迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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ある程度必要そうな能力を盗み終え、いい加減追ってくるヒソカを撒くのも面倒になったオレは、タイマンの申し込みを受けることにした。場所は天空闘技場。ユウキに知られれば見に行きたいと言われかねないと思い、営業活動だと嘘をついて向かうことにした。あそこは様々な敵意やら悪意やらで渦巻いている場所だ。彼女のガーディアンが警戒するから、目立ってしまうだろう。以前少年たちの師匠に観覧禁止を言い渡されて落ち込んで帰ったと言っていたが、理由は同じはずだ。
今彼女の側にはノブナガ達がついてくれているから、さっさとヒソカを殺してオレ達の日常に戻ろう。次の盗みは遠出になる予定だから、ユウキには旅行と伝えて連れて行こうか。
そしていつか、見たいと言われている演劇を披露してやってもいいかもしれない、なんて思っていたのに。
マチが、悲痛な面持ちでオレ達のところへ戻ってきた。これ、とトランプの刺さったビデオカメラを渡される。
「あいつ、死ななかった。あたしら全員、時と場所を選ばず会ったら殺すって」
一緒にいたはずのシャルとコルトピはどうしたんだと尋ねると、ごめん、とだけ返ってくる。
「これ、闘技場近くの公園に死体と一緒に置かれてたんだ」
その言葉で、全員が理解してしまった。二人は殺されたのだと。能力はオレが借りていた。戦う術はなかったはずだ。オレの油断のせいだった。
「……この中身、あたしもまだ見てないけど、見ない方がいいと思う」
本当に見ない方がいいと思ったのなら、持ってきてはいないはずだ。見ない方がいいが、見た方がいい。痛む記憶が頭を過るが、きっと見ないといけないものだった。
何も言わないまま受け取ったそれを起動する。長時間録画ができるタイプのもので、草むらからトイレ側へ向けてカメラが向いているからおそらく盗撮魔のものだろう。これで見つけた気に入った人間をストーキングなりなんなりするために使っていたのかもしれない。音も公園全域のものすべてを拾えるくらい高性能に改造されていた。時間を飛ばしていく。
夜になると、シャルとコルトピが映りこんだのでそこで等倍再生を始めることにした。
『早くすませてよ』
『わかってる』
トイレへ向かうコルトピを見送り、シャルはブランコに座って携帯をいじり始めている。しばらくすると、電話がかかってきたが、これはオレがかけた電話だ。カキン帝国のお宝を盗む話を、シャルに伝えた。久々に全員集合だねと楽しそうに笑うシャルが通話を終えると、遅いなとトイレの方を見る。
『逃げて!!』
突如コルトピの声がトイレから聞こえた。すぐにシャルは駆け出しトイレの方へ向かっていく。トイレから飛び出したコルトピの背後には、ヒソカがいた。手に持っているトランプがコルトピへ向けられる。ここで殺されたのかと思っていたら、突然ヒソカは逃げるように後退した。
『一撃で仕留められなかったのは、キミのせいだったか。あーあ、やなタイミングで来るねえ』
『コルトピさん!!』
聞こえた声に、息が詰まる。
どうして。
『ほんと厄介だなあ、キミのガーディアン』
ユウキがここに。
『っ、コルトピさん、シャルっ!私のところにっ!』
『なんでここに?!』
『ごめん!実は天空闘技場の会員証、昔人助けした時に貰ってたからたまに覗いてて、そしたらクロロさんとヒソカが勝負するって知っちゃって、いてもたってもいられず来ちゃった!』
『へえ、じゃあ見たんだ、ボクらの試合。どうだった?キミが慕っている人が何の躊躇もなく人殺しをする様は。裏切られた気分かい?』
悦に入っているのか、ヒソカがひどく楽しそうに笑っているのがとても不快だった。
『ずっと言いたくて仕方なかったんだ。面白かったから黙っている方を選んだけど、もういいよね?だって、キミは自分のガーディアンのことを認識しているようだし、そろそろお姫様の魔法を解いてあげないとね?』
『やめろヒソカ!黙れ!』
『クロロはね』
『ヒソカぁッ!!』
『キミが兄かもしれないってずっと言ってたあの盗賊団、幻影旅団の団長だったんだよ』
一生教えるつもりはなかった。
知らないままでいいと思っていたそれは、殺しそこねた男の口から伝わってしまった。
なんて言うのだろうか。
裏切られた。
信じられない。
バレてもいいなんて団員達には簡単に言っていたが、いざ知られてしまうとこうも動揺してしまうとは思わなかった。ユウキは、なんて言うのだろうか。
カメラのアングルでは正面のヒソカと、シャルとコルトピと、そしてユウキの背中しか見えない。
『……か』
『ん?』
『そんなこと、もうずっと前から知ってたわ!!ばーかっ!!』
―――…
知っていた。ハンターの資格が嘘だったとわかった数日後には、もう知っていたのだ。
私が動揺してあわてふためく様が見られると思っていたらしいヒソカは目を見開いて驚いているようだった。それからくっくとお腹を抱えて笑い出す。いやここは笑う場面じゃないんだけど!
「知ってて知らないふりをしてたのかい?一体いつから?まったく、とんだ嘘つき兄妹だ!」
「ライセンスが嘘だってわかった後くらいだよ!それまではちっとも知らなかったよ!ていうかクロロさんに殺されたんじゃなかったの?!なんで生きてんの?!いやそもそもなんでコルトピさんを殺そうとしたのさ!」
二人を庇うように前に立ってそう問いただせば、トランプを持ったままにんまりと微笑まれた。
「蜘蛛狩りをしようと思って。彼を狙った理由は単純に近くにいたから」
「なっ、そ、そんな理由で」
「そんな理由で人を殺す集団が幻影旅団なんだって、わかってる?」
「っ!」
わかっているつもりだった。知り合った時にクラピカから話を聞いた時から、ひどいことをする盗賊団がいるんだと認識した。兄がそのリーダーかもしれないと思って調べた時も冷酷非道と言われていて、ヨークシンのオークションもめちゃくちゃにされて。そういう事実を知っていって、本当にひどい悪党だと思っていた。理解していたつもりだった。
「キミはずっと、優しくされてきたから知らなかっただろう?以前断崖絶壁に置き去りにした時、どうしてクロロは怪我をしていたと思う?そもそもどうしてあんなところに置き去りにされたのか。ただのカツアゲであんな手の込んだことすると思うかい?」
「……そりゃあ、今思えばおかしい気もするけど」
「あれ、キミのお友達のクラピカがやったんだよ」
「え?」
「ウボォーギンを殺したクラピカは旅団に追われてね。色々あった末にゴンとキルアが旅団に捕まったけど、代わりにクロロがクラピカに捕まり、そして人質交換の交渉が行われた。仲介人はパクノダ。彼女も死んだけどね」
どうしてこう、簡潔にしかみんな教えてくれないのか。いやでも、やっと違和感の正体がわかった。ずっと、二人の姿が見えないのは何故だろうと思っていたのだ。誰も何も言わないから、私もあえて触れないようにしていた。何か、聞いてはいけないような気がしたから。
クラピカは、復讐をした。旅団は、さらにその復讐をしようとした。なるほど、復讐は復讐を生むと何かで読んだけど、たしかにこれは一生終わらない。今の私には、どちらの味方になることもできないけれど。
「どうせヒソカはそれを引っ掻き回したんでしょ」
「ご明察。だってクロロと戦いたかったからね」
「じゃあもう望みは叶ったじゃん。執着するのやめなよ」
「嫌だよ。今ここで二人を守ったところで、ボクは狩りをやめない。ただ、一つだけ狩りをやめる条件を出してあげよう」
「条件?」
「キミを殺させてくれたら、ボクから追いかけまわすのをやめてあげる」
突然、おかしな条件を出されてしまった。私を殺させてほしい、というのは一体どういうことだ。それでヒソカに一体何の得があるのか。私のそういう疑問たっぷりの表情に気が付いたヒソカは、得だらけだよと笑っていた。
「まず、キミの実のお兄さんがボクを殺しにくるだろう。ボク、彼と会ってからやりたくて仕方なくってねえ。得することその二、自称兄の方もボクを殺しに来る。わざわざ探し回らなくてもリベンジマッチができるなんて最高じゃないか」
二人とも隠れるのがうまいから全然探せないし。
とヒソカは嬉々として言っているが、正直私にはそれが全くお得には感じない。というか、今あげた二人が確実にそれを行うとは限らないのだけど、それだけでいいのか。
そうか。それなら、死ぬ意味がありそうだ。
「待ってユウキ、今何を考えた?!」
シャルが私の腕を掴むけど、私は振り返らないままヒソカと交渉を続ける。
「私を殺したら、それで狩りは終わり。そういう条件だね?」
「うん。約束するよ」
「口約束は効力がないからなあ……あ、そうだ」
そういえば、前に人助けをした時にもらった謎のアイテムがあった。誰かと本気の約束をするときに使うといいよなんて言われていた、揃いの指輪。結婚用だと思っていたけど、今使えそうだ。
鞄から取り出したその内の一つを、ヒソカへ向かって放り投げる。なんなくそれをキャッチしたヒソカは、ふと顔を少し上へ向けた。何が見えているのか。私のガーディアンと呼ばれるものだろうか。
「……なるほど。ガーディアンの監視下なら、不正は行えない。考えたじゃないか、ユウキ」
「いや普通に不正しようとするな!ほら、さっさとはめる!」
「ふふ、キミとのエンゲージリングだね。嫉妬されちゃうかな」
「言い方ぁ!!」
クスクスと笑いながら指にはめるのを見届けたので、自分もそれを嵌めようとしたらシャルがまた強く私の腕をぐっと引っ張った。コルトピさんも同じように反対側の服を引っ張っている。
「ダメだ。頼むからやめてくれユウキ」
「やめてよユウキ。ぼく達を守るために君が死ぬなんて、絶対にダメだ」
「……私にはよくわからないけど、二人は今戦えないんだよね?クロロさんに二人の能力を貸してるんだっけ。ああ、念能力の話みんなに見つかる前にもっとちゃんと調べておいたらよかったなあ!」
クロロさんが迎えに来た時に、私を見つけるのに一か月かかったと言っていた。その一か月の間に、実はウイングさんに会って念能力というものを少し教えてもらったのだ。私についているガーディアンは兄の念能力で作られたもので、私は力を開花させていないから見えないのだと。なら見えないままでいいと答えたら、それがいいですと微笑まれたのを覚えている。きっと私の心を案じてくれていた。
「私は、幻影旅団がしてきたことを許せないと思ってる。たとえどんな理由があったとしても、悪党は裁かれるべきだ」
だけど。
「それでも、みんなとの時間は、過去のない私にできた唯一の思い出なんだ。あの楽しかった日々が偽りでできていたとしても、私には、一生の宝物だ」
楽しかった。みんなが驚かせてきたりするのも、実は嬉しかった。一人はずっと寂しかったから、誰かが声をかけてくれるのがとても嬉しかったのだ。
グリードアイランドへ行ってしまったヒソカを待ったクロロさんとの二人での生活も、その後のみんなとの世界旅行も、今日までずっと、本当に楽しかった。
嘘でもよかった。私はきっと、みんなの嘘に救われていた。
ハンター協会の人達も、ネテロ会長やサトツさんも、優しい嘘をついてくれていたんだとわかっている。
けれど、私は自分が歩く爆弾となっていることを知ってしまった。私の感情一つで、周囲の人間が死ぬ姿を見てしまった。
もしそのせいで、クロロさんやゴンくん、ミルキくん、仲良くしてくれたみんなが傷付いたら、私はもう生きていることに耐えられない。
みんなには、生きていてほしいんだ。
「二人とも、私が死んだらすぐにクロロさん達と合流してね。私の事は、まあ適当に事故で死んだとか言っておいてよ」
「ユウキッ!!」
「悪党は裁かれるべきだって言ったけど、それは私もだよ。私、知らない間に大勢殺してきたんだって。……自覚なき殺人鬼なんて、最低の悪党だ」
実の兄から贈られたものは、私を守る代わりにたくさんの人を殺してきた。知らなかったから、なんて言って目を背ける事はできない。私も、裁かれなければいけない。
指輪を嵌めると、ヒソカが視線を指輪に落とした。引っ張る動作をしてみて、なるほどなんて言って楽しそうに微笑んでいる。
「誓約だね。これで今後ボクから彼らに攻撃を仕掛けることはできない。ふふ、クロロもクラピカに鎖を心臓に刺された時、こんな気分だったのかな?」
さあおいで、とヒソカが手招きするが、シャルとコルトピさんが腕を離してくれないので少し困ってしまった。
「二人とも、お願いだから離してよ」
「どうしてだよ。どうして、オレ達なんか守ろうとするんだ!オレ達は悪党で、キミをずっと騙してきた!キミがっ、ユウキが、オレ達を守る必要なんて……ッ」
「みんなが、クロロさんが幻影旅団だって知ってもさ、私、嫌いになんてなれなかった。私みんなのこと大好きなんだ。死なないでほしいんだよ。だから、ごめんね……っ!」
「ユウキッ!!」
おそらく人生で一番力を入れて腕を振ったと思う。いきなりそんな事をするなんて思ってなかったのか、二人の手が外れた隙にヒソカの元へ駆け出す。後ろで名前を呼ばれるが、振り返らない。ヒソカはもうすでにトランプを構えて怪しく笑っていた。
「遺言は?」
「ある!いいかヒソカ、もしリベンジマッチで勝とうとしてるなら諦めろ!……私の兄さんは、幻影旅団の団長だッ!!何度やったって兄さんが勝つに決まってるんだから、さっさと私のいる地獄まで堕ちてこい!!」
一瞬目を見開き、そして心底おかしいとヒソカが微笑む。
ヒソカも悪党だけど、断崖絶壁に置き去りにされたりしたけど、実の兄への伝言の約束を果たしてくれた。本当に感謝している。だから、私に出来ることは。
先に地獄へ行って、この変態奇術師が来るのを待ってやることくらいだ。
ヒソカに向かって伸ばした手は、結局掴まれたのか跳ねのけられたのか何もわからないまま、私の意識はそこで途絶えた。
ーーー…
スパン、と、ユウキの首が落ちる。それを見たシャルとコルトピは耐えられなかったのかヒソカへ向かっていってしまい、返り討ちに遭った。ヒソカから攻撃を仕掛けることはできないが、反撃は誓約に含まれない。
全員の首をブランコに並べていたが、不意にカメラの方へトランプが投げられる。
『あ、やっぱりあった。なんか見られてる感じしたんだよね。誰のだろ………ま、ちょうどいいか。きっとマチが見つけるだろうし』
そこで映像は終わった。フィンクスが壁を殴る音がどこか遠く聞こえる。
「ふざけんなよ……百歩譲って、いや譲るのもうぜえけど、シャルとコルトピはいつ死んでもおかしくねえ立場だった。けど、あいつは違うだろ!あいつのどこが悪党だってんだよ!わりいのは全部あのクソ兄貴だろうが!」
「否定はしないが、肯定もしない。ユウキが死んだのは、お前達の責任でもある」
アジトとして使っているこの廃墟の中に、いつの間にか気配が一つ増えていた。突然聞きなれない声が入ってきたことにオレ以外の全員が攻撃態勢をとると、男も同じように迎撃できるよう体勢を整えたのが見える。瓦礫の上を歩いて、存在感をあらわにするように音を立てながら長身の男はこちらへ歩いてきた。
「この姿で会うのは初めてだな。お前とは顔合わせすることすら初めてだったか、幻影旅団の団長さん」
「てめえ、まさか」
「俺がユウキのクソ兄貴の、サトルだ」
記憶を見たから、声だけは知っていた。フィンクス達は対峙したことはあったが姿かたちはすべてオレで構成されていたから、男を見たのは今回が初めてとなる。男の容貌は、たしかにどこかユウキと似ている気がした。
「それが元の姿なんですか」
珍しく声が沈んだままのシズクがそう問いかければ、サトルという男は頷いた。
「これまではユウキのガーディアンを通じて姿を偽装していたが、それが解除された。その意味がわかるだろう」
「……対象が死んだから」
「そうだ。とくにお前は三人の死体を見ているから、この中で一番現状を理解できているはずだ」
三人は本当に、死んだのか。フィンクスが言った通り、シャルとコルトピはいつ殺されてもおかしくない立場ではあった。それを寛容できるはずもないが、理解はできる。
だが、ユウキはどうだ。彼女は自身を自覚なき殺人鬼と称して、裁かれるべき悪党だと言った。
本当にそうだったのか?彼女は悪党だったか?
否、そんなわけがない。彼女は、善人だった。悪を憎み、良い行いをするただの少女だったのだ。それを、この男が。
「貴様は何をしにきた」
声の音域の調整ができない。自分でも驚くほどの低い声でそう問えば、男はオレの正面に立った。
「ヒソカを殺すために手を貸してほしい」
「協力しろということか」
「そうだ。お前達は俺の妹のおかげでヒソカからの襲撃がなくなった。だが、俺は俺の世界をぶっ壊したクソ野郎を殺したい。先ほどの映像の通り、お前達は攻撃を仕掛けると誓約から外れるため手は出せないが俺の手助けなら誓約内だから問題はないだろう」
「ふざけてんじゃねえぞてめえ。オレ達にてめえの手足になれって言ってんのか」
「……なるほど、たしかにそうなるな。だが俺はお前達に交渉しているんじゃない、リーダーに聞いているんだ。少し黙っていろ」
「こいつッ!!」
「ノブナガ、止まれ」
今にも切りかかりそうなノブナガを止めて、目の前の男を見る。
「断る。貴様の手足になるつもりはない。オレ達はオレ達で、ヒソカを殺す」
「……それは、ユウキの命と引き換えの誓約の外だぞ」
「わかっている。だが、常にこちらが先手を取れるという意味でもある。何度でも言おう、貴様の手足になる必要は一つもない」
「そうか。……なら、俺をお前の手足として使え」
男はそう言うと、刺青を入れるなら手の甲でいいとこちらへ手を向けてくる。
「実力を示せというならこの中の誰かを殺そう。面倒ではあるが、お前達と協力できないのならここに来た意味がない」
「意味とはなんだ」
「ユウキはお前達を守ろうとして死んだが、はっきり言えば無駄な犠牲だった。なぜならお前達は守られるほど弱くはなく、ヒソカと十分に渡り合える力を持っている。俺は、ユウキの死を有意義なものにすべくお前達と手を組もうと思ってここに来たんだ」
無駄と言ったのか。彼女の死を、無駄な犠牲だったと言い放ったのかこの男は。
「俺は、ヒソカを殺せればそれでいいが、お前が殺したとしても問題はない。いや、お前であるならば、だ。お前は、ユウキが俺以外で唯一兄と認めた男だからな」
男の目が俺を見る。問題ないと言いながらその目の奥には、嫉妬が混じっていることに気が付いた。
オレの返答を待っているからか、誰も口を開かなかった。
「いいだろう。刺青は団員に入れてもらえ」
「団長、本当にいいのか?」
フランクリンが冷静にそう聞いてくるので、ああと頷いた後、もう一度男を見る。
「使える駒として入団させるだけだ。言っておくが俺は貴様を殺したいと今でも思っている。ユウキの死を無駄と言い放つ貴様ごときが血のつながりだけでユウキの兄を名乗るな」
「ほう?たまたま会った女の兄を自称する男に言われる筋合いはないと思うが?」
しばらく男とにらみ合った後、先に目をそらしたのは向こうの方だった。連絡先だ、とオレに紙切れを渡すと、刺青を入れるために団員達と奥へ向かう。その背中が見えなくなるまで、オレは男に殺意を向け続けていた。
数人の気配がなくなると、残ったマチが団長、と声をかけてくる。
「あたしのせいだ。本当にごめん」
「気にしなくていい。ヒソカの死を確認しないまま去ったオレに責任がある」
「……でも」
「なあ、マチ」
手に持ったままのカメラに目を向けながら、先ほどから感じる思いを本当は口に出したくはなかったけれど、言葉にする。
「なぜだろうな。ユウキに、兄さんってずっと呼ばれたかったはずなのに、今、嬉しくないんだ」
なぜなんだろうな、と独り言のように呟くも、マチは悲しげに目を瞑ったまま何も言わなかった。
今彼女の側にはノブナガ達がついてくれているから、さっさとヒソカを殺してオレ達の日常に戻ろう。次の盗みは遠出になる予定だから、ユウキには旅行と伝えて連れて行こうか。
そしていつか、見たいと言われている演劇を披露してやってもいいかもしれない、なんて思っていたのに。
マチが、悲痛な面持ちでオレ達のところへ戻ってきた。これ、とトランプの刺さったビデオカメラを渡される。
「あいつ、死ななかった。あたしら全員、時と場所を選ばず会ったら殺すって」
一緒にいたはずのシャルとコルトピはどうしたんだと尋ねると、ごめん、とだけ返ってくる。
「これ、闘技場近くの公園に死体と一緒に置かれてたんだ」
その言葉で、全員が理解してしまった。二人は殺されたのだと。能力はオレが借りていた。戦う術はなかったはずだ。オレの油断のせいだった。
「……この中身、あたしもまだ見てないけど、見ない方がいいと思う」
本当に見ない方がいいと思ったのなら、持ってきてはいないはずだ。見ない方がいいが、見た方がいい。痛む記憶が頭を過るが、きっと見ないといけないものだった。
何も言わないまま受け取ったそれを起動する。長時間録画ができるタイプのもので、草むらからトイレ側へ向けてカメラが向いているからおそらく盗撮魔のものだろう。これで見つけた気に入った人間をストーキングなりなんなりするために使っていたのかもしれない。音も公園全域のものすべてを拾えるくらい高性能に改造されていた。時間を飛ばしていく。
夜になると、シャルとコルトピが映りこんだのでそこで等倍再生を始めることにした。
『早くすませてよ』
『わかってる』
トイレへ向かうコルトピを見送り、シャルはブランコに座って携帯をいじり始めている。しばらくすると、電話がかかってきたが、これはオレがかけた電話だ。カキン帝国のお宝を盗む話を、シャルに伝えた。久々に全員集合だねと楽しそうに笑うシャルが通話を終えると、遅いなとトイレの方を見る。
『逃げて!!』
突如コルトピの声がトイレから聞こえた。すぐにシャルは駆け出しトイレの方へ向かっていく。トイレから飛び出したコルトピの背後には、ヒソカがいた。手に持っているトランプがコルトピへ向けられる。ここで殺されたのかと思っていたら、突然ヒソカは逃げるように後退した。
『一撃で仕留められなかったのは、キミのせいだったか。あーあ、やなタイミングで来るねえ』
『コルトピさん!!』
聞こえた声に、息が詰まる。
どうして。
『ほんと厄介だなあ、キミのガーディアン』
ユウキがここに。
『っ、コルトピさん、シャルっ!私のところにっ!』
『なんでここに?!』
『ごめん!実は天空闘技場の会員証、昔人助けした時に貰ってたからたまに覗いてて、そしたらクロロさんとヒソカが勝負するって知っちゃって、いてもたってもいられず来ちゃった!』
『へえ、じゃあ見たんだ、ボクらの試合。どうだった?キミが慕っている人が何の躊躇もなく人殺しをする様は。裏切られた気分かい?』
悦に入っているのか、ヒソカがひどく楽しそうに笑っているのがとても不快だった。
『ずっと言いたくて仕方なかったんだ。面白かったから黙っている方を選んだけど、もういいよね?だって、キミは自分のガーディアンのことを認識しているようだし、そろそろお姫様の魔法を解いてあげないとね?』
『やめろヒソカ!黙れ!』
『クロロはね』
『ヒソカぁッ!!』
『キミが兄かもしれないってずっと言ってたあの盗賊団、幻影旅団の団長だったんだよ』
一生教えるつもりはなかった。
知らないままでいいと思っていたそれは、殺しそこねた男の口から伝わってしまった。
なんて言うのだろうか。
裏切られた。
信じられない。
バレてもいいなんて団員達には簡単に言っていたが、いざ知られてしまうとこうも動揺してしまうとは思わなかった。ユウキは、なんて言うのだろうか。
カメラのアングルでは正面のヒソカと、シャルとコルトピと、そしてユウキの背中しか見えない。
『……か』
『ん?』
『そんなこと、もうずっと前から知ってたわ!!ばーかっ!!』
―――…
知っていた。ハンターの資格が嘘だったとわかった数日後には、もう知っていたのだ。
私が動揺してあわてふためく様が見られると思っていたらしいヒソカは目を見開いて驚いているようだった。それからくっくとお腹を抱えて笑い出す。いやここは笑う場面じゃないんだけど!
「知ってて知らないふりをしてたのかい?一体いつから?まったく、とんだ嘘つき兄妹だ!」
「ライセンスが嘘だってわかった後くらいだよ!それまではちっとも知らなかったよ!ていうかクロロさんに殺されたんじゃなかったの?!なんで生きてんの?!いやそもそもなんでコルトピさんを殺そうとしたのさ!」
二人を庇うように前に立ってそう問いただせば、トランプを持ったままにんまりと微笑まれた。
「蜘蛛狩りをしようと思って。彼を狙った理由は単純に近くにいたから」
「なっ、そ、そんな理由で」
「そんな理由で人を殺す集団が幻影旅団なんだって、わかってる?」
「っ!」
わかっているつもりだった。知り合った時にクラピカから話を聞いた時から、ひどいことをする盗賊団がいるんだと認識した。兄がそのリーダーかもしれないと思って調べた時も冷酷非道と言われていて、ヨークシンのオークションもめちゃくちゃにされて。そういう事実を知っていって、本当にひどい悪党だと思っていた。理解していたつもりだった。
「キミはずっと、優しくされてきたから知らなかっただろう?以前断崖絶壁に置き去りにした時、どうしてクロロは怪我をしていたと思う?そもそもどうしてあんなところに置き去りにされたのか。ただのカツアゲであんな手の込んだことすると思うかい?」
「……そりゃあ、今思えばおかしい気もするけど」
「あれ、キミのお友達のクラピカがやったんだよ」
「え?」
「ウボォーギンを殺したクラピカは旅団に追われてね。色々あった末にゴンとキルアが旅団に捕まったけど、代わりにクロロがクラピカに捕まり、そして人質交換の交渉が行われた。仲介人はパクノダ。彼女も死んだけどね」
どうしてこう、簡潔にしかみんな教えてくれないのか。いやでも、やっと違和感の正体がわかった。ずっと、二人の姿が見えないのは何故だろうと思っていたのだ。誰も何も言わないから、私もあえて触れないようにしていた。何か、聞いてはいけないような気がしたから。
クラピカは、復讐をした。旅団は、さらにその復讐をしようとした。なるほど、復讐は復讐を生むと何かで読んだけど、たしかにこれは一生終わらない。今の私には、どちらの味方になることもできないけれど。
「どうせヒソカはそれを引っ掻き回したんでしょ」
「ご明察。だってクロロと戦いたかったからね」
「じゃあもう望みは叶ったじゃん。執着するのやめなよ」
「嫌だよ。今ここで二人を守ったところで、ボクは狩りをやめない。ただ、一つだけ狩りをやめる条件を出してあげよう」
「条件?」
「キミを殺させてくれたら、ボクから追いかけまわすのをやめてあげる」
突然、おかしな条件を出されてしまった。私を殺させてほしい、というのは一体どういうことだ。それでヒソカに一体何の得があるのか。私のそういう疑問たっぷりの表情に気が付いたヒソカは、得だらけだよと笑っていた。
「まず、キミの実のお兄さんがボクを殺しにくるだろう。ボク、彼と会ってからやりたくて仕方なくってねえ。得することその二、自称兄の方もボクを殺しに来る。わざわざ探し回らなくてもリベンジマッチができるなんて最高じゃないか」
二人とも隠れるのがうまいから全然探せないし。
とヒソカは嬉々として言っているが、正直私にはそれが全くお得には感じない。というか、今あげた二人が確実にそれを行うとは限らないのだけど、それだけでいいのか。
そうか。それなら、死ぬ意味がありそうだ。
「待ってユウキ、今何を考えた?!」
シャルが私の腕を掴むけど、私は振り返らないままヒソカと交渉を続ける。
「私を殺したら、それで狩りは終わり。そういう条件だね?」
「うん。約束するよ」
「口約束は効力がないからなあ……あ、そうだ」
そういえば、前に人助けをした時にもらった謎のアイテムがあった。誰かと本気の約束をするときに使うといいよなんて言われていた、揃いの指輪。結婚用だと思っていたけど、今使えそうだ。
鞄から取り出したその内の一つを、ヒソカへ向かって放り投げる。なんなくそれをキャッチしたヒソカは、ふと顔を少し上へ向けた。何が見えているのか。私のガーディアンと呼ばれるものだろうか。
「……なるほど。ガーディアンの監視下なら、不正は行えない。考えたじゃないか、ユウキ」
「いや普通に不正しようとするな!ほら、さっさとはめる!」
「ふふ、キミとのエンゲージリングだね。嫉妬されちゃうかな」
「言い方ぁ!!」
クスクスと笑いながら指にはめるのを見届けたので、自分もそれを嵌めようとしたらシャルがまた強く私の腕をぐっと引っ張った。コルトピさんも同じように反対側の服を引っ張っている。
「ダメだ。頼むからやめてくれユウキ」
「やめてよユウキ。ぼく達を守るために君が死ぬなんて、絶対にダメだ」
「……私にはよくわからないけど、二人は今戦えないんだよね?クロロさんに二人の能力を貸してるんだっけ。ああ、念能力の話みんなに見つかる前にもっとちゃんと調べておいたらよかったなあ!」
クロロさんが迎えに来た時に、私を見つけるのに一か月かかったと言っていた。その一か月の間に、実はウイングさんに会って念能力というものを少し教えてもらったのだ。私についているガーディアンは兄の念能力で作られたもので、私は力を開花させていないから見えないのだと。なら見えないままでいいと答えたら、それがいいですと微笑まれたのを覚えている。きっと私の心を案じてくれていた。
「私は、幻影旅団がしてきたことを許せないと思ってる。たとえどんな理由があったとしても、悪党は裁かれるべきだ」
だけど。
「それでも、みんなとの時間は、過去のない私にできた唯一の思い出なんだ。あの楽しかった日々が偽りでできていたとしても、私には、一生の宝物だ」
楽しかった。みんなが驚かせてきたりするのも、実は嬉しかった。一人はずっと寂しかったから、誰かが声をかけてくれるのがとても嬉しかったのだ。
グリードアイランドへ行ってしまったヒソカを待ったクロロさんとの二人での生活も、その後のみんなとの世界旅行も、今日までずっと、本当に楽しかった。
嘘でもよかった。私はきっと、みんなの嘘に救われていた。
ハンター協会の人達も、ネテロ会長やサトツさんも、優しい嘘をついてくれていたんだとわかっている。
けれど、私は自分が歩く爆弾となっていることを知ってしまった。私の感情一つで、周囲の人間が死ぬ姿を見てしまった。
もしそのせいで、クロロさんやゴンくん、ミルキくん、仲良くしてくれたみんなが傷付いたら、私はもう生きていることに耐えられない。
みんなには、生きていてほしいんだ。
「二人とも、私が死んだらすぐにクロロさん達と合流してね。私の事は、まあ適当に事故で死んだとか言っておいてよ」
「ユウキッ!!」
「悪党は裁かれるべきだって言ったけど、それは私もだよ。私、知らない間に大勢殺してきたんだって。……自覚なき殺人鬼なんて、最低の悪党だ」
実の兄から贈られたものは、私を守る代わりにたくさんの人を殺してきた。知らなかったから、なんて言って目を背ける事はできない。私も、裁かれなければいけない。
指輪を嵌めると、ヒソカが視線を指輪に落とした。引っ張る動作をしてみて、なるほどなんて言って楽しそうに微笑んでいる。
「誓約だね。これで今後ボクから彼らに攻撃を仕掛けることはできない。ふふ、クロロもクラピカに鎖を心臓に刺された時、こんな気分だったのかな?」
さあおいで、とヒソカが手招きするが、シャルとコルトピさんが腕を離してくれないので少し困ってしまった。
「二人とも、お願いだから離してよ」
「どうしてだよ。どうして、オレ達なんか守ろうとするんだ!オレ達は悪党で、キミをずっと騙してきた!キミがっ、ユウキが、オレ達を守る必要なんて……ッ」
「みんなが、クロロさんが幻影旅団だって知ってもさ、私、嫌いになんてなれなかった。私みんなのこと大好きなんだ。死なないでほしいんだよ。だから、ごめんね……っ!」
「ユウキッ!!」
おそらく人生で一番力を入れて腕を振ったと思う。いきなりそんな事をするなんて思ってなかったのか、二人の手が外れた隙にヒソカの元へ駆け出す。後ろで名前を呼ばれるが、振り返らない。ヒソカはもうすでにトランプを構えて怪しく笑っていた。
「遺言は?」
「ある!いいかヒソカ、もしリベンジマッチで勝とうとしてるなら諦めろ!……私の兄さんは、幻影旅団の団長だッ!!何度やったって兄さんが勝つに決まってるんだから、さっさと私のいる地獄まで堕ちてこい!!」
一瞬目を見開き、そして心底おかしいとヒソカが微笑む。
ヒソカも悪党だけど、断崖絶壁に置き去りにされたりしたけど、実の兄への伝言の約束を果たしてくれた。本当に感謝している。だから、私に出来ることは。
先に地獄へ行って、この変態奇術師が来るのを待ってやることくらいだ。
ヒソカに向かって伸ばした手は、結局掴まれたのか跳ねのけられたのか何もわからないまま、私の意識はそこで途絶えた。
ーーー…
スパン、と、ユウキの首が落ちる。それを見たシャルとコルトピは耐えられなかったのかヒソカへ向かっていってしまい、返り討ちに遭った。ヒソカから攻撃を仕掛けることはできないが、反撃は誓約に含まれない。
全員の首をブランコに並べていたが、不意にカメラの方へトランプが投げられる。
『あ、やっぱりあった。なんか見られてる感じしたんだよね。誰のだろ………ま、ちょうどいいか。きっとマチが見つけるだろうし』
そこで映像は終わった。フィンクスが壁を殴る音がどこか遠く聞こえる。
「ふざけんなよ……百歩譲って、いや譲るのもうぜえけど、シャルとコルトピはいつ死んでもおかしくねえ立場だった。けど、あいつは違うだろ!あいつのどこが悪党だってんだよ!わりいのは全部あのクソ兄貴だろうが!」
「否定はしないが、肯定もしない。ユウキが死んだのは、お前達の責任でもある」
アジトとして使っているこの廃墟の中に、いつの間にか気配が一つ増えていた。突然聞きなれない声が入ってきたことにオレ以外の全員が攻撃態勢をとると、男も同じように迎撃できるよう体勢を整えたのが見える。瓦礫の上を歩いて、存在感をあらわにするように音を立てながら長身の男はこちらへ歩いてきた。
「この姿で会うのは初めてだな。お前とは顔合わせすることすら初めてだったか、幻影旅団の団長さん」
「てめえ、まさか」
「俺がユウキのクソ兄貴の、サトルだ」
記憶を見たから、声だけは知っていた。フィンクス達は対峙したことはあったが姿かたちはすべてオレで構成されていたから、男を見たのは今回が初めてとなる。男の容貌は、たしかにどこかユウキと似ている気がした。
「それが元の姿なんですか」
珍しく声が沈んだままのシズクがそう問いかければ、サトルという男は頷いた。
「これまではユウキのガーディアンを通じて姿を偽装していたが、それが解除された。その意味がわかるだろう」
「……対象が死んだから」
「そうだ。とくにお前は三人の死体を見ているから、この中で一番現状を理解できているはずだ」
三人は本当に、死んだのか。フィンクスが言った通り、シャルとコルトピはいつ殺されてもおかしくない立場ではあった。それを寛容できるはずもないが、理解はできる。
だが、ユウキはどうだ。彼女は自身を自覚なき殺人鬼と称して、裁かれるべき悪党だと言った。
本当にそうだったのか?彼女は悪党だったか?
否、そんなわけがない。彼女は、善人だった。悪を憎み、良い行いをするただの少女だったのだ。それを、この男が。
「貴様は何をしにきた」
声の音域の調整ができない。自分でも驚くほどの低い声でそう問えば、男はオレの正面に立った。
「ヒソカを殺すために手を貸してほしい」
「協力しろということか」
「そうだ。お前達は俺の妹のおかげでヒソカからの襲撃がなくなった。だが、俺は俺の世界をぶっ壊したクソ野郎を殺したい。先ほどの映像の通り、お前達は攻撃を仕掛けると誓約から外れるため手は出せないが俺の手助けなら誓約内だから問題はないだろう」
「ふざけてんじゃねえぞてめえ。オレ達にてめえの手足になれって言ってんのか」
「……なるほど、たしかにそうなるな。だが俺はお前達に交渉しているんじゃない、リーダーに聞いているんだ。少し黙っていろ」
「こいつッ!!」
「ノブナガ、止まれ」
今にも切りかかりそうなノブナガを止めて、目の前の男を見る。
「断る。貴様の手足になるつもりはない。オレ達はオレ達で、ヒソカを殺す」
「……それは、ユウキの命と引き換えの誓約の外だぞ」
「わかっている。だが、常にこちらが先手を取れるという意味でもある。何度でも言おう、貴様の手足になる必要は一つもない」
「そうか。……なら、俺をお前の手足として使え」
男はそう言うと、刺青を入れるなら手の甲でいいとこちらへ手を向けてくる。
「実力を示せというならこの中の誰かを殺そう。面倒ではあるが、お前達と協力できないのならここに来た意味がない」
「意味とはなんだ」
「ユウキはお前達を守ろうとして死んだが、はっきり言えば無駄な犠牲だった。なぜならお前達は守られるほど弱くはなく、ヒソカと十分に渡り合える力を持っている。俺は、ユウキの死を有意義なものにすべくお前達と手を組もうと思ってここに来たんだ」
無駄と言ったのか。彼女の死を、無駄な犠牲だったと言い放ったのかこの男は。
「俺は、ヒソカを殺せればそれでいいが、お前が殺したとしても問題はない。いや、お前であるならば、だ。お前は、ユウキが俺以外で唯一兄と認めた男だからな」
男の目が俺を見る。問題ないと言いながらその目の奥には、嫉妬が混じっていることに気が付いた。
オレの返答を待っているからか、誰も口を開かなかった。
「いいだろう。刺青は団員に入れてもらえ」
「団長、本当にいいのか?」
フランクリンが冷静にそう聞いてくるので、ああと頷いた後、もう一度男を見る。
「使える駒として入団させるだけだ。言っておくが俺は貴様を殺したいと今でも思っている。ユウキの死を無駄と言い放つ貴様ごときが血のつながりだけでユウキの兄を名乗るな」
「ほう?たまたま会った女の兄を自称する男に言われる筋合いはないと思うが?」
しばらく男とにらみ合った後、先に目をそらしたのは向こうの方だった。連絡先だ、とオレに紙切れを渡すと、刺青を入れるために団員達と奥へ向かう。その背中が見えなくなるまで、オレは男に殺意を向け続けていた。
数人の気配がなくなると、残ったマチが団長、と声をかけてくる。
「あたしのせいだ。本当にごめん」
「気にしなくていい。ヒソカの死を確認しないまま去ったオレに責任がある」
「……でも」
「なあ、マチ」
手に持ったままのカメラに目を向けながら、先ほどから感じる思いを本当は口に出したくはなかったけれど、言葉にする。
「なぜだろうな。ユウキに、兄さんってずっと呼ばれたかったはずなのに、今、嬉しくないんだ」
なぜなんだろうな、と独り言のように呟くも、マチは悲しげに目を瞑ったまま何も言わなかった。