迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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あれから待てども待てどもクロロさんから連絡はなく、もう夕飯の時間ではなくなってしまった。
連絡すると言ってしてこなかったことはなかったので、いてもたってもいられずホテルを飛び出す。団員のみんなにも一応連絡をするも誰も出ないし、何かあったのだろうか。
もし私との縁を切るとして、黙って去っていくのなら別にそれでも構わないのだ。彼らにも仕事はあるし、私はたまたま知り合っただけの人間で、近くにいたから仲良くしていただけ、なんてことだってあるし。少し寂しいけど、別にそれならそれでも良いと思っている。
けれど、電話番号は変えられていないし、拒否もされていない。それに、クロロさんは連絡すると言ったら本当にする人間だと思っている。
だから、どちらかというと今はすごく嫌な予感の方が私の中を過っていた。幻影旅団。もしかしたら、この街に潜んでいるその盗賊グループに出会ってしまったのではないだろうか。もし巻き込まれているとしたら、助けなくちゃ。クラピカ達も幻影旅団を追っていたはずだから、何か情報があればと連絡するもこちらも繋がらない。闇雲に走り回ったって、この街は広いから探せやしない。どうしよう、どうしたら。
「ミルキくん……!」
頼れる友達に電話をかけるも、指が震えている。ワンコールの後、ミルキくんが電話に出てくれた。
『こんな時間に何?』
「ミルキくん!どうしよう友達が行方不明で、でも私どう探せばいいかわかんなくて!」
『お、落ち着けよ。深呼吸でもなんでもして落ち着いて、順を追って状況説明!』
言われた通りに、息を整えるために深呼吸をする。少し、気持ちを落ち着けることができた気がした。それから、順を追って状況説明をする。キルアくんの話をしたら『もう会ってたのかよ』と拗ねた声になって、いつものミルキくんだと本当にようやく落ち着いて話を聞くことができた。
『その友達って奴ら、なんか特徴ある?派手な服着てるとか、奇抜な髪形してるとか』
「えっと……白いファーが付いてる黒いコート着てる。背中に逆さの十字架がプリントされてて、ううーん髪形はどうだろ、オールバックかもしれないしおろしてるかもしれないし、とにかく黒髪のイケメン!」
『コートの特徴にヒットした奴がいるな。けっ、イケメン見つけたってSNSのコメントだ、イラっとするなあ』
「!!いたの?!どこで見たって?!」
『ホテルベーチタクルだな。少し時間たってるけど、地図送っとく』
「うう、ほんとありがと……!!」
少し泣きそうになりながらお礼を言ったら、電話の向こうで慌ててしまったらしく焦りながら泣くなと言われてしまう。まだギリギリ泣いてはないと主張するも通用せずため息を吐かれてしまった。
『ていうかオレも今ヨークシンいるんだよな。まあ仕事もあるから会えないけど、またオレんちにレアもの持って来いよ』
「うん!めちゃくちゃ良いの持っていくから期待してて!本当にありがとうミルキくん!」
通話を終えると、ミルキくんから届いた地図のホテルを確認してすぐに駆け出す。兄を自称したりしておかしなことを言いだす人だけど、大事な友達なんだ。どうか、どうか無事でいますように!
――――――…
ホテルに到着すると、どうやら数時間前に停電騒ぎがあったくらいらしいがクロロさんの目撃情報は得られなかった。けど、この辺りにいたはずなんだ。探さないと。自分にできることなんて聞き込みして回ることくらいだと周囲の人に尋ねて回っていると、ポンと肩を叩かれた。
「やあ」
振り返ると、そこにいたのはヒソカだった。あまりにも普通に声をかけてきたものだから、一瞬呆けてしまったがすぐに今の状況を思い出してヒソカに詰め寄る。
「クロロさんは?!みんなはどこにいんの?!」
「落ち着いてよ。どうして探してるんだい?」
「だって、今日連絡くれるって言ってたのに連絡なくて、団員のみんなにも電話繋がらなくて!もしかしたら、事件に巻き込まれてるのかもって思ったらいてもたってもいられなくって!ていうかヒソカは無事なの?!」
「おっと、ボクの心配もしてくれるんだ。僕は大丈夫だよ」
「じゃ、じゃあクロロさん達は?!」
ふふ、とヒソカは不気味に微笑んでいる。どういう笑みなんだと睨んだら、ぺろりと舌なめずりされてしまい悪寒が走る。
「いやこわ!!何?!」
「団長達は無事だよ。これから団長に会いに行くところなんだけど、一緒に行くかい?」
「えっ?!ぶ、無事なの?!」
「うん。電話が繋がらなかったのは、単純にみんな電波の届かないところにいたり話し中だっただけだと思うよ。団長も仕事が長引いてるだけだし」
「へ、へあー……?そ、そんな落ちって、あるぅ……?」
へにゃへにゃとへたりこんだら、おっとなんて言ってヒソカに体を支えてもらってしまった。もはや変態とか気にしてなどいられず、体を預けながら思い切り安堵の息を吐きだした。あんなに切羽詰まりながらミルキくんに連絡して探し回ってここまで来たというのに、偶然が重なって連絡が取れなくなっていただけだなんて、拍子抜けにもほどがある。いや、無事だというのなら、本当にそれだけでいいのだけど。
「で、どうする?一緒に来る?」
「行く!ヒソカに借り作るのとか怖すぎるけど、クロロさんに中止なら中止の一報くらい入れろって怒らないと!」
「さすが妹は強いねえ」
「妹じゃないけどね!!」
――――――…
飛行船の中から、約束通り人質となったゴンとキルアを連れているパクノダを確認する。そのままもう一つの飛行船に乗せるよう指示を投げようとした時、ぞわりと悪寒が背筋を通った。なんだ、この気持ちの悪さは。レオリオも感じたらしく、冷や汗を流しながら周囲を警戒している。センリツも同じようだ。
一体、この恐ろしい圧はなんなんだ。何が近づいてきている。まさかこいつらは、約束を違えたのか。
おそろしいオーラを探り、どこから感じるものなのかその方向へ視線を下ろすと、ゴン達の背後から見覚えのある男が相変わらずの不気味な笑みを携えてゆっくりと歩いてくるのが見えた。あれはヒソカだ。アジトから抜け出してきたのか。
一瞬この男のオーラかと思ったが、こんな無作為に周囲にまき散らすことをしていただろうか。その考察は瞬時に破却される。ヒソカの腕の中に、見えてしまった。男同様、見知った少女の姿を。
「おいありゃあユウキじゃねえか!なんでヒソカに捕まってやがんだよ!」
「わからない……天空闘技場で面識はあると聞いているが、なぜここに」
いや、そもそも。
(なんだ、あのおそろしいオーラは)
彼女を守るように覆われているそれは、何かを警戒しているようにも見えた。その相手は、ヒソカだろうか。間近に攻撃性の高いオーラを受けながら、ヒソカは変わらず微笑んでこちらへ電話をかけてくる。それに出ると、飛行船とは考えたね、と嬉しくもない賞賛の言葉を投げられた。
「何を企んでいる」
『ボクも飛行船に乗せてくれ。断ったらゴンとキルアを殺しちゃうかも。ああ、でも一番効果的なのはこっちかな』
こちらを見上げながら、ヒソカは意識のないユウキの首にトランプのカードを当てる仕草をしてみせた。
『乗せてくれないのなら、無抵抗の彼女の首を斬って血の雨を降らせよう』
その途端、彼女を覆うオーラが咆哮をあげたように暴れ狂った。飛行船の中にいてもびりびりと感じるほどのそれは、彼女自身の念の力ではないとはっきりとわかった。
あれは、呪いだ。彼女に害ある全てを憎む、重く深いドロドロとした熱情でできたもの。こんなものをつける奴がいるとしたら、彼女の前に姿を現さない兄なのか?こんなもの、今の我々ではとても手に負えるような相手ではない。
「悪意だけなら、あのオーラは殺戮行動はしない」
ずっと口を閉ざしていた男が、飛行船の窓から外を見下ろしたままそう告げる。視線だけをそちらに向けて男を見ると、先ほどまでの無機質な表情は失せており、目をそらすことなく窓の外を見ている。その先にいるのは、ヒソカではなく、ユウキだった。
「だが彼女が傷つけられればスイッチが入る。アレに襲われればこの場にいる全員、無傷ではすまないだろう。ヒソカも自身の負傷覚悟で交渉しているはずだ」
「貴様、ユウキのことを知ってるのか……!」
「お前達が取引を行いたいのはオレ達旅団であり、彼女は無関係のはずだ。彼女を仮にも友だと思っているのなら、正しい選択をしろ」
『ボクの目的は団長のみ。彼が解放されればボクも船を降りるよ。どうするか、五秒以内に決めてくれる?』
五、四、三、二。
「さっさと乗れ」
この返答が来るとわかっていたらしいヒソカから、『ありがと』などと調子の良い言葉が返ってきて思わず乱暴に電話を切ってしまう。停泊させている飛行船に乗り込んでいくゴンとキルア、パクノダ。そしてユウキを抱えたままのヒソカを見届けると、こちらも目的地へ向かうために飛行船を動かした。
冷静に、冷静に。心が、乱れている。一体、何がどうなっている。どうしてヒソカは彼女を連れてきた。どうして彼女にあんなおそろしいものがついている。どうして、旅団のリーダーは口を出してきた。今まで何をされても動じなかった男が、なぜユウキの姿を見て、饒舌になったんだ。それも、まるで守ろうとするかのような……。
(そんなはずがあるか。こいつは、蜘蛛だ。平気で人を殺す集団の頭なんだぞ)
ふと、ゴンの言葉が蘇る。
ー怖がらないで、ユウキ自身を見てあげてー
はたして今、彼女と向かい合った時に、彼女自身を見てあげられるだろうか。旅団と繋がりがあるかもしれない彼女を、あんな恐ろしいものを纏う彼女を、まっすぐに見てあげられるだろうか。ゴン達は気が付いていないかもしれない。彼女は、彼女を守るあの防衛機構はきっと、すでに何人もの人間を殺して……。
「クラピカ、落ち着いて」
センリツの声がして、泥のようになった思考が覚醒する。彼女を見ると、大丈夫だと微笑まれた。
「あなたの音、今はたしかに恐怖で包まれているけれど、その中にちゃんと彼女を想う優しい気持ちもあるわ。その気持ちの方を信じてあげて」
だって、あの子はきっと、いい子なんでしょう?
センリツにそう言われて、自分の知る彼女を思い出す。レオリオの夢を聞いて、嘲ることなく良い医者になってと笑った彼女。ゴンが心配で顔を見たいと騒いでいた彼女。彼女はいつも、私達に笑顔を向けていた。
(……そうだ、オレの知るユウキは、ずっとそうだったじゃないか)
まだ得体のしれないものを見た恐怖心はぬぐえないけれど、それでもきっと、今なら彼女自身を見ることができると確信して、今はこの取引を無事に終えるため集中することに決めた。
もう一つの飛行船内にて。
「ヒソカ、どうしてユウキを連れてきたの」
「んー?さっき言った通り、一番効果的だから」
何にと問えば、今集まっている全員にとってと返されるが、意味が分からなかった。
「利用し終わったんなら、いい加減そいつ離せよ」
「それはできない。だって、彼と本気でやりあうために必要だからね」
「ヒソカ、あんた……っ」
気を失っているのか、眠っているのかわからないが、規則的な呼吸音が聞こえるので無事ではあるのだろう。けれど、明らかな悪意を持ったヒソカに対して、ユウキのオーラが警戒をしてぴりぴりとした殺気を飛ばしているのがわかる。それでもヒソカへの攻撃がないのは、おそらく彼女が傷を負っていないからか、ヒソカへの警戒心がないからなのか。どちらにせよ、彼女のオーラがこんなに敵意を持っている様を見たのは初めてで、少し、ほんの少し、怖いと思ってしまった。
「ふふ、さっきの団長の顔、見えたかいパクノダ。ボクのこと殺したくて仕方ないって顔してたねえ」
「あんたのどうでもいい欲求に、この子を巻き込まないで。この取引だって、危うくめちゃくちゃになるところだったわ」
「それはごめんね」
ふふ、と不気味に笑うと、パクノダさんは拳をぎゅっと握りしめた。やっぱりそうだ。
「あなたも、ユウキのこと知ってるんだね」
パクノダさんだけじゃない。今ヒソカが言ったように旅団のリーダーもユウキを知っている。それも、親しそうだ。
「みんなで、ユウキを騙してたの?」
「結果を見ればそうなるわ」
「じゃあ過程を教えてよ」
「……この子が、団長のことを兄と勘違いして声かけてきたのよ。それが知り合ったきっかけ」
ユウキは兄探しをしている中で、兄と思わしき背格好の人間が廃墟に入っていくのを見かけて追いかけていき、そこにいた旅団のリーダーに兄ですかと聞いたそうだ。当然兄ではなく、間違えましたと帰ろうとしていた彼女をリーダーは引き留めた。そして、なぜか兄を自称し始めて、可愛がっていたらしい。そこまで聞いて、キルアが頭を抱えてしまった。
「いやなんでそうなった?!自称兄って、こいつ何変なの捕まえてんだよ?!」
「まあそれが普通の反応よね……私達も突然の奇行で驚いたけど、この子も楽しそうだったし、私達も楽しかったの。ユウキね、私達が幻影旅団だってこと本当に気が付いていないのよ。普通の劇団だと思ってて……誰もとくに訂正もしなかったから、結果的には騙してたことになるわ」
ユウキは彼らが人殺しであることを知らないまま笑いあっていたのか。ならもし、知ってしまったらどう思うのだろうか。怖いと思うのか、それでも友達だと笑うのか。きっとどっちもなんだろうな。
「でも、ユウキにひどいことはしなかったんでしょ?それなら、今のままでもいいと思う」
「おいゴン、お前何言ってっ!」
「だって、ユウキを纏うオーラは、パクノダさんのこと嫌ってないもん。それって、ユウキが気を許してる証拠だよ。きっと、大切にしてもらってたんだ」
そう言ったら、パクノダさんが驚いた顔をして、それからユウキを見つめた。その視線はどこかミトさんのような優しいものに見えた。
「でもヒソカはダメだよ。どうやって眠らせたのかは知らないけど、ユウキのこと早く離して」
「えー?普通に手品を披露してあげただけなのに。タクシーで移動中疲れたらしくて寝ちゃったから、むしろ半分は親切心で連れてきてあげたんだよ」
「普通に寝ちゃっただけだったの?!」
「ユウキの馬鹿!!なんで変態の傍で寝ちまうかなあ?!」
「そのオーラばりに警戒心持った方がいいって教えてあげないとダメかしら?!」
「ふふふ」
――――――…
人質交換は無事に終わった。生かされたからには、やるべきことは蜘蛛の存続。パクノダは……パクは戻った後、どうするだろうか。いや、想像はつく。きっと命を懸けて団員達にすべてを託すのだろう。ならオレがこれからすべきは、蜘蛛の存続のために団長として復帰すること。除念師を探すことだ。
先程少年達がユウキを乗せているのが見えたが、彼女は大丈夫だっただろうか。夕食の話、謝ることができなかったな。
「ずっと待ってたよ、この時を」
飛んでいく飛行船を見送っていたら、ヒソカが上機嫌に語り出した。
「ボクが入団したのは、いや、そう見せかけたのはまさにこの瞬間のため。もうこんなもの必要ない」
上半身の服を脱ぎ、背を向け4の入った蜘蛛のタトゥーを、ペラリと剥がしてみせる。なるほど、ドッキリテクスチャーで彫ったように見せていただけだったか。
さあやろう、と笑っているが、団員でないのなら話ができる。
「悪いが、お前とは戦えない。というより、戦うに値しないと言っておくか」
「?」
「鎖野郎にジャッジメントチェーンなる鎖を心臓に刺されて、オレはもう念能力は使えないんだ」
意気込んでいるところ悪いな、と伝えたら、滅多に見る事はないだろう惚けた顔のヒソカに少し笑った。
ヒソカは固まった後、念のこもったトランプを一枚俺に向かって放つが、それを受け切るための力はなく、そのまま見つめていたらオレの顔寸前でぴたりと止められた。バンジーガムで飛ばしたそれを手元に戻して、はあ、と力無くため息を吐かれてしまう。
「なぁんだ……せっかく楽しみにしてたのに」
「オレはここに残るから、お前達はもう出発していいぞ」
「そうだね、もうここにいる用事もないし……じゃ、この子はどうする?」
「この子?」
少し離れた場所の地面にヒソカが手をかけると、ペラリと先ほどのタトゥーのようにハンカチが揺れる。めくったその下から、鎖野郎の飛行船に乗ったはずのユウキが出てきた。悪戯が成功したような顔で、ヒソカは笑っている。
「少し細工して、ゴン達にはただの布を丸めたやつをユウキに見せかけて渡したんだ。今頃大騒ぎかな。キミと本気でやり合うなら彼女がいた方が使えるかなと思って置いてたんだけど、意味なかったね」
「彼女に何をした」
「とくに何も。手品見せてたら寝落ちしちゃっただけ。ふふ、この子ボクに会った時、どうやらキミ達と連絡が取れなくて心配して探し回ってたみたいでね。疲れてたのかな?」
「ヒソカ、念能力が使えるようになった暁には」
うん、と相槌を打つヒソカの横を抜けて、目を閉じているユウキを抱き起こす。怪我はない。泣いてもいない。本当に疲れて眠ってしまっただけなのだろう。それでも。
「必ず殺してやるから、期待して待っていろ」
「……ふ、ふふふっ!いいね、いいねその目!やっぱり、キミとの殺し合いにこの子は欠かせない!その日まで、ユウキのこと大事に守ってあげなよ、クロロ」
『へえ、ヒソカって見た目通り手品得意なんだ。ちょっとやってみせてよ。私手品大好き』
『いいよ。じゃあ簡単なトランプマジック見せてあげる。一枚選んで』
『おお、それっぽい!はい、選んだ!』
『それじゃあそのカードの絵柄を確認したら自分のポケットに入れて』
『はい、入れた!』
『キミが選んだカードは、ボクの手にあるハートのエース、でしょ?』
『うおおおおおすごおおおおお!!ていうか何でそっちにカードあんの?!えええヒソカすごおおお!!』
「ユウキ」
突然名前を呼ばれたので、パチリと目を開ける。あれ、私何やってたんだっけ。そうだ、クロロさん達探してて、ヒソカに会って、みんなのいるところに連れてってもらおうと思ってヒソカとタクシーに乗って、その間に手品を色々見せてもらったんだ。安心したからか、なんか眠たくなって寝ちゃって、えーっと、私今どこにいるんだろう。
ぼんやりとした視界をクリアにするために、何度も目を擦って今度こそ開けてみると、目の前に探していたクロロさんの顔があった。
「おわぁ?!あっ、クロロさん!!やっと会えたーっ!!もう仕事長引いたんなら教えてよ………めっちゃ怪我してるううう?!なになに何があったの?!」
ようやく会えたというのに、顔を見れば殴打されたような痣が全面にあり、怒るなんてことを忘れてあわあわしながらハンカチを探した。肩からかけていた鞄には必要最小限の荷物しかないが、ハンカチは持っていたのでホッとしつつそれを取り出す。
「ううん濡らさないとダメかなあ?!いやそもそも消毒しないとだね?!もしかして劇団の団長だって知った誰かに金とかたかられたの?!うわぁほんと何があったらこんなボコボコに殴られるのさー?!」
「……ふ、ふふっ」
「いや笑ってる場合かー?!被害届ちゃんと出さないとダメだよ?!」
「ユウキ」
「はい?!」
「夕食の約束、破ってしまって悪かった」
申し訳なさそうにそう言うので、もうそんなこといいってとハンカチで頬の血を拭ってあげた。怪我はしてるけど、無事ならそれで良い。
「でもまあ、次は早めに連絡くれると嬉しい。もうほんっと心配したんだからね」
「そうか。兄想いの妹で嬉しいよ」
「いや妹じゃないです」
いつもの軽口に戻った後、ふとクロロさんの背後が見えて身体が固まった。どうした?なんて普通に聞いてくるけれど、そんな場合では無くなってしまった。いや、え、ちょっと。
「ここどこおおおおお?!なんで私、断崖絶壁にいんのおおおおお?!」
飛行船も見当たらない、見渡す限りの断崖絶壁の風景に悲鳴を上げる私の後ろで、クロロさんだけは楽しそうに笑っていたのだった。