迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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なんだか慌ただしいなあ。なんて感想を抱きつつオークション会場に向かって街中を歩いていた。
黒服の人たちが忙しなく走り回っていて、どこからか怒号も聞こえてくる。さっきシルバさん達が言っていた治安が悪いという意味はきっとこのことなのだろう。幻影旅団が来ているということなのだから、大騒ぎになっていても仕方ない。
本当に、兄なのだろうか。わからないけれど、いやわからないからこそ確かめる必要がある。姿かたちも声も知らないけれど、きっと会えば兄だとわかるはずだと根拠も何もない直感を信じて、私は会場へ向かったのだが。
「えっ立ち入り禁止?!」
どうやらオークション会場に盗賊団の襲撃があったらしく、今日は会場内への入場は制限されていると言われて門前払いをくらってしまった。気合を入れていた分の反動もあり、とぼとぼ歩いてとりあえず荷物を置きにホテルへと向かう。
道すがら電脳ページを開いてみてもそれらしい記事がないため、情報規制されているのかもしれない。中には幻影旅団の死体一覧みたいなグロページも検索に出てきたけれど、大抵こういうのは偽物だし、ただグロいだけなので見ていない。というかグロいのが苦手なので見れない。後でミルキくんに確認してもらおう。なんにせよ、これ以上私にできそうなことは何もない。
「はあ、こういう時いつもどうしてたっけなあ……」
凹んだ時は、いいタイミングでミルキくんやクロロさんや団員の皆さんが電話してきてくれたものだ。そういえばゴンくん達元気にしてるかな。電話してみようかな。
……あれ私ゴンくんの連絡先知らないな?!キルアくんの連絡先は聞いたから知ってるけど、どうしようかけてみようかな。よし、かけてみよう!
ピピピ、と登録済の番号につなげてみる。ワンコール、ツーコール、スリーコール。はい出ませんね。めそおと凹みながら、次はクロロさんに電話をかけてみた。ワンコール。ピ。
『どうした?』
「あっ、えーと、げ、元気にしてましたか?」
『ふ、なぜ敬語なんだ?』
心の準備をする間もなくすぐに電話がつながってしまったので、ついかしこまってしまったら機嫌よさげに笑われてしまった。クロロさんの背後ではわいわいと騒ぐ声が聞こえるので、今宴会中なんだろうか。
「ごめん、今みんなでご飯とか食べてた?」
『まあそうだな。騒がしくてすまない』
「えっあ、いやその、こっちこそごめんね。ちょっと声が聞きたくなってかけちゃっただけなんだ。また改めてかけ直すよ」
『……声って、オレの?』
「?うん、そうだけど」
あれ、私今めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってない?声が聞きたくて、なんてものすごく恥ずかしい電話してないかこれ?!
「いやそのあのね?!変な意味じゃなくて私友達いないし気軽に電話かけられる相手も少ないからそれでっていうかうわああもう言ってて凹んできたあああ!!」
『あ、もしもし?オレ、シャルナークだけど』
「ふあっ?!あれシャルナークさんこんばんは?!クロロさんは?!」
『今ちょっと感極まっていろんな感情かみしめてるから、そっとしておいてあげて。それよりも元気してた?』
うん、と返事をしたら、どうやらスピーカーにしているのかその場にいるであろう団員の皆さんがわいわいと会話に参加してきた。
『おう元気そうでよかったぜ!こっちはよ、一仕事終えてきていてえっ!』
『相変わらずお喋りねフィンクス』
『この街にはいつ戻ったの?』
「パクノダさんこんばんはー!今日戻ってきたばっかり。お仕事ってまさか劇団の?!うわー私も見たかったなあ!みんながどんな役やるのか見たいよおお!!」
『私は掃除機だよー』
「掃除機役ってなに?!」
しばらくみんなと久しぶりの会話を楽しんだ後、ふとウボォーギンさんの声が聞こえないことに気づいた。今日はお休みなのだろうか。聞こうかなと思ったのだけど、未だに静かなクロロさんが気になり、そっちを聞いてみる事にした。
「ところでクロロさんはそろそろ復活してる?」
『うーん、どうだろうねえ』
「ほぎゃああヒソカの声だ!!また超絶キャワワのショタの足狙ってないだろうな?!」
『ボクは足よりもお尻の方が』
『あんたはあっち行ってな!』
『ふふ、ひどいなあマチは』
バシンッと大きな音がしたので、おそらくマチさんの何かしらの制裁があったのだろう。団員のみなさん、変態の相手本当にお疲れ様です。
『あ、団長が立ち上がった』
『顔はだらしないけどな……』
コルトピさんとフランクリンさんの声が聞こえる。よくわからないが、クロロさんがようやく復活したようだ。
『……ユウキ、オレも妹の声が聴けて嬉しいよ』
『かっこつけてやがるけど、さっきまで半泣きだったじゃねえか』
『ノブナガしっ!団長ようやく話せるまで回復したのにまたダメになっちゃうだろ!』
全部聞こえてますよシャルナークさん……。電話の向こうで団員のみなさんが『睨むなよ』と慌てた声がするので、威嚇しているのだろうか。
「あの、クロロさん?」
『問題ないよ』
「そ、それならいいんだけど……へへ、やっぱりいいなあ仲間って。みんな楽しそうでうらやましい」
幼い頃、といっても私が十五の時に行商人のおじさん達と旅をして、それから十七の時に兄を思い出して、今日まで二年間ずっと探し回ってて。
思えば、十五より前の記憶が朧気だ。病にかかったことで、それまでの記憶が薄れてしまったのだろう。だから、過去といえるほどの思い出は行商人のおじさん達だけだった。それも二年で終わりを告げて、今日までの二年、帰る場所もなく一人で旅をしてきた。
寂しかった。友達がほしかった。だから早く、兄に会いたかった。
みんなの声を聞いて、少し寂しさが紛れた私はそろそろお邪魔だろうと思い電話を終わろうとしたのだけど、電話の向こうから優しい声が私を呼び止めた。
『……ユウキ、今夜一緒に食事をしよう』
「え?」
『何が食べたい?なんでも好きなものを食べさせてやる。それから、これからの話もしよう。だから、今夜会う時は笑った顔を見せてくれ』
「……へへっ!うんわかった!また後でね!」
『ああ、また連絡する』
電話を終えると、辺りは静かだったけれど。
(今夜、楽しみだなあ!)
寂しさなんて吹っ飛んでいて、今夜クロロさんとご飯を食べに行くのが楽しみで仕方なかった。
「あの子どうする気?団長」
「連れていく」
「マジかよ……」
先ほどまでのにぎやかさはもう消えていた。そもそも、打ち上げは昨日すでに行っていて、今は鎖野郎を追う話をしていたのだ。そんな中、電話がかかってきた。他でもない、妹のユウキからだ。全員に賑やかにするよう指示をして電話に出たら、案の定ホッとしたような声に変わったユウキにこちらも安堵した。
電話が終わった後のマチの問いに決定事項として告げると、ノブナガが呆気にとられた顔をした。
「何か不服か」
「いやまあ、自称兄ってだけで十分おもしれえんだけど、まさか連れていくほどとは思ってなかったっつうか」
「連れていくリスクはわかってるんだよね?」
シャルがそう言うと、団員達はオレの返答を待つように口を閉じている。
彼女を守るオーラは、彼女の感情次第で敵味方の判定が変わるものだと推測する。今は親しい人と認識されているから、襲われることはないし、外敵から自分達も保護される立場になっていることだろう。
オレ達でも迂闊に手を出せないほどの強力な防衛機構は、要塞と変わりない使える盾だと理解している。しかし彼女はあくまで一般人という枠だ。たとえハンターライセンスを持っていようが、彼女を守るオーラが大勢の人間を殺していようが、彼女はまごう事なき一般人である。盗賊が何も知らない一般人を連れ歩くことはデメリットの方が大きい。それでも。
「気に入ったら奪うのが俺達だろう」
オレ達は、盗賊団なのだから。
「盗賊らしいこと言うね。まだ揉めるか?ノブナガ」
「何度も騒がねえよ。まあオレもあいつ気に入ってるし、団長が決めたんなら従うさ。もちろん鎖野郎ぶっ殺すのが先だけどよ」
当然鎖野郎を探し出す方が先だ。その為に情報整理をしないと。
「なあフランクリン、オレの方が団長より兄っぽくねえ?」
「いや、どうだろうな」
「えーっ?オレの方が兄っぽいよ!ねえコルトピ!」
「ぼくは弟ポジ狙ってるから」
「なら私はお姉さんかなあ」
「シズクが姉ならパクは何になんの?お母さん?」
「えっ?!うそ、そう見えるの?!」
人が真剣に考えているというのに、全く。それよりもフィンクスとシャル、それは聞き捨てならないぞ。コルトピもシズクも、いつの間にそのポジションを狙い始めていたんだ。
「お前達好き勝手に家族を名乗るんじゃない。ユウキはオレの妹だぞ」
「いや、そもそもそこから違うんだけどね……」
何がだ?とシャルに問いかけると、何でもないですと返された。とにかく、さっさと鎖野郎を殺してユウキと夕食を食べてこの街を出る事にしよう。
「……ふうん、あの子、そこまで気に入られてるんだ。ふふ、使えそうだねえ」
奇術師は誰に気づかれることもなく、不気味な笑みを浮かべていた。
ーーー…
あれから近くの競売を覗いたりしていたら、あっという間に夕方になり、ホテルに戻って非常食の整理をしようとベッドの上にインスタント食品を並べていたら、あまり鳴らない携帯に着信があった。どうやらキルアくんが折り返してくれたらしい。慌てて電話を取ると、もしもしとキルアくんの声がした。
「キルアくん!」
『あー、電話取れなくてわりい。何かあった?』
「えっとお……その、暇だったから、ついかけたといいますか……ほんとごめんね……」
めそおと凹んだら、なぜかぶはっと噴き出されてしまい、大笑いをされてしまった。
「き、キルアくん?」
『わりいわりい!いや、なんか気が抜けたっつうか!あ、今ちょうどゴンとクラピカとレオリオも一緒にいるんだけど、スピーカーにしてもいい?』
「えっみんないるの?!いいよ!ぜひぜひ!」
『わかった。……よし、これで聞こえるぜ』
「やっほー!!みんな元気ー?!ユウキだよー!!」
『うるせえー!声でけえんだよお前は!』
『レオリオも大きいぞ。声を抑えてくれ』
「わあレオリオとクラピカだ!私二人のおかげでゴンくんに会えたんだよー!あの時はほんとありがとねー!」
『おかげっつうかクラピカが違法行為を示唆したっつうか』
『今私のせいにしたのか?!』
『お前のせいだろーが!』
『まあまあ!そのおかげでオレ、ユウキとまた会えたしいいじゃん!ユウキー!オレ、ゴンだよ!元気だった?』
「ゴンくんんんん!!私はすっごく元気だよおおお!!」
静かにしろ!と電話の向こうでレオリオとクラピカに怒られてしまい、またもめそおと凹みつついつもの声量にどうにか戻すことにした。
「みんな集合してたんだね。へへ、なんかわかんないけど、四人一緒だとしっくりくるよ。みんなでご飯食べてたの?」
『まあそんなとこ。つうかお前は今どこにいんの?』
「私はねえ、今ヨークシンって街にいるよ!って言っても今日来たばっかりなんだけど。今世界最大のオークションやってるの知ってる?私そこにお目当ての品があってさー。ただ今日は会場に入れなかったから、明日こそはカタログをゲットしてみせる!」
『なっ』
「え?」
『今すぐヨークシンを出るんだ。オークション会場には絶対に行くな』
「く、クラピカ?」
どこか冷たい声色になってしまったクラピカは、再度この街を出ろと繰り返した。
そうか。この街に幻影旅団が現れたなら、きっとそれを追っているんだ。もしかしたらクラピカ達も、この街にいるのかもしれない。いや、きっといるのだろう。四人で集まっているということは、幻影旅団の関係なのだろうか。そして危険だと知っているからこそ、私の身を案じてくれているのだ。それでも、その優しさを今受けることはできない。
「ごめんねクラピカ。私、手に入れたいものもあるし、会いたい人もいるんだ。だからこの街を出るわけにはいかない」
『今この街は危険なんだ。噂くらいは聞いてるだろう。私の追う奴らに遭遇すれば、死ぬかもしれないんだぞ。一刻も早くこの街から出て』
「……いやだ!兄が、今度こそ兄さんがいるかもしれないんだ!目撃情報もあった、手がかりもあった!今度こそ、会えるかもしれないんだよ……っ!」
何度となく繰り返した、今度こそ。シルバさん達が会った幻影旅団のリーダーが、もしかしたら兄かもしれない。ようやく、掴めそうなんだ。せめてそのリーダーに会うまでは、ここを離れるわけにはいかない。けど、クラピカにそのことを話したらきっと、もっと心配をさせてしまうだろう。だからそのことは伏せて、今は絶対に離れないという意思を口にすれば、しばらくの無言の後ため息が返ってきた。
『君もゴンと同じくらい頑固なんだな。一つ、君のことが知れてよかったよ』
「やだクラピカ……口説いてます?」
『口説いてなどいない!!』
「わはは!ありがとね、クラピカ。大丈夫!無理はしないしなんかあったらちゃんと逃げるし!そういえば、お仕事順調なの?」
『まあそれなりにね。……もうそろそろ食事も来るから、申し訳ないが今日はこの辺で。ほら、最後に三人も挨拶を』
そう言ってクラピカの声が聞こえなくなると、やれやれと言った口調でキルアくんの声が入ってきた。
『いつの間にか仕切られてるし。あ、ユウキ?クラピカも言ってたけど、無茶はすんなよ?あと、街歩くときは十分気を付けるよーに』
「私何歳だと思われてるの?!」
『何歳なんだよ。まあオレよりは年下だろ』
「レオリオそもそも何歳なのさ?!私は十九です!!」
『嘘だろタメかよ?!』
「うっそレオリオもっと老けてると思ってた!」
『お前もか!!』
そうか、レオリオって同い年だったのか。レオリオの年齢に驚愕していたら、笑っているゴンくんの声が続く。
『ユウキ、電話してくれてありがとね』
「へ?いやその、みんなの時間にお邪魔しちゃってむしろごめんって思ってたんだけど」
『ううん。オレ達みんなうれしかったよ!それに友達なんだから、気を使わないでもっと話してくれていいんだよ。あ、オレ連絡先教えてないよね?!今から言うからメモとか取れる?!……ユウキ?』
友達、でいいんだ。そっか、友達かあ。今度ミルキくんに自慢しよう。私、根無し草だけど友達がたくさんできたんだって。まだ見ぬ兄にもどうだって言ってやらないと。
「ゴンくん、本当にありがとう。へへ、私やる気出てきた!あ、もしこの街にいるんなら、ご飯とか食べに行こうよ!もちろん、みんなの用事が終わったあとで!」
『うん!また連絡するね!』
それじゃあ、と言って電話を切る。静かになった室内で、そのままベッドに倒れこんだ。クラピカ、もし幻影旅団のリーダーが私の兄かもしれないって知ったら、どうしてたかな。
もしクラピカが捕まえたなら、一目でいいから会わせてもらおう。兄かどうか、この目で確かめたい。三人も幻影旅団の捕縛に協力してるのかな。私も何か手伝えたらよかったけれど、戦うことも大してできないし、情報戦も無理だし、完全に足手まといだ。できることなんて、四人が怪我とかしませんようにと祈ることくらい。
明日は、まずオークション会場に行って、カタログを買って、グリードアイランドを確認して。あ、そうだ。ジンさんからもらったコインロッカーの鍵!どこの鍵か、ミルキくんに調べてもらおう。よし、明日も頑張ろう!
さて、今夜はクロロさんと食事の予定だけど、連絡はいつ来るんだろう。ワクワクしながら、せっかくだからみんなにお土産を渡そうと鞄の整理を始める事にした。
「あいつ、この街にいるんだな。もう少し念押ししておいてもよかったんじゃねえか?」
レオリオがそう言うと、キルアはすでに通話の終わった電話を一瞥してからポケットにしまうと、無理だと肩を竦めてみせた。
「さっきの聞いたろ?ゴンと一緒で頑固。ま、ずっと探してた兄さんに会えるかもってとこまで来てるなら、なおさら聞かないだろ」
「うん。ユウキ、ずっと探してるんだもんね。オレも、父さんがいるかもって思ったら、多分聞けない」
「お前の場合は多分じゃなくて絶対聞かないってわかってんだっつの」
「う……」
ツンツンとキルアに額をつつかれているゴンを横目に、オレもため息を吐いた。そうだ、彼女とは短い付き合いではあるが、兄を探すためにハンターになったことを思うとそれほどの強い意志を持った人間なのだ。
そういえば、以前会った時は念の存在を知らなかったから気が付かなかったが、彼女も念能力者なのだろうか。ほんの少し気になって、軽い気持ちで二人に聞いてみた。
「なあゴン、キルア。彼女とは天空闘技場で会ったと言っていたが、やはり念はすでに習得済だったのか?」
「……」
「どうした二人とも」
オレの問いに、多分念は使えないとゴンにしては珍しく歯切れ悪くそう言った。キルアも使えないし見えてないと言うが、それにしても二人の様子が変だ。これにはさすがにレオリオも気づいたらしく、おいおいと会話に入ってくる。
「じゃああいつ、まだハンター見習いってことなんだな?師匠と居た時に会ったんなら教えてやりゃあよかったじゃねえか」
「その師匠がダメだって言ったんだよ。ユウキには念について一切口外禁止ってさ」
「師匠が、か?」
「うん。……オレ達が口で言ってもうまく説明できる気がしないから、会ってもらうのが一番なんだけど、その時は、二人ともお願い。怖がらないで、ユウキ自身を見てあげてほしい」
「お、おお……どういうことなんだよ、それ」
「今はそれくらいしか説明できないってことだよおっさん。それじゃあ、いったんこの話は終わり。そろそろオレ行くよ」
「うん、気をつけてね」
旅団のアジトへ向かうキルアを見送り、残されたオレ達も行動に移るために動こうとするが。
ー怖がらないで、ユウキ自身を見てあげてー
一体、彼女の何に怖がるというのか。会えばわかるというが、オレは少しだけ、ほんの少しだけ、会うのが怖いと思ってしまったのだ。