迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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さて、やってきましたジャポン観光!いや違う、私のルーツ探しの旅だ!
……とまあすぐ来た感を出したものの、実は何故かジャポンではなく別の国を二箇所ほど観光してからようやくここに到着しました。
どういうことかとクロロさんに尋ねると、ヒソカが追ってきた時のために他の場所に移動して撒いておこうと思って、ととんでもないことを言い出した。ヒソカに黙って出てくるからだよ……そういえばなんか報酬の話とかなんとか言ってたし、もしかして給料未払いとかあって劇団を辞めたのだろうかヒソカ……。
「前はハンゾーさんって忍者のハンターと仲良くなったんだけど、どこかにいないかなー。連絡先今クロロさんのしか入ってないからなあ」
「それだけでよくないか?」
「ううんちょっとヤンデレ感強くなってきちゃったなあ!」
ひとまず観光だ、と有名な観光スポット巡りをして美味しいご飯を食べて、気が付けば旅館でまったり過ごしてしまっていた。クロロさんが予約した個室に露天風呂が付いている高級旅館である。お風呂に入って外の絶景を眺めながら、いつだったか言っていたどろっどろに甘やかされていることに気が付いてしまった。これはよくない。
「やばい、ダメにされてる。このままじゃ自立できなくなる」
兄さんが一緒だから問題ないぞー、と室内から私の独り言に返事が返ってくる。どんな地獄耳なのか。というか、兄がいても自立はしたいんですがね?!
お風呂から出て浴衣を羽織ると、なんだか母国の衣装ということもあってか少しテンションが上がってしまう。それにしてもクロロさん、和装似合ってるな……なんでそんな湯上り美人みたいになってるんだ……。
「そういえばさ、クロロさんってどこの出身なの?」
今更恥ずかしがることもなく、布団を二つ並べて就寝の準備をしている最中、そういえば今まで一度も聞いたことなかったなあと尋ねてみた。クロロさんはきょとんとした後、驚くなよと笑った。
「流星街だ」
「りゅうせいがい……」
「なるほど、知らないんだな」
「うぐぅ!し、知らないです……でも、なんだか綺麗な名前だね」
「綺麗、か」
自身の街に何か思うことがあるのか、クロロさんは少し複雑そうな顔をしていたように思う。私には理由はわからないけど、これはいつかクロロさんが話してくれた時に知ることができればいいと街のことを調べるのはやめておいた。
「いつか私も遊びに行ってもいい?」
「うーん……あそこは複雑だからなあ、オレと一緒の時なら」
「そんなに複雑な街なの?!私、迷わないで歩けるかな……あっちょ、今笑った?!笑ったよね?!」
それから数日後、私達は今、山の中を歩いています。一体何があったのか簡単に説明すると、あれだけ探せなかった神隠しにあった村の位置を、クロロさんがあっさり情報収集してきたのだ。私の前回の努力とは、と落ち込みそうになったものの、見つかったなら行くしかない、と今山の中です。
「意図的に隠されていたんだろう。舗装されていた道を埋めようとした形跡がある」
言われた通り足元を見ると、たしかに人が歩ける道はあったようなのだが、その上に土を被せて埋めようとした後があった。どうして辿らせたくなかったのだろう。
不意に兄の存在が頭を過る。もしかしたらこの先に、あの村に、兄が私から離れて生きている理由があるのかもしれない。少し怖いけれど、知らないといけないと思った。
「あの先だ。木で塞がれているが、隙間から入れそうだな」
「おっけ!それじゃあ、いざゆかん我が故郷!」
おそらくこれも簡単に中に入らないようにと植えられた木だろう。その隙間に体を潜り込ませて、ほとんどどころか全く記憶にない私の生まれた村へ、足を踏み入れた。カラン、と音がした。
村の中は、最初から人などいなかったかのような雰囲気だ。本当に私、ここに住んでいたのだろうかと不安になるほどに。
カラン、とどこからかまた音がする。何の音だろう。音が聞こえた方へ駆け出すと、またカランと音が聞こえた。一つの家にたどり着き、その家の隣にある納屋を見る。
(なんか、ここ、いやだな)
けれど、音が聞こえたのはこの中だ。入ろう。正体を確かめないと。一体、何の音なんだろう。
「待て」
納屋の扉を開けようとした手を、クロロさんに止められた。その瞬間、意識が戻ってきた感覚になる。
「そこが気になるんだろう。先にオレが入って確かめるから、少し待っていろ」
「え、あ、うん」
なぜだろうか。強引にでも自分自身で行こうとするのが私だと思っていたのだけど、今は素直に譲ってしまった。ここはなんかいやだ、と思ってしまったからだろうか。クロロさんが納屋の扉を開けた。
なんだここは。村に着くなり抱いた感想はまずそれだった。
死臭しかしない。殺戮を行ったであろう念の残滓がいたるところにある。神隠しではない、ここの住民は全員、彼女を残して殺されたのだ。犯人なんてわかりきっている。彼女の兄、サトルだ。力任せの殺戮でもなく、快楽による殺戮でもない、しっかりと死の恐怖を味合わせた上で、丁寧に一人ずつ躊躇なく殺したのだろう。そう推察できるほどに、この地は異常だった。
おそらく念能力者が入ったらこの残滓で真相に気づかれてしまう。だから、道を塞ぎ情報をかく乱した。彼女の兄のいつもの手口だ。この村の情報も、知っていたのは過去に医師をやっていたという老人だけだった。
カランと音が聞こえた。どうやらユウキにも聞こえていたようで、ふらふらとそこへ向かって足を進めるので慌てて追いかける。すると一つの家の前に立ち止まり、じっと納屋を見つめた。音の出どころは、あそこだ。
顔面蒼白で納屋の扉に手をかけようとしているので、それを制して後ろに下がらせる。この中に入らせるのはよくないと思ったからだ。ここにマチがいたなら、どんな勘が働いたのか尋ねるところだが仕方ない。
それに、好奇心もあった。一体、この村に、彼女に、どんな秘密があるというのか。扉を開けて入ると、中は思ったより整っているように見えた。たくさんの農具と、その奥に、麻布が見える。ズキリと痛む記憶を今は置いておき、傍に転がる何かを拾い上げた。これは、下駄だ。
『ユウキっ、どこだ、ユウキっ!!』
――――…
大丈夫だよ、と妹は笑っていた。
その笑顔を、世界中の何よりも守りたかったのだ。
流行り病に倒れた両親と妹を看病していると、村人達がいつも騒がしかったが、これが死に至る病ではないことを知識として知っていた。それを何度伝えても閉鎖された村での低下した知能レベルのこいつらには理解できず、世迷いごとと一蹴される。
とはいえ大きな都市で薬をもらうしかないと下山するも、薬の入荷が遅れているということで、症状を抑える薬をもらいもう一度山を登った。村に戻ると、俺の家の周りにわざとらしくゴミが置かれていた。頭を抱える。村八分なんて、低俗な人間のすることだ。片付けるのは後でいいだろうと家の中に入り、両親と妹に薬を飲ませ、今後の話をする。
『病が治ったらこの村を出よう』
そう告げると、もともと流星街から出てきたという両親は少し渋ったけれど、こんなところにいたら妹が無事でいられるか心配になるんだと訴えたら、首を縦に振ってくれた。
妹は、とても良い子だ。他者を重んじて自身を犠牲にするところはよろしくないが、俺とは大違いのお人よしで、きっと誰からも好かれる人間だった。だから、こんなところで心を汚してほしくなかった。
両親は流星街から抜け出た自分達をここの住人が受け入れてくれたというが、おそらくは何かに利用しようとしたのだろう。両親がいつも汚れ仕事を強要されていたことを知っている。本当に汚い世界だ。けれどそんな汚い世界で、妹だけはいつも輝いて見えたのだ。
『お兄ちゃん』
病に侵され、発汗している妹の頭を撫でる。どうしたと尋ねると、ごめんなさいと謝られた。
『馬鹿だな、どうしてお前が謝る必要がある』
『私のせいで、お兄ちゃん、やりたいことやれてない』
『そう思うなら、しっかり薬を飲んで快復してくれ。今はそれだけでいい』
そう、それだけでよかった。
俺はただ、妹の未来を守ってやれればそれでよかった。
妹が傷つかず、ただ幸福に生きてくれれば、それだけでよかったんだ。
看病をしていたある日、村の中で一番権力のあるという男が俺を訪ねてきた。俺がハンターライセンスを持っていることを知って頼みがあると一方的に告げてくる。何をするのか問えば、隣の山に出るという人を襲う魔獣に懸賞金がかかっているらしく、その討伐を頼みたいと言う。
今家族と離れるのは躊躇されたが、妹が大丈夫だよと笑って、寝室から出て来た。まだ立つなと体を支えると、気を付けてねと言って手作りのお守りを俺に渡してくれる。裁縫だけはどうにも苦手な俺と違い、丁寧に縫われたお守りは見ているだけで心が温かくなるようだった。すぐに戻ると約束して、家の戸締りをしっかりしてから、依頼内容について詳細を聞くために隣町へ向かった。
魔獣のランクとしては低いものだったが、惑わす力をもった植物とうまく連携して人間を襲っていたらしく、たしかに念能力者以外には厄介な相手かもしれないなんて思いながら、さっさと退治して報告に戻る。街を出る時、ふと目についたのが下駄だった。
(そういえば、ユウキの履いていた草履はもう擦り切れていたな)
赤と黒の色合いのそれを土産に購入して、また山を登る。村に着く頃には、両親の熱はある程度下がっているだろう。そうなったら、妹を連れて家族でさっさとあの村を出よう。
ハンターライセンスを手に入れたのだって、念能力を身に着けたのだって、全ては家族のためだ。将来不自由のないように、大切な妹が、笑って生きていけるように。
俺は、ただ、それだけしか望まなかったのに。
村に戻ると、村の中心で今まさに燃え尽きた何かが見えた。背筋が凍る。あれは、なんだ。
病を殺したと住民たちが歓喜の声を上げている。
肩にかけていた鞄がずれ落ちる。どさっという音を聞いて、俺に依頼してきた権力を持った男が嬉しそうにこちらに近づいてきた。
お前のような有能な人材を縛り付けていた病はこちらで片付けている。残りの一体を片付けたら、お前の持ち帰った懸賞金で祝いをしよう。宴だ、宴だ。
男の言葉はそこで途切れる。魔獣狩りに使ったナイフだが、切れ味が気に入っていた。男の首をはねると、そのままその場にいる全員を一人ずつ丁寧に殺した。周囲に血だまりができる中、村の中心にある木に縛られて燃やされたなにかを下ろす。大きさは、両親か。あの男は残りの一体と言っていた。
『ユウキっ、どこだ、ユウキっ!!』
家はどうなっている。燃やされているのか。
ユウキは無事なのか。いや、無事であってくれ。
こんなゴミどもの悪意なんかで、死なないでくれ。
生きていてくれ。
家は燃やされてはいなかったが、住民が集まっていた。下卑た男の笑い声が聞こえてくる。形を成さなかった声が、言葉として俺の耳に届く。
どうせ殺すのなら、何やってもいいよな?
カランと、どこか遠くで音がした。
先ほどの賑わいが消え失せ、血の匂いが充満する納屋の奥。麻布が見える。その布に、紙が貼られていた。
≪可燃ゴミ≫
血だまりに膝をつけて、俺らしくもなく震える手で麻布を開く。中から出てきたのは、ユウキだった。病が進行して症状は悪化しているが、かろうじて息をしていた。
生きている。生きている!
すぐに外へ出して、体についたゴミを優しく払ってやると、うっすらと瞳を開けた。今にも消えてしまいそうなか細い声が俺を呼ぶ。
『お兄ちゃん』
『ユウキ、喋らなくていい。早く薬を飲まないと』
『私のせいで、ごめんね。ずっと、一緒にいてくれてありがとう』
そう言って、ユウキは目を閉じた。もう最後かもしれないと、声を振り絞って言葉を紡いだのだろう。疲れて気を失っているだけだった。
ユウキは自分が死ぬかもしれないと感じた最後の瞬間まで、誰かを憎む事をしなかった。
こんな不甲斐ない兄に謝罪と感謝を述べて、満足そうに微笑みながら瞳を閉じた。
その体を抱き上げて、納屋を出る。カランと、下駄が落ちる音がした。
両親の遺体の傍に、ユウキをそっと寝かせる。
『少し待っていてくれ。やることがあるんだ』
外に出られないと透明な壁を叩いて喚いている住民達に近づくと今度は命乞いを始めた。なんと滑稽なことか!
『安心しろ。一瞬なんて生ぬるいことはしない。ゆっくり丁寧に、必ず全員殺してやるから』
両親の骨は粉々にして下山後に風に乗せて埋葬することにした。家からユウキの衣類を少しだけ鞄に詰めて、俺達が暮らしていた痕跡はすべて処分する。ユウキを両腕でしっかりと抱えると、出入り口に向かって歩いた。そろそろ、薬を持ってきたお人好しの行商人がこの村にたどり着く頃だろう。腕の中で今にも死にそうな妹を見て、決意する。
俺の世界は、俺が守らないといけない。
残りの人生すべて、お前のためだけに生きよう。
ユウキ、俺にはお前だけでいい。
お前が生きていれば、幸福に暮らせるならば、それだけでいい。
最後に頭を撫でて、今の自分に出来うる限りの力で念獣を生み出しユウキに取り憑かせる。ユウキを傷つけるもの、ユウキが恐怖を抱いたもの、その全てを殲滅するようプログラムされたガーディアンに、制約と誓約でバフを乗せた。これで、どんなに強い人間が現れても大丈夫だろう。たとえ、この先妹と会えなくなっても、兄と呼んでもらえなくなっても構わなかった。ユウキの幸福だけを、願っていた。
唯一任せられると思えた初老の行商人に妹を託して、俺はゴミ処理の為に村に戻る。
俺の妹を傷つける人間は、獣は、全て死ねばいい。暗い世界などお前には一切見せてたまるものか。何も知らなくていい。お前は何も、知らないままでいいんだ。
だから、もしここまでたどり着いた人間がいたならば、このことはどうか内密に。少なくとも、ここにたどり着いたということはユウキを知り、好意を持っている人間だと推察する。ユウキに対して悪意があるのなら、ここにたどり着くことは不可能なのだから。
この記憶を見た上で、ユウキを傷つけることを選んだのなら、俺はお前を必ず殺す。
肝に銘じておくといい。クロロ=ルシルフル。
―――――――…
「大丈夫?!おーい!!クロロさーん!!」
バシバシと肩を叩かれる。意識を持っていかれていた時間は、大体数分といったところか。数回瞬きをして、大丈夫だと答えるとユウキは安堵の息を吐いた。
「急に固まるんだもん、びっくりしたよ。中、何かあった?私入っても大丈夫そう?」
「いや、汚れがすごいから入らない方がいいな。オレですら驚いて固まってしまうほどだ。虫は苦手だろ?とくに気になるものもないし、他に行こう」
「マジで?!うう、虫いるならやめとく……よし!それじゃ、向こう側に行ってみよう!」
パタパタと走るユウキの後ろを歩きながら、走馬灯のような記憶を思い返す。アレは、念能力だろう。パクノダのメモリーボムと同じ系統だが、メッセージを付け加えてきたところ上位互換といったところか。
何年も前からオレがここに来る事を予知していた?いや、たとえ未来を予知する念能力を持っていたとしても、オレが幻影旅団の団長と知っているのなら妹のために未来を変えようと行動していたはずだ。だが、オレはあの男と会ったことはない。
(そうか、違ったのか)
ヒソカはグリードアイランドで出会った男が、オレの姿に見えたと言っていた。理由としてヒソカか少年達の記憶から引っ張り出したと推察したが、それは違っていた。男の能力は、全てユウキのためのものという前提がある。
男の姿は、ユウキのガーディアンが見た、彼女の傍にいる人間の姿を投影するものなのだ。
あの後、ヒソカ達と離れた男は、すぐにグリードアイランドを出たのだろう。そしてこの村に来て、この下駄に記憶を複製した上でメッセージまでつけて残した。男の伝言を聞いたユウキがどうするか考え、オレと共にこの村に来るだろうと予想して。
(馬鹿な兄だ。牽制をかけたつもりだろうが、逆効果だ)
ユウキの兄は、暗にさっさと離れろクソ野郎と言っているのだ。笑いが込み上げてくる。
手放すわけがないだろう。もちろん傷つけることもしない。
下駄を踏みつけて粉々にすると、離れたところで周囲を見てまわっているユウキの側へ向かう。
(何も知らなくていい。これから先もずっと、ユウキはオレの妹なのだから)
肝に銘じるのはお前の方だ。側で守るという選択肢を捨てた事、一生後悔すればいい。