★番外編
DREAM
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※誰も死んでないハッピー時空。
※ユウキが兄探ししてる最中のどこか。
ショーウィンドウに飾られた煌びやかなドレス。あまりにも綺麗だったので、目を惹かれて思わず足を止めてしまった。
傍には仮面も置いてあり、いわゆる仮面舞踏会をモチーフとした衣装だということがわかった。貴族の社交場という印象が強いので私にはとても縁がないけれど、こんなドレスを着る機会が一度くらいあってもいいのになあなんて夢を見ていたら。
「興味あんのか?」
「ほぎゃあああ!!」
「お、良い悲鳴いただき」
突如耳元で聞こえた声に悲鳴をあげたら体がよろめいてしまったが、驚かしてきた人、もといフィンクスさんは私の体を大丈夫かなんて言いながら支えてくれた。一瞬どきんとしたものの、そもそもの原因はこの人だと思い直してスンっと感情が落ち着いた。
「こういうのやけにたけえよなあ。団長妹はこれ着たいのか?買ってやろうか?」
「ほげええ?!いっいやそこまでは大丈夫だからっ!!それに着るにしても、そんな機会ないから夢のまた夢というかなんというか。それに私は実の兄探しで忙しいのです!遊んでいる場合ではないのです!」
むんっと気合を入れてフィンクスさんを見たら、すでにその場にはいなかった。いつも思うのだけど、どうしてクロロさんのところの団員はみんな気配を消すのがうまいのだろう。私が鈍いだけなのだろうか。めそお。
どこに行ったんだんだろうときょろきょろしていたら、お店の扉が開き店員さんの「ありがとうございました!」という嬉々とした声が聞こえてきた。出てきたのはもちろんフィンクスさんで、手には高そうな箱を持っている。それこそ、ドレスが一着入っていそうなほどの大きさの……。
「あ、あの、フィンクスさん……?」
「欲しかったんだろ?やるよ」
「行動力の化身か?!いやというか何で?!」
「ほしいって思ったんなら、そのタイミングで買っとけ。まあたけえから手は出しずらかっただろうけど、そういう時は団長にでも頼めばほいほい買ってくれるぜ?今は団長がいないから、代わりにオレが買ってやったってだけだ」
「いやそもそもクロロさんにもお願いはしないからね?!もうほんと団長妹って認識間違ってるから忘れてくれていいからね?!ってわわっ!」
「いいから受け取っとけ」
大きな箱が、私の両手に渡される。怒涛のスピード展開にまだついていけてないけど、これを返品するのも申し訳ないし、なにより、嬉しいという気持ちが勝ってしまっていた。プレゼントというのを受け取りなれていない私は、こういうのにとても弱いのだ。まあフィンクスさんはプレゼントのつもりというよりは、代わりに買ってやったくらいの気持ちなのだろうけど。少し重いその箱を両手に抱えて、へへっと笑う。
「ありがとうフィンクスさん。これ、大事にする!」
「おう。そうしてくれ」
「でも、これどこで着ようなあ……仮面舞踏会なんてどこでやってるんだろ」
「店員から明後日隣の都市でやるって話聞いたぜ。だからこうやってドレス飾って売ってんだろ」
「ああ、なるほど!!ちょっと調べてみる!」
フィンクスさんが箱を持ってくれたので、携帯を取り出して隣町であるという仮面舞踏会の情報を調べてみる。すぐに検索にヒットして、読むと会員の名刺があれば本人でなくても参加できると注意事項が書いてある。会員の名刺、といえば、先ほど人助けをした時に何かあったら使うといいよと言われてもらった名刺があった。フィンクスさんにこれでいけたりしないかなとなんとなく聞いてみたら、それ主催者の名刺だからいけるだろと言われて声にならない悲鳴を上げてしまった。またレアものをゲットしていたらしい。ミルキくんに今度報告しよう。
「よーし、さっそく申し込まなきゃ!あ、そうだ、フィンクスさんも一緒に行こうよ!」
「え?オレも?」
「これ男女二人一組で参加って書いてあるからさ、知らない人と行くよりフィンクスさんと行きたい!ダメかな?」
「……まあ、いいけど」
「やったあ!!」
箱を肩に乗せて持っているフィンクスさんの無防備な体めがけて飛び込んだら、恥ずかしそうに離れろと言ってきて少し可愛かった。
――――…
「明日、隣の都市で行われる仮面舞踏会でオークションが開催される。今回はそのお宝を全部盗む。メンバーは今ここに集まったオレたちのみだ」
都市ごとに代わるアジトの一つで、団長のその宣言にオレだけが頭を抱えていた。
よりによって、そこ選んじまったか団長。すでに見取り図も用意しているし、来場に必要だという名刺も持っているようだし、準備万端だ。困ったことになった。オレだけが渋い顔をしているのに気付いたシャルが、どうしたの?と肘でつついてくる。やめろ、団長に気づかれるだろ。
「どうしたフィンクス。不服なのか」
気づかれた―――。
さらに頭を抱える。そしてこういう起きてほしくないことは重なるものらしく、最悪のタイミングでオレの携帯に着信が入った。確認してもいいと促され見たら、ユウキからだ。どうするオレ。
「あ、ユウキからの着信だ」
「てめえシャルうううッ!!」
「ほう?」
団長の目が光る。出てもいいがスピーカーにしろと言われて、頼むから変なこと言うんじゃねえぞという気持ちで通話ボタンを押すと、相変わらず元気な声がもしもしと話しかけてきた。
「おう、どうしたこんな時間に」
『あのね!明日どこで待ち合わせしようかなって相談!ていうか、こういうのって会場で着替えるべき?それとも着ていくのかな?!』
「あー、ホテルで着替えて、タクシーに乗って会場まで行けばいいんじゃないか?」
『なるほど!!じゃあ会場前で待ち合わせだね!へへ、フィンクスさんに買ってもらったドレス、ばっちり着こなしていくから楽しみにしててね!行くぞ仮面舞踏会ー!それじゃあまた明日!おやすみなさい!』
「ああ、おやすみ」
ピ、と通話が終わる。今言ってほしくないこと全部言いやがったな、とどこか遠い目をしてしまった。正面からあふれ出る嫉妬のオーラは怖いからそっちを向けないし。いや団長、怖いから。怒りを抑えきれてないから。オレここで死ぬのか?
「フィンクスあんた、ユウキにドレスをプレゼントしたの?」
理由を知りたいらしいパクがそう聞いてくる。まあそうだ、と頷く。
「あいつ、店に飾られてるドレス見て、なんか欲しそうな顔してたんだよ。自分への物欲あんまなさそうだから珍しいなって思って、団長がいたら団長が買ってただろうけどっつって買ってやっただけだ」
「へえ……フィンにしては気が利くじゃん」
「してはってなんだよ」
「けど、仮面舞踏会に参加するには会員の名刺がいるんでしょ?」
「あいつが人助けした時にもらったって名刺が主催者のやつだったみたいだぜ」
「ああ、あの子レアものの取得率高いよね」
「なるほど」
マチの背後から、黙ってオレを射殺さんばかりに睨みつけていた団長がようやく口を開いた。
「プラン変更だ。明日は仮面舞踏会が中止にならないように限りなく隠密で動く。フィンクス、お前はユウキの護衛。オレとマチ、パクノダ、シャルは潜入後速やかに目当てのものを盗んで少し楽しんでから帰る」
「少し楽しむ時間いる?」
「団長がユウキと踊りたいだけでは?」
女性陣の声を聞かなかったことにした団長は、そのままくるりと顔をオレの方へ向けてくる。
「ちなみに、男が女に服を贈るというのは、脱がせたいという願望を含むそうだが、どう思う?」
「そういう気はマジでねえから!!さりげなくスキルハンター出してんじゃねえよこええよ!!」
――――…
当日。団長が用意していた衣装を身にまとい、仮面をつけて会場の前でユウキを待っていた。
あのドレス、わりと大人向けだったなとふと思う。ユウキには早すぎたかもしれない、なんて想像して笑っていたら、一台のタクシーが止まり、そこから女が降りてくると周囲が色めき始めた。ぜひ私と、といろんな男共から声をかけられている女は、オレを見るなり手を振って駆け寄ってくる。
「お待たせ!フィンクスさん、だよね?」
「は?……嘘だろ。お前ユウキか……?」
下ろした少し長い髪の毛先は内側に巻いてあり、その髪型に似合う蝶がモチーフの髪飾りは、煌びやかなドレスの方にも相性抜群だった。胸元は少し開き、肩は細かなメッシュ生地だから透けていて、華奢なのがわかる。いや、ちょっと待ってくれ。いつもの元気いっぱいの団長妹はどこへ行った。これは、ただの、大人の女ではないか。
「あれから知り合いの美容師さんに相談してね、どういうのが似合うかとか髪型とか色々相談したんだ。写真送ったら別人に見えるくらい大人っぽくなったって言われて自信満々で来たんだけど、どう?」
「お、おお……似合ってる」
「やった!へへっ。それじゃさっそく行こう!」
仮面をかけて、オレの腕に華奢な腕が絡まってくる。やわらかい胸の感触がして思わず「うおっ」と声が漏れてしまったら、どこかから殺気が飛んできたので団長達も到着しているようだとわかった。今のは不可抗力です。頼むから全員で殺気をバシバシ飛ばしてくるのはやめてください。
「本日は最後にちょっとしたオークションが開催されます。ぜひご参加くださいませ」
受付の仮面をつけた男がそう告げると案の定ユウキは目を輝かせた。
「オークションだって!何が出るんだろ、楽しみだね!」
「そうだな(全部盗むけど)」
仮面をつけているからか、会場内にはどこか強気な男女が多くみられる。自分と相手を見比べて自身の方が優れているとドヤ顔しながら歩いている奴らが多くて反吐が出そうだ。オレの腕にくっついているこいつの方が正直上玉だと思う。口にすれば団長からまた殺気を飛ばされてしまうから言わないが。
とはいえ人目を惹くほどのプロポーションをもったユウキ自身は、周囲の連中と違って自信なさげにきょろきょろしている。
「どうしよう……みんな綺麗だよ……私場違いだったかも……」
どうしてか自分にはネガティブ気味なので、こういうところが団長の庇護欲を誘うんだろうなと少し思った。いつものように頭をがしがし撫でまわしてやろうと思ったが、髪が崩れてしまうかと思い直し、肩にかかる髪を一房優しくすくったらびくりと驚いたようにユウキがこちらを見上げてくる。
「周りは周り、お前はお前だろ。安心しろ、オレから見ればお前が一番可愛い」
「へっ」
あまりにも自然とそう言ってしまったのはまごうことなき本音だからだ。ユウキはオレに言われた言葉を意識してしまったらしく、仮面に覆われていない部分が赤く見えるほど照れてしまったようだ。
痛い。団長の殺気がそろそろ痛い。隠密行動中なのだから、頼むからそっちに集中しててくれ団長。そんなことを考えていたら、ユウキは俺の腕にさらにぎゅっとしがみつくと、へへっと笑ってこちらを見上げた。
(あ、本当にかわいいなこいつ)
「あ、曲始まった!私ネットで調べて少しステップ覚えてきたんだ!踊ろ!」
「お、おお」
会場の明かりが薄暗くなると、音楽が流れ始め各々が緩やかにダンスを始めていく。ユウキが踊れる位置まで俺の手を引いていくので、とりあえず適当に合わせておけばいいだろうとステップを踏むと、ユウキから感嘆の声が上がった。
「フィンクスさんうまいなー!こういうの慣れてるの?」
「まあ、それなりだな。得意ではねえけど、できないわけでもねえ」
高いブツを持ってる相手なんて大体は金持ち連中だ。そこに潜入しようと思ったら、こういうかしこまった格好をすることもあるしそれなりのマナーも覚えてないといけなかったりするものだ。ダンスはほとんど機会はなかったが、してないこともないのでまあ無難にできると言っていい。そこまで詳細に話はしないが、それなりにという言葉にユウキはそっかあと少し羨ましそうな声を出した。
「やっぱり劇団員ともなれば、演目にもあったり、お洒落なところに行ったりするんだよね。うーん、でもフェイタンさんやノブナガさんがこういうダンスするイメージ全然浮かばないな……」
「あいつらも卒なくこなすぜ。今度誘ってみろよ」
「うん、そうする!このドレスも着る機会増えるし、私も楽しいし!今日は本当にありがと、フィンクスさん」
ふわりと、花が綻ぶように微笑むというのはこんな感じなのだろうかと詩的な表現が頭を過ぎる。
音楽が終わる。けれど手は繋がれたまま。
「フィンクスさん?」
手を離されると思っていたユウキが首を傾げている。そのまま手を引いて、飲み物が置いてあるテーブルまで向かうと、ようやくその手を離しておそらく白ワインであろうものを一気に飲み干した。ユウキが驚いているが、オレはそれどころじゃない。
(あっっっぶなかった!!キスくらいならしてもいいかとか思っちまったあっっっぶな!!)
不覚にも、キュンとしてしまったのだ。かわいいと思ってしまったのだ。
「えっと、フィンクスさん大丈夫?お酒一気飲みは危ないよ?……いや顔真っ赤なんだけどマジで大丈夫なのそれ?!」
仮面からのぞく俺の頬が赤くなっているのが、薄暗い中でも見えてしまったらしい。ユウキがオレの顔に手を伸ばすが、その手は他の男の手に取られて遮られてしまう。
「お嬢さん、オレと一曲踊りませんか?」
「え?!あ、いや、私は」
「兄妹で踊るのに遠慮する必要はないよ、ユウキ」
「…………へ?」
仮面の男、もとい我らが団長が顔にかけた仮面を少しずらして見せれば、ユウキが大声を上げそうになったのですかさず団長が口にそっと手を当てて塞いだ。目をぐるぐるさせてパニックになっていたユウキは団長から手を離してもらうと、少し息を整えてから小声でなんでと詰め寄った。
「なんでクロロさんがここにいんの?!」
「もちろん、妹と踊るためだ」
「それは兄ではなくストーカーでは?!」
「それよりも、フィンクスと舞踏会に参加するなんて兄さん聞いてないぞ」
「言ってないし兄でもないからね?!」
器用に小声ですべてに突っ込みを入れていくのを客観的に見ていると、これは楽しくてつい構いたくなる気持ちがわかってしまった。団長はほら、とユウキの手を軽く引く。
「いいだろ、ユウキ」
「……まあ、うん、いいけどさ。フィンクスさん、ちょっと行ってくるね!」
「おう、行ってこい」
そのやりとりにすら嫉妬したのか、団長が怖い笑顔をこちらに向けてくる。この兄、嫉妬深すぎるな……ともう何度目かわからない遠い目をしてしまう。団長も仮面で顔を隠していても男前だと周囲に見られているようで、何人かの女が目を向けていたが、手を握る相手がユウキだと知るとあきらめたように他へ移っていった。今のユウキならば二人並べば美男美女に見えるから諦めが付くのだろう。
それにしても、なんでこう少し、もやっとするのか。
「おやおや。恋の予感、かな?」
「あんたも恋とかするんだね」
「団長が相手だと望み薄よ」
どうやら仕事は終わったらしい。俺の周囲に野次を飛ばしにきた三人は、あとで一発殴りたいと思う。
※ユウキが兄探ししてる最中のどこか。
ショーウィンドウに飾られた煌びやかなドレス。あまりにも綺麗だったので、目を惹かれて思わず足を止めてしまった。
傍には仮面も置いてあり、いわゆる仮面舞踏会をモチーフとした衣装だということがわかった。貴族の社交場という印象が強いので私にはとても縁がないけれど、こんなドレスを着る機会が一度くらいあってもいいのになあなんて夢を見ていたら。
「興味あんのか?」
「ほぎゃあああ!!」
「お、良い悲鳴いただき」
突如耳元で聞こえた声に悲鳴をあげたら体がよろめいてしまったが、驚かしてきた人、もといフィンクスさんは私の体を大丈夫かなんて言いながら支えてくれた。一瞬どきんとしたものの、そもそもの原因はこの人だと思い直してスンっと感情が落ち着いた。
「こういうのやけにたけえよなあ。団長妹はこれ着たいのか?買ってやろうか?」
「ほげええ?!いっいやそこまでは大丈夫だからっ!!それに着るにしても、そんな機会ないから夢のまた夢というかなんというか。それに私は実の兄探しで忙しいのです!遊んでいる場合ではないのです!」
むんっと気合を入れてフィンクスさんを見たら、すでにその場にはいなかった。いつも思うのだけど、どうしてクロロさんのところの団員はみんな気配を消すのがうまいのだろう。私が鈍いだけなのだろうか。めそお。
どこに行ったんだんだろうときょろきょろしていたら、お店の扉が開き店員さんの「ありがとうございました!」という嬉々とした声が聞こえてきた。出てきたのはもちろんフィンクスさんで、手には高そうな箱を持っている。それこそ、ドレスが一着入っていそうなほどの大きさの……。
「あ、あの、フィンクスさん……?」
「欲しかったんだろ?やるよ」
「行動力の化身か?!いやというか何で?!」
「ほしいって思ったんなら、そのタイミングで買っとけ。まあたけえから手は出しずらかっただろうけど、そういう時は団長にでも頼めばほいほい買ってくれるぜ?今は団長がいないから、代わりにオレが買ってやったってだけだ」
「いやそもそもクロロさんにもお願いはしないからね?!もうほんと団長妹って認識間違ってるから忘れてくれていいからね?!ってわわっ!」
「いいから受け取っとけ」
大きな箱が、私の両手に渡される。怒涛のスピード展開にまだついていけてないけど、これを返品するのも申し訳ないし、なにより、嬉しいという気持ちが勝ってしまっていた。プレゼントというのを受け取りなれていない私は、こういうのにとても弱いのだ。まあフィンクスさんはプレゼントのつもりというよりは、代わりに買ってやったくらいの気持ちなのだろうけど。少し重いその箱を両手に抱えて、へへっと笑う。
「ありがとうフィンクスさん。これ、大事にする!」
「おう。そうしてくれ」
「でも、これどこで着ようなあ……仮面舞踏会なんてどこでやってるんだろ」
「店員から明後日隣の都市でやるって話聞いたぜ。だからこうやってドレス飾って売ってんだろ」
「ああ、なるほど!!ちょっと調べてみる!」
フィンクスさんが箱を持ってくれたので、携帯を取り出して隣町であるという仮面舞踏会の情報を調べてみる。すぐに検索にヒットして、読むと会員の名刺があれば本人でなくても参加できると注意事項が書いてある。会員の名刺、といえば、先ほど人助けをした時に何かあったら使うといいよと言われてもらった名刺があった。フィンクスさんにこれでいけたりしないかなとなんとなく聞いてみたら、それ主催者の名刺だからいけるだろと言われて声にならない悲鳴を上げてしまった。またレアものをゲットしていたらしい。ミルキくんに今度報告しよう。
「よーし、さっそく申し込まなきゃ!あ、そうだ、フィンクスさんも一緒に行こうよ!」
「え?オレも?」
「これ男女二人一組で参加って書いてあるからさ、知らない人と行くよりフィンクスさんと行きたい!ダメかな?」
「……まあ、いいけど」
「やったあ!!」
箱を肩に乗せて持っているフィンクスさんの無防備な体めがけて飛び込んだら、恥ずかしそうに離れろと言ってきて少し可愛かった。
――――…
「明日、隣の都市で行われる仮面舞踏会でオークションが開催される。今回はそのお宝を全部盗む。メンバーは今ここに集まったオレたちのみだ」
都市ごとに代わるアジトの一つで、団長のその宣言にオレだけが頭を抱えていた。
よりによって、そこ選んじまったか団長。すでに見取り図も用意しているし、来場に必要だという名刺も持っているようだし、準備万端だ。困ったことになった。オレだけが渋い顔をしているのに気付いたシャルが、どうしたの?と肘でつついてくる。やめろ、団長に気づかれるだろ。
「どうしたフィンクス。不服なのか」
気づかれた―――。
さらに頭を抱える。そしてこういう起きてほしくないことは重なるものらしく、最悪のタイミングでオレの携帯に着信が入った。確認してもいいと促され見たら、ユウキからだ。どうするオレ。
「あ、ユウキからの着信だ」
「てめえシャルうううッ!!」
「ほう?」
団長の目が光る。出てもいいがスピーカーにしろと言われて、頼むから変なこと言うんじゃねえぞという気持ちで通話ボタンを押すと、相変わらず元気な声がもしもしと話しかけてきた。
「おう、どうしたこんな時間に」
『あのね!明日どこで待ち合わせしようかなって相談!ていうか、こういうのって会場で着替えるべき?それとも着ていくのかな?!』
「あー、ホテルで着替えて、タクシーに乗って会場まで行けばいいんじゃないか?」
『なるほど!!じゃあ会場前で待ち合わせだね!へへ、フィンクスさんに買ってもらったドレス、ばっちり着こなしていくから楽しみにしててね!行くぞ仮面舞踏会ー!それじゃあまた明日!おやすみなさい!』
「ああ、おやすみ」
ピ、と通話が終わる。今言ってほしくないこと全部言いやがったな、とどこか遠い目をしてしまった。正面からあふれ出る嫉妬のオーラは怖いからそっちを向けないし。いや団長、怖いから。怒りを抑えきれてないから。オレここで死ぬのか?
「フィンクスあんた、ユウキにドレスをプレゼントしたの?」
理由を知りたいらしいパクがそう聞いてくる。まあそうだ、と頷く。
「あいつ、店に飾られてるドレス見て、なんか欲しそうな顔してたんだよ。自分への物欲あんまなさそうだから珍しいなって思って、団長がいたら団長が買ってただろうけどっつって買ってやっただけだ」
「へえ……フィンにしては気が利くじゃん」
「してはってなんだよ」
「けど、仮面舞踏会に参加するには会員の名刺がいるんでしょ?」
「あいつが人助けした時にもらったって名刺が主催者のやつだったみたいだぜ」
「ああ、あの子レアものの取得率高いよね」
「なるほど」
マチの背後から、黙ってオレを射殺さんばかりに睨みつけていた団長がようやく口を開いた。
「プラン変更だ。明日は仮面舞踏会が中止にならないように限りなく隠密で動く。フィンクス、お前はユウキの護衛。オレとマチ、パクノダ、シャルは潜入後速やかに目当てのものを盗んで少し楽しんでから帰る」
「少し楽しむ時間いる?」
「団長がユウキと踊りたいだけでは?」
女性陣の声を聞かなかったことにした団長は、そのままくるりと顔をオレの方へ向けてくる。
「ちなみに、男が女に服を贈るというのは、脱がせたいという願望を含むそうだが、どう思う?」
「そういう気はマジでねえから!!さりげなくスキルハンター出してんじゃねえよこええよ!!」
――――…
当日。団長が用意していた衣装を身にまとい、仮面をつけて会場の前でユウキを待っていた。
あのドレス、わりと大人向けだったなとふと思う。ユウキには早すぎたかもしれない、なんて想像して笑っていたら、一台のタクシーが止まり、そこから女が降りてくると周囲が色めき始めた。ぜひ私と、といろんな男共から声をかけられている女は、オレを見るなり手を振って駆け寄ってくる。
「お待たせ!フィンクスさん、だよね?」
「は?……嘘だろ。お前ユウキか……?」
下ろした少し長い髪の毛先は内側に巻いてあり、その髪型に似合う蝶がモチーフの髪飾りは、煌びやかなドレスの方にも相性抜群だった。胸元は少し開き、肩は細かなメッシュ生地だから透けていて、華奢なのがわかる。いや、ちょっと待ってくれ。いつもの元気いっぱいの団長妹はどこへ行った。これは、ただの、大人の女ではないか。
「あれから知り合いの美容師さんに相談してね、どういうのが似合うかとか髪型とか色々相談したんだ。写真送ったら別人に見えるくらい大人っぽくなったって言われて自信満々で来たんだけど、どう?」
「お、おお……似合ってる」
「やった!へへっ。それじゃさっそく行こう!」
仮面をかけて、オレの腕に華奢な腕が絡まってくる。やわらかい胸の感触がして思わず「うおっ」と声が漏れてしまったら、どこかから殺気が飛んできたので団長達も到着しているようだとわかった。今のは不可抗力です。頼むから全員で殺気をバシバシ飛ばしてくるのはやめてください。
「本日は最後にちょっとしたオークションが開催されます。ぜひご参加くださいませ」
受付の仮面をつけた男がそう告げると案の定ユウキは目を輝かせた。
「オークションだって!何が出るんだろ、楽しみだね!」
「そうだな(全部盗むけど)」
仮面をつけているからか、会場内にはどこか強気な男女が多くみられる。自分と相手を見比べて自身の方が優れているとドヤ顔しながら歩いている奴らが多くて反吐が出そうだ。オレの腕にくっついているこいつの方が正直上玉だと思う。口にすれば団長からまた殺気を飛ばされてしまうから言わないが。
とはいえ人目を惹くほどのプロポーションをもったユウキ自身は、周囲の連中と違って自信なさげにきょろきょろしている。
「どうしよう……みんな綺麗だよ……私場違いだったかも……」
どうしてか自分にはネガティブ気味なので、こういうところが団長の庇護欲を誘うんだろうなと少し思った。いつものように頭をがしがし撫でまわしてやろうと思ったが、髪が崩れてしまうかと思い直し、肩にかかる髪を一房優しくすくったらびくりと驚いたようにユウキがこちらを見上げてくる。
「周りは周り、お前はお前だろ。安心しろ、オレから見ればお前が一番可愛い」
「へっ」
あまりにも自然とそう言ってしまったのはまごうことなき本音だからだ。ユウキはオレに言われた言葉を意識してしまったらしく、仮面に覆われていない部分が赤く見えるほど照れてしまったようだ。
痛い。団長の殺気がそろそろ痛い。隠密行動中なのだから、頼むからそっちに集中しててくれ団長。そんなことを考えていたら、ユウキは俺の腕にさらにぎゅっとしがみつくと、へへっと笑ってこちらを見上げた。
(あ、本当にかわいいなこいつ)
「あ、曲始まった!私ネットで調べて少しステップ覚えてきたんだ!踊ろ!」
「お、おお」
会場の明かりが薄暗くなると、音楽が流れ始め各々が緩やかにダンスを始めていく。ユウキが踊れる位置まで俺の手を引いていくので、とりあえず適当に合わせておけばいいだろうとステップを踏むと、ユウキから感嘆の声が上がった。
「フィンクスさんうまいなー!こういうの慣れてるの?」
「まあ、それなりだな。得意ではねえけど、できないわけでもねえ」
高いブツを持ってる相手なんて大体は金持ち連中だ。そこに潜入しようと思ったら、こういうかしこまった格好をすることもあるしそれなりのマナーも覚えてないといけなかったりするものだ。ダンスはほとんど機会はなかったが、してないこともないのでまあ無難にできると言っていい。そこまで詳細に話はしないが、それなりにという言葉にユウキはそっかあと少し羨ましそうな声を出した。
「やっぱり劇団員ともなれば、演目にもあったり、お洒落なところに行ったりするんだよね。うーん、でもフェイタンさんやノブナガさんがこういうダンスするイメージ全然浮かばないな……」
「あいつらも卒なくこなすぜ。今度誘ってみろよ」
「うん、そうする!このドレスも着る機会増えるし、私も楽しいし!今日は本当にありがと、フィンクスさん」
ふわりと、花が綻ぶように微笑むというのはこんな感じなのだろうかと詩的な表現が頭を過ぎる。
音楽が終わる。けれど手は繋がれたまま。
「フィンクスさん?」
手を離されると思っていたユウキが首を傾げている。そのまま手を引いて、飲み物が置いてあるテーブルまで向かうと、ようやくその手を離しておそらく白ワインであろうものを一気に飲み干した。ユウキが驚いているが、オレはそれどころじゃない。
(あっっっぶなかった!!キスくらいならしてもいいかとか思っちまったあっっっぶな!!)
不覚にも、キュンとしてしまったのだ。かわいいと思ってしまったのだ。
「えっと、フィンクスさん大丈夫?お酒一気飲みは危ないよ?……いや顔真っ赤なんだけどマジで大丈夫なのそれ?!」
仮面からのぞく俺の頬が赤くなっているのが、薄暗い中でも見えてしまったらしい。ユウキがオレの顔に手を伸ばすが、その手は他の男の手に取られて遮られてしまう。
「お嬢さん、オレと一曲踊りませんか?」
「え?!あ、いや、私は」
「兄妹で踊るのに遠慮する必要はないよ、ユウキ」
「…………へ?」
仮面の男、もとい我らが団長が顔にかけた仮面を少しずらして見せれば、ユウキが大声を上げそうになったのですかさず団長が口にそっと手を当てて塞いだ。目をぐるぐるさせてパニックになっていたユウキは団長から手を離してもらうと、少し息を整えてから小声でなんでと詰め寄った。
「なんでクロロさんがここにいんの?!」
「もちろん、妹と踊るためだ」
「それは兄ではなくストーカーでは?!」
「それよりも、フィンクスと舞踏会に参加するなんて兄さん聞いてないぞ」
「言ってないし兄でもないからね?!」
器用に小声ですべてに突っ込みを入れていくのを客観的に見ていると、これは楽しくてつい構いたくなる気持ちがわかってしまった。団長はほら、とユウキの手を軽く引く。
「いいだろ、ユウキ」
「……まあ、うん、いいけどさ。フィンクスさん、ちょっと行ってくるね!」
「おう、行ってこい」
そのやりとりにすら嫉妬したのか、団長が怖い笑顔をこちらに向けてくる。この兄、嫉妬深すぎるな……ともう何度目かわからない遠い目をしてしまう。団長も仮面で顔を隠していても男前だと周囲に見られているようで、何人かの女が目を向けていたが、手を握る相手がユウキだと知るとあきらめたように他へ移っていった。今のユウキならば二人並べば美男美女に見えるから諦めが付くのだろう。
それにしても、なんでこう少し、もやっとするのか。
「おやおや。恋の予感、かな?」
「あんたも恋とかするんだね」
「団長が相手だと望み薄よ」
どうやら仕事は終わったらしい。俺の周囲に野次を飛ばしにきた三人は、あとで一発殴りたいと思う。