迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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「おはようユウキ。ハッピーホワイトデー」
「ううううう目覚めになんか高そうなネックレス差し出してくるイケメンは破壊力あるうううう」
昨日、滅多にお目にかかれない良いお酒を手に入れた私は、クロロさんと何でもない日に乾杯をしてがっつり飲んで良い気持ちで眠った。朝寝坊は仕方ないと自分に言い聞かせながら浅い眠りで微睡んでいたのだけど、起こされるや否目の前に差し出される高そうなネックレスとそれ越しに見えるイケメンに目を潰される。いや比喩だけど、それくらい眩しかった。
もそもそと布団から出ると、改めて差し出されているそれを受け取る。
「わ、わあ……え、これ絶対高いじゃん。私のトレジャーハンターの勘が言ってるよ、これは、マジで、高い、って!」
「金額は気にしなくていい。先月のバレンタインのお返しに色々考えたんだが、どうせなら形に残るものがいいと思ってな。ユウキはイヤリングやピアス、指輪といった身に着けるものをしていないが、兄のものだというハンターライセンスを首からかけてるのを思い出して、ネックレスなら着けてくれるんじゃないかと思ったんだ」
たしかに、私は常日頃から兄のライセンスをパスケースに入れて首から下げている。というのも、ライセンスはとても希少でこれ一枚で生涯遊んで暮らせるのだとサトツさんから聞かされていたからだ。なので、盗られないように肌身離さず持つとしたら、服の中だろうかなんて考えでそうしていたのだが、クロロさんは色々気にしてくれていたらしい。
ネックレスを改めてまじまじと観察する。クロロさんの耳飾りのような形状で、小さな宝石が装飾されている。これ、なんて宝石なんだろう。綺麗だなあ。
「へへ、ありがとうクロロさん。へへへっ!」
「ふふ、喜んでもらえたようで何よりだよ。よし、せっかくだから着けてやろう」
「やったー!……ちょっと待って!着替える!いったん着替えさせて!パジャマで身に着けるにはもったいなさすぎる!!」
「そうか?」
「そうだよ?!」
首を傾げているクロロさんを追い出して、すぐに身支度をする。思えば、初めて会った時も身支度中にホテルに乗り込んできたっけな。あの時はマチさんとパクノダさんが必死に止めていて少しおかしかったっけ、と懐かしい気持ちになる。今は劇団オフシーズンらしいので、再開したらまた会えるかななんて思いながら服を着替えると、ゲーム機のある寝室へ入る。クロロさんはここを自身の寝室にしているのだ。
相変わらず起動音だけは聞こえるゲーム機はテーブルの上に置いてあり、クロロさんはこの流れをわかっていたのか、二人用のコーヒーを置いて待っていた。
「くう、できる男は違うってことかー!」
「何がだ?」
「なんでもないです。あ、これ!せっかくだから着けて!」
「もちろん」
ネックレスを渡して、クロロさんに背を向ける。手際よくネックレスを私の首に通して、パチンと留め具が止まる音が聞こえた。
「できたぞ」
「ありがとう!へへへ」
胸元で光るネックレスを撫でる。嬉しくて抑えきれない笑みを浮かべていたら、クロロさんが背後でくすりと笑った。
「今日は一段と喜んでいるな。オレとしてはここまで喜んでくれれば贈った甲斐があるというものだが、何かあるのか?」
「え?えっとおー……その、私こういうプレゼントもらうの、初めてだから、嬉しくて……」
手伝いをしたお礼や、等価交換、そんな贈り物はこれまでにたくさんあった。まあジンさんからもらったやつは嬉しいよりあまりにも高額すぎる品に焦りのほうが強かったけども、それでもやっぱり嬉しいことには変わりない。
けれど、クリスマス、バレンタインデー、ホワイトデー。そういった世間が盛り上がる記念日に、何かを贈り合うなんてこと、今までしたことがなかった。
楽しそうな家族を、恋人達を、友人達を横目で見ながら、ここに兄がいたらなあなんて悲しい気持ちになることのほうが多かった。
だから、嬉しいのだ。自称している兄だけど、こうして一つの家に住んで、記念日に一緒に美味しいものを食べて、贈り物をし合って一緒に過ごすことが、今の私にとってどれほど幸福なことなのか。
「クロロさんが私のことめちゃくちゃ甘やかすから、実兄へのハードルがどんどん上がっていくなあ。はー、私の兄は一体どこで何やってんだろ」
「そんな薄情な兄はどうでもいいじゃないか。妹をめちゃくちゃに甘やかす兄がここにいるんだから」
「ううーんそういうとこだぞクロロ=ルシルフル……」
そんなホワイトデーを終えて、数日後。
相変わらず変わらないゲーム機の起動音を聞きながら、つんつんと触ってみる。とくに意味はない。
クロロさんはトイレに降りていてこの寝室には私しかおらず、大きなため息を吐いてテーブルに突っ伏した。
もう半年が経過してしまった。ヒソカなら大丈夫だろうとクロロさんは言うが、本当に大丈夫なのかと少し不安になる。
兄は、いたのだろうか。早く知りたい。
もしいないのなら、ライセンス情報をまた調べるあの日々に戻らないと。
このままだと、今の生活にしがみついてしまいそうなくらい楽しいから、お別れがつらくなってしまう。
(……もしかしたら、そうなるのが怖くて、私無意識に人と距離をとってたりしたのかな)
なんで私、そうまでして兄を探しているのだろう。
なんで兄は、私に会いに来てくれないのだろう。
「……ああー!!ダメダメネガティブ禁止!!もっとポジティブにいこう!こうゲーム機抱えて寝転んでたら、ヒソカが帰ってくる!そんで少女漫画よろしく押し倒された形になって、な、なんで今戻ってくるのー?!みたいな面白展開になるかもしれない!よし実践!!」
自分でも何を言っているのかわからないが、おそらくさっき読んでいた少女漫画の影響だと思われる。ただ一つ言えることは、本気でそう思っていたわけではなかったことだ。
だというのに、クロロさんが普段寝ているベッドにゲーム機を抱えて飛び込むように寝転んだ瞬間、そのゲーム機が大きな音を立て、今さっき口にしたことが現実になってしまったのは私のせいじゃないと思いたい。
ギシッとベッドが揺れる。大きな音に驚いて思わず目を瞑った後、揺れるベッドに驚いて顔を上げたら、見覚えのない水に濡れたイケメンが私に覆いかぶさるようにしてそこにいた。
「ほぎゃああああ誰えええええええ?!」
「あ、戻る前に水浴びしたんだったっけ。やあ、久しぶりだねユウキ」
「その声、え?まさか、ひ、ヒソカああああああ?!」
「再会がベッドの上とは、なんともいやらしいね。ふふ、クロロと何かしてたのかな?」
「クロロさあああああん!!」
「おっと」
ヒソカが飛びのいてベッドから降りると、クロロさんが足を上げているのが見えた。どうやら私の悲鳴を聞いて戻ってきて、ヒソカを蹴り飛ばそうとしてくれたらしい。
「改めて、ただいま二人とも。……ボクの隠れ家、なんか綺麗になってない?」
「ヒソカ」
「何もしてないよ。今戻ってきたところだし、そもそも先にベッドに寝転んでたのユウキだったんだから」
「そうなのか?」
「そうですすみません!!さっき読んだ少女漫画思い出しながらゲーム機抱えてベッドに寝転んだらヒソカが帰ってきました!!」
「いいか、男は狼なんだ。男のベッドに無防備に寝転ぶのは、兄さん感心しないぞ」
「はい!!それは本当にすみません!!」
もはや妹ではないとツッコむこともできない。めそおと凹みながら起き上がり、ゲーム機をテーブルに置く。もう起動音は鳴っていなかった。結局どういう仕組みだったんだろう。
「で、成果は?」
「明日の夕刻、空港で待ち合わせ済。こっそりカードも仕込んであるから、逃亡されてもわかるよ」
「そうか。ふ、あの占い、本当によく当たっている」
何の話かはわからないが、クロロさんの探していた人がいたらしい。占い師さんから聞いた待ち人だというけれど、一体どんな人なんだろう。いやいや、それよりも、私もヒソカに聞かないといけないことがある!
「ヒソカ!私の、その、あ、兄はいた?!」
二人の会話に割り込んで尋ねると、ヒソカはふふっと微笑んでくる。いやそれどっちの笑みなの!
「いたよ、キミのお兄さんのサトル。伝言もちゃあんと伝えておいたからね」
いた、いた!いたんだ、私の兄は、グリードアイランドに!
もしかしたら、いないかもしれないと思っていた。あの島にも、いや、この世界のどこにもサトルなんていう兄はいなくて、私は、一人なのかもしれないなんて、思うこともあった。
けど、存在したんだ。
緩む涙腺を止めることができないまま、ボロボロ涙を落としながら、ヒソカに続きを促す。
「兄さんは、なんて言ってた?」
「≪俺は死んだ≫」
「え?」
「≪サーバー上の自分のライセンス情報は全て情報をかく乱させるウィルスで、追ったところで俺はいない≫だってさ」
それは、つまり。
「……兄さんは、私と会う気はない、ってことなんだね」
ずっと、探していたのに。ずっと、会いたかったのに。
あの日、私だけが生き残ったのは、兄のおかげだと思ったから。
頭を撫でてもらった記憶だけが、あったから。
会って、ありがとうって、伝えたかった。
でも、それはもう叶わない。
明確な拒絶だ。死者と生者は会える関係ではない。
自分は死んだと私に伝言を残したということは、会わないと言っているということだ。
「どうして?私のせいだった?あの日みんな死んじゃったのに、私だけが生き延びたのは、もしかしたら、兄さんが助けてくれたのかもって、ずっとそう思ってたけど、違ったの?兄さんは、私といたくなくて、私の前から姿を消しただけだったの?」
これまで信じていたものが全て崩れていくのを感じて、さっきとは違う理由で涙が止まらなかった。
私は一体、何のために生きていたんだろう。世界中を回って、たくさんの人達にお世話になって、必死になって探してきたのに。
私の旅は、終わったのだ。
こんな、こんなにもつらい気持ちで、終わるなんて。
「お前の兄は、ちゃんとお前を愛してるよ」
頭を撫でられる。かけられた言葉に、いつの間にか俯いていた顔を上げる。
「会わないではなく、会えないだとオレは推察する。でなければ、わざわざサーバー上にウィルスをばらまいてまでライセンス情報をかく乱する必要はない。どうしてそんなことをしてるか、わかるか?」
わからない、と首を横に振ったら、クロロさんは私の頭を優しく撫でながら教えてくれる。
「兄のライセンスカードは、気が付いたらずっと持っていたと言っていたな?ライセンス一枚で生涯裕福な暮らしができることは知っているだろう?おそらくお前の兄は、生活に不自由がないようにとそのライセンスをお前に持たせたんだよ。情報のかく乱は、そのライセンスを狙う輩からお前を遠ざけるためだったんだ」
「兄さんが……」
「何か事情があって会えない。けれど、妹に幸福に生きてほしい。そういう思いで、伝言を残したんだと思う。だから、お前は何も悪くない。大切な兄を思ってそんな悲しい顔で泣かなくていいんだ」
普段は兄を自称して、実の兄を薄情だなんだと言っていたくせに。こんな風に実の兄を嫌わなくてもいいなんて言ってくるなんて、ずるい。今そんな優しい言葉をかけられたら、もっと別れがたくなってしまうじゃないか。
もう感情の整理がつかなくなって、一体私は何に泣いているんだと混乱しつつ大泣きしていたら、クロロさんが「ハグするか?」と言ってきたのでお言葉に甘えて飛びついて、さらに大泣きするのだった。
「さっきの推察、お見事だったね。全部本人が言ってた通りだったよ」
ユウキが泣き疲れて眠ってしまい、その体を寝室へ運んでからリビングへ戻ると、ヒソカが食器棚を物色しながら笑っていた。そうかと答えて椅子に座れば、ヒソカはクスクス笑って棚からカップを取り出した。
「随分満喫してたみたいだねえ?そんなに楽しかったのかい?家族ごっこ」
「明日、除念師と合流したらこの家に連れてこい。ユウキの除念もできるか交渉したい」
「それはどうして?」
「ユウキにあんな呪い、必要ないからだ」
「自分が傍にいるから、ってことかな。ふふ、相当気に入っちゃったんだねあの子のこと」
カップに慣れた動作で紅茶のパックをセットして、いつ温めたのか湯を注いで良い香りをあたりに振りまく。ヒソカの言葉に素直に返答してやる気もないので、グリードアイランドの中で何があったのか聞くことにした。予想通り団員達もあの島にいたらしく、うまく接触して除念師を見つけたようだ。
「それで、お前の会ったサトルという男はどんな風貌をしていた?」
「それはわからないから答えられない」
「どういう意味だ」
「彼、見た目を偽装しててね。一緒にいたゴンとキルア共々、彼の姿はキミにしか見えなかったんだ」
どんな念能力なんだろうね、とヒソカが舌なめずりをしている。厄介な男に目をつけられたものだと彼女の兄に同情するが、まさか見た目までも隠すほど徹底しているとは。おそらく写真や動画といったものに映ることすら避ける必要があるのだ。
「オレの姿に見えた理由は?」
「推察するなら、ボク達の誰かの記憶から引っ張り出したんじゃないかな。キミに会って生きてるなんてすごいな、って言ってたし。そうそうキミのことも知っているみたいだったよ。蜘蛛の頭ってことも含めてね」
「そうか。……ユウキに纏わせているオーラから操作系かと思っていたが、特質系の可能性が高いな」
「あのオーラ、彼はガーディアンと呼んでいたよ。ユウキを傷つけるもの、ユウキが恐怖を抱いたもの、その全てから守るようにプログラムされた彼女を守るためだけのガーディアンなんだって」
想像通りの設定だ。しかし実の兄にとって予想外なのは、彼女を傷つけるイコール彼女の親しい人が傷つくという条件も当て嵌まったことだろう。それを、オレみたいな人間に利用されていると知れば、姿を現すだろうか。
おそらく制約は【ガーディアンの発現中は妹と会わない】。
会わないと誓うだけで、あれほどのオーラを纏わせることができるのだ。妹への感情がどれほど重く深いものなのか、恐ろしく思える。幸福に生きてほしいという願いも本当なのだろう。それでも、彼女の涙を見たら頷けるものではなかった。
(念能力が戻ったら、真っ先に殺してやりたい)
「あ、キミも闘る気になっちゃった?駄目だよ、彼はボクが先に目をつけたんだから」
オレの殺気に目ざとく気が付いた目の前の奇術師に釘を刺されてしまった。心配する必要はないと小さく首を振る。
「オレがそんなことをしたら、ユウキが悲しむだろう。殺るなら好きにしろ」
「もちろん好きに殺るよ。ところでさ、ユウキの首にやけに高そうなネックレスがかかってたけど、あれキミでしょ」
「ああ、そうだ。あの子に似合う良いものを取り寄せた。それがどうかしたか?」
「ボク宝石とかそこまで詳しくないんだけど、ゲーム内でちょっと見覚えがあってね。あの装飾されていた宝石、アレキサンドライトであってる?」
「よくわかったな」
「ふ、くくっ!いやあ、運命じみたものを感じちゃうよ」
笑いを抑えきれない様子に訝しむ目を向けると、ヒソカはおかしいと言わんばかりに目を細めた。
「あの子のお兄さんがずっと手に入らなくて困ってるって言ってたアイテムがあってさ。それが、奇運アレキサンドライト」
「!……ほう」
「実の兄は手に入れられなくて、キミは手に入れられた上にそれをユウキに贈ることができた。どちらが兄に相応しいのか、今の時点で運命はキミを選んでいるように思えるねえ」
「そうだとすれば、それは」
これまで盗んできたどんなものよりも価値があり、最高に気分が良い。
「それにしても、隠れ家だったのにここまで生活感出されたらもう隠れ家に使えないじゃないか」
「オレとユウキが使うから問題ない。ここはもうオレ達のものだからお前は別の隠れ家を探せ」
「キミってほんとどこまでも盗賊思考だよね」