迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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「ゴンか。久しぶりだな」
様々な困難を乗り越えてグリードアイランドをクリアした後、ジンに会うためにクリア報酬で持ち帰った同行カードを使用するとカイトと再会を果たすことになった。
その後、カイトの仕事についていくとキメラ=アントという生物が生まれたという事がわかり、その調査と討伐のためNGLにやってきたオレ達は、森の中で見知った顔に出会った。まるで街中で偶然会ったような軽快さでクロロ、もとい相変わらずクロロの姿にしか見えないユウキの兄が話しかけてくる。オレもキルアも、一瞬警戒するがそれでも友達の兄なのだと向かいあうと、オレ達の前にカイトが庇うように出てきて殺気を放った。
「背中に逆十字の入ったコートに額の十字タトゥー。旅団の頭だな」
「あっ、ち、違うんだカイト!そう見えるだけで、オレの友達のお兄さんなんだ。それに彼もハンターなんだよ」
「ハンターだと?」
「視認の統一は必要なさそうだな。偶然迷い込んだわけではないのなら、目的は虫か。ユウキの友達として助言するなら、お前達が相手するにはまだ早いぞ」
どういうことだとオレ達がサトルに続きを話すよう伺うも、彼はそれ以上話すことはないようで何事もなかったように「ではな」と手を振って去ろうとする。それを止めたのはキルアだった。
「伝言、ちゃんと伝えたのか聞かなくいいのかよ」
「ああ、問題なく伝わったようで安心している。ユウキは元気にしていたか?」
「?待って、オレ達まだユウキと会えてないんだ。聞いてた連絡先は解約されてて繋がらなくて」
「……なんだと」
サトルは先ほどまでの落ち着いた笑みを消して、目元に手をあてている。まるで、眼鏡を直す仕草のように見えた。もしかしたら、本当の彼は眼鏡をかけているのかもしれない。
「……あの奇術師の方だったか。厄介な奴とばかり知り合いになっているようだな、ユウキは。おいお前達、ユウキと蜘蛛はどういう関係だ?」
「!!」
それは、聞かれたくなかった。いや、いつかはバレていたと思うが、以前ビスケとヒソカが言っていた、返答を間違えたら容赦がないという言葉が蘇る。キルアならきっとうまく話してくれるのだろうけど、オレにはそれができない。
「あいつらは幻影旅団だってことを伏せて、ただの劇団って言って普通の友達をやってるみたいだよ」
意外にも、キルアは本当のこと伝える選択をした。サトルの冷たい目が、キルアを見下ろしている。何かされるだろうかという不安は、サトルのふう、というため息でかき消された。
「全く、妹の世間知らずな面も含めて、誰でもかれでも引き寄せてしまう性格も考えものだ」
サトルはカイトを通り抜けてキルアに近づく。あまりにも自然な動きにカイトもオレも動けなかった。キルアも当たり前のように正面に立たれたサトルに、驚いて目を見開くことしかできていなかった。
「正直に答えた礼だ。窮地に迫られた時は額を触れ。今のお前では無理だが、死に物狂いならば可能性はある」
「額……?」
「今は頭の片隅に置いておけばいい。さて、ゴン。お前の方にも一つアドバイスを。まだお前は弱い。大切なものを取りこぼしたくないのなら、自分の力量くらい見極められるようになるといい」
「……あなたには、何が見えてるの?」
「さあな。ハンターカイト、子守もほどほどにな」
サトルは手のひらを振ってそのまま出口の方へ向かって歩いていく。気配がなくなると、以前同様どっと汗が噴き出た。相変わらず彼と会うと生きた心地がしない。友達の兄だと理解しているのに、本能的な部分で恐怖を抱いているのかもしれない。カイトも小さくため息を吐いていた。
「なんだあのイカれた男は。手練れだということはわかるが、あんな面倒そうな奴もハンターになっていたとは」
「少し怖いけど、でも妹が大事なのは本当なんだよ。今度、ユウキのことカイトにも紹介するよ」
「ま、連絡先がわかんねーからすぐには無理なんだけどな」
「あっそうだった」
やれやれとカイトが肩をすくめる。この問題が片付いたら、ジンより先にユウキのことを探そう。それからお兄さんの話を聞かせてあげよう。
ユウキ、元気にしてるかな。
寂しい思いをしてないといいな。
一人じゃないよって、オレ達がいるよって顔を見て伝えたい。
これから起こることを何一つ知らなかった時のオレは、呑気にそんなことを考えていたのだった。
―――――――…
流星街の頭のイカれた議会の連中の依頼を終えてそのまま街に戻ると、違法道具が並ぶ店から出てくる男を見て思わず立ち止まってしまった。
「団長?!」
見慣れた黒いコートを翻した男は、幻影旅団のリーダーである団長そのもので思わずそう呼んでしまったが、すぐに別物だと理解する。全員が攻撃の構えをとると、団長の顔をした男はああ、と少し面倒そうな表情をした。
「蜘蛛がわざわざ蟻退治か。ご苦労なことだ」
「おいてめえ、御託はいいからその姿の説明をしろよ」
「俺とて好きでこの姿に見せているわけではないんだがな……まあいい。俺もお前達には聞きたいことがあった。こんな往来ではなんだ、向こうの瓦礫の山の方にでも場所を移そう」
「仕切ってんじゃねえぞてめえ!」
「落ち着いてフィンクス。ここはほら、子供もいるからちょっとね」
シャルナークに止められる。たしかに物陰から小さなガキどもがこちらを伺っているのが見えた。別にこいつらがどうなったところでどうでもいいのだが、団長の顔をした男はさっさと背を向けて歩いていくし、問いただすにしてもついていかざると得ない。盛大に舌打ちをかました後、死ぬほどむかついているが今は男についていくことを選ぶしかなかった。
瓦礫の山の前で、団長にしか見えない男が立っている。男はオレ達全員が来たことを確認すると、おもむろに口を開いた。
「俺の姿がお前達の団長に見える理由は、ユウキのガーディアンがユウキに一番近いと認識した人物だからだ。まあたまにバグるから視認の統一が必要だったりと少し面倒だがな」
「ユウキだと?」
「知っているだろう?お前達が旅団をただの劇団だと思い込ませている、俺の妹だ」
まさか、こいつが実の兄なのか!
ユウキが兄探しをしているという情報は全員が知っていた。ライセンス情報だけがデータ上で動いていた、謎の人物。あの団長が対抗心を燃やしていた実の兄が、まさか目の前のこの男だったなんて。男は殺気をにじませたまま、あからさまに残念そうなため息を吐いた。
「俺の妹を騙すゴミどもは殺そうと思っていたんだがな。あいつのガーディアンが何もしていない上に、今の反応で理解してしまった。逆に俺の妹が世話になっているようだ」
男はそう言うと、またため息を吐いた。
「それにしても、俺の妹は鈍すぎないか?まさか、旅団というから旅芸人だろうという発想なのか?」
「あ、それ合ってますよ」
「マジか。行商人の旅に同行していてなぜそこまで箱入りになってしまったんだ。そういえば俺が幻影旅団の団長かもなんて突拍子もないことを想像もしていたな」
「それ団長本人にも言ってたよ」
「マジか」
先ほどまでの殺伐とした空気は消え失せ、シズクとシャルの返答を聞いて男は痛みをこらえるように頭に手をあてている。見た目が団長だからか、少し面白く思ってしまった。
「てめえが団長の姿に見えるわけも、まあ一応わかった。で、そっちの質問は出てきてねえが、今の話の流れ的に問題はなかったっつうことだろ。ただこっちからはまだ聞きてえことがある」
「なんだ?」
「どうしてこんなとこにいやがる。てめえ、自分のことを妹が探してるってことはもう知ってんだろ」
「ああ、そうだな。まず妹のことについてだが、会う気は一切ない。本物の団長の方は、おそらくそのことについて推察できているだろうから聞いてみるといい。なぜここにいたのか、という問いについては、少し探し物をしていただけだと答える」
「何を探してるね」
「両親の痕跡だ。俺の両親は流星街出身だと聞かされていたんだが、ここは無法地帯だろう?何か残っているだろうかと一ミリ程度の可能性しかないが来てみたんだが、結局何も見つからなかった」
この様子だと男の両親はもういないのだろう。過去について興味も何もないので聞くことはしないが。
「その痕跡があったとして、どうするつもりなんだ」
「全て消すに決まっている」
「はあ?なんだよそれ」
団長と同じ顔の男が、目を細めて静かな笑みを浮かべた。その気味の悪い姿に、滅多に感じない寒気を覚える。
「ユウキの記憶を呼び覚ますものは、全て消す。ユウキが傷つくかもしれないものは過去だろうと全てなかったことにする。今の俺は、妹の幸福のために生きているのだから」
本気で言っている。臭いものには蓋をする、というどこかの国のことわざを思い出した。新入りのカルトが少し怯えているように見えるが、もしかしたら知り合いにでも似たようなヤバイ奴がいるのかもしれない。
「なるほどね。うん、わかった」
不意にそう口を開いたのはシャルナークだった。男が視線を動かすと、目が合ったシャルナークはどこか少し誇らしげに、そして不敵に笑った。
「あんた、ユウキの兄を名乗るのやめた方がいいよ。だって、幸福っていうわりにはユウキのこと全然見てあげてないじゃん。はっきり言って、オレ達の団長の方が兄に相応しいね。団長はユウキが寂しい時には傍にいて、笑わせてあげてる。あの子が今笑えてるのはあんたのおかげじゃない、団長のおかげだ。だからさっさと、その仮面解いてくれないかな!」
すでに能力を発動させていたらしい。シャルナークの言葉が終わると同時に、瓦礫の山からアンテナの刺された人間が出てきて男に襲い掛かった。手には猛毒が塗ってあるだろうナイフ。掠るだけで十分だ。
「……その言葉、覚えておこう」
男はナイフを持つ手を手首ごと切り落としてそれを避けると、そのまま瓦礫の山を駆け上がり乗り越えていく。すでに走り出していたカルトとボノレノフが山の裏に飛び出した時には、もう男の姿はなかった。
「一体どうやって……」
「うーん、潜ったのかな」
「潜ったにしては音がなかったぞ」
「あいつ嫌いね。次会たらワタシが殺す」
「待てよ、オレだって殺してえ」
「ところでユウキって、ミルキ兄さんのお嫁さんのユウキのことだよね?」
「「「え?」」」
「え?ゾルディック家ではそういう認識なんだけど……」
「わー、これ団長知ってるのかなあ」
のんびりとしたシズクの声に、オレ達は団長に知られちゃまずいのではと悩み事が増えてしまったのだった。