迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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兄探しというよりはがっつり観光を楽しんだ私だったが、カレンダーの日付を見ると九月一日になっていて、ヨークシンでオークションが開催していることを思い出した。
結局ジャポンで得られた情報は、私のいた村は流行り病で壊滅したのではなく、何者かによる神隠しのような集団失踪で消えてしまったことくらいだ。行商人のおじさんから聞いた話と食い違うのは、尾ひれがついただけなのかそれとも誰かがおじさんにそう伝えるように言ったのか。どちらにせよ、兄の痕跡はないため、やはり目撃情報のあったヨークシンに戻るのが一番だろう。
「なんか、さみしくなるなあ。ゴン達に会ったらよろしく伝えておいてくれよ!」
「うん!次はみんなで遊びに来るよ!」
空港まで見送りに来てくれたハンゾーさんと別れ、また一人飛行船に乗る。
今から向かえば、四日くらいに着くかな。兄の求める品が私が付く前に出品されていなければいいのだけど。
「一番あやしいのはやっぱりグリードアイランドだよね」
窓の外を眺めながら、ぼんやりとオークションのことを考える。
本当になんとなくだけれど、兄はゲームが好きなような気がするのだ。ヨークシンに着いたらカタログを買って、いつ競売に出るか確認しないといけない。
「お前、グリードアイランドが欲しいのか?」
不意に話しかけられて、独り言を声に出してしまっていたらしいことに気付いてとても恥ずかしい気持ちになる。一人旅のしすぎで独り言が多くなっている気がするから、公共の場では気を付けなければ。
へへ、そうなんですと声をかけてくれた人に返事をすると、隣にどかっと座って「そっかそっか」と笑うのは、無精ひげを生やしたおじさんだった。
「ゲーム好きなのか?」
「私は結構好きですね。まあグリードアイランドは好きでほしいというよりは、そのゲームを手に入れられれば、それを欲しがっているかもしれない兄に会えるかもって方が重要といいますか」
へえ、と少し興味深そうに聞いてくれたので、兄探しの経緯とか諸々全部話してしまった。さすがに長々話過ぎたかな、とおじさんを見ると、先ほどよりも俄然興味津々と言った顔をしている。
「いいな、お前の兄さんオレも会ってみたくなったよ」
「マジすか。まあ私も会いたいんですけどねー!」
「で、ゲームだったな?それがあったらお前の兄さん出てくると思うか?」
「出てこなかったら一から探し直しですよ……もーほんと情報がなさすぎるんだよなあ!いよいよいない説すら出てきました!」
「いいや、見知らぬお兄さんであるオレからの助言だが、お前の兄さんは生きて必ずどこかに存在する。だから意地でも探し出して言いたいこと言ってやりな」
「おじさん……」
「お兄さんと呼べ」
「や、私これ以上自称兄を作る気ないので」
「そういうお兄さん呼びじゃねえよ!ていうかすでに自称兄がいんのかよ!」
おじさん、もといお兄さんの名前はジンというらしい。ジンさんと呼んだらそれでいいと頷かれた。その後もハンターライセンスを持ってる話をすると、なるほどなあと納得した顔をしていたが、一体何がなるほどなのか。なんやかんや話も盛り上がり、飛行船の乗り換えで降りた空港で、ジンさんとはお別れとなった。
「楽しい旅をありがとうございました!あ、私の連絡先どうぞ」
「一応個人情報なんだから、こんなほいほいフリー配布すんなよ……ま、一応貰っておく」
「わーい!私の兄情報見つけたら教えてくださいねー!」
「見つけたらな。それじゃあ、オレの連絡先の代わりにこれやるよ」
ポンと手のひらに渡されたそれは、鍵だ。ナンバーがついているし、コインロッカーの鍵だろうか。
「中身は好きにしてくれればいい。どうせ余ってたやつだし」
「はあ……何が入ってるかは?」
「開けてからのお楽しみだ」
へへっとお互い顔を見合わせて笑った。それじゃあなと離れていく背中に、私も「さよならーっ!」と大きな声で叫んで手を振って見送った。
少し気恥しそうに片手を振り返してくれたジンさんからの、贈り物。一体何だろう。
……いやそもそも、これどこのコインロッカーの鍵だ?!
結局どこのコインロッカーなのか調べてもわからず、こういうのはミルキくんに聞くしかないと結論付けて私は今、ヨークシンシティに戻ってきました。やはり予想通り四日になってしまった。オークションは残り六日。はたしてグリードアイランドはどうなったのだろう。
とりあえずカタログを買おうと思い空港内でバスを待っていたら、見た事のある二人組を見かけて思わず声をかけた。
「ミルキくんのお父さーん!お爺ちゃーん!」
「おおミルキの(嫁)」
「ミルキの(嫁)か。元気そうだな」
「今心の中で何か言ってませんでした??」
いや何も、といつも通りクールな顔をしているのは、ミルキくんのお父さんのシルバさんと、お爺ちゃんのゼノさんだ。空港で会うということは、どこかに出かけていたのか今から帰るのか。
二人に駆け寄ると、ゼノさんに微笑まれ、シルバさんによしよしと頭を撫でられる。
「ミルキも可愛い娘と良い仲になったもんじゃ」
「いつ家に入る?キキョウに話しておかないと、ドレスの準備があるからと怒られてしまうんだが」
「嫁入りさせられようとしている!!いやだから、私友達ですからね?!ミルキくんには選ぶ権利だってあるんですからね?!」
幾度となくした会話だが、なぜか二人は私が照れていると思っているらしくふふと微笑ましく見られてしまっている。いやほんと私ではゾルディック家に嫁入りなんて烏滸がましい上に向いてないと思われるので、もっと良い人を見つけてください!
「ところで、お二人はどうしてここへ?お仕事ですか?」
「ああ、そうだ。終わったから今から帰るところでな」
あまりにも普通にお仕事ですか?なんて聞いてしまったが、ゾルディック家のお仕事といえば、暗殺だ。終わったということは、もう誰か殺してきたのだろう。それを、少し怖いとは思うが、やはり依頼する方も悪いのだと思うのだ。まだそこの善悪の定義は、私には線を引けないけれど。
「お仕事お疲れ様です。帰ったらミケ撫でたりして存分に癒されてくださいね」
「ミケを癒しの対象として言える辺り、お主はもう我が家向きなんだがのう」
やれやれなんてゼノさんが肩をすくめる。まあミケって体大きいし、すり寄ってこなかったらちょっと怖いかもなぁ。
「そういうお前はこの街にはなぜ来た?とくに今日明日は、ここは治安があまり良くない。用がなければ数日は離れていた方が良いと思うが」
「え?そうなんですか?何か……はっ!まさか」
幻影旅団、という盗賊グループがヨークシンに来るかもしれないなんて、ガセかもしれない情報。もしかして、もしかするのか?!
「あ、あの、お二人がお仕事してきたのって、もしかして、幻影旅団の相手、だったりします……?」
おそるおそる尋ねると、二人はとくに隠す素振りもなくよくわかったなと頷いた。
「や、やっぱり!あの!幻影旅団の団長には会いました?!」
「会ったが、何故そんなことを知りたいんだ?」
「そ、その……もしかしたら、その人が私の探してる兄かもしれないんです。だから、会いたくて……」
二人も私が兄を探してる事は知っている。今までは雲を掴むように探し回っていたが、ミルキくんのおかげで探す対象を絞れて、クロロさんのおかげでこの街に兄がいるかもしれないことがわかった。
幻影旅団はクラピカの故郷をめちゃくちゃにした酷いグループだが、それに兄が関わっているのかもしれないと思ったら、胸が苦しい。兄に会いたい気持ちと、酷い事をした償いをしてほしい気持ちと、なんだか色んな気持ちがぐちゃぐちゃになって、苦しいのだ。だから早く、兄に会いたい。
もし二人が幻影旅団の団長と会って、殺してしまったのだとしても……死体になっていたとしても、会いたい。
「……残念だが、旅団の団長はお前の兄ではないだろう」
「へ?」
「うむ、髪色も違ったし、顔立ちも全く似ておらん。まあワシらがこう言ったところで、お前さんは自分の目で確かめるまでは諦めんのじゃろうが」
「も、もちろんです!でも、お二人が仕事を終えられたなら……」
「殺してはいない。他の依頼が重なって、依頼主が死んだのでな。依頼主がいない以上、殺す必要はないから逃した」
「ええ?!そ、そういう感じでいいんです?!」
「ワシらはよく勘違いされるが、快楽殺人者ではないんじゃぞ。仕事外で余計な殺しはせんよ」
そうなんだ。いや、そうだからこそ、私もミルキくんと友達になろうと思えたのかもしれない。むやみやたらに人を殺す人達ではないから、こうして話をすることができるのだ。少しゾルディック家のことをわかった気になりつつ、私は二人にお礼を言う。
「私、必ず幻影旅団の団長に会ってみせます!!それで兄かどうか確認して、兄だったら引っ叩いて罪を償わせます!!よーし、やる気出た!まだ近くにいるかもだし、私このままオークション会場まで行きます!それでは!!」
「おお、気をつけてなミルキの(嫁)」
「無理はするなよミルキの(嫁)」
「また心の中で何か言ってますね?!」
去って行く少女を見送った後、私用船へ向かいながら二人は少女を思い返す。
「相変わらず元気な娘じゃて。あんな娘にあんなえげつないオーラ張り付かせておる兄とやらは、どんな輩なんじゃろうな」
「旅団の団長ではない事は確かだが……いやまさかな」
「もしアレが兄じゃったら、ワシら嫁の家族とやり合った事になるんじゃろか」
「……ミルキのためにも、次会ったら菓子折りでも渡してみるか?」
「タマの取り合いを菓子折りで誤魔化せるかのう」
とある自由人の独白。
たまたま乗り合わせた飛行船の中で、これはなかなかだと思う念の気配がした。顔くらい見てみようなんて好奇心で気配を辿れば、そこにいたのは普通の少女だった。窓の外を眺めながら、グリードアイランドの名前をぼやいている。
声をかけてみたら、兄を探しているのだとか。その兄はおそらくゲームが好きだと思うから、競売の目玉のそのゲームを手に入れられれば会えるんじゃないかと思っていると言う。
なるほど。少女を覆う強大なオーラは、兄のものかと納得した。こいつの兄は、妹を守るために制約と誓約でバフをかけた殺戮マシーンを生み出したのだ。
その誓約に妹と会わない、なんてものがあって行方をくらませているのかもしれない。
たしかに、こんな桁違いのオーラを纏っていたら、念が見える人間には恐怖の対象でしかなく、強者もわざわざ近寄らないだろう。それは少女を危険から守ることはできているのかもしれない。しかし。
(………なんて自分勝手なことをしやがるんだ)
きっと、この防衛機構は少女の知らないところで幾人もの人間を、獣を殺している。
だが少女は何も知らない。
念を使うことも見ることもできない彼女のハンターライセンスはただのGPSと変わりない飾り。協会がライセンスを渡したのは、歩く爆弾の現在地を把握し、管理するためだ。
いつか、気づくだろう。知ってしまうだろう。
その時、少女の心が傷ついたのなら、それはお前の責任だぞ、少女の兄サトルとやら。どこにいるかも知らない彼女の兄に悪態をつくも、自分も父親としては最低な部類だから人のことは言えないか、と自嘲した。