迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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「クロロさん、はいハッピーバレンタイン!」
ヒソカがグリードアイランドをプレイし始めてから、なんと五ヶ月も経ってしまいました。
ゲーム開始後、一週間経っても戻ってこなかったときには慌ててゲーム機を持ち上げたりして連絡を取る手段はないか探してしまったけれど、クロロさん曰く長期的にプレイするゲームだから長くて半年は戻ってこないかもしれないと言われてしまい、唖然としたのももう前のことになる。
しかし、以前クロロさんにも言った通り、兄がいる可能性が一番高いだろうグリードアイランドから離れるのもできないし、なにより伝言を頼んだからにはヒソカが戻ってくるまでは待っていたい。そしてクロロさんもヒソカに待ち人とやらの捜索を頼んでいるらしく、こちらも待ち状態。そんなこんなで、私、ユウキは自称兄との奇妙な同居生活を送っているのである。なお、ヒソカズハウスは私が意気揚々と外観含め大掃除をしたので、いまや外から見ても空き家とは思われておらず、兄妹が住んでいる家と周辺からは認識されているようだ。兄妹ではないんだけどね!
さて、話を戻そう。すっかり綺麗になったゲーム機の置いてある寝室にて、涼しい顔で読書をしているクロロさんのところへ先ほど作ったチョコのお菓子を大量に持っていくと、クロロさんはキョトンとした顔で私とチョコのお菓子を目で往復していた。それから、ああ、と今日が世間でいうバレンタインデーだということに気が付いたようだった。
「そうか、もうそんな時期か。ありがとうユウキ。お前の作るものは何でも美味しいから、どれから手を付けようか迷ってしまうな」
「ふふん。料理関連は一人旅で鍛えられたからね、そこは少し自慢なのだよ!ホワイトデー楽しみにしてるからね!」
「わかった。大きさは何平方キロメートルがいい?」
「何を返そうとしてるの?!島?!島か何か?!普通に飴とかブックカバーとかでいいんだけど?!」
はははと笑うクロロさんは、どこまでが本気でどこまでが冗談なのかわからないのでちゃんと念押ししておかないといけないとこの数か月で学んだのだ。なので再度しっかり念押しをしておく。
ここで暮らし始めた頃に買った簡易テーブルの上に、持ってきたチョコ菓子を並べて、椅子に座る。クロロさんもベッドに腰かけて、改めて皿の上に盛られたチョコ菓子たちを見てくすりと笑った。
「チョコの表面にジャポンの文字を書いたのか。これは、ち、よ、こ。ジャポンではチョコをこう書くのか。こっちは甘め、と書いてあるな」
「いや博識すぎない??ジャポンの言葉って言霊がのるって有名で、結構有名人とかも願掛けに使ってたりするみたいでさ、今日行ったお店のバレンタインフェアのコーナーにもたくさんジャポン文字の板チョコが置いてあったんだよ。そういえばゼノさんも一日一殺って恐ろしい言葉服に入れてたな……ま、まあとにかく!自分の生まれ故郷の言葉が気に入られてるって、なんか嬉しくてさ。そのノリでついついチョコペンで書きまくっちゃって」
「ああ、ジャポン文字はオレも好きで使ってる」
「え?そうなの?ちなみに何使ってるの?」
「極、だ。いいだろ、すべてを極めるって願掛け」
「おお!いいね!かっこいい!」
ガチャっ、バン!
「オレにも良いジャポンの文字教えてよユウキ」
「ほぎゃああああ!!」
「はあ……イルミ、来るときはインターホンを鳴らせと何度言えばわかるんだ」
突然開かれた扉の音と人の声に悲鳴を上げて飛び上がると、クロロさんはため息交じりに侵入者の顔を見上げる。
ごめんごめん、なんてあまり気持ちのこもってない謝罪をしながら入ってきたのは、ミルキくんのお兄さんのイルミさんだ。
「いいか、再三伝えているが妹は嫁には出さない。いい加減諦めろ」
「それはできないな。ミルキがさ、口には出さないけどユウキと連絡が取れないことに落ち込んでいるんだ。兄としてかわいそうな弟を放ってはおけないからね。というわけで、連絡先を教えるか嫁に出すか早く選んでよ」
「どっちも却下だ。第一連絡先については以前も言ったが新しく購入する携帯の吟味中なんだ。もう一度言う、諦めろ」
「まだ悩んでるの?一番高いやつ買ってあげなよ」
そうなのです。実は以前使っていた私の携帯はお亡くなりになってしまったのです。
この生活が始まり、そうだ電波はもう入ってるんだからとゴンくんに連絡しようと携帯を開くと、真っ黒の画面のまま動かず首を傾げた。はて、故障かな、と携帯を販売店へ持っていくと、壊れてるので修理もできないですねと言われてしまったのである。断崖絶壁にいた時は画面がついていたので、もしかしたらグリードアイランドからアイジエン大陸への移動、そしてここパドキア共和国に到着するまでの間に壊れてしまったのだろう。その間携帯の確認をしなかったので、どこで壊れたのか本当にわからないけれど、これまで登録してきた連絡先がすべて消えてしまい、めちゃくちゃ凹んでしまった。
落ち込む私に、クロロさんは「新しい携帯を買ったら、最初に登録されるのはオレの連絡先だな」とどこか嬉しそうにしていたのだが、あれは慰めてくれていたのだろうか。わからないけど、なんだか嬉しそうだったので思わず気が抜けたのを覚えている。
それ以降、外出は基本的にクロロさんと一緒に行くので、携帯を持っていなくても困らなかったのだが、そろそろ携帯を買い直してもいいかもしれない。ミルキくんにもクロロさん達を探す時に手伝ってもらったから改めてお礼を言いたいし、ゴンくん達にも幻影旅団とは何もなかったかとか色々聞きたいし。……いや連絡先もうわからないから聞けないけども……番号覚えてないし……つらい。
「あれ、チョコだ。おいしそうだね」
悶々としていると、テーブルの上に並べたチョコ菓子たちに気が付いたイルミさんがその中の一つを手に取った。すかさずクロロさんが「おい」と少し怒った声を出す。
「それはオレの妹が兄であるオレのために用意したものだ。皿に戻せ」
「(無視)これ、ユウキが作ったの?」
「そうですね。今日バレンタインなので、腕によりをかけて作りましたよ!イルミさんも食べます?あ、でもこれはクロロさん用なので、今台所からほかのチョコ菓子持ってくるんで、ちょっと待っててくださいね!」
もはや妹呼びへの突っ込みが追いきれないのでひとまず放っておいて、私は1階の台所へ向かうことにした。イルミさんって甘いもの食べるんだなあ。クロロさんといい、こういうギャップに世の女の子たちはやられてしまうんだろうなあ!
「イルミ」
「わかったよ。はい、置きました」
皿に戻されたチョコ菓子を見て、思わず漏れた殺気を落ち着かせると、イルミは先ほどまでユウキが座っていた椅子に座って、わざとらしいため息を吐いた。
「君の愛情表現って、すごく気持ちが悪いね。劇団は今オフシーズンで、長期休み中なんだっけ?あとは、あの子の携帯。いつの間にか壊れてたっていうけど、壊したの君だろ」
「お前に愛情表現で気味悪がられるとは思わなかった。ヒソカが聞いたら腹を抱えて笑うだろうな」
「そう?こんな嘘だらけの関係をわざわざ続けてるほうが滑稽だと思うけど。まあ、今の君は念を使えない体なわけだし、ボディガードは必要だものね」
「……」
「否定できないだろ?そう、君は愛を注いでいるんじゃない。利用できるから繋ぎ止めておこうとしているだけなんだよ。あの子が傍にいれば、幻影旅団の団長を狙う外敵は勝手に死んでくれる。あの子が団員のことも親しく思っているのならば、なおさらだ。あの子さえいれば、幻影旅団は守られる。良い拾い物をしたね」
「黙れ」
わかっている。理解している。実際、こうしてオレが隠れることもなく一か所に留まれているのは、彼女のボディガード、あの強大なオーラのおかげだ。オレを知る人間は少ないが、その稀な復讐者たちはユウキのオーラが全てを追い返し、しつこい者は殺している。彼女は、それを知らない。
利用、している。あの子の善意を。
そんなこと、第三者に言われなくてもオレが一番理解している。
それでもあの子を、ユウキを大切に思う気持ちも本物だと、思って、いるはず、なのに。
「わきゃあああああ!!」
階下から悲鳴が聞こえて、同時にガシャンと陶器の割れる音が聞こえた。ミルキの嫁のユウキが何かに驚いて、皿でも落としたのだろう。悲鳴が聞こえたと同時に部屋を飛び出した男の背中を見送り、思考に耽る。
(なるほど。そこまで遊興でもないのか)
あの男は人の良さそうな顔をしながら中身は冷徹だ。使えないものはさっさと見切るし、使えるものはとことん使い切ってから捨てる。そうやって幻影旅団は生きてきたのだろうと思う。
そんな彼にとって予想外だったのは、念を封じられたことと、ユウキという存在だろう。
クロロは、彼女を利用している。それは確かだ。
最初は使えると思って近づいた彼女を、あろうことか気に入ってしまった。それだけならば何か他の形に、たとえば愛だの恋だのに発展していたかもしれなかったその感情は、念が使えなくなり彼女をボディガードに利用しているという損得勘定が入ったことで塗りつぶされてしまう。
利用している。愛している。
(さて、どうなるのかな。オレとしてはミルキの嫁だからさっさと見切りをつけて離れてほしいけど)
階下に降りると、突然出てきた虫に驚いたのだとユウキが手を一生懸命に隠しながらクロロに話していた。
もちろん隠せているわけもなく、躊躇なく自身の服を引きちぎってまで彼女の手のひらから流れる赤い血を拭う男が今度どうなるのか、少しだけ見てみたい気がした。
「うわああ何やってんのクロロさん!!服ううう!!高そうな服うううう!!血って洗っても取れにくいんだよっていうかそもそも服どうすんのおおおお?!」
「なら、今度から怪我をした時は隠さないことだ。心配するだろ」
「は、はーい……驚かせてごめん。いやでもまさか服引きちぎるとは思わなかったよ……クロロさん意外とアグレッシブなんだね。こういうのって賊とかがするイメージだったから驚いた」
「ふ、ふふ……賊……ふふふ……」
「笑うなイルミ」
「???」