迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ジャポンを出た後は、クロロさん達についていきたくさんの都市、国を回った。相変わらず私の知らないときに劇団の仕事を終えているらしく、いまだにどんな演劇をやっているのか見たことはない。くそう。各地を回っている間は団員のみんなが合流したり別れたりを繰り返していたが、どうやら個別でお仕事をしているようだった。
ちなみにフィンクスさん達に再会した時のことを少し回想する。
――――…
「よお団長、元気そうじゃねえか」
「むしろ気味が悪いほどにこにこしてるね」
「妹と一緒にいられてうれしそうだねー」
「オレは初めましてだな。ボノレノフだ。よろしく頼む団長妹」
「よろしくお願いしますね!あと妹じゃないです」
すっかり定番の返答になってしまったが、ボノレノフさんは何を言われているかわからないといった顔をしていたので解せない。しかし、彼らの背後からひょこりと出てきた顔に、思わず大きな声が出てしまった。
「カルトくん?!ええーなんでここにいるの?!」
「僕も団員になったから。ユウキこそ、いつから団長の妹になったの?」
「なってないんだよなあこれが!!でも久しぶりだなー!ミルキくん元気にしてる?」
「ミルキ兄さんは口には出さないけど、ユウキと連絡がとれなくなってから少し落ち込んでるみたいだったよ。お母様達も早く家に入ってくれればいいのにって言ってた」
「ううん嫁認識は相変わらずなんだあ……」
「お、おいユウキ!それ団長の前でしていい話題かよ」
何やらフィンクスさん達があたふたしている。何のことだととりあえずクロロさんを見たら、にこりと笑っていた。
「その件についてはもう知ってる。安心しろ、イルミにも伝えているがユウキは一生嫁には出さない。一生、嫁には、出さない」
あっはいと今度は遠い目をしているフィンクスさん達。いや私も遠い目になりそうだよ。この自称兄、束縛体質だよ。
どうにか話題転換をしようと思ったらしく、珍しくフェイタンさんがそういえばと話を切り出してきた。
「こいつの兄貴、流星街にいたね」
それはもう、とんでもない爆弾発言だった。
「えええええ?!いやちょ、会ったの?!私の兄に?!」
「おい近いね。肩をゆするな」
「だだだって!!私のことなんか言ってた?!」
「だから顔が近いね!会う気はないとかだたような……揺らすな揺らすな!」
ぶんぶんとフェイタンさんを揺さぶっていたら、クロロさんにそっと引きはがされる。少し落ち着いて、兄はもうグリードアイランドから出ていたんだと思うと同時に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「なんっで私には会わないくせに、他の人とはエンカウントしてんのかなあ!!ねえどんな姿してた?!見かけたら一発ぶんなぐってやらないと気が済まない!!」
どんな姿……とフィンクスさん達はクロロさんを見つめる。つられて私も視線を向ける。うん、これはクロロさんだ。今は髪を下ろしているけれど、お仕事の時は高確率でオールバックにしているクロロさんだ。え、どういうこと?
「えーと、団長に似てたよ」
シズクさんの発言に、思わず飛び上がってしまった。
私の兄、クロロさんに似てるの?!兄と会ったという面々も頷いているし、そんなに似てたの?!いや待てよ、思えば私も最初クロロさんのことを兄だと思ったっけ?!
「そうだよ、私兄探し中にほかの人に兄ですかなんて聞いたことなかったのに、クロロさんには聞いちゃったんだよ!それって、やっぱり似てたからだったってこと?!わーわーマジかー!私の兄ってこんなかっこいい兄さんなのかー!」
「似てるならオレでいいじゃないか。ほら、かっこいい兄さんだぞ」
「わーそこ拾うのやめてー!!」
――――…
実の兄がクロロさんに似ているという新情報とカルトくんが新しく団員に加わっていたという衝撃の再会からまた月日は経ち、今はとあるホテルに滞在していた。
団体部屋なので、今集まっている団員のみんなと共同で使っているのだが、現在クロロさんは里帰りをしているようで何人かついていってしまっていた。どうやら同郷だったようだ。仲良しグループで集まった劇団だったと知り、ますます疎外感が出てしまい申し訳なさを感じたのだが、クロロさんの「妹が遠慮するな」という言葉で毒気を抜かれたので、今はあまり思わなくなった。団員のみんなも優しいし。
「なんか選挙があるみたいだけど、ユウキはどうする?行くなら一緒に行こうかな。行かないとライセンス取り上げられるみたいだし」
パタパタと羽を揺らしている伝書鳩を肩に乗せたシャルナークさんが、突然そんなことを言ってきた。選挙とは?首を傾げると、会長選挙と返ってくる。
「会長って、なんの会長?」
「ハンター協会の会長。ニュース見てない?ネテロ会長がキメラ=アントって外来種の討伐に出て、亡くなったんだよ」
「……え?」
ネテロ会長が、亡くなった。慌てて携帯を取り出して、ネットを開く。ネテロ会長の名誉ある死は、ニュースサイトのトップ記事になっていた。知らなかった。どうやら大きく取り上げられるようになったのは最近らしい。
「会長が……」
身近な人の死は、行商人のおじさんで経験して以来だ。どうしたって止まらない涙を流したら、シャルナークさんが慌てたように隣に座って肩を撫でてくれた。
今ここにいるのは私とシャルナークさんとフランクリンさん、買い出しに出かけているマチさんだけだ。ホテルの窓まで伝書鳩が来たらしく、シャルナークさんはそれを受け取ったということらしい。ベッドにへたりこんで座っている私の正面に座るフランクリンさんが大丈夫かと優しく声をかけてくれる。
「大丈夫……でも、選挙のお知らせなの?葬式ではなく?」
「兼ねてるんだと思うよ。オレはどっちでもいいんだけど、ユウキが行くなら行こうかなって」
「でも私のとこにはそんな知らせ何も……」
この伝書鳩がハンターライセンスを持つすべてのハンターに届いているのだとしたら、私にはなぜ届かないのだろう。わからないまま、もう一度ニュースサイトを覗く。
記事を読み進めると、そのキメラアントという超進化した蟻との攻防は壮絶な戦いの末何人ものハンターが犠牲となり、今も治療中だったりと相当な被害が出たようだ。こんなことがよその国で起こっていたなんて知らなかった。今後はニュースをもっとチェックしようと思い閉じようとした瞬間、見知った名前が目に入る。
≪最前で戦ったゴン=フリークスは今もなお目を覚ましていないようだ≫
本当に小さく書かれたそれは、ネテロ会長の死よりも私に衝撃を与えた。ゴンくんが、意識不明?最前で戦っていた?
「ユウキ、どうしたの?」
「い、行かなきゃ」
「えっ?」
「友達が怪我をしてるって、目を覚ましてないって!私行かなきゃ!!」
「行くってどこに?!」
「ハンター協会!!私、ちょっと行ってくる!!」
お昼ご飯を買ってきてくれたマチさんが部屋に戻ってきて扉を開けると同時に、その横をすり抜けて走った。後ろからマチさんが「どうしたの!」と声をかけてくれるが、返事をする余裕もなく階段を駆け下りる。エレベーターなんて待っていられなかった。
走りながら、連絡先のことを思い出してぐっと息を詰める。携帯が壊れていなければ、キルアくんにも連絡が取れたのに。
ゴンくん、ゴンくん。
ずっと心配だった。すごくいい子だったから。自分より誰かのことを考えて、無茶をするような子だったから。
友達だと言ってもらえてうれしかった。兄探しをしていても、それよりも心配で会いたくなるほど大事な友達だったんだ。
「待って、オレも行くから!」
「わっ!」
がしっと腕を掴まれて、そのまま軽やかに横抱きされる。あっという間に追いついてきたシャルナークさんは私の顔を覗き込みながら、ちょうどいいじゃん、と笑った。
「選挙もあるし、オレも行くよハンター協会。行って、友達の顔見たら帰るからね」
「う、うん!ありがとうシャルナークさん!」
「あ、でもその前にちょっと変装させてね?オレ劇団で有名人だからさ」
「そうだったの?!わかった!あ、名前も呼ばないほうがいいかな?!」
「じゃあシャルって呼んで。短縮してたらまあ大丈夫でしょ」
「シャル……へへっ、なんか恥ずかしいけどそう呼ぶね!」
「わあ団長妹照れさせちゃった……団長にバレたら殺されそう……」
「???」
――――…
飛行船の予約やらなにやらで、ハンター協会本部ビルへ到着したのは投票日前日になってしまった。会場に到着すると、さすがはハンター協会の会長だ。ぞろぞろとハンター達が集まってきている。大半が弱い奴らだけれど、中にはそこそこ強い奴もいるので警戒だけは怠らないようにしておこう。
「あっ、あの!すみません!ゴンくんはどこに入院してるかわかりますか?!」
0時から投票が始まるからか、すでに受付までの列ができており、その整理をしているハンターにユウキが尋ねている。彼らはユウキのガーディアンを見て何かを察したらしく、慌てて誰かを呼びに行ってしまった。
いや、まあこうなるよね、と念能力が使えるであろうハンター達が彼女を好奇の目で見ているのを少し離れた位置で観察する。彼女の心に反応して、ガーディアンが起動している。なるほどこれは歩く爆弾だと思われても仕方ない。彼女にライセンスを持たせた理由は現在地の把握のためだけが理由だろう。うん、普通にイラつく。
「いらっしゃったんですね、ユウキさん」
「サトツさん!」
どうやら呼ばれてきたのは、彼女の知り合いだったらしい。たしか、よくハンター試験の試験官を務めている男だったはず。自分の時はどうだったか全く覚えてないけど。サトツと呼ばれた男はこちらへどうぞとユウキを会場の中へ連れて行こうとするが、ユウキがそれを制止した。
「あの、友達も一緒なんです。シャル!」
彼女に呼ばれたので、わかったと駆け寄る。長い髪のウィッグをつけて少し女性寄りの衣類を身に着けているので、まあ幻影旅団のシャルナークだとは一目ではわからないだろう。バレたらユウキをつれて速攻で逃げればいい。
別室に案内されると、サトツは落ち着いて聞いてくださいと前置きを入れた。
「ゴンくんは今、緊急治療室にいます。面会謝絶中なので会えないんです」
「そ、そんな……そんなに、ひどい怪我を……?き、キルアくんは、一緒じゃないんですか?」
「彼は無事ですよ。ただゴンくんは人一倍無理をしすぎたようでして……目覚めるかどうか」
顔面蒼白になったユウキは足の力が抜けてしまい、崩れ落ちていく。慌ててその体を支えると、震えているのがわかった。
「どうして、だって、ゴンくん、小さいのに。私よりも、何歳も小さいのに、最前線で戦うなんて、なんでそんな無茶を……」
「ハンターになった以上、年齢はもう関係ありません。それに、ゴンくんは自ら志願して参戦しました。それだけはわかってやってください」
「そんな……」
オレ達が流星街で退治した蟻は大して強くなかったけど、あの子供がそこまで身を削るほどということは、もう少し格上の相手だったのだろうか。どちらにせよ、オレ達にできることは何もない。
「ユウキ、帰ろう」
そう言って肩をゆすると、力なく頷く。これは、団長が戻るまでに持ち直せそうにない。もしかしたら団長ならうまく慰められるかもしれないと希望を抱きつつ、部屋を後にしようとした時、サトツに呼び止められた。
「ユウキさんは、どうして今日こちらへ?」
「え?えっと、ニュース見て、ゴンくんのことを知って色々聞きたくて……そういえば、今日選挙の投票してるんですよね。友達のハンターが、会長選挙のお知らせが来たって言ってて、私には来てなかったからなんでかなって思って、そのことも聞こうかな、なんて」
「……そうですか。一つ、お願いを聞いていただけますか」
「え、は、はい」
「このまま、選挙会場へは行かず帰宅してください。残念ですが、ユウキさんには選挙に参加する資格がないのです」
サトツの言葉に、ユウキが目を見開いた。こんなのオーラを見なくたってわかる。ユウキが、傷ついている。
「それはどういう意味ですか」
驚きとショックで声を出せない彼女に代わり少し語気を強めに問いただせば、能面のような表情の男はどこか言いずらそうにしているようだった。そして、意を決してそれを言葉にする。
「ユウキさんのハンターライセンスは、実は正規のものではありません。ユウキさんのために作られた、ユウキさん用のライセンスなのです。正式なハンターライセンスとは違い金銭に変えることはおろか担保にしてお金を借りることもできません。ハンター情報サイトでも、深い層までの情報の閲覧はできないようになっています。これまでそれに気づかなかったのは、あなたがそれを悪用しなかったという証拠です」
「そういう問題じゃないでしょ。合格だなんて騙してまで、なんでライセンスを渡したのかってことが聞きたいんだよ」
「……」
「やっぱりそうか。監視のためだな」
「あなたは一体誰なのですか」
「言う必要はないね。ユウキ、もう帰ろう。こんなところにいても仕方ない。オレも選挙なんて参加しない」
「監視って、何の話?」
放心状態だと思ったが、会話はしっかりと聞いていたらしい。ユウキは相変わらず青ざめた顔のまま、オレの方を見た。安心させるように、ユウキの肩を掴んで、正面から覗き込んで視線を合わせる。
「帰ったら話すよ。だから、今はここから出よう。ね?」
「……わかった」
「お待ちください、ユウキさん!」
「待たないって。行くよユウキ!」
「わあっ?!」
ユウキの体を横抱きにして、窓から飛び降りる。そのまま適当に屋根伝いに走ってその場を立ち去ると、いくつか視線を感じたがそのすべてを撒いてから空港へ向かうことにした。さて、なんて説明しようかと少し頭を悩ませていたから、腕の中の彼女が大人しすぎることに気が付かなかった。
「会長、彼女にどう伝えるのが正解だったのでしょうか」
残されたサトツは、自身とハンター協会そのものに裏切られたような顔をしたユウキを思い出しながら、もう会うことはできない故人へ向けてそうぼやいた。