迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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久しぶりの長い旅だ。旅客用飛行船の個室の窓から小さくなっていく街を何度も眺めながら、ぼんやりとそんなことを思った。
ちなみになぜかヨークシンを出るときに見送りに来てくれたクロロさんのところの団員のシズクさんとパクノダさんと普通に挨拶をして別れたのだけど、団長妹って事実みたいな扱いになっていないだろうか。私の兄ってマジでクロロさんだったっけ?少し不安になりそうだ。
「ゴンくんとキルアくんはまだ天空闘技場かなあ。レオリオとクラピカ、頑張ってるかなあ」
携帯の電源を切っているけれど、なんとなく暗くなった画面を眺めてしまう。はあ、とため息を吐いていたら、おいと誰かに声をかけられた。振り返ると、スキンヘッドの忍者が何だか険しい顔でこちらをにらんでいるではないか。
「え、あの、な、なんでしょう」
「……いや、なんでもねえ。あんたこれからどこに行くんだ?」
「え?私はジャポンに行くつもりですが」
「なにぃ?!」
忍者こと彼の名前はハンゾーというそうだ。しかもなんと、ゴンくんたちと同期のハンター合格者だというではないか。どうやら私がゴンくんたちの名前をぼやいていたらから気になって声をかけたらしい。
「なんだ同郷だったのか。あぶねえもんまとってやがるから何やらかすんだって焦ったぜ」
「あぶねえもんって?」
「や、なんでもねえ。それよりどこの出身だ?東か?西か?」
「私はこのあたりの、この辺の村出身なんだ。でも昔みんな流行り病で死んじゃって私しか生き残らなかったから、もう地図から消えてるかな……」
正確には、兄もいるので生き残りは二人となるが、細かいので置いておこう。ハンゾーが広げてくれたジャポンの地図からこの辺りだと指さすと、うそだろ、と驚愕される。
「え?この村、もしかしてまだある?!」
「……いや、もうない。ないんだが、オレが聞いていた話と違ってたもんだから、驚いたんだ」
「え?」
「あんたの生まれたその村、流行り病でなくなったんじゃなくて、そこは」
----……
目を疑う光景だった、と行商人は過去を振り返る。
とある青年が、流行り病に効く薬がほしいと大きな都市で医師を訪ねた。どうやら両親と妹が流行り病にかかったらしく、山を越えてここまでやってきたらしい。薬は外国から取り寄せる必要があり、ひとまず今は症状を抑える薬を持ち帰って、看病をしてやるといいと医師が薬を渡すと、青年は感謝して村へと帰っていった。
その時行商の傍ら配送も行っていた私は、医師からの依頼でようやく調達できた三人分の薬を持って、村を訪れた。
実際、すぐに死に至る病ではなかったのだ。しかし閉鎖された土地では死の病などといって恐れられていることも知っていた私は、何も起こらなければいいと不安に思っていた。
そしてその不安は的中する。大きな山を越えて、ようやくたどり着いた村は、すべてが真っ赤に染まっていた。村人たちが無残な死体となっていたるところに倒れている。逃げ惑ったのだろうというのが見てわかるような、地獄絵図だった。
一体何が、と恐怖に震える私の前方から、誰かが歩いてくる。それは、薬の依頼をした青年だった。その姿は真っ赤に染まっているが怪我をしている様子はないので、彼についているそれはすべて返り血だと推察できる。
両手で大切そうに抱えているのは、小さな女の子だった。青年は私に気づくと、人のよさそうな笑みを浮かべていたと思う。思うというのは、怖くてちゃんと顔を見られなかったから朧気なのだ。
『よかった。薬を持ってきてくださったんですね』
薬の調達を依頼していた時に、室内にいた私のことを覚えていたらしい。震えながら、薬を三つ取り出そうとすると、そっと制止された。
『薬は一つで十分ですので、どうかこの子を行商の旅に連れていってやってはくれませんか?』
三つの内、二つが不要になった理由は、この村の惨劇が原因なのだろうか。一体何があったのか問えないまま、こくりと頷くと、もうここにいる必要はないと言って青年は行商の車までついてきた。そして少女を荷台に乗せると、私の渡した薬を飲ませてから、汗をかいて苦しそうな少女の頭を優しく撫でた。
『もう何も心配いらない。お前を傷つける全てから、俺が守ってやるからな』
青年は薬代ですと私にお金を渡すと、荷台から降りた。怖かったけれど、一緒に行かなくていいのかいと問えば、誓約があるので、と苦笑した。
『起きたら、村の人間は流行り病で全員死んだと伝えてください。俺がいたことはどうか内密に。恩人を殺したくはないので』
首がちぎれるほどに首を縦に振ると、青年はまた苦笑して、そのまま森の奥へと消えていった。
下山後は、目を覚ました少女に事情説明をして、しばらくともに旅をした。しかし、行商人グループで旅をした際のことだ。彼女が体調を崩してしまい、それを看病していた時。彼女が呻くように、兄を呼んだ。あの時と同じ状況になったことで、思い出してしまったらしい。
少女は快復するや否、兄を探すと言って、私に心から感謝を述べてから旅に出て行った。その時、私は、ほっとしてしまったのだ。ずっと抱えていた爆弾をようやく手放せた、そんな解放感に包まれていた。
年老いた今、もう長くないと悟った私は、誰に伝えるでもなくベッドに横たわりながら窓の外を眺め、過去を振り返る。
少女は元気にしているだろうか。
青年は今もたった一人の妹を守っているのだろうか。
わからないけれど、あの時感じた恐怖も解放感もすべて本物の気持ちだったけれど。
『今までありがとう!』
そう言って泣きながら笑って手を振ったあの子を見送ったときのさみしいという気持ちも、本物だったのだ。
「おじさん!!」
それは、死ぬ直前に見た幻だったのだろうか。あの時の少女が……ユウキが私の元へ戻ってきて、私の手を取りまた泣きながら微笑んでいた。
「……間に合ったか?」
「……うん。ハンゾーさん、連れてきてくれて本当にありがとう」
運ばれていく棺を遠くから見つめながら、ハンゾーさんにお礼を言う。
ジャポンに着くと、まずは行商人のおじさんを探したいと思いそのことをハンゾーさんに言ったら、ちょっと待ってなとどこかに電話をかけ始めた。するとどこからか忍者がやってきて、老衰でもう今にも死にそうだと情報をくれた。おじさんの居場所を聞いて走って向かおうとしていたらひょいっと肩に担がれて、俺が連れて行った方が速いなとおじさんの家まで超特急で連れていってくれたのだ。
そうしておじさんが目を閉じる前に間に合った私は、届いたかわからないがありがとうを告げると、おじさんは一滴涙をこぼしてから、息を引き取った。
『神隠し?』
『そうだ。この村は一晩のうちに人っ子一人いなくなっていたって有名なんだぜ。まさかそこの人間に会えるなんざ、こりゃ里で自慢しねえと』
ハンゾーさんが言うには私の生まれ育った村は死体も何もなく、集団でどこかへ行った形跡もなくて、まるで神隠しにあったようだったというのだ。行商人のおじさんは流行り病でみんな死んでしまったと言っていたけど、違ったのだろうか。わからないけれど、やはりこれにも兄が関わっているような気がしてならない。
「私もう少し村のことについて調べてみる。ハンゾーさん、今日は本当にありがとう!めちゃくちゃお世話になりました!」
「いいってことよ。それにゴンたちの友達なんだろ?ならオレにとっても他人じゃねえよ。そうだ、せっかくだし里案内してやろうか?村の話ほかにも聞けるかもしれねえぞ」
「ほんと?!実は忍者めちゃくちゃ興味あった!!行く行く!よろしくねハンゾーさん!」
「おう!それじゃちょっと隠密するからついてきな!」
「ひゅう!忍者っぽい!!」
ただ名刺配るのは忍んでないからどうかなと思います!
ーーー…
「わっはっはー!えーっ?!ゴンくんそんな我儘言ったのー?!好きでしかないんだが?!」
「大変だったんだぜ?!何やっても嫌だ言わない、ちゃんと戦おうって頑なでよお!ま、今となっちゃ笑い話さ!それにしても、ゴン達元気にしてるみたいでよかった」
里でワイワイ騒いで、たまに情報収集したりして過ごした後、客室でハンゾーさんとお寿司を食べながらハンター試験の話を聞かせてもらった。ゴンくん、レオリオ、クラピカ、キルアくん、あとヒソカとギタラクル、ポックル。過酷なハンター試験を共に乗り越えた奴らだとハンゾーさんはいう。
ギタラクルというお兄さんが現れたことで、キルアくんは情緒不安定になり不合格になってしまった話も聞いた。ゾルディック家は複雑な家庭環境だと知ってるので、ゴンくんが友達になってくれたのは関係のない私でも嬉しかった。それにしても、ギタラクルなんて名前のお兄さんいたっけ?今度ミルキくんに聞いてみるか。ちなみに里に滞在中は携帯の電源はオフにするよう言われているので、また後日連絡してみよう。
「そういや、お前もハンターなんだったな。どんな試験だったんだ?」
「私?マンツーマンの体力測定とペーパーテストだったなあ」
「はあ?!それだけなわけないだろ?!……まさか、その二つだけでもかなり過酷だった、つーわけか……?」
「へ?い、いや、全然そんなことなかったけど……ペーパーテストはちょっと難しかったけど」
「なるほどなぁ、そんなオーラしてるくらいだ。過酷な試験だろうと造作もないってことか」
「そのオーラってなに?!私なんか発してる?!まさか変態オーラとかじゃないよね?!」
「いやそうじゃな……待て、変態オーラってなんだ?心当たりありそうな言い方だな」
「な、ないですないです。ヒソカに比べればヒヨッコですしおすし」
「基準があいつの時点でやべーんだよ!」
「いやーお寿司おいしーなー!!」