迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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クロロ=ルシルフルという名前がリストにあり、ずっとゲーム内にいる事が気になったオレはどうしても対面して確認がしたくて同行のカードを使って名前の主の元へ飛んだ。
しかしそこにいたのはヒソカで、除念の事を伝えるためにクロロを探してると言って名前を使っていたと言われる。ビスケの判断でレイザー達へ挑むための戦力として、ヒソカを勧誘した後、ゴレイヌさんが「そういえば」と本を開いた。
「お前達のリストにもいなかった奴が、オレのリストに載ってるんだ。そのクロロってやつみたいに知ってる名前だったりするか?」
「へえ?なんて名前?」
「サトル、だ」
キルアが驚いて、ゴレイヌさんの開いたリストを勢いよく覗き込んだ。サトル。それは、ユウキの探している兄の名前だ。
ヨークシンでの出来事の後、飛行船の中でユウキだと思っていたものが突然ただの布になり、あの場にいた全員が大騒ぎしたのはもう二か月以上前の話になる。
携帯に連絡するも繋がらず、クラピカも倒れてしまったりして捜索もままならない状態だったが、彼女を守るオーラの事を思うときっと無事だという確信もあった。もちろん顔を見ないと不安ではあったけど、探すアテもなかったオレ達は無事を信じて自分達のすべき事へ戻ることとなったのだ。
まさか、ここで兄の名前が出てくるとは思わなかったが。
「マジかよ……そういえばあいつ、オークションで狙ってる品があるって言ってたっけ。まさか、グリードアイランドのことだったのか?」
「ヨークシンで会えるかもしれないって言ってたの、もしかしてお兄さんがグリードアイランドを狙ってるかもしれないって、思ったからなのかな」
「こらーっ!!また二人だけで完結して!!私達にも説明しなさい!!」
ビスケに頭を拳で殴られて、痛みに悶えながら何とか説明をする。ユウキという友達。兄を探していて、その兄の名前がサトルだということなどなど。
「……なるほどねえ。で、そのお兄さんは強そうなの?冷たいかもしれないけど、私達に今必要なのは戦力であって非凡者ではないわよ」
「会ってみないとわからないけど、オレは強いんじゃないかって思ってる。だって、多分お兄さんが念で作ったオーラでユウキを守ってるけど、そのオーラが……すごく、怖かったから」
立ち向かえないと、思ってしまったのだ。あのオーラを前にして、戦えない、怖いと震えてしまった。キルアの家にいたミケを見た時と同じ、もしくはそれ以上の恐怖だった。
だから、これほど強い念を込められるユウキのお兄さんは、きっと強い。
キルアも同じ感想を抱いてるようで、味方になるなら良い戦力のはずだと頷いている。
「それなら、会いに行ってみるか。全員それでいいか?」
「もちろん。ボクも興味あるし、伝言も預かってるし」
「伝言?」
「そ。妹から兄への伝言さ」
いつの間にそんな伝言を預かったのかとヒソカに問いかける前にゴレイヌさんが同行のカードを使ったので、結局聞くことはできなかった。
はたして、ユウキのお兄さんなのだろうか。もしその人だったとしたら、ユウキに会ってあげてほしいとお願いしないと。それから、あの念を解いてあげてほしいとも。ユウキがあのオーラの事を知ってしまったら、きっと、心を痛めてしまうから。
降り立った先で、ぞわりと嫌な気配を感じてすぐに体勢を直して前を向いた。木々の間に、膝を立てて座り本を開いている男がいる。影になって見えなかった顔が露わになると、その顔を見て思わず声を荒げてしまった。
「クロロ……!!お前がどうしてここに!!」
そう、そこにいたのはクロロ=ルシルフル。幻影旅団の団長だったのだ。髪を下ろしているが、額の十字のタトゥーは隠していない。コートは脱いでいるけれど、確実にクロロ本人であった。キルアも同じように警戒して身構えているが、ヒソカは心底おかしそうに笑っていた。
「キミ、クロロじゃないね?けどボクにも、ゴンとキルアにもキミの姿はクロロにしか見えない。一体どういう手品なんだい?」
「クロロじゃ、ない?けど、あの顔は……っ」
何度見ても、やはりあれはクロロだ。しかし、クロロの顔をした男はオレ達をゆっくりと見まわした後、本を片手に開いたままゆっくりと立ち上がった。
「クロロ=ルシルフルを知っているのか。凄いな、その歳で幻影旅団の団長と顔を合わせて生きているとは」
声も全く同じだというのに、クロロの事を他人事のように話す男は、それだけで別人であると言っていた。
「……クロロじゃ、ないの?」
「そもそもお前達は俺の名前を選んで飛んできたんだろう?なら俺がクロロではないとわかっているはずだ。……ああ、そうか、顔か。悪いが種明かしはできない。ついでにそちらの二人には俺の姿が別のものに見えているようだから、サービスで視認を統一しておいてやろう」
男がパチンと指を鳴らすと、ビスケとゴレイヌさんがびくりと肩を揺らして驚いていた。二人が見ていた男が、突然さっきまでと違う姿に変わったらしい。
「黒髪、額に十字のタトゥー。私達の見えてるあれが、あんた達の言うクロロって奴なのね?」
「ああ、そうだ。一体どうなってやがんだよこれ……」
「だが、はっきりしたな。彼はおそろしく強いだろう。戦力としては十分過ぎるほど……」
味方であれば、の話だが。
クロロの顔をした男は、オレ達を見て話の続きを促すような雰囲気の沈黙を投げてくる。それに答えたのは意外にもヒソカだった。
「ボク達、今狙ってるカードがあってね。参加条件及びクリアに必要な戦力を集めてるんだ。キミ、参加しないかい?」
「悪いが遠慮しておく。俺は好きにカード集めをして遊んでいるんだ。お前達に協力するメリットはない。今俺が望む一枚をお前達が持っているとも思えないしな」
「ちなみにそのカードは何ていうの?」
「奇運アレキサンドライトだが」
「あ!それオレ持ってる!」
「なんだと」
これだよね、とカードを見せると、男は心底驚いた顔をしてから、悔しそうに舌打ちをした。
「……入手手段だけ教えてもらえないか。どうしてもそのカードだけ情報がなくて困っているんだ」
「教えてもいいけど、オレ達に協力するのが条件って言ったら?」
キルアがそう条件を出すと、やれやれとため息混じりにカードを見せてきた。手に持っているそれは、一坪の海岸線だった。
「どうせお前達が狙っているのはこれだろう?見たところ俺がいなくとも悪くない戦力だと思うがな。というか、勧誘のために来たのか?」
「……妹が、いるよね?」
肩をすくめていた男が、ピリッと痺れるような殺気を込めてこちらを見た。何かを察したビスケが、オレ達の前に飛び出して身構える。男は目を細めてビスケを見下ろすと、フッと殺気を霧散させた。
「そんなに警戒しなくてもいい。俺は理由なく女性に手は出さん。ただ、今の発言について続きを話せ。内容次第ではお前達は全員この場で殺す」
合っている。この男は、絶対にユウキの兄だ。あのオーラの持ち主で間違いない。だって、こんなに怖いのだから。
乾きそうな喉をなんとか動かして、口を開いた。
「ユウキっていう、お兄さんを探してる友達がいるんだ。お兄さんの名前はサトルだって聞いてたから、リストに名前を見つけて、確認と勧誘のためにここに来た」
「……ユウキが、探しているのか?俺のことをなんて言っていた?」
「それが、兄がいたってことしか思い出せなかったんだって。名前は持ってたハンターライセンスで確認したって言ってたよ。ユウキは、名前しか分からない兄のライセンス情報を辿って何年も世界中探し回ってるんだ」
クロロの顔をしている男、サトルはオレの話を聞いた後、吐き出すように笑った。その顔は、どこか優しいもののように見えた、気がした。
「馬鹿な妹だ。せっかく記憶を消してやったというのに。生涯不自由のないようにと資産のつもりで置いておいたハンター証が、まさか俺の痕跡になってしまったとはな」
「どうして、そんなことしたの」
「お前達にそれを話す義理はない。俺はユウキが幸福に生きられればそれでいいだけだ。ユウキに会ったのなら知っているだろう?あいつに纏わせた守りがある限り、ユウキは傷つかないし傷つけられない。お前達も馬鹿な事は考えないことだな」
「友達に酷いことはしないよ」
「友達、か。ユウキに友達なんて不確定要素は不要だ。兄として、お前達は今ここで消しておこうか」
ぞわりとまた寒気がした。けれど、オレが身じろぐよりさきに前に出たのはキルアの方だった。
「兄貴ってのはみんなそうなのかよ!勝手に兄弟の友達の不必要を決めやがって!ユウキはな、ずっと寂しそうだった!!オレにはその気持ちが少しわかるから、はっきり言ってやる!妹を寂しがらせて一人のうのうと生きてるなんて、お前は兄貴失格だぜ!!」
その言葉を聞いて、サトルは面白いものを見たように目を細めて笑う。
「その言葉、自分に返ってこないといいな、ゾルディック家の少年」
「はあ?!何が、ってオレがゾルディックって知ってんのかよ」
「……キルアの言う通りだ」
視線だけが、オレを見下ろしている。ひどく冷たい、敵意。それでも、妹を思う気持ちは本物だ。その方法が、間違っているだけで。
「ユウキはオレと会った時からずっと寂しそうだったんだよ。それでも、オレの心配をしてくれて、探してくれて、会いに来てくれた。ユウキがなんでずっと一人で旅をしなきゃいけなかったのかは、念を覚えてから知ったよ。あのオーラのせいで、誰もそばにいてくれなかったからだ」
友達だと思っているオレ達ですら、あのオーラの存在に気づいた時は怖くて震えてしまった。きっとユウキは、あれのせいで誰も近寄ってこなくて、あれが見えても見えなくても話せる人が現れたとしても、ユウキのそばにいてくれる人は誰もいなくて、ずっと、一人だった。
天空闘技場で、オレと別れる時のユウキはすごく寂しそうに笑っていた。ヨークシンで電話をした時、友達だって伝えたら言葉を詰まらせて、泣きそうな声で笑っていた。
「幸福に生きてほしいなんて言いながら妹をあんなに悲しませて、周囲から人を消しておいて、そんな奴が偉そうに兄を名乗るなッ!!」
叫ぶようにそう言い切れば、サトルはしばらくの沈黙の後にふう、と息を吐いた。
「ユウキに害ある人間は全て消えて当然だ。だからあいつを守るそれは、そういうものにした。ユウキを傷つけるもの、ユウキが恐怖を抱いたもの、その全てから守るようにプログラムしている。俺が念で作った、ユウキのためだけのガーディアンだ」
「そのガーディアンが、あの子の知らない内に大勢の人間を殺しているとしても?」
ヒソカがそう問うと、サトルは肩を揺らして笑う。
「ガーディアンに殺されたのなら、それは死んで当然の屑どもだ。何の感情もないな」
人を、殺しているのだ。ユウキを守る防衛機構、ガーディアンは、ユウキに何か悪い事をしようとする人間を容赦なく殺して消している。だから、怖かったのか。何の躊躇もなく人を殺すオーラだったから、オレは怖いと思ってしまったんだ。
そして、きっとこの男も人を殺している。その事に何の躊躇も感情もない。彼は彼の意思で人を殺めているのだ。
「どうして、無関係の人間を殺せるの」
以前、この顔をした男に問いかけた言葉。あの時クロロ本人は、「関係ないからじゃないか?」と簡単に言っていた。
サトルはオレの問いかけに、また視線だけを向けて、ただ淡々と回答する。
「関係ないからだろう。一つ付け加えるなら、関係があろうとなかろうと俺が不要と判断したなら誰でも殺すがな」
さて、とサトルは本からカードを取り出した。再来のカードということは、ここから離れるつもりだ。
「話は終わりだ。今回は妹の友達ということに免じて見逃してやる。あいつのガーディアンが起動していないのなら、お前達はあいつにとって害あるものではないようだからな。だが今後、ユウキには近寄るな」
「待って!山賊に頼まれた通りにカードも服も全部差し出してから、聖騎士の首飾りを装着した後でもう一回会いに行ってみて。それで、奇運アレキサンドライトが手に入るよ」
オレがサトルにそう言うと、キルアとビスケとゴレイヌさんは呆れた顔をしていて、ヒソカはなぜか笑っていた。
サトルはというと、目を見開いて心底驚いた顔をしてオレを見つめていた。それから顎に手を当てて、なるほどと頷いている。
「……そうか。あの物乞いに応じた上で、後に必要なアイテムを所持して来れば、信頼を得ている事もあり攻略ができる、という事だったか。……フ、お人好しにしか攻略できなさそうな入手方法だ。他の奴らが持っていないのも頷ける」
サトルはそう言って、オレの前まで歩いてくる。みんなが警戒するが、オレはもう警戒は必要ないと思い、しっかりと男と向かい合った。見た目がクロロだから、本物がどうなのかはわからないが、見下ろす動作が自然だからきっと背は高いのだろう。
「感謝する。こう見えて……いや今の俺の姿は旅団の団長だったか。とにかく俺はゲーマーなんだが、なにぶんソロプレイヤーでな。意地でも一人で攻略したかったんだが、これだけはどうしてもわからなかった。……ユウキの友達だと言っていたな。名前は?」
「ゴン=フリークス」
「そうか。ゴン、ユウキに会ったら兄は死んだと伝えてくれ。お前が探すライセンスの情報は、サーバー上のウィルスでめちゃくちゃになっているだけで本物の情報ではない、と。実際、ライセンスを使った渡航歴などはフェイクを定期流ししてるだけだから、追ったところで俺はいないからな」
「でも、二ヶ月前に話聞いた時は、あなたの渡航歴はヨークシンから動いてなかったよ」
「たまに止まるのが困ったところでな。とくに意味はない。……ユウキに渡したライセンスを狙う輩が現れないように撹乱していただけだったんだが、まさかユウキがそれを追いかけているとは思わなかった」
そう言うと、サトルはようやくお兄さんのような顔で微笑んでいた。本来は、これが兄としての顔なのだろう。ずっとそうではいられなかったのには、理由があるのかもしれない。聞いても答えてはもらえないだろうけど。
サトルは本から一枚カードを抜くと、それを俺に渡してきた。
「協力はしないが、情報をもらった礼にこれをやろう。可愛いぞ」
「あ、ありがとう。ねえ、そんなにユウキが大事なのに、どうして一緒にいてあげないの?」
「あの時俺にできた最上の手段が、これしかなかったからだ。ではな、よいゲームライフを」
「『もし悪い事をしてても、例えば幻影旅団のリーダーだったとしても、私はずっと妹だから。会いたい』」
「!」
「伝言、たしかに伝えたよ」
ヒソカからの伝言を聞いて、「どうして俺が旅団の団長になってるかもしれないという発想が出るんだ、あいつは」と笑った後、再来のカードを使ってとうとうサトルはこの場から去っていった。
張り詰めていた空気が溶けると、思わず尻餅をついてしまう。キルアも同じように大きな息を吐いていた。飛び去ったであろう方向を見ながら、ビスケも安堵しているように見える。
「あれは手に負えないわね。何か一つでも返答を間違えていたら、秒で襲いかかってきたわよ」
「そうだね。とくにゴン、キルア。二人ともよく黙っていられたね」
「え?何が?」
ヒソカはふふっと笑って、幻影旅団のことさ、と口にする。
「ユウキが旅団をただの劇団だと思い込まされていること、旅団の団長が彼女の兄を自称していること、この2点を話していたら、ボク達は問答無用で襲われていただろうねえ」
「う、うわー……そういえばそんなことになってたなあいつ……口を滑らせないでマジで良かった……」
「う、うん……」
「それにしても、想像以上に良いね、彼は。クロロと戦ったあとは、彼の事狙おうかな」
「旅団の団長に気に入られるユウキに、戦闘狂の変態に目をつけられるあいつの兄さん……あの兄妹変なのに目をつけられてんな……」
「なんだかますますユウキのことが心配になってきたよ……今頃どこで何してるんだろ……」
「ふふふ(その団長と二人でボクの帰りを待ってる事を教えたら驚くんだろうなぁ。言えないけど)」
「ところでゴン、あんた何もらったのよ?」
「えーと、メイドパンダ……ランクS?!」
「しかもこれカード化限度枚数六枚だぜ?!こんなの簡単に渡してくるなんて、あいつマジで何もんだよ?!」
「……お前達の交友関係が怖いよオレは……」
その頃の妹。
「ヒソカ帰ってこないな……」
「ユウキ、ここのカフェにスイーツビュッフェが新装されたらしい。ヒソカなんて気にしないで早速行ってみないか?」
「ヒソカに頼み事してたのクロロさんもだったよね……?まあ行くけどさ……チョコケーキあるかなー!」