迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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何が、どうなったんだ。これは強制絶状態だ。体は動かない。声も出せない。まるで透明人間にでもなったように、誰にも気づかれないまま三つの首が落ちるのを見ていた。あれは、オレ達だ。
(落ち着け、冷静になれ!)
ヒソカがユウキを殺した瞬間、オレとコルトピはその事実に耐えられなくて、何の攻撃力もないまま衝動的にヒソカに向かっていこうとした。
殺されるのはわかっていたけど、ここで背を向けたらきっともう二度と旅団には戻れない。みんなと合わせる顔がない。何より、大切な仲間を殺されて黙っていられるわけがなかった。
しかし、向かおうとした体は、いつの間にか見えない何かにとらわれていた。入れ替わるように、オレとコルトピのコピーがヒソカへ向かっていったではないか。ヒソカはそれに気づくことのないままオレ達を殺した。そして丁寧にブランコに並べた首の傍に、草むらから拾ってきたビデオカメラを添えてどこかへ行ってしまった。
そのしばらく後、血相を変えたマチがやってきて、オレ達の首を見て叫びたい衝動を抑えて唇をかみしめているのは、見ていてつらかった。まるで黙とうするように目を閉じてから、ビデオカメラを持つと彼女もどこかへ去っていく。おそらくアジトへ向かったのだろう。そうして公園全域に静寂が訪れると、ようやく声が出せるようになった。
「っ、コルトピ!」
「!生きてる!」
オレが動けるようになったと同時にどうやら同じ状態だったらしいコルトピが突然現れて、お互い顔を見合わせて驚いた。オレ達の背後でどさりと音がする。振り返れば、首の繋がったユウキがその場に倒れていた。
「ユウキッ!!」
すぐに駆け寄り、呼吸を確かめる。息をしている。脈も心臓も正常に、いや少し小さくはなっているが、動いている。生きている。
「ユウキ、一体、何がどうなって」
「っ、ユウキのガーディアンが!」
「え?」
今まで形のなかった彼女を守るガーディアンが、ゆらゆらと彼女の傍らに立ち、人の姿を形作っていく。そうして出来上がった姿は、オレ達の団長だった。
そして何をするのかと思えば、団長の能力発動と同じように、スキルハンターを発動させてぱらぱらと本をめくり始めたではないか。そうして開かれたページから、能力が消える。否、消えたのではない、オレ達のところへ帰ってきたのだ。体に戻った能力に気づいて、団長の姿のガーディアンを見上げると、すでに本は閉じていた。
「……うぅ」
「ユウキ!」
「……あれ、私、生きてる」
「よかった……よかったっ」
横たわるユウキに縋るようにして、コルトピがそう嗚咽を漏らす。オレも少し泣きそうになるが、堪えてユウキの顔を覗き込む。少し瞼が重そうだけど、オレ達に視線が向くので目も見えている。耳も聞こえている。首も、斬られてはいない。なら、あそこに並んだ首は?
「多分、団長がヒソカとの闘いでやったのと同じ。ぼくの能力で作ったコピーをオーダースタンプで動かしたんだ」
あの一瞬で、ヒソカに気づかれないようにすり替えたというのか。そして本体であるオレ達を、団長が盗んだ能力から適切なものを選んで、隠した。それはもはや、奇跡の所業とも呼べる行いだった。けれど、その奇跡に救われたのだ。
「ユウキ、ありがとう。君のおかげで、みんな生きてる」
「……それじゃ、ダメだ」
「え?」
ゆっくりと手を持ち上げて、その指にはまった指輪をオレ達に見せる。
「これをはめた時の誓約は、私の死が条件なんだ。このままじゃ、ヒソカにバレて、効力がなくなってしまう。そうなったら、みんなが」
「オレ達のことはいいんだよっ!君が思うよりオレ達は強いんだ。だから、頼むから死のうとしないでくれ……っ」
「……へへ、シャルとコルトピさんが泣いてくれて、ちょっと嬉しい。ごめんね、こんなことしかできなくて」
「ユウキっ」
「……あれ、なんでだろ。シャルの後ろに、クロロさんの姿が、見える…………兄さんって、呼んでみたかった、な」
「おい、待ってくれ、やめろ、目を閉じるな!!」
「ユウキっ?!」
オレの後ろにいたのは、彼女のガーディアンだ。念は見えないはずの彼女だったけど、最後の最後で見えたとでもいうのか。それとも、実体を持ったのか。ユウキは目を閉じてピクリとも動かなくなった。呼吸音が聞こえない。そんな、どうして。
トンと肩を叩かれる。ユウキのガーディアンだった。指の先に念を集め、文字を書いてきた。どうやら声は出せないらしい。
『ユウキは生きている』
「え?」
『体の時間を止めることで、死を偽装した。ヒソカにも、主人たるサトルにも気づかれることはない』
まさか、そんなことができるなんて。いやそもそも、どうしてガーディアンに知性があるんだ。どうして、団長の姿をしている。いまだ信じられないとガーディアンを見ていたら、口は閉じたまま指を動かして意志を伝えてくる。
『この姿はユウキが最後に思い浮かべた人間を再現した。自我は、自分でも理解できない。自分はユウキをずっと守ってきた。だが、自分の存在を知ったユウキは、自分を怖がっていた。自分が、あなた達を傷つけることを、ずっと恐れていた』
機械のように淡々と言葉を並べていたガーディアンは、まるで人間のように一瞬躊躇した様を見せて、ゆっくりと文字を連ねた。
『自分は、ユウキを守る存在だ。あなた達はユウキが大切に思う存在。守る対象である。だが、仕事を依頼したい。危険が伴う仕事ではあるが、ユウキを救うためだ』
「オレ達に何をさせたいの?」
『ヒソカから、指輪を取り返してほしい。あの指輪がある限り、ユウキは目覚めない』
それなら迷う理由はない。
「受けるよ、その仕事。依頼料は弾んでもらうからね」
「ぼく達は盗賊団。盗むのは得意」
『感謝する。では、今後の意思疎通の問題があるため、疑似音声の構築を開始する。これにかかる時間は推定72時間となるため、ユウキを安全な領域へ移動することを提案する』
なんだかますます機械じみてきたな、このガーディアン。それにしても、疑似音声の構築に72時間もかかるのか。
とにかくまずすべきは、ユウキを安全な場所に移動させることだ。事情を理解してくれて、必ず守ってくれそうな人間などいただろうか。
(……ゴン)
彼女が大切に思っている友人。鎖野郎の仲間。
(……今は、前者の方でいい)
オレ達以外でユウキを守れる唯一の人間は、きっとあの子供しかいないと思った。
――――…
くじら島。一度くらいは来たかもしれないが、もう覚えていない。ユウキを車椅子に乗せて、念能力が使えなくても認知されるようになったガーディアンとコルトピを含め、三人で変装をしてから、ゴンがいるというくじら島へやってきた。のどかな島だ。事件などめったになさそうなここなら、そしてあの子供がいるのなら、ユウキは大丈夫かもしれない。ハッキングして調べたゴンの携帯に電話をかけると、もしもしと声が返ってくる。
「こんにちは、ゴンくん」
『誰?まって、どこかで聞いた声……』
「すごいね、オレほとんど君と話してないのに覚えてたんだ。幻影旅団のシャルナークといえばわかるかな?」
『っ?!旅団がなんでオレの携帯に?!』
「話は簡潔にするよ。今、オレ達はくじら島に来たところだ。ユウキと一緒にね」
電話の向こうでざわっと殺気に近いものを漂わせているのが感じられる。何か取引を持ち掛けられると思っているのだろう。何か言われる前に、先に違うとだけ伝える。
「オレ達は悪だくみでここに来たわけでもなければ観光でもない。君に、ユウキのことを頼みたくて来たんだ」
『ユウキに何かあったのっ?!』
「詳しい話は、君の家でしたいんだけどどうかな。迎えに来てくれる?」
『すぐに行く!船着き場で待ってて!』
電話を終えると、船着き場近くのベンチまで移動して、一息ついた。あれからガーディアンは指文字での意思の疎通も行わなくなった。残り12時間か。結構かかるものなんだねとコルトピと話していたら、勢いのある足音が広場からこっちへ向かってくる。どうやら急いできてくれたようだ。黒髪の少年、ゴンはオレ達の姿を見るなり一瞬警戒をしたものの、車椅子に座るユウキを見て駆け寄り、手を握った。
「ユウキ?」
返事はない。なんなら、今手を触れば、脈が動いていないのもわかる。案の定、ユウキが死んでいるのだと思ったらしくゴンの表情が絶望へと変わり始めたので、ちょっと待ったと声をかける。
「死んでないから落ち着いて」
「っ、うそだ、だって」
「今、わけあってユウキのガーディアンが彼女の体の時間を止めてるんだ。けど原因をどうにかしないと、彼女は一生このままだ」
「……オレの家まで案内するよ」
「話が早くて助かる」
―――…
「……ヒソカがつけた指輪が外れれば、ユウキは死ななくてもいいんだね」
案内されたゴンの家の客室で、これまでのことを一通り説明すると、結論をそうまとめた。ただし、と本題に入る。
「オレ達が君を訪ねたのは、ヒソカから指輪を奪還する手伝いをお願いするためじゃない。ユウキを、守ってやってほしいんだ」
「オレが、ユウキを?」
「いくら体の時間が止まっているからって、一人無防備に寝かせてはおけない。どこか安全な場所をって考えた時、君を思い出したんだ。ユウキはね、君がキメラアントとの戦いで危篤状態だと知った時、なりふり構わず会いに行ったんだよ。そのくらい、ユウキは君に心を許していて、親しく思ってた」
まあ面会謝絶で会えなかったけどね、と付け加えると、ゴンは自身の手をぎゅっと握りしめて、顔を歪ませた。
「オレ達以外でユウキの傍にいてもいいと思えるのは、君しかいないんだ。オレ達が戻るまでの間、ユウキを守ってほしい」
「でもオレ、今、念能力が使えないんだ」
「そうなんだ。それならちょうどいいね」
「え、なんで?」
ミトという女性が用意してくれた客室のベッドに寝かせたユウキの髪を、そっと撫でる。ずっと、ユウキの言葉が頭を離れない。
「目を閉じる前に、こんなことしかできなくてごめんって言われちゃった。ガーディアンも言ってたけど、ユウキはずっと、ガーディアンを怖がってた。きっと、知らないままでいた方が幸せだった。ユウキの幸福は暴力のない、こういうのどかな生活だと思うんだ。だから、力のない君が、ここでユウキの傍にいてくれるなら、安心して預けられる。ユウキのこと、頼めるかな」
ゴンは何かを考えるようにぎゅっと目を閉じた後、自分の両頬を気合を入れるように叩いた。開かれた目には、決意が宿っていた。
「もちろん。いつも心配かけてたから、今度はオレがユウキを守るよ」
一丁前に男らしい顔を見せてくるので、これは団長のライバル出現かもしれないなんてガーディアンの顔を見ながらコルトピと二人で少し笑ってしまった。
「ところで、ユウキのガーディアン、さん?はなんでクロロと同じ姿をしてるの?ユウキのお兄さんといい、なんだかクロロの顔ばっかり見てる気がする」
「あー、オレもお兄さんと会った時団長の顔だったから驚いたなあ。ちなみにガーディアンの方は、ユウキが最後に思い浮かべた人間の再現らしいよ」
「ふーん……そうなんだ……」
「嫉妬したって団長の方がポイント稼いでるんだから仕方ないじゃん?」
「しっ、してないよ!誰が旅団の団長に嫉妬なんて!」
「(コルトピ、不謹慎だけど今すごく面白いことになってきたよね!)」
「(本当に不謹慎)」
翌日。くじら島は船の本数が少なく、昼食をご馳走になってから午後の便で出立することになった。
「ユウキのことはオレに任せて。ヒソカから指輪、絶対奪い返してきてね」
「もちろん。オレ達が戻るまで、ユウキのことよろしく頼むよ」
「うん。……そういえば、ユウキのガーディアンは何て名前なの?」
「名前?」
なるほど、たしかに名前がないと今後不便だな。それじゃあ、と声を上げたのはコルトピだ。
「ガーディアンだから、ガーディはどう?」
「お、いいねそれ。よし、今から君はガーディだ」
「個体名が必要であれば、識別番号のように数字で構わない。名称にするのであれば、再現元である人間の名前でいいのではないだろうか」
「ばっかだなあ。団長は団長。君は君だろ。君は、ユウキを守るガーディだよ」
「うん、起きたらユウキにもそう紹介するよ」
「いや、ユウキは自分を畏怖の対象としてみている。ゆえに紹介は不要である」
固い言葉を連ねているが、怖がられていることに寂しいという感情があるように思えた。もう一度、ばかだなあと笑う。オレの代わりに、ゴンが大丈夫だよと同じように笑った。
「ユウキは善意には素直に感謝をする人だよ。手段は暴力的なもので、ユウキを傷つけてしまったけど、それでも、守ろうとしていた気持ちは本当でしょ?大丈夫、ユウキはちゃんと、わかってるから」
機械のようだったガーディアンは驚いたように瞬きをして、それから少し笑ったように見えた。
戻ってくる頃には、もっと人間のようになっているかもしれない。少し、楽しみだ。
ゴンに見送られてくじら島を離れる船の中。潮風を浴びながら、次の目的地を思う。
「ガーディには聞きたいことがたくさんあるからこれから聞くとして、オレ達が死んだことになってるとしたらヒソカの指輪奪還には好都合。三人で力を合わせて、やってやるぞ!」
「ヒソカにはぼくもやり返したいからね」
「シャルナーク、コルトピ、本当に感謝する。どうか、ユウキを救うために協力を頼む」
こうしてオレ達は、旅団目当てに乗り込むであろうヒソカと、団長達とは別ルートでブラックホエール号へ乗り込むことになったのだった。
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