて、のこのこ会場までついていって受け直しはできんと追い出されたというわけか」
「ううその通りで。見学くらいならできるかどうか頼んでみたらとも言われたので頼みたかったんですけど、その間すらなく……」
「ふーむ。じゃ、協会でモニター越しに見るのはどうじゃ?全部はダメじゃろうが、少しくらいならオッケーじゃろ」
「えっマジですか?!」
もう会長ったら、と運転手がため息を吐いているが、会長ははよ乗れと私の乗車を促してくる。やったああと意気揚々と車に乗り込むと、会長はほっほと笑った。
「あの兄探ししか興味ないと思っていた子が、誰かを気にかけるとはのう。よほどいい子なんじゃろうな」
「えっ私そんな風に見えてました?!ま、まあ試験受けに来た時はもうとにかく兄と同じハンターにならないとって必死でしたけど……そういえば、今年の試験はどんな試験なんですか?たしか、私の時はずっとマンツーマンで体力テストと筆記テストでしたよね?なんでみんなあんなにごてごての武器持ってたんだろ……」
「ほっほっほ」
「意味深な笑い!!」
これはとある試験官の手記。
あの日、試験会場に着いたとある少女に協会の人間達はすぐに危険を感じて、彼女だけを別室に招き疑似試験を受けさせた。あのまま会場にいさせるわけにはいかなかったからだ。
ハンター試験は死がつきものだ。だから敵意のある人間、暴力的な人間、とにかく悪意が渦巻いていたあの会場で協会の人間が守ったのは、彼女ではなく受験者達のほうであった。
ハンター試験には表と裏がある。表の試験を受け、ライセンスを入手したものは裏の試験、念を習得する試験が待っている。協会に勤める人間は程度はあれどみな念能力が使えたと思う。
強者である試験官の人間は、あの少女をどう思ったのだろうか。
私は、私には耐えられなかった。
怖かった。彼女に近づいたら、死ぬと思ったのだ。
なぜなら感じてしまったからだ。
はっきりとは見えなかったが、彼女を覆う強大な何かを。
それは、誰かの念能力で作られた、彼女を守るためだけに存在している防衛機構だったという。
もし彼女に悪意を持って触れれば、きっと手は吹き飛ぶのだろう。悪意を持って襲い掛かれば、全身ごと消滅する。
見たわけでもないのに、あの場にいた念能力者たちにはそう感じ取れたのだ。
会長の判断で、彼女だけ別室でマンツーマンの受験だと嘘をついて試験を受けさせた。担当したのはサトツさんだと聞いている。彼は、どうやって耐えたのだろう。結局彼女はハンターの資格を得た。もしかしたら、監視の意味があったのかもしれない。
あとで聞いた話だが、素養は悪くなかったようで普通に試験を受けていても試験内容によっては受かる可能性はまあまあ高かったらしい。念でできた防衛機構も彼女への敵意のない場所では発現せず、そのこと以外は兄を探しているだけの普通の少女だったと。
だが私は、もう二度と会いたくない。今でも覚えている。恐怖を持った私に向き直る、彼女を守る誰かの念でできた防衛機構の強大な冷たいオーラを。